カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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最終楽章 黄昏にたゆたう破滅の使徒①

 

神秘的な光が、辺りを微かに照らしていった。

 

天から降り注ぐ、きらきらとした光の粒子。

辺りを覆っていた闇が、少しずつ萎んでいく。

 

幻想国家――リリカルモナステリオ。

 

宙を泳ぐ桃色の鯨。その背中に広がる学園都市。

闇に支配されていた地が、光によって解放されていく。

 

都市部に建つ、大きな病院の一室で――

 

「い、今のは……!?」

 

頭を抑えながら、竜の少女クラリッサが呟いた。

病衣を着ているクラリッサ。よろよろと、立ち上がる。

 

その顔をしかめながら――

 

「か、解放されたの……?」

 

クラリッサが、警戒するように辺りを見回した。

先程までの光景、深淵に囚われていた記憶が蘇る。

 

悪意に満ちた、忌まわしい記憶が。

 

「昨日から、なんなのよ、いったい……!」

 

愚痴っぽい口調。身体の痛みを感じながら、

クラリッサが窓の外へと視線を向ける。

 

大きく、その目を見開いて――

 

「……え?」

 

呆然としたように、クラリッサが声をあげた。

窓の外に広がる光景に、目を奪われるクラリッサ。

 

残存していた闇が、その場から消え去って――

 

「……ここって」

 

仰向けに倒れた格好のまま、アレスティエルが呟いた。

意外そうな表情。ゆっくりと、その身を起こす。

 

白と黒の羽根が、その場に舞い散った。

 

「……出れた?」

 

のんびりとした口調のアレスティエル。

きょろきょろと、辺りを見渡す。

 

「ロロ? フェルティローザ?」

 

呼びかけるアレスティエル。

辺りに人の気配はなく、返事はない。

 

翼を広げ、飛び上がろうとした瞬間――

 

「っ!?」

 

天を見上げたアレスティエルが、

驚愕の表情を浮かべてその場で固まった。

 

「あれは……!!」

 

緊張したように呟くアレスティエル。

真剣な表情を浮かべ、警戒したように身構える。

 

冷たい風が吹き抜けて――

 

「なんですの、あれは……!?」

 

吸血鬼フェルティローザが、空を見ながら呟いた。

風に吹かれ、その桃色の髪がかすかに揺れる。

 

ぎりっと、歯を喰いしばって――

 

「……皆、どこにいるのです!」

 

大切な妹達と級友の事を想いながら、

フェルティローザが鋭く天を睨みつけた。

 

神秘的な気配が、さらに強まって――

 

「竜……!?」

 

クラリッサがいるのとは別の病室で、

宝石魔法使いのウィリスタが言葉を零した。

 

「なに、なんなの……!?」

 

怯えた表情。

不安そうに、手を握りしめているウィリスタ。

 

じわりと、その目に涙が浮かんで――

 

「ロロ、どこにいるの……!? ロロ……!!」

 

振り絞るように、ウィリスタがそう呟いた。

心の闇の記憶。恐怖に苛まれているウィリスタ。

 

黄昏の空に、神秘的な光が広がって――

 

「…………」

 

地面に倒れ込んでいる猫の少女の身体に、

きらきらとした光の粒子が穏やかに降り注いだ。

 

「…………」

 

ぴくりとも動かず、倒れたままの少女。

粒子が雪のように舞い降り、その身体に溶けていく。

 

深淵が、身を寄せ合うように渦巻いて――

 

「あいつは……!!」

 

空を見上げながら、悪魔が濁った声をあげた。

驚愕と怒りが滲む声。わなわなと震えている悪魔。

 

美しい咆哮が、辺りに響き渡って――

 

銀色の鱗を持つ細身の竜が、翼を広げた。

煌めく光の粒子。銀色の波動が、大気を震わせる。

 

天を漂う細身の竜が、悪魔の姿を見下ろした。

 

「貴様……!!」

 

怒りに満ちた声。敵意の眼差しを向ける悪魔。

竜と悪魔の視線がぶつかり、空気が張りつめていく。

 

幻想的な光景が広がる中で――

 

「……………」

 

悪魔の傍、倒れている猫の少女。

ぴくりと、その手がわずかに動いて――

 

カッと、少女が目を覚ました。

 

「――がはっ!!」

 

空気が勢いよく逆流する音が響く。

げほげほと、苦しそうに咳込む少女。荒い息遣い。

 

激しく息を切らしながら――

 

「こ、ここ、は……?」

 

少女――綺羅星ミアが、うつろな目でそう呟いた。

 

