カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
「どこから来たか?」
質問をくり返すミア。
目の前に座るヨウコを見据える。
「うーん、そうだね~」
考えるようなしぐさ。
やがてにんまりと、ミアが笑みを浮かべる。
悪戯っ子のような表情で──
「ずばり! 惑星クレイかな!」
ミアが、面白そうにそう答えた。
ヨウコが目を細める。
「あなたの経歴を調べてみましたが、何も出てきませんでした。出身も、学校も、音楽活動さえも。動画を投稿する前、あなたがどこで何をしていたか、誰も知りません」
「天才というのは孤高なものなんだよ~」
「あそこまでの歌唱力を持ちながら、全く誰の記憶にも残っていなかったというのですか? 動画を投稿したら、すぐさま話題になってデビューしたのに?」
問い詰めるような口調。
ヨウコが睨むような視線を向ける。
「どこからともなく現れた彗星。言い得て妙な表現です。デビュー前のあなたを誰も知らない。まるで今の状態のまま、突然この世界に現れたような存在」
とんとんとテーブルを指で叩くヨウコ。
再びミアを見据えて──
「もう一度聞きます、綺羅星ミアさん。あなた、どこから来たんですか?」
冷たい声で、ヨウコが訊ねた。
疑うような眼差しに、威圧的な雰囲気。
がやがやという喧騒が、2人の間に流れる。
「あ、あのあの! そ、そういうインタビューみたいなのは、会社を通してからじゃないと……!」
おそるおそる声をかけるマネージャー。
ヨウコの鋭い目が、マネージャーの方へと向けられた。
「黙ってて下さい、日野宮(ひのみや)マユさん」
フルネームを使って呼びかけるヨウコ。
明らかに、「あなたを知ってますよ」という牽制の言葉。
マネージャーの顔が青ざめた。
「いいよー。マユっち、ありがとねー」
ひらひらと手を振るミア。
肘をテーブルに付け、両手をからませて顎をのせる。
「じゃあ、真面目に答えてあげるとだね~」
紫色の瞳を向けるミア。
その顔から笑顔が消えた。
意味深な間をおいて──
「実は私、地球出身の人間なの」
声をひそめながら、ミアがそう答えた。
大真面目な表情、真剣な雰囲気。
沈黙が流れる。
「ふざけてます?」
鋭い目を向けながら、訊ねるヨウコ。
ミアが吹き出した。
「あはは! ほら、さっき冗談で惑星クレイって言っちゃったから、訂正しとかないとって思っちゃって!」
楽しそうに笑っているミア。
きゅるんと、いかにも可愛いらしくポーズを取る。
「さすがの私も、正体が宇宙人とかって噂になったらちょっと困っちゃうから。まぁ、宇宙一可愛いって意味なら、それでもいいけど」
自信満々な口調。
ヨウコは冷たい目を向けている。
「もう一度聞きます。あなた、どこから来て、何が目的なんですか?」
「目的? そんなの、決まってるよ!」
大きく、両手を広げるミア。
「世界で一番のアイドルになって、曲を歌い続ける! 世界中の皆にミアの名前を記憶させる! それこそが私の目的で、果てなき夢なの!」
迷いのない口調。ウィンクするミア。
輝くような笑顔を浮かべて──
「以上が、私の壮大なる目標! そういう訳だから、記事にするなら『ミアは世界で一番可愛い歌姫』って書いてくれると、私は嬉しいかな~」
ミアが、そう話しを締めくくった。
しばしの静寂の後、ヨウコがため息をつく。
「答えて下さらないのですね。予想はしてましたが」
目線を伏せがちに、口を開くヨウコ。
「ですが、私は諦める気はありません。あなたの過去、必ず調べあげて見せますから、綺羅星ミアさん」
決意に満ちた声。
再び、鋭い目をミアへと向けるヨウコ。
2人の視線が空中で交じり合った。
張りつめた空気。
周りの喧騒だけが変わらず流れていく。
ふっと、ミアが微笑んだ。
「ねぇ、記者さん」
先程までとは違う声色。
どこか神秘的な雰囲気を、ミアが纏う。
「そこまで知りたいなら、私の歌の秘密を教えてあげようか?」
唐突に、ミアがそう訊ねた。
ぴくりと、ヨウコが反応する。
「それはまた突然ですね。どういう意図ですか?」
「簡単だよ。隠す事なんて、何もないから」
あっさりとした口調のミア。
じっと、ヨウコの反応を待つように黙り込む。
ヨウコが頷いた。
「それでしたら、聞かせてもらいましょうか」
