カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
爽やかな青い空が広がっていた。
晴れ晴れとした天気。穏やかな気候。
一日の始まりを告げる、朝の光景が流れていく。
コツコツという靴音を響かせて――
「おはようございまーす!!」
事務所の扉が開き、明るい声が響いた。
スーツ姿の女性――ミアのマネージャーが現れる。
笑顔のまま、事務所の中を見渡して――
「……あれ?」
不思議そうに、マネージャーが首をかしげた。
しんと静まり返っている事務所内。無言の空間。
朝の日差しだけが、窓から降り注いでいる。
「……社長もミアさんも、まだ来てない?」
口元に指を当てるマネージャー。
時計を確かめると、短く息を吐いた。
「私が一番乗りかぁ。ミアさんはともかく、社長が遅いのは珍しいですねー」
軽い口調で、一人話しているマネージャー。
自分の机まで進み、持っていた鞄を置く。
両腕を回しながら――
「まぁ、いいです! 今日も張り切って仕事していきましょー!」
マネージャーが、テンション高く声を張り上げた。
やる気に燃えた表情。明るい雰囲気。
窓の外で、鳥が飛び立つ音が響いていった。
「それじゃあ、まずは事務所の掃除からですねー!」
踊るような足取り。
歌を口ずさみながら、マネージャーが歩いていく。
応接用のソファーの前に近づいた瞬間――
「……おはよ、マユっち」
唐突に、マネージャーの横から声が上がった。
「ひゃ!?」と悲鳴があがる。驚きの表情。
白い腕を上げて――
「……驚きすぎだよ、マユっち」
ソファーに横たわったまま、綺羅星ミアがそう言った。
どこか疲れたような表情。力ない笑み。
マネージャーが目を見開く。
「み、ミアさん!? いたんですか!?」
心の底から驚いた様子のマネージャー。
すぐに、ミアの異変に気が付く。
「と、いいますか、どうしたんですか!? な、なにか病気とかですか!?」
心配そうに訊ねるマネージャー。
明らかに、ミアは不調そうな雰囲気を醸し出している。
ミアが肩をすくめた。
「別に……ちょっと寝違えただけよ」
「寝違えた!? そんな風には見えませんけど!?」
疑うような視線。
再び、ミアが力なく微笑んだ。
「大丈夫だって。ちょっと休んでれば、すぐに良くなるからさ……」
手をひらひらとさせるミア。
いつになく弱々しい雰囲気。疲れきった表情。
一瞬、マネージャーの目が鋭くなって――
「ダメです。ちょっと待ってて下さい!」
きっぱりと、そう言い切った。
自分の机へと戻るマネージャー。不思議そうなミア。
すぐに、マネージャーが戻ってきて――
「ミアさん、とりあえずこれを飲んでください!」
手に持った物を、ミアへと差し出した。
小さめの銀色の小袋が、ミアの目に映る。
「……なにこれ?」
「漢方薬です! 私、胃薬とか漢方とか、鞄の中に色々と常備してるんです!」
真剣な表情で答えるマネージャー。
ミアが渋い表情を浮かべる。
「……別に、そんなのいいよ」
テンションの低い声。断るようなジェスチャー。
マネージャーが、ずいと顔を近づける。
「ダメです。ミアさん、飲んでください!」
「粉薬嫌いなの」
「そんな子供みたいな事言って! 健康管理だって立派な仕事ですよ!」
ぴしゃりと指摘するマネージャー。
ミアが「うー……」と不満そうに唸る。
渋々、ミアが漢方薬を受け取った。
「……ありがと」
一応、お礼を口にするミア。
マネージャーが満足そうに頷く。
「はい。すぐにお茶持ってきますから、待ってて下さいね!」
ばたばたと給湯室の方へと向かうマネージャー。
ミアがため息をついた。
「ちょっとマユっち、慌てて転ばないでよ……」
危なっかしい姿を見て、呟くミア。
その手の中の漢方薬をぼんやりと眺めた。
水の流れる音が響く。
「どうぞ、ミアさん!」
マネージャーが、お茶の入ったカップを差し出した。
ミアがのそのそと、身体を起こす。
カップを受け取りながら――
「……そんなに見つめないでよ」
じっと自分を見つめているマネージャーに対し、
ミアが呆れたようにそう言った。
マネージャーが首を振る。
「嫌です。飲む所までしっかり見てますから」
「……まったく、もう」
ぼやくように言うミア。