「綺羅星ミア!!」

 

大きく声をあげるヨウコ。

心臓マッサージをしていた手を止める。

 

混乱した様子のミアを、ヨウコが抱きしめた。

 

「良かった、本当に……!!」

 

ぽたぽたと、安堵の涙が落ちる。

呆然としたように、ミアがその顔を見つめた。

 

弱々しい表情を浮かべて――

 

「……ミア、そこにいるの?」

 

ミアが、小さな声で訊ねた。

「えっ?」と、見つめ返すヨウコ。

 

じわりと、紫色の瞳に涙が浮かぶ。

 

「ミア……」

 

手を伸ばすミア。

ヨウコの頬に触れながら、ぼんやりと口を開く。

 

「会いたかった……。お姉ちゃん、がんばったんだよ……。ミアのために、すごくたくさん……。だから……」

 

錯乱しながら話しているミア。

ヨウコは唖然とし、ぽかんと口を開けている。

 

悲しそうな表情を浮かべて――

 

「だから、あの時の、約束……」

 

ミアが、再び意識を失った。

力の抜ける身体。閉じられた目から涙が零れる。

 

ヨウコが言葉を失い、その場に佇んだ。

 

「……あなた、いったい」

 

小さく呟くヨウコ。

気絶しているミアの顔をじっと見つめる。

 

疑念が渦巻く部屋の中に――

 

「なぜ、お前がここに……ッ!?」

 

キョウマの震える声が、静かに響き渡った。

緊張した表情。冷や汗を浮かべているキョウマ。

 

目の前に立つ白い髪の少年に、視線を向ける。

 

「…………」

 

無言の少年。

ゆっくりと、白い部屋の中を見回す。

 

その口を開いて――

 

「――エデンはどこ?」

 

静かに、少年がそう訊ねた。

部屋の中に溶ける声、神秘的な響き。

 

一瞬の間の後、キョウマが目を見開く。

 

「……なに?」

 

「君をディフライドさせたのはエデンだろ? ダークステイツの使徒、暗黒神に心酔する狂気の呪術師、魔巫女エデン」

 

落ち着いた口調。

少年の銀色の瞳が、キョウマを見据える。

 

「もう一度聞く。エデンはどこにいる?」

 

幼い少年の口から放たれる言葉。

それは異様な迫力を宿し、辺りに響いていく。

 

ぶるぶると、その拳を震わせて――

 

「そんなこと、知ったことかッ!!」

 

薙ぐように、キョウマが腕を動かした。

恐怖に怯えた表情。叫ぶような声。

 

キョウマが、少年を指差す。

 

「貴様、ブラントゲートのギーゼの使徒、ファナだな!! いったい何をしに来た!? 我が闇を消し去るとは、いったい何が目的だ!?」

 

怒りと不安。

不安定な感情が入り乱れた声で、訊ねるキョウマ。

 

少年が不愉快そうに、その目を細める。

 

「馴れ馴れしく、呼び捨てにしないでよ」

 

呆れたような口調。

肩をすくめるように、少年が手を広げる。

 

「それに、こちらの僕には乃木(のぎ)マコトという名前がある。呼ぶなら、ちゃんとそっちの名で呼んで欲しいね」

 

冷たく答える少年――マコト。

銀色の瞳が、一瞬だけ光を帯びて輝いた。

 

辺りに、緊迫した空気が流れていく。

 

「何を、ふざけた事を……ッ!!」

 

ぎりぎりと怒りに震えているキョウマ。

邪悪な気配が這い上がり、深淵が溢れ出る。

 

しばしの間の後、マコトがため息をついた。

 

「やれやれ……」

 

諦めたように、視線を伏せるマコト。

 

「ストイケイアの使徒は不在。ガーンデーヴァはクレイに還った。こんな時に、エデンはどこで遊んでるんだ? しかも――」

 

マコトが言葉を切る。

心底、見下したような目を向けて――

 

「ディフライドしている部下の、躾がまるでなってない」

 

「貴様ァ!!」

 

キョウマの声が、空気を引き裂いた。

 

「黙って聞いていれば、舐めた口を!! 俺はこの世界に滅びをもたらし、沈黙を導くために動いていたんだ!! あと少しで、あの国を闇に陥れる事ができたものをッ!!」

 

批難するように叫ぶキョウマ。

マコトが鼻で笑う。

 

「世界を滅ぼし、沈黙を導くだって? 君みたいな弱小君主ごときが、随分と大きくでたものだね」

 

凍えるような言葉。

冷たい目が、キョウマの姿を見据える。

 

