カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第四楽章 飛翔する時空の鉄槌②

 

爽やかな青い空が広がっていた。

 

晴れ晴れとした天気。穏やかな気候。

一日の始まりを告げる、朝の光景が流れていく。

 

コツコツという靴音を響かせて――

 

「おはようございまーす!!」

 

事務所の扉が開き、明るい声が響いた。

スーツ姿の女性――ミアのマネージャーが現れる。

 

笑顔のまま、事務所の中を見渡して――

 

「……あれ?」

 

不思議そうに、マネージャーが首をかしげた。

しんと静まり返っている事務所内。無言の空間。

 

朝の日差しだけが、窓から降り注いでいる。

 

「……社長もミアさんも、まだ来てない?」

 

口元に指を当てるマネージャー。

時計を確かめると、短く息を吐いた。

 

「私が一番乗りかぁ。ミアさんはともかく、社長が遅いのは珍しいですねー」

 

軽い口調で、一人話しているマネージャー。

自分の机まで進み、持っていた鞄を置く。

 

両腕を回しながら――

 

「まぁ、いいです! 今日も張り切って仕事していきましょー!」

 

マネージャーが、テンション高く声を張り上げた。

やる気に燃えた表情。明るい雰囲気。

 

窓の外で、鳥が飛び立つ音が響いていった。

 

「それじゃあ、まずは事務所の掃除からですねー!」

 

踊るような足取り。

歌を口ずさみながら、マネージャーが歩いていく。

 

応接用のソファーの前に近づいた瞬間――

 

「……おはよ、マユっち」

 

唐突に、マネージャーの横から声が上がった。

「ひゃ!?」と悲鳴があがる。驚きの表情。

 

白い腕を上げて――

 

「……驚きすぎだよ、マユっち」

 

ソファーに横たわったまま、綺羅星ミアがそう言った。

どこか疲れたような表情。力ない笑み。

 

マネージャーが目を見開く。

 

「み、ミアさん!? いたんですか!?」

 

心の底から驚いた様子のマネージャー。

すぐに、ミアの異変に気が付く。

 

「と、いいますか、どうしたんですか!? な、なにか病気とかですか!?」

 

心配そうに訊ねるマネージャー。

明らかに、ミアは不調そうな雰囲気を醸し出している。

 

ミアが肩をすくめた。

 

「別に……ちょっと寝違えただけよ」

 

「寝違えた!? そんな風には見えませんけど!?」

 

疑うような視線。

再び、ミアが力なく微笑んだ。

 

「大丈夫だって。ちょっと休んでれば、すぐに良くなるからさ……」

 

手をひらひらとさせるミア。

いつになく弱々しい雰囲気。疲れきった表情。

 

一瞬、マネージャーの目が鋭くなって――

 

「ダメです。ちょっと待ってて下さい!」

 

きっぱりと、そう言い切った。

自分の机へと戻るマネージャー。不思議そうなミア。

 

すぐに、マネージャーが戻ってきて――

 

「ミアさん、とりあえずこれを飲んでください!」

 

手に持った物を、ミアへと差し出した。

小さめの銀色の小袋が、ミアの目に映る。

 

「……なにこれ?」

 

「漢方薬です! 私、胃薬とか漢方とか、鞄の中に色々と常備してるんです!」

 

真剣な表情で答えるマネージャー。

ミアが渋い表情を浮かべる。

 

「……別に、そんなのいいよ」

 

テンションの低い声。断るようなジェスチャー。

マネージャーが、ずいと顔を近づける。

 

「ダメです。ミアさん、飲んでください!」

 

「粉薬嫌いなの」

 

「そんな子供みたいな事言って! 健康管理だって立派な仕事ですよ!」

 

ぴしゃりと指摘するマネージャー。

ミアが「うー……」と不満そうに唸る。

 

渋々、ミアが漢方薬を受け取った。

 

「……ありがと」

 

一応、お礼を口にするミア。

マネージャーが満足そうに頷く。

 

「はい。すぐにお茶持ってきますから、待ってて下さいね!」

 

