ブルーアーカイブRTA 実績「三人力」獲得 Any%   作:ガバるな——!!

4 / 6
 キャラパートはまとめて出そうと思ってたのですが、グダグダになりそうだったので急遽調整中です。既に見てくださった方は話が前後してすみません。


黙する獣のロジック

 突然の来訪者。

 

「ごきげんよう」

 

 "顔のない男"が、そこにいた。

 

「なっ――!」

 

 新手の恠異(かいい)か妖(あやかし)か。

 とっさに武器を取り出――

 

「そういったことはご遠慮いただきましょう」

「――えっ?」

 

 気づいた時には、ボクはそいつを見上げる形になっていた。

 

「失礼、私はゴルコンダと申します。そして絵を抱いている彼はデカルコマニーです」

「そういうこった!」

「突然の来訪となり、申し訳ありません。ちょっとした用がありまして、こうして訪ねさせていただきました」

 

 おかしい、力が、入らない……!

 

「……しかしその前に、どうやら貴方の持ち物には不都合なものが多すぎるようなので、少し検めさせていただきます」

 

 ボクの持つ道具が取り上げられていく。

 抵抗、できない。

 

 "顔のない男"……不気味だが、やはり顔は"ある"のかもしれない。二人で一つなのだろうか、基本的に聞こえてくる声はその手中にある、後ろを向いた顔の絵画からだ。

 

「興味深いですね、私とは異なる記号のあり方です」

 

 このような世界の解釈もあるとは。

 そう言って、ボクの持ち物を粗方検分し終わったのか、ゴルコンダと名乗った男は再びボクに語り始めた。

 

「"すべてを奪い取ると、何も残らない"、今、私が貴方から取り上げたように……」

「ですが、果たしてそれは正しいのでしょうか? "残り(レスト)"とはそれ自体が自立した存在ではありません。区画や境界が排除することで初めて定義されるものなのです」

 

 男が線を引くように杖を動かして言った。

 

「境界というものには計り知れない構造と力が秘められています」

「右と左、生と死、子供と大人、狂気と正常……、二つを以て対立する概念は数あれど、"残り"には対立する項(テルム)が存在しません。面白いとは思いませんか?」

 

 こいつの話す一言一言がボクの頭を鈍らせていく感覚がある。

 

「その、気持ちの悪い話を、今すぐ止めろ!」

 

 だけど、それは聞き入れられない。

 目の前の存在はボクの言葉なんか気にも留めていないようだった。

 

「二項対立という文脈には存在しえない"残り"の概念、それは明確な境を持ちながらも、ある意味では循環(サーキュラー)の位置づけでもあると言えます。可逆的な構造を持つ"残り"は、容易に多くを反射しうるのです。この時点で、あったはずの境はもはや一定の姿を持ち得ません」

「実在と非実在、その一方の反映を区別することはできるでしょうか? 実在がもう一方へ移ろうとすれば、その時点で実在は消滅します。そのさなかで、"残り"は再び姿を現しますが、すぐに背を向けてしまう。しかしその裏側がまた"残り"でもあるのです」

 

 背を向けた"顔のない男"が見渡す。

 

「二人で住むには広すぎる屋敷ですが――ええ、知っていますよ、貴方を残(・)し(・)、皆去ってしまったのですね。ただ一人を除いて。美しい信愛ではありますが実にありきたりで陳腐です。これでは三文芝居にもならないでしょうが――とにかく、この時点では残(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)のは二人です」

 

 二人……そうだ、おかしい、屋敷が静かすぎる。こんなあからさまな侵入者がいて、なぜ?

 考えたくもない予想が脳裏をよぎる。

 

「全てを取ると残(・)ら(・)な(・)い(・)というのはやはり誤りです。あらゆる実在は"残り"として反復するのですから」

 

 目の前で"顔のない男"は、部屋の中を悠然と歩き出し、再び迂遠な話を始める。

 

「前提として狂人は語りません。理解されない獣なのです」

「ある種の秩序ある統制(ヘゲモニー)とでも言いましょうか……。だからこそ、人々は歴史の中であらゆる手段を尽くして獣を語らせてきました」 

「私の持ち出したテクストが理解できますか?」

 

 ヤツが振り向いて、後ろ姿でボクに問うた。

 返答はしない。

 

「無意識は狂気と相対します。無責任と非人間性という覆いの中で、獣は"愛"と"庇護"という契約を得ました。まさに極限まで堕落した形の獣性に他なりません――それは、子供が純真で無垢な存在に押し込められるのと同じだとは思いませんか?」

 

 その言葉と同時におぞましい気配と威圧感が増した。

 しかし、そうでありながら、目の前で立つその姿が、実に異様なほど自然に見えた。まるで、彼に話をさせるのが道理で、正しいことであるかのように……。

 嫌な予感がする……。こいつにこれ以上この話をさせるのはマズイ!

