カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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後日談 神に捧げる子羊達の鎮魂歌③

 

ぽやぽやとした笑顔が、目の前に浮かび上がった。

 

気の抜けた表情、いかにも穏やかな姿。

黒髪の猫の少女が、嬉しそうに尻尾を振った。

 

『ではでは、ろろの番なのです!!』

 

明るく言う猫の少女。

後ろの方に控えて、腕組みしているマリレーン。

 

自信満々に、少女の後ろ姿を見つめる。

 

(ふっふーん、せいぜいあたしの引き立て役になってよね!)

 

心の中、余裕そうにコメントするマリレーン。

観客の方を向きながら、猫の少女がマイクを構えた。

 

一瞬にして、その雰囲気が変化して――

 

『爛漫はぴねす』

 

透き通るような、神秘的な声。

曲名のコールだけで、観客達の心が掴み取られる。

 

猫の少女が口を開いた瞬間――

 

「うわあああぁぁぁ!!」

 

悲鳴のような声をあげて、

寝ていたマリレーンが飛び起きた。

 

乱れた呼吸に、ぐっしょりとした汗。青白い顔。

 

夕暮れの光が差し込む教室の中、

カーカーと鳥の鳴く声が平和に響いていく。

 

「おー、マリちゃん、おはよう~」

 

レスピーノによる呑気な声。

マリレーンが呆けたような目を向けた。

 

「あっ、はい。おはようございます」

 

きわめて丁寧な口調。

レスピーノがあくびをしながら微笑む。

 

「なーに、マリちゃん。またキャラ変するの~?」

 

「あっ、いや。そういう訳じゃなくて……」

 

口ごもるマリレーン。

自らの頬に両手をあてる。

 

「えっ、なにこれ? ひょっとして、今までのは悪い夢だった? 世界の方が間違ってた系?」

 

ぶつぶつと呟くマリレーン。

徐々に、その顔に笑みが浮かんでいく。

 

「そうか……そうなのよ!! 全部夢だったんだわ!! 変な森の中に迷い込んだのも、あの野良猫の先輩も!! 全部が全部、あたしが作り出した妄想だったのよ!!」

 

放課後の教室に響く声。

マリレーンが淡い希望を抱き、そして――

 

「マリちゃーん。さっきのやつ記事になってるよ~」

 

レスピーノが、その希望を一瞬にして打ち砕いた。

「はっ?」となって、視線を向けるマリレーン。

 

スマホの画面が、目の前に付きつけられる。

 

『野外ライヴ対決! お昼休みの惨劇の全て!』

 

インターネット上にアップされた記事。

おどろおどろしい見出しに彩られた文字が並ぶ。

 

ピースしているロロネロルの写真が表示された。

 

『――新入生による挑戦を、完膚なきまでに叩き潰して格の違いを見せつけたロロネロルちゃん(17歳・ストイケイア出身)。獅子は兎を狩るのにも全力を出すとはいうが、それでも少しは手加減してあげても良かったのではないか。勇気ある挑戦者に幸あらんことを、我々は切に願うばかりである。 記者:アオイ=ハル=スクープ』

 

「わあああぁぁぁーッ!?」

 

再び上がる悲鳴。

マリレーンが現実へと引き戻された。

 

レスピーノがスマホの画面をスクロールする。

 

「おー、けっこう見られてるね~。マリちゃんへの応援メッセージたくさんきてるよ~、読もうか~?」

 

どこまでも呑気な様子のレスピーノ。

のんびりとした口調でマリレーンに訊ねる。

 

マリレーンが頭を抱え、崩れ落ちた。

 

「うっ、ううぅぅ!! どうしてなのよぉぉぉ!! どうして、あたしがこんな目にぃぃぃ!!」

 

悶えているマリレーン。

ぽんぽんと、レスピーノが肩を叩いた。

 

「仕方ないよ~。あのロロロロロって先輩、歌唱力だけなら学園トップクラスみたいだよ~。今回のはほら、OPのイベント戦みたいなものだよ~」

 

「うぅぅっ、でも、でもぉぉぉ……!!」

 

なぐさめられ、情けない声を出すマリレーン。

レスピーノがにっこりと微笑んだ。

 

「ほら~、元気出して~。なんか美味しいスイーツでも食べに行こうよ~。付き合うからさ~」

 

差し伸べられる手。

マリレーンがぐすんと鼻をすすった。

 

「レスピーノ……!!」

 

蜜柑色の瞳を向けるマリレーン。

涙を指で拭うと、レスピーノの手を掴む。

 

ムスッとした表情を浮かべながら――

 

「……言っておくけど、やけ食いするから」

 

マリレーンが、うつむきがちにそう言った。

レスピーノが楽しそうに笑う。

 

「その調子、その調子~。マリちゃんはそうやって、傲岸不遜な感じでいるのが一番カワイイよ~」

 

「ご、傲岸不遜!? そんな風に思ってたの!?」

 

驚愕するマリレーン。

ぎゃあぎゃあと、不満そうに騒ぎ立て始める。

 

