異星人の創った女性型アンドロイドに逆行転生或いは逆行憑依して歴史を変えるかも知れない話   作:片玉宗叱

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昨日(8/27)19:30頃、編集中に操作を誤って変なのを一瞬だけ投稿してしまいました。お騒がせしました。


11 ホップとビールとトウガラシ2

―ユリウス暦一〇七七年八月二四日、(未来の)ポーランドと(未来の)ドイツとの国境にある田舎町。(未来のポーランド・グビン周辺か?)

 

 商人に連れられて修道院の窓口がある場所へとタケルは来ていた。どうやら出先機関か代理店の様な役割を持った場所らしい。

 案内してくれた商人はタデウシュと名乗った。親戚が修道会に入っていて、その縁でコネがあるらしい。

 

「戒律が厳しいって言っても、こんな小さな町の修道院じゃあ外から品物を得ないと修道士達も生活出来ないからな」

 

 そう言いとタデウシュは扉を開けて中に入って行く。

 

「おじゃましまーす」

 

 彼に続いてタケルが入口を潜り入って行く。クマサブロウは外で待機である。

 

「おや? タデウシュじゃないか。帰ったんじゃなかったのか?」

 

 入るとカウンターの様な場所に座る修道服を着た、禿頭で四角く角ばった顔の男性が声を掛けて来た。

 

「なに、このお嬢ちゃんが困っていてな。取り敢えず話を聞いて貰えないか?」

 

「はじめまして。旅をしている交易商人のオト・タチバナと申します。この町では熊を連れた大道芸人として知られています」

 

「これはご丁寧に。私はカリスタと申します。黒髪に黒い瞳、大きな熊を連れた変わった装束の旅の大道芸人の事は聞き及んでいますよ。まさか商人とは思いもしませんでしたが。それで、どの様なご要件で?」

 

 柔和な表情だが目の奥に鋭さがある。修道士と言うよりも、商人や交渉人の雰囲気を持った人だな、とタケル思う。

 

「それはですね……」

 

 油断ならないなと思いながらも、タケルは事実と嘘を混ぜて『故郷での新しいエール作りを試している』が交易で手に入れたホップや自生している似たような植物では今ひとつ納得の味にならず、なればと一から栽培して試す為にホップの種苗を欲している事を告げた。

 

「ほう、新しいエールですか」

 

「些少ですが、こちらの修道院に寄付をさせて頂きますので、是非とも分けて頂ければと」

 

 タケルは台の上に、こぶし大の砂金袋を差し出したが、カリスタはそれを押し戻す。

 

「有り難い事ですが、それよりもですな。その『新しいエール』とやらの仔細をお教え頂けませんかな?」

 

 カリスタの目がギラリと光った。修道院は自給自足が原則であり、意外と思われるが農作物に限らずに自家消費の為のエールやワインの醸造も行われていた。実際、生水に中たらない様にする目的で水代わりに飲んでいたりするのだ。

 ワインが水代わりなのは有名だが、葡萄の栽培に向かない地域では、専ら大麦から作る事が出来るエールが主流だった様である。

 ところで、タケルが訪れたこの修道院、実は運営が厳しい状態にあるらしかった。所有する土地が少ないので完全に自給自足には到らず、ホップの毬花をはじめとして中庭で栽培した薬草類との交換で穀物などを得ているのだ。

 

「ええとですね……」

 

 そこで、タケルはチラリとタデウシュの方を見る。勿体ぶっているが、タケルはホップの種苗が入手出来るなら製法を教えても良いか位に考えていた。

 

「ああ、タデウシュなら気になさらずに。私の甥ですから」

 

「え? 甥子さんでしたか……」

 

 どう見ても同年代にしか見えない二人の男性を思わず見比べてしまうタケルでる。

 

「いやあ、俺の方が三つばかり年長なんだがな」

 

 頭を掻きながらタデウシュが言う。お前ら荀攸と荀彧かよ! とタケルは内心でツッコんだ。

 

 その後、口約束ではあるがお互い神に誓う事で、『新しいエールの製法』とホップの種苗の交換が成される事になる。但し、と条件は付けられたが。

 それは「この地で試作して欲しい」と言うものだった。材料やら設備やらはタデウシュに言って貰えれば用意できるらしい。

 

「うーん、半年以上の足止めか」

 

「がうがうごぁがぁうう?(諦めて次に行くか自生してるの探す?)」

 

「いや、予行させて貰えるなら御の字だと思うな。問題は麦芽の乾燥と水質か……」

 

 現代のビール作りで、発芽した大麦(麦芽)を乾燥させる方法は焙煎と温風がある。焙煎は古くからある方法で濃い色のビールが出来る。黒ビールなんかは焙煎で麦芽を乾燥させている。これには硬水が向いているらしい。

