カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
穏やかな波の音が、辺りに響いていた。
降り注ぐ月の光。夜の砂浜。
森の方からは、鳥が鳴く声が響いている。
波打ち際、星の輝きに照らされながら──
「……にゃ?」
猫の少女が、ゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした表情。頭を抑えながら立ち上がる少女。
ぱちくりと、まばたきをして──
「……ここ、どこなのです?」
辺りを見回しながら、少女──ロロネロルが呟いた。
目の前に広がる平穏な風景。どこかの浜辺。
ぱちぱちと、焚き木が燃える音が辺りに響く。
「えーと……」
ロロネロルが、記憶をたぐり寄せた。
「ろろ、確かアレスティエルと寮にいて……。それで、目の前が真っ暗になって。それから、いけすかない感じの変な悪魔と戦って。それから、それから……」
ぶつぶつと呟いているロロネロル。
悩ましげな表情で、腕を組む。
ハッとなって──
「そうだ。あの時、声が聞こえたのです!」
ロロネロルが、ぽんと手を叩いた。
ぴょこぴょこと動く耳。尻尾が揺れる。
「思えばここ最近……変な出来事に巻き込まれるようになってから、たまにそんな感覚がある時があったのです。ろろじゃない、誰かの意志で動いているような……!」
難しそうに考え込むロロネロル。
自らの手を、ロロネロルが見つめる。
「まさか、これって……!!」
きわめて真剣な顔つき。
ロロネロルが、ある一つの考えに至る。
ごくりと、唾を飲み込んで──
「ろろ、霊媒師の才能があったのです……!?」
ロロネロルが、そう結論を下した。
巫女の格好をした自分の姿を想像しているロロネロル。
焚き火の向かい、暗い影が蠢いて──
「お主、何を言っておるんじゃ?」
呆れたような声が、その場に響いた。
「にゃっ!?」と驚愕し、振り返るロロネロル。
大きく、欠伸をしながら──
「こんな夜更けに騒がしい奴じゃのぉ。お主、夜行性なのか?」
金髪の狐耳の少女が、そう訊ねた。
小柄な体躯。東洋の巫女を思わせる格好。
梔子色の瞳が、ロロネロルの姿を見据えている。
「んん……?」
じっと、少女を見つめているロロネロル。
思考と記憶が結びつき、そして──
「あ、あーっ!! いつかの呉服屋さんなのです!!」
驚愕の声と共に、ロロネロルが少女の事を思い出した。
やれやれと、狐耳の少女が首を振る。
「それも間違ってはおらんが、ワシの名前はメガロノヅチじゃ。この前、ちゃんと名乗ったと思うがの」
呆れたような目を向ける少女──メガロノヅチ。
ロロネロルが緊張したように身構えた。
「い、いったい何の用なのです! まさかまた、ろろを食べる気なのですか!?」
おっかなびっくりとした表情。
その毛並みが、威嚇するように逆立つ。
メガロノヅチが手をひらひらとさせた。
「そう怖がるでないわ。ワシはこの浜辺に流れ着いていたお前を助けてやった、言うなれば命の恩人なのじゃぞ?」
「……えっ?」
ぽかんとした顔のロロネロル。
メガロノヅチが目をつぶり、腕をくむ。
「まぁ、あの時はワシも悪い事をしたとは思っておったからの。ゆえに、こうしてお主を助けてやったのじゃ。これで貸し借りはなしじゃぞ」
うんうんと頷いているメガロノヅチ。
ロロネロルがぽかんと口を開ける。
おそるおそる、ロロネロルが手をあげた。
「あの……ここ、どこなのです?」
不安そうな表情。
メガロノヅチが地面を示す。
「ドラゴンエンパイア領。東都の外れにある浜辺じゃ」
「ドラゴンエンパイア……。どうして、ろろはここに?」
「知らん。日課の散歩をしておったら、浜に打ちあげられているお主を見つけたのじゃ。あの時は心臓が止まるかと思ったぞ」
淡々とした口調で話すメガロノヅチ。
頬づえをつくと、大きく息を吐く。
「そこからは、世界中が大騒ぎじゃ。龍樹の侵攻といい、今回のリリステでの一連の事件といい、隠居する暇もないのぅ。まったく嘆かわしい事じゃ」
