カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第一楽章 煌めく星の歌姫③

 

「どこから来たか?」

 

質問をくり返すミア。

目の前に座るヨウコを見据える。

 

「うーん、そうだね~」

 

考えるようなしぐさ。

やがてにんまりと、ミアが笑みを浮かべる。

 

悪戯っ子のような表情で──

 

「ずばり! 惑星クレイかな!」

 

ミアが、面白そうにそう答えた。

ヨウコが目を細める。

 

「あなたの経歴を調べてみましたが、何も出てきませんでした。出身も、学校も、音楽活動さえも。動画を投稿する前、あなたがどこで何をしていたか、誰も知りません」

 

「天才というのは孤高なものなんだよ~」

 

「あそこまでの歌唱力を持ちながら、全く誰の記憶にも残っていなかったというのですか? 動画を投稿したら、すぐさま話題になってデビューしたのに?」

 

問い詰めるような口調。

ヨウコが睨むような視線を向ける。

 

「どこからともなく現れた彗星。言い得て妙な表現です。デビュー前のあなたを誰も知らない。まるで今の状態のまま、突然この世界に現れたような存在」

 

とんとんとテーブルを指で叩くヨウコ。

再びミアを見据えて──

 

「もう一度聞きます、綺羅星ミアさん。あなた、どこから来たんですか?」

 

冷たい声で、ヨウコが訊ねた。

疑うような眼差しに、威圧的な雰囲気。

 

がやがやという喧騒が、2人の間に流れる。

 

「あ、あのあの! そ、そういうインタビューみたいなのは、会社を通してからじゃないと……!」

 

おそるおそる声をかけるマネージャー。

ヨウコの鋭い目が、マネージャーの方へと向けられた。

 

「黙ってて下さい、日野宮(ひのみや)マユさん」

 

フルネームを使って呼びかけるヨウコ。

明らかに、「あなたを知ってますよ」という牽制の言葉。

 

マネージャーの顔が青ざめた。

 

「いいよー。マユっち、ありがとねー」

 

ひらひらと手を振るミア。

肘をテーブルに付け、両手をからませて顎をのせる。

 

「じゃあ、真面目に答えてあげるとだね~」

 

紫色の瞳を向けるミア。

その顔から笑顔が消えた。

 

意味深な間をおいて──

 

「実は私、地球出身の人間なの」

 

声をひそめながら、ミアがそう答えた。

大真面目な表情、真剣な雰囲気。

 

沈黙が流れる。

 

「ふざけてます?」

 

鋭い目を向けながら、訊ねるヨウコ。

ミアが吹き出した。

 

「あはは! ほら、さっき冗談で惑星クレイって言っちゃったから、訂正しとかないとって思っちゃって!」

 

楽しそうに笑っているミア。

きゅるんと、いかにも可愛いらしくポーズを取る。

 

「さすがの私も、正体が宇宙人とかって噂になったらちょっと困っちゃうから。まぁ、宇宙一可愛いって意味なら、それでもいいけど」

 

自信満々な口調。

ヨウコは冷たい目を向けている。

 

「もう一度聞きます。あなた、どこから来て、何が目的なんですか?」

 

「目的? そんなの、決まってるよ!」

 

大きく、両手を広げるミア。

 

「世界で一番のアイドルになって、曲を歌い続ける! 世界中の皆にミアの名前を記憶させる! それこそが私の目的で、果てなき夢なの!」

 

迷いのない口調。ウィンクするミア。

輝くような笑顔を浮かべて──

 

「以上が、私の壮大なる目標! そういう訳だから、記事にするなら『ミアは世界で一番可愛い歌姫』って書いてくれると、私は嬉しいかな~」

 

ミアが、そう話しを締めくくった。

しばしの静寂の後、ヨウコがため息をつく。

 

「答えて下さらないのですね。予想はしてましたが」

 

目線を伏せがちに、口を開くヨウコ。

 

「ですが、私は諦める気はありません。あなたの過去、必ず調べあげて見せますから、綺羅星ミアさん」

 

決意に満ちた声。

再び、鋭い目をミアへと向けるヨウコ。

 

2人の視線が空中で交じり合った。

 

張りつめた空気。

周りの喧騒だけが変わらず流れていく。

 

ふっと、ミアが微笑んだ。

 

「ねぇ、記者さん」

 

先程までとは違う声色。

どこか神秘的な雰囲気を、ミアが纏う。

 

「そこまで知りたいなら、私の歌の秘密を教えてあげようか?」

 

唐突に、ミアがそう訊ねた。

ぴくりと、ヨウコが反応する。

 

「それはまた突然ですね。どういう意図ですか?」

 

「簡単だよ。隠す事なんて、何もないから」

 

あっさりとした口調のミア。

じっと、ヨウコの反応を待つように黙り込む。

 

ヨウコが頷いた。

 

「それでしたら、聞かせてもらいましょうか」

 

