カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
がやがやとした喧騒が辺りに流れている。
ステージの袖口、控えスペースにて。
衣装を着たミアが、渋い顔で腕を組んだ。
「まったく、マユっちったら。あんなに細かく言わなくてもいいのに……」
先程の打ち合わせを思い出しているミア。
不満そうに、ぶつぶつと呟く。
息を吐いて――
「まっ、とりあえず午前中の時と同じようにすれば問題ないでしょ。細かいところはハルっちに任せよう~っと」
ミアが、全ての責任を放棄した。
歌を口ずさみながら、出番を待つミア。
足音が響く。
「…………」
影の中より、ハルが舞台袖に現れた。
先程と変わらぬ衣装。ゆっくりとした足取り。
ミアが、にっこりと微笑んだ。
「おっ、ハルっち~。午後もよろしくね~」
愛想のいい笑顔。手を振っているミア。
ちらりと、ハルが視線を向けた。
「……はい。お願いします」
控えめな笑顔を浮かべ、頭を下げるハル。
ほんの少し距離を感じる口調。演技的な笑み。
ミアが、わずかに怪訝そうな表情を浮かべた。
「……うん?」
かすかな違和感。
ハルは真っすぐに、ステージの方を眺めている。
大きな拍手が巻き起こって――
『それでは、特別ゲストの綺羅星ミアさんと足立ハルさんです!!』
ステージ上、スタッフの声が響いた。
ハルがミアを見上げる。
「出番みたいですね。お願いします」
ぺこりと頭を下げ、ステージへと出るハル。
手をあげて、ハルが歓声に応えた。
「……まぁ、いっか」
頬に指を当てながら呟くミア。
そのまま一歩、前へと踏み出そうとした瞬間――
辺りに、軽快な音楽が流れた。
「あーもう、こんな時に……!」
スマホを取り出すミア。
耳元に当てる。
「サミー? 悪いけど、今ちょっと手が離せないのよ」
『なに?』
冷たい声が響く。
こそこそと話しているミア。
「私のアイドルとしての首がかかってるの! ほんのちょっと、30分でいいから待ってくれない?」
『お前なぁ。俺達の仕事は遊びじゃないんだぞ』
呆れたように男性が言う。
「そう言われてもねー。私だって真剣なのよ」
悪びれることなく言うミア。
ため息のような音がスマホから響いた。
『まぁ、いい。とりあえず伝えておくぞ。例の反応があった。また一人、向こうと繋がりができた。名前は――』
男性の言葉がミアの耳に届く。
一瞬、ミアの目が大きく見開かれた。
スマホを耳に当て、ミアが男性の言葉に聞き入る。
『以上だ。分かったか?』
「……えぇ、了解したわ」
冷たい声を出すミア。
大きく、息を吐き出す。
「それと、待つ必要はないわ。すぐに取り掛かるから」
『なに? お前、何を――』
通話を切るミア。
真剣な表情を浮かべ、顔をあげる。
ステージの方へと歩みを進めて――
「ハーイ、どうもお待たせ―!」
ミアが、煌めくような笑顔で歓声に応えた。
明るく手を振っているミア。アイドルとしての振舞い。
ハルの横に、ミアが立つ。
「遅かったですね?」
「うん、ちょっとね~」
気楽な声。
観客に向かってポーズを決めているミア。
スタッフの女性が、マイクを構えた。
『ようやく、役者がそろったようです! それでは皆さん、これよりヴァンガードのティーチング講習会をはじめまーす!』
大きく呼びかけるスタッフの女性。
遅れを取り戻すように、イベントを進行していく。
テーブルの上に5つのデッキが用意された。
『それでは、皆様にはこれから自分のデッキを選んでもらいましょう! ちなみに、ハル君は選ぶとしたらどのデッキですか?』
台本に決められた通りに訊ねるスタッフ。
ハルが柔らかな笑みを浮かべた。
「そうですね。僕はこれにします」
午前中と同じ、ニルヴァーナを選ぶハル。
スタッフが笑みを浮かべた。
『ハル君、実はドラゴン好きなんですよね』
「えぇ、そうなんです」
どこか照れたように答えるハル。
頬をかきながら、にこやかに微笑む。
観客からの温かい笑い声が響いた。
『それでは、綺羅星さんはどうでしょうか?』
あまり期待せずマイクを向けるスタッフ。
ミアがフッと笑みを浮かべた。
手を前に出して――
「私は、これです!」
ミアが、一枚のカードを観客に向けて見せた。
歌を届けるために ロロネロル
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!
