カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙⑨

 

「あの、本当に、申し訳ございませんでした……!」

 

深々と、ハルが頭を下げて謝罪した。

血の気の失せた顔。縮こまっている身体。

 

いまにも泣きそうな表情を、ハルは浮かべている。

 

「……本当、とてつもない盛り上がりでしたけどね」

 

渋い顔でそう話すスタッフ。

興行としての成功と、流れを台無しにされた怒り。

 

相反する2つの想いが入り混じる、複雑な反応。

 

「まぁさ、皆も楽しそうだったし、いいんじゃない?」

 

あっけらかんと、横にいるミアが口をはさんだ。

まるで悪びれていない様子。笑顔のミア。

 

ぎろりと、鋭い目が向けられる。

 

「あなた"は"ダメです、綺羅星さん」

 

怒りの滲み出た声。

冷たい殺気が、ミアへと向けられている。

 

「本当ですよ、ミアさん!!」

 

真っ青な顔で、マネージャーが割り込んだ。

 

「イベント中も、社長から鬼のように着信がきまくってたんです!! もう私、本当に胃が痛くて……!!」

 

今にも倒れそうに、マネージャーがスマホを掲げる。

ミアが微笑んだ。

 

「あー、後で私からも謝っておくから。ごめんね」

 

「"ごめんね"じゃありませんよー!!」

 

悲痛な叫び。

頭を抱えているマネージャー。

 

コツコツという靴音が響く。

 

「ハル」

 

冷たい声。

びくりと、ハルが身体を震わせた。

 

スーツ姿の女性が、ハルを見下ろしている。

 

「あっ……!」

 

吐息のような声。

言葉を失い、女性を見上げているハル。

 

怯えきった目が、その顔に浮かんでいる。

 

「あー、どうもー」

 

女性に声をかけるミア。

ちらりと、女性の視線がミアへと向けられる。

 

ミアで人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「あのー、ちょっと聞いてほしいんですけど。今回の事は、私がハルっちを無理やり巻き込んで――」

 

「別に、関係ありません」

 

冷たく言う女性。

ミアを無視して、ハルへと向き直る。

 

「ハル。あなた、自分が何をしたか分かっていますね?」

 

「は、はい……」

 

真っ青な顔で頷くハル。

その目に涙が浮かぶ。

 

女性が鋭い目を向けた。

 

「台本の流れを無視し、共演者のアドリブに付き合った挙句、ありとあらゆるイベントの進行に支障をきたしました。断じて許される事ではありません」

 

「……はい」

 

ハルが消え入りそうな声を出す。

顔を伏せ、女性の言葉に耳を傾けているハル。

 

「ねぇねぇ、ハルっちはまだ子供なんだしさー」

 

横のミアが口をはさむが、

 

「あなたは黙ってて下さい」

 

有無を言わさぬ声。

ミアの言葉を、女性が手で制した。

 

女性が腕を組む。

 

「こういった事が今後も起こるようであれば、あなたへの信用にも関わってきます。仕事というのは信頼関係が何よりも重要になってきます。スポンサーの意向。それを常に考える事を忘れないように。いいですね?」

 

「……はい」

 

うなだれているハル。

ぽろぽろと、その目から涙がこぼれた。

 

「言われてますよ、ミアさん」

 

こそこそとささやくマネージャー。

ミアが渋い表情を浮かべる。

 

ハルが涙をぬぐい、顔をあげた。

 

「本当に、申し訳ありませんでした……。僕、どんな罰でも受けます。だから、あの……僕……」

 

何とかして、そう話すハル。

すがるような目を向け、女性に懇願する。

 

その目を細めて――

 

「罰? なんの話です?」

 

女性が、鋭い声のまま訊ね返した。

「え?」と顔をあげるハル。不思議そうな目。

 

腕を組んだまま、女性が口を開く。

 

「先程教えたばかりでしょう。仕事においては、スポンサーの意向が全てです。例えそれがどんな形であろうとも、先方が満足しているのであれば問題ありません」

 