疑ってかかるような口調。

真っ直ぐに、ヨウコがミアを見つめた。

 

ミアが笑顔を浮かべる。

 

「私の歌が上手い理由。それはね──」

 

流れるように言葉を紡ぐミア。

どこか不可思議な響き。引き込まれる声。

 

紫色の瞳が揺れて──

 

「カードの声を聞いてるから」

 

『カードの声を聞いてるからですね』

 

全く同時に、その言葉が重なった。

一瞬、目を見張るヨウコ。驚きの表情が浮かぶ。

 

ミアが振り返った。

 

「わぁ、すごい偶然ー!」

 

無邪気な口調のミア。

声がした方──近くのビルの街頭ビジョンを見上げる。

 

『カードの声、ですか?』

 

スーツを着た女性インタビュアーが、そう訊ねた。

対面に座る青年が、穏やかな笑みを浮かべる。

 

『えぇ、その通りです』

 

よく通る声で、青年が答えた。

黒色の髪に、整った顔立ち。落ち着いた雰囲気。

 

澄んだ琥珀のような色の瞳が、画面に映る。

 

『プロとしてデビューしてから、ずっと苦戦続きでした。そびえたつプロの壁。圧倒的な実力差。そしてそれに従うかのように、敗北し続ける日々……』

 

語りかけるような口調。

青年が微笑む。

 

『一時は、真剣にやめる事を考えていました。もういやだ、戦いから逃げたい。もうファイトしたくない。心の底から、そう思っていたんです』

 

『根津さん程のプロファイターであっても、そんなことを考えてた時期があったんですね』

 

驚いたような表情のインタビュアー。

青年──根津(ねづ)ソウジがにっこりと笑った。

 

『えぇ。ですがそれも昔の話しです。先程も言った通り、今の僕には勝利の道筋が見えるようになったんです。カードの声を聞く事でね』

 

『なるほど! それでは、ここ最近の快進撃は、ひとえに"終末の使徒"への加入が大きかったという訳ですね!』

 

画面からの声が響く。

視線を向け続けているミア。

 

落ち着いた態度のまま、ソウジが脚を組む。

 

『その通りです。カードの声が聞けるようになったのも、終末の使徒に加入してこの世の真理を得たからです。全て、彼らのおかげですよ』

 

穏やかな口調で話しているソウジ。

すっと、腕を差し出すかのように前へ出す。

 

『世界にはいずれ終末が訪れます。滅びの光景、沈黙した大地。無を受け入れ、抗わない事。それこそが僕達の理念であり、理想なんです』

 

『なるほど。悟り、のようなものですか?』

 

『えぇ。そうとも言えるかもしれません』

 

どこかはぐらかすように答えるソウジ。

インタビュアーが頭を下げた。

 

『貴重なお話し、ありがとうございました! それでは、本日のゲストはプロファイターの根津ソウジさんでした!』

 

締めくくるような言葉。

画面の向こう、こちら側に向かって手を振る2人。

 

ソウジの琥珀色の瞳が、一瞬だけ光を帯びて輝いた。

 

画面が切り替わり、CMが流れ始める。

 

「カードの声を聞く、かぁ」

 

ぽつりと呟くミア。

視線をヨウコの方へと戻す。

 

「同じこと言ってるだなんて、知らない人だけどなんか親近感わいちゃうね! ひょっとして、これが運命の出会いってやつ?」

 

きゃぴきゃぴとしているミア。

ヨウコが呆れたように息を吐いた。

 

「さっきのは最近活躍中のプロファイター、根津ソウジです。プロのファイターが"カードの声を聞く"というのは、比喩的な表現として理解できます。ですが」

 

言葉を切るヨウコ。

鋭い目をミアへと向ける。

 

「あなたのような歌手が"カードの声を聞く"というのは理解できません。カードと歌に、何の関係があるというんですか?」

 

問い詰めるような口調。

眉をひそめているヨウコ。

 

ミアがコーヒーカップを手に取った。

 

「そう言われても、私は本当の事を言ってるだけだから」

 

目を細め、微笑んでいるミア。

カップを傾け、コーヒーを飲む。

 

カシャッという音をたて、カップが置かれた。

 

「ところで、記者さん。記者さんはさっきの人が言ってた"終末の使徒"について、何か知ってたりするの?」

 

何気なくミアがそう訊ねた。

先程までと全く変わらぬ口調。穏やかな笑み。

 

ヨウコが訝し気な表情を浮かべた。

 

「終末の使徒? それが、何か関係あるんですか?」

 

「別に、ちょっと聞いただけだよ~」

 

軽い口調のミア。

にこやかな微笑みを崩さず、ヨウコを見つめる。

 

ヨウコが手帳を取って、開いた。

 

「"終末の使徒"は、最近突如として台頭しはじめたグループの名前ですね。宗教的な思想を持っている集団で、ヴァンガードを通して世界を導くと標榜しているそうです」

 