「!!」
目を丸くするハル。
驚いたように、カードを見つめる。
観客がざわめいていく。
『えーっと……綺羅星さん、いつのまにカードを?』
困惑した声。
ミアがにっこりと笑みを浮かべた。
「私、自分に嘘はつきたくないので!」
快活に答えるミア。
その言葉を聞き、ハルが顔をしかめた。
向けられたマイクを手に取って――
「皆さん、注目ー!!」
ミアが、唐突に声を張り上げた。
「ここからはサプライズ企画! ヴァンガードのルールを覚えるなら、実際のファイトを見てもらうのが一番! という訳で――」
煌めく笑みを浮かべるミア。
ハルを手で示しながら――
「足立ハルvs綺羅星ミア!! スペシャルファイトイベントを開催しまーす!!」
ミアが、高らかに宣言を行った。
水を打ったような静けさが広がる。
『なっ、なっ……!』
口をパクパクとさせているスタッフ。
唖然とした表情。言葉にならない想い。
爆発するような歓声が、一斉にあがった。
「なになに!? どういうこと!?」
「足立ハルと綺羅星ミアの対決!?」
「なんか凄いイベント始まりそうだぞ!!」
混沌とした雰囲気。口々に話している観客達。
ざわめきが広がって、人々が集まってくる。
「なにしてるの、あの子……!」
遠巻きにステージを眺めていたヨウコが呟いた。
鋭い目をミアの方へと向けるヨウコ。
スタッフがミアに近づく。
『ちょっと……!! 綺羅星さん……!!』
小声でささやくスタッフ。
ミアが涼しい顔でウィンクした。
「いやー、ここまで大きく言っちゃったからには、やらないとダメじゃない?」
可愛らしく話すミア。
スタッフの顔が絶望の色に染まった。
紫色の瞳が、ハルへと向けられる。
「さーて、どうするの? ドラゴン好きのハル君?」
にっこりと微笑んでいるミア。
優しく、子供に話しかけるように続ける。
「そのデッキで戦う? 言っておくけど、私のロロネロルはティーチング用のデッキじゃないよ?」
ふりふりとカードを揺らすミア。
ハルがその目を細めた。
「…………」
持っていたニルヴァーナのデッキを置くハル。
ポケットから薄緑色のデッキケースを取り出した。
「……わかりました」
冷たい声を出すハル。
ミアが不敵な笑みを浮かべた。
「そうこなくちゃ」
嬉しそうな声。
2人がステージの中央へと進む。
ファイトテーブルの前、2人が向き合った。
「本当にファイトするんだ……」
「天才子役と天才歌姫の対決!」
「でも、どっちも初心者なんでしょ?」
ざわめきの中に混じる人々の言葉。
2人がカードを並べ始める。
「いいの? 私に付き合って、こんなことして?」
カードを置きながら訊ねるミア。
楽しそうに、ファイトの準備を進めていく。
「別に構いません。いずれ、あなたとは戦わなくちゃいけないって思ってましたから」
淡々と答えるハル。
慣れた手つきで、カードを並べていく。
「教えてもらったんです、"向こう"の友達に。大いなる目的のため、僕達はあなた達を倒さなくちゃいけないって」
氷のように冷たい声。
音符が描かれたスリーブのカードを置くハル。
その翡翠色の瞳が、一瞬輝く。
「僕"達"に、あなた"達"ねぇ」
白い指を動かしていくミア。
星の絵柄のスリーブに入ったカードを置く。
「さっき約束したよね。君が自分に嘘をついたとき、私のロロネロルが猫パンチするって」
鋭い声色。語り掛けるように話すミア。
にっこりと、輝く笑みを浮かべる。
「そういう訳で、猫パンチしてあげる。私達が!」
すっと、手を伸ばすミア。
指をカードの上に置く。
「猫は虎に勝てません。勝つのは、僕達です」
感情のこもっていない声。
ハルもまた、指をカードの上へと置いた。
2人の間、大きな歓声だけが飛び交っていく。
紫色の瞳と、翡翠色の瞳。
二つの視線が混じり合って――
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
大観衆の前、2人の言葉が響き渡った。
「《噂の美 ラビーナ》!」
噂の美 ラビーナ
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― これからあなたを夢中にしちゃう!
「《歌を届けるために ロロネロル》!」
歌を届けるために ロロネロル
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!
