異星人の創った女性型アンドロイドに逆行転生或いは逆行憑依して歴史を変えるかも知れない話   作:片玉宗叱

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36 海峡を超えて

―ユリウス暦千百二十一年、十一月。フィリピン。サンベルナルジノ海峡。

 

「いい加減にしなさーいっ!」

 

 あっと言う間に加速する『シンタ』の艦橋で、タケルの雷が暴走二人娘に落とされた。ゲンコツ付きである。

 タケルの子供達は骨格が多少ヒトより強化されているが、その主剤はリン酸カルシウム。強い衝撃や外力が加われば『骨折』するのだ。勿論、怪我だって損傷が激しければ機能は低下する。それらの危険回避の為にタケルの子供達には一応だが痛覚が備わっている。

 

「「〜〜〜〜〜〜っ」」

 

 シズクとフウカは頭を抱えて悶絶する。衝撃でゴーグルがズレて涙目になっているのが見えた。

 

「アルトゥル! 自動操艦で緊急停止!」

 

「うほっ! うほぉうほっ(了解! 自動操艦で緊急停止)」

 

 レーダーに取り付いていたアルトゥルが素早く操艦コンソールへ移動し、艦を手動から自動操艦へと切り替える。逆噴射による緊急停止で『シンタ』の行き足が止まった。

 

『(ヤバかったっすよ〜。発艦がちょっと遅かったらウパシチリ諸共、海に転落してたっす)』

 

 いつの間にか『シンタ』に随伴する様に飛行して艦橋と同じ高さに浮いているウパシチリ(有人ドローン)に搭乗しているイマヌエルから通信が入った。

 

「ごめん、イマヌエル。ご苦労だけど一度戻って来てくれないか? それと、シズクとフウカ! あなた達は席から下りてそこに正座!」

 

 タケルは久しぶりに、モリト曰く『かあちゃんのとうちゃんモード』を炸裂させた。ガミガミではなく静かに諭すように怒るのだ。しかも糸目になった貼り付けたような笑顔で、である。

 タケルの子供達は小さな頃に悪さをすると必ずこれを食らっていた。子供達以外では唯一、イマヌエルが食らいまくっているが、本猿(本ゴリラ)は「(自分、常識(ゴリラ)なのに解せないっす)」と言っているのだが偶にやらかしているという自覚は無い。

 

 小一時間こってりとタケルに絞られたシズクとフウカは塩をかけられた葉物野菜よろしく萎びていた。尚、彼女達は足が痺れる事は無く、肉体的なダメージは皆無である。

 

「何度も言うけど、この旅の最中は私の指示には必ず従うこと。いいね?」

 

「「はい……」」

 

 流石にイマヌエルを海に落としかけたのを反省したのか、二人とも項垂れている。しかし、この娘二人の暴走癖はタケルから受け継いだものではあるまいか。

 

「(まあまあ、ご主人。その位にしてやって貰えるっすか? 自分、無事っすし、お嬢達も十分に反省したみたいっす)」

 

 まだ説教が続くと見て取ったイマヌエルが助け舟を出した。娘二人を慰めようと出待ちしていたルイが、イマヌエルに出番を取られてちょっと悔しそうである。

 

「キミがそう言うなら、まあ。これ位で勘弁してあげましょう。それじゃ気を取り直して海峡突入するよ。イマヌエル、先導を頼むね」

 

「(了解っす。お嬢達、今度はいきなりは駄目っすよ?)」

 

「うん、分かった」

 

「今度はちゃんと確認する」

 

 シズクとフウカの言葉を聞いたイマヌエルは「(んじゃ、行って来るっす)」と片手を上げて艦橋を出ていった。

 

「じゃあ気を引き締めて行くか。緊急時以外では速度は三十ノット以上は出さない事。いいね?」

 

「「はい!」」

 

 二人の娘は立ち直りは早い。そそくさと席に戻るとディスプレイ・ゴーグルを装着した。*1

 

「アルトゥル、自動操艦から手動へ切り替えて」

 

「うほっ。うほうほっ(了解。自動操艦から手動操艦へ切替ます)」

 