「そう、そうなのです! 最近、リリカルモナステリオでは事件が続いていて……」
途切れる言葉。
ロロネロルが大きく目を見開いた。
「リリカルモナステリオ!! リリカルモナステリオは、皆はどうなったのですか!?」
慌てた声を出し、詰め寄るロロネロル。
メガロノヅチが手を前に出した。
「心配するでない。リリカルモナステリオは北都の辺りに緊急着陸したと聞いておる。怪我人は出たようじゃが、死んだ者はおらぬ。全員無事じゃ」
はっきり、そう答えるメガロノヅチ。
ロロネロルが安堵の息を吐き、へなへなと座り込んだ。
「よ、良かったのですぅ……」
胸に手を当てているロロネロル。
メガロノヅチが「あー」と声を出す。
「安心しているところ悪いが、実は一人だけ行方不明者がおるぞ。おかげで、世間はその話でもちきりじゃ」
「えっ!? そんな、誰のことです!?」
びっくりとした様子のロロネロル。
メガロノヅチが袖元からスマホを取り出した。
画面をロロネロルへと向けて──
「決まっておろう。お主の事じゃ」
きっぱりと、メガロノヅチがそう宣言した。
画面上、様々な写真が掲載されているページ。
だらしなく昼寝をしているロロネロルの姿が現れる。
「にゃ……?」
画面を見て、声を漏らすロロネロル。
一瞬、その思考が理解を拒み、そして──
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」
ロロネロルの口から、奇っ怪な悲鳴が放たれた。
島中に響き渡る高音。鳥達がばさばさと飛んでいく。
メガロノヅチが耳を抑えた。
「おい、真夜中じゃぞ! やかましい!」
ぴしゃりと言うメガロノヅチ。
ロロネロルが立ち上がり、顔を赤青とさせる。
「なっ、なっ、なんなのですか、この写真はッ!? こんな、こんなあられもないろろの姿が、どうしてッ……!?」
スマホを指差しているロロネロル。
メガロノヅチが掲載された文章を読み上げる。
「『リリカルモナステリオの歌姫、ロロネロルを偲んで。あなたの歌を、私達は忘れない』感動的なフレーズじゃ。生前のお主の姿を集めたページらしいぞよ」
「生前っ!? ろろ、生きているのです!!」
「それはそうじゃが、今の所それを知る者はワシと従者のコダマしかおらん。扱いは行方不明じゃが、世間的にはほぼほぼ死人扱いじゃ」
冷たく言い切るメガロノヅチ。
ロロネロルの顔から血の気が引いていった。
「そんにゃ……!! そんにゃ……!!」
絶望的な表情。
ロロネロルがその場に崩れ落ちた。
漆黒の海、星空の下で──
「もうダメなのです……!! ろろのあんな姿が世界に公開されて……!! ろろ、もうお嫁にいけないのですぅぅぅ……!!」
唸り声のような声が、海岸に響いていった。
悲愴な表情。しくしくと涙を流すロロネロル。
メガロノヅチがため息をついた。
「やれやれ、しょうがないのぅ」
呆れたような口調。ゆっくりと立ち上がると、
メガロノヅチが突っ伏すロロネロルを見下ろす。
ぱんと、メガロノヅチが勢いよく手を叩いた。
「ほれ、泣いている場合ではないぞ! お主には、聞きたい事が山ほどあるのじゃ」
「き、聞きたい事……? ろろ、そんな気分じゃないのです!」
「気分の問題ではない! 世界の危機なのじゃぞ!」
強い口調で言うメガロノヅチ。
ロロネロルが「にゃ……?」と顔をあげる。
メガロノヅチの梔子色の瞳が、ロロネロルを見据えた。
「言っておくが、お主が思っているより事態は深刻じゃ。ゆえに、ワシはお主の見た事を全て聞く必要がある。そうすれば今後の事も考えられるはずじゃ」
「そ、そんな事、急に言われても……」
「口ごたえするでないわ! 特に、最後に現れたと報道されている竜について聞きたい。御託はいいから、全部話すのじゃ」
ちょいちょいと手を動かし、促すメガロノヅチ。
ロロネロルがぐすんと鼻を鳴らした。
ゆらりと、その身体を起こす。
「……分かったのです」
険しい表情。
ロロネロルが、ぐっと拳を握り固める。