ばたばたと給湯室の方へと向かうマネージャー。

ミアがため息をついた。

 

「ちょっとマユっち、慌てて転ばないでよ……」

 

危なっかしい姿を見て、呟くミア。

その手の中の漢方薬をぼんやりと眺めた。

 

水の流れる音が響く。

 

「どうぞ、ミアさん!」

 

マネージャーが、お茶の入ったカップを差し出した。

ミアがのそのそと、身体を起こす。

 

カップを受け取りながら――

 

「……そんなに見つめないでよ」

 

じっと自分を見つめているマネージャーに対し、

ミアが呆れたようにそう言った。

 

マネージャーが首を振る。

 

「嫌です。飲む所までしっかり見てますから」

 

「……まったく、もう」

 

ぼやくように言うミア。

袋を開けると、さらさらと漢方薬を口に含む。

 

お茶の入ったカップを、ミアが傾けた。

 

「……んぐ」

 

うめくような声。

一息にお茶を飲み続けるミア。喉が鳴る。

 

唇からカップが離れて――

 

「……やっぱり、美味しくない」

 

口元をぬぐいながら、ミアが感想を漏らした。

カップをマネージャーへと返すミア。苦い表情。

 

ぱっと、マネージャーの表情が明るくなる。

 

「大丈夫です。すぐに良くなりますよ!」

 

励ますように話すマネージャー。

ミアの方を向きながら、指を振る。

 

「健康管理は何より大事なんです。特に、調子が良くない時は早めの対応が一番! 後回しにしてると、いつか大変な目に遭いますよ!」

 

「……マユっちって、真面目な事も言えるんだね」

 

苦い表情のまま言うミア。

マネージャーが「えっ」と目を見開いた。

 

柔らかな笑みを浮かべて――

 

「当然です。これでも、ミアさんのマネージャーですから!」

 

得意そうに、マネージャーがそう言った。

自信満々な顔。力強い眼差し。

 

ほんの少し、ミアの顔に生気が戻る。

 

「……そうだね。頼りにしてるよ、マユっち」

 

「はい! もちろんです!」

 

大きく答えるマネージャー。

気が抜けように、ミアが息を吐いた。

 

爽やかな朝の時間が流れていく。

 

「……さて。ミアさんの体調が悪いなら、今日の仕事は全部キャンセルにしましょうか。私から連絡しておきますね」

 

「えっ、仕事休んでいいの!?」

 

ぱっと、ミアが目を輝かせる。

マネージャーが頷いた。

 

「はい。幸い、今日入ってた仕事はレッスンや挨拶回りくらいでしたから。日程を再調整するだけで済みますし、休みましょう」

 

「やったー! あ、でも、社長に言わなくて平気?」

 

思いついたように訊ねるミア。

マネージャーが微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ、何の問題もありません!」

 

いつになくあっさりと言い切るマネージャー。

そのあまりの自信に、ミアが一瞬疑問を覚える。

 

ガチャリと、事務所の扉が開いた。

 

「おはようございます」

 

凛とした鋭い声。

事務所の社長である諏訪レイカが、姿を現した。

 

「あっ、おはようございます、社長!」

 

直立不動、深々とお辞儀をするマネージャー。

レイカが視線を向ける。

 

「おはよう、マユ」

 

「あー、社長ー。どうもー」

 

ソファーに座ったまま手をあげるミア。

一瞬、レイカが驚いたように目を見張った。

 

鋭い表情を浮かべて――

 

「綺羅星さん? 体調不良ですか?」

 

ほんの少し目を細めながら、レイカがそう訊ねた。

ミアが「あはは」と笑い声をあげる。

 

「あー、いえ。別に、大したことないんで~」

 

「いつからですか? なにか持病が?」

 

ミアの言葉を無視するレイカ。

ツカツカと、靴音を響かせてミアに近づく。

 

マネージャーが横から割り込んだ。

 

「社長! ミアさん、体調不良みたいなんです! だから、今日は仕事を全部キャンセルしたいんですが!」

 

はきはきと報告するマネージャー。

ぴくりと、レイカがその言葉に反応した。

 