疑ってかかるような口調。
真っ直ぐに、ヨウコがミアを見つめた。
ミアが笑顔を浮かべる。
「私の歌が上手い理由。それはね──」
流れるように言葉を紡ぐミア。
どこか不可思議な響き。引き込まれる声。
紫色の瞳が揺れて──
「カードの声を聞いてるから」
『カードの声を聞いてるからですね』
全く同時に、その言葉が重なった。
一瞬、目を見張るヨウコ。驚きの表情が浮かぶ。
ミアが振り返った。
「わぁ、すごい偶然ー!」
無邪気な口調のミア。
声がした方──近くのビルの街頭ビジョンを見上げる。
『カードの声、ですか?』
スーツを着た女性インタビュアーが、そう訊ねた。
対面に座る青年が、穏やかな笑みを浮かべる。
『えぇ、その通りです』
よく通る声で、青年が答えた。
黒色の髪に、整った顔立ち。落ち着いた雰囲気。
澄んだ琥珀のような色の瞳が、画面に映る。
『プロとしてデビューしてから、ずっと苦戦続きでした。そびえたつプロの壁。圧倒的な実力差。そしてそれに従うかのように、敗北し続ける日々……』
語りかけるような口調。
青年が微笑む。
『一時は、真剣にやめる事を考えていました。もういやだ、戦いから逃げたい。もうファイトしたくない。心の底から、そう思っていたんです』
『根津さん程のプロファイターであっても、そんなことを考えてた時期があったんですね』
驚いたような表情のインタビュアー。
青年──根津(ねづ)ソウジがにっこりと笑った。
『えぇ。ですがそれも昔の話しです。先程も言った通り、今の僕には勝利の道筋が見えるようになったんです。カードの声を聞く事でね』
『なるほど! それでは、ここ最近の快進撃は、ひとえに"終末の使徒"への加入が大きかったという訳ですね!』
画面からの声が響く。
視線を向け続けているミア。
落ち着いた態度のまま、ソウジが脚を組む。
『その通りです。カードの声が聞けるようになったのも、終末の使徒に加入してこの世の真理を得たからです。全て、彼らのおかげですよ』
穏やかな口調で話しているソウジ。
すっと、腕を差し出すかのように前へ出す。
『世界にはいずれ終末が訪れます。滅びの光景、沈黙した大地。無を受け入れ、抗わない事。それこそが僕達の理念であり、理想なんです』
『なるほど。悟り、のようなものですか?』
『えぇ。そうとも言えるかもしれません』
どこかはぐらかすように答えるソウジ。
インタビュアーが頭を下げた。
『貴重なお話し、ありがとうございました! それでは、本日のゲストはプロファイターの根津ソウジさんでした!』
締めくくるような言葉。
画面の向こう、こちら側に向かって手を振る2人。
ソウジの琥珀色の瞳が、一瞬だけ光を帯びて輝いた。
画面が切り替わり、CMが流れ始める。
「カードの声を聞く、かぁ」
ぽつりと呟くミア。
視線をヨウコの方へと戻す。
「同じこと言ってるだなんて、知らない人だけどなんか親近感わいちゃうね! ひょっとして、これが運命の出会いってやつ?」
きゃぴきゃぴとしているミア。
ヨウコが呆れたように息を吐いた。
「さっきのは最近活躍中のプロファイター、根津ソウジです。プロのファイターが"カードの声を聞く"というのは、比喩的な表現として理解できます。ですが」
言葉を切るヨウコ。
鋭い目をミアへと向ける。
「あなたのような歌手が"カードの声を聞く"というのは理解できません。カードと歌に、何の関係があるというんですか?」
問い詰めるような口調。
眉をひそめているヨウコ。
ミアがコーヒーカップを手に取った。
「そう言われても、私は本当の事を言ってるだけだから」
目を細め、微笑んでいるミア。
カップを傾け、コーヒーを飲む。
カシャッという音をたて、カップが置かれた。
「ところで、記者さん。記者さんはさっきの人が言ってた"終末の使徒"について、何か知ってたりするの?」
何気なくミアがそう訊ねた。
先程までと全く変わらぬ口調。穏やかな笑み。
ヨウコが訝し気な表情を浮かべた。
「終末の使徒? それが、何か関係あるんですか?」
「別に、ちょっと聞いただけだよ~」
軽い口調のミア。
にこやかな微笑みを崩さず、ヨウコを見つめる。
ヨウコが手帳を取って、開いた。
