カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第四楽章 飛翔する時空の鉄槌①

 

光が瞬いて、僅かな影をその場に落とした。

 

広く開けた空間。白い壁。

厳かな雰囲気が漂う、教会のような場所。

 

祈りを捧げる乙女の石像を背に――

 

「――ゆえに、この世界は滅びなければならないのです」

 

青年の言葉が、その場に静かに響き渡った。

黒いフードを深くかぶった、背の高い青年。

 

紅蓮色の瞳が、信者達の方に向けられる。

 

「この世界は不完全に満ちている」

 

静かに、青年が語り掛ける。

 

「誰もが己の欲望に支配され、醜く争い、互いを傷つけながら命を落としていく。欺瞞と傲慢。悲愴と憤怒。そして何よりも根深い、終わりなき絶望……」

 

両手を広げ、天を仰ぐ青年。

人々はその場で跪き、祈りの言葉を捧げている。

 

すっと、青年が腕を前へと出した。

 

「全ては人の業が生み出した災い。私達は救いようのない所まで来てしまった。ゆえに、その代償は支払わなければならない」

 

口元に浮かぶ微かな笑み。

紅蓮色の瞳に光が宿って――

 

「そう。この世界を滅ぼし、沈黙をもたらすのです」

 

青年の言葉が、聖堂内の空気を震わせた。

ざわめく信者達。ひそひそとした声が渦巻く。

 

青年が一歩、前へと出る。

 

「今あるこの不完全な世界の全てを消し去り、新たなる世界を創世する! それこそが我らが悲願、大いなる天命!」

 

虚空の中、力強い声が反響する。

 

「全ての絆を断ち切り、万物を忘却する! 自らを捧げ、古き衣を脱ぎ捨てる! その果てにあるのが光の世界、完全なる星!」

 

仰々しい口調。信者達の顔に怯えた表情が浮かぶ。

黒いフードを後ろに下ろして――

 

「――全ては自明なこと」

 

言葉を切る青年。

フードの下の顔が露わとなった。

 

白い肌に浮かぶ、紅蓮色の瞳を向けながら――

 

「滅びこそが、我らに残された唯一の救いなのです」

 

自信に満ちた声で、黒髪の青年が信者達に呼びかけた。

端正な顔立ちに、どこか超然とした神秘的な雰囲気。

 

穏やかな微笑みが、その口元には浮かんでいる。

 

「さぁ、祈りを捧げましょう。沈黙を司る神に」

 

透き通るような声色。優しく導くような言葉。

跪く信者達が、両手を力の限り握りしめる。

 

異様な雰囲気に包まれながら――

 

「この世界に、滅びと沈黙を」

 

聖堂の中、人々の言葉が一斉に響き渡った。

頭を垂れている信者達。虚ろで希薄な姿。

 

青年が、深く息を吐く。

 

「今日の説法はここまでです。ご清聴、感謝します」

 

柔らかな笑み。青年が軽く会釈する。

その紅蓮色の瞳から、光が消えていった。

 

信者達がおずおずと立ち上がる。

 

「教祖様……!」

 

「九頭龍(くずりゅう)様……!」

 

ささやくような声が、聖堂の中に満ちた。

青年を讃えている信者達。すがるような声。

 

懇願するような目が、青年へと向けられている。

 

「恐れることはありません。私の言葉に従えば、必ずや救いが訪れます」

 

柔和な笑顔のまま、青年が穏やかに言葉を紡ぐ。

 

「我らの理想に全てを捧げるのです。そうすれば必ず、この世界は滅びるのですから」

 

優しい声を出し、手を差し伸べる青年。

聖堂のあちこちから、すすり泣く声が聞こえ始める。

 

「さぁ、世界に美しき終焉をもたらしましょう」

 

青年の呼びかけに、信者達が何度も頷いた。

神々しくも歪んだ一体感が、聖堂の中を支配する。

 

青年が優しく微笑んで――

 

「愚かな人間共が」

 

漆黒の闇の中に、冷たい言葉が響いた。

邪悪な雰囲気を醸し出す祭壇。蝋燭の炎。

 

侮蔑したように、青年がその目を細める。

 

「あんな下等な連中が我らの命運を握っているとは。まったく、不愉快だ。下賤な種族共が……」

 

ぶつぶつと、吐き捨てるように話す青年。

禍々しい気配が、部屋の中を渦巻いていく。

 

