カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
穏やかな日差しが、天から降り注いでいた。
遥か彼方の宇宙に存在する惑星クレイ。
その天空を、一頭の桃色の鯨が優雅に駆けていく。
学園都市――リリカルモナステリオ。
空中を移動する鯨の背中に広がる、巨大な街並み。
数多の夢を抱いたアイドルの卵達が集まる場所。
そんなリリカルモナステリオの、学園広場の一角で――
「――下克上を起こすの!!」
橙色の髪をした小柄な女生徒が、
向かいに座る女生徒に向かって勢いよくそう言い放った。
がやがやとした雰囲気の中に、その宣言が消えていく。
「ふゅーん」
のんびりとした声で答える女生徒。
テーブル席に置かれたカップを手に取り、茶をすする。
小柄な女生徒――マリレーンが身を乗り出した。
「ちょっと、レスピーノ! 真面目に聞いてる!?」
「聞いてるよ~」
カップを置き微笑む女生徒――レスピーノ。
頬づえをつくと、向かいのマリレーンを見据える。
「聞いてるけど、あんまり意味分からんくてー。なにがどうなって、そうなったの〜?」
ゆっくりとした喋り方。
レスピーノが不思議そうに首をかしげた。
マリレーンが胸を張る。
「レスピーノ、よく聞いて! 私達は晴れて、リリカルモナステリオに入学した。ここから仁義なき熾烈なアイドルとしての戦いが始まる、そうでしょ?」
自信満々に話すマリレーン。
レスピーノが「そうだね〜」とスマホを見ながら言った。
ぐっと、マリレーンが拳を握り固める。
「とはいえ、今年入学した生徒達だけでも、膨大な数のライバルが存在するわ! 今の世の中、ちょっと歌が上手い程度じゃ見向きもされない! 凡百のアイドルにならないためにも、私達には話題性が必要なの!」
「うんうん、わかるわかる〜」
適当に答えるレスピーノ。
マリレーンが両手を伸ばして――
「だからこそ――私達には、下克上が必要なのよ!!」
再び、力強い声でそう宣言した。
真剣な表情。本気で言っているマリレーン。
のどかな空気が流れ、鳥の鳴く声が辺りに響いた。
「つまり、どういうことー?」
スマホの画面から目を離さず、訊ねるレスピーノ。
マリレーンが「ふふーん!」と不敵に笑った。
「単純な事よ! このリリカルモナステリオで名を上げたいなら、歌の実力を認めさせるのが一番! となれば、答えは1つ!」
びしっと、天に向かって指を伸ばすマリレーン。
蜜柑色の瞳をきらきらと輝かせながら――
「――その辺にいる先輩を、歌唱力バトルで倒す!!」
とてもいい笑顔で、マリレーンがそう言い切った。
お昼休みの時間。生徒達が楽しくお喋りする声が響く。
「あー、それで下克上なんだ〜」
納得したように言うレスピーノ。
「んー」と身体を伸ばすと、息を漏らす。
「マリちゃんって、上昇志向強めだもんね~」
「当然よ! あたし、この学園都市で一番のアイドルになるんだから!」
えっへんと、ドヤ顔を浮かべているマリレーン。
自信に満ち溢れた表情のまま、胸を張る。
「そのためにも、一年生のうちから伝説を作るのが当面の目標! だからこそ、今回はどこぞの先輩に犠牲になってもらうわ!」
「さすがマリちゃ~ん。天才的ー」
ぱちぱちとレスピーノが拍手を送る。
満更でもなく、それを受けているマリレーン。
テーブルに肘をつき、レスピーノが微笑んだ。
「それでそれで? 実際、どの先輩を倒すのー?」
なにげない質問。
フッと、マリレーンが微笑みを浮かべた。
「まだ考えてないッ!!」
とても力強く、マリレーンがそう断言した。
レスピーノが「おー」と声をあげる。
「なるほど~。つまり、マリちゃんが珍しく外でお昼を食べようって誘ってくれたのは、その先輩を探すため?」
「まさにその通りよ。さっすがレスピーノ! あなたって本当に天才ね!」
褒めちぎるマリレーン。
レスピーノが照れたように、はにかんだ。
「ぷぅ。もー、そんなからかわんといてよ~」
デレデレとした口調。
ほんの少し、頬が赤くなっているレスピーノ。
マリレーンが辺りを見回した。
「さーて、それじゃあ、早速始めるわよ。獲物、どの先輩にしようかしら……」
楽しくお喋りしている女生徒達を眺めているマリレーン。
レスピーノが広場の奥の方を指差した。
「なんとなくだけど、あの人とかどう~?」
指を伸ばすレスピーノ。
マリレーンが「んー?」と、視線を向ける。
視線の先、白銀の髪をした獣人の少女が微笑んで――
「あら、そんなことないわよ」
同席する別の少女達に対し、謙遜するように話した。
上品な口調。綺麗に背筋を伸ばした姿勢。