「……そうですか」

 

ぼそりと呟くレイカ。

その表情が目に見えて沈んでいく。

 

「……?」

 

訝しむような表情になるミア。

レイカが長く、息を吐いた。

 

「わかりました。綺羅星さん、今日は仕事を休んでください。後の事はマユに任せますので、マユに従うように」

 

「えっ。あっ、はい。どうも……」

 

困惑気味に頷くミア。

マネージャーが深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます! 早速、探しますね!」

 

「えぇ、お願いね、マユ」

 

信頼したように頷いて見せるレイカ。

ほんの一瞬、その目がどこか遠くを見つめた。

 

靴音を響かせ、レイカが社長室の中へと消えていく。

 

「……本当に、あっさり認めてくれたね」

 

驚いたように社長室の扉を見つめているミア。

マネージャーが頷いた。

 

「そうなんです! 社長はクールに見えて、とっても優しい方なんですよ!」

 

どこか自慢げに話しているマネージャー。

ミアが、大きくその場で伸びをした。

 

「まぁ、なんでもいいや。確かに最近、色々と忙しくて疲れ気味だったからちょうどいいかもね~」

 

ぷるぷると身体を震わせているミア。

口元に手を当てると、大きくあくびをする。

 

ゆるゆると微笑みながら――

 

「よーし、仕事もなくなったし、私はぼちぼち帰るとしようかな。お疲れ~、マユっち~」

 

ミアが、呑気な様子で手を振った。

すっかり元気を取り戻したミア。和やかな声。

 

マネージャーがきょとんとする。

 

「え? 何言ってるんですか、ミアさん?」

 

「へ?」

 

気の抜けた表情。

呆れたような目を向けて――

 

「仕事は休みになりましたが、今日はこれから病院に行くんですよ! 当たり前じゃないですか!」

 

マネージャーが、大きく断言した。

ミアの動きがぴたりと固まる。

 

一瞬の間を置いて、ミアが大きく衝撃を受けた。

 

「えぇっ!? やだやだ、病院なんて行きたくないよ!!」

 

悲鳴のような声が上がる。

今までにない程に追い詰められた表情のミア。

 

マネージャーが鋭い目を向けた。

 

「ダメです! 言ったでしょう、体調管理も仕事の内です! すぐに探しますから、逃げないで下さいね!」

 

「そ、そんな……!!」

 

絶句するミア。

さーっと、その顔から血の気が引いていく。

 

ソファーの上でよろめきながら――

 

「……サミー!」

 

思いついたように、ミアが声をあげた。

素早く、ポケットからスマホを取り出すミア。

 

祈るように、それを握りしめる。

 

「お願いサミー、今こそ出番よ! すぐに電話を頂戴……!!」

 

懇願するような目を向けるミア。

神にすがるように、スマホを掲げる。

 

スマホは静かに、その場に佇んでいた。

 

「こんな時に限って、あの無能上司……!!」

 

怒りに燃えているミア。無言のスマホ。

マネージャーは粛々と、どこかへ電話をかけている。

 

お礼の言葉を口にして――

 

「予約がとれましたよ! さぁ、行きましょう、ミアさん!」

 

輝くような笑顔を、マネージャーが浮かべた。

絶望の表情を浮かべるミア。この世の終わりのような顔。

 

「うぅぅぅ……!!」

 

子供のような唸り声が響く。

がしっと、マネージャーがミアの肩を掴んだ。

 

にっこりと、微笑みを浮かべて――

 

「絶対に逃がしませんから」

 

マネージャーが、冷たくそう言い切った。

決意に満ちた目。鋼のような心。

 

ミアの目に涙が浮かんで――

 

「ぜーったい、嫌ー!!」

 

情けない声が、事務所内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――リリカルモナステリオ、学園の中庭。

 

辺りは賑やかな喧騒に包まれていた。

お昼休みの時間。食事と会話を楽しむ生徒たち。

 

優雅な青春の時間が、和やかに流れていく。

 

そんな平和な光景が広がる場所。

中庭の一角、とあるテーブル席にて――

 

