カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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最終楽章 世界を救う二人の歌姫②

 

穏やかな波の音が、辺りに響いていた。

 

降り注ぐ月の光。夜の砂浜。

森の方からは、鳥が鳴く声が響いている。

 

波打ち際、星の輝きに照らされながら──

 

「……にゃ?」

 

猫の少女が、ゆっくりと目を開けた。

ぼんやりとした表情。頭を抑えながら立ち上がる少女。

 

ぱちくりと、まばたきをして──

 

「……ここ、どこなのです?」

 

辺りを見回しながら、少女──ロロネロルが呟いた。

目の前に広がる平穏な風景。どこかの浜辺。

 

ぱちぱちと、焚き木が燃える音が辺りに響く。

 

「えーと……」

 

ロロネロルが、記憶をたぐり寄せた。

 

「ろろ、確かアレスティエルと寮にいて……。それで、目の前が真っ暗になって。それから、いけすかない感じの変な悪魔と戦って。それから、それから……」

 

ぶつぶつと呟いているロロネロル。

悩ましげな表情で、腕を組む。

 

ハッとなって──

 

「そうだ。あの時、声が聞こえたのです!」

 

ロロネロルが、ぽんと手を叩いた。

ぴょこぴょこと動く耳。尻尾が揺れる。

 

「思えばここ最近……変な出来事に巻き込まれるようになってから、たまにそんな感覚がある時があったのです。ろろじゃない、誰かの意志で動いているような……!」

 

難しそうに考え込むロロネロル。

自らの手を、ロロネロルが見つめる。

 

「まさか、これって……!!」

 

きわめて真剣な顔つき。

ロロネロルが、ある一つの考えに至る。

 

ごくりと、唾を飲み込んで──

 

「ろろ、霊媒師の才能があったのです……!?」

 

ロロネロルが、そう結論を下した。

巫女の格好をした自分の姿を想像しているロロネロル。

 

焚き火の向かい、暗い影が蠢いて──

 

「お主、何を言っておるんじゃ?」

 

呆れたような声が、その場に響いた。

「にゃっ!?」と驚愕し、振り返るロロネロル。

 

大きく、欠伸をしながら──

 

「こんな夜更けに騒がしい奴じゃのぉ。お主、夜行性なのか?」

 

金髪の狐耳の少女が、そう訊ねた。

小柄な体躯。東洋の巫女を思わせる格好。

 

梔子色の瞳が、ロロネロルの姿を見据えている。

 

「んん……?」

 

じっと、少女を見つめているロロネロル。

思考と記憶が結びつき、そして──

 

「あ、あーっ!! いつかの呉服屋さんなのです!!」

 

驚愕の声と共に、ロロネロルが少女の事を思い出した。

やれやれと、狐耳の少女が首を振る。

 

「それも間違ってはおらんが、ワシの名前はメガロノヅチじゃ。この前、ちゃんと名乗ったと思うがの」

 

呆れたような目を向ける少女──メガロノヅチ。

ロロネロルが緊張したように身構えた。

 

「い、いったい何の用なのです! まさかまた、ろろを食べる気なのですか!?」

 

おっかなびっくりとした表情。

その毛並みが、威嚇するように逆立つ。

 

メガロノヅチが手をひらひらとさせた。

 

「そう怖がるでないわ。ワシはこの浜辺に流れ着いていたお前を助けてやった、言うなれば命の恩人なのじゃぞ?」

 

「……えっ?」

 

ぽかんとした顔のロロネロル。

メガロノヅチが目をつぶり、腕をくむ。

 

「まぁ、あの時はワシも悪い事をしたとは思っておったからの。ゆえに、こうしてお主を助けてやったのじゃ。これで貸し借りはなしじゃぞ」

 

うんうんと頷いているメガロノヅチ。

ロロネロルがぽかんと口を開ける。

 

おそるおそる、ロロネロルが手をあげた。

 

「あの……ここ、どこなのです?」

 

不安そうな表情。

メガロノヅチが地面を示す。

 

