異星人の創った女性型アンドロイドに逆行転生或いは逆行憑依して歴史を変えるかも知れない話 作:片玉宗叱
次話(三十五話)は二日後(九月二六日)の投稿となります。以降、ストックが貯まるまで、また暫く二日に一回のペースとさせて下さい。
あと、後書きは読み飛ばしても大丈夫です。愚痴なので。
―ユリウス暦千百二十一年、十月。黄海上。
紀伊半島沖を発って三日後、『シンタ』の姿は黄海上にあった。正確に言えば山東半島東海上である。
「うほっ、うほぅうほっ(ご主人、目的海域に着きましたよ)」
このまま西に進み山東半島の北を通過して渤海海峡を通り渤海へと入るか、それとも南進して長江河口(現代の上海周辺)へ向かうかでタケルは悩んでいた。
「朧気な知識で自信が持てないんだけど、この時代って宋と遼か金が揉めてた様な……」
実際この年は北宋と金が、千百二十年に結ばれた軍事同盟である『海上の盟』に則り、遼への挟撃を開始した年である。この後は千百二十五年に金が遼を滅ぼす事になる。更に千百二十六年には北宋は『靖康の変』で金に敗れて華北を失い、首都であった開封を追われて南京に遷都し南宋と後に呼ばれる事になる。その両国とも十三世紀に元に滅ぼされてしまうのだが。
「確か日宋貿易って言ってた位だから宋の方が先進国ではあるんだよな?」
「樺太アイヌは金と交易してるって話だったよ?」
タケルの呟きにフウカが応えるとシズクもそれに続ける。
「でもでも、日ノ本からは宋の品物が流れて来てたし。少しだけど絹とか磁器、陶器も来てるみたい」
「金て確か女真族の国だったかな……」
「アクダっていう王様だって聞いてるよ」
タケル、世界史を履修していなかったのと事前調査を怠ったのが非常に痛手になっている。ただ事前調査と言っても蝦夷地で出来る事など限られてはいるのだが、何も調べないのとは多少は違ったはずだ。娘二人の方が余程事情通である。
「(どうするんすか?)」
「長江河口、南に行く。係争地の可能性がある近くは止めておこう。アルトゥル、座標セット。長江河口沖東二十海里。速度十二ノット」
「うほっ。うっほう、ごほうほ(了解。座標長江河口沖東二十海里、速度十二ノットにセット)」
「(毎度思うんすけどご主人、緯度経度で設定しないんすか?)」
「地図上に直接、目標座標と航路の設定が出来るんだからこれで良いんだよ」
これを実現している自動航行システムの構築はリクの仕事の成果である。*1
「リク兄さんのお陰だね」
「だよね。足向けて寝られないよ」
「がうあうぐぉう(お嬢達は眠る必要ないでしょ)」
「「言葉の綾だよ!」」
クマサブロウのマジボケに同時に突っ込むシズクとフウカである。
そんな一行を乗せて『シンタ』は一路、長江河口沖へと向かった。
―ユリウス暦千百二十一年、十月。東シナ海海上
山東半島沖から変針して進む事およそ一日半、『シンタ』は目標海域へと到達した。長江河口から東に二十海里、およそ三十七キロメートルの沖合である。
「観測ドローンを飛ばそう。高度百メートル以下にならなければ見通し距離で四十キロメートル以上が確保できるし大丈夫だろう」
観測ドローンはアスペクト比の大きな、長さ二メートルのテーパー翼を備えた飛行機型であり、モーター駆動のプロペラで推進する。これはホバリングが出来ない為にフライパスによる観測が基本となる。*2
「(んじゃ観測ドローンの準備をしてくるっす)」
そう言ってイマヌエルが
今回の旅は試験航海であると共に、養蚕の先鞭を付けるために日ノ本でも入手は可能なのだが、より品質の良い繭を作る中国産蚕の入手の為の事前調査が目的でもあった。
そしてタケルは偶然にも当たりを引いた。この長江河口域、具体的に言えば河口南側の蘇州。ここは古くから栄えた場所であり、また絹の生産が行われて来た地域でもある。
この時代は北宋によって首都に準じる場所として府が置かれて平江府と呼ばれていた。ただ、これから九年後の千百三十年に蘇州は金の攻撃により打撃を蒙る事になる。その直後なら混乱に乗じて蚕も、運が良ければ文献等もパクリ放題だったのではと思う。
