カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙⑥

 

がやがやとした喧騒が辺りに流れている。

 

ステージの袖口、控えスペースにて。

衣装を着たミアが、渋い顔で腕を組んだ。

 

「まったく、マユっちったら。あんなに細かく言わなくてもいいのに……」

 

先程の打ち合わせを思い出しているミア。

不満そうに、ぶつぶつと呟く。

 

息を吐いて――

 

「まっ、とりあえず午前中の時と同じようにすれば問題ないでしょ。細かいところはハルっちに任せよう~っと」

 

ミアが、全ての責任を放棄した。

歌を口ずさみながら、出番を待つミア。

 

足音が響く。

 

「…………」

 

影の中より、ハルが舞台袖に現れた。

先程と変わらぬ衣装。ゆっくりとした足取り。

 

ミアが、にっこりと微笑んだ。

 

「おっ、ハルっち~。午後もよろしくね~」

 

愛想のいい笑顔。手を振っているミア。

ちらりと、ハルが視線を向けた。

 

「……はい。お願いします」

 

控えめな笑顔を浮かべ、頭を下げるハル。

ほんの少し距離を感じる口調。演技的な笑み。

 

ミアが、わずかに怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「……うん?」

 

かすかな違和感。

ハルは真っすぐに、ステージの方を眺めている。

 

大きな拍手が巻き起こって――

 

『それでは、特別ゲストの綺羅星ミアさんと足立ハルさんです!!』

 

ステージ上、スタッフの声が響いた。

ハルがミアを見上げる。

 

「出番みたいですね。お願いします」

 

ぺこりと頭を下げ、ステージへと出るハル。

手をあげて、ハルが歓声に応えた。

 

「……まぁ、いっか」

 

頬に指を当てながら呟くミア。

そのまま一歩、前へと踏み出そうとした瞬間――

 

辺りに、軽快な音楽が流れた。

 

「あーもう、こんな時に……!」

 

スマホを取り出すミア。

耳元に当てる。

 

「サミー? 悪いけど、今ちょっと手が離せないのよ」

 

『なに?』

 

冷たい声が響く。

こそこそと話しているミア。

 

「私のアイドルとしての首がかかってるの! ほんのちょっと、30分でいいから待ってくれない?」

 

『お前なぁ。俺達の仕事は遊びじゃないんだぞ』

 

呆れたように男性が言う。

 

「そう言われてもねー。私だって真剣なのよ」

 

悪びれることなく言うミア。

ため息のような音がスマホから響いた。

 

『まぁ、いい。とりあえず伝えておくぞ。例の反応があった。また一人、向こうと繋がりができた。名前は――』

 

男性の言葉がミアの耳に届く。

一瞬、ミアの目が大きく見開かれた。

 

スマホを耳に当て、ミアが男性の言葉に聞き入る。

 

『以上だ。分かったか?』

 

「……えぇ、了解したわ」

 

冷たい声を出すミア。

大きく、息を吐き出す。

 

「それと、待つ必要はないわ。すぐに取り掛かるから」

 

『なに? お前、何を――』

 

通話を切るミア。

真剣な表情を浮かべ、顔をあげる。

 

ステージの方へと歩みを進めて――

 

「ハーイ、どうもお待たせ―!」

 

ミアが、煌めくような笑顔で歓声に応えた。

明るく手を振っているミア。アイドルとしての振舞い。

 

ハルの横に、ミアが立つ。

 

「遅かったですね?」

 

「うん、ちょっとね~」

 

気楽な声。

観客に向かってポーズを決めているミア。

 

スタッフの女性が、マイクを構えた。

 

『ようやく、役者がそろったようです! それでは皆さん、これよりヴァンガードのティーチング講習会をはじめまーす!』

 

大きく呼びかけるスタッフの女性。

遅れを取り戻すように、イベントを進行していく。

 

テーブルの上に5つのデッキが用意された。

 

