カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
かつて、ドラゴンエンパイアには1つの伝説があった。
それは遥か昔から人知れず語られる御伽噺。
暁に燃える赤い鱗を持つ、不可視の大蛇。
その大蛇は、喰らった命の形を真似るという。
ある時は純朴なる村娘の姿に化け、
またある時は清廉なる浪人の姿に化けてみせた。
誰でも在り、誰でも無い存在。
闇に潜み、影に生きる伝説の暗殺者。
時の権力者達はその存在に畏れ慄いた。
陰謀と戦禍。血で染まる動乱の時代である。
それでも時は、平等に流れていく。
遥かな時が流れ、そして――
天輪世紀。神格復活の時代が訪れた。
新たなる時代。波乱に満ちた幕開け。
ドラゴンエンパイアにも、新たな風が吹き始めていた。
しかしそこに、伝説と謳われた大蛇の姿はなかった。
かつて畏れられた闇の存在。伝説の暗殺者。
それはいつからか、存在そのものが幻となっていた。
噂が飛び交った。
ある者は時の大君主の暗殺に失敗して死亡したと語り、
またある者は遠い異国に旅立ったのだと語った。
あらゆる与太話が現れては、消えていった。
そしてそれらもまた、時が流れるにつれ途絶えていった。
残ったのは闇に覆われた伝説。暁に紛れる大蛇の噂。
その行く末を知る者は――
「うぉ~い、帰ったぞ~!」
リリカルモナステリオ内にある老舗の呉服店。
がらがらと、古風な作りの扉が横に開く。
青白い肌の幽霊の少年が、音もなく現れた。
「どこに行ってたんですか?」
棘のある言葉。ぎろりと、鋭い目を向ける少年。
狐耳の少女が赤く染まった頬をゆるませる。
「なーに、ちょいと命の洗濯をの~」
ぷらぷらと、持っていた寿司折をかざす少女。
幽霊の少年が目を細める。
「また飲み歩いてたんですか」
呆れかえったように訊ねる幽霊の少年。
怒りの滲んだ声。鋭い視線。
狐耳の少女が「ふへへ~」と笑い声を漏らした。
「そう固い事言うでないわ~。ワシはこの店の店主じゃぞ。何をどうしようが、ワシの勝手なはずじゃ~!」
酔っぱらいながら、わめきたてる狐耳の少女。
履き物を脱ぎ散らかすと、ふわふわした足取りで進む。
苦虫を噛み潰したような表情で――
「この駄蛇……!!」
吐き捨てるように、幽霊の少年――コダマが呟いた。
忍妖 コダマ
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ドラゴンエンパイア - ゴースト
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【永】:このカードは「忍妖 フォークテイル」として扱う。
【自】:このユニットが(R)に登場した時、あなたの山札の上から7枚見てよい。そうしたら、その見た中から【煌求者】か「忍」を含む、ノーマルユニットを1枚まで選び、ソウルに置き、山札をシャッフルする。
とっぷりと、夜の帳が落ちる。
虫の鳴き声だけが響く静かな夜。
畳が敷かれた部屋の中で――
「おぉ、今度の賢者の塔のライヴはAstesiceなのか! これは見逃せぬ! チケットの倍率は……」
狐耳の少女――メガロノヅチが興奮した声をあげた。
Tシャツに短パン、スマホを手にくつろいだ姿。
傍に控えるコダマが、渋い表情を浮かべる。
「嬉しそうですね、メガロノヅチ様」
「うむ、もちろんじゃ!」
皮肉めいた口調のコダマ。
それを無視して、メガロノヅチが返事をする。
「やはり推しのいる生活は良い……。心が洗われるようじゃ。日々の激務の後は、これが一番じゃて!」
「激務ですか。てっきり、私達に仕事を任せて自分は遊び歩いているのかと思っていました」
冷え冷えとした言葉。
メガロノヅチがふんと鼻を鳴らす。
「分かっておらんのう。我らは呉服屋。となれば常に流行の最先端をリサーチせねばならぬ。そのために、ワシは毎日のように調査を行っているのじゃ!」
きゃぴきゃぴと楽しそうな口調。
スマホの画面に向き直ると、真剣な表情を浮かべる。
「むっ! 今晩はキョウカがライヴ配信をするのか。同じドラエン出身者として、ここは1つスパチャを……」
「メガロノヅチ様」
固く強張った声を出すコダマ。
メガロノヅチが手をあげる。
「安心せい、出すのはワシのポケットマネーからじゃ。いくらワシでも、店の金をスパチャしたりは――」
「そうではありません!」
コダマが声を荒げる。