ただ、蘇州が絹・綿花の一大生産地として名を馳せる様になるのは明代になってからである。北宋・南宋時代はまだまだ穀物の方が生産量が多かったらしい。*3
「お母さん、化学繊維じゃダメなの?」
今回の旅の前に「蚕を探しに行く」と聞いていたシズクが疑問に思っていた事をタケルに聞いてみた。
「全部を私達が賄うのはなんか違うと思うんだよね。それに技術移管するにも今は人も資源も何もかもが足りていないから。何でもそうだけど高度化するとそれなりに専門職が増えないと回っていかないし。例えば資源開発なんかは全然進んでないだろ?」
「それで絹と綿花なんだ」
現状の蝦夷地の人口で出来る事は限られて来る。時間を掛けて食糧増産と教育を焦らずに進めていくしかない。衣食住の食に関しては寒冷地向け作物の導入で徐々に充実しつつある。絹や木綿はモノに出来れば衣が充実する事になり、冬に凍える住民は減る事になるのだ。これも人口増加への一助になる。
「石油に依存しなくて良いからねー。何より蝦夷地の人々の手で出来るのが大きいよ。ただ綿花は蝦夷地での栽培が無理だったから豪大陸か北米大陸でやる事になると思うけど。絹なら桑の木があれば蚕の飼育できるし。立ち上がるまでには相当の苦労は必要だろうけど」
「モリトがのめり込みそうだよね」
「あの子だけ生物方面に振り切れてるからなぁ」
『(観測ドローンの発艦準備が出来たっすよ)』
後方甲板に出ているイマヌエルから連絡が入った。
「了解。発艦させて」
『(んじゃ六時の方向に飛ばすっす)』
後方甲板ではイマヌエルが観測ドローンを手に持って構えていた。既に電源が入れられてドローンの主翼上の支柱ではプロペラが回っている。
「(行ってこーい! っす)」
ハンドランチで発艦した観測ドローンは初期設定高度まで上昇し右旋回を開始する。
「うほぅうほ。うっほうほうほ(レーダーに機影。アンテナ追尾します)」
「ルイ、操縦は任せた」
「うほっ。うっほうほうほー(了解。アイハブコントロール)」
ルイが操縦を始めると『シンタ』から電波が発信されて、ドローンのコントロールがルイに引継がれる。
「着いたら上空から畑とか木の植わっているところを重点的に探してくれ」
「うほっ(了解)」
観測ドローンは向きを変えると、ゆっくりと西の空へと消えて行った。
それから一時間程ドローンは飛行して平江府上空へと到達する。送られて来た映像には上空から見た平江府の街並みが映し出されていた。
「結構、栄えてるな」
上空から見た平江府は城郭都市であり周囲を城壁で囲われていた。そして城壁内の街並みは思ったよりも整然としている。
「見上げて指差ししてる人も居るね」
「あれ見て。なんか弓矢構えてるんだけど」
高度百メートル以上を飛行しているのだが翼長二メートルのドローンは流石に目立つのか、地元民に見付かってしまった様である。
街の人々がドローンを見上げる中、城壁に上った弓兵と思しき兵士達が次々と矢を射掛けて来る。しかし、高度百メートル以上を飛行している観測ドローンに当たるはずも無い。無いのだが、当たらなかった矢に当たる人々の姿がモニターに映し出される。その様子にタケルは顔を顰めた。
「うわぁ……。ルイ、高度と速度を上げて街の外へ移動して遣り過そう。都市部も気になるけど目標は郊外に有るんだろうし」
「うほっ(了解)」
「取り敢えず高度二百くらいで区画を区切ってスキャンして探そう」
平江府を離れたドローンは高度を二百メートルに保ちながら地上を走査する様に往復しながら飛行する。
「殆ど
幾つかの決めた区画を調べてからのシズクの一言だった。
「お母さん、どうするの?」
このまま桑の木が栽培されている場所を見付けるまで上空からの観測を続けるか、または上陸して聞き込みをするか。
「こりゃ日ノ本本土から蚕を持って来て品種改良した方が早いかも知れないな」
既にタケルは無駄足だったかなと思い始めている。上陸するにしても、謎の飛行物が現れた騒動の直後に漢人ではない風体の女三人組が巨大熊を連れて歩き回るとか怪しすぎる。