「ううぅぅ……!!」

 

ロロネロルが、苦しそうに唸り声を漏らした。

真剣な表情。手に持った教科書を睨んでいるロロネロル。

 

その視線が左右あちこち、せわしなく動く。

 

「ま、まずいのです……!」

 

冷や汗を流しながら、ロロネロルが呟いた。

その尻尾がそわそわと、緊張したように揺れている。

 

足音が近づいて――

 

「あら、試験勉強してるの? ロロネロル」

 

ロロネロルの横から、軽快な声が発せられた。

教科書から顔をあげるロロネロル。

 

緋と蒼、二色が混ざった不思議な色の瞳を向けて――

 

「珍しいじゃない。あなた、そんなに勉強熱心だった?」

 

宝石魔法使いのウィリスタが、にっこりと微笑んだ。

ランチバッグを置き、向かいに座るウィリスタ。

 

ロロネロルがぐでんと、テーブルに突っ伏す。

 

「ウィリスタ……ろろ、もうダメかもしれないのです」

 

いつになく暗い声を出すロロネロル。

ウィリスタがお昼を取り出しながら、眉をひそめる。

 

「なによ、藪から棒に。どうしちゃったの?」

 

「試験ですよ! 試験!」

 

がばっと、ロロネロルが顔をあげた。

 

「ろろ、最近ずっと変な事に巻き込まれてて、試験の事をすっかり忘れていたのです! このままだと赤点! 落第なのです!」

 

必死になって説明しているロロネロル。

ウィリスタがサンドイッチの包み紙を開く。

 

「なんだ、そんなことなの。てっきり、例のストーカーだか何だかの事だと思っちゃった」

 

ホッとしたように、ウィリスタが息を吐く。

やれやれとでも言いたげに、その目を閉じた。

 

ロロネロルが立ち上がり、身を乗り出す。

 

「そんなことって! ウィリスタは頭が良いから平気かもしれないけど、ろろにとっては大問題なのですよ!」

 

怒ったような声。ピリピリとしているロロネロル。

ウィリスタが「あー」と言い、手を振った。

 

「ごめんごめん。別にそういう意図じゃなくてさ。ほら、クラリッサも心配してたからついね」

 

なだめるような口調のウィリスタ。

ロロネロルが「うぐぐ」と唸り、椅子に座り直した。

 

「あうぅ……落第……留年……!!」

 

まるで呪いの言葉のように呟いているロロネロル。

暗黒のオーラが全身から溢れ出て行く。

 

もぐもぐとサンドイッチを食べながら――

 

「というかさ」

 

ウィリスタが、指をぴんと伸ばした。

 

「ストーカーはともかく、試験の事なら私とかクラリッサとかに聞いてくれればいいじゃん。ちゃんと協力するし、勉強も付き合うよ」

 

にっこりと微笑むウィリスタ。

ぱっと、ロロネロルの目に光が宿った。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

藁にもすがるような表情。

ウィリスタが「当たり前でしょ」と力強く答える。

 

ロロネロルが目を潤ませ、両手を握り合わせた。

 

「うぅ、やっぱり、持つべきものは友達なのです……!」

 

「そんな、おおげさだな~」

 

感動しきりな様子のロロネロルに対して、

余裕ありげに微笑んでいるウィリスタ。

 

青い空の下、大きな白い雲が天を覆い隠している。

 

「……ん?」

 

ふと、ウィリスタが声をあげた。

不思議そうな表情。その視線が別の方へと向く。

 

足早に歩く靴音が近づいて――

 

「ロロネロル!」

 

2人のテーブルに割って入る声。

竜人の少女――クラリッサが息を切らしながら現れた。

 

「あっ、クラリッサ!」

 

手をあげるロロネロル。

ウィリスタがやや驚いたように口を開く。

 

「クラリッサ? どうしたのよ、そんなに慌てて」

 

困惑したように訊ねるウィリスタ。

2つの色が入り混じった瞳が揺れる。

 

クラリッサが、鋭い目をロロネロルに向けた。

 

「ちょっと、ロロネロル! いったいどういうこと?」

 