銀髪の少女は楽しそうに、お喋りに興じている。
「んー、あの人はダメね~」
考えた後、そう答えるマリレーン。
レスピーノが「えー? なんでー?」と訊ねる。
こしょこしょと、マリレーンが耳打ちした。
「だってあの人、なんかオーラあるじゃん。ここにいる中だと、トップクラスに強そうな気配がするもん!」
「そうなのー? てか、マリちゃん一番になるんでしょ? だったら最初から強そうな人と戦ってもよくなーい?」
「そうだけど、最初は確実に勝てそうな相手とやるの! RPGでも、いきなりラスボスと戦ったりしないでしょ!」
力強く断言するマリレーン。
レスピーノが「いや、そういうのもあるよ~」と話す。
再び、マリレーンが辺りの様子を伺い出した。
「いい? 最初の一戦が大事なのよ! ここできっちりと私の才能と歌唱力を知らしめるためにも、私が今探すべきは確実に勝てる相手! スライムなの!」
「スライム系アイドルかぁ~」
どこまでものんびりとしているレスピーノ。
2人は騒がしく会話を続けている。
くすりと、銀髪の少女が口元に微笑を浮かべた。
「ん? どうしたの、ペトラルカ?」
訊ねる金髪の少女――ライゼット。
銀髪の少女――ペトラルカが優雅にカップを持った。
「いいえ。面白そうな事が起きるかと思ったのだけど、それがなくなってしまったの。ちょっぴり残念だと思って」
目を閉じて、カップを傾けるペトラルカ。
ライゼット達はぽかんとしている。
がやがやと、賑やかな空気が流れる中に――
「あっ、見つけた! あの人にしよう!」
マリレーンの元気な声が響いた。
レスピーノが顔をあげる。
「えー、どの人ー?」
「ほら、あそこ! 向こうのベンチで寝ている人!」
指差すマリレーン。
レスピーノが身を乗り出し、視線を向けた。
広場の外れに設置されたベンチの上で――
「ふにゃー……」
制服を着た黒髪の猫の少女が、
だらしない体勢で横になりベンチを占領していた。
とても気持ちよさそうに、猫の少女は昼寝をしている。
「えー、あの人―?」
訝しむように言うレスピーノ。
マリレーンが頷いた。
「あたしの目に狂いはないわ! あのだらしない姿、底抜けに間抜けそうな顔! 絶対、大した事ない相手よ! 間違いない!」
自信満々に断言するマリレーン。
レスピーノが「そうかなー……?」と疑問を呈す。
がたりと、マリレーンが立ち上がった。
「よーし、善は急げ! 早速やってやるわよー! レスピーノ、撮影お願いねー!」
気合いを入れた声で言うマリレーン。
そのまま、レスピーノが止める間もなく歩き出す。
つかつかと、自信に満ちた足取りで少女に近づいて――
「こんにちはー!」
いかにも可愛らしい声で、マリレーンが呼びかけた。
猫の少女が、ぱちくりと目をあける。
「にゃ……?」
眠そうな表情。
目を半開きにして、猫の少女がマリレーンを見上げる。
にっこりと、マリレーンが大きな笑顔を作った。
「あの、そこの先輩! 突然ですみませんが、ちょっとお願いがあるんですけど~」
「……お願い?」
警戒したような表情。
少女の紫色の瞳が、マリレーンを見据える。
きゅるんと、マリレーンが可愛らしいポーズを取る。
「あのぉ、あたし実は入学したばかりでぇ~、まだまだ自分の歌に自信がなくて~。それで、先輩方の歌をぜひ! 拝聴させていただきたいな~って思ってるんです~!」
「……新入生? 歌?」
「はい! あたし、マリレーンって言います! ぜひ、あたしと一緒にここで歌ってくれませんか! 先輩方の胸を借りたいんです~!」
「一緒に、歌を……!?」
目を見開き、驚愕する猫の少女。
がばっと勢いよく起き上がると、ベンチから降りる。
猫の少女が、真剣な表情でマリレーンに迫った。
「ほ、本当に、歌を唄うだけなのですか!? 頭の中で声がする〜とか、世界が沈黙する〜とか、そういうのではなく!?」
「えっ、えぇ……。そうですけど……?」
少女の迫力に押された様子のマリレーン。
猫の少女が感動したように、大きく息を呑んだ。
その目からボロボロと、涙が零れ落ちる。
「うぇ!?」
驚愕するマリレーン。
猫の少女が感極まったようにうつむいた。
「うっ、うぅっ、嬉しいのですぅぅぅ……!!」
情けない声を出し、号泣している猫の少女。
涙を拭うと、拳をつきあげる。
「ようやく……ようやくなのです!! ようやく、ろろのニャンダフルスクールライフが、帰ってきたのですー!!」
天に向かって叫ぶ猫の少女。
はしゃいだように、喜びの舞いをその場で踊り出す。
引いたような表情を浮かべて――
(なにこの先輩、ひょっとしてヤバい人……?)