袋を開けると、さらさらと漢方薬を口に含む。
お茶の入ったカップを、ミアが傾けた。
「……んぐ」
うめくような声。
一息にお茶を飲み続けるミア。喉が鳴る。
唇からカップが離れて――
「……やっぱり、美味しくない」
口元をぬぐいながら、ミアが感想を漏らした。
カップをマネージャーへと返すミア。苦い表情。
ぱっと、マネージャーの表情が明るくなる。
「大丈夫です。すぐに良くなりますよ!」
励ますように話すマネージャー。
ミアの方を向きながら、指を振る。
「健康管理は何より大事なんです。特に、調子が良くない時は早めの対応が一番! 後回しにしてると、いつか大変な目に遭いますよ!」
「……マユっちって、真面目な事も言えるんだね」
苦い表情のまま言うミア。
マネージャーが「えっ」と目を見開いた。
柔らかな笑みを浮かべて――
「当然です。これでも、ミアさんのマネージャーですから!」
得意そうに、マネージャーがそう言った。
自信満々な顔。力強い眼差し。
ほんの少し、ミアの顔に生気が戻る。
「……そうだね。頼りにしてるよ、マユっち」
「はい! もちろんです!」
大きく答えるマネージャー。
気が抜けように、ミアが息を吐いた。
爽やかな朝の時間が流れていく。
「……さて。ミアさんの体調が悪いなら、今日の仕事は全部キャンセルにしましょうか。私から連絡しておきますね」
「えっ、仕事休んでいいの!?」
ぱっと、ミアが目を輝かせる。
マネージャーが頷いた。
「はい。幸い、今日入ってた仕事はレッスンや挨拶回りくらいでしたから。日程を再調整するだけで済みますし、休みましょう」
「やったー! あ、でも、社長に言わなくて平気?」
思いついたように訊ねるミア。
マネージャーが微笑んだ。
「大丈夫ですよ、何の問題もありません!」
いつになくあっさりと言い切るマネージャー。
そのあまりの自信に、ミアが一瞬疑問を覚える。
ガチャリと、事務所の扉が開いた。
「おはようございます」
凛とした鋭い声。
事務所の社長である諏訪レイカが、姿を現した。
「あっ、おはようございます、社長!」
直立不動、深々とお辞儀をするマネージャー。
レイカが視線を向ける。
「おはよう、マユ」
「あー、社長ー。どうもー」
ソファーに座ったまま手をあげるミア。
一瞬、レイカが驚いたように目を見張った。
鋭い表情を浮かべて――
「綺羅星さん? 体調不良ですか?」
ほんの少し目を細めながら、レイカがそう訊ねた。
ミアが「あはは」と笑い声をあげる。
「あー、いえ。別に、大したことないんで~」
「いつからですか? なにか持病が?」
ミアの言葉を無視するレイカ。
ツカツカと、靴音を響かせてミアに近づく。
マネージャーが横から割り込んだ。
「社長! ミアさん、体調不良みたいなんです! だから、今日は仕事を全部キャンセルしたいんですが!」
はきはきと報告するマネージャー。
ぴくりと、レイカがその言葉に反応した。
「……そうですか」
ぼそりと呟くレイカ。
その表情が目に見えて沈んでいく。
「……?」
訝しむような表情になるミア。
レイカが長く、息を吐いた。
「わかりました。綺羅星さん、今日は仕事を休んでください。後の事はマユに任せますので、マユに従うように」
「えっ。あっ、はい。どうも……」
困惑気味に頷くミア。
マネージャーが深々と頭を下げた。
「ありがとうございます! 早速、探しますね!」
「えぇ、お願いね、マユ」
信頼したように頷いて見せるレイカ。
ほんの一瞬、その目がどこか遠くを見つめた。
靴音を響かせ、レイカが社長室の中へと消えていく。
「……本当に、あっさり認めてくれたね」
驚いたように社長室の扉を見つめているミア。
マネージャーが頷いた。
「そうなんです! 社長はクールに見えて、とっても優しい方なんですよ!」
どこか自慢げに話しているマネージャー。
ミアが、大きくその場で伸びをした。
「まぁ、なんでもいいや。確かに最近、色々と忙しくて疲れ気味だったからちょうどいいかもね~」
ぷるぷると身体を震わせているミア。
口元に手を当てると、大きくあくびをする。
ゆるゆると微笑みながら――
「よーし、仕事もなくなったし、私はぼちぼち帰るとしようかな。お疲れ~、マユっち~」
ミアが、呑気な様子で手を振った。