「ドラゴンエンパイア領。東都の外れにある浜辺じゃ」

 

「ドラゴンエンパイア……。どうして、ろろはここに?」

 

「知らん。日課の散歩をしておったら、浜に打ちあげられているお主を見つけたのじゃ。あの時は心臓が止まるかと思ったぞ」

 

淡々とした口調で話すメガロノヅチ。

頬づえをつくと、大きく息を吐く。

 

「そこからは、世界中が大騒ぎじゃ。龍樹の侵攻といい、今回のリリステでの一連の事件といい、隠居する暇もないのぅ。まったく嘆かわしい事じゃ」

 

「そう、そうなのです! 最近、リリカルモナステリオでは事件が続いていて……」

 

途切れる言葉。

ロロネロルが大きく目を見開いた。

 

「リリカルモナステリオ!! リリカルモナステリオは、皆はどうなったのですか!?」

 

慌てた声を出し、詰め寄るロロネロル。

メガロノヅチが手を前に出した。

 

「心配するでない。リリカルモナステリオは北都の辺りに緊急着陸したと聞いておる。怪我人は出たようじゃが、死んだ者はおらぬ。全員無事じゃ」

 

はっきり、そう答えるメガロノヅチ。

ロロネロルが安堵の息を吐き、へなへなと座り込んだ。

 

「よ、良かったのですぅ……」

 

胸に手を当てているロロネロル。

メガロノヅチが「あー」と声を出す。

 

「安心しているところ悪いが、実は一人だけ行方不明者がおるぞ。おかげで、世間はその話でもちきりじゃ」

 

「えっ!? そんな、誰のことです!?」

 

びっくりとした様子のロロネロル。

メガロノヅチが袖元からスマホを取り出した。

 

画面をロロネロルへと向けて──

 

「決まっておろう。お主の事じゃ」

 

きっぱりと、メガロノヅチがそう宣言した。

画面上、様々な写真が掲載されているページ。

 

だらしなく昼寝をしているロロネロルの姿が現れる。

 

「にゃ……?」

 

画面を見て、声を漏らすロロネロル。

一瞬、その思考が理解を拒み、そして──

 

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」

 

ロロネロルの口から、奇っ怪な悲鳴が放たれた。

島中に響き渡る高音。鳥達がばさばさと飛んでいく。

 

メガロノヅチが耳を抑えた。

 

「おい、真夜中じゃぞ! やかましい!」

 

ぴしゃりと言うメガロノヅチ。

ロロネロルが立ち上がり、顔を赤青とさせる。

 

「なっ、なっ、なんなのですか、この写真はッ!? こんな、こんなあられもないろろの姿が、どうしてッ……!?」

 

スマホを指差しているロロネロル。

メガロノヅチが掲載された文章を読み上げる。

 

「『リリカルモナステリオの歌姫、ロロネロルを偲んで。あなたの歌を、私達は忘れない』感動的なフレーズじゃ。生前のお主の姿を集めたページらしいぞよ」

 

「生前っ!? ろろ、生きているのです!!」

 

「それはそうじゃが、今の所それを知る者はワシと従者のコダマしかおらん。扱いは行方不明じゃが、世間的にはほぼほぼ死人扱いじゃ」

 

冷たく言い切るメガロノヅチ。

ロロネロルの顔から血の気が引いていった。

 

「そんにゃ……!! そんにゃ……!!」

 

絶望的な表情。

ロロネロルがその場に崩れ落ちた。

 

漆黒の海、星空の下で──

 

「もうダメなのです……!! ろろのあんな姿が世界に公開されて……!! ろろ、もうお嫁にいけないのですぅぅぅ……!!」

 

唸り声のような声が、海岸に響いていった。

悲愴な表情。しくしくと涙を流すロロネロル。

 

メガロノヅチがため息をついた。

 

「やれやれ、しょうがないのぅ」

 

呆れたような口調。ゆっくりと立ち上がると、

メガロノヅチが突っ伏すロロネロルを見下ろす。

 

ぱんと、メガロノヅチが勢いよく手を叩いた。

 