「にゃ?」

 

ロロネロルが首を傾げた。

何の事か、全く身に覚えのないロロネロル。

 

ため息をついて――

 

「フェルティローザよ! 昨日、あなたを寮まで送っていった所までは聞いたけど、どうしてあんなに怒ってる訳? 何が起こったの?」

 

クラリッサが、声をひそめてそう訊ねた。

ちらりと、中庭の端に視線を向けるクラリッサ。

 

フェルティローザが、幽霊達と談笑を楽しんでいる。

 

「……あら?」

 

クラリッサ達からの視線に気が付いたフェルティローザ。

不意に、今までの楽しそうな表情が消えて――

 

「……ふん!」

 

ツンとした態度で、フェルティローザが顔をそらした。

不機嫌な表情。氷のように冷たい振る舞い。

 

取り巻く妹達が、怯えたように身を寄せ合う。

 

「あ、本当だ。あれは怒ってるね」

 

のんびりと、ウィリスタが分析する。

クラリッサが再びため息をついた。

 

「理由を聞いても教えてくれないのよ。おまけに、あなたを守るのはもう止めるとまで言ってきていて……いったい、何があった訳?」

 

じっと、ロロネロルを見つめているクラリッサ。

ロロネロルが耳を伏せた。

 

「えーっとですね、実は昨日も呉服屋さん……じゃなくて、ろろを狙う不審者さんと遭遇したのです」

 

気まずそうな返答。

クラリッサとウィリスタが驚いた。

 

ロロネロルが、自分なりに昨日の出来事を説明して――

 

「……で、最終的にろろが土壇場で編み出した、オーバーヘッドロロキックで蛇さんを倒したのです!!」

 

そう、話しを締めくくった。

呆然とした表情。言葉を失っている2人。

 

ロロネロルが、指をもじもじと動かす。

 

「それで、倒したまでは良かったのですが……問題は、その後に寮へと帰ってからなのです」

 

「……どういうこと?」

 

話しを促すクラリッサ。

ウィリスタもまた、興味深そうに注意を向ける。

 

ロロネロルが目を伏せた。

 

「その、戦いの後、夜遅くに寮に戻ったら……フェルティローザが凄い剣幕で待っていて。『どこにいたの!』とか『勝手にいなくなって!』とか、そんな感じで。ろろも頑張って説明したのですが、分かってくれなくて……」

 

しょんぼりとした様子のロロネロル。

クラリッサとウィリスタが顔を見合わせた。

 

「……まぁ、あの説明じゃね」

 

頬杖をつきながら呟くウィリスタ。

クラリッサもまた、同意するように頷く。

 

ロロネロルが息を吐いた。

 

「結局、ろろが勝手にどこかに行ってしまったみたいに思われてしまって。妹さん達も誤解を解こうとしてくれたのですが、怒りは収まらなかったのです」

 

「……そういうことね」

 

納得したように、クラリッサが腕を組んだ。

ウィリスタもまた、両手を広げる。

 

「フェルティローザらしいや。繊細だもんね」

 

「はい。あと、ろろがフェルティローザが泣いていたことに触れたのもマズかったみたいなのです……」

 

小声で付け足すロロネロル。

瞬間、冷たい風が吹いて――

 

「言っておきますが、私は泣いてなどおりませんわ」

 

フェルティローザが、一瞬にして

3人のいるテーブル席へと移動してきた。

 

余裕の態度。麗しの微笑みを見せるフェルティローザ。

 

ロロネロルが、ジトっとした目を向けて――

 

「絶対、泣いてたのです……」

 

ぼそりと、小声で呟いた。

ぴくりとフェルティローザが反応する。

 

その顔に、満面の笑みが浮かんだ。

 

「本当、無事でなによりでしたわ、ロロネロル」

 

迫力ある言葉。皮肉っぽい響き。

空気がさらに冷たく、沈み込んでいく。

 

クラリッサが割り込むように腕をあげた。

 

「そこまでです。フェルティローザ、気持ちは分かるけど、ロロネロルがわざとやった訳じゃない事は分かるでしょ?」

 