「世界を導く?」

 

小首を傾げるミア。

ヨウコが手帳のページをめくった。

 

「私が言っている訳ではありません。なんでも、ヴァンガードファイトによる戦いこそが、この世界ともう一つの世界の命運を握る、大いなる聖戦なのだそうです」

 

興味なさそうに話すヨウコ。

一通り目を通すと、手帳を閉じる。

 

「入会するとファイトが強くなるという噂も密かに囁かれています。さっきのように、プロファイターの中にも入会者が増えてきていると聞きますね」

 

「へぇー。最近よく聞く、ユニフォーマーズって人達みたいなものなのかな?」

 

「あちらはよりカードファイトに重点を置いている集団でしょう。怪しい集団という意味では、大差ないかもしれませんが」

 

冷ややかな口調。

ヨウコがミアの方に視線を戻した。

 

「あなたも興味があるんですか? 終末の使徒に」

 

射抜くような目を向けているヨウコ。

ミアが柔らかな笑みを浮かべた。

 

「さぁ、どうかなー?」

 

肯定も否定もしない発言。

ヨウコがかすかに、その言葉に違和感を覚えた。

 

マネージャーが割り込む。

 

「あ、あの!! そろそろ行かないと、時間が……!!」

 

あせった表情。腕時計を指差すマネージャー。

ミアが微笑んだ。

 

「そうだね! そろそろ仕事に戻らないと!」

 

帽子の位置を直しながら、ミアが立ち上がる。

 

「じゃあ、記者さん。楽しい時間をありがとね! また今度お喋りしましょ!」

 

愛想よく手を振っているミア。

ヨウコは鋭い目を向け続けている。

 

「言ったでしょう。必ず、あなたの過去を調べてみせますから」

 

冷ややかで、敵意さえ感じるような声。

ミアが困ったように肩をすくめた。

 

「マユっちー、この人怖いよー。私を守ってー」

 

甘えるように言うミア。

マネージャーが「えっ!?」と驚愕した。

 

「そ、そんなこと言われましても……!」

 

ミア以上に困った表情になるマネージャー。

それを見たミアが、楽しそうに笑った。

 

「冗談だよ~。まーでも、いざとなったらマユっち、私を助けてよね!」

 

「えっ、あっ、うぅ……!」

 

だらだらと汗を流しているマネージャー。

しどろもどろになって、その場で立ち尽くす。

 

軽快な音楽がその場に流れた。

 

「あっ、私だ!」

 

スマホを取り出すミア。

画面の文字を見ると、大きな笑みを浮かべる。

 

スマホを耳に当てて──

 

「ハーイ、サミー!」

 

どこまでも明るく、ミアがそう言った。

 

『仕事の時間だ』

 

挨拶もなく、スマホから声が流れた。

固く、冷たい声で喋る男性。笑顔のままのミア。

 

一方的に、男性が喋り続ける。

 

『……以上だ。分かったか?』

 

「ばっちり! それにしても、すごい偶然だね! たったさっき、その人には運命を感じたばかりなの!」

 

楽しそうに話しているミア。

ヨウコとマネージャーは怪訝そうにミアを見ている。

 

ミアが手を振った。

 

「それじゃあ、また連絡するね! バーイ、サミー!」

 

指を動かし、通話を切るミア。

スマホをしまうと、にっこりと微笑む。

 

「ねぇ、マユっち!」

 

「えっ、あっ、はい?」

 

「私、悪いけど急用ができちゃったの! だからさ、これからの予定は全部キャンセルしといて!」

 

あっけらかんと、ミアがそう告げた。

マネージャーがその場で固まる。

 

「急用? どういうことですか?」

 

口をはさむヨウコ。

ミアが指を伸ばす。

 

「それは、ひ・み・つ!」

 

甘い声を出すミア。

マネージャーがミアに迫った。

 

「じょ、冗談ですよね、ミアさん!? ぜ、全部キャンセルだなんて、そんなことしたら社長に──!!」

 

「大丈夫! 後で私も謝っておくから!」

 

全く大丈夫ではない事を平然と言うミア。

マネージャーが絶句する。

 

煌めくような笑みを浮かべて──

 

「それじゃ、あとはよろしく!」

 

ぽんとマネージャーの肩を叩き、

ミアが颯爽とカフェテリアから飛び出した。

 

「ちょっと、待ちなさい!!」

 

立ち上がるヨウコ。

だがミアの姿は、いつのまにか消えていた。

 

「嘘でしょ……!!」

 

呆然と雑踏の中を見つめているヨウコ。

その横では、マネージャーが真っ白になっている。

 

「……終わった」

 

燃え尽きているマネージャー。

涙を流す悲愴な姿。絶望の化身。

 

「何なのよ、あの子……!!」

 

ヨウコが手を握りしめて、そう呟いた。

 

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