悔しそうに涙を流しながら──
「これも全部、あの悪魔みたいな奴が悪いのですーッ!!」
ロロネロルが、叫ぶようにそう宣言した。
波が押し寄せて、波打ち際で大きな音が上がる。
ロロネロルが早口に、今までの出来事を話していった。
無言のまま、聞き入るメガロノヅチ。
静かな浜辺に、ロロネロルの声だけが響く。
拳を勢いよく突き上げて──
「それで!! 最後にろろの全身から不思議なパワーがぐわーんって爆発して!! スーパーウルトラスペシャルろろパンチを決めようとした瞬間!! 世界が真っ暗になってしまったのですッ!!」
ロロネロルが、そう話しを締めくくった。
果てしない沈黙。無表情のメガロノヅチ。
ぱちぱちと、焚き木が燃える音が響いて──
「……お主、説明が下手すぎないか?」
呆れたように、メガロノヅチがそう言った。
ロロネロルが「にゃあっ!?」と衝撃を受ける。
やれやれといった様子で、メガロノヅチが腰を下ろす。
「まぁ、よい。おおよその事情は分かった。やはり、バフォルメデスの奴が暗躍していたか」
「バフォル……? あの悪魔のことなのです?」
訊ねるロロネロル。
メガロノヅチが「うむ」と頷いた。
「古い知り合いじゃ。昔はあれで、領主として民の事を考えている奴だったんじゃが、いつのまにか姿をくらましていてな。元から手段を選ばない奴ではあったが……」
視線をそらすメガロノヅチ。
どこか残念そうに、その目を細めて──
「邪法に手を出すとは、愚かな奴じゃ……」
ぼそりと、メガロノヅチが呟いた。
複雑な想いを感じさせる言葉。憂うような表情。
燃える炎が、その横顔を照らしていた。
「それで」
ロロネロルの方へと向き直るメガロノヅチ。
「その後の事は、何も覚えておらんのか?」
「はい! 目が覚めたらここにいたのです!」
元気よく答えるロロネロル。
メガロノヅチがため息をついた。
「胸を張って答えるでないわ、うつけ者め。じゃが、そうなるとあの竜について知っているとしたら、別のリリカルモナステリオの連中くらいか」
難しそうな表情になるメガロノヅチ。
ロロネロルが手をあげた。
「あの、さっきから言ってる竜って、何の話しです?」
「……お主、気を失っていたから知らぬのか」
合点がいったように言うメガロノヅチ。
ロロネロルが首をかしげた。
スマホの中、ニュース映像が流れて──
「こ、これって……!?」
ロロネロルが、驚いたように声をあげた。
手振れの酷い映像。悪魔と対峙する細身の竜の姿。
神秘的な光が放たれた瞬間、映像がぷつりと途切れた。
「さっき映ってたの、そのバフォルなんとかっていう悪魔なのです! でも、もう1体の竜の方は……?」
混乱した様子のロロネロル。
メガロノヅチが深く息を吐き、目を閉じた。
胡坐をかき、顎を手にのせながら──
「ワシの考えが間違ってなければ、おそらくあれは3000年前の亡霊じゃ」
「亡霊!? つまり、幽霊なのですか!?」
ロロネロルの頭の中、フェルティローザがピースする。
メガロノヅチが手を振った
「そういう意味ではない。じゃが、非常に厄介な連中なのは確かじゃ。それこそ、こっちの世界と向こうの世界、両方を揺るがす程にな」
「こっち……? 向こう……?」
目をぐるぐるとさせているロロネロル。
難しそうな話を前に、まるで理解が追いつかない。
メガロノヅチが真剣な表情を浮かべた。
「お主に教えてやろう。この惑星クレイに伝わる3000年前の伝説を。二つの世界を繋ぐ"祈り聞く者"、そして──」
言葉を切るメガロノヅチ。
梔子色の瞳の中、星の光が映って──
「──ギーゼの使徒と呼ばれる連中の事を」
メガロノヅチの低い声が、その場に響き渡った。
星空の下、話し込む2人の少女の姿。
漆黒の星海に、いくつもの流れ星が落ちて──
地平線の向こう、太陽がその姿を現した。
柔らかな朝の日差しが、海岸を淡く照らす。
「……朝か」
むくりと起き上がるメガロノヅチ。
規則的な波の音。美しく輝く青い海。
燃え尽きた焚き木からは、黒い煙が上がっている。
