異星人の創った女性型アンドロイドに逆行転生或いは逆行憑依して歴史を変えるかも知れない話   作:片玉宗叱

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 タケルとお供達+娘二人の珍道中、はっじまるよ〜。


30 新たなる旅立ちの日

―ユリウス暦千百二十一年、十月。蝦夷地ト・マクオマ・ナイ。

 

 『イイェエトゥㇷ゚シンタ(二番目の神の揺り籠)』と命名された二代目『シンタ』は海上公試の全力速度試験に於いて五十四ノット、時速約百キロメートルの速度を叩き出した。船型もそうであるがバルバス・バウ付近からマイクロバブルを吹き出させる事による抵抗軽減の効果もあると思われる。

 まだ機関出力に余裕は有ったが、これ以上の速度を出すと、ピッチとロールのコントロールを行っているフィン・スタビライザーが保たないと判断されて試験は終了し、そのままの速度からの全力停止試験が行われた。

 普通の艦船では多少なりとも主機や推進機にダメージを受けて最悪は破損を覚悟するこの試験だが、二代目『シンタ』は電磁推進装置にかける電圧を逆転するだけで取水口へ向けて水流を逆流させる事が出来るので機関そのものに機械的な負荷が掛かる事は無い。

 但し五十四ノットの速度では進行方向とは逆にある噴射ノズルからの取水が困難になる為、ジェットエンジンのスラスト・リバーサーの様な仕組みで電磁推進装置の噴射ノズル側に進行方向から海水を取り込める様になっている。

 逆噴射が開始されると二代目『シンタ』は前のめりになりながら艦首から盛大な水飛沫を上げて急減速する。しかし転覆したり艦体が撚れたり折れる様な事もなく無事に停止した。外殻に高張力鋼を、内殻にチタン合金を使った潜水艦にも採用されているような二重船殻構造であり、艦体全体の曲げや捩りに対して強度を増すような設計になっている為であろうか。

 その試験を最後に海上公試を終えた二代目『シンタ』は入渠しての点検整備を受けた。結果、艦体にも装備にも異常は全く認められず、艦はそのまま乾ドックから出され、ト・マクオマ・ナイ港の岸壁に係留されたのだった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 蝦夷地にあるト・マクオマ・ナイでは秋が過ぎて行くのは早い。気温もぐんと下がり始めた十月の晴れた日、タケル達の旅立ちの日が訪れた。

 

 岸壁には周辺にある複数のコタン(集落)から話を聞きつけた人々が見送りに集まっている。

 

「出発は大袈裟にしたくなかったんだけどなぁ。なんか最初の航海を思い出すね」

 

 『シンタ』から引き出されたタラップの下で、集まった人垣に手を振りながらタケルが言うとアルトゥルが応える。

 

「うほっうほうほ(無茶な事をしまくった航海でしたね)」

 

「(自分、何回もマストから放り出されそうになったすよ。もう勘弁してほしいっす)」

 

「がうっごふぅくぉお?(自分でマスト勤務選んだのだから自業自得じゃない?)」

 

「うほっ(だな)」

 

 ぼやくイマヌエルを横目で見ながらクマサブロウが呆れた様な口調で呟いた。それにルイが相槌を打った。

 

「今回はレーダーもあるしマストに全方位の光学観測装置も設置してあるから基本は全員艦橋(ブリッジ)詰めだね」

 

 今回のお供もルイ、アルトゥル、イマヌエル、クマサブロウである。それに加えて新規参加であるが二度目でもある二人が居る。

 

「わたし達も居たんだよね」

 

「でも自我も自意識も無かったから」

 

「「今回は楽しむ!」」

 

 シズクとフウカは二人向き合い手を繋いではしゃいでいる。

 そんな中、人混みから何人か子供達がタケル達の前に進み出て来た。年は六〜八歳位の子供達だ。

 その中の一人、年長の女の子が両手でマタンプシ(アイヌが身に付ける額飾帯。魔除けの紋様等が刺繍してある)を差し出した。

 

「これ、みんなでさしたの」

 

 どうやら彼女達で魔除けの紋様を刺繍した物であるようだ。言葉の訛からウシャップ(現北海道日高町)方面からの移住者の子であるらしい。比較的ト・マクオマ・ナイからの距離が近い所である。

 

「私に? イヤイライケレ(ありがとうね)

 

 手を差し出しお礼を言うタケルだが、女の子は否定する。(今更ながらアイヌ民族の否定・拒否の身体表現が調べても分かりませんでした。ご存知の方が居たらご一報下さい)

 

「ううん。これはレㇷ゚にあげるの」

 

 この『レㇷ゚』とはアイヌ語で数字の三であり、ト・マクオマ・ナイ周辺ではクマサブロウの事を指す。それを聞いてクマサブロウは「え? 俺に?」と言うように首を傾げた。

 

「いつもアシㇰネといっしょに、おてつだいしたりあそんでくれるから。はい」

 