「あはは~。そんな怒らないでよ~!」

 

楽しそうなレスピーノ。

2人の間、平穏な空気が流れていく。

 

夕焼けの日差しが、地平線に沈んで――

 

「もし、そこな御方」

 

暗い夜の訪れを思わせるように。

唐突に、2人の横から控えめな声が響いた。

 

「えっ?」

 

言い争うのをやめるマリレーン。

レスピーノと共に、横を向く。

 

暗くなりつつある教室の中で――

 

「あなた様……マリレーン様でよろしかったですか?」

 

黒いフードを被った、制服を着た女生徒がそう訊ねた。

万闇節の仮装を思わせる服装。妖しげな気配。

 

うつろな瞳が、2人に向けられている。

 

「確かに、マリレーンはあたしだけど……?」

 

警戒するように話すマリレーン。

女生徒がぽんと、嬉しそうに両手を握り合わせた。

 

「まぁ、やはりそうでしたか!」

 

ぱっと浮かぶ笑顔。

訝しむ2人に向かって、女生徒が頭を下げた。

 

「突然失礼しました。わたくし、演劇部の者でして。マリレーン様にはぜひ、わたくし達の舞台を見て頂きたいのです」

 

「はぇ? 舞台ですって?」

 

困惑した声を出すマリレーン。

女生徒が「はい」と言い、チケットを取り出す。

 

けばけばしい色合いのチケットが、差し出された。

 

【銀幕の仮面 -マゼンタピンクの幸福-】

 

チケットを見つめている2人。

女生徒の口元に、微笑みが浮かぶ。

 

「今回の舞台、野望を持つ女生徒が主役なんです。彼女は学園で最も優れた歌手になることを目標に、あらゆる悪事に手を染めていきます。そんな彼女が迎える最後の結末とは? ふふ、面白そうでしょう?」

 

くすくすとした笑い声。

女生徒のうつろな目が、2人の姿を見据える。

 

紅紫色の瞳を向けて――

 

「ぜひ、観劇してくれませんか? もちろん、お友達も一緒で構いませんよ?」

 

女生徒の声が、教室の中に響き渡った。

どこか空虚な気配。消えてしまいそうな姿。

 

ふわりと、2人の間を冷たい風が通り過ぎた。

 

「ねぇ、マリちゃん。ちょっと……」

 

小声で耳打ちしようとするレスピーノ。

マリレーンが腰に手を当て、女生徒を見据えた。

 

「演劇ねぇ。別に構わないけど、なんであたしを?」

 

訊ねるマリレーン。

女生徒の口元に笑みが広がった。

 

「先ほど申した通り、今回の劇では学園一の歌手を目指す少女が主役なんです。マリレーン様もそうだと聞きまして、ぜひご意見を聞きたくて」

 

とうとうとした口振り。

マリレーンが怪訝そうな表情を浮かべた。

 

レスピーノがマリレーンの手を握る。

 

「マリちゃん、もう行こうよ……。よく分からないんだけど、なんだか嫌な感じがするの……」

 

不安そうにささやくレスピーノ。

マリレーンがこくりと頷いた。

 

「そうね……そうしましょう」

 

目くばせしている2人。

マリレーンが女生徒に向き直った。

 

「悪いんだけど、あたし達これから用事があって――」

 

そう言いかけた瞬間。

くすくすとした笑い声が響いて――

 

「いいえ、そうはいきません」

 

薄暗い教室にはっきりと響く声。

女生徒の背後、深淵が這い上がるように溢れ出た。

 

瞳の中に、妖しげな光が宿って――

 

「なぜなら、これがあなた様の運命なのですから」

 

紅紫色の光が輝き、教室の中を満たした。

マリレーンが目を見開き、驚愕する。

 

「マリちゃん!!」

 

横からあがるレスピーノの悲鳴。

だがその声も、輝きにかき消されていく。

 

神秘的な光が渦巻いて――

 

「さぁ、共に運命の舞台に参りましょう!!」

 

女生徒の言葉が、闇の中に反響していった。

光に呑み込まれていくマリレーンとレスピーノ。

 

女生徒の笑う声が響き、そして――

 

遠い星の果て、駅前の風景が目の前に広がった。

薄暗い空。夜の帳が落ちた街並みに、騒がしい雑踏。

 

駅前の広場、スマホを持ちながら――

 

「うぅぅぅ……!!」

 

唸るように、キハルが声を漏らした。

持っているスマホに、視線を落としているキハル。

 

「お願い、ここでトリガーさえ出なければ……!!」

 

真剣な表情。

祈るように画面をタップするキハル。

 

画面上、相手のカードがめくられて――

 

『GET! クリティカルトリガー!!』

 

騒がしい演出と共に、

画面上でカードがぴかぴかと光って輝いた。

 

「あーっ!!」

 

思わず声をあげるキハル。

ダメージチェックにトリガーはなく、そして――

 

『YOU LOSE!!』

 

いかにも残念そうな効果音と共に、

画面上に青色の文字が大きく表示された。

 