すっかり元気を取り戻したミア。和やかな声。
マネージャーがきょとんとする。
「え? 何言ってるんですか、ミアさん?」
「へ?」
気の抜けた表情。
呆れたような目を向けて――
「仕事は休みになりましたが、今日はこれから病院に行くんですよ! 当たり前じゃないですか!」
マネージャーが、大きく断言した。
ミアの動きがぴたりと固まる。
一瞬の間を置いて、ミアが大きく衝撃を受けた。
「えぇっ!? やだやだ、病院なんて行きたくないよ!!」
悲鳴のような声が上がる。
今までにない程に追い詰められた表情のミア。
マネージャーが鋭い目を向けた。
「ダメです! 言ったでしょう、体調管理も仕事の内です! すぐに探しますから、逃げないで下さいね!」
「そ、そんな……!!」
絶句するミア。
さーっと、その顔から血の気が引いていく。
ソファーの上でよろめきながら――
「……サミー!」
思いついたように、ミアが声をあげた。
素早く、ポケットからスマホを取り出すミア。
祈るように、それを握りしめる。
「お願いサミー、今こそ出番よ! すぐに電話を頂戴……!!」
懇願するような目を向けるミア。
神にすがるように、スマホを掲げる。
スマホは静かに、その場に佇んでいた。
「こんな時に限って、あの無能上司……!!」
怒りに燃えているミア。無言のスマホ。
マネージャーは粛々と、どこかへ電話をかけている。
お礼の言葉を口にして――
「予約がとれましたよ! さぁ、行きましょう、ミアさん!」
輝くような笑顔を、マネージャーが浮かべた。
絶望の表情を浮かべるミア。この世の終わりのような顔。
「うぅぅぅ……!!」
子供のような唸り声が響く。
がしっと、マネージャーがミアの肩を掴んだ。
にっこりと、微笑みを浮かべて――
「絶対に逃がしませんから」
マネージャーが、冷たくそう言い切った。
決意に満ちた目。鋼のような心。
ミアの目に涙が浮かんで――
「ぜーったい、嫌ー!!」
情けない声が、事務所内に響き渡った。
――リリカルモナステリオ、学園の中庭。
辺りは賑やかな喧騒に包まれていた。
お昼休みの時間。食事と会話を楽しむ生徒たち。
優雅な青春の時間が、和やかに流れていく。
そんな平和な光景が広がる場所。
中庭の一角、とあるテーブル席にて――
「ううぅぅ……!!」
ロロネロルが、苦しそうに唸り声を漏らした。
真剣な表情。手に持った教科書を睨んでいるロロネロル。
その視線が左右あちこち、せわしなく動く。
「ま、まずいのです……!」
冷や汗を流しながら、ロロネロルが呟いた。
その尻尾がそわそわと、緊張したように揺れている。
足音が近づいて――
「あら、試験勉強してるの? ロロネロル」
ロロネロルの横から、軽快な声が発せられた。
教科書から顔をあげるロロネロル。
緋と蒼、二色が混ざった不思議な色の瞳を向けて――
「珍しいじゃない。あなた、そんなに勉強熱心だった?」
宝石魔法使いのウィリスタが、にっこりと微笑んだ。
ランチバッグを置き、向かいに座るウィリスタ。
ロロネロルがぐでんと、テーブルに突っ伏す。
「ウィリスタ……ろろ、もうダメかもしれないのです」
いつになく暗い声を出すロロネロル。
ウィリスタがお昼を取り出しながら、眉をひそめる。
「なによ、藪から棒に。どうしちゃったの?」
「試験ですよ! 試験!」
がばっと、ロロネロルが顔をあげた。
「ろろ、最近ずっと変な事に巻き込まれてて、試験の事をすっかり忘れていたのです! このままだと赤点! 落第なのです!」
必死になって説明しているロロネロル。
ウィリスタがサンドイッチの包み紙を開く。
「なんだ、そんなことなの。てっきり、例のストーカーだか何だかの事だと思っちゃった」
ホッとしたように、ウィリスタが息を吐く。
やれやれとでも言いたげに、その目を閉じた。
ロロネロルが立ち上がり、身を乗り出す。
「そんなことって! ウィリスタは頭が良いから平気かもしれないけど、ろろにとっては大問題なのですよ!」
怒ったような声。ピリピリとしているロロネロル。
ウィリスタが「あー」と言い、手を振った。
「ごめんごめん。別にそういう意図じゃなくてさ。ほら、クラリッサも心配してたからついね」
なだめるような口調のウィリスタ。
ロロネロルが「うぐぐ」と唸り、椅子に座り直した。
