カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
光が瞬いて、僅かな影をその場に落とした。
広く開けた空間。白い壁。
厳かな雰囲気が漂う、教会のような場所。
祈りを捧げる乙女の石像を背に――
「――ゆえに、この世界は滅びなければならないのです」
青年の言葉が、その場に静かに響き渡った。
黒いフードを深くかぶった、背の高い青年。
紅蓮色の瞳が、信者達の方に向けられる。
「この世界は不完全に満ちている」
静かに、青年が語り掛ける。
「誰もが己の欲望に支配され、醜く争い、互いを傷つけながら命を落としていく。欺瞞と傲慢。悲愴と憤怒。そして何よりも根深い、終わりなき絶望……」
両手を広げ、天を仰ぐ青年。
人々はその場で跪き、祈りの言葉を捧げている。
すっと、青年が腕を前へと出した。
「全ては人の業が生み出した災い。私達は救いようのない所まで来てしまった。ゆえに、その代償は支払わなければならない」
口元に浮かぶ微かな笑み。
紅蓮色の瞳に光が宿って――
「そう。この世界を滅ぼし、沈黙をもたらすのです」
青年の言葉が、聖堂内の空気を震わせた。
ざわめく信者達。ひそひそとした声が渦巻く。
青年が一歩、前へと出る。
「今あるこの不完全な世界の全てを消し去り、新たなる世界を創世する! それこそが我らが悲願、大いなる天命!」
虚空の中、力強い声が反響する。
「全ての絆を断ち切り、万物を忘却する! 自らを捧げ、古き衣を脱ぎ捨てる! その果てにあるのが光の世界、完全なる星!」
仰々しい口調。信者達の顔に怯えた表情が浮かぶ。
黒いフードを後ろに下ろして――
「――全ては自明なこと」
言葉を切る青年。
フードの下の顔が露わとなった。
白い肌に浮かぶ、紅蓮色の瞳を向けながら――
「滅びこそが、我らに残された唯一の救いなのです」
自信に満ちた声で、黒髪の青年が信者達に呼びかけた。
端正な顔立ちに、どこか超然とした神秘的な雰囲気。
穏やかな微笑みが、その口元には浮かんでいる。
「さぁ、祈りを捧げましょう。沈黙を司る神に」
透き通るような声色。優しく導くような言葉。
跪く信者達が、両手を力の限り握りしめる。
異様な雰囲気に包まれながら――
「この世界に、滅びと沈黙を」
聖堂の中、人々の言葉が一斉に響き渡った。
頭を垂れている信者達。虚ろで希薄な姿。
青年が、深く息を吐く。
「今日の説法はここまでです。ご清聴、感謝します」
柔らかな笑み。青年が軽く会釈する。
その紅蓮色の瞳から、光が消えていった。
信者達がおずおずと立ち上がる。
「教祖様……!」
「九頭龍(くずりゅう)様……!」
ささやくような声が、聖堂の中に満ちた。
青年を讃えている信者達。すがるような声。
懇願するような目が、青年へと向けられている。
「恐れることはありません。私の言葉に従えば、必ずや救いが訪れます」
柔和な笑顔のまま、青年が穏やかに言葉を紡ぐ。
「我らの理想に全てを捧げるのです。そうすれば必ず、この世界は滅びるのですから」
優しい声を出し、手を差し伸べる青年。
聖堂のあちこちから、すすり泣く声が聞こえ始める。
「さぁ、世界に美しき終焉をもたらしましょう」
青年の呼びかけに、信者達が何度も頷いた。
神々しくも歪んだ一体感が、聖堂の中を支配する。
青年が優しく微笑んで――
「愚かな人間共が」
漆黒の闇の中に、冷たい言葉が響いた。
邪悪な雰囲気を醸し出す祭壇。蝋燭の炎。
侮蔑したように、青年がその目を細める。
「あんな下等な連中が我らの命運を握っているとは。まったく、不愉快だ。下賤な種族共が……」
ぶつぶつと、吐き捨てるように話す青年。
禍々しい気配が、部屋の中を渦巻いていく。
暗闇の中、青年が振り返った。
「タイムスタンピング」
部屋の隅に向かって呼びかける青年。