「……はぁ」

 

がっくりと肩を落とすキハル。

ため息をつくと、首を振る。

 

「今日は、厄日だわ……」

 

しょんぼりとした口振り。

キハルがスマホをポケットへとしまった。

 

「先輩コンビにはボロ負け。帰りに買ったパックからはレアが出ない。ネットヴァンガードでもランクが落ちる始末。もうボロボロ……」

 

落ち込んだ雰囲気のキハル。

財布を取り出すと、中から一枚の写真を取り出した。

 

憂うような表情で、キハルが写真を眺める。

 

「……帰りたいなぁ」

 

騒がしい人混みの中に消える言葉。

孤独な夜。取り残されたような感覚が、キハルを襲う。

 

漆黒の空の下、星が瞬いて――

 

「……いや! ここで諦めたら皆に顔向けできない! 絶対、あたしはトップアイドルになってやるんだから!」

 

キハルが、再び決意を燃やすようにそう言った。

誓いを立てるような想い。写真をしまう。

 

ぱんぱんと、キハルが自らの頬を叩いた。

 

「キハル、あなたならできるわ。大丈夫、大丈夫。今日はたまたま運が悪かっただけ。次こそ、あのふざけた先輩達をボコボコにしてやるんだから……!」

 

ぶつぶつと早口に捲し立てるキハル。

ぐっと、力強く拳を握りしめる。

 

一通り、自分を鼓舞してから――

 

「よし、帰るッ!!」

 

キハルが、満足そうに宣言した。

駅に向かって歩き出すキハル。人混みに紛れる姿。

 

夜空に浮かぶ星が、妖しい輝きを見せた。

 

「……ん?」

 

人通りの多い表通りを歩いている最中。

ふと、キハルが立ち止まった。

 

どこからか、絹を裂くような悲鳴が聞こえてくる。

 

「えっ、なに!? 誰か叫んでる!?」

 

慌てたように呟くキハル。

周りを見るも、通りゆく人々に気付いた様子はない。

 

声のする方――薄暗い路地裏を見つめる。

 

「ど、ど、どうしよう!? えーと、えーと……」

 

あわあわとするキハル。

だがやがて、覚悟を決めたように首を振ると――

 

「あーんもう!!」

 

意を決したように、キハルが路地裏へと入り込んだ。

小走りに進むキハル。辺りの闇が深まっていく。

 

人の気配が遠くに消えていき、そして――

 

「あ~れ~!!」

 

路地裏の行き止まり、開けた空間。

情けない悲鳴が反響して、闇の中に響いた。

 

息を切らしているキハル。顔をあげて――

 

「……はい?」

 

気の抜けた声が、その場に響き渡った。

視線の先、薄暗闇の中を見つめるキハル。

 

黒髪の少女が、一匹の野良猫にからまれていた。

 

「フーッ!!」

 

少女に向かって、威嚇している黒猫。

唸るような声を出し、少女を鋭く睨みつける。

 

猫の前、倒れ込んだ格好の少女が頭を抱えた。

 

「どうか、どうかお慈悲を~!!」

 

怯えたように身を縮こませている少女。

黒猫が手を伸ばし、少女の身体をパンチする。

 

キハルの前、少女が猫に敗北しそうになっていた。

 

「えぇ……なにこれ……?」

 

呆然と呟くキハル。

少女がハッと、キハルの姿に気付いた。

 

「あぁ、なんという僥倖! そこな旅の御方、どうか、どうかわたくしめに救いの手をー!」

 

助けを求めるように手を伸ばす少女。

キハルが「いや、旅の御方って……」とツッコむ。

 

げんなりとしながら、キハルが前に進んで――

 

「ほら、猫ちゃん! 弱い者イジメしちゃダメでしょ!」

 

腰に手を当てながら、キハルが猫に向かって話しかけた。

びくっと、身を震わせて驚く黒猫。黄色の目を見開く。

 

一目散に、黒猫が闇の奥へと走り去っていった。

 

「なんなのよ、もう……」

 

疲れたように言うキハル。

やれやれといった様子で、額に手を当てる。

 

暗がりの中、少女が立ち上がった。

 

「あぁ、助かりました! ありがとうございます!」

 

嬉しそうな声色。

深々と、黒髪の少女が頭を下げた。

 

高校の制服の上、巫女のような羽織を着ている少女。

 

セミロングの黒い髪に、整った顔立ち。

羽織に散りばめられた装飾物が、しゃらんと揺れる。

 

恥ずかしそうに、少女が頬に手を当てた。

 

「わたくし、この辺りをお散歩していたのですが……突然、先程の殿方に言い寄られてしまいまして! とってもとっても、困っていたのです!」

 

顔を赤らめている少女。

キハルが「そ、そう……」と引いたように答える。

 

ふと、少女がキハルを見て目を見開いた。

 

「……あら? あらあら?」

 

キハルに近づく少女。

興味深そうに、キハルの事を見つめる。

 

「えっ、な、なに? どうかした……?」

 

