カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙⑤

 

休憩の時間に入って――

 

「申し訳ございませんでしたー!!」

 

ミアのマネージャーが、深々と頭を下げた。

目の前のスタッフがしかめ面を浮かべる。

 

「本当、午後の部ではお願いしますよ!」

 

「はい! 私からもしっかり、言っておきますので!」

 

ぺこぺこと謝罪しているマネージャー。

その横で、ミアは自分の手を眺めている。

 

「まぁまぁ、イベント的にはちゃんと進んだんだから、いいじゃない。結果オーライってやつで」

 

軽い口調のミア。鋭い視線が向けられる。

 

「それはハル君が何度もフォローしてくれたからですよ! ミアさん、全然打ち合わせの流れに従ってくれなかったじゃないですかー!」

 

不満そうな声で詰め寄るマネージャー。

ミアが悪戯っぽく微笑んだ。

 

「私、歌以外の事はあんまり覚えられなくて~」

 

「都合のいい記憶喪失にならないで下さい!」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているマネージャー。

スタッフが大きくため息をついた。

 

「いずれにせよ、午後の時間にもう一度同じ内容のステージをやりますので。しっかりお願いしますよ」

 

「はいはーい。任せてー」

 

自信満々に頷いてみせるミア。

スタッフがますます心配そうに眉をひそめた。

 

首を振って、スタッフがその場から去っていく。

 

「ミアさん! 本当、お願いしますよ! せめてハル君には迷惑かけないでください!」

 

注意するように話すマネージャー。

ミアが「分かったよ~」と声を出す。

 

「ま、あの子は大丈夫でしょ。私よりもしっかりしてるし、カードの扱い方も上手いもん。アドリブにはちょっと弱そうだけど」

 

「そういう問題じゃ……!」

 

言葉を詰まらせるマネージャー。

やがて、諦めたようにその肩から力が抜けた。

 

「はぁ。せっかく、ハル君と同じイベントステージになれたというのに。これなら、私が代りたいくらいですよ」

 

「ふふ、私の代理でステージ立つ? マユっち?」

 

冗談めかして言うミア。

マユが首を振った。

 

「立ちません。そもそも、ミアさんって本当にヴァンガードやったことないんですか?」

 

「ないよー」

 

「そうなんですか? それにしては、カードの持ち方とかけっこう堂に入ってましたけど」

 

不思議そうな目を向けるマネージャー。

ミアが肩をすくめた。

 

「私ってほら、天才だから。仕方ないよね~」

 

はぐらかすように答えるミア。

マネージャーが反応に困ったように黙る。

 

ミアが立ち上がり、その場で伸びをした。

 

「じゃあ、次に備えて飲み物でも買ってくるよ~。じゃ、また後でね、マユっち~」

 

手を振るミア。

マネージャーが止める間もなく、控え室から出ていく。

 

「あっ、もう! ミアさんったら!」

 

マネージャーの声がその場に響いた。

眉を下げ、ため息をつくマネージャー。

 

通路を進んで――

 

「さーて、どれにしようかな~」

 

通路の先、奥まった場所。

並んだ自販機の前に、ミアが立った。

 

紫色の瞳が、自販機へと向く。

 

「コーンスープに、おしるこドリンク。なかなか冒険できるラインナップね。悩ましい……」

 

うーんと、口元に指を当てて悩んでいるミア。

いつになく真剣な表情がその顔に浮かぶ。

 

ふらふらと、その指が宙をさまよって――

 

「いい加減にしなさい!!」

 

突如として、怒りに満ちた声がその場に響いた。

「お?」と反応するミア。声のした方をそっと覗き見る。

 

誰もいない通路の行き止まりで――

 

「言い訳は聞きたくありません。結果が全てです」

 

足立ハルとスーツの女性が向き合い、話し込んでいた。

しゅんと、頭を下げているハル。落ち込んだ顔。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

怯えたように、ハルが謝る。

ステージでの振舞いとは違う、年相応の姿。

 

翡翠色の目に、うっすらと涙が浮かんでいる。

 