 アシㇰネはアイヌ語で数字の五、つまりクマゴロウの事だ。

 女の子はクマサブロウの前まで行くと改めてマタンプシ(額飾帯)を差し出した。

 

「キミ、いつの間に子供好きになったん?」

 

 タケルがニヤつきながらクマサブロウを見ると、彼は照れくさそうにしながら言い訳をする。

 

「くぅぉ、があうがぉ(いやその、クマゴロウに付き合わされてただけでして)」

 

「ふぅん、そういう事にしておきましょう。そか、レㇷ゚にあげるんだ。そうだ、あなた達で着けてあげて貰えるかな? その方がレㇷ゚も嬉しいと思うよ」

 

「うん! みんなきて!」

 

 タケルが女の子に提案すると、その子は嬉しそうに笑いながら一緒に来ていた子供達と一緒にクマサブロウへ取り付いた。

 

「レㇷ゚、あたまさげてー」

 

「とどかないよ? ちゃんとふせてよ」

 

 わいわいがやがやと騒ぐ子供達と、集られて困惑するクマサブロウをほほえましく見詰めるタケルに声をかける者が居た。

 

「母さん!」

 

「アマネ、リク、モリト、ホムラ、クマイチロウ達も。それに長の皆さん。見送りありがとう」

 

 居残りになる子供達とクマサブロウを除くクマレンジャー達、その後ろには各コタン(集落)(おさ)達も居る。

 

「かあちゃん達だから滅多な事は起こらないだろうけど気を付けて」

 

「シズクとホムラは母さんよりも脆弱なんだからね? 無茶させないでよ」

 

 モリトとアマネが声をかけると、一人リヤカーに荷物を積んで来たホムラが「これ、持って行って」とリヤカーごとタケルに押し付けた。

 

「なにこれ?」

 

「基本、必要無いだろうけど、ボク謹製のプロテクターと武器だよ。全員分あるからね」

 

「ホムラは心配性だなぁ」

 

「母さんの事はそんなに心配してないよ。シズク姉とフウカ姉はリミッターが外れてるって言っても骨格はヒトと同じく主材がリン酸カルシウムだし、ルイ達やクマサブロウは、人工細胞の損傷が十パーセントを超えると自壊の(おそれ)があるんでしょ?」

 

 クマレンジャーとサンゴリランは身体を構成するナノマシンによる人工細胞の十パーセントが損なわれると、タケルから修復命令(コマンド)が発せられない限り自壊するようになっている。

 これは、まさか彼らが自我を獲得するとは想定していなかった初期に設定された一種の安全装置であったのだが、今となっては解除のしようが無いものだった。(タケルの子供達は異星人にかけられていた数々のリミッターとプロテクトが解除されている状態なので、頭(人工細胞による疑似ニューロン・ネットワーク)さえ無事なら復活が可能である。タケルについては完全に復活出来ないようにするには現代(未来)でも不可能だろう)

 

「うほぅうほうほ(ホムラお嬢は私達に優しいですよね)」

 

「(それに引き換え……。いえ、何でも無いっす)」

 

 涙を拭うふりをするアルトゥルに、何か言いかけたがタケルに睨まれて口を噤むイマヌエル。

 

「うほっ、ほうほ(うむ、なかなか良い)」

 

 ルイは早速、ボクシングのヘッドギアの様な頭部プロテクターを着けて御満悦である。

 

「あれ? 武器は棒、と言うか……」

 

 検分していたタケルが武器を見て絶句する。

 

「ボク達、刃物なんて誰も扱った事がないでしょ? 棒なら当たりさえすればダメージ与えられるからね。それに工具鋼で作ったから頑丈だよ。あと杖にも使える、かな?」

 

 棒とは言っても八角形をした、如何にも重そうであり長さは二メートルも有る。これでタケル達の膂力で殴られたら痛いでは済まないだろう。それにしても、こんな物を杖として使うにはかなり無理があるんじゃなかろうか。

 

「くぅぉぉ〜ん(ごしゅじ〜ん)」

 

 武器防具を検分していた彼らの耳にクマサブロウの情けない声が届く。

 見るとクマサブロウはマタンプシ(額飾帯)で目隠しされた状態になっている。

 

「じょうずにまけないの……」

 

 クマサブロウの傍らではマタンプシ(額飾帯)を持って来た女の子達がしょんぼりとしていた。ヒグマの頭部にハチマキみたいに巻くのは子供達には難しかった様だ。

 

「じゃあ、これならどうかな。シズク、フウカ、あなた達のマタンプシも貸して」

 

 そう言ってタケルは自分のマタンプシを外し、シズクとフウカのそれも受け取ると、結んで繋げて行く。

 

「ほら、これなら良いんじゃないかな?」

 

 タケルはクマサブロウを目隠ししていたマタンプシを自分達のそれと繋げて、魔除けの紋様が見えるように首に巻いて後ろで結ぶと子供達に聞いてみた。

 

「レㇷ゚かわいい!」

 

「にあってる!」

 

 にこにこと笑顔で口々に子供達が言うとクマサブロウは照れて身体を捩らせる。

 