弁解するように話すクラリッサ。

フェルティローザが、ふんと顔をそらした。

 

「どうだか。ともかく、私はもう協力しませんから」

 

「フェルティローザ!」

 

「私がいなくとも、あなたやウィリスタ、アレスティエルがいるでしょう。それでは、ごめんあそばせ」

 

優雅な一礼。フェルティローザが歩き出す。

慌てて、取り巻きの幽霊達が後ろを追いかけて行った。

 

3人の間に気まずい沈黙が流れる。

 

「……まぁ、今のフェルティローザには何を言っても無駄だよ。落ち着くまで待つしかないね」

 

手をひらひらとさせるウィリスタ。

クラリッサが目を閉じた。

 

「そうですね。しばらくは私達だけでやりましょう」

 

「ううぅ、ごめんなのです……」

 

申し訳なさそうに言うロロネロル。

クラリッサが優しい笑みを浮かべた。

 

「あなたが悪い訳じゃないわよ。何とかするわ」

 

「そうそう。てか、試験の方がヤバいんじゃない?」

 

教科書を指差すウィリスタ。

ロロネロルが「試験!!」と声をあげた。

 

「あぅぅぅぅ……!!」

 

再び、頭を抱えるロロネロル。

クラリッサとウィリスタが顔を見合わせた。

 

お昼休みの喧騒。平和な中庭に――

 

「……とりあえず、試験勉強から始めましょうか」

 

クラリッサが提案する声が、響いて消えた。

明るい陽射し。さわさわと風が通り抜けていった。

 

3人の頭上には、広大な空が広がっている。

 

地平線の果て。どこまでも続く青い空。

そこに浮かぶ雲よりも、さらに上の空間にて――

 

「…………」

 

1体の竜が、空中に浮かび佇んでいた。

厳めしい顔に、真剣な雰囲気。歯車のような意匠。

 

その手には巨大な鉄槌が握られている。

 

「ここが、リリカルモナステリオ……」

 

竜の口から、静かな言葉が漏れ出た。

空を駆ける桃色の鯨。その背中に広がる学園都市。

 

遥か下に広がる光景を、竜が眺めた。

 

「まったく、実に奇妙な都市だ。あらゆる時空を参照しても、このような造りの都市は見たことがない……」

 

どこか感心したように呟く竜。

冷たい大気圏。極寒の世界。

 

竜が一人、静かに首を振る。

 

「まぁいい。我はただ、与えられた使命を全うするだけ」

 

自分に言い聞かせるような口調。

おもむろに、竜が持っていた巨大な鉄槌を構えた。

 

橙色の光が渦巻き、鉄槌の中心へと集まっていく。

 

「…………」

 

機械が唸るような低い音。充填されるエネルギー。

辺りの空気が震え、竜の身体がギリギリと軋んでいく。

 

鉄槌がひと際大きく唸るような音を響かせて――

 

「――ハッ!!」

 

何もない空間に向かって、竜が鉄槌を打ち込んだ。

空気が圧し潰され、衝撃が波紋上に広がる。

 

ガラスの砕けるような音が響いて――

 

「ふむ、成功だな」

 

竜が顎を撫でながら、構えを解いた。

少しだけ乱れた息。緊張した表情。

 

目の前の空間には、一筋の裂け目が走っている。

 

「空間転移。座標に間違いはない……」

 

裂け目の向こう側を見ながら、ぼそりと呟く竜。

ひび割れた空間の先には、全く別の景色が広がっていた。

 

暗い影に浸食された、不気味な森のような光景が。

 

「さて、始めるとするか」

 

鉄槌を背負い、のそのそと動き出す竜。

砕けた裂け目の中へと、足を踏み入れる。

 

「それにしても……」

 

不気味な雰囲気が漂う場所。

異様な気配の森の中に入り込みながら――

 

「"バディ"だと? 人間の言語感覚は独特すぎるぞ……」

 

鉄槌を持つ竜が、わずかに目を細めた。

不思議そうな表情。頭を掻く竜。

 

その赤銅色の瞳に、妖しげな光が宿った。

 

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