 タケルはアルトゥルへ操艦モード変更の指示を出すと、待機しているウパシチリ(有人ドローン)へと通信を繋ぐ。

 

「イマヌエル。発艦準備は?」

 

『(出来てるっす。いつでもOKっすよ)』

 

「発艦して高度五百メートル、『シンタ』の2キロメートル先で予定航路上の観測飛行。よろしく」

 

『(了解っす。発艦するっす)』

 

 後方甲板から発艦したウパシチリが飛行音を響かせて高度を上げながら先行位置に付く。

 

「それじゃあ、シズク、フウカ。頼んだよ」

 

「「了解」」

 

 先程とは違い、娘二人は静かに『シンタ』の速度を上げて海峡に進入させて行く。

 

「うほぅうほうほっうほぉ(レーダー計測で対地速度二十ノットです)」

 

「潮の流れが速いね。イマヌエル、目視出来る障害物は?」

 

『(今のとこ進路上には無いっすね。そのまま前進しても大丈夫っす)』

 

「うほっうっほうほ(ソナーにも障害を認めず)」

 

 タケルの問に無線でイマヌエルが応えると、ソナーを見ているルイも報告を上げる。

 

「「全部見えてる(・・・・)から大丈夫だよ」」

 

 シズクとフウカが装着しているディスプレイ・ゴーグルには、ウパシチリ(有人ドローン)からの映像を含めて全ての情報が表示されている。彼女達が座る操縦席の両方の肘掛けには幾つものスイッチが付いているサイドスティックが取り付けられており、彼女達はそれを使って操艦と各種情報の確認を行っている。*2

 

「じゃあ、全部二人に任せてみようか。ちゃんと航路から大きく外れない事と制限速度は守る事。いいね? それさえ守れれば、後はあなた達が自由に操艦して良いよ」

 

「やったー」

 

「さっさと抜けちゃおう」

 

 二人は喜々として艦の速度を三十ノットまで上げた。

 さて、このサンベルナルジノ海峡は潮汐によって東側から八ノット程度の潮流が流れ込んで来る。丁度この時間はこの潮流が発生していて『シンタ』はその流れに乗ってしまった。

 結果、対地速度は三十ノットを超えてしまったが、シズクとフウカは現代でも難所と言われるこの海峡を難なく操艦して四十分足らずで通過してしまった。*3

 海峡を抜けサマール海に入ると、針路を北へ向けてティカオ島の東を通過して北側からマスバテ海峡へ進入して行く。*4

 

「楽しいね、フウカ」

 

「うん、楽しいよね、シズク」

 

 流石は船の申し子とも言えるシズクとフウカである。時にスラスターを、時に左右の主機の出力を変え、舵を巧みに操り、岩礁も暗礁も、浅瀬も華麗な操艦で回避して行く。

 平均三十ノットで海上を爆走する『シンタ』の様子は多くの島民に目撃されていた。勿論、先導する様に飛ぶウパシチリ(有人ドローン)もである。

 時々、停船しては調査を行っているが完全に無人と言う島は見付かっていない。それでも、それなりに有望と思われるポイントを記録しつつ、そのままサマール海を南下してサマール島とレイテ島の間にあるサン・ファニーコ海峡へと進入を開始したのは翌日の朝であった。

 この海峡は長さ約二十五キロメートル程で最も狭い所は幅が二キロメートルしか無い。且つ曲がりくねっているので大型船舶の通過は難しい。その難しい海峡に『シンタ』は速度を保ったままで進入して行く。そして進入した直後にイマヌエルからの通信が入る。

 

「(舟が居るっす! 手漕ぎのカヌー! ウパシチリから二キロ先っす! その先にも何艘か確認できるっす!)」

 

「十ノット以下に減速! 曳き波で転覆させないで!」

 

「やってる!」

 

「緩減速中!」

 

 ウパシチリ(有人ドローン)は『シンタ』から二キロメートル先行している。現地住民が操るカヌーは『シンタ』の四キロメートル前方の距離にあった。シズクとフウカはウパシチリからの映像でイマヌエルと殆ど同時にカヌーの存在に気付いて既に減速に転じていたようだ。