さわさわと柔らかな風が吹いて、少女の髪が揺れた。
リリカルモナステリオの郊外。
大草原が広がる、静かでのどかな風景。
猫の少女の歌声が、その場に響いている。
「…………」
目をつぶり、歌に聞き入っている虎の少女。
その口元に浮かぶ微笑み。穏やかな時間。
風が吹いて――
「……!」
虎の少女が、一瞬その目を見開いた。
驚いたように、辺りを見回す虎の少女。
その白銀の髪が揺れる。
「…………」
虚空に向けられる視線。
翡翠色の瞳に、一瞬だけ光が宿る。
猫の少女が、曲を歌い終えた。
「……どうでしたか? ペトラルカ先輩!」
明るく話しかける猫の少女。
虎の少女がゆっくりと、視線を向ける。
「……えぇ、よかったわ」
ぱちぱちと、虎の少女が拍手を送る。
猫の少女――ロロネロルが照れたような笑みを浮かべた。
「ほ、本当ですか!?」
「もちろんよ。このままプロとしてデビューしても遜色ないくらい。以前と比べても、ずっと良くなってるわ」
にこやかに笑いながら話す虎の少女――ペトラルカ。
どこか困ったような表情を作り、頬に手を当てる。
「もう私よりも上手いわね。後輩に先越されちゃったわ」
「そ、そんなことはないのです!」
慌てて否定するロロネロル。
ペトラルカが口元に手を当てる。
「謙遜しなくていいのよ。私が活躍してたのは昔の話しで、今は大した事もしてないのだから」
あっさりとした口調。
目を細め、微笑んでいるペトラルカ。
ロロネロルが首を振る。
「そんなことはないのです! 獣人(ワービースト)系のアイドルはダンスや身体パフォーマンスに重点を置いている方々が多かった中、純粋な歌唱力で活躍したペトラルカ先輩は私達の憧れなのです!」
熱のこもった口調。
きらきらと、目を輝かせているロロネロル。
「ろろも、ペトラルカ先輩に憧れて歌をがんばることに決めたのです! 本当、ペトラルカ先輩はろろ達にとっての希望の星なのですよ!」
ロロネロルの言葉が、大草原の中に響いた。
柔らかい風が2人の間を通り過ぎていく。
フッと、ペトラルカが笑った。
「希望の星、かぁ……」
どこか自嘲するような声色。
その翡翠色の瞳がかすかに揺らぐ。
ペトラルカが立ち上がった。
「ねぇ、ロロネロル」
「はい!」
元気に返事をするロロネロル。
ぶんぶんとその尻尾が嬉しそうに揺れる。
「あなたは、この世界が好き?」
唐突に、ペトラルカがそう訊ねた。
哲学的な問いを含んだ言葉。
ロロネロルが一瞬、きょとんとした顔になる。
「この世界……?」
考えてるような間。
だがすぐに、ロロネロルが明るく頷いた。
「はい! ろろはこの世界が好きなのです!」
断言するロロネロル。
無邪気な笑みを浮かべて、手を広げる。
「学校も、歌も、友達も! ろろにとっては全部が全部、宝物なのです! だから、ろろはこの世界が大好きなのです!」
「そう、そうなのね」
うんうんと頷くペトラルカ。
口元に浮かぶ微笑み。ペトラルカが目を細める。
翡翠色の瞳を向けて――
「私は、こんな世界、滅んでしまえばいいと思ってるわ」
先程までと全く変わらぬ口調。
穏やかな声色のまま、ペトラルカがそう言った。
2人の間から、音が消える。
「……ペトラルカ先輩?」
言葉の意味が理解できず、戸惑うロロネロル。
ペトラルカが空の方に視線を向ける。
「歌えば歌う程、こう思うの。こんな事をして、何の意味があるんだろうって。私なんかが歌って、世界が変わるのかって」
「ぺ、ペトラルカ先輩? 何を言っているのです……?」
困惑しきった目を向けるロロネロル。
ペトラルカがにっこりと笑う。
「ロロネロル。この世界は愛と希望だけでできている訳じゃないの。どろどろとした闇と絶望も、同じくらい存在しているのよ」
語り掛けるような口調。
その翡翠色の瞳に、妖しげな光が宿る。
「だから、この世界も"向こうの世界"も、共に滅びなくてはならない。必要なのは歌じゃない、永久の沈黙なのよ」
にっこりと微笑むペトラルカ。
ロロネロルが衝撃を受けて、固まった。
絶句したように言葉を失った後――
「誰ですか……!!」
絞り出すように、ロロネロルが声を出した。
「ペトラルカ先輩にそんな事を吹き込んだ奴は、いったいどこの誰なのです!!」
怒りに満ちた形相。
ロロネロルの猫毛が逆立った。
ペトラルカが微笑む。
「これは私自身の本心よ。誰かに教わった訳じゃないわ」
「嘘なのです!! ペトラルカ先輩は、そんなこと言わないのです!!」
睨むような視線を向けるロロネロル。
「ペトラルカ先輩は誰よりも優しくて!! 種族の分け隔てなく皆と接してくれて!! 学園中に友達がいる凄い人なのです!!」
悲愴な表情で叫ぶロロネロル。
ペトラルカが目を細める。
「別に分け隔てなく接してる訳じゃないわ。私はただ、特定の誰かと深い繋がりになるのが嫌なだけ。だから広く浅く交流してるのよ」
「違うのです!! そんなこと、信じないのです!! ペトラルカ先輩は誰かに操られているのです!!」
必死になって、ロロネロルが否定する。
その目から涙がこぼれた。
息を吐いて――
「なら、証明してみせて。あなたの考えが正しい事を」
ペトラルカが冷たい笑みを浮かべた。