「あうぅ……落第……留年……!!」
まるで呪いの言葉のように呟いているロロネロル。
暗黒のオーラが全身から溢れ出て行く。
もぐもぐとサンドイッチを食べながら――
「というかさ」
ウィリスタが、指をぴんと伸ばした。
「ストーカーはともかく、試験の事なら私とかクラリッサとかに聞いてくれればいいじゃん。ちゃんと協力するし、勉強も付き合うよ」
にっこりと微笑むウィリスタ。
ぱっと、ロロネロルの目に光が宿った。
「ほ、本当ですか!?」
藁にもすがるような表情。
ウィリスタが「当たり前でしょ」と力強く答える。
ロロネロルが目を潤ませ、両手を握り合わせた。
「うぅ、やっぱり、持つべきものは友達なのです……!」
「そんな、おおげさだな~」
感動しきりな様子のロロネロルに対して、
余裕ありげに微笑んでいるウィリスタ。
青い空の下、大きな白い雲が天を覆い隠している。
「……ん?」
ふと、ウィリスタが声をあげた。
不思議そうな表情。その視線が別の方へと向く。
足早に歩く靴音が近づいて――
「ロロネロル!」
2人のテーブルに割って入る声。
竜人の少女――クラリッサが息を切らしながら現れた。
「あっ、クラリッサ!」
手をあげるロロネロル。
ウィリスタがやや驚いたように口を開く。
「クラリッサ? どうしたのよ、そんなに慌てて」
困惑したように訊ねるウィリスタ。
2つの色が入り混じった瞳が揺れる。
クラリッサが、鋭い目をロロネロルに向けた。
「ちょっと、ロロネロル! いったいどういうこと?」
「にゃ?」
ロロネロルが首を傾げた。
何の事か、全く身に覚えのないロロネロル。
ため息をついて――
「フェルティローザよ! 昨日、あなたを寮まで送っていった所までは聞いたけど、どうしてあんなに怒ってる訳? 何が起こったの?」
クラリッサが、声をひそめてそう訊ねた。
ちらりと、中庭の端に視線を向けるクラリッサ。
フェルティローザが、幽霊達と談笑を楽しんでいる。
「……あら?」
クラリッサ達からの視線に気が付いたフェルティローザ。
不意に、今までの楽しそうな表情が消えて――
「……ふん!」
ツンとした態度で、フェルティローザが顔をそらした。
不機嫌な表情。氷のように冷たい振る舞い。
取り巻く妹達が、怯えたように身を寄せ合う。
「あ、本当だ。あれは怒ってるね」
のんびりと、ウィリスタが分析する。
クラリッサが再びため息をついた。
「理由を聞いても教えてくれないのよ。おまけに、あなたを守るのはもう止めるとまで言ってきていて……いったい、何があった訳?」
じっと、ロロネロルを見つめているクラリッサ。
ロロネロルが耳を伏せた。
「えーっとですね、実は昨日も呉服屋さん……じゃなくて、ろろを狙う不審者さんと遭遇したのです」
気まずそうな返答。
クラリッサとウィリスタが驚いた。
ロロネロルが、自分なりに昨日の出来事を説明して――
「……で、最終的にろろが土壇場で編み出した、オーバーヘッドロロキックで蛇さんを倒したのです!!」
そう、話しを締めくくった。
呆然とした表情。言葉を失っている2人。
ロロネロルが、指をもじもじと動かす。
「それで、倒したまでは良かったのですが……問題は、その後に寮へと帰ってからなのです」
「……どういうこと?」
話しを促すクラリッサ。
ウィリスタもまた、興味深そうに注意を向ける。
ロロネロルが目を伏せた。
「その、戦いの後、夜遅くに寮に戻ったら……フェルティローザが凄い剣幕で待っていて。『どこにいたの!』とか『勝手にいなくなって!』とか、そんな感じで。ろろも頑張って説明したのですが、分かってくれなくて……」
しょんぼりとした様子のロロネロル。
クラリッサとウィリスタが顔を見合わせた。
「……まぁ、あの説明じゃね」
頬杖をつきながら呟くウィリスタ。
クラリッサもまた、同意するように頷く。
ロロネロルが息を吐いた。
「結局、ろろが勝手にどこかに行ってしまったみたいに思われてしまって。妹さん達も誤解を解こうとしてくれたのですが、怒りは収まらなかったのです」
「……そういうことね」
納得したように、クラリッサが腕を組んだ。
ウィリスタもまた、両手を広げる。
「フェルティローザらしいや。繊細だもんね」
「はい。あと、ろろがフェルティローザが泣いていたことに触れたのもマズかったみたいなのです……」