「ん?」と、スマホから顔をあげるメガロノヅチ。
呆れたような目を向けて――
「あなた、いつドラゴンエンパイアに帰るんですか?」
コダマが、静かにそう訊ねた。
外から聞こえる虫の鳴き声だけが、しばし響く。
横になった格好のまま――
「帰らぬ」
メガロノヅチが、きっぱりと答えた。
真剣な表情。コダマを見つめる梔子色の瞳。
コダマがメガロノヅチを睨みつける。
「あなた、この国に来た時にこう言いましたよね。『しばらく身を潜める必要がある。それまではこの国の群衆に紛れて過ごし、時期を見て再び国に舞い戻る』と」
「うむ。昨日のことのように覚えておるぞ!」
得意そうに頷くメガロノヅチ。
コダマがぎろりと鋭い目を向ける。
「昨日ではなく"100年前"の話しです。で、そこからこの呉服屋を営み、市井の人々に紛れて暮らしてきました」
「そうじゃの」
「で、もう一度聞きますが、いつドラゴンエンパイアに戻るんですか? もう既に、あなたという存在は珍獣並みの知名度になってますよ」
皮肉めいた口調。
突き付けるように、言葉を話すコダマ。
「追手も途絶えた今、ドラゴンエンパイアに戻るのは簡単なはず。なのになぜ、あなた程の暗殺者がこんな所での生活を続けているのです?」
「…………」
わずかに沈黙するメガロノヅチ。
手を伸ばし、傍に置かれたクッションを抱き寄せる。
口を開いて――
「嫌じゃ!」
メガロノヅチが、はっきりとそう答えた。
「嫌じゃ嫌じゃ! ドラゴンエンパイアなぞに帰りとうない! ワシはこのまま、リリカルモナステリオに骨をうずめるのじゃー!」
幼児のように駄々をこね出すメガロノヅチ。
コダマが呆れきった表情を浮かべる。
「あなたねぇ……!!」
「なんと言われようが無駄じゃ! ワシはここで過ごし、そして目覚めたのじゃ! 推しのいる生活に!」
スマホを掲げるメガロノヅチ。
クッションをぎゅっと抱きしめる。
「呉服屋として衣装をこしらえ、新人アイドルが成長していく姿を見守る……これに勝る喜びはどこにもない! 時代はラブ&ピースなのじゃ!」
「それが暗殺者として数多くの伝説を築き上げた人の言葉ですか!?」
「ふん、命のやり取りなぞ何も生まんわ! リリステこそ地上の楽園。ドラエンのような争いばかりの辛気臭い国家なぞ、こっちから願い下げじゃ!」
わめきたてるメガロノヅチ。
コダマが額に手を当て、天を仰いだ。
「そこまで堕落していたとは……時の君主が今のあなたの姿を見たら、さぞやお嘆きになられますでしょうに」
「ふん! その時はワシの推しプレイリストを聞かせるまでじゃ。そうしたら、奴とて考えが変わるに違いない! そうじゃ、コダマも聞くか?」
「聞きません!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる2人。
醜く言い争う声が続く。
遠くの方で、犬の遠吠えが響いた。
「よーく、分かりました……!」
息を切らしているコダマ。
疲れたように、両手を広げる。
「あなたが暗殺者としてはニート同然の、駄蛇と化しているのは十分に分かりましたよ!」
「に、ニートじゃと!?」
ガーンと、メガロノヅチがショックを受ける。
「100年仕事してないんです、当たり前でしょ!」
ぴしゃりと言葉を叩きつけるコダマ。
メガロノヅチが「うぅ……」と涙目になる。
コダマが深くため息をついた。
「ですが、あなたのその力は本物です。いずれは必ず、御国のためドラゴンエンパイアに戻ってもらいますよ」
「そ、そんなぁ……!」
情けない声を出すメガロノヅチ。
うるうるとした目を向ける。
「嫌じゃ! あーんなドラハラ(※ドラゴン・ハラスメント)まみれのカビ臭い国家は絶対嫌なんじゃー!」
「えぇい、黙らっしゃい!!」
叫ぶように言うコダマ。
イライラした様子で、顔をそむけて息を吐く。
ぴくりと、メガロノヅチの耳が動いた。
「……ん?」
小さく呟くメガロノヅチ。
その顔から表情が消えていく。
「…………」
「分かりましたね? 今日はもうお休みを頂きますが、またどこかで続きをしますから、ちゃんと考えておいて下さい!」
怒りに満ちた口調のコダマ。
肩をすくめ、メガロノヅチに背を向ける。
襖に手をかけようとした瞬間――
「おい」
低く冷たい声が、その場に鋭く響き渡った。
ぞわっと、コダマが寒気立つ。
おそるおそる振り返って――
「どういうつもりじゃ?」
突き刺すような殺気が、コダマの身体を貫いた。