マリレーンが、心の中で呟いた。
猫の少女が騒ぐ声で、辺りの視線が集まっていく。
(ま、まぁ、いいか。さっさとやろう……)
計画を実行する事に決めたマリレーン。
にっこりとしながら、指を伸ばす。
「そ、そうだ先輩! せっかくやるんでしたら、勝負しませんか! ここにいる観客の皆さんに、どちらの歌がより優れているか評価してもらうんです!」
「望むところなのです!」
嬉しそうに話す猫の少女。
この上なく楽しそうな表情を浮かべて――
「ろろ、平和に歌えるのなら、何でもやるのですー!!」
猫の少女――ロロネロルが、そう宣言した。
うきうきとした雰囲気。尻尾がぶんぶんと揺れる。
大きく、マリレーンがその場で手をあげた。
「よーし、それじゃあ皆さーん! ご注目ー! いまから、ライヴによる対決が始まりますよー!」
辺りの女生徒達に向かって呼びかけるマリレーン。
わぁっと、辺りがにわかに盛り上がりをみせる。
2人の前に、あっという間に人だかりができた。
(よーし、作戦成功!! あとはこのヘンテコな野良猫の先輩を倒せば、計画は完了よー!!)
心の中でほくそ笑んでいるマリレーン。
ロロネロルは、ぽやぽやとした雰囲気で微笑んでいる。
口元に手をあてて――
「まぁ」
目を丸くしているペトラルカ。
翡翠色の瞳を向けて――
「ロロが相手だなんて。あの子、大丈夫かしら……?」
ペトラルカが、不安そうな声でそう呟いた……。
白い煙が辺りに立ち込め、香ばしい匂いが漂った。
がやがやかと活気のある、騒がしい店内。
昼時の時間帯。熱気を帯びた雰囲気。
大きな鉄板を前にして――
「先輩方ー! 来ていただいて光栄ですー!」
花園キハルが、満面の笑みを浮かべてそう告げた。
いきいきとした表情。紙エプロンを付けているキハル。
向かいに座るミアとマユが、微妙な表情を浮かべた。
「あー、うん。そうね……」
「お、お邪魔してます……」
店内の騒がしい雰囲気に押され気味なミアと、
その場で委縮して縮こまっているマユ。
ばっと、キハルが勢いよく手をあげた。
「すいませーん! スペシャル3枚くださーい!」
店の中に元気よく通る声。
厨房から「あいよー!!」と声が返ってくる。
うきうきと、キハルがヘラを持った。
「ここのお好み焼きのスペシャルが本当に美味しくて~、キハル、ぜひ先輩方にも食べて欲しかったんですよ~!」
無邪気に話しているキハル。
そのまま、熱の入った口調で語りだす。
こそこそと、顔を近づけて――
「きーちゃん、こういうタイプだったんだ。いきつけの店って言うから、てっきり超オシャレな店に連れてかれるかと思ってた……」
「わ、私もそうかと。意外と庶民派なんですね、花園さん。うぅ、でも、この騒がしい雰囲気、苦手です……」
ミアとマユが、小声で言葉を交わした。
騒がしい店内の雰囲気に吞まれている2人。
キハルが、にっこりと微笑んだ。
「先輩方はゆっくりしてて下さい! キハルがぜーんぶ、調理しますからー!」
「あっ、うん……」
「あ、ありがとです……」
借りてきた猫のようになっている2人。
キハルが可愛らしい笑みを作る。
「ぜひぜひ、楽しんでくださいねー!」
弾むような明るい声。
ヘラで鉄板を磨きながら――
(――あたしにひれ伏す前の、最後の食事をね!!)
心の中で、キハルが大きくそう言い放った。
熱せられた鉄板を前に、キハルがにやりと笑う。
(思えば、ここまで長かったわ……!!)