「ほれ、泣いている場合ではないぞ! お主には、聞きたい事が山ほどあるのじゃ」

 

「き、聞きたい事……? ろろ、そんな気分じゃないのです!」

 

「気分の問題ではない! 世界の危機なのじゃぞ!」

 

強い口調で言うメガロノヅチ。

ロロネロルが「にゃ……?」と顔をあげる。

 

メガロノヅチの梔子色の瞳が、ロロネロルを見据えた。

 

「言っておくが、お主が思っているより事態は深刻じゃ。ゆえに、ワシはお主の見た事を全て聞く必要がある。そうすれば今後の事も考えられるはずじゃ」

 

「そ、そんな事、急に言われても……」

 

「口ごたえするでないわ! 特に、最後に現れたと報道されている竜について聞きたい。御託はいいから、全部話すのじゃ」

 

ちょいちょいと手を動かし、促すメガロノヅチ。

ロロネロルがぐすんと鼻を鳴らした。

 

ゆらりと、その身体を起こす。

 

「……分かったのです」

 

険しい表情。

ロロネロルが、ぐっと拳を握り固める。

 

悔しそうに涙を流しながら──

 

「これも全部、あの悪魔みたいな奴が悪いのですーッ!!」

 

ロロネロルが、叫ぶようにそう宣言した。

波が押し寄せて、波打ち際で大きな音が上がる。

 

ロロネロルが早口に、今までの出来事を話していった。

 

無言のまま、聞き入るメガロノヅチ。

静かな浜辺に、ロロネロルの声だけが響く。

 

拳を勢いよく突き上げて──

 

「それで!! 最後にろろの全身から不思議なパワーがぐわーんって爆発して!! スーパーウルトラスペシャルろろパンチを決めようとした瞬間!! 世界が真っ暗になってしまったのですッ!!」

 

ロロネロルが、そう話しを締めくくった。

果てしない沈黙。無表情のメガロノヅチ。

 

ぱちぱちと、焚き木が燃える音が響いて──

 

「……お主、説明が下手すぎないか?」

 

呆れたように、メガロノヅチがそう言った。

ロロネロルが「にゃあっ!?」と衝撃を受ける。

 

やれやれといった様子で、メガロノヅチが腰を下ろす。

 

「まぁ、よい。おおよその事情は分かった。やはり、バフォルメデスの奴が暗躍していたか」

 

「バフォル……? あの悪魔のことなのです?」

 

訊ねるロロネロル。

メガロノヅチが「うむ」と頷いた。

 

「古い知り合いじゃ。昔はあれで、領主として民の事を考えている奴だったんじゃが、いつのまにか姿をくらましていてな。元から手段を選ばない奴ではあったが……」

 

視線をそらすメガロノヅチ。

どこか残念そうに、その目を細めて──

 

「邪法に手を出すとは、愚かな奴じゃ……」

 

ぼそりと、メガロノヅチが呟いた。

複雑な想いを感じさせる言葉。憂うような表情。

 

燃える炎が、その横顔を照らしていた。

 

「それで」

 

ロロネロルの方へと向き直るメガロノヅチ。

 

「その後の事は、何も覚えておらんのか?」

 

「はい! 目が覚めたらここにいたのです!」

 

元気よく答えるロロネロル。

メガロノヅチがため息をついた。

 

「胸を張って答えるでないわ、うつけ者め。じゃが、そうなるとあの竜について知っているとしたら、別のリリカルモナステリオの連中くらいか」

 

難しそうな表情になるメガロノヅチ。

ロロネロルが手をあげた。

 

「あの、さっきから言ってる竜って、何の話しです?」

 

「……お主、気を失っていたから知らぬのか」

 

合点がいったように言うメガロノヅチ。

ロロネロルが首をかしげた。

 

スマホの中、ニュース映像が流れて──

 

「こ、これって……!?」

 

ロロネロルが、驚いたように声をあげた。

手振れの酷い映像。悪魔と対峙する細身の竜の姿。

 

神秘的な光が放たれた瞬間、映像がぷつりと途切れた。

 