凄まじい殺意。辺りの空気が歪んでいく。
「……ッ!!」
コダマの青白い肌から血の気が失せた。
蛇に睨まれた蛙のような気分。汗が噴き出る。
がばっと、コダマが額を畳にこすりつけた。
「も、申し訳ありません! 私としたことが、口がすぎました。ど、どうかお許しを……!」
ガタガタと震えながら口を開くコダマ。
額から流れる冷や汗。恐怖に苛まれる心。
ちらりと、メガロノヅチが視線を向けて――
「たわけ。お主じゃないわ」
呆れたように、そう告げた。
「……え?」
「貴様、いつまでそうしておる。それとも、ワシに引きずり出されたいのか?」
部屋の隅、僅かに暗く影になっている場所に向かって、
メガロノヅチがそう訊ねた。
ぼんやりと、影が揺れて――
「これはこれは、大変失礼しました」
黒装束の青年が、影からその姿を現した。
驚くコダマ。ふんと、メガロノヅチが鼻を鳴らす。
「ゼイルモート。つまり、バフォルメデスか」
「その通りでございます」
深々と、青年が頭を下げる。
慇懃無礼な口調。その背後に揺らめく黒い影。
青年がにっこりと、笑顔を浮かべた。
影に潜む死神 ゼイルモート
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ダークステイツ - ヒューマン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【起】【(R)】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1), このユニットをソウルに置く]ことで、あなたの山札の上から2枚見て、1枚まで選び、(R)にコールし、残りをソウルに置く。
― 誰にも訪れる死。それは魂を浄化する崇高なる儀式。
メガロノヅチがクッションを脇に置く。
「随分と久しいではないか。貴様ら、何の用じゃ?」
先程とは一変した口調。
鋭い刃のような声が、メガロノヅチの口から放たれる。
青年――ゼイルモートが深々とお辞儀した。
「この度の非礼、重ね重ねお許しください。ですが我らが闇の君主も、どうしてもあなた様の御力を借りたいと申しておりまして――」
「御託は良い。用件はコレか?」
自分の首に手を当てるメガロノヅチ。
ゼイルモートが不気味な笑みを浮かべた。
「えぇ、その通りです」
「ターゲットは?」
メガロノヅチの言葉に、コダマが驚く。
すっと、ゼイルモートがその手を伸ばした。
「依頼したいのは、この方です」
手の平の上、影が浮かび上がり四角い形を作る。
やがて影の中に、一人の少女の姿が映し出された。
楽しそうに歌を唄う、猫耳の獣人の少女の姿が。
「…………」
映像を見つめているメガロノヅチ。
ゼイルモートの手から影が消え、映像が途切れた。
「名前は――」
「不要じゃ。よく知っておる」
短く答えるメガロノヅチ。
ゼイルモートが満足そうな笑みを浮かべた。
「流石、と言ってよろしいでしょうか?」
くすくすとした忍び笑い。
メガロノヅチは無表情を崩さない。
「そして、実はもう一つ条件がありまして」
「なんじゃ?」
「えぇ、それがですね――」
喜々として話を続けるゼイルモート。
メガロノヅチは無言で、その言葉を聞いていく。
張りつめた空気が流れて――
「なるほどの」
メガロノヅチが、ぽつりとそうこぼした。
合点がいったように、頷く。
「相変わらず、お前達は暗躍するのが好きみたいじゃな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてないがの。まぁいい、好きにするがよい」
あっさりとそう言うメガロノヅチ。
コダマが慌てて詰め寄った。
「め、メガロノヅチ様! 良いのですか!?」
心配したような表情。
冷や汗を流しながら、コダマがそう訊ねる。
メガロノヅチが鼻で笑った。
「良いも悪いもない。そもそも、選択肢はないからの」
「え?」
「バフォルメデスには亡命時の借りがある。それに、わざわざここに直接部下を送り込んできた理由が分かるか?」
コダマの方を見るメガロノヅチ。
少しだけ考えるも、コダマには何も思いつかなかった。
ゼイルモートに視線を向けて――
「脅しじゃ。"お前の居場所を知ってるぞ"、とな。断ればワシの居場所と正体をばらすと言っているのじゃよ」
「そんな……!」
絶句するコダマ。
ゼイルモートがにっと笑みを浮かべる。