「ほれ、起きんか、寝坊助め!」
横で眠るロロネロルに向かって、
メガロノヅチが大きく呼びかける。
うっすらと、その目を開いて──
「にゃー……?」
いかにも眠そうに、ロロネロルが返事をした。
メガロノヅチが海岸の端を指差す。
「向こうに湧き水がある。顔を洗ってこい!」
「にゃー……」
のそのそと起き上がるロロネロル。
ふらふらとした足取りで砂浜を歩いていく。
ぱしゃぱしゃと水の音が響いて──
「……うん、目が覚めたのです」
水を滴らせながら、ロロネロルがそう呟いた。
冷たい湧き水が溜まった窪み。鳥達の鳴き声。
水面に映る紫色の瞳の中に、朝日が映って輝きを見せる。
「準備はできたか?」
訊ねるメガロノヅチ。
ロロネロルが身体を伸ばし、頷いた。
「はい! ろろ、世界を救うのです!」
単純明快な答え。
明るい笑顔を浮かべ、ロロネロルが拳を構える。
メガロノヅチが怪訝そうに目を細める。
「お主、本当に一人で平気なのか? そもそも、お主の言う方向に例の竜はおるのか?」
疑わしそうな口調。
メガロノヅチがじとっとした目を向ける。
ロロネロルが胸を張った。
「はい! なんとなくですけど、ろろはそう確信しているのです! だから平気なのです!」
自信に満ちた声。
ロロネロルがはっきりと、そう断言した。
まるで、自らの運命を感じ取っているかのように。
「……そうか」
それ以上、何も訊ねずにいるメガロノヅチ。
すっと、その手を前にかざす。
「それでは、いくぞ」
「はい! 呉服屋さん、ありがとうなのです!」
無邪気に頭を下げるロロネロル。
メガロノヅチが複雑そうな顔になる。
ロロネロルの足元に、黒い影が現れて──
少女の姿が影に飲み込まれ、音もなく消え去った。
取り残されるメガロノヅチ。一人きりの空間。
穏やかな朝の景色だけが、その場に広がっている。
「…………」
ロロネロルが消えた空間を、
無言で見つめているメガロノヅチ。
波が岩に打ち付けられる音が、辺りに響き渡る。
「……やれやれ、仕方がないのぅ」
諦めたように呟くメガロノヅチ。
何かを決意したかのように、肩をすくめる。
北の方角に視線を向けながら──
「もう一度、足を踏み入れるとするか」
メガロノヅチの足元に、黒い影が現れた。
朝日が昇り、柔らかな光が部屋に差し込んだ。
爽やかな空気。青く広がる空。
一日の始まりを告げる風が吹き抜けていく。
大きく、身体を伸ばして──
「さーて、そろそろ行こうかな~」
綺羅星ミアが、のんびりとした口調でそう言った。
大きくあくびをするミア。気の抜けた表情。
ヨウコが神妙な表情で、その姿を見つめる。
「本当に、行く気なんですか?」
「仕事だからねー。ほら、私って社畜だから~」
からかうような声。
へらへらとした笑みを浮かべているミア。
ため息をつくと、ヨウコが腕を組む。
「昨日の話しだと、あなたの上司は"上の判断を仰ぐから待て"と言ってませんでしたか? 勝手に行動するのは命令違反ですよね?」
「そんな細かい事、気にしなくていいのよ」
さらりと言い切るミア。
スマホの画面をタッチしていく。
「待つだなんて時間の無駄。それより、さっさと動いた方がいいに決まってるわよ。世界が滅ぶよりマシだし」
「…………」
顔をしかめるヨウコ。
反論しようにも、言葉が出てこない。
スマホを片手に、ミアが口元に手をあてた。
「近くにあるカードショップはこんなものね。とりあえず、近い所から探していこうかしら。目当てのカードがあるといいんだけど……」
ぶつぶつと呟くミア。
頭の中に、店の位置を刻み込んでいく。
サングラスを取り出すと──
「じゃ、そういう訳だから! ありがとね、記者さん!」
ミアが、にっこりと笑みを浮かべて手を挙げた。
きゃぴきゃぴとした雰囲気。明るい表情のミア。
とても、これから決戦に向かう姿には見えない。
「…………」
渋い表情を浮かべているヨウコ。
やがて、諦めたようにため息をつくと──
「……一つ、聞いてもいいですか?」