『それでは、皆様にはこれから自分のデッキを選んでもらいましょう! ちなみに、ハル君は選ぶとしたらどのデッキですか?』

 

台本に決められた通りに訊ねるスタッフ。

ハルが柔らかな笑みを浮かべた。

 

「そうですね。僕はこれにします」

 

午前中と同じ、ニルヴァーナを選ぶハル。

スタッフが笑みを浮かべた。

 

『ハル君、実はドラゴン好きなんですよね』

 

「えぇ、そうなんです」

 

どこか照れたように答えるハル。

頬をかきながら、にこやかに微笑む。

 

観客からの温かい笑い声が響いた。

 

『それでは、綺羅星さんはどうでしょうか?』

 

あまり期待せずマイクを向けるスタッフ。

ミアがフッと笑みを浮かべた。

 

手を前に出して――

 

「私は、これです!」

 

ミアが、一枚のカードを観客に向けて見せた。

 

 

歌を届けるために ロロネロル

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!

 

 

「!!」

 

目を丸くするハル。

驚いたように、カードを見つめる。

 

観客がざわめいていく。

 

『えーっと……綺羅星さん、いつのまにカードを?』

 

困惑した声。

ミアがにっこりと笑みを浮かべた。

 

「私、自分に嘘はつきたくないので!」

 

快活に答えるミア。

その言葉を聞き、ハルが顔をしかめた。

 

向けられたマイクを手に取って――

 

「皆さん、注目ー!!」

 

ミアが、唐突に声を張り上げた。

 

「ここからはサプライズ企画! ヴァンガードのルールを覚えるなら、実際のファイトを見てもらうのが一番! という訳で――」

 

煌めく笑みを浮かべるミア。

ハルを手で示しながら――

 

「足立ハルvs綺羅星ミア!! スペシャルファイトイベントを開催しまーす!!」

 

ミアが、高らかに宣言を行った。

水を打ったような静けさが広がる。

 

『なっ、なっ……!』

 

口をパクパクとさせているスタッフ。

唖然とした表情。言葉にならない想い。

 

爆発するような歓声が、一斉にあがった。

 

「なになに!? どういうこと!?」

 

「足立ハルと綺羅星ミアの対決!?」

 

「なんか凄いイベント始まりそうだぞ!!」

 

混沌とした雰囲気。口々に話している観客達。

ざわめきが広がって、人々が集まってくる。

 

「なにしてるの、あの子……!」

 

遠巻きにステージを眺めていたヨウコが呟いた。

鋭い目をミアの方へと向けるヨウコ。

 

スタッフがミアに近づく。

 

『ちょっと……!! 綺羅星さん……!!』

 

小声でささやくスタッフ。

ミアが涼しい顔でウィンクした。

 

「いやー、ここまで大きく言っちゃったからには、やらないとダメじゃない?」

 

可愛らしく話すミア。

スタッフの顔が絶望の色に染まった。

 

紫色の瞳が、ハルへと向けられる。

 

「さーて、どうするの? ドラゴン好きのハル君?」

 

にっこりと微笑んでいるミア。

優しく、子供に話しかけるように続ける。

 

「そのデッキで戦う? 言っておくけど、私のロロネロルはティーチング用のデッキじゃないよ?」

 

ふりふりとカードを揺らすミア。

ハルがその目を細めた。

 

「…………」

 

持っていたニルヴァーナのデッキを置くハル。

ポケットから薄緑色のデッキケースを取り出した。

 

「……わかりました」

 

冷たい声を出すハル。

ミアが不敵な笑みを浮かべた。

 

「そうこなくちゃ」

 

嬉しそうな声。

2人がステージの中央へと進む。

 

ファイトテーブルの前、2人が向き合った。

 

「本当にファイトするんだ……」

 

「天才子役と天才歌姫の対決!」

 

「でも、どっちも初心者なんでしょ?」

 

ざわめきの中に混じる人々の言葉。

2人がカードを並べ始める。

 