「あの程度のアクシデントにうろたえているようでは、まだまだ一流とは言えません。不測の事態に備えてこその、俳優なのです」

 

「はい……」

 

「午後の部でも、お相手は変わらない予定です。しっかりと午前中の反省点を洗い出し、それを反映させたパフォーマンスを見せるように。いいですね?」

 

強い口調で言い聞かせている女性。

ハルが小さく「わかりました……」と答えた。

 

女性が腕を組み、頷く。

 

「期待しています。それでは休憩をとるように」

 

それだけ言い残し、背を向ける女性。

ツカツカと、ヒールの音を響かせてその場から離れる。

 

「……うぅっ」

 

いまだに怯えた様子のハル。

ぐすんと、その目に浮かんだ涙をぬぐう。

 

自販機の影から出て――

 

「やー、君!」

 

ミアが、明るい声を出した。

はっとなって、顔をあげるハル。

 

「あっ、えっと……」

 

おどおどとした様子のハル。

ミアがにっこりと微笑む。

 

「えーっと、たしか、何だっけ。ソラ君だっけ?」

 

「……ハルです」

 

「そうそう! ハル君だ!」

 

ぽんと手を叩くミア。

微笑みを浮かべたまま、頬をかく。

 

「いやー、私って人の名前覚えたりするの苦手で。本当、歌う以外は全然できなくて困っちゃうよね~」

 

笑い声をあげるミア。

ハルはどう反応していいか迷っている。

 

「あ、あの。僕、午後の準備があるので……」

 

目を伏せながら、そう話すハル。

そそくさとその場から離れようとする。

 

ミアがにやりと、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「ねぇ、ちょっと待って!」

 

呼び止めるミア。

ハルがびくりと身体を震わせ、振り返る。

 

「……はい?」

 

「ほら、これ見て!」

 

どこからか取り出した紫色のデッキケース。

その中の一枚を、ミアが掲げた。

 

 

歌を届けるために ロロネロル

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!

 

 

「えっ! えっと、その……!」

 

カードを見て、もじもじとするハル。

にっこりと笑いながら――

 

「好きなんでしょ? ヴァンガード」

 

ミアが、そう訊ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、分かったんですか……?」

 

おしるこドリンクを持ちながら、ハルがそう訊ねた。

横に座るミアが微笑む。

 

「分かるよー。カードの持ち方とか手つきとか、どう見ても初心者の子じゃなかったもん」

 

先程までのティーチングイベント。

ステージ上のハルを思い出しているミア。

 

「それにさ、初心者の子はとっさに"ストイケイア"って単語は出せないよ」

 

流れを取り戻そうとミアに話しかけた時の言葉。

ハルが力ない笑みを浮かべた。

 

「そうですか……。がんばって初心者っぽく見せようとしてたんですけど、まだまだ演技が甘いですね……」

 

頬をかいているハル。

ミアが優しく肩を叩いた。

 

「元気出しなって! まだ12歳なんでしょ? 人生まだまだ、これからだよ!」

 

「は、はい」

 

控えめに頷くハル。

2人が顔を見合わせて、笑い合った。

 

「あ、あの。綺羅星さんも、ヴァンガード好きなんですか?」

 

ロロネロルのカードを見ながら、おずおずと訊ねるハル。

ミアがんーと悩むような声を出す。

 

「好きとはちょっと違うかな~。なんていえば良いんだろ、ビジネスライクな関係? あるいは戦友?」

 

考えながらそう答えるミア。

ハルはあまりピンときていない。

 

ミアが肩をすくめた。

 

「まぁ、あんまり人前でやれない事情があってさー。それで事前アンケートでは未経験って答えてたの。そしたらこのイベントに回されちゃって~」

 

「そうだったんですね」

 

ミアを見上げているハル。

きらきらとした目を向ける。

 

「でも、僕嬉しいです。天才シンガーの綺羅星さんも、どんな形であれヴァンガードに関わってくれてるなんて」

 

心の底から嬉しそうな声。

ミアが柔らかな笑みを浮かべた。

 

「君、本当に好きなんだね。ヴァンガード」

 

「はい、そうなんです!」

 