青白いスマホの光が、ぼんやりと浮かんでいる。
水色の髪を揺らして――
「なんですかー、救世主様ー?」
可愛らしい声がその場に響いた。
ダボついたパーカーのような服に、蛍光色のピアス。
ストリート風の格好をした小柄な少女が、顔をあげる。
「…………」
一瞬、青年が不快そうに眉をひそめた。
ソファーに座り、スマホをいじっている少女。
僅かな沈黙の後、青年が口を開く。
「また一つ、力が欠けた」
不愉快そうな声が、闇の中に響く。
「これで欠けたのは3つ。エレドグレーマ、ペトラルカ、メガロノヅチ……」
淡々とした口調。
青年の瞳が、妖しい光を帯びた。
「もっとも、所詮奴らは捨て駒だ。欠けた所で大勢に変わりはないがな」
冷たく付け加えられた言葉。
小柄な少女が、驚いたように目を丸くする。
「えー! 救世主様ったら、冷酷じゃないですかー?」
たしなめるような口調の少女。
ぎろりと、青年が睨むように目を細める。
「どう捉えるかは勝手だ。いずれにせよ、これ以上邪魔されるのも目障りだ。不穏分子は排除しなくてはならない」
「それって、例の野良猫さんのことですか? ってことは、ヒナコパイセンも負けちゃったんです?」
頬に指をあて、首をかしげる少女。
青年が頷いた。
「そうだ。メガロノヅチは既に繋がりを絶って逃亡した。もっとも、奴の場合はやる気もなかったようだがな」
不快そうに視線をそらす青年。
小柄な少女が、残念そうに息を吐く。
「そうなんですかぁ……。ヒナコパイセン、ちょっと変わってるけど強くて面白いから好きだったのになぁ」
しょんぼりとした表情の少女。
ひらりと、ソファーから立ち上がる。
赤銅色の瞳を向けて――
「それで、次はボクの出番なんです?」
確認するかのように、少女が訊ねた。
青年が腕を組み、頷く。
「その通りだ、タイムスタンピング」
厳かな声が暗闇の中に溶ける。
いかにもわざとらしく、少女が肩をすくめた。
「救世主様! ボクの名前は磐井(いわい)シアンです。そっちの名前で呼んで欲しいんですけどー」
不満そうに訴える小柄な少女――シアン。
青年の表情が険しくなる。
「私からすれば、お前はタイムスタンピングだ。だが、例の異端者を倒した暁には考えてやらないでもない」
「本当ですかー? 約束ですからね、救世主様」
馴れ馴れしく話すシアン。
鋭い殺気を立ち込めながら――
「その"救世主様"というのは何だ?」
威圧的な口調で、青年が訊ねた。
光の宿った紅蓮色の瞳が、鈍く輝く。
シアンが平然と口を開いた。
「えーだって、皆からそう思われてるじゃないですかぁ。この世界を救う、天からの御使い的な何かだって」
どこまでも軽々しい声。
ひらひらと、楽しそうに手を振る。
「ボク的にぴったりだと思うんですよ、"救世主様"って。あっ、それとも、救世主様ってユニットの名前で呼ばれたい系ですか? そうなると、バフォルメデス様?」
「…………」
沈黙している青年。
シアンの言葉が悪ふざけか本気か、計りかねている表情。
やがて、諦めたように目を伏せて――
「……いや、もういい」
青年が、静かに首を振った。
冷たい表情。思案するように沈黙する青年。
漆黒の闇が、静かに蠢いていく。
「タイムスタンピング。お前に天命を下す」
厳かな声が、部屋の中に響いた。
禍々しい雰囲気。青年が1枚の写真を取り出す。
写っているのは、先日のサイン会の光景。
「へぇ、実物はこんななんですねー」
写真を受け取り、シアンがまじまじと見つめる。
赤銅色の瞳が綺羅星ミアへと向けられた。
闇の中、青年の目が妖しい光を帯びる。
「お前の役割はそいつを倒すことだ。だが、その前にやってもらうことがある」
「やってもらうこと?」
訊ね返すシアン。
漆黒の闇の中、青年が腕をあげて――
その口元に、不気味な笑みが浮かんだ。