不安そうに訊ねるキハル。

少女がぴょこぴょこと跳ねるように動く。

 

その口元に笑みが浮かんで――

 

「まぁ、なんということでしょう!!」

 

少女が、感動したように叫んだ。

びくりと、驚くキハル。身を仰け反らす。

 

黒髪の少女が、両手を広げた。

 

「道に迷い、悪漢の手にかかって朽ち果てるかに思われたこの命! それを助けて下さったのは、天によって定められた宿敵だとは! これこそまさに、運命の悪戯!」

 

天を仰いでいる少女。

感極まったように、その場ではしゃぎだす。

 

異様な気配を前に、キハルの身体を寒気が貫いた。

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

血の気の引いていく顔。

怯えたように、キハルが訊ねる。

 

少女が顔を両手で覆った。

 

「あぁ、わたくしはとても悲しい! あなた様とはお友達になれると思いましたのに! ですが、これもまた運命の導き! 神の思し召しなのです!」

 

嘆くような口調の少女。

深淵が這い上がり、少女の身体に纏わりついた。

 

その手の下から、紅紫色の瞳が現れて――

 

「さぁ、共に愛を語り合いましょう!」

 

少女の瞳の中、妖しい光が宿り、輝きを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーんふふーん♪」

 

楽しそうな歌声が、辺りに響き渡った。

満点の星空の下の帰り道。街灯に照らされた道。

 

鞄を揺らしながら――

 

「いやぁ、今日も平和だったわねー」

 

宝石魔法使いの歌姫――

ウィリスタが、誰に言うでもなく一人そう話した。

 

弾むように、ウィリスタが道を歩いていく。

 

「なにせ、つい最近まで本当に大変だったもんね~。ロロが暴れて、消えて、世界を救ったと思ったら追試になって。休む暇もなかったもん!」

 

一人、話し続けているウィリスタ。

夜道を歩きながら、頭の後ろで腕を組む。

 

「まぁ、あれはあれで楽しかったけどさ~。でも、やっぱり私達の本分は学業とアイドル! これくらい平和なのが、本来のあるべき姿なのよ!」

 

はきはきとした口調。

力強く、ウィリスタがそう言い切る。

 

噴水のある広場に、ウィリスタが足を踏み入れた。

 

「失って初めて分かる日常のありがたさ……無事に過ごせることに感謝しないとね! まっ、最近はリリカルモナステリオも平和だし、しばらくは変な事も起こらな――」

 

歩き続けているウィリスタ。

噴水の傍に近づき、そして――

 

「わあああぁぁぁ!?」

 

すっとんきょうな悲鳴が、辺りの空気を震わせた。

驚愕の表情。身を仰け反らしているウィリスタ。

 

街路灯の光に照らされて――

 

「あっ……ウィリスタ……」

 

ロロネロルが、か細い声を出して顔をあげた。

しおしおとした毛並み。糸のように閉じられた目。

 

地面に敷かれたご座の上、ロロネロルが正座している。

 

「なっ、ちょっ、ロロ!? なにしてんの!?」

 

状況が理解できず訊ねるウィリスタ。

ロロネロルが「にゃー……」と声をあげる。

 

「ろろ、クラリッサに怒られて……反省中なのです……」

 

「く、クラリッサに!? なんで!?」

 

至極真っ当な疑問をぶつけるウィリスタ。

ロロネロルが、しゅんと猫耳を下げた。

 

「ろろ……今まで自分の事を猫だと思ってたのです……。でも、違ったのです……。ろろは本当は、ライオンだったのです……」

 

「はぁ?」

 

訊ね返すウィリスタ。

ロロネロルが顔を伏せ、暗い雰囲気を漂わせた。

 

「クラリッサがそう言ってたのです……。『ロロは獰猛な獅子なの! 獅子が全力でじゃれついたら、普通の子は死んじゃうのよ! ちゃんと自分を省みて!』って……」

 

しおしおのまま話しているロロネロル。

首から下げたボードを、ウィリスタへと見せつける。

 

『私は後輩相手に全力を出しました』

 

「…………」

 

黙り込むウィリスタ。

よよよと、ロロネロルが涙を流した。

 

「それで、クラリッサが反省しなさいって……。だから、放課後からずっとここで正座しているのです……」

 

「放課後から……!?」

 

驚くウィリスタ。よく見ると、

周りには差し入れと思わしき物が置かれている。

 

冷たい夜風が、辺りを通り過ぎていった。

 

「……クラリッサ、ロロのこと忘れてるんじゃ」

 

ぼそりと呟くウィリスタ。

ロロネロルが「にゃあ……」と力なく鳴き声をあげた。

 

ウィリスタが大きく、ため息をつく。

 

「もー、仕方ないわねー……」

 

呆れたような口調。

ウィリスタが手を差し伸べた。

 

「ほら、いつまでもこんな所にいたら風邪ひくでしょ! 帰るわよ、ロロ!」

 

「えっ、でも……。ろろはライオンで……反省を……」

 