「さっき映ってたの、そのバフォルなんとかっていう悪魔なのです! でも、もう1体の竜の方は……?」

 

混乱した様子のロロネロル。

メガロノヅチが深く息を吐き、目を閉じた。

 

胡坐をかき、顎を手にのせながら──

 

「ワシの考えが間違ってなければ、おそらくあれは3000年前の亡霊じゃ」

 

「亡霊!? つまり、幽霊なのですか!?」

 

ロロネロルの頭の中、フェルティローザがピースする。

メガロノヅチが手を振った

 

「そういう意味ではない。じゃが、非常に厄介な連中なのは確かじゃ。それこそ、こっちの世界と向こうの世界、両方を揺るがす程にな」

 

「こっち……? 向こう……?」

 

目をぐるぐるとさせているロロネロル。

難しそうな話を前に、まるで理解が追いつかない。

 

メガロノヅチが真剣な表情を浮かべた。

 

「お主に教えてやろう。この惑星クレイに伝わる3000年前の伝説を。二つの世界を繋ぐ"祈り聞く者"、そして──」

 

言葉を切るメガロノヅチ。

梔子色の瞳の中、星の光が映って──

 

「──ギーゼの使徒と呼ばれる連中の事を」

 

メガロノヅチの低い声が、その場に響き渡った。

星空の下、話し込む2人の少女の姿。

 

漆黒の星海に、いくつもの流れ星が落ちて──

 

地平線の向こう、太陽がその姿を現した。

柔らかな朝の日差しが、海岸を淡く照らす。

 

「……朝か」

 

むくりと起き上がるメガロノヅチ。

規則的な波の音。美しく輝く青い海。

 

燃え尽きた焚き木からは、黒い煙が上がっている。

 

「ほれ、起きんか、寝坊助め!」

 

横で眠るロロネロルに向かって、

メガロノヅチが大きく呼びかける。

 

うっすらと、その目を開いて──

 

「にゃー……?」

 

いかにも眠そうに、ロロネロルが返事をした。

メガロノヅチが海岸の端を指差す。

 

「向こうに湧き水がある。顔を洗ってこい!」

 

「にゃー……」

 

のそのそと起き上がるロロネロル。

ふらふらとした足取りで砂浜を歩いていく。

 

ぱしゃぱしゃと水の音が響いて──

 

「……うん、目が覚めたのです」

 

水を滴らせながら、ロロネロルがそう呟いた。

冷たい湧き水が溜まった窪み。鳥達の鳴き声。

 

水面に映る紫色の瞳の中に、朝日が映って輝きを見せる。

 

「準備はできたか?」

 

訊ねるメガロノヅチ。

ロロネロルが身体を伸ばし、頷いた。

 

「はい! ろろ、世界を救うのです!」

 

単純明快な答え。

明るい笑顔を浮かべ、ロロネロルが拳を構える。

 

メガロノヅチが怪訝そうに目を細める。

 

「お主、本当に一人で平気なのか? そもそも、お主の言う方向に例の竜はおるのか?」

 

疑わしそうな口調。

メガロノヅチがじとっとした目を向ける。

 

ロロネロルが胸を張った。

 

「はい! なんとなくですけど、ろろはそう確信しているのです! だから平気なのです!」

 

自信に満ちた声。

ロロネロルがはっきりと、そう断言した。

 

まるで、自らの運命を感じ取っているかのように。

 

「……そうか」

 

それ以上、何も訊ねずにいるメガロノヅチ。

すっと、その手を前にかざす。

 

「それでは、いくぞ」

 

「はい! 呉服屋さん、ありがとうなのです!」

 

無邪気に頭を下げるロロネロル。

メガロノヅチが複雑そうな顔になる。

 

ロロネロルの足元に、黒い影が現れて──

 

少女の姿が影に飲み込まれ、音もなく消え去った。

取り残されるメガロノヅチ。一人きりの空間。

 

穏やかな朝の景色だけが、その場に広がっている。

 

「…………」

 

ロロネロルが消えた空間を、

無言で見つめているメガロノヅチ。

 