 普通の船は急には止まれない。しかし『シンタ』には水流を逆噴射する事で急減速からの停止が可能だ。但し全力で減速しようとすると艦の前方に比較的大きな波が発生する。まだ距離もある事からシズクとフウカは緩やかに艦を減速させる事を選んだのだ。

 そうして目標のかなり手前、『シンタ』は二分程の時間をかけて速度を十ノットまで減速する。

 

「(ちょいと先まで見てきたっすが、意外と行き交う舟の数が多いっす)」

 

 海峡の先まで見てきたイマヌエルから通信が入った。

 

「了解。シズク、フウカ、慎重に行こう。速度五ノットまで落とすよ」

 

「「りょーかーい」」

 

 速度を落とした『シンタ』はゆっくりと狭い海峡を進んで行く。その姿を海岸に出てきた結構な人数の現地住民が見ている。

 

「意外と人が住んでるんだな」

 

「うっほうほっうほほ(怯えている様にも見えますね)」

 

 現地住民からすれば突然現れた『シンタ』は巨大な怪物だと思われただろう。岸辺には近寄らずに遠くから戦々恐々として眺めているようだ。

 

「どうしようかねぇ。このまま海峡を抜けたらミンダナオ島に行ってみようか?」

 

 タケルの提案にアルトゥルが「うほうほっ?(なんでまた?)」と疑問の声を上げる。

 

「ウパシチリからの映像で、南に向かうに従って結構な数の舟が行き来してるのが確認出来るし、もしかしたら大きめの現地勢力の拠点があるのかも知れない」

 

「うっほほうっほう?(上陸して交渉でもするのですか?)」

 

「んー、交渉ねぇ……。将来的にだけどさ、共存共栄が出来れば良いかなって思うから、その下調べ的な意味での接触と交流が出来れば御の字かな? イマヌエル、そのまま南に向かってミンダナオ島を上空から見てきてくれ」

 

『(了解っす。なんか見付けたら通信入れるっす)』

 

 タケルはイマヌエルからの応答を聞くと、今度は娘二人に操艦に関して聞く。

 

「シズク、フウカ、ウパシチリからの映像が無くても行けるよね?」

 

「「もーまんたい(無問題)!」」

 

 彼女達にとって今の『シンタ』の速度なら突発的な事でも回避は余裕であり、尚且つ前方に居たカヌーは『シンタ』が近付くと慌てて岸へと退避するので、艦は危なげなく海峡を航行して行った。

 

『(こちらイマヌエルっす。現在ミンダナオ島上空っす。海辺に結構な規模の集落を見付けたっす)』

 

 どうやら次の目的地が決まった様である。

 

*1
それにしても三十ノットって時速約五十五キロメートルなので船の速度としては結構な速さだとは思うのだが……。許可するタケルも大概ズレている気がする。

*2
F−16戦闘機のサイドスティックとスロットルレバーと似たような物と思って貰えれば間違い無い。

*3
サンベルナルジノ海峡は太平洋戦争中のレイテ沖海戦で栗田艦隊が単縦陣で深夜に一時間で通過したエピソードがある。二十隻の艦隊が単縦陣で一時間でこの海峡を抜けるとは相当な無茶である。

*4
この海峡も狭い。特に南側でサマール海に接続する所が狭い上に岩礁、暗礁が存在する。なんで好んで狭い所を飛ばすのかね、この母娘は。(タケルはボスポラス海峡での前科有り)




 調べれば調べる程、筆が止まりそうになりまして。島ごとに言語が違う文化が違うとか政体が不明だわ一般人の生活なんか余計にわからんわ衣装風俗等は僅かに十五世紀に描かれた様子位しかないわインドのヒンドゥー文化圏だったらしいとかとか。十二世紀頃のフィリピンとか、資料が、資料が少なすぎる……。英語の文章とか読むの疲れたよボスケテ。
 いやもう開き直って調べた分だけで後は妄想と空想でなんとか書きます! 間違ってた事を書いていたら資料を教えて下さい。後で書き直すかも知れないので勘弁して〜。
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