「あーもう、訳わかんない事言ってないの! こんな夜更けに一人で座り込んでたら、いつまた妙な事に巻き込まれるか分からないわよ!!」

 

叱りつけるような口調。

静かな噴水広場。水の流れる音が響く。

 

漆黒の夜空に、星が煌めいて――

 

「!!」

 

ハッとなって、ロロネロルが目を見開いた。

衝撃を受けたように、立ち上がる。

 

「…………」

 

無言のまま、天を見上げているロロネロル。

風が通り過ぎて、その髪がさわさわと揺れた。

 

漆黒の空、星が眩い輝きを見せる。

 

「……ウィリスタ」

 

ぼそりと呟くロロネロル。

ウィリスタが手を振った。

 

「分かればいいのよ! さっ、一緒に寮へ――」

 

そう、ウィリスタが言いかけた瞬間。

素早く、ロロネロルが手を伸ばして――

 

ウィリスタを、自らの方へと強引に引き寄せた。

 

「ふぇっ!?」

 

大きく声をあげるウィリスタ。

固まった表情。力強く握られた手。

 

ぐいと、ロロネロルが顔を近づけて――

 

「ちょっと、お願いがあるのです」

 

普段より少しだけ低い声で、ロロネロルがそう告げた。

真剣な眼差しに、どこか冷たさを感じさせる表情。

 

ウィリスタの顔が、真っ赤に染まった。

 

「……ふぁい」

 

情けない声を出すウィリスタ。

ロロネロルが真剣な表情のまま、視線を切る。

 

「あそこ、建物があるのです」

 

遠くを指差すロロネロル。

ウィリスタががくがくと頷いた。

 

「え、えーっと……確か、演劇部が使ってる舞台ステージだっけ?」

 

どぎまぎとしながら訊ねるウィリスタ。

ロロネロルがこくんと頷いた。

 

「ステンドグラスが見えるです?」

 

「あぁ、うん、見える……。その、それがどうかしたの、ロロ……?」

 

しおらしい口調。

上目遣いに、ウィリスタがロロネロルを見つめる。

 

紫色の瞳を向けて――

 

「ろろ、ちょっとだけ空を飛びたいのです」

 

ロロネロルが、静かにそう告げた。

ざわざわと風がざわめき、夜の闇が深まっていく。

 

天に浮かぶ月が、妖しい輝きを見せて――

 

舞台の上に、スポットライトの光が落ちた。

 

「……あれ?」

 

目を覚ましたように、マリレーンが声をあげた。

ぼうっとした表情。スポットライトに照らされた姿。

 

厳かな教会を模した舞台が、目の前に広がっている。

 

「えっ、なに……ここ……?」

 

困惑と恐怖が入り混じった声。

目の前に広がる観客席へと視線を向ける。

 

観客達は皆、うつろな表情で舞台を眺めている。

 

「ひっ……!!」

 

異様な雰囲気を感じ取ったマリレーン。

怯えた表情のまま、じりじりと後ろに下がる。

 

ゆらりと、一つの影が動いて――

 

「あぁ、とても素晴らしい舞台でしたわ!」

 

舞台上、うつろな声が鋭く響いた。

コツコツという靴音。暗がりから現れる姿。

 

黒いフードをかぶった女生徒が、舞台の上に立った。

 

「あ、あんた……!?」

 

言葉を詰まらせるマリレーン。

にっこりと、女生徒が笑みを浮かべた。

 

「おめでとうございます、マリレーン様! 舞台は大成功です! ゆえに、あなた様が望むままに、その願いを叶えてさし上げましょう!」

 

昏い響きを含んだ声。

マリレーンが「な、なにを……!?」と呟く。

 

くすくすと、女生徒が笑い声をこぼした。

 

「あらぁ、覚えていないのですか? 先程の舞台、あなた様と同じく、歌姫の頂点を目指す少女による、めくるめく喜劇の物語を」

 

どこからともなく演劇の脚本を取り出す女生徒。

ぱらぱらと、ひとりでにそのページがめくられていく。

 

「どんな手を使ってでも権力を得ようと足掻く少女。策略を巡らせ、敵を蹴落とし、ついには親友さえも裏切る。そして最後には恐ろしい悪魔と契約し、永遠に呪いを歌い続ける歌姫となる。素晴らしい物語だと思いませんか?」

 

楽し気に語る女生徒。

闇が渦巻き、邪悪な気配がその身体から溢れた。

 

すっと、女生徒が白い手を差し伸べる。

 

「マリレーン様は実に見事に、その少女を演じきったのです。本当に素晴らしい演技でした。それゆえに――」

 

口元に浮かぶ妖艶な笑み。

舞台の上、不可思議な暗い光が瞬いた。

 

2人の足元に、妖しげな魔法陣が浮かび上がって――

 

「物語の通り、悪魔が契約に現われてくれましたよ」

 

女生徒の声がとろけていき、

その身体が熱せられた飴のようにどろりと溶けた。

 

「!!」

 

言葉にならない悲鳴。

マリレーンが恐怖に慄き、後ろに退く。

 