「それに、君は負けてたじゃないか。こうして生き残っているのはただの偶然。運命の気まぐれにすぎない」

 

「黙れーッ!!」

 

怒りに顔を歪ませるキョウマ。

マコトは全く動じず、静かに佇んでいる。

 

「なんなの、何が起こってるのよ……?」

 

2人の会話を横で聞くヨウコが、そう呟いた。

理解の範疇を超えた展開。感情が整理しきれない。

 

重苦しく、辺りの空気が沈み込んで――

 

「まったく、仕方ないな……」

 

マコトが、おもむろに視線を伏せた。

 

「質問に答えてあげるよ、バフォルメデス。僕がなぜ、ここに現れたか」

 

静かな口調。

すっと、マコトが指を伸ばす。

 

「そもそも、どうして僕達が君達を無視していたと思う? "終末の使徒"。僕達ギーゼの使徒を模しているのは明らかだ。それがなぜ、咎められなかったか?」

 

問いかけるような言葉。

銀色の瞳が、冷たく揺れる。

 

「簡単だよ。君達ごとき、取るに足らない、偽りの存在だからだ。君達の価値は、せいぜい僕らの隠れ蓑になる程度。だから無視してた」

 

「ッ、貴様ァー!!」

 

怒りで吼えるキョウマ。

マコトが呆れたように、両手を広げる。

 

「本当の事でしょ。君達に関わる価値はない、だから無視していた。これ以上、分かりやすい答えがある?」

 

「ならば、今更何をしにきたというのだッ!! そのまま大人しく、引っ込んでいればよかったものを!!」

 

荒々しく訊ねるキョウマ。

紅蓮色の瞳が、マコトの姿を睨むように捉える。

 

ゆっくりと、マコトがその口を開いた。

 

「その通り。僕は本当に、君達に関わる気はなかった。そもそも、君を管轄しているのはエデンだ。わざわざ干渉する必要もない。だけど――」

 

途切れていく言葉。

マコトの雰囲気が変わっていく。

 

銀色の瞳が、強烈な光を放って――

 

「――お前がギーゼ様の名を騙るなら、話しは別だ」

 

低い声が、その場に響き渡った。

その全身から吹き出る鋭い殺気。凄まじい威圧感。

 

びくりと、キョウマが身を仰け反らす。

 

「なっ……!?」

 

絶句しているキョウマ。

信じられない物を見るように、目を見開く。

 

マコトがキョウマを指差した。

 

「バフォルメデス。お前は愚かにも自らがギーゼ様の生まれ変わりだと嘯き、偽りの先導者として君臨した……」

 

低い声で喋っているマコト。

鋭い視線が、射抜くようにキョウマを貫く。

 

「それは決して、許されぬ罪。この世の何よりも重い業。お前は超えてはいけない一線を踏み越えたんだ。下らない、自らの虚栄心のためにね……」

 

恐ろしいまでの迫力。

真っ白な殺意が、黒い闇を飲み込んでいく。

 

鋭い殺気を立ち込めながら――

 

「バフォルメデス。お前に選ばせてやる」

 

マコトが、手をかざした。

 

「このまま自らディフライドを解除してクレイに帰還し、生き恥を晒しながら未来永劫に渡り僕らの奴隷として永遠に仕えるか――」

 

淡々と語っているマコト。

銀色の瞳が、神秘的な輝きを讃えて――

 

「ここで僕に粛清されるか、今すぐ選べ」

 

マコトの言葉が、白い部屋の中に溶けて消えていった。

凄まじいまでの威圧感。歪んでいく空間。

 

鋭い気配を漂わせながら、マコトが沈黙する。

 

世界が死んだような静寂。無言の空間。

緊張に満ちた光景を、ヨウコが不安そうに眺める。

 

沈黙がもたらす安寧を壊すように――

 

「……ふっ」

 

キョウマの口から漏れる音。

大きく、その腕を振りかざして――

 

「ふざけるなァァァッ!!」

 

悪魔の絶叫が、その場に響いた。

 

「なにが粛清だ、偉そうにッ!! お前ごとき小童が、この俺にッ!! 運命に選ばれた者にッ!! 勝てると思っているのかッ!!」

 

身を乗り出すように、叫ぶキョウマ。

マコトがその目を細める。

 

「お前……本気で言ってるの?」

 

威圧的な口調で訊ねるマコト。

キョウマが「うるさいッ!!」と声を荒げる。

 

「俺は今ッ!! 運命の全てを操る力を手に入れているッ!! 祈り聞く者だろうが、ギーゼの使徒だろうが、我が力の前には無力ッ!! 塵芥にすぎないッ!!」

 