淡々とした口調。

すっと、女性がスマートフォンを差し出した。

 

画面には、大手SNSのトレンドが表示されている。

 

「足立ハルと綺羅星ミアの対決。凄まじい反響で、会場のみならずインターネット上でも大盛り上がりです」

 

画面を覗き込んでいるハルとミア。

様々な反応が書き込まれている。

 

「普及協会の現会長まで反応して、とても好意的なコメントを残しています。これをきっかけに、ヴァンガードをはじめたいという声も多数見受けられます」

 

スマホを引っ込める女性。

小さく息を吐いて――

 

「ようするに、ヴァンガードの普及をするという点において、あなた達のイベントは大成功という訳です。よってあなたが何か罰を受ける謂れはありません」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

驚くハルとマネージャー。

ミアだけは、一人うんうんと頷いている。

 

「ふっふーん。ようやく、私の狙いが皆にも分かったみたいだね……」

 

得意そうな顔のミア。

マネージャーが呆れたように、白い目を向ける。

 

女性が射抜くようにハルを見つめた。

 

「もっとも、これはたまたま上手くいっただけです。先程も言いましたが、あのような勝手な振舞いは許される事ではありません。猛省するように」

 

「は、はい!」

 

直立不動になるハル。

背筋を伸ばすと、頭を下げる。

 

女性がじっと、ハルの姿を見つめた。

 

「……それにしても」

 

ぼそりと、呟く女性。

 

「あなた、あんなにヴァンガードが好きだったの?」

 

「えっ。いや、その……」

 

答えに窮するハル。

女性がため息をついた。

 

「別に怒っている訳ではありません。むしろ、あなたのプロフィールをしっかり把握できていなかったのは、こちらのミスですから」

 

自分に言い聞かせるような口調。

女性が視線を切る。

 

「今回の件で、あなたのヴァンガードの腕前が衆目を浴びました。これからは、そういった仕事を入れてもいいかもしれまんね」

 

「えっ!? ほ、本当!?」

 

思わず、子供らしい口調が漏れるハル。

女性が頷いた。

 

「えぇ。たまには、あなたも遊ぶ機会がないとね。それに、自分に嘘ばかりついていては良い演技はできませんから」

 

「!!」

 

女性の言葉を聞き、目を見開くハル。

横のミアがにんまりと笑みを浮かべる。

 

手を握って――

 

「はい、わかりました! 僕、自分に嘘はつきません!」

 

大きな声で、ハルがそう言い切った。

晴れ晴れとした表情。どこか吹っ切れた様子のハル。

 

女性が少しだけ不思議そうに、首をかしげた。

 

「いやー、よかったねー、ハルっちー」

 

気楽な様子で声をかけるミア。

ハルが「綺羅星さん!」と振り返る。

 

「本当に、ありがとうございました! あの、それで。僕、さっきは綺羅星さんに変な事ばっかり言っちゃって……」

 

「あー、いいのいいの。盛り上がったしさー」

 

手を振っているミア。

じっと、その紫色の瞳をハルに向ける。

 

「ところでさー、ハルっち。私と別れた後、イベント前に誰かと会ったりした?」

 

何気なく訊ねるミア。

ハルが不思議そうに首をかしげた。

 

「え? いえ、会ってませんけど……」

 

困惑したように答えるハル。

その姿は、嘘を言っているようには見えない。

 

「そっかー。いやね、さっきの世界がどうのこうのってやつ、誰かから教わったのかなって~」

 

軽い口調で話しているミア。

ハルが顔を伏せた。

 

「正直、僕も何が何だか分からなくて。あの時は急に、綺羅星さんを倒さないといけないって、それで頭がいっぱいに……」

 

もじもじと指を動かしているハル。

デッキを取り出すと、ペトラルカのカードを取り出す。

 

「でも、不思議なんです。なんだかペトラルカの声が聞こえたような気がして。向こうでも、ペトラルカが苦しんでいる気がして……」

 