ぐにょぐにょと、闇が不気味な変形を遂げて――

 

「ごきげんよう、可憐なるお嬢さん」

 

舞台に響く紳士的な声。

顔の部分が砂時計でできた異形の悪魔が、静かに現れた。

 

教会の鐘の音が、運命を告げるように響く。

 

「な、なにが……!?」

 

震える指を向けるマリレーン。

悪魔が、四本の腕を胸の前に置いた。

 

「私はサクリファイス・グラス。あなた様の呼び出しの儀式に応じ、深淵より馳せ参じました。よろしくお願いいたします」

 

深々と会釈する悪魔――サクリファイス・グラス。

きょろきょろと、辺りを見回す。

 

「ふむ」

 

興味深そうな声。

サクリファイス・グラスが自らの手の平を見つめた。

 

「なるほど、複製の呪法ですか。どこかで眠る私自身を模倣した存在。今の私は、さながら糸のついた操り人形という訳ですね」

 

納得したような口調。

悪魔がシルクハットの鍔を握った。

 

「元の人格を残しているとは実に悪趣味です。一方で、これほどの呪法を操るとはかなりの遣い手。やったのは始祖か直系か、はたまたケイオスの悪ふざけか……」

 

悩むように呟くサクリファイス・グラス。

思案するように、その腕を口の辺りに当てる。

 

舞台の上、マリレーンが後ろに下がった。

 

「に、逃げなくちゃ……!!」

 

目の前で起こっている異様な光景。

涙を浮かべながら、マリレーンが舞台を降りようとする。

 

観客席の方を向き、そして――

 

「……嘘」

 

ぽつりと、その口から言葉が漏れた。

目を見開くマリレーン。その顔から血の気が引く。

 

観客席の中、数多の生徒の中にレスピーノの姿があった。

 

「…………」

 

うつろな表情。僅かに開いた口。

まるで抜け殻のように、レスピーノは動かないでいる。

 

舞台の上、サクリファイス・グラスが腕を広げた。

 

「さて、そろそろ契約の執行といきましょうか。あなた様の願いを叶え、私はグランドグマに捧げる生け贄を得る。実に美しい等価交換です。儀式を始めましょう」

 

厳かな口調。ぼぅっと、悪魔の身体が青白く光る。

その足元から深淵が溢れ出て、舞台を飲み込んでいった。

 

「うっ……!! うっ……!!」

 

恐怖の声を漏らすマリレーン。

がたがたと震えながら――

 

「うわぁぁぁーッ!!」

 

マリレーンが悲鳴のような声をあげながら、

悪魔に向かって突進していった。

 

その目から涙が流れ、そして――

 

「邪魔をしないで頂けますか」

 

凍りつくような声。

悪魔の腕が一本、マリレーンの方へと向けられた。

 

闇の魔力が爆ぜて、衝撃が巻き起こる。

 

吹き飛ばされるマリレーン。

舞台の上、その華奢な身体が叩きつけられた。

 

「がはっ!!」

 

空気が潰れるような音が響く。

ずるりと、マリレーンがその場に倒れ込んだ。

 

悪魔がふぅと、吐息のような音を出す。

 

「そう慌てなくとも、あなた様の願いは叶えてさしあげますよ。どうぞ、そちらでお待ち下さい」

 

落ち着き払った口調。

サクリファイス・グラスが観客席に向き直った。

 

「さぁ、はじめましょうか」

 

観客席に座る女生徒達に向き直る悪魔。

自らの身なりを整えるように、背を伸ばす。

 

ゴーンという鈍い鐘の音が辺りに鳴り響いた。

 

世界が揺れ、薄暗い路地裏の開けた空間が現れて――

 

「ダメージチェック……!!」

 

遠く離れた青い星。

どこまでも暗い路地裏の中で、苦しそうな声が響いた。

 

祈るように少女がカードをめくり、そして――

 

「ノー、トリガー……!!」

 

振り絞るような宣言が、その場に響いて消えた。

ぽとりと、少女の手の中のカードが盤面に落ちる。

 

6枚のカードが、少女のダメージゾーンに並んだ。

 

 

満場一体 マリレーン

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

リリカルモナステリオ - エルフ 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札から、このユニットと同名のカードを1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルし、そのターン中、このユニットのパワー+10000。

【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【コスト】[【エネルギーブラスト】(4)]することで、あなたのリアガードを1枚選び、手札に戻し、あなたの手札からグレード3以下のユニットカードを1枚まで選び、ユニットのいない(R)にコールし、そのターン中、パワー+10000。(【エネルギーブラスト】はエネルギーを4つ消費することで払える!)

― ここからがフィナーレ!一緒に最後まで盛り上がろ!