小声で付け足すロロネロル。
瞬間、冷たい風が吹いて――
「言っておきますが、私は泣いてなどおりませんわ」
フェルティローザが、一瞬にして
3人のいるテーブル席へと移動してきた。
余裕の態度。麗しの微笑みを見せるフェルティローザ。
ロロネロルが、ジトっとした目を向けて――
「絶対、泣いてたのです……」
ぼそりと、小声で呟いた。
ぴくりとフェルティローザが反応する。
その顔に、満面の笑みが浮かんだ。
「本当、無事でなによりでしたわ、ロロネロル」
迫力ある言葉。皮肉っぽい響き。
空気がさらに冷たく、沈み込んでいく。
クラリッサが割り込むように腕をあげた。
「そこまでです。フェルティローザ、気持ちは分かるけど、ロロネロルがわざとやった訳じゃない事は分かるでしょ?」
弁解するように話すクラリッサ。
フェルティローザが、ふんと顔をそらした。
「どうだか。ともかく、私はもう協力しませんから」
「フェルティローザ!」
「私がいなくとも、あなたやウィリスタ、アレスティエルがいるでしょう。それでは、ごめんあそばせ」
優雅な一礼。フェルティローザが歩き出す。
慌てて、取り巻きの幽霊達が後ろを追いかけて行った。
3人の間に気まずい沈黙が流れる。
「……まぁ、今のフェルティローザには何を言っても無駄だよ。落ち着くまで待つしかないね」
手をひらひらとさせるウィリスタ。
クラリッサが目を閉じた。
「そうですね。しばらくは私達だけでやりましょう」
「ううぅ、ごめんなのです……」
申し訳なさそうに言うロロネロル。
クラリッサが優しい笑みを浮かべた。
「あなたが悪い訳じゃないわよ。何とかするわ」
「そうそう。てか、試験の方がヤバいんじゃない?」
教科書を指差すウィリスタ。
ロロネロルが「試験!!」と声をあげた。
「あぅぅぅぅ……!!」
再び、頭を抱えるロロネロル。
クラリッサとウィリスタが顔を見合わせた。
お昼休みの喧騒。平和な中庭に――
「……とりあえず、試験勉強から始めましょうか」
クラリッサが提案する声が、響いて消えた。
明るい陽射し。さわさわと風が通り抜けていった。
3人の頭上には、広大な空が広がっている。
地平線の果て。どこまでも続く青い空。
そこに浮かぶ雲よりも、さらに上の空間にて――
「…………」
1体の竜が、空中に浮かび佇んでいた。
厳めしい顔に、真剣な雰囲気。歯車のような意匠。
その手には巨大な鉄槌が握られている。
「ここが、リリカルモナステリオ……」
竜の口から、静かな言葉が漏れ出た。
空を駆ける桃色の鯨。その背中に広がる学園都市。
遥か下に広がる光景を、竜が眺めた。
「まったく、実に奇妙な都市だ。あらゆる時空を参照しても、このような造りの都市は見たことがない……」
どこか感心したように呟く竜。
冷たい大気圏。極寒の世界。
竜が一人、静かに首を振る。
「まぁいい。我はただ、与えられた使命を全うするだけ」
自分に言い聞かせるような口調。
おもむろに、竜が持っていた巨大な鉄槌を構えた。
橙色の光が渦巻き、鉄槌の中心へと集まっていく。
「…………」
機械が唸るような低い音。充填されるエネルギー。
辺りの空気が震え、竜の身体がギリギリと軋んでいく。
鉄槌がひと際大きく唸るような音を響かせて――
「――ハッ!!」
何もない空間に向かって、竜が鉄槌を打ち込んだ。
空気が圧し潰され、衝撃が波紋上に広がる。
ガラスの砕けるような音が響いて――
「ふむ、成功だな」
竜が顎を撫でながら、構えを解いた。
少しだけ乱れた息。緊張した表情。
目の前の空間には、一筋の裂け目が走っている。
「空間転移。座標に間違いはない……」
裂け目の向こう側を見ながら、ぼそりと呟く竜。
ひび割れた空間の先には、全く別の景色が広がっていた。
暗い影に浸食された、不気味な森のような光景が。
「さて、始めるとするか」
鉄槌を背負い、のそのそと動き出す竜。
砕けた裂け目の中へと、足を踏み入れる。
「それにしても……」
不気味な雰囲気が漂う場所。
異様な気配の森の中に入り込みながら――
「"バディ"だと? 人間の言語感覚は独特すぎるぞ……」
鉄槌を持つ竜が、わずかに目を細めた。
不思議そうな表情。頭を掻く竜。
その赤銅色の瞳に、妖しげな光が宿った。