上を向いて「んー」と言いながら考えていたシズクが言う。
「『シンタ』を使って威圧して交渉の場に引き出すとかは?」
「空砲の二、三発くらい撃って脅す?」
シズクの後でフウカが言った空砲と言う単語にレーダーで観測ドローンの位置を確認しているアルトゥルがピクリと反応したが、タケルは首を横に振る。
「砲艦外交をやる気は無いよ?」
「(ご主人。ヴェネツィアで思いっ切り実弾使って砲艦外交やってたじゃないっすか。つい最近も奥州相手に似たような事やってるっすよね?)」
すかさずイマヌエルから突っ込みが入った。タケルにも思い当たるフシが有りすぎた。
「キミ達だってノリノリだったじゃないか。なにレーダー見て知らんぷりしてるのかな、アルトゥルくん? キミなんか悪ノリしてた筆頭じゃないか」
「うほぅっ(見付けた)」
その時に観測ドローンを操縦していたルイが声を上げた。見るとモニターには小規模だが桑畑と思しき物が映し出されている。
「あの近辺で養蚕が行われてる可能性が高いな。ルイ、出来るだけ低空でフライパスして木のアップの映像を残しておいて。アルトゥルは位置の記録を」
「うほっ(了解)」
「うほっ(了解です)」
アルトゥルがコンソールを操作して座標を記録する。この座標を元にして後年に
「それじゃドローンを回収したら次へ行くかね」
「フィリピン、ボルネオ、ニューギニア、オセアニアの無人島探しだよね」
「熱帯とか亜熱帯の作物に適した所、見付けられるかな」
シズクとフウカが、どこか弾んだ声で言う。
「ただなぁ。私達は大丈夫だけど
前回の世界一周の時に先住民と交流を持った時に解熱に効果があると偶々教えて貰ったのがキナであった。名前を聞いた時にタケルの乏しい植物知識にもその名があったのだ。*4
マラリア対策にはもう一つに蚊の駆除が挙げられる。現代での手軽な手段は蚊取り線香の使用で、昔はその主剤として使われていたのが
「まあ、それは後々、またヨーロッパに行くからその時に見付かれば良いなくらいで思っておこう」
「またヨーロッパに行くの?」
「地中海? 黒海まで行くの?」
シズクとフウカが目を輝かせて食い気味で聞いて来る。
「うーん、一応、家畜動物を探して
「タイトな操船なら!」
「私達、二人に!」
「「おまかせあれ!」」
ふんす、と擬音が聞こえそうな位に意気込むシズクとフウカ。ここまでは殆どリク謹製の自動航行システムを使った航海だったので船の申し子の様な二人には出番が無かったのだ。
「これから行くフィリピン、ボルネオ、ニューギニア方面も島嶼が多いからな。二人とも頼りにしてるよ」
タケルがそう言うと、シズクとフウカはタケルに近付いて少し屈んで頭の高さをタケルの目の高さにした。「ん?」とタケルが首を傾げる。
「「撫でて!」」
苦笑しながらタケルは娘二人の頭を少し乱暴に撫でくり回す。それでもシズクとフウカは目を細めて嬉しそうだ。母娘でなく、妹が姉を撫でているようにしか見えないが。
「うほぉ……(尊い……)」
「(観測ドローン回収して来るっす。ほらルイ、見惚れてないで、さっさと後方甲板にドローンを誘導するっす)」
「うっほうほほうほ(次の目的地の入力しておきますね)」
前途洋々なのか前途多難なのか。二代目『シンタ』の航海はまだ始まったばかりである。
双曲線航法システムと慣性航法装置、そして天測のデータを元にして、地図上にプロットした点を結ぶ様に船を自動操縦で進める事が出来るのだ。各座標間の速度の入力にはテンキーボードを使う。
勿論、レーダーとソナーとも連動していてある程度は自動で衝突や座礁を回避出来る様になっている。
なお、この当時の日ノ本ではマラリアは珍しくない感染症だったとの説もある。文献に残る症状から
実はムシヨケギクにはアカバナムシヨケギクと言う種類もあるので、ひょっとしたらだが、こちらが先に虫除け効果が知られていたのかも知れない。なお、虫除け成分はシロバナムシヨケギクの方が多く含まれている。