心の中で呟くキハル。
その脳内にあふれ出す過去の記憶、今までの経緯。
ぐっと、キハルがヘラを握りしめた。
(地下アイドルの端っこから始まって、必死にファンに媚びを売って……!! そうして努力した末に、ようやく掴んだメジャーデビュー……!!)
ぷるぷると手を震わせているキハル。
店員が「おまち~!」と銀色のカップを置いた。
お好み焼きの具材が、美味しそうに輝く。
「お~」
声をあげるミアとマユ。
キハルが「では、失礼します!」とカップを取った。
具材を混ぜ合わせながら――
(本当に長い道のりだった……!! でも、本当の勝負はここからよ、キハル!! ここから、あたしは華々しいアイドル界で、頂点を目指していくんだから!!)
心の中で、キハルの野望が燃えあがった。
手慣れた手つきで、お好み焼きを鉄板の上に広げる。
(そのためにも――)
ヘラで形を整えていくキハル。
ちらりと、視線を前の方へと向ける。
緩い雰囲気を漂わせながら――
「おー、お好み焼きってちゃんと作るとこんな感じなんだね~。えー、すごーい、美味しそう~」
「本当、良い香りですね~。こんなことなら、社長も呼べば良かったですね~」
ミアとマユが、はしゃぐようにそう言った。
どこまでも呑気な会話。気の抜けている2人。
キハルがお好み焼きを取り分け、そして――
(まずは、この間抜けコンビを倒すところからよッ!!)
心の中で、大きくそう宣言した。
にっこりと笑顔を作るキハル。その手を差し出す。
「どうぞ、先輩方!!」
可愛らしい口調のキハル。
ミアとマユが割り箸を持った。
「ありがとねー、きーちゃん~。いただきまーす!」
「い、いただきます……!」
ぱくりと、お好み焼きを口に含む2人。
その美味しさに、同時に歓喜の声をあげる。
満足そうに、キハルが胸を張った。
(ふふん、今のうちに楽しむがいいわ……!)
闘争心に満ちた言葉。
キハルがミアに視線を向けた。
(綺羅星ミア……!)
お好み焼きを食べているミアを見つめるキハル。
(ステージ上での歌唱力は圧倒的……! 人間離れした神秘的な歌声に、整った顔立ち。性格も気さくで、ファンサービスにも余念がない……!)
冷静な分析。
フッと、その口元に笑みを浮かべて――
(だけど、普段の業務態度はまるでダメダメ。ワガママで労働意欲に欠けて、社内ニート一歩手前の存在! 事務所のトップとはいえ、付け入る隙は十分……!)
そう、キハルが結論を下した。
ミアは真剣な顔で、歯に付いた鰹節を取ろうとしている。
キハルが、ミアの横へと視線を移した。
(そして、日野宮マユ……!)
楽しそうにお好み焼きの写真を撮っているマユ。
(こっちも時間制限付きとはいえ、ギターの腕前はトップクラス。一度挫折してから復活したというドラマ性もあって、今もっとも勢いのあるアイドルの一人……!)
頬に指を当てているキハル。
ふふんと、見下したような目を向ける。
(とはいえ、普段は気弱で押しに弱いただの陰キャ。結局ギターだって長くは演奏できないんだから、アドバンテージはこっちにある! おそるるに足りずよ!)
力強く、キハルがそう断言した。
マユが「美味しいです~」と感想を言う。
にっこりと、キハルが微笑んだ。
「そう言って頂けると、キハルも嬉しいです!」
いかにも謙遜した口調。
内に秘めた感情を、完璧に隠すキハル。
銀色のカップを手に取って――
(今日、この最期の晩餐(ランチ)を終えたら、あんた達の時代は終わり!! このキハルちゃんこそが事務所のトップだって、格付けしてやるんだから!!)