迷いなく、ハルが答える。

 

「小さいころから大好きで、ずっとずっと、カードも集めてて……。そうだ! あの、これ見て下さい!」

 

ごそごそと鞄の中をあさるハル。

薄緑色のデッキケースを取り出し、一枚を見せる。

 

描かれているのは、白銀の髪の虎の少女。

 

 

繋ぎ合う親交の環 ペトラルカ

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックしたバトル終了時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札を上から7枚公開し、「繋ぎ合う親交の環 ペトラルカ」とは別名の、公開されたカードすべてがそれぞれ別名なら、公開された中から1枚まで選び、(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000。「繋ぎ合う親交の環 ペトラルカ」を選んだら、(R)ではなく【スタンド】でライドし、そのターン中、さらにドライブ-1。山札をシャッフルする。(ライドしてもパワー+10000)

― 一つ一つが大切な絆だから、ずっと繋ぎ続けるの。

 

 

「へぇ、ペトラルカかぁ」

 

カードを眺めているミア。

ハルが自慢げな笑みを浮かべる。

 

「昔からカードを集めながら、ずっと使ってるデッキなんです。きっと、綺羅星さんのロロネロルにだって負けませんよ!」

 

「お? なんだい、お姉さんと戦う気かい?」

 

悪戯っ子のような笑みを浮かべるミア。

ハルが照れたように頬をかいた。

 

「えへへ。でも本当は、僕ってそんなに強くないんですけどね。そもそもあんまりファイトしたことなくて……」

 

「そうなの? ひょっとして、今回ティーチングのイベント担当なのはそういう理由?」

 

何気なく訊ねるミア。

ハルの表情が、わずかに曇る。

 

「いえ。あれは事務所の方針なんです。僕のキャラ的に、初心者の方がウケがいいだろうって理由で……」

 

目を伏せるハル。

翡翠色の瞳に、暗い色が宿った。

 

「カードもリリカルモナステリオが好きなんですけど、それだと女の子みたいだからって。それで男の子感を出すために、さっきはドラゴンエンパイアを選んで……」

 

先程のイベントでの発言を思い出すミア。

ハルがぎゅっと手を握った。

 

「本当は、もっと友達と遊んだりファイトしたりしたいんです。だけど僕には子役としての仕事があって。常に、皆から求められる姿でいないといけなくて……」

 

小さくなっていく声。

暗く沈んだ表情を見せるハル。

 

顔をあげて――

 

「だから、綺羅星さんは凄いと思います! ああやって自分の好き嫌いをはっきりと言えて、誰にも縛られなくて、素直で! 僕、本当に羨ましいです!」

 

ハルが、そう言って笑みを浮かべた。

その姿には、どこか悲しそうな雰囲気が漂っている。

 

ミアが視線をそらして、遠くを見つめた。

 

「……そんなことないよ」

 

ぼそりと呟くミア。

その紫色の瞳がかすかに揺れた。

 

「ねぇ、ハル君」

 

おもむろに口を開くミア。

先程までのおちゃらけた雰囲気が消える。

 

神秘的な雰囲気を纏いながら――

 

「君は本当に凄いよ。子供なのに、まるで大人みたいに働いてて。おまけにしっかりとした責任感もある。努力も誰よりもしてる」

 

歌うような声で話すミア。

その言葉に、ハルが引き込まれる。

 

フッと、ミアが微笑んだ。

 

「だけどね、これだけは覚えておいて。自分に嘘をついちゃダメ。例えそれが、どんなに小さなことでもね」

 

「……え?」

 

戸惑ったような声を出すハル。

ミアが再び遠くを見つめた。

 

「自分に嘘をついてるとね、それがクセになっちゃうの。そうすると、本当の事と嘘がごちゃ混ぜになっちゃう」

 

淡々とした口調。

何かを思い出すように話しているミア。

 

にっこりと笑みを浮かべて――

 

「だから、お姉さんと約束して! これからは自分に嘘をつかないって! そうしたら、君の人生はもっと素敵なものになるよ!」

 

ミアが、右手を差し出した。

伸ばした小指。約束するためのおまじない。

 