おもむろに、ヨウコがそう訊ねた。
ミアが首をかしげる。
「なに?」
「要するに、あなたは普通の人とは違う、スーパーパワーを持ってるって事ですよね。コミックのヒーローみたいに」
「まぁね~。ヒーローって柄じゃないけど」
手をひらひらとさせるミア。
まるで他人事のように軽い口調で話す。
ヨウコが鋭い目を向けた。
「その力、危険性はないんですか?」
「危険性?」
訊ねるミア。
ヨウコが睨むような表情になる。
「そんな人間離れした異常な能力を持って、全く何のリスクもないと言うんですか?」
どこか責め立てるような響き。
ミアが「あー」と言い、視線をそらす。
「それが、特に何もないのよね~」
あっけらかんとした様子のミア。
ヨウコが冷たい目を向ける。
「なるほど。つまり、あの時ファイトの最後で心肺停止になったのは、ただの偶然ということですか?」
「…………」
「もう一度だけ聞きます。その力に、危険性はないんですか?」
刺々しい口調のヨウコ。
ミアが黙り込み、その瞳が暗く沈み込んだ。
鳥が飛び立つ音が、辺りに響き渡る。
「……そうね」
ぽつりと、ミアが言葉をこぼした。
「今の私って、向こうの星の運命に勝手に干渉してる状態みたいなの。だから、そのしわ寄せみたいなのはあるわ」
「しわ寄せ?」
「そう」
頷くミア。
自らの胸に手を置いて――
「これ以上運命を無理やり変えようとすれば、今度こそ私は死ぬ」
ミアが、あっさりとそう断言した。
苦い表情になるヨウコ。その顔に影が差す。
2人がしばし、無言で見つめ合った。
「……そうですか」
ゆっくりと、ヨウコが口を開いた。
それ以上は何も言わないでいるヨウコ。
ミアが面白そうに微笑む。
「それだけ? 止めたりしないの?」
フッと、ヨウコが鼻で笑う。
「止めて聞くような人じゃないでしょ、あなた」
「まぁね~」
否定しないでいるミア。
呆れたように、ヨウコが再びため息をついた。
窓の外、穏やかな朝の光景を見つめながら──
「……どうして、こんなに正直に話してくれるんです?」
ゆっくり、ヨウコがそう訊ねた。
ミアが微笑む。
「まぁ、約束したからね。それにさ、最後くらい、誰かに話したい気分だったのよ」
最後くらい。
何気なく、ミアが言葉を選ぶ。
ヨウコが顔をしかめ、うつむいた。
「……あなた、やっぱり」
震える声で呟くヨウコ。
その手をあげて──
「じゃあ、私、いかないといけないから」
ミアが、にっこりと微笑んだ。
煌めく笑顔。きらきらとした立ち姿。
紫色の髪を揺らして──
「それじゃあね、記者さん。妹さんと仲良くね」
ミアが背を向け、歩き出した。
ヨウコが「待っ……!!」と言いかけ、手を伸ばす。
扉の閉まる音が響き、辺りに静寂が訪れた。
「…………」
手を伸ばした格好のまま固まっているヨウコ。
力なく、伸ばした手を下ろす。
ぎゅっと、手を握って──
「……私は」
呟くヨウコ。あらゆる考えが頭の中に浮かんでいく。
キッと、ヨウコが鋭い目を向け、そして──
扉の開く音が、辺りに響いた。
夕暮れが淡く、白い校舎を照らしていた。
人通りの多い道路。子供たちの声。
ランドセルを背負った児童が、駆け抜けていく。
「せんせー、さようならー!!」
元気いっぱいに響く声。
がやがやと、騒がしい空気が辺りを流れていく。
校門から、一人の生徒が道へと歩き出て──
「こんにちは!」
待ち構えていたかのように、少女が少年に声をかけた。
顔をあげる幼い少年。白い髪がかすかに揺れる。
にっこりと、綺羅星ミアが笑顔を作った。
「はじめまして、異世界からの来訪者さん!」
親しみを込めた口調。
紫色の瞳が、少年の姿を見据える。
わずかにその目を細めて──
「あぁ、あなたでしたか」
少年──乃木マコトが、落ち着いた口調でそう答えた。
幼い姿とは裏腹の、どこか大人びた雰囲気。冷静な表情。
夕暮れの光に照らされて、2人が向かい合う。
「何か用ですか?」
ミアを見上げながら、訊ねるマコト。
悪戯っぽく、ミアが微笑んだ。