キハルが腹黒い野望を抱きながら、
さらなるお好み焼き作りに着手した。
どこまでも平穏な時間が流れていき――
「まいどありー!!」
ガシャンというレジの閉まる音。
店員の元気な声が、辺りに響いた。
「ごちそうさま~!」
「花園さん、ありがとうございますー!」
店の前、頭を下げるミアとマユ。
キハルが「いえいえ~」と手を振った。
「そんな、大した事じゃないですよ~」
微笑みながら答えているキハル。
きらんと、その目が鋭く光る。
さりげなく、2人の前に立つと――
「あのー、先輩方―。まだ時間って大丈夫ですかー? キハル、実は食事以外にもやりたいことがあってぇ」
キハルが、甘えるような声でそう訊ねた。
ミアとマユがきょとんとする。
「ん? なに、きーちゃん?」
「わ、私は大丈夫ですよ」
不思議そうにキハルを見つめる2人。
キハルがきゅるんと、可愛らしく手を顔に寄せた。
「キハル、一個上の階のお店にも行ってみたいんですぅ。良ければ付き合ってくれませんかー?」
「上の階?」
綺麗にハモる声。
ミアとマユが天井を見上げた。
チーンと、エレベーターの扉が開いて――
「お~」
「ほへぇ」
ミアとマユが、感嘆の声を出した。
活気のあるフロア。楽しそうに遊ぶ声。
ショーケースがひしめく店内を前にして――
「どうです? ここ、キハルいきつけのカードショップなんですよー!」
キハルが、嬉しそうにそう言い放った。
がやがやと騒がしい店内。カードに興じている人々。
清潔感のあるカードショップを、キハルが手で示した。
「へぇ~。きーちゃん、ヴァンガードやるんだー」
ケースに並ぶカードを見ながら言うミア。
マユもまた、興味深そうな視線を向ける。
「こ、こういうお店があるんですねー」
新鮮な反応。
きょろきょろと辺りを見回しているマユ。
キハルが胸を張った。
「そうなんです~、キハルけっこうオタクな所があってぇ~。それで先輩方、こっちに付いてきてくれますかー?」
さりげなく誘導するキハル。
3人が店の奥と歩き出す。
ファイト用のフリースペース、その隅で――
「じゃーん! どうです? このお店、配信用の卓があるんですよー!!」
キハルの楽しそうな声が、その場に響いた。
他より小高い位置にある、仕切りに囲まれたスペース。
綺麗なファイトテーブルが、その中央には置かれている。
「はいしんよう?」
ミアとマユが声を揃えて訊ねる。
キハルが指を伸ばした。
「そうなんです! ライヴ配信の時とかに使うスペースでぇ、ここでファイトすると目立つんですよー! キハル、配信者やってた時代はよく使ってたんですー!」
きゃぴきゃぴとした声。
ミアとマユが「ふーん……」と反応を返す。
キハルが桃色のデッキケースを取り出した。
「それでそれでぇ、綺羅星先輩と日野宮先輩! ぜひ、ここでキハルとファイトしてくれませんかぁ? キハル、お二方とヴァンガードしたいんですぅ!」
きらきらとした表情。
期待に満ちた目で、キハルが2人を見つめた。
「えっ、私と?」
自分を指差すミア。
少しだけ困惑した表情がその顔に浮かぶ。
「別に、私はいいけど~。てか、マユっちも? 残念だけど、マユっちはヴァンガードやってないよ」
「うぇっ!?」
素の声が出るキハル。
驚いたように、マユを見る。
「そ、そんなはずは!? 日野宮先輩、ライヴの前とかよくカードに話しかけてるじゃないですか!?」
「へっ?」
目を丸くするミア。
マユがびくりと身体を震わせる。
もじもじと、どこか気まずそうに――
「えっ、えっと、その……。い、一応、ヴァンガードのカードは持ってます……」
マユが、申し訳なさそうにデッキケースを取り出した。
真紅色のデッキケース。それを見たミアが驚愕する。
「ちょ、ちょっと、マユっち!? そのデッキ、まだ持ってたの!?」
本気で驚いた様子のミア。
マユが「ひぃん」と情けない声を出した。
「ご、ごめんなさい、ミアさん! で、でもその。このカードを見てると、なんだか励まされてるみたいで、勇気が出てくるんですぅ……!」
自信なさそうに言うマユ。
デッキケースの中、1枚のカードを取り出す。
紅華の淑女が描かれたカードを、マユが掲げた。
追想の花乙女 クロディーヌ
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - バイオロイド
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[リアガードを3枚退却させる]ことで、そのターン中、このユニットは『【永】【(V)】:あなたのプラント・トークンすべてのパワー+5000』を得て、ドライブ+1。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[ドロップからオーダーカードを1枚バインドする]ことで、プラント・トークンを2枚まで(R)にコールする。
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、あなたのプラント・トークンを1枚選び、スタンドさせ、あなたの、ドロップとバインドゾーンのオーダーカード合計2種類につき、そのターン中、そのユニットのパワー+5000。
― 踊りましょ!私達のこれまでと、これからの為に!