暗闇の中、青年が振り返った。

 

「タイムスタンピング」

 

部屋の隅に向かって呼びかける青年。

青白いスマホの光が、ぼんやりと浮かんでいる。

 

水色の髪を揺らして――

 

「なんですかー、救世主様ー?」

 

可愛らしい声がその場に響いた。

ダボついたパーカーのような服に、蛍光色のピアス。

 

ストリート風の格好をした小柄な少女が、顔をあげる。

 

「…………」

 

一瞬、青年が不快そうに眉をひそめた。

ソファーに座り、スマホをいじっている少女。

 

僅かな沈黙の後、青年が口を開く。

 

「また一つ、力が欠けた」

 

不愉快そうな声が、闇の中に響く。

 

「これで欠けたのは3つ。エレドグレーマ、ペトラルカ、メガロノヅチ……」

 

淡々とした口調。

青年の瞳が、妖しい光を帯びた。

 

「もっとも、所詮奴らは捨て駒だ。欠けた所で大勢に変わりはないがな」

 

冷たく付け加えられた言葉。

小柄な少女が、驚いたように目を丸くする。

 

「えー! 救世主様ったら、冷酷じゃないですかー?」

 

たしなめるような口調の少女。

ぎろりと、青年が睨むように目を細める。

 

「どう捉えるかは勝手だ。いずれにせよ、これ以上邪魔されるのも目障りだ。不穏分子は排除しなくてはならない」

 

「それって、例の野良猫さんのことですか? ってことは、ヒナコパイセンも負けちゃったんです?」

 

頬に指をあて、首をかしげる少女。

青年が頷いた。

 

「そうだ。メガロノヅチは既に繋がりを絶って逃亡した。もっとも、奴の場合はやる気もなかったようだがな」

 

不快そうに視線をそらす青年。

小柄な少女が、残念そうに息を吐く。

 

「そうなんですかぁ……。ヒナコパイセン、ちょっと変わってるけど強くて面白いから好きだったのになぁ」

 

しょんぼりとした表情の少女。

ひらりと、ソファーから立ち上がる。

 

赤銅色の瞳を向けて――

 

「それで、次はボクの出番なんです?」

 

確認するかのように、少女が訊ねた。

青年が腕を組み、頷く。

 

「その通りだ、タイムスタンピング」

 

厳かな声が暗闇の中に溶ける。

いかにもわざとらしく、少女が肩をすくめた。

 

「救世主様! ボクの名前は磐井(いわい)シアンです。そっちの名前で呼んで欲しいんですけどー」

 

不満そうに訴える小柄な少女――シアン。

青年の表情が険しくなる。

 

「私からすれば、お前はタイムスタンピングだ。だが、例の異端者を倒した暁には考えてやらないでもない」

 

「本当ですかー? 約束ですからね、救世主様」

 

馴れ馴れしく話すシアン。

鋭い殺気を立ち込めながら――

 

「その"救世主様"というのは何だ?」

 

威圧的な口調で、青年が訊ねた。

光の宿った紅蓮色の瞳が、鈍く輝く。

 

シアンが平然と口を開いた。

 

「えーだって、皆からそう思われてるじゃないですかぁ。この世界を救う、天からの御使い的な何かだって」

 

どこまでも軽々しい声。

ひらひらと、楽しそうに手を振る。

 

「ボク的にぴったりだと思うんですよ、"救世主様"って。あっ、それとも、救世主様ってユニットの名前で呼ばれたい系ですか? そうなると、バフォルメデス様?」

 

「…………」

 

沈黙している青年。

シアンの言葉が悪ふざけか本気か、計りかねている表情。

 

やがて、諦めたように目を伏せて――

 

「……いや、もういい」

 

青年が、静かに首を振った。

冷たい表情。思案するように沈黙する青年。

 

漆黒の闇が、静かに蠢いていく。

 

「タイムスタンピング。お前に天命を下す」

 

厳かな声が、部屋の中に響いた。

禍々しい雰囲気。青年が1枚の写真を取り出す。

 

写っているのは、先日のサイン会の光景。

 

「へぇ、実物はこんななんですねー」

 

写真を受け取り、シアンがまじまじと見つめる。

赤銅色の瞳が綺羅星ミアへと向けられた。

 