 温風乾燥は薄い色のビール、我々にお馴染みのピルスナービールのあの色のビールが出来るのだが、軟水が向いているらしい。

 

「がうがうぁ? がふがうごぁふ(両方やってみたら? 大して手間じゃないでしょ)」

 

「いや、乾燥機と軟水がね。この辺は硬水だろ?」

 

「がうがふがうごぉあがう(軟水は煮沸沈殿か雨水の濾過で良いじゃん)」

 

「そだな。やるだけやってみるか」

 

 大麦から麦芽を作って乾燥させて粉砕して、水を煮沸してそこに麦芽を入れて糖化させて麦汁を作ったら、濾過した麦汁に受粉前のホップの毬花を投入して煮沸して、摂氏十度まで冷やして下面発酵酵母を投入、発酵が終わったら摂氏0度で低温熟成。が現代のピルスナービールの大まかな工程である。

 

 さて、ここで問題が。一つは温度。今の季節は夏であり気温も高いし時代的に冷却機なんて無い。その為に気温の下がる冬場に仕込みをする必要がある。

 そして酵母。この修道院ではエールが作られていた。そしてエールは上面発酵酵母で作られる。そう、下面発酵酵母が手元に無い。

 

「確か下面発酵酵母はチェコが発祥だったはず。ポーランドの隣だから探しに行けばあるかも」

 

 温風乾燥機の製作(炉の上に風路を通す様にレンガで組んで貰いそこにフイゴで空気を送り込む。風路の出口には乾燥室を設ける)をタデウシュに頼み、その間に乾燥は焙煎で、酵母は従来の上面発酵酵母を使った試作を何パターンかお願いする。結局、費用はタケルが出した。

 

 そしてタケルとクマサブロウは下面発酵酵母を探しに文字通り駆けずり回る事になった。人外の速度で(未来の)チェコ方面を。

 そんなこんなで下面発酵酵母をやっと見つけたは一〇月も終わろうとしている頃だった。チェコでは自生していたホップも見付けたので行き掛けの駄賃とばかりに採取しておいた。

 

 

―ユリウス暦一〇七七年一〇月三〇日、黒海上。深夜。核融合動力船『シンタ』船上。

 

「(あれから二ヶ月も経つのに、何処で何をやってんっすかね。ご主人とサブロウっちは)」

 

 深夜、人目を避けて黒海上に碇泊する『シンタ』の第一マストの見張台、見張りをしながら暇そうにしているイマヌエルが、船橋に居るアルトゥルに話しかけた。

 

「うほうっほ、うほほぅほぉ。うほ?(毎日ルイが待ち合わせポイントに行ってますから、何かあればクマサブロウかご主人が自ら来るでしょう。心配ですか?)」

 

「(心配はしていないっすよ。あの二人がこの星の生物(・・)に害されるなんて有り得ないっすから。それよりも暇なんすよね)」

 

「うほぅほうっほ。うっほうほぉ?(夜中でも見張りは必要ですからね。釣りでもしますか?)」

 

「(自分、インドア派なんで。それよかその二重音声、面倒臭くないすか?)」

 

「うほぅうほ(慣れですよ慣れ)」

 

「(そんなもんすかねぇ。お、ルイがこっちに戻って来るっす)」

 

「うほおほっ。うほうほっ(ホイストの準備をしましょう。一度下りて来て下さい)」

 

「(ういっす。いつもより早い戻りっすね)」

 

 そして戻ったルイから、待ち合わせ場所に来ていたクマサブロウからの伝言が伝えられる。曰く「ご主人がビール作りに夢中でまだまだ帰れそうに無い」との事。それと移動中はクマサブロウと大道芸で路銀を稼いだ事も伝えられた。それらを告げ、入手していたテーブルビートの種子やホップの種子と雄株と雌株の苗をルイに渡すと、クマサブロウはすぐに引き返したらしい。

 

「(なにやってんすか、あの人)」

 

 イマヌエルが呆れる。

 

「うほっ(それな)」

 

 ルイが同意する。

 

「うほうほほうっほうふぉ。うほぉうほうほ……(ビール飲みたさに熱弁を振るっていましたからねぇ。でも大道芸ってご主人は何がしたいのか……)」

 

 アルトゥルは諦め気味の言葉を吐いた。

 

 

―ユリウス暦一〇七八年二月一四日、(未来の)ポーランドと(未来の)ドイツとの国境にある田舎町(未来のポーランド・グビン周辺か?)修道院附属の施設。

 