ハルが小さな声で話す。

ミアがわずかに目を細めた。

 

「ハル君、疲れてるんじゃ。私と同じで……」

 

妙なシンパシーを感じているマネージャー。

ミアがにこやかに微笑んだ。

 

「まぁ、そういうこともあるよね~。じゃあ、私はまだ仕事があるから。またどこかでね、ハルっち!」

 

明るく言うミア。

ハルが控えめな笑みを浮かべた。

 

「は、はい! また!」

 

嬉しそうな声。頭を下げるハル。

ミアが両手を振って笑顔を見せた。

 

踵を返し、ミアが控え室から出ていく。

 

「あっ! ミアさん、勝手に行かないでくださいー!」

 

慌てて、マネージャーがミアを追いかけていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蝋燭の炎がゆらゆらと揺れた。

 

暗闇が広がる空間。冷たい空気。

辺りはひどく静まり返り、沈黙が流れている。

 

儀式的な祭壇の前で――

 

「やはり、あの程度か……」

 

黒いフードの青年が、声を出した。

顔を覆い隠すフードの下、赤い色の瞳が輝く。

 

「所詮は付け焼刃の使徒。期待する方が間違っていたか」

 

冷たい声でそう話す青年。

憂うように、その目を細める。

 

影の中に目を向けて――

 

「お前は、私の期待を裏切らないだろうな?」

 

青年が、そう問いかけた。

誰もいない空間。漆黒の闇だけがある場所。

 

蝋燭の炎が震えるように動いて――

 

「あぁ、期待している」

 

青年が、誰かと会話するかのようにそう答えた。

その口元にかすかな笑みが浮かぶ。

 

赤い色の瞳が光を帯びて――

 

「――世界に、滅びと沈黙を」

 

蝋燭の炎が消え、辺りが闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

マンションのドアを開け、声をあげるミア。

靴を脱ぎ、リビングの方へと進む。

 

扉を開けると――

 

「おー、おかえり~」

 

紫導カナタの声が、その場に響いた。

ソファでくつろいでいるカナタ。

 

ぽりぽりと、手に持った煎餅をかじる。

 

「どうだったの、ライブの方はー?」

 

口を動かしながらそう聞くカナタ。

ミアが肩をすくめる。

 

「いやー、それが色々とトラブルが重なっちゃってさー。結局、歌えなかったんだよね~」

 

「あら、そうなの?」

 

意外そうな目を向けるカナタ。

煎餅を飲み込む。

 

「まぁ、結局行かなかった私が言うのもなんだけど、それは残念だったね~」

 

「そうなんだよ~。お姉ちゃん、慰めて~」

 

冗談めかした口調。

わざとらしく泣く真似をして見せるミア。

 

ふっと、カナタが微笑んで――

 

「いいよ。お姉ちゃんが慰めてあげる!」

 

優しく微笑みながら、両手を広げた。

愛おしそうな目を、ミアに向けているカナタ。

 

ミアもまた、笑顔を浮かべて――

 

「ありがと、お姉ちゃん!」

 

カナタの下へと、勢いよく飛び込んだ。

いきなり抱き着いてきたミアに、カナタが驚く。

 

「わわっ、ちょっと、ミア!」

 

「えへへっ、たまには、こういうのもいいでしょ!」

 

甘えた声を出すミア。

カナタの胸に顔をうずめる。

 

「……もう、しょうがないなぁ」

 

仕方なさそうに言うカナタ。

微笑みながら、ミアの頭を撫でた。

 

穏やかな空気が流れていく。

 

「ねぇ、お姉ちゃん?」

 

「うん?」

 

ミアの呼びかけに応えるカナタ。

その紫色の目が下を向く。

 

目をつぶりながら――

 

「世界で一番、愛してる」

 

ミアが、静かにそう口にした。

安らかな笑みを浮かべているミア。

 

一瞬、驚くような反応を見せた後――

 

「……私もだよ」

 

カナタもまた、優しく微笑んだ。

 






第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙 FIN


 
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