「ちょっと付き合って欲しいのよ。いいかしら?」
「…………」
思案するような沈黙。
銀色の瞳の中で、夕焼けの色がたゆたう。
フッと息を吐き、マコトが手を広げた。
「まぁ、いいですよ」
ゆっくりと答えるマコト。
その振る舞いからは、どこか傲慢な雰囲気が漂う。
ミアが微笑んだ。
「じゃあ、付いてきて」
手招きするミア。
そのままコツコツと、道なりに歩き出す。
「……ふん」
短く声をあげるマコト。
ランドセルを背負い直すと、ミアの後を追う。
黄昏の刻。2人がしばし、歩き続けていった。
「…………」
「…………」
何も喋らず、無言でいる2人。
周囲の音だけが、その場を通り過ぎて、消えていく。
大通りへ出て、道を進み、入り組んだ路地に入って──
2人の前で、空間が開けた。
「到着~」
ゆるい口調で話すミア。
振り返ると、目の前に広がる光景を手で示した。
廃墟のような雑居ビルの隙間にある、忘れられた地を。
「随分と寂しい場所ですね」
辺りを見回しながら、口を開くマコト。
ミアが得意そうに目を閉じた。
「良い所でしょ~。ここなら、誰にも見られないわ」
ふふんと笑っているミア。
マコトがランドセルを地面に下ろす。
「そうでもありませんね。現に、僕はここで君達とエレドグレーマが戦うのを見ていました」
「えっ、そうなの!?」
驚くミア。
マコトが廃墟ビルを指差した。
「そこのビルの屋上で。その時は終末の使徒とやらの調査のつもりでしたが、まさか祈り聞く者を見つけるとは思いませんでした」
「祈り聞く者?」
何気なく訊ねるミア。
マコトが小さく、肩をすくめた。
「3000年前の御伽噺ですよ。それに、あなたはどうやら本物ではないみたいだ。人間というのは、時に僕達の理解を超えるみたいですね」
淡々と話しているマコト。
おもむろに顔をあげると、視線を向ける。
白い殺気が渦巻いて──
「──それで、どうして僕の居場所が分かった?」
威圧感を感じさせる幼い声が、その場に響いた。
溢れ出る神秘的な気配。辺りの空気が張り詰める。
緊迫した空気の中、ミアが口を開いた。
「名前よ」
目を閉じているミア。
マコトが首をかしげる。
ミアがくるくると、指を振った。
「乃木マコト。あなた、そう名乗ってたでしょ。クレイじゃどうか知らないけど、こっちの星だと名前が分かれば色々と調べられるのよ」
「……なるほど、そういうことか」
納得したように言うマコト。
はぁと、その場で大きくため息をつく。
「案外、不便なものだね。人間の暮らしというのも……」
人間離れした発言。
ぶつぶつと呟いているマコト。
ミアがにっこりと、笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、改めて自己紹介しましょう!」
場違いな程、明るい口調。
ばっと、ミアがポーズを決める。
「私は綺羅星ミア! 煌めく星の歌姫よ!」
「……煌めく、歌姫?」
怪訝そうな顔のマコト。
ミアが両手を伸ばし、天を仰いだ。
「その通り! いずれは全世界に、ミアの名前を轟かせる予定だから! 応援よろしくね~!」
きゃぴきゃぴとした口調。
いかにも作ったような声で話しているミア。
マコトが呆れたような目を向けた。
「戯言に付き合う気はない。話があるなら、早く言ってくれませんか」
冷たい声で言うマコト。
見下したような視線を向け、腕を組む。
しばしの沈黙の後、ミアの笑顔がため息と共に崩れた。
「まったく、ノリが悪いわね……」
頬をかくミア。
仕方なさそうに、前を向く。
「なら、聞かせてもらうわ。あなたがクレイからの侵入者で、ディフライダーって呼ばれる存在で間違いないわね?」
「あぁ、その通り。侵入者呼ばわりは心外だけどね」
マコトが手を広げる。
「僕らはこの世界に、永遠の沈黙という救済を与えに来たんだ。いうなれば、救いの女神というやつだ」
淡々とした口調。
ミアが鼻で笑う。
「まぁ、呼び方については後で検討するわ」
紫色の瞳が、マコトの姿を見据える。
「それで、あなたはその子の身体を乗っ取ってる訳?」