「いいの? 私に付き合って、こんなことして?」

 

カードを置きながら訊ねるミア。

楽しそうに、ファイトの準備を進めていく。

 

「別に構いません。いずれ、あなたとは戦わなくちゃいけないって思ってましたから」

 

淡々と答えるハル。

慣れた手つきで、カードを並べていく。

 

「教えてもらったんです、"向こう"の友達に。大いなる目的のため、僕達はあなた達を倒さなくちゃいけないって」

 

氷のように冷たい声。

音符が描かれたスリーブのカードを置くハル。

 

その翡翠色の瞳が、一瞬輝く。

 

「僕"達"に、あなた"達"ねぇ」

 

白い指を動かしていくミア。

星の絵柄のスリーブに入ったカードを置く。

 

「さっき約束したよね。君が自分に嘘をついたとき、私のロロネロルが猫パンチするって」

 

鋭い声色。語り掛けるように話すミア。

にっこりと、輝く笑みを浮かべる。

 

「そういう訳で、猫パンチしてあげる。私達が!」

 

すっと、手を伸ばすミア。

指をカードの上に置く。

 

「猫は虎に勝てません。勝つのは、僕達です」

 

感情のこもっていない声。

ハルもまた、指をカードの上へと置いた。

 

2人の間、大きな歓声だけが飛び交っていく。

 

紫色の瞳と、翡翠色の瞳。

二つの視線が混じり合って――

 

「スタンドアップ・ヴァンガード!!」

 

大観衆の前、2人の言葉が響き渡った。

 

「《噂の美 ラビーナ》!」

 

 

噂の美 ラビーナ

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― これからあなたを夢中にしちゃう!

 

 

「《歌を届けるために ロロネロル》!」

 

 

歌を届けるために ロロネロル

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さわさわと柔らかな風が吹いて、少女の髪が揺れた。

 

リリカルモナステリオの郊外。

大草原が広がる、静かでのどかな風景。

 

猫の少女の歌声が、その場に響いている。

 

「…………」

 

目をつぶり、歌に聞き入っている虎の少女。

その口元に浮かぶ微笑み。穏やかな時間。

 

風が吹いて――

 

「……!」

 

虎の少女が、一瞬その目を見開いた。

驚いたように、辺りを見回す虎の少女。

 

その白銀の髪が揺れる。

 

「…………」

 

虚空に向けられる視線。

翡翠色の瞳に、一瞬だけ光が宿る。

 

猫の少女が、曲を歌い終えた。

 

「……どうでしたか? ペトラルカ先輩!」

 

明るく話しかける猫の少女。

虎の少女がゆっくりと、視線を向ける。

 

「……えぇ、よかったわ」

 

ぱちぱちと、虎の少女が拍手を送る。

猫の少女――ロロネロルが照れたような笑みを浮かべた。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「もちろんよ。このままプロとしてデビューしても遜色ないくらい。以前と比べても、ずっと良くなってるわ」

 

にこやかに笑いながら話す虎の少女――ペトラルカ。

どこか困ったような表情を作り、頬に手を当てる。

 

「もう私よりも上手いわね。後輩に先越されちゃったわ」

 

「そ、そんなことはないのです!」

 

慌てて否定するロロネロル。

ペトラルカが口元に手を当てる。

 

「謙遜しなくていいのよ。私が活躍してたのは昔の話しで、今は大した事もしてないのだから」

 

あっさりとした口調。

目を細め、微笑んでいるペトラルカ。

 

ロロネロルが首を振る。

 

「そんなことはないのです! 獣人(ワービースト)系のアイドルはダンスや身体パフォーマンスに重点を置いている方々が多かった中、純粋な歌唱力で活躍したペトラルカ先輩は私達の憧れなのです!」

 

熱のこもった口調。

きらきらと、目を輝かせているロロネロル。

 

「ろろも、ペトラルカ先輩に憧れて歌をがんばることに決めたのです! 本当、ペトラルカ先輩はろろ達にとっての希望の星なのですよ!」

 