 鉄で作られた枠に透明なガラスの様な物が嵌め込まれたジョッキに黄金(こがね)色の透き通った液体が注がれると、それは泡立ち、液体の上面を白く飾る。

 大麦とホップと水、それに下面発酵酵母のみを使い、冬場の冷え込みを使用して低温発酵で作られた、それ。

 見た目は紛うこと無き、未来でピルスナービールと呼ばれる物だった。醸造後の熟成で密閉タンクが使えない(鉄でタンクを造ると変な味になる)ので泡立ちは未来のそれに比べて弱い。

 幾度も仕込み段階で失敗し、それでも少量ながら三ヶ月でなんとか完成に漕ぎ着けた、タケルが熱望していたエールではない未来のビールである。

 

 試しで作って貰っていたホップを使ったエール(現代だとエールビール)も悪くは無かった。焙煎によって出たコクと、ホップの爽やかな苦みと上面発酵によるフルーティな味わい。ホップを入れた事で澱が沈殿したので雑味のない出来栄えであり、そのままでも美味しく、また香辛料や香草を入れる事で味や香りの変化も楽しめる。

 カリスタとタデウシュ、修道士達には好評だった。しかしタケルにとってコレジャナイ感は否めなかったのだ。

 

「これは……」

 

 カリスタが思わず息を飲んで喉を鳴らした。それはジョッキに対する驚きか、それとも黄金色の液体に対する興味か、その両方か。ジョッキの透明な部分からは黄金色の液体が光に透けて輝いているようである。

 

「さ、どうぞ試飲なさってください」

 

 試作完成の時に、タケルとタデウシュは既に味わっている。その時のタデウシュの感想は「(にげ)ぇ。けど美味え……」であった。そして一気に飲み干すとシミジミと「こりゃえらいモンだ」と一言だけ呟いた。

 タケルも一口飲んで「ああ……」と呟くと、同じく一気に飲み干し、お約束で「ぷはぁ~っ!」とした後、涙を流した。実に七〇年以上ぶりのビールであった。そして、このアンドロイドの身体に涙を流す機能が備わっている事に驚いたのだった。

 

「ふむ、冷えてますな」

 

 ジョッキを手に取って、鉄で出来た持ち手の部分に触れたカリスタが言う。このジョッキは鉄の部分は地元の鍛冶師に作製してもらっている。

 

「では、頂きましょう」

 

 カリスタはジョッキに口をつけると、グビリと一口飲んだ。そうしてジョッキをテーブルに置くと目を閉じて眉間に皺を寄せる。固唾を飲んでタケルとタデウシュ。

 暫くするとカリスタは、くわっと目を見開いた。

 

「いけません! これはいけませんっ! 人を堕落させるエールですぅっ! これは私が飲み干して無くしてしまわなければっ、なっりまっせんっっ!」

 

 鬼気迫る表情でそう叫びジョッキを再び持つと、喉を鳴らして一気に飲み干した。飲み干して、だん! とジョッキをテーブルに叩き付ける様に置くと、また叫び出す。

 

「さあ! まだ有るのでしょう? 私はそれを消し去らねばなりません! 今、たった今その使命に目醒めましたぁっ! 出しなさい! さあ! さあ! さあ!」

 

「気に入ってもっと呑みたいだけじゃねーか! この呑兵衛の生臭が!」

 

 タデウシュが間髪入れずにツッコんで、暫くカリスタとタデウシュで、ぎゃあぎゃあとやり合っていたが、タイミングを見てタケルがカリスタへと問い掛ける。

 

「どうですか? 新しいエールは」

 

 それに気付いたカリスタは咳払いをすると姿勢を正してタケルに向き直る。

 

「申し訳ない。つい興奮してしまいました。いや、毬花を使った従来のエールも今までに無い味わいでしたが、これはそれともまた違う味わい。甲乙付け難しですな」

 

「でしょう? しかし仕込みの都合上、寒い冬場から春にかけての限定となりますね」

 

「そこは住み分けが出来るでしょう。なぁタデウシュ?」

 

「んだなぁ。それにこいつは冷やした方が格段に美味い。これが夏場に飲めりゃ最高なんだが。仕込みも考えて夏にここまで冷やすなんざ、でっかい氷室が幾つ有って足りやしねえ。あ、そうだ。お嬢ちゃん、アレ、出してやれやアレを」

 

 嘆き節から一転、タデウシュが悪い笑顔でタケルに要求する。

 

「ええ……。アレはシャレで造ってみただけで」

 

 まだ何かあるのかとカリスタは食いついた。

 

「ほう、まだ何か隠しておられたのですな? ささ、遠慮は無用です。是非とも味わわせて頂きたい」

 

 『遠慮』の使い方を間違えているとは思うが、彼はジョッキを差し出し早く早くと催促する。

 

「ええと、刺激が強いので(・・・・・・・)気を付けて下さい(・・・・・・・・)