闇の中、青年の目が妖しい光を帯びる。

 

「お前の役割はそいつを倒すことだ。だが、その前にやってもらうことがある」

 

「やってもらうこと?」

 

訊ね返すシアン。

漆黒の闇の中、青年が腕をあげて――

 

その口元に、不気味な笑みが浮かんだ。

 

「そうだ。これは非常に重要な任務になる。ゆえに、残った使徒の中で最も強力な力を持つお前に任せたい」

 

語り掛けるような優しい声。柔らかな雰囲気。

シアンが顔をほころばせた。

 

「えー? そんな急に褒めないで下さいよー。照れちゃうじゃないですかぁ」

 

デレデレと嬉しそうにしているシアン。

青年が微笑んだまま、目を細めた。

 

闇が深まり、漆黒が部屋の空気を侵食していく。

 

「それで、ボクは何をすればいいんですか?」

 

「なに、特別な事をする必要はない。お前はただ、いつものようにファイトすればいい」

 

おもむろに口を開く青年。

すっと、その手をシアンの前にかざす。

 

紅蓮色の瞳が輝いた。

 

「私の力を分け与えてやる。そうすれば、お前も向こうとの繋がりを開けるはずだ。そして――」

 

言葉を続ける青年。

シアンが、一瞬驚いたように目を見開いた。

 

「えっ、そんなことできるんですか?」

 

「そうだ。その後は、協力して事に当たればいい」

 

冷静に答える青年。

その瞳がさらに強く輝き、赤い光が部屋の中を満たす。

 

光が弾けて、シアンの身体が一瞬輝いた。

 

「……これで終わりですか?」

 

手をグーパーと動かしながら訊ねるシアン。

青年が腕を下げる。

 

「あぁ。後は指示の通りにやれ」

 

突き放すように言う青年。

興味を失ったかのように、シアンに背を向ける。

 

「任せたぞ、タイムスタンピング」

 

「はいはーい。とりあえずやってみまーす!」

 

軽い口調。びしっと敬礼するシアン。

青年の顔に、不愉快そうな表情が浮かぶ。

 

1枚のカードを取り出して――

 

「さーて、そんじゃ任務だよ、バディ!」

 

シアンが、楽しそうに微笑んだ。

闇の中、カードをかざしているシアン。

 

描かれているのは、巨大な槌を持つ歯車の竜。

 

 

タイムスタンピング・ドラゴン

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ダークステイツ - ギアドラゴン 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたのバインドゾーンに同名がないあなたのリアガードを1枚選び、バインドする。相手のヴァンガードがグレード3以上なら、1枚ではなく、それぞれ別名を2枚選んでよい。

【自】【(R)】:あなたのリアガードがこのユニットの効果でバインドされた時、そのカードは元々のグレードが3以上なら、そのターン中、このユニットは『トリプルドライブ』を得て、パワー+10000し、違うなら、あなたの山札からそのカードのグレード+1を1枚まで探し、(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000し、山札をシャッフルする。

― 時空間を侵し、存在証明を脅かす者に鉄槌を!

 

 

シアンの赤銅色の瞳が、一瞬だけ輝いた。

共鳴する光。にっこりと微笑むシアン。

 

カードをしまって――

 

「じゃ、行ってきますねー。救世主様ー!」

 

シアンが、親しげにその手を振った。

青年が一瞬逡巡した後、やる気なく手をあげる。

 

「期待している」

 

「任せといて下さーい!」

 

自信満々のシアン。

そのまま鼻歌混じりに、部屋から出て行く。

 

祭壇の前、漆黒の闇が深まって――

 

「……人間如きが」

 

一人残された青年が、そう吐き捨てた。

祭壇を見つめる青年。禍々しい殺気が溢れていく。

 

「あんな奴に頼るのは不愉快だが……奴は今回の計画に必要だ。計画の終わりまでは利用させてもらう」

 

息を吐く青年。

闇の中へと視線を向ける。

 

「あいつの力は制御不能だが、壮絶だ。あいつなら、あの忌々しい異端者を葬り去ることもできるだろう」

 

冷たい貌をしている青年。

その背後より、邪悪な気配が立ち昇っていく。

 

蝋燭の炎が揺れて――

 

「せいぜい抗うんだな、祈り聞く者」

 

紅蓮色の瞳が輝き、暗闇の中に浮かび上がった。

 

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