「そうだ。これは非常に重要な任務になる。ゆえに、残った使徒の中で最も強力な力を持つお前に任せたい」
語り掛けるような優しい声。柔らかな雰囲気。
シアンが顔をほころばせた。
「えー? そんな急に褒めないで下さいよー。照れちゃうじゃないですかぁ」
デレデレと嬉しそうにしているシアン。
青年が微笑んだまま、目を細めた。
闇が深まり、漆黒が部屋の空気を侵食していく。
「それで、ボクは何をすればいいんですか?」
「なに、特別な事をする必要はない。お前はただ、いつものようにファイトすればいい」
おもむろに口を開く青年。
すっと、その手をシアンの前にかざす。
紅蓮色の瞳が輝いた。
「私の力を分け与えてやる。そうすれば、お前も向こうとの繋がりを開けるはずだ。そして――」
言葉を続ける青年。
シアンが、一瞬驚いたように目を見開いた。
「えっ、そんなことできるんですか?」
「そうだ。その後は、協力して事に当たればいい」
冷静に答える青年。
その瞳がさらに強く輝き、赤い光が部屋の中を満たす。
光が弾けて、シアンの身体が一瞬輝いた。
「……これで終わりですか?」
手をグーパーと動かしながら訊ねるシアン。
青年が腕を下げる。
「あぁ。後は指示の通りにやれ」
突き放すように言う青年。
興味を失ったかのように、シアンに背を向ける。
「任せたぞ、タイムスタンピング」
「はいはーい。とりあえずやってみまーす!」
軽い口調。びしっと敬礼するシアン。
青年の顔に、不愉快そうな表情が浮かぶ。
1枚のカードを取り出して――
「さーて、そんじゃ任務だよ、バディ!」
シアンが、楽しそうに微笑んだ。
闇の中、カードをかざしているシアン。
描かれているのは、巨大な槌を持つ歯車の竜。
タイムスタンピング・ドラゴン
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ダークステイツ - ギアドラゴン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたのバインドゾーンに同名がないあなたのリアガードを1枚選び、バインドする。相手のヴァンガードがグレード3以上なら、1枚ではなく、それぞれ別名を2枚選んでよい。
【自】【(R)】:あなたのリアガードがこのユニットの効果でバインドされた時、そのカードは元々のグレードが3以上なら、そのターン中、このユニットは『トリプルドライブ』を得て、パワー+10000し、違うなら、あなたの山札からそのカードのグレード+1を1枚まで探し、(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000し、山札をシャッフルする。
― 時空間を侵し、存在証明を脅かす者に鉄槌を!
シアンの赤銅色の瞳が、一瞬だけ輝いた。
共鳴する光。にっこりと微笑むシアン。
カードをしまって――
「じゃ、行ってきますねー。救世主様ー!」
シアンが、親しげにその手を振った。
青年が一瞬逡巡した後、やる気なく手をあげる。
「期待している」
「任せといて下さーい!」
自信満々のシアン。
そのまま鼻歌混じりに、部屋から出て行く。
祭壇の前、漆黒の闇が深まって――
「……人間如きが」
一人残された青年が、そう吐き捨てた。
祭壇を見つめる青年。禍々しい殺気が溢れていく。
「あんな奴に頼るのは不愉快だが……奴は今回の計画に必要だ。計画の終わりまでは利用させてもらう」
息を吐く青年。
闇の中へと視線を向ける。
「あいつの力は制御不能だが、壮絶だ。あいつなら、あの忌々しい異端者を葬り去ることもできるだろう」
冷たい貌をしている青年。
その背後より、邪悪な気配が立ち昇っていく。
蝋燭の炎が揺れて――
「せいぜい抗うんだな、祈り聞く者」
紅蓮色の瞳が輝き、暗闇の中に浮かび上がった。