 

 

「うぅっ……!!」

 

うめくような声をあげる少女――キハル。

ファイトテーブルの前、跪きながら頭を抑える。

 

「あ、あたし、どうして、ファイトを……!?」

 

混乱した口調。

理解できない様子で、キハルが話す。

 

黒髪の少女が、くすくすと笑いをこぼした。

 

「これが運命なのですよ、花園キハル様」

 

仰々しい口調で話す少女。

紅紫色の瞳が、キハルの姿を捉える。

 

息を吐いて――

 

「それにしても、わたくしガッカリです!!」

 

不満そうな口調。

ぷくっと、少女が頬を膨らませた。

 

「あなた様の心に渦巻く野心。その根底にどんな闇があるのかと思って、わたくし胸をドキドキさせていましたのに! よもやこのような理由とは!」

 

いかにも怒ったような振る舞い。

黒髪の少女がある物を取り出した。

 

キハルに向け、1枚の写真が突きつけられる。

 

「あ、あたしの写真!!」

 

悲鳴のような声をあげるキハル。

数人の少年少女達が、写真の中で笑顔を浮かべている。

 

自然豊かな田舎の風景が、そこには映し出されていた。

 

「故郷にいるお友達のために頑張るだなんて、小市民的で実に退屈です! もっとドロドロとした闇が、わたくしの好みですのに!」

 

ぷんすかとしている黒髪の少女。

キハルがキッとなって、手を伸ばした。

 

「ば、バカにしないでよ! あんたに何がわかるの!」

 

批難するような声。写真を取り返すキハル。

その目に涙を浮かべながら、キハルが少女を睨んだ。

 

黒髪の少女が、かすかにその目を細める。

 

「……ふむ」

 

考えるような声。

少女が口元に手を当てて、黙り込む。

 

不気味な沈黙が辺りに流れ――

 

「……むっ! わたくし、閃きました!」

 

唐突に、少女が場違いな程に明るい声を出した。

にっこりと微笑む少女。その指を伸ばす。

 

「それならば、あなた様のその心の中にある闇! 心の奥に仕舞われた記憶を、解き放ってみましょうか!」

 

実に楽しそうに話している少女。

キハルが「な、何を……!?」と怯える。

 

少女の紅紫色の瞳が、妖しげな光を宿して輝いた。

 

目を見開くキハル。

蜜柑色の瞳の中、不気味な光が映る。

 

そして――

 

『キハルちゃんってさ、男子に媚び売ってばかりだよね』

 

目の前に、過去の光景が浮かび上がった。

真っ赤な色に染まった古びた教室。

 

中学校の制服を着た少女が、顔を伏せる。

 

『あ、あたし、そんなつもりは……』

 

『はぁ? なにそれ、あたし悪くないアピール?』

 

凍てつくような声。

くすくすと笑う声が、周囲からあがった。

 

『みーんな言ってるよ。キハルちゃん、男子なら誰とでも仲良くしようとしてるって』

 

『なにそれ、めっちゃ尻軽じゃん。マジやばくない?』

 

『ほんとほんと。ブスのくせに調子のっちゃってさぁ、勘違いしないでよね!』

 

肩を小突かれる少女。

『あっ』と声をあげ、よろめき倒れ込む。

 

教室の床に這いつくばって――

 

『キャハハハハ!!』

 

辺りに、醜悪な笑い声が響き渡った。

うずくまっている少女。頭を抱え、涙を流す。

 

破かれた教科書とノートの切れ端が舞い上がった。

 

赤い色が溶けて――

 

『キハル……!』

 

どんどんと扉を叩く音。

部屋の外から呼びかける声が響いた。

 

『もうずっと学校に行ってないじゃない。なにかあったの? お母さん、相談にのるから。ねぇ、お願いだから扉を開けて! キハル!』

 

心配する声。

薄暗い部屋の中、少女が自分の膝を抱えた。

 

『…………』

 

暗い色を宿した瞳。

イヤホンから流れる音楽に耳をすませている少女。

 

暗い絶望の中に、少女は閉じ込められている。

 

赤い色が遠ざかって――

 

「やめて……! やめて……!」

 

うわごとのように、キハルが呟いた。

零れ落ちる涙。呼吸が乱れ、嗚咽が漏れる。

 

黒髪の少女がにっこりと微笑んだ。

 

「よかった! 楽しんでもらえたようで何よりです! わたくしも、ほんのちょっぴりですが満足できました!」

 

嬉しそうな表情。

暗闇の中、天を仰ぐ。

 

漆黒の星空を眺めながら――

 

「あちらの方でも儀式が始まるようです。あぁ、嬉しい! なんと素晴らしい夜でしょう!」

 

少女の口から、狂喜の声が上がった。

路地裏に響き渡る笑い声。深淵が渦巻く。

 

悠然と、黒髪の少女が両手を広げた。

 

「これで皆様、幸せになれますね!!」

 

確信に満ちた表情。

妖しい笑顔を浮かべ、少女がそう言い切った。

 

暗闇が這い上がり、そして――

 

「そうかな? 私はそう思えないけどね」

 

鋭い声が、辺りに響き渡った。

「あら?」と反応する少女。視線を向ける。

 

靴音が響いて――

 

「だって、きーちゃん泣いてるし。幸せになるのは、あんた達だけでしょ?」

 