波が岩に打ち付けられる音が、辺りに響き渡る。

 

「……やれやれ、仕方がないのぅ」

 

諦めたように呟くメガロノヅチ。

何かを決意したかのように、肩をすくめる。

 

北の方角に視線を向けながら──

 

「もう一度、足を踏み入れるとするか」

 

メガロノヅチの足元に、黒い影が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が昇り、柔らかな光が部屋に差し込んだ。

 

爽やかな空気。青く広がる空。

一日の始まりを告げる風が吹き抜けていく。

 

大きく、身体を伸ばして──

 

「さーて、そろそろ行こうかな~」

 

綺羅星ミアが、のんびりとした口調でそう言った。

大きくあくびをするミア。気の抜けた表情。

 

ヨウコが神妙な表情で、その姿を見つめる。

 

「本当に、行く気なんですか?」

 

「仕事だからねー。ほら、私って社畜だから~」

 

からかうような声。

へらへらとした笑みを浮かべているミア。

 

ため息をつくと、ヨウコが腕を組む。

 

「昨日の話しだと、あなたの上司は"上の判断を仰ぐから待て"と言ってませんでしたか? 勝手に行動するのは命令違反ですよね?」

 

「そんな細かい事、気にしなくていいのよ」

 

さらりと言い切るミア。

スマホの画面をタッチしていく。

 

「待つだなんて時間の無駄。それより、さっさと動いた方がいいに決まってるわよ。世界が滅ぶよりマシだし」

 

「…………」

 

顔をしかめるヨウコ。

反論しようにも、言葉が出てこない。

 

スマホを片手に、ミアが口元に手をあてた。

 

「近くにあるカードショップはこんなものね。とりあえず、近い所から探していこうかしら。目当てのカードがあるといいんだけど……」

 

ぶつぶつと呟くミア。

頭の中に、店の位置を刻み込んでいく。

 

サングラスを取り出すと──

 

「じゃ、そういう訳だから! ありがとね、記者さん!」

 

ミアが、にっこりと笑みを浮かべて手を挙げた。

きゃぴきゃぴとした雰囲気。明るい表情のミア。

 

とても、これから決戦に向かう姿には見えない。

 

「…………」

 

渋い表情を浮かべているヨウコ。

やがて、諦めたようにため息をつくと──

 

「……一つ、聞いてもいいですか?」

 

おもむろに、ヨウコがそう訊ねた。

ミアが首をかしげる。

 

「なに?」

 

「要するに、あなたは普通の人とは違う、スーパーパワーを持ってるって事ですよね。コミックのヒーローみたいに」

 

「まぁね~。ヒーローって柄じゃないけど」

 

手をひらひらとさせるミア。

まるで他人事のように軽い口調で話す。

 

ヨウコが鋭い目を向けた。

 

「その力、危険性はないんですか?」

 

「危険性?」

 

訊ねるミア。

ヨウコが睨むような表情になる。

 

「そんな人間離れした異常な能力を持って、全く何のリスクもないと言うんですか?」

 

どこか責め立てるような響き。

ミアが「あー」と言い、視線をそらす。

 

「それが、特に何もないのよね~」

 

あっけらかんとした様子のミア。

ヨウコが冷たい目を向ける。

 

「なるほど。つまり、あの時ファイトの最後で心肺停止になったのは、ただの偶然ということですか?」

 

「…………」

 

「もう一度だけ聞きます。その力に、危険性はないんですか?」

 

刺々しい口調のヨウコ。

ミアが黙り込み、その瞳が暗く沈み込んだ。

 

鳥が飛び立つ音が、辺りに響き渡る。

 

「……そうね」

 

ぽつりと、ミアが言葉をこぼした。

 

「今の私って、向こうの星の運命に勝手に干渉してる状態みたいなの。だから、そのしわ寄せみたいなのはあるわ」

 

「しわ寄せ?」

 

「そう」

 

頷くミア。

自らの胸に手を置いて――

 

「これ以上運命を無理やり変えようとすれば、今度こそ私は死ぬ」

 