ぐるりと、ミアが目を回す。
「勘弁してよ……」
心の底から疲れた声。
マユが「ごめんなさいー!!」とミアに謝る。
キハルが手を振った。
「あ、あのー? 先輩方ー? それでその、キハルとのファイトは……?」
おそるおそる訊ねるキハル。
ミアがため息をつき、首を振った。
「……まぁ、繋がりは解けてるはずだし、いいか。もー、心臓に悪いわよ、まったく……」
ぶつぶつと呟いているミア。
つかつかと、ファイトテーブルの前に立つ。
「お待たせー、きーちゃん。ごめんね、ちょっと色々あってさ~。とりあえず、ファイトなら相手になるよ~」
軽い口調。
手をひらひらとさせているミア。
キハルの顔に笑顔が戻った。
「本当ですか! やったー!!」
全身で喜びを表現するキハル。
うきうきとしながら、ミアの向かいに立つ。
「キハル、本当に嬉しいですー! 綺羅星先輩、お手柔らかにお願いしますねー!」
「こちらこそ~。まぁ、私そんなに強くないから~」
デッキを取り出すミアとキハル。
それぞれ、目の前にカードを並べていく。
2人の様子に気付いて――
「おっ、配信卓のファイトだぞ」
「あれ誰? 有名な人?」
「どこかで見たような……」
ファイトスペース内で、ざわめきが起こった。
集まっていく視線。にわかに、辺りが活気づく。
にやりと、口元に微笑を浮かべて――
(よーし、作戦成功よ!!)
心の中で、キハルが大きく笑みを浮かべた。
イメージ上、悪そうな表情になっているキハル。
(まんまとのってきたわね!! でも、あたしが実はヴァンガードではショップ大会で優勝するほどの、超凄腕とは知らないでしょ!!)
自信満々な思考。
キハルがテーブルにデッキを置いた。
(まずはここでこの2人を倒し、あたしの凄さをわからせる!! そうして優位を得ることで、じわじわと事務所内での地位を確立していくんだから!!)
華々しい未来をイメージしているキハル。
心の中、野望の炎を燃やしていく。
可愛らしい、ハートのスリーブのカードを置いて――
「それじゃあいきますよー、先輩ー!」
キハルが、ほんの少しの闘志を感じさせる声を出した。
指をカードの上に置くキハル。不敵な笑み。
向かいに立つミアもまた、カードに指を置く。
「うん、よろしくね~」
のほほんとした口調。
気の抜けた表情で、ミアが応える。
2人の視線が交わり、そして――
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
綺麗な声がハーモニーを奏でて、その場に響き渡った。
「《ワンダーラベンダー ユルシュール》!!」
ワンダーラベンダー ユルシュール
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - マーメイド
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 響く歌声が、彼女だけの物語を描き出す。
「《歌を届けるために ロロネロル》~」
歌を届けるために ロロネロル
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!
向かい合う2枚のカード。
歌姫達の姿が、テーブルの上で表になった。
紫色の瞳に、神秘的な光が一瞬だけ宿って――
「ようやく、ろろのニャンダフルスクールライフが、帰ってきたのですー!!」
ロロネロルが、感動の声をあげた。
楽しそうな表情。喜びの舞いを踊っているロロネロル。
ミアが顔をしかめた。
「えぇ……。なにしてるのよ、ロロ……?」
困惑した表情。
誰にも聞こえないよう、小声で呟くミア。
カードを引いて――
「負けませんからね、先輩ー!」
キハルが、手札のカードを構えた。
可愛らしい表情。自信に満ちた様子のキハル。
盤面にカードが置かれていき、そして――
「ファーストチェック、クリティカルトリガー。セカンドチェック、クリティカルトリガー。サードチェック……クリティカルトリガー」
星の煌めきが、容赦なく降り注いだ。
自分仕様 エルシュカ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
― お仕着せじゃ、物足りない。
珠玉の一曲 エドウィージュ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - マーメイド
パワー4000 / シールド15000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、あなたのユニットを1枚選び、そのターン中、パワー+2000。
― 心弾む歌声は波紋となって。
自分仕様 エルシュカ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
― お仕着せじゃ、物足りない。
「ぎゃああぁぁーっ!?」
作っていない、素の声で叫ぶキハル。
わたわたと頭を抱え、そして――
6枚目のカードが、無情にもダメージゾーンに置かれた。
満場一体 マリレーン
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
リリカルモナステリオ - エルフ
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札から、このユニットと同名のカードを1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルし、そのターン中、このユニットのパワー+10000。
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【エネルギーブラスト】(4)]することで、あなたのリアガードを1枚選び、手札に戻し、あなたの手札からグレード3以下のユニットカードを1枚まで選び、ユニットのいない(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000。(【エネルギーブラスト】はエネルギーを4つ消費することで払える!)
― ここからがフィナーレ!一緒に最後まで盛り上がろ!