自らに言い聞かせるかのような声。

紅蓮色の瞳と手の紋章が、眩い光を放つ。

 

デッキを掲げて――

 

「俺こそが運命を司る存在ッ!! 究極の、神だーッ!!」

 

キョウマが天を仰ぎながら、喚いた。

闇が這い上がり、邪悪な気配が強まっていく。

 

「…………」

 

無言で、その様子を眺めているマコト。

思案するかのように、その銀色の瞳が揺れる。

 

やがて、その場で短く息を吐くと――

 

「エデンの奴……力を与える時の調整をいい加減にやったな。暴走してるぞ……」

 

呆れたように、マコトがそう呟いた。

面倒くさそうな表情。額に手を当てているマコト。

 

白銀のデッキケースを取り出して――

 

「……まぁ、仕方ないか」

 

諦めたような声を、マコトが出した。

溢れ出る鋭い気配。異様なまでの威圧感。

 

銀色の瞳の中、神秘的な光が渦巻いて――

 

「なら、格の違いを思い知らせてあげるよ」

 

マコトが、デッキホルダーを構えた。

神秘の白と邪悪な黒。それぞれの色がぶつかり合う。

 

激しい殺気と威圧感が辺りを渦巻いて――

 

ファイトテーブルを挟み、両者が睨み合った。

 

「…………」

 

淡々と、デッキをシャッフルしているマコト。

キョウマには目もくれず、ファイトの準備を進める。

 

目の前にカードを叩きつけて――

 

「貴様は、神である俺を怒らせたッ!!」

 

吼えるように、キョウマが叫んだ。

 

「さっきまでの遊びとは違い、全力でやらせてもらうッ!! 冥府の劫火に飲み込まれ、死の最中に後悔するといいッ!!」

 

喚き散らしているキョウマ。

荒々しい手つきで、カードを置いていく。

 

闇がその身に集い、深淵が床から這い上がった。

 

「どうでもいいさ。結末は同じだ」

 

興味なさそうな口調。

淡々と、マコトがカードを並べていく。

 

古い紋章が描かれたスリーブのカードを置いて――

 

「お前の運命は、ここで終わる」

 

どこまでも冷静に、マコトがそう宣告した。

冷ややかな表情。微動だにしていない心。

 

神秘的な気配を纏いながら、指をカードの上に置く。

 

その目を閉じて――

 

「ギーゼ様……」

 

おもむろに、口を開くマコト。

仰々しく、自らの胸に手を当てながら――

 

「この戦いを、あなた様に捧げます」

 

マコトが、祈りを捧げるような声でそう話した。

唸るような声を出すキョウマ。鋭い視線を向ける。

 

「下らない真似をッ!! さっさと始めるぞッ!!」

 

急かすような宣言。

キョウマもまた、指をカードの上に乗せる。

 

向かい合う2人の身体から、殺気が溢れた。

 

壮絶なまでの緊張感。ぶつかり合う殺意。

観戦するヨウコが、恐怖で身震いする。

 

「なによ、これ……!!」

 

怯えた表情のヨウコ。

気絶しているミアを抱き寄せ、身を縮こませる。

 

しゃらんと、懐中時計が揺れる音が響いて――

 

「スタンドアップッ!!」

 

白い部屋の中に叫ぶ声。

指がカードを掴んで――

 

「Z」

 

禍々しい響き。

空気が歪むようにうねり、そして――

 

「ヴァンガード!!」

 

2枚のカードが、テーブルの上で表になった。

 

「《クロックハンズ・ドラコキッド》ッ!!」

 

 

クロックハンズ・ドラコキッド

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ダークステイツ - ギアドラゴン 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― さぁ、一緒に時間を進めに行こう!

 

 

キョウマの場で表になる1枚。

歯車で出来た杖を持つ小さな竜。勇ましい姿。

 

そして、それに対峙するのは――

 

「《魅天のゲフィオン》」

 

 

魅天のゲフィオン

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ブラントゲート - ノーブル 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― 滅びゆく世界に、魂の手向けを。

 

 

マコトの場で表になった1枚。

そこに描かれているのは、美しい女神。高貴なる姿。

 

2枚のカードが、運命に導かれて向かい合う。

 

「魅天の、ゲフィオン……!?」

 

見たことのないカード。

呆然としながら、ヨウコが呟く。

 

殺気を纏いながら――

 

「消してやるよ、バフォルメデス」

 

マコトの瞳の中で、銀色の光がたゆたった。

 

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