「それは誤解です。我らが君主は、メガロノヅチ様ととても友好的な関係を作ろうとなされていますので。いずれにせよ、滞りなく依頼を受けて下さり感謝します」
「うむ。後は任せろとバフォルメデスに伝えろ」
氷のように冷たい声。
メガロノヅチが手をひらひらとさせる。
ゼイルモートが微笑んだ。
「不要です。こちらの会話は全て、あちらにも届いています。つまり我が君主も、この場にいるのと同じなのです」
「おぉ、そうなのか?」
ぽんと手を叩くメガロノヅチ。
おもむろに、天井の方を向く。
「おーい、バフォルメデスー? 聞こえておるか―? お主の依頼、しかと承ったぞよー!」
誰もいない空間に向けて、手を振るメガロノヅチ。
ゼイルモートがくすくすと笑みをこぼした。
何気なく、その手を前に出して――
「お主には借りがある。ゆえに、今回の依頼は特別料金でやってやろう。礼はいらぬぞ」
メガロノヅチが、静かにそう話した。
ぴくりと、ゼイルモートが足元に異変を覚える。
黒い影が現れ、その中にゼイルモートの足が沈んでいく。
「なっ……!?」
驚き、足を動かそうとするゼイルモート。
だが影の纏わりついた足は、微動だにしない。
梔子色の瞳を向けて――
「――見えているんじゃろ?」
メガロノヅチの声が、虚空に響いた。
阿鼻叫喚の声。ゼイルモートの身体が沈んでいく。
「き、貴様ッ!! 私をッ!!」
口汚い声。背後の影が蠢き、死神の鎌が宙に現れる。
鎌を手に取って――
「この蛇――」
影が這い上がり、ゼイルモートの口を塞いだ。
驚愕の表情。その両腕が闇の中に溶けて、見えなくなる。
とぷんと、ゼイルモートの姿が影に飲み込まれて消えた。
からんと音を立てて、死神の鎌が床に落ちる。
静かな決着。震えているコダマ。
畳の上で胡坐をかきながら――
「ふん。無礼者一人の命で勘弁してやるとは、ワシも優しくなったものじゃ」
メガロノヅチが、ぽつりとそうこぼした。
不愉快そうに眉をひそめているメガロノヅチ。
その梔子色の瞳が、妖しい光を帯びて輝いた。
陽が落ちて、闇が空を覆い隠した。
漆黒の海に広がる、星々の輝き。
都会の街並み。表通りを様々な人々が行き交っていく。
路地裏の暗い通路の中に――
「……ウフフ」
一人の女性の笑い声が、不気味に響いた。
黒を基調とする、ふりふりした衣装。白いリボン。
ゴシックロリータファッションの女性が、天を仰ぐ。
「今宵もまた、月が啼いている……」
ゆっくりとした口調。
薄い金色の長い髪に、透き通るような白い肌。
天に向かって手を伸ばして――
「えぇ、えぇ。もちろん、分かっていますよ……」
一人、女性がその場で頷いた。
誰もいない空間。楽しそうな声を出す女性。
真っ赤なルージュの唇が、艶やかに動く。
「因果に定められた生贄。運命はすでに定まっております。あとはただ、かの御方からの天命を待つだけ……」
くすくすとした笑い声。
暗闇の中、女性が1枚のカードを取り出した。
描かれているのは、鮮やかな緑と赤の鱗を持つ大蛇の姿。
「フフ、そう慌てないで。南瓜の馬車はまだ迎えに来ていないのだから。舞踏会の時間はこれからですよ……」
カードに向かって語り掛けるように話す女性。
薄暗い闇の中、詩的な言葉が宙に綴られていく。
梔子色の瞳が妖しい輝きを見せて――
「一緒に踊りましょうね? メガロノヅチ」
月明かりが、その手に持っていたカードを照らした。
幻魔忍妖 メガロノヅチ
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ドラゴンエンパイア - ゴースト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[ソウルを1枚以上、望む枚数バインドする]ことで、『【永】【(V)】:このユニットは「忍」を含むグレード1以上のあなたの表のバインドゾーンすべてのカード名を得る。』
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1), リアガードを2枚ソウルに置く]ことで、あなたの山札から、このユニットと同名のカードを2枚まで探し、(R)にコールし、そのターン中、それらのパワー+5000。山札をシャッフルする。
【永】【(V)】:相手のヴァンガードがグレード3以上なら、このユニットと同名の「忍」を持つあなたのリアガードすべては後列からでもアタックできる。
― 此れなるは衆生と夢想を餌と食み、現騒がす大怪蛇。