キハル ダメージ1→6
「あっ、やだ。勝っちゃった……」
口元を手で隠しているミア。
盤面に置かれた猫の少女のカードに視線を向ける。
「てか、はしゃぎすぎ。やる気出しすぎだよ、ロロ……」
呆れたように呟くミア。
観客達から「おー!」とどよめきが起こった。
キハルが膝をつく。
(う、嘘……!? どうしてこんなことが、あたしの身に……!? てか、なによそのふざけたトリガー!? 運が良すぎるでしょー!!)
涙目になっているキハル。
ぷるぷると、悔しさに震える。
「あー……いや、運が良かったみたい~。なんかごめんねー、きーちゃん……」
申し訳なさそうに言うミア。
心配そうに、崩れ落ちているキハルを見つめる。
キハルが立ち上がって――
「ま、まだです!! さすがは偉大なる綺羅星先輩!! ですがキハル、諦めません!!」
泣きそうになりながら、再びその闘志を燃やした。
沸き上がる観客。ぱちぱちと拍手が起こる。
びしっと、キハルがマユを指差した。
「次です!! 日野宮先輩、お願いします!!」
「えっ!? わ、私ともやるんですか!?」
キハルが頷く。
「もちろんです!!」
微妙に震えている声。
虚勢を張りながら――
(ここで帰ったら、あたしのプライドがズタボロのままじゃない!! せめて、この気弱なクソザコスライム先輩でも倒さないと、やってられないわよ!!)
イメージ上、キハルが激しく地団駄を踏んだ。
歓声が上がる中、マユがおずおずとテーブルの前に立つ。
「うぅ……大丈夫でしょうか……」
不安そうな声。
自らのカードを眺めているマユ。
ミアが小声でささやく。
「マユっち、あれからファイトしたことあるの?」
「い、いえ。実は一回もなくて……。ソラ君の動画はよく見てるので、ルールは分かるんですけど……」
渋い表情になるミア。
キハルが勢いよくデッキをシャッフルし、横に置く。
「さぁ、先輩! お願いします!」
にじみでている闘争心。
キャラ崩壊を起こしつつあるキハル。
血を流す一輪の花が描かれたスリーブのカードを置き――
「わ、わかりました! 精一杯、がんばります!」
マユが、覚悟を決めたように前を向いた。
その蘇芳色の瞳に、キハルの姿が映る。
2人がカードを掴み、そして――
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
再び、戦いの幕が上がった。
「《ワンダーラベンダー ユルシュール》!!」
ワンダーラベンダー ユルシュール
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - マーメイド
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 響く歌声が、彼女だけの物語を描き出す。
「《バイオロイドの少年 ロロワ》!」
バイオロイドの少年 ロロワ
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - バイオロイド
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 僕でも、皆を守れるのなら……!
表になるカード達。
観客達からワァッと歓声が上がった。
マユを指差して――
「本気で行きますからね、先輩!!」
キハルが、鋭い目を向けてそう宣言した。
集中した表情。真剣な様子のキハル。
2人がカードを盤面に出していき、そして――
「ふぇぇ」
マイクを持ったマリレーンが、
恐怖に怯えた表情で目の前を見上げた。
緑色の魔力が溢れ出て――
「アーッハハハハ!!」
朱華のバイオロイドが、高らかな笑い声を響かせた。
「まぁまぁ!! こんな所に迷い込んでしまうだなんて、あなたったらいけない子ね!! それとも、私と遊びたかったのかしら!!」
その顔に浮かぶ妖艶な笑み。
マリレーンが「いえ、その……」と泣きながら震える。
空の果て、バイオロイドが天を仰いだ。
「あぁ、やっぱり楽しいわ!! こうしてあなたと一緒になって踊るのは!! さぁ、共に絶望に抗う姿を、存分に眺めましょう!!」
響き渡る狂喜の声。その両手から魔力が迸る。
術式を手繰り寄せるバイオロイド――クロディーヌ。
緑色の光が、幻想的に宙を舞って――
「クアドラプルドライブ!!」
マユが鋭く宣言し、カードをめくっていった。
「ファーストチェック、クリティカルトリガー! 効果は全てクロディーヌに! セカンドチェック、クリティカルトリガー! これも同じくクロディーヌに! サードチェック、クリティカルトリガー!! フォースチェック、オーバートリガー!!」
憧憬の乙女 アラナ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - バイオロイド
パワー4000 / シールド15000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、あなたのユニットを1枚選び、そのターン中、パワー+2000。
― はい!もう一輪プレゼント♪
深淵誘い
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - ゴースト
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
― 軍艦だろうが、捕えられれば一溜まりもない。
憧憬の乙女 アラナ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - バイオロイド
パワー4000 / シールド15000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、あなたのユニットを1枚選び、そのターン中、パワー+2000。
― はい!もう一輪プレゼント♪
天恵の源竜王 ブレスファボール
トリガーユニット 【超】
(オーバートリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - ネイチャードラゴン
パワー5000 / シールド50000 / ☆1
(【超】トリガーはデッキに1枚だけ入れられる。トリガーで出たら、そのカードを除外し、1枚引き、あなたのユニットを1枚選び、そのターン中、パワー+1憶!ドライブチェックで出たら、さらに追加効果が発動!)