ロロネロルの言葉が、大草原の中に響いた。

柔らかい風が2人の間を通り過ぎていく。

 

フッと、ペトラルカが笑った。

 

「希望の星、かぁ……」

 

どこか自嘲するような声色。

その翡翠色の瞳がかすかに揺らぐ。

 

ペトラルカが立ち上がった。

 

「ねぇ、ロロネロル」

 

「はい!」

 

元気に返事をするロロネロル。

ぶんぶんとその尻尾が嬉しそうに揺れる。

 

「あなたは、この世界が好き?」

 

唐突に、ペトラルカがそう訊ねた。

哲学的な問いを含んだ言葉。

 

ロロネロルが一瞬、きょとんとした顔になる。

 

「この世界……?」

 

考えてるような間。

だがすぐに、ロロネロルが明るく頷いた。

 

「はい! ろろはこの世界が好きなのです!」

 

断言するロロネロル。

無邪気な笑みを浮かべて、手を広げる。

 

「学校も、歌も、友達も! ろろにとっては全部が全部、宝物なのです! だから、ろろはこの世界が大好きなのです!」

 

「そう、そうなのね」

 

うんうんと頷くペトラルカ。

口元に浮かぶ微笑み。ペトラルカが目を細める。

 

翡翠色の瞳を向けて――

 

「私は、こんな世界、滅んでしまえばいいと思ってるわ」

 

先程までと全く変わらぬ口調。

穏やかな声色のまま、ペトラルカがそう言った。

 

2人の間から、音が消える。

 

「……ペトラルカ先輩?」

 

言葉の意味が理解できず、戸惑うロロネロル。

ペトラルカが空の方に視線を向ける。

 

「歌えば歌う程、こう思うの。こんな事をして、何の意味があるんだろうって。私なんかが歌って、世界が変わるのかって」

 

「ぺ、ペトラルカ先輩? 何を言っているのです……?」

 

困惑しきった目を向けるロロネロル。

ペトラルカがにっこりと笑う。

 

「ロロネロル。この世界は愛と希望だけでできている訳じゃないの。どろどろとした闇と絶望も、同じくらい存在しているのよ」

 

語り掛けるような口調。

その翡翠色の瞳に、妖しげな光が宿る。

 

「だから、この世界も"向こうの世界"も、共に滅びなくてはならない。必要なのは歌じゃない、永久の沈黙なのよ」

 

にっこりと微笑むペトラルカ。

ロロネロルが衝撃を受けて、固まった。

 

絶句したように言葉を失った後――

 

「誰ですか……!!」

 

絞り出すように、ロロネロルが声を出した。

 

「ペトラルカ先輩にそんな事を吹き込んだ奴は、いったいどこの誰なのです!!」

 

怒りに満ちた形相。

ロロネロルの猫毛が逆立った。

 

ペトラルカが微笑む。

 

「これは私自身の本心よ。誰かに教わった訳じゃないわ」

 

「嘘なのです!! ペトラルカ先輩は、そんなこと言わないのです!!」

 

睨むような視線を向けるロロネロル。

 

「ペトラルカ先輩は誰よりも優しくて!! 種族の分け隔てなく皆と接してくれて!! 学園中に友達がいる凄い人なのです!!」

 

悲愴な表情で叫ぶロロネロル。

ペトラルカが目を細める。

 

「別に分け隔てなく接してる訳じゃないわ。私はただ、特定の誰かと深い繋がりになるのが嫌なだけ。だから広く浅く交流してるのよ」

 

「違うのです!! そんなこと、信じないのです!! ペトラルカ先輩は誰かに操られているのです!!」

 

必死になって、ロロネロルが否定する。

その目から涙がこぼれた。

 

息を吐いて――

 

「なら、証明してみせて。あなたの考えが正しい事を」

 

ペトラルカが冷たい笑みを浮かべた。

 

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