異星人の創った女性型アンドロイドに逆行転生或いは逆行憑依して歴史を変えるかも知れない話   作:片玉宗叱

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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


21 前哨

―ユリウス暦一一一〇年、一月。蝦夷地ト・マクオマ・ナイ。

 

 『アトゥカムイ(かいしん)』は乾ドックに入渠して改装工事が行われている。改装と言うより回復と言った方が良いかも知れない。

 砲塔は雪が降る前にガントリークレーンを使って撤去され、バルジも、溶接機を溶断機に挿げ替えられたロボットによって解体され、やはり雪が降る前にドック内から撤去されている。今は移動式の屋根がドックを雪から守っている。

 その屋根の下ではシズク、フウカ、ホムラの三人が移動式リフトアーム三基に其々が乗り、溶断機がバルジを外した部分の非破壊検査を丹念に行っている。

 

「バルジ、ポン付けにしておいて良かったね」

 

「でも溶接して溶断したから接合部の強度が不安だよ」

 

「ボクの方は音響診断終わったよ。特に問題は無いかな。姉ちゃん達の方はどう?」

 

「目視でクラックとかは無いよ」

 

「このブロックは終わったから音響診断をお願いねー」

 

「気になるとこが有ったら言ってよ? 後でX線回折も使って検査するからさ」

 

「「りょーかい。ありがとー」」

 

 改修は順調に進んでいるようである。次のブロックへと移動しようとした時、ドックにクマジロウがやって来た。

 

「がおぅ! がうがうがふ!(お嬢達! ご主人がお呼びですぜ!)」

 

「母さんが?」

 

「「なんだろ?」」

 

「がうがぁおがふ、がおがう!(あっしは船ん中に入ってアマネお嬢とリク坊達に知らせてきやすんで、どうぞお先に行ってくだせえ!)」

 

 クマジロウはそう伝えるとアトゥカムイ(かいしん)へと入って行く。

 

「「何かあった?」」

 

「とにかく行こうよ」

 

 アームリフトを操作して三人はドックから出ると、タケルの待つ拠点へと急いだ。

 

「「お母さん!」」

 

「何があったの?」

 

 シズク、フウカ、ホムラは拠点へ帰って来るなりタケルに問い掛けた。続いてリク、アマネ、モリトが入って来る。

 

「クマジロウから道すがら聞いたよ」

 

「和人だってね。面倒な事になりそう」

 

「かあちゃん、被救助者は? 治療が必要ならオレが当たるよ」

 

 モリトがそう言うとタケルは彼にお願いする。

 

「そうね。モリト、行ってくれる?」

 

「うん。それじゃルイ、手伝って」

 

「うほ(了)」

 

 モリトとルイが出て行くのを見ながらタケルが状況の説明を始めた。

 

シンタコㇽ・トゥレシ(シンタの妹)号で航海訓練をしていた元孤児の和人(わじん)達がモルラン(室蘭)の先で遭難している和人(・・)を見つけてね」

 

 元孤児の和人達とは一三年前の地震で引き取った、身寄りを無くした孤児となった子供達である。彼らは同じく被災して寡婦となり移住を希望した女性達に彼らの生活の面倒を、そしてタケル達は彼らに未来の日本に(・・・・・・)準じる教育(・・・・・)を施していた。

 その中から一八歳以上になった者から希望者を募り、更に適性のある者に航海訓練を受けさせている。

 彼らはト・マクオマ・ナイを出港後、チキウ(現室蘭・地球(チキウ)岬)を回り込んで上陸し、在地アイヌへ食料を渡して帰港する流れで海に出ていた。

 

「彼らが上陸すると、モルランのアイヌから『和人(シサム)が何人か野宿している』って情報を受けて見に行ったら、行き倒れて衰弱している和人を発見して保護して来たんだ」

 

「何人連れてきたのさ? あの船、定員八名だけど」

 

 ホムラが問うとタケルは「困った子達だよね」と言ってから続ける。

 

「七人居たそうだから、現地に訓練生の子達を六人残して全員を乗せて来たんだよね。寝かせておけば乗せられると判断したんだと。無茶するよ、ホント」

 

「それで母さん、なんで全員を呼んだんだ?」

 

 リクが疑問を口にする。

 

「それがね、シンタコㇽ・トゥレシ(シンタの妹)号の収容する前に辛うじて意識のあった者に何処から来たのかを聞いたら平泉(・・)と答えたそうなんだ」

 

「え? それヤバくない?」

 

「砂糖とかが交易で流れているから何時(いつ)かは何かしらアクションを取って来るかとは思っていたけど、意外と早かったね。しかも直接乗り込んで来るとか、ちょっと予想外だよ」