暗がりより、綺羅星ミアがその姿を現した。

堂々とした雰囲気。付けていたサングラスを外すミア。

 

紫色の瞳が、闇の中に浮かび上がった。

 

「き、綺羅星先輩……!?」

 

顔をあげるキハル。

ミアが微笑み、手を振った。

 

「や~、きーちゃん」

 

親し気な口調。

泣いているキハルの前に立つ。

 

ミアと黒髪の少女が、向かい合った。

 

「まぁまぁ! まぁまぁまぁー!!」

 

嬉しそうな表情。

感激した様子で、少女が顔をほころばせる。

 

2人の視線がぶつかり、空気が重く張り詰めた。

 

「あんた、名前は?」

 

微笑んだまま、静かに訊ねるミア。

隠し切れない怒りが、その声には宿っている。

 

黒髪の少女が裾を摘み上げ、うやうやしく頭を下げた。

 

「お初にお目にかかります! わたくし、神津(かみつ)クララと申します!!」

 

優雅な挨拶。

少女――クララの口元に、微笑みが浮かんだ。

 

「青春を謳歌すること――女子高生を生業としています! 綺羅星ミア様、お会いできて光栄です!」

 

「へぇ、そう」

 

いかにも興味なさそうな口ぶり。

ミアが腕を組み、クララを見据えた。

 

「それで、あんたもディフライダー?」

 

「あらぁ、お楽しみを最初に明かしては興ざめですよ! せっかちさんは良くないです!」

 

指摘するように言うクララ。

ミアがため息をついた。

 

「別に、楽しんでる訳じゃないからさ。こっちは仕事で聞いてるのよ。答えてくれる?」

 

淡々とした口調。

ぶっきらぼうにミアが訊ねる。

 

クララがフッと微笑み、両手を広げた。

 

「さて、どうでしょう? あちらの星とこちらの星、運命は互いに糸で結びついているのです。どちらが主導権を握っているのか、それは誰にも分かりませんわ!」

 

いきいきとした口振り。

はぐらかすように、クララが答える。

 

ミアが首を振った。

 

「答えないって訳ね。じゃ、もう一つだけ聞くけど――」

 

言葉を切るミア。

紫色の瞳を向けて――

 

「――あんたが、魔巫女エデンって奴?」

 

鋭い声が、路地裏の中に響いていった。

静まり返る空間。漆黒の闇が蠢いていく。

 

凍りつくような沈黙が流れ、そして――

 

「さぁ? わたくし、忘れてしまいましたわ!」

 

機嫌よく、クララがそう答えた。

頬に手をあてて、キャハハハと笑っているクララ。

 

薄暗闇の空間に、嗤う声が溶けていく。

 

「まぁ、どっちでもいいんだけどね」

 

どうでもよさそうに言うミア。

歩きながら、どこからかデッキケースを取り出す。

 

ファイトテーブルの前に立って――

 

「久しぶりの仕事よ、ロロ」

 

ミアが、不敵な笑みを浮かべた。

神秘的な声。クララもまた、くすりと微笑む。

 

神秘と暗闇が、月明かりに照らされた。

 

「あぁ、嬉しい! わたくし、胸が高鳴ります!」

 

楽しそうな様子のクララ。

丁寧な手つきで、自らのカードを並べていく。

 

「偉大なる使徒を下した歌姫! 世界を救ったあなた様方と、こうして相まみえることができるだなんて! なんと素敵な出会いでしょう!」

 

ウキウキとした口調。

クララの口元に、妖艶な笑みが浮かんだ。

 

暗い雫が描かれたスリーブのカードを置いて――

 

「盛大にお祝いしなければ!! あなた様方には、とっておきの死を贈呈させて頂きますね!!」

 

冷たい気配を纏いながら、クララがそう言い放った。

渦巻く深淵。邪悪な気配が強まっていく。

 

「とっておきの死ねぇ……」

 

呆れたような口調。

ミアが裏向きのカードを目の前に置いた。

 

白い指を伸ばして――

 

「あいにくだけど、死ぬのはもう懲りたのよ」

 

平然と、ミアがそう言い放った。

カードに指を置くミア。クララもまた、手を伸ばす。

 

強烈な威圧感が、2人の全身から放たれた。

 

「き、綺羅星先輩……!」

 

弱々しく呟くキハル。

2人の姿を不安そうな目で見つめる。

 

深淵が蠢くように胎動して――

 

「スタンドアップ!!」

 

暗闇に響く声。

その指がカードを掴んで――

 

「Z!!」

 

高らかな宣告。

辺りの景色がいびつに歪み、そして――

 

「ヴァンガード!!」

 

鐘の音と共に、舞台の幕があがった。

 

「《無垢なる誘い ラララポココ》様!!」

 

 

無垢なる誘い ラララポココ

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ダークステイツ - デーモン 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― ここは幸せいっぱい、ハッピー常闇村!

 

 

「《歌を届けるために ロロネロル》!!」

 

 

歌を届けるために ロロネロル

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

リリカルモナステリオ - ワービースト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!

 

 

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