 

「分かりませんか? 子供はもはや神秘的理解の及ばない、大人の世界にとって無意味(ナンセンス)で不可解な存在ではないのです!」

「そういうこった!」

「そしてそれは――」

 

 ――喰らえ。

 隠し持っていた小刀をヤツの胸に向かって投げつける。

 

「ふふ……」

 

 しかしその刃は、待っていたかのようにあっさりと避けられ、むなしく空を切った。

 その瞬間、無いはずの、見えないはずのヤツの顔がにやりと歪んだように感じた。

 

 男は何もなかったように語りを続ける。

 

「――彼らの言語が "解放"されたからではありません。大人の理性が"語らぬ子供"という驚異を回避するための、より冴えた手段の獲得によるものと、そう捉えています」

 

 男が、長く鋭い石のような道具を取り出した。

 

「それ以上近づいてみろ、殺す……!」

 

 虚勢だと分かっているのか、男は動揺もしない。その態度がボクを嘲笑っていた。

 

「そして、今、貴方は私が残(・)し(・)て(・)お(・)い(・)た(・)ナイフを投げ捨てましたね? それを待っていました」

 

 鈍色の切っ先がボクに向けられる。

 

「ウ、あ、うう」

 

 コロ、してや、る……。

 

「記号は完成しました。他ならぬ貴方自身の手によって許されるという形を以て。まあ、そんなに早まらないでください。どうでしょう、この楔(くさび)、正確にはこれに込められた神秘。覚えはありませんか?」

 

 神秘? 一体何の話だ。そんなもの……。

 

「先ほどは"二人残っていた"と言いましたが――」

 

 いや、まさか……そんな、ありえない、それ、は。その気配は……!

 

「今や"残り"は貴方ただ一人です」

 

 姉さん……?

 

「ああ、ああああっ! 嘘、いやっ! そんな、嘘だ!」

「彼女のもたらすテクストは刺激に欠け、まったく退屈なものでした。あなたはどうでしょうか?」

「ううっ、あああっ! 来るな、来るなぁっ!」

 

 ずちり。

 

「あ゛あ゛っあぁ……っ、やっっ……が、あ! ああ……!」

 

 楔が押し込められていくにつれてボクの内側で何かが乾いていく。

 体中が、自分じゃないものに押し広げられていくような感覚。

 息ができない。全身を巡る血が、命が、まるで体を蝕む毒に変わったかのよう、な……。

 

「世界の解釈は読み手によって異なるもの……通常ならそれは尊重されて然るべきなのですが、今回ばかりはどうかご容赦いただきたい。貴方たちのもたらす影響は私の計画を歪めかねません」

 

 自分の声が段々と細く、低く、唸るようなものに変わっていく。

 

「"残り"は排せない。ですから、一つに潰して押し込めて、黙っていただくことにしました」

「"語らぬ子供(ケモノ)"、貴方はどのような変化を経るのでしょう。同じく楔になるのか、それとも別のものになり果てるのか……貴方を観察し続けることもできますが、その様子ではあまり得るものはなさそうですね、残念ながら」

 

 ――では私はこれで失礼します。

 全てを押し込んだヤツは、そうして何事もなかったかのように去っていった。

 

 残されたボクはどうなる?

 あいつの言っていたことは突拍子の無いことばかりで、ほとんどが宙を掴むような話だったけど、確かなことは、あいつの身勝手でボクが自分じゃない何かに変えられていってるということだ。

 

 くそ、このままじゃ……。

 嫌だ、こんな結末なんて。そんなの認めない。ボクが、オワリを迎えてしまう前に、何か……。

 

 ボクは最後の力を振り絞って、ふらふらと立ち上がる。

 

 だが、多くを奪われたボクに残されたものは少ない。

 

 アイツの言葉に何かヒントはないか……?

 対立、二つ、境界、そして"残り"……。

 

 残り?

 

 そうだ。確かに言っていた。『残りは排せない』と。

 アイツのいう『テクスト』が、まだ、ここに"残って"いるとするのなら……ソレを歪められないか? 逆に利用できはしないだろうか……?

 

 時間がない。

 アレはドコだ?

 

 アア、まずい。記憶が消エていってル。

 急いで、探さナイト。

 

 ここでもない、ここでも……。

 ここでも……いや、あそこだ。

 

 苦しい。

 ボクは、ケモノなんかじゃナイ……。

 

 頭を打ちツケた。

 

 ボクたちを穢すな。

 

《ボクは、ダレ?》

 

 問わなければ、語らなければ……自分を見失ってしまいソウになる。

 

 頭を、打ツ。

 

 見失ウナ、ワタシは、ボク。

 

《オマエは、ダレ》

 

 打ツ。

 

《応えテ――!》

 

 ボクハ、ボクなのに。

 オ願い、助けて。

 

 

 

 溶け落ちかけた自我とテクストの下で。

 

 

 

「……あなたは一体?」

 

 非実在のはずだった世界が開かれた。

 




またしても何も知らない走者
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。