ミアが、あっさりとそう断言した。

苦い表情になるヨウコ。その顔に影が差す。

 

2人がしばし、無言で見つめ合った。

 

「……そうですか」

 

ゆっくりと、ヨウコが口を開いた。

それ以上は何も言わないでいるヨウコ。

 

ミアが面白そうに微笑む。

 

「それだけ? 止めたりしないの?」

 

フッと、ヨウコが鼻で笑う。

 

「止めて聞くような人じゃないでしょ、あなた」

 

「まぁね~」

 

否定しないでいるミア。

呆れたように、ヨウコが再びため息をついた。

 

窓の外、穏やかな朝の光景を見つめながら──

 

「……どうして、こんなに正直に話してくれるんです?」

 

ゆっくり、ヨウコがそう訊ねた。

ミアが微笑む。

 

「まぁ、約束したからね。それにさ、最後くらい、誰かに話したい気分だったのよ」

 

最後くらい。

何気なく、ミアが言葉を選ぶ。

 

ヨウコが顔をしかめ、うつむいた。

 

「……あなた、やっぱり」

 

震える声で呟くヨウコ。

その手をあげて──

 

「じゃあ、私、いかないといけないから」

 

ミアが、にっこりと微笑んだ。

煌めく笑顔。きらきらとした立ち姿。

 

紫色の髪を揺らして──

 

「それじゃあね、記者さん。妹さんと仲良くね」

 

ミアが背を向け、歩き出した。

ヨウコが「待っ……!!」と言いかけ、手を伸ばす。

 

扉の閉まる音が響き、辺りに静寂が訪れた。

 

「…………」

 

手を伸ばした格好のまま固まっているヨウコ。

力なく、伸ばした手を下ろす。

 

ぎゅっと、手を握って──

 

「……私は」

 

呟くヨウコ。あらゆる考えが頭の中に浮かんでいく。

キッと、ヨウコが鋭い目を向け、そして──

 

扉の開く音が、辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れが淡く、白い校舎を照らしていた。

 

人通りの多い道路。子供たちの声。

ランドセルを背負った児童が、駆け抜けていく。

 

「せんせー、さようならー!!」

 

元気いっぱいに響く声。

がやがやと、騒がしい空気が辺りを流れていく。

 

校門から、一人の生徒が道へと歩き出て──

 

「こんにちは!」

 

待ち構えていたかのように、少女が少年に声をかけた。

顔をあげる幼い少年。白い髪がかすかに揺れる。

 

にっこりと、綺羅星ミアが笑顔を作った。

 

「はじめまして、異世界からの来訪者さん!」

 

親しみを込めた口調。

紫色の瞳が、少年の姿を見据える。

 

わずかにその目を細めて──

 

「あぁ、あなたでしたか」

 

少年──乃木マコトが、落ち着いた口調でそう答えた。

幼い姿とは裏腹の、どこか大人びた雰囲気。冷静な表情。

 

夕暮れの光に照らされて、2人が向かい合う。

 

「何か用ですか?」

 

ミアを見上げながら、訊ねるマコト。

悪戯っぽく、ミアが微笑んだ。

 

「ちょっと付き合って欲しいのよ。いいかしら?」

 

「…………」

 

思案するような沈黙。

銀色の瞳の中で、夕焼けの色がたゆたう。

 

フッと息を吐き、マコトが手を広げた。

 

「まぁ、いいですよ」

 

ゆっくりと答えるマコト。

その振る舞いからは、どこか傲慢な雰囲気が漂う。

 

ミアが微笑んだ。

 

「じゃあ、付いてきて」

 

手招きするミア。

そのままコツコツと、道なりに歩き出す。

 

「……ふん」

 

短く声をあげるマコト。

ランドセルを背負い直すと、ミアの後を追う。

 

黄昏の刻。2人がしばし、歩き続けていった。

 

「…………」

 

「…………」

 

何も喋らず、無言でいる2人。

周囲の音だけが、その場を通り過ぎて、消えていく。

 

大通りへ出て、道を進み、入り組んだ路地に入って──

 