結局、何が言いたいのか言うと、地中海を訪れた事があるタケルだが、除虫菊の存在を知っていてもシロバナムシヨケギクにもアカバナムシヨケギクにも辿り着くのは『無理』であったのだ。十一世紀の段階で見付けるには、それこそ植物学、生物学、薬学、医学等々の多岐にわたる自然科学の分野で其々に精通する人材が数多必要になり世界各地でのフィールドワークが必要になってくるのである。
後書きで千五百文字とかアホですか、私は。はい、アホでした。
濁り酒に灰を入れてお手軽に清酒作るべ♪、とか、南蛮から除虫菊輸入しようずwww、とか、椎茸栽培と養蚕でがっぽり荒稼ぎじゃあ、とかもうね。
養蚕と除虫菊、ちょっと詳細を調べてたらKonozamaですよお。ええ、本当に。本文中でも語ってますが、シロバナムシヨケギクが発見されたのが十七世紀末で、普及したのが十九世紀とか、中世じゃ入手困難どころの話じゃないですか、やだー。
書き始める前にもう少し詳しく調べて確認はしとくべきでした。工業技術系以外の縛りがキツいこのお話、ちょっとした事で綻びが。
プロット練り直すか……。いや、ちょっとだけ手直しをしたらイケるイケる。で、書きました。ここでプロット練り直しなんてやったらエタる自信があるっ!(キリッ
ついでに清酒の事もちらっと調べてみました。『灰をぶち込んでお手軽清酒』は眉唾な伝承があります。で、これって灰持酒という日本古来からある酒の製造法と、何か別の事が混ざってしまって実しやかに語られる伝承になったのではないかと私は思う訳です。一応、灰持酒には灰のアルカリで酸性の酒を中和して好酸性の腐敗菌の増殖を防ぐという効果があるのですがね。灰をぶち込んだ後は上澄みだけを濾す訳で、酒に灰は残りません。
さて清酒、所謂『火持酒』なんですが、これは最後の工程で低温殺菌する訳でして。調べると室町時代には近代の諸白造りの基本となる火持酒の製法が存在してましてね、ええ。
私が調べた限りですが、当時からどこにも『灰をぶち込む』なんて工程が無いのですよ。
基本はもろみを絞って澱を沈殿させて上澄みだけを取り出して濾過して火入れなんです。沈殿の工程が何回か繰り返されるケースもありますが、基本はこれ。ひょっとしたらですが、この澱を沈殿させる工程で沈殿速度を早めるのに灰を使ったのかも? とも思えますが証拠となる文書が無いんです。(現代の清酒造りで沈殿を早める柿渋から作られる薬剤が使われる事はあります)
灰をぶち込む工程が載っている文献でも論文でも良いです、あったら是非とも教えて下さい。今後の参考にさせて下さい。
実際、現代の清酒造りでも澱の沈殿を早める薬剤は使っても、アルカリで酒を中和するなんて工程は、私は見付けられませんでした。(酒造の廃液をアルカリで中和するってのは見付けましたが)
因みにですが中世日本では紹興酒の様に色が着いたメイラード反応が進んだ僧房酒の古酒が高級品だったそうです。故に熟成させるのに酒の入れ物は瓶が主流だったとか。樽が使われうようになったのは、火持酒が主流に、それも量産が可能になってからの事らしいです。
そして除虫菊を調べてて「ん?」と思った事がありまして。発見されたとか、認知されたって言ってる多くの資料では『西洋史観』での発見や認知なんじゃねーの?と。これ、実は今(九月十九日)の段階で書いている三十五話に関して調べてて、より強く感じました。その辺は三十五話でお話します。
で、実は地中海の✕✕✕✕地方では云々みたいな書き方なら……。と思いますが止めておきました。
なんか歴史ものに(時間経過も含めて)ファンタジーを持ち込んでる人の気持ちが分かる気がします。調べるのが、すんげぇ面倒くさいんですもん。しかも物語に組み込んで整合性を持たせるのも結構キツいんですよ。真面目に考察して組み込むと物語内の時間でも、とんでもなく長く掛かり過ぎる。
でも、いくらご都合主義を謳っていても支離滅裂にはしたくは無いのです。wikipediaだけ読んで調べた気にはなれませんって。この辺は意地ですかね。
え? 十分に支離滅裂ですって? まあ、工学技術系については、やらかし系の主人公ですので。
では皆様、御唱和下さい。せーの。
加 減 し ろ! 莫 迦!