 

 そう念を押して、タケルは先程とは別な容器から、どう見ても同じ黄金(こがね)色の液体をジョッキに注ぐ。

 

「では、まずは一口……」

 

 グビリと含み、ゴクリと飲み込む。

 

「ん? んん? ん〜?」

 

 飲み込んだ後、少し遅れてヒリヒリとした刺激と辛さがカリスタの舌と咽を襲った。

 

「ぐほぉ? かっ! 辛っ! 辛い! 何ですかこれは! まさか毒ですか!?」

 

「ぎゃはははは! いやぁどうだ? 刺戟的だろ?」

 

 暫くすると、身体が火照り汗が額に滲み出る。慣れない辛さに思わずむせるカリスタを見て、指を指して腹を抱えて笑うタデウシュ。

 

「何て物を飲ませるのですかっ! んん? タデウシュも飲んだのですか?」

 

「おうよ。でもな、なんか癖になる辛さなんだわ。冷てぇのに飲むと何故か身体が暖まってな」

 

「実は熟成が終わる何日か前に、これをお湯で戻して入れまして。どうにも入れ過ぎた様で」

 

 そこで申し訳なさそうに、タケルが或る物を取り出して説明を始めた。

 

「辛さの素はこれです。香辛料の一種で私どもは『鷹の爪』と呼んでいます」

 

 彼女が見せたのは乾燥させたトウガラシ(メソアメリカ産)である。我々がよく見るような曲った形をしていないが、乾燥させてあるので赤くはなっている。

 トウガラシだと意味が通じないので、タケルは便宜上『鷹の爪』と現地語で紹介したのだ。

 

「ほう、これがこの辛さの素ですか。胡椒やカラシとはまた違った、強烈な辛さですな」

 

「油に良く馴染むのですよ。適量なら料理に使うと美味しくなります。ただ、暑い所のものですので、この辺りでは育てるのは難しいかも知れないですね」

 

 実際、アルプスを越えた(未来の)北ヨーロッパでは殆ど栽培されていない。元々が亜熱帯原産であるので寒冷な気候での育成は難しい。

 

「ふむふむ、そうなのですね」

 

 そこでまた、トウガラシ入りビールを一口飲むカリスタ。

 

「ああっ、辛い!」

 

 辛い辛いと騒ぎつつ、ぐいぐい飲み干して行く。

 

「……あの、無理に飲まなくても」

 

「こりゃハマったな。どうだ? 癖になるだろうよ」

 

「恵みは全て頂いてこその恵みですから」

 

 そう言ってカリスタはトウガラシ入りビールを全て飲み干すと、深く息を吐いてから、にこりと笑みを浮かべる。

 

「決めました。オト・タチ()ナ殿、よろしければ『鷹の爪』の種を分けて頂く訳にはいかないでしょうか?」

 

「え? あ、ハイ。お譲りするのは問題無いのですが。ただ先程申し上げた通り、この地での栽培育成は難しいと思うのですが」

 

「構いません。工夫すれば良いだけです。ああ、なんと言う事か。今日は聖バレンチノの記念日、そうです。毬花を使って製法を工夫した従来のエールをオト・タチ()ナ殿に敬意を表して『タチアナの恵み』と、先程の爽やかな新エールは『聖バレンチノの慈悲』、そしてこの苛烈な辛い新エールは『聖バレンチノの受難』と名付けましょう。そうしましょう」

 

 呑兵衛修道士よ、良いのかそれで。いや独断で新たなエール(ビール)の名を決められる程に上の立場だったのか。戸惑うタケルを後目に一人盛り上がるカリスタと、ニヤニヤと笑みを浮かべるタデウシュ。

 まあ、ホップも酵母も手に入ったし、試作も出来たから良しとするか、とタケルは思うのだった。

 

 こうして、タケルのホップを求める旅の結果、後の世にポーランド名物となる可能性があるラガービールとチリビールが誕生してしまったのかも知れない。

 きっと未来ではチェコのブルゼニ地方と熾烈な本家争いが、未来のメキシコとは苛烈な元祖争いが生じるに違いない。

 

 




 あれ? バレンタインデーがチョコを贈り贈られキャッキャウフフ、男子が悲喜こもごもする日じゃなくて、皆でビール飲んで宴会でドンチャン騒ぎをする日になりそうな。やったね!

 暑い日の風呂上がりにビール飲んでたら、ふと思い付いてしまって書いたら長くなってしまった。サックリ終わらせるつもりがビールのネタで二話分一万文字超えとか何やってんでしょうね、私は。
 色々とツッコミどころ満載ですが、平にご容赦を。

 次話から巻いていかないと本筋が進まない〜。
 それよりもストックがヤバい。
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