2人の前で、空間が開けた。

 

「到着~」

 

ゆるい口調で話すミア。

振り返ると、目の前に広がる光景を手で示した。

 

廃墟のような雑居ビルの隙間にある、忘れられた地を。

 

「随分と寂しい場所ですね」

 

辺りを見回しながら、口を開くマコト。

ミアが得意そうに目を閉じた。

 

「良い所でしょ~。ここなら、誰にも見られないわ」

 

ふふんと笑っているミア。

マコトがランドセルを地面に下ろす。

 

「そうでもありませんね。現に、僕はここで君達とエレドグレーマが戦うのを見ていました」

 

「えっ、そうなの!?」

 

驚くミア。

マコトが廃墟ビルを指差した。

 

「そこのビルの屋上で。その時は終末の使徒とやらの調査のつもりでしたが、まさか祈り聞く者を見つけるとは思いませんでした」

 

「祈り聞く者?」

 

何気なく訊ねるミア。

マコトが小さく、肩をすくめた。

 

「3000年前の御伽噺ですよ。それに、あなたはどうやら本物ではないみたいだ。人間というのは、時に僕達の理解を超えるみたいですね」

 

淡々と話しているマコト。

おもむろに顔をあげると、視線を向ける。

 

白い殺気が渦巻いて──

 

「──それで、どうして僕の居場所が分かった?」

 

威圧感を感じさせる幼い声が、その場に響いた。

溢れ出る神秘的な気配。辺りの空気が張り詰める。

 

緊迫した空気の中、ミアが口を開いた。

 

「名前よ」

 

目を閉じているミア。

マコトが首をかしげる。

 

ミアがくるくると、指を振った。

 

「乃木マコト。あなた、そう名乗ってたでしょ。クレイじゃどうか知らないけど、こっちの星だと名前が分かれば色々と調べられるのよ」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

納得したように言うマコト。

はぁと、その場で大きくため息をつく。

 

「案外、不便なものだね。人間の暮らしというのも……」

 

人間離れした発言。

ぶつぶつと呟いているマコト。

 

ミアがにっこりと、笑顔を浮かべた。

 

「それじゃあ、改めて自己紹介しましょう!」

 

場違いな程、明るい口調。

ばっと、ミアがポーズを決める。

 

「私は綺羅星ミア! 煌めく星の歌姫よ!」

 

「……煌めく、歌姫?」

 

怪訝そうな顔のマコト。

ミアが両手を伸ばし、天を仰いだ。

 

「その通り! いずれは全世界に、ミアの名前を轟かせる予定だから! 応援よろしくね~!」

 

きゃぴきゃぴとした口調。

いかにも作ったような声で話しているミア。

 

マコトが呆れたような目を向けた。

 

「戯言に付き合う気はない。話があるなら、早く言ってくれませんか」

 

冷たい声で言うマコト。

見下したような視線を向け、腕を組む。

 

しばしの沈黙の後、ミアの笑顔がため息と共に崩れた。

 

「まったく、ノリが悪いわね……」

 

頬をかくミア。

仕方なさそうに、前を向く。

 

「なら、聞かせてもらうわ。あなたがクレイからの侵入者で、ディフライダーって呼ばれる存在で間違いないわね?」

 

「あぁ、その通り。侵入者呼ばわりは心外だけどね」

 

マコトが手を広げる。

 

「僕らはこの世界に、永遠の沈黙という救済を与えに来たんだ。いうなれば、救いの女神というやつだ」

 

淡々とした口調。

ミアが鼻で笑う。

 

「まぁ、呼び方については後で検討するわ」

 

紫色の瞳が、マコトの姿を見据える。

 

「それで、あなたはその子の身体を乗っ取ってる訳?」

 

「乗っ取ってるとは人聞きが悪い。僕らは運命を共にしているだけだ。君達のように」

 

冷たい声色。

マコトが銀色の瞳を向ける。

 

「この身体の持ち主は、今は安寧なる眠りの中にいる。穏やかに過ごしているし、たまに僕と会話もしているよ」

 