「くぅぉくぅう(ありがとうな)」

 

「レㇷ゚が『ありがとう』だって。良かったね、クマサブロウ」

 

「レㇷ゚、げんきでかえってきてね」

 

「みんなでまってる」

 

 子供達は口々にクマサブロウを撫でながら言葉をかけると、それぞれの親元へと戻って行った。

 

「オタウシメノコ、これを」

 

 子供達が去った後、長達の代表が一振りのアイヌ刀を差し出した。大きさは匕首(あいくち)ほどであろうか。

 

「これは?」

 

「サンクルの息子、アワアンクルが打ったイコㇿ(宝物)だ。持って行くと良い」

 

 サンクルは昔タケルに鍛冶を教えてくれと訪ねて来た少年であり、その後はト・マクオマ・ナイでアイヌの鍛冶師として名を馳せていた。今は引退し、その息子が後を継いでいる。イコㇿとはアイヌ語で宝物を意味するが、この場合、長は『神聖な刀』としてその言葉を使っていた。守り刀とでも言おうか。儀礼用であるので刃引きしてあるので完全にお守りであろう。

 

「ありがとう……」

 

 タケルは神妙な表情で受け取ったイコㇿ(守り刀)を胸元に押し抱いた。

 

「それと、ワッカ(シズク)レラ(フウカ)にも」

 

 長はシズクとフウカにも守り刀を渡す。シズクとフウカのアイヌ名はそれぞれワッカ()レラ()であり、鞘にはそれを表す意匠が施されている。

 

「「ありがとう!」」

 

「皆、息災でな。カムイノミの時には旅の無事を祈るとしよう」

 

「本当にありがとう。エカシテバ」

 

 カムイノミは文字通り『神に祈る』であり儀式である。そしてこの長、エカシテバはコタンラムの曾孫であり、クマゴロウと仲の良かったレタラノンノの兄でもある。

 

「オタウシメノコが帰って来た姿を見れぬかも知れんがな。その時は儂の子が迎えに出るはず」

 

「コタンラムも似たような事を言って長生きしたんだから大丈夫。あなたも長生きするよ」

 

「そうか。オタウシメノコにそう言われたら長生きすると御爺も言ってたのう」

 

 可可と笑うエカシテバに、タケルは今は亡きコタンラムの面影を見た。

 

「それじゃ、そろそろ行くか。アマネ、リク、モリト、ホムラ、クマイチロウ達。後はお願いするよ」

 

「任せて、母さん。ホムラが暴走しないように見張っとくから」

 

「アマネ姉ったら酷いな。ボクなんか母さんに比べたら大人しいほうじゃん」

 

「かあちゃん、ハメ外しすぎないでよ? あ、珍しい植物を見付けたらお土産によろしく」

 

コタン(集落)間の取り纏めとか調整はエカシテバ小父さんと相談しながらやってくよ」

 

 子供達から口々に告げられたタケルは苦笑いしながら一人一人の頭を背伸びをして撫でて行く。

 

「じゃ、行ってくるね」

 

「「いってきまーす!」」

 

 挨拶を済ませたタケル達は二代目『シンタ』のタラップを上って行く。

 

「ルイ、アルトゥル、イマヌエル。港を出るまで操艦をお願いするよ」

 

「うほっ(了解です)」

 

 ルイ達、ゴリラさんチームは早速艦橋(ブリッジ)へと向かう。

 

「出港準備。タラップ収納。(もや)いを解け!」

 

 ハンディートランシーバーを通したタケルの合図で、港で港湾職員として働く和人達とアイヌ達がボラード(係留索を繋ぐ杭。港に行って見かけると思わず片足を載せたくなるアレ)から係留索を外して行く。

 

『係留索、全て外し終わりました』

 

 トランシーバーを通して港湾職員から連絡が入る。これは艦橋(ブリッジ)に居るルイ達にも艦載の無線機を通して聞こえている。その連絡があった後に、外された係留索は二代目『シンタ』の格納扉の中へと巻き取られて行った。

 因みにこのハンディートランシーバー、二十一メガヘルツの周波数固定式でAM変調を使った物。現代(未来)から見ればオモチャみたいなものだが、水晶振動子(クオーツ)を原発振に使っているので十分に実用品として使えている。

 

「出港!」

 

『(離岸するっす)』

 

 二代目『シンタ』はサイドスラスタから弱いウォータージェットを噴き出して、緩やかに岸壁を離れる。

 

「いってきまーす!」

 

「元気でねー!」

 

 舷側で港に向かって手を振るシズクとフウカ。その背後で霧笛が響いた。

 

 タケル達を乗せて二代目『シンタ』(イイェエトゥㇷ゚シンタ)は出港する。

 待つのは波乱か万丈か。さてさて、如何が成りまするやら。

 




 やっぱり初回の旅に同行したゴリラさんチームとクマサブロウは何かと動かしやすいです。クマさんチームはちょっと数が多すぎましたねぇ。
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