「"終末の使徒"は、最近突如として台頭しはじめたグループの名前ですね。宗教的な思想を持っている集団で、ヴァンガードを通して世界を導くと標榜しているそうです」
「世界を導く?」
小首を傾げるミア。
ヨウコが手帳のページをめくった。
「私が言っている訳ではありません。なんでも、ヴァンガードファイトによる戦いこそが、この世界ともう一つの世界の命運を握る、大いなる聖戦なのだそうです」
興味なさそうに話すヨウコ。
一通り目を通すと、手帳を閉じる。
「入会するとファイトが強くなるという噂も密かに囁かれています。さっきのように、プロファイターの中にも入会者が増えてきていると聞きますね」
「へぇー。最近よく聞く、ユニフォーマーズって人達みたいなものなのかな?」
「あちらはよりカードファイトに重点を置いている集団でしょう。怪しい集団という意味では、大差ないかもしれませんが」
冷ややかな口調。
ヨウコがミアの方に視線を戻した。
「あなたも興味があるんですか? 終末の使徒に」
射抜くような目を向けているヨウコ。
ミアが柔らかな笑みを浮かべた。
「さぁ、どうかなー?」
肯定も否定もしない発言。
ヨウコがかすかに、その言葉に違和感を覚えた。
マネージャーが割り込む。
「あ、あの!! そろそろ行かないと、時間が……!!」
あせった表情。腕時計を指差すマネージャー。
ミアが微笑んだ。
「そうだね! そろそろ仕事に戻らないと!」
帽子の位置を直しながら、ミアが立ち上がる。
「じゃあ、記者さん。楽しい時間をありがとね! また今度お喋りしましょ!」
愛想よく手を振っているミア。
ヨウコは鋭い目を向け続けている。
「言ったでしょう。必ず、あなたの過去を調べてみせますから」
冷ややかで、敵意さえ感じるような声。
ミアが困ったように肩をすくめた。
「マユっちー、この人怖いよー。私を守ってー」
甘えるように言うミア。
マネージャーが「えっ!?」と驚愕した。
「そ、そんなこと言われましても……!」
ミア以上に困った表情になるマネージャー。
それを見たミアが、楽しそうに笑った。
「冗談だよ~。まーでも、いざとなったらマユっち、私を助けてよね!」
「えっ、あっ、うぅ……!」
だらだらと汗を流しているマネージャー。
しどろもどろになって、その場で立ち尽くす。
軽快な音楽がその場に流れた。
「あっ、私だ!」
スマホを取り出すミア。
画面の文字を見ると、大きな笑みを浮かべる。
スマホを耳に当てて──
「ハーイ、サミー!」
どこまでも明るく、ミアがそう言った。
『仕事の時間だ』
挨拶もなく、スマホから声が流れた。
固く、冷たい声で喋る男性。笑顔のままのミア。
一方的に、男性が喋り続ける。
『……以上だ。分かったか?』
「ばっちり! それにしても、すごい偶然だね! たったさっき、その人には運命を感じたばかりなの!」
楽しそうに話しているミア。
ヨウコとマネージャーは怪訝そうにミアを見ている。
ミアが手を振った。
「それじゃあ、また連絡するね! バーイ、サミー!」
指を動かし、通話を切るミア。
スマホをしまうと、にっこりと微笑む。
「ねぇ、マユっち!」
「えっ、あっ、はい?」
「私、悪いけど急用ができちゃったの! だからさ、これからの予定は全部キャンセルしといて!」
あっけらかんと、ミアがそう告げた。
マネージャーがその場で固まる。
「急用? どういうことですか?」
口をはさむヨウコ。
ミアが指を伸ばす。
「それは、ひ・み・つ!」
甘い声を出すミア。
マネージャーがミアに迫った。
「じょ、冗談ですよね、ミアさん!? ぜ、全部キャンセルだなんて、そんなことしたら社長に──!!」
「大丈夫! 後で私も謝っておくから!」
全く大丈夫ではない事を平然と言うミア。
マネージャーが絶句する。
煌めくような笑みを浮かべて──
「それじゃ、あとはよろしく!」
ぽんとマネージャーの肩を叩き、
ミアが颯爽とカフェテリアから飛び出した。
「ちょっと、待ちなさい!!」
立ち上がるヨウコ。
だがミアの姿は、いつのまにか消えていた。
「嘘でしょ……!!」
呆然と雑踏の中を見つめているヨウコ。
その横では、マネージャーが真っ白になっている。
「……終わった」
燃え尽きているマネージャー。
涙を流す悲愴な姿。絶望の化身。
「何なのよ、あの子……!!」
ヨウコが手を握りしめて、そう呟いた。