「それはそれは、優しいのね」

 

皮肉めいた口調。

ミアがゆっくりと、不敵な笑みを浮かべた。

 

「それで――あなた達が、世界を滅ぼしたがってるギーゼの使徒って奴なのよね?」

 

鋭い声色で訊ねるミア。

紫色の瞳が、かすかに光を宿す。

 

マコトが真っすぐに、ミアを睨み返した。

 

「その通り。真なる平和のためには、この世界と向こうの世界には消えてもらう必要がある。世界は、沈黙しなければならない」

 

「なるほどね~」

 

頷くミア。

可愛らしい動きで、小首をかしげる。

 

「やめてって言っても、聞いてくれないんでしょ?」

 

「答えるまでもない」

 

あっさりとした口調。

マコトがミアの姿を見据えた。

 

「だからこそ──僕を、ここに連れてきたんだろ?」

 

鋭い雰囲気のマコト。

その視線が、ミアの奥の空間へと向けられる。

 

廃棄され錆びついた、ファイトテーブルの方へ。

 

「本当、話しが早くて助かるわね」

 

にこにことしているミア。

どこからか、紫色のデッキケースを取り出す。

 

2人の視線が空中でぶつかり、そして──

 

ミアとマコトが、ファイトテーブルを挟み向かい合った。

 

「…………」

 

「…………」

 

睨み合っている両者。

互いに淡々と、ファイトの準備を進めていく。

 

デッキをテーブルに置いて──

 

「まったく、理解できないね。人間は」

 

神秘的な気配を纏いながら、マコトがそう呟いた。

テーブルの上、カードを並べていくマコト。

 

銀色の瞳が、一瞬だけ光を帯びて輝く。

 

「力の差は歴然だ。なのに、勝てないと分かっていながら、挑んでくるだなんてね」

 

威圧的な口調。

白い殺意が渦巻き、マコトの身体から滲み出る。

 

「えぇ、そうかもしれないわね」

 

微笑みながら答えるミア。

淡々と、カードを並べていく。

 

「それでも、私はやらなきゃいけないのよ。この世界を守るためにね」

 

淡々と話しているミア。

マコトが見下したような目を向ける。

 

「そう。なら、君達も導いてあげるよ。永遠に続く、安らぎの沈黙へ」

 

唄うような口調。

マコトの目の前、裏向きの1枚が静かに置かれる。

 

胸に手を当てて――

 

「ギーゼ様……」

 

マコトが、その目を閉じてカードに指を置いた。

 

「この戦いを、あなた様に捧げます」

 

祈りを捧げているマコト。

白く神秘的な気配が渦巻き、辺りに溢れた。

 

ミアもまた、目の前に裏向きのカードを置く。

 

「……ロロ、ミア」

 

ぼそりと呟くミア。

様々な想いが、頭の中を駆け巡っていく。

 

「これが、最後だよ……」

 

決意を込めた言葉。

ミアが前を向き、紫色の瞳を向ける。

 

すっと、その指をカードへと伸ばして――

 

「はじめるわよ」

 

ミアの言葉が、その場に響いた。

目を開くマコト。銀と紫の色が混じり合う。

 

厳かな雰囲気が辺りを支配し、そして――

 

「スタンドアップ!!」

 

廃墟に響き渡る声。

銀色の光が瞬いて――

 

「Z」

 

世界を揺らす言葉。

それぞれの指がカードを掴み――

 

「ヴァンガード!!」

 

運命のカードが、向かい合った。

 

「《歌を届けるために ロロネロル》!!」

 

 

歌を届けるために ロロネロル

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!

 

 

「《魅天のゲフィオン》」

 

 

魅天のゲフィオン

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ブラントゲート - ノーブル 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― 滅びゆく世界に、魂の手向けを。

 

 

対峙する2枚。

盤面の上、女神と猫の少女が表になる。

 

しゃらんと、懐中時計が揺れる音がして――

 

「運命の前に、ひれ伏すがいい」

 

マコトの言葉が鋭く、その場に響き渡った。

 

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