追加効果-1枚引く!あなたのユニットを1枚選び、そのターン中、クリティカル+1!あなたの前列のユニットすべてのパワー+10000!あなたのダメージゾーンの枚数が相手以上なら、あなたのダメージゾーンから1枚選び、回復する!
― 自然。その恵みは数え切れず、驚異は計り知れない。
「ふぁわわ?」
呆けたような声。
顔から感情が消えるキハル。
クロディーヌがにやりと微笑んで――
緑色の閃光が大地を飲み込み、全てを薙ぎ払った。
満場一体 マリレーン
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
リリカルモナステリオ - エルフ
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札から、このユニットと同名のカードを1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルし、そのターン中、このユニットのパワー+10000。
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【エネルギーブラスト】(4)]することで、あなたのリアガードを1枚選び、手札に戻し、あなたの手札からグレード3以下のユニットカードを1枚まで選び、ユニットのいない(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000。(【エネルギーブラスト】はエネルギーを4つ消費することで払える!)
― ここからがフィナーレ!一緒に最後まで盛り上がろ!
キハル ダメージ3→6
ダメージゾーンに無慈悲に置かれるカード。
観戦していた人々から、再び大きな歓声が巻き起こる。
一瞬、ぽかんとした表情を浮かべた後――
「や、やったやったー! 勝ちましたよー!」
嬉しそうに、マユが歓喜の声をあげた。
ぴょんぴょんと、その場で跳ねているマユ。
つかつかと、ミアが足早に近づく。
「マユっち!!」
「へ?」
振り向くマユ。
ミアがぐいと、マユの肩を掴んで顔を引き寄せた。
2人の顔が、至近距離まで近づく。
「わ、わ、わぁ!! な、なんですか、ミアさん!?」
顔を真っ赤にして慌てているマユ。
ミアは真剣な表情で、マユを見つめている。
ほんの一瞬、紫色の瞳が光を放ち、そして――
「やっぱり、向こうとの繋がりは消えてる。なのにあれって事は、元々向こうの存在との縁が深いってこと……?」
ぼそりと、ミアがそう呟いた。
恥ずかしそうに、じたばたとしているマユ。
ため息をつき、ミアがマユの身体を離した。
「あー、ごめん。髪の所に虫がついてるかな~と思ったんだけど、私の勘違いだったみたい。気にしないで~」
「えっ、えぇ!? そんな、ミアさん!?」
困惑しているマユ。
ミアが目をつぶりながら手を振る。
「ごめんごめん。てか、マユっち、オーバーキルすぎ。さっきの私より酷くない? きーちゃん、完全に打ちのめされちゃってるじゃん」
「えっ? あっ、花園さん!?」
視線を向けるマユ。
驚いたように、息を呑む。
キハルは真っ白になって、その場で燃え尽きている。
「うぅぅ……」
悲愴な雰囲気。
愕然として膝をついているキハル。
マユが慌てたように、ミアの方を向いた。
「ど、どうしましょう、ミアさん!?」
「どうするって言われても……」
もごもごと口ごもるミア。
ゆらりと、キハルがおもむろに立ち上がる。
ぷるぷると震えながら――
「う、うわあああああん!!」
キハルの絶叫が、空気を震わせた。
びくりと、その声に驚く2人。視線を向ける。
2人を指差して――
「こ、これで終わったと思わないで下さいね!! キハル、絶対に諦めませんから!! キハルが、ナンバーワンになるんですからーッ!!」
キハルが、涙目になりながらそう宣言した。
ぽかんと口を開けているミアとマユ。
デッキを掴んで――
「月夜ばかりと思うなよーッ!!」
キハルが捨て台詞を残し、その場から走り出した。
「わあああん!!」と泣く声が、徐々に遠ざかっていく。
ミアとマユが顔を見合わせ、そして――
「きーちゃんって……面白い子だよね」
「……そうですね」
2人が互いにそう言い、頷き合った。