 

 砂糖の生産は既にアイヌ達に移管されている。甜菜(正確にはモリトが品種改良した家畜用テーブルビート)から糖を取り出すには、裁断した甜菜を細切れにして摂氏六〇度程度の微温湯(ぬるまゆ)で抽出する。

 但しこのまま煮詰めても不純物(えぐ味成分等)が残ったままなので、抽出した後で、石灰乳(石灰水+消石灰微粉末の混合液)を投入して二酸化炭素を吹き込んで処理する事で不純物を吸着させる。そして濾過した液を煮詰めて糖を結晶化させる事で砂糖を得るのだ。現代では石灰乳の処理の後で、更にイオン交換法で残った不純物を取り除いているが、そこまでしなくても、この時代的には十分に高品質の砂糖が出来上がる。

 タケル達はト・マクオマ・ナイ周辺のアイヌに甜菜の栽培方法や砂糖の抽出方法を教えて、またそれに必要な道具や見本を提供し、その作り方も(生石灰や消石灰の作り方も含めて)教えたのだ。

 その結果、砂糖は鉄器と同じ位にト・マクオマ・ナイの重要な交易品になっている。そして甜菜の搾り滓は馬の飼料や肥料として利用されているのだ。その馬だが、移住和人達の活躍もあり、順調に数を増やし、一部では既に農作業や輸送にも使われていた。

(この甜菜にも例の作物限定の人工病原体が仕込まれていて流出防止策とされている。微量だが抽出液に残ったそれは、煮詰める時の温度で無害な物質に分解されるので問題は無い。)

 

「それで母さん、その連中はどうすんだ?」

 

「うーん、回復を待ってから話を聞くことになるかな。この冬の時期に徒歩で移動だなんて尋常じゃ無いし。それで相談なんだけど」

 

「「アトゥカムイ(かいしん)の再竣工を早くしろってのは無しだよ?」」

 

 シズクとフウカが即座に反応して拒否を示した。

 

「いや、そうじゃなくてね。孤児の、いやもう元孤児の子達か。彼等のうちから選抜して『教育者』や『技術者』を育てたいかなってね」

 

「ト・マクオマ・ナイのアイヌ達はどうする?」

 

 リクはそこが気になる様だ。

 

「彼らには彼ら自身で判断して選んで欲しいと思ってるんだ」

 

 最初の頃、タケルはアイヌ達も一緒に発展の道筋に乗って貰おうと考えていたが、ここ何年間も彼女は没交渉に近い程に彼らと交流をする機会が極端に減っていた。

 

「でもさ、アイヌ達も紙漉きを始めてるし、俺が教えた変形カナ文字も広がり始めてるんだよ。今でも子供達には教えてるけどさ。もうとっくに成人してる最初の頃に教えた子達にも、今でも文字以外にもっと色々と教えてくれって言われるんだよなぁ。生活が安定した後の若い世代ほど、学習意欲は高い様に思えるんだよ」

 

 リクが話を終えると、アマネが口を挟んだ。

 

「あたしからも良いかな? 母さん、なんかやることが凄いチグハグな感じがするんだけど。コタンラムの爺ちゃんが亡くなってからだけどさ。最近はどこのコタンの長達とも没交渉で話してないでしょ? それにさ、彼らに決めて貰うって言っても作物に仕込んだ人工病原体の不活化はどうすんのよ。現状、私達が手を引いたら食料倉庫のメンテが出来なくて母さんが持ち込んだ農作物は全滅。確実に飢えが広がるわよ? ここまでしておいて突き放す様な事は、あたしは賛成できないな」

 

 確かにここ二〇年程、タケルに自覚は無いが彼女の行動を傍から見ていると矛盾するものが増えていた。

 アマネに指摘されてタケルは始めて自覚し、驚いて瞠目したのだ。

 

「そうだね。お母さん、なんか可怪しいのかも知れないね……」

 

 果たして彼女()の中で何が起きているのか。

 沈黙はモリトが戻って来るまで続いたのだった。

 




不穏な終わり方ですが酷い事にはなりますん。
クマジロウの口調はあれです。楊枝を咥えて「あっしにゃあ関わり合いのねえ事でござんす」な無宿渡世人じゃあござんせん。ごめんなすって。

……あっ! 資源関係の事を書き忘れてる! 石油関係以外は匂わせる程度で本編のどこにも殆ど書いてないじゃん……。
 北海道って絶対量は少ないけど算出される鉱物資源の種類が多いんですよ。(必ずどこかで言及しますから許してユルシテ……)
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