「綺羅星さん……」

 

じっと伸びた小指を見つめるハル。

おずおずと、同じように手を伸ばした。

 

小指を絡ませて――

 

「指切った!」

 

歌うような声と共に、ミアが手を離した。

輝くような笑み。ハルの方を見る。

 

「これで、君はもう自分に嘘が付けなくなったね! もし約束を破ったら、その時は私のロロネロルが猫パンチしにいくよ!」

 

カードを取り出し、見せつけるミア。

驚いたように目を丸くしていたハルだったが――

 

「ふふっ。はい、分かりました!」

 

やがて、控えめな笑い声をあげた。

穏やかな表情、柔らかな笑みを浮かべているハル。

 

「僕、約束します。自分の思いに嘘をついたりしないって。がんばって、綺羅星さんみたいに自分らしくなります!」

 

「おー、その意気だよ、ハルっち~」

 

ぽんぽんと背中を叩くミア。

ハルが照れたように、頬を染めた。

 

「まぁでもさー、私ってほら、いい加減だから。合わないと思ったら、考えを変えて良いからね。そんなに深く考えちゃダメだよー」

 

先程までと打って変わって、ゆるい雰囲気の言葉。

ハルがくすりと笑った。

 

「本当、綺羅星さんって面白いですね。凄い人だと思ったら、急に普通の人みたいになって。そうしてると、僕のお姉ちゃんみたいです」

 

「へぇ、ハル君、お姉さんがいるの?」

 

「はい。あ、でも、別に女優とかじゃないですよ。普通の高校生なので。あんまり頼りになりませんし」 

 

きっぱりと言い切るハル。

ミアが微笑みながら、頷いた。

 

「わかるー。お姉ちゃんって、頼りにならないよね~」

 

小馬鹿にしたような声を出すミア。

2人が顔を見合わせ、笑い声をあげた。

 

廊下を走る音が響いて――

 

「あー、ミアさん!! こんな所で!!」

 

マネージャーの姿が現れた。

息を切らしているマネージャー。

 

ミアの隣りに座るハルの方を見て、目を見開く。

 

「は、ハル君!? どうしてここに!?」

 

驚愕するマネージャー。

あんぐりと、大きく口を開ける。

 

「どうも、こんにちは」

 

礼儀正しく挨拶するハル。

マネージャーがでれでれとした表情を浮かべた。

 

「こここ、こんにちは! えっと、その……」

 

しどろもどろになっているマネージャー。

ミアが呆れたように息を吐く。

 

「マユっちったら、今は仕事中だよ~」

 

やれやれと肩をすくめているミア。

じとっとした目を、マネージャーに向ける。

 

「それで、何の用?」

 

「あっ、そうでした! ミアさん! 今度こそきっちりと打ち合わせしますから! 控え室に戻って下さい!」

 

「えー、別にそんなことしなくても~」

 

「ダメです! ほら、行きますよ!」

 

ぶーぶーと文句を言っているミア。

マネージャーが強引に、その手を引っ張った。

 

立ち上がりながら――

 

「じゃ、ハルっち。また後でね~」

 

ミアが、軽い口調で言いながら手を振った。

ハルが控えめな笑顔を浮かべる。

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

丁寧に頭を下げるハル。

ミアがイタズラっぽくウィンクした。

 

2人の姿が通路の先に消える。

 

「……えへへ」

 

楽しそうに、ハルがはにかむ。

その手に持ったデッキを大事そうに握りしめた。

 

靴音が響いて――

 

「やぁ、そこの君」

 

柔らかな声が、その場に響いた。

どこか神秘的な声色。振り返るハル。

 

黒い色が視界に広がって――

 

「君が足立ハルだね?」

 

黒いフードをかぶった青年が、そう訊ねた。

顔を覆い隠したフード。すらりとした体型。高い身長。

 

「は、はい……?」

 

青年を見上げているハル。

どこか不安そうな表情が浮かぶ。

 

フッと、青年が微笑んで――

 

「"君の分身"に用があるんだ」

 

その赤い色の瞳に、妖しい光が宿った。

 

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