「乗っ取ってるとは人聞きが悪い。僕らは運命を共にしているだけだ。君達のように」
冷たい声色。
マコトが銀色の瞳を向ける。
「この身体の持ち主は、今は安寧なる眠りの中にいる。穏やかに過ごしているし、たまに僕と会話もしているよ」
「それはそれは、優しいのね」
皮肉めいた口調。
ミアがゆっくりと、不敵な笑みを浮かべた。
「それで――あなた達が、世界を滅ぼしたがってるギーゼの使徒って奴なのよね?」
鋭い声色で訊ねるミア。
紫色の瞳が、かすかに光を宿す。
マコトが真っすぐに、ミアを睨み返した。
「その通り。真なる平和のためには、この世界と向こうの世界には消えてもらう必要がある。世界は、沈黙しなければならない」
「なるほどね~」
頷くミア。
可愛らしい動きで、小首をかしげる。
「やめてって言っても、聞いてくれないんでしょ?」
「答えるまでもない」
あっさりとした口調。
マコトがミアの姿を見据えた。
「だからこそ──僕を、ここに連れてきたんだろ?」
鋭い雰囲気のマコト。
その視線が、ミアの奥の空間へと向けられる。
廃棄され錆びついた、ファイトテーブルの方へ。
「本当、話しが早くて助かるわね」
にこにことしているミア。
どこからか、紫色のデッキケースを取り出す。
2人の視線が空中でぶつかり、そして──
ミアとマコトが、ファイトテーブルを挟み向かい合った。
「…………」
「…………」
睨み合っている両者。
互いに淡々と、ファイトの準備を進めていく。
デッキをテーブルに置いて──
「まったく、理解できないね。人間は」
神秘的な気配を纏いながら、マコトがそう呟いた。
テーブルの上、カードを並べていくマコト。
銀色の瞳が、一瞬だけ光を帯びて輝く。
「力の差は歴然だ。なのに、勝てないと分かっていながら、挑んでくるだなんてね」
威圧的な口調。
白い殺意が渦巻き、マコトの身体から滲み出る。
「えぇ、そうかもしれないわね」
微笑みながら答えるミア。
淡々と、カードを並べていく。
「それでも、私はやらなきゃいけないのよ。この世界を守るためにね」
淡々と話しているミア。
マコトが見下したような目を向ける。
「そう。なら、君達も導いてあげるよ。永遠に続く、安らぎの沈黙へ」
唄うような口調。
マコトの目の前、裏向きの1枚が静かに置かれる。
胸に手を当てて――
「ギーゼ様……」
マコトが、その目を閉じてカードに指を置いた。
「この戦いを、あなた様に捧げます」
祈りを捧げているマコト。
白く神秘的な気配が渦巻き、辺りに溢れた。
ミアもまた、目の前に裏向きのカードを置く。
「……ロロ、ミア」
ぼそりと呟くミア。
様々な想いが、頭の中を駆け巡っていく。
「これが、最後だよ……」
決意を込めた言葉。
ミアが前を向き、紫色の瞳を向ける。
すっと、その指をカードへと伸ばして――
「はじめるわよ」
ミアの言葉が、その場に響いた。
目を開くマコト。銀と紫の色が混じり合う。
厳かな雰囲気が辺りを支配し、そして――
「スタンドアップ!!」
廃墟に響き渡る声。
銀色の光が瞬いて――
「Z」
世界を揺らす言葉。
それぞれの指がカードを掴み――
「ヴァンガード!!」
運命のカードが、向かい合った。
「《歌を届けるために ロロネロル》!!」
歌を届けるために ロロネロル
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!
「《魅天のゲフィオン》」
魅天のゲフィオン
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ブラントゲート - ノーブル
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 滅びゆく世界に、魂の手向けを。
対峙する2枚。
盤面の上、女神と猫の少女が表になる。
しゃらんと、懐中時計が揺れる音がして――
「運命の前に、ひれ伏すがいい」
マコトの言葉が鋭く、その場に響き渡った。