カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
辺りがざわめき、喧騒が店の中を渦巻いていた。
カードショップ、ニアミント。
広々としたファイトスペースの一角で──
「わぁー……!!」
フランが、感嘆の息を吐いて目を輝かせた。
向かいに座っているミア。落ち着いた雰囲気。
肘をテーブルの上にのせ、ミアが微笑む。
「なに? 私の顔に何かついてる?」
「あっ、ごめんなさい! そうじゃなくて!」
慌てて手を振るフラン。
嬉しそうに、両手を握り合わせた。
「ミアさんって、すごーく綺麗な人なんですね! あたし、すごい驚いちゃってます!」
「そう? 私なんて普通だよ、普通」
穏やかな口調。のんびりと話すミア。
フランが首を振った。
「そんなことありませんよ! まるで、テレビに出てくる芸能人さんみたいですー!」
無邪気に言い放つフラン。
周囲の人々が、ぎょっとした表情を浮かべる。
「ちょ、ちょっと!!」
思わず声をあげる小柄な少女──メイ。
フランが不思議そうに首をかしげた。
メイが近づき、口を開く。
「フラン、知らないかもだけど、この人はね──」
言いかけるメイ。
さっと、ミアが手をあげて──
「そんなことないって~。それに、フランちゃんも、とっても可愛いわよ?」
にこやかに、そう言った。
フランが驚いたように目を丸くする。
「えっ!? そ、そんな、あたしは、その……」
もじもじとしているフラン。
ミアが穏やかに、その目を細める。
「自信もっていいよー。他ならぬ私が言うんだから、間違いないって~」
「そ、そうですかぁ? えへへ……」
フランの頬が、ほんのり赤くなった。
照れたように笑っているフラン。
呆気に取られているメイに向かって──
「しーっ」
ミアが、唇に指を当てながらそう言った。
悪戯っ子のような表情。ウィンクするミア。
メイと周囲の人々が、黙り込む。
「さっ、せっかくのオフ会なんだから。フランちゃんのことも教えてよ」
面白そうに向き直るミア。
再び、フランが驚く。
「えぇっ、あたしのことですかぁ!? そんな、面白い事なんてないですよー!」
「いいから、いいから。この年になると、女子高生と話す機会も少なくなるからさ~」
手をひらひらとさせるミア。
紫色の瞳を向け、じっとフランを見つめる。
「お姉さんに教えて欲しいな~、フランちゃんの事~」
「むむーっ……ミアさんがそこまで言うのでしたら、仕方ないですね!」
自信に満ちた声。
ばっと、勢いよく立ち上がって──
「教えてあげましょう! 愛と勇気の化身! 淵導フランの、めくるめく波乱に満ちた一大スペクタクルをー!」
この上ないキメ顔で、フランがそう言い放った。
「わー」とミアが嬉しそうな声をあげる。
一瞬の間の後、フランがすっと椅子に座り直した。
「16年程前のことです。とても寒い冬の日の朝……県外の小さな病院の産婦人科で、一つの命が産声をあげました。それはまるで地上に舞い降りた、真っ白な雪のように儚い存在で──」
きりっとした表情で語っているフラン。
メイが「そこから!?」と声をあげるも、無視される。
楽しそうに、ミアは話しに聞き入っている。
「へぇー、そうなんだ~」
にこにことしているミア。
フランの喋る声だけが、スペースに響く。
メイが困惑したようにささやいた。
「ねぇ、あたしの勘違いじゃなければ、あそこにいるのって、超有名歌手の綺羅星ミアよね……?」
こそこそと耳打ちしているメイ。
黒髪の女性──ニアミントの店長が頷く。
「多分、そうだね」
「じゃあ、あたしの見間違いじゃなければ、その超有名歌手が、ここでフランのよく分からない話しを楽しそうに聞いてるんだよね?」
「多分、そうだね」
同じ答えを繰り返す店長。
メイの表情がひきつった。
脈絡のない話はなおも続き、そして──
「──という訳で、淵導フランは優しいけど頼りないリュート先輩を助け、見事に美術室の絵画に憑りついた悪霊を浄化させることに成功したんですー!」
拳を突き上げ、フランがそう話しを締めくくった。
満足そうな顔。果てしなく微妙な空気が、周囲に流れる。
ぱちぱちと、ミアが拍手を送った。
「素晴らしい……! すごく良い話だったわ……! お姉さん、泣いちゃう……!」
感極まっているミア。
潤んだ瞳を向け、口元を手で押さえる。
「いや、嘘でしょ……!?」
呆れたように、メイがそう呟いた。
店長がため息をつく。
「まぁ、芸術家って変わってる人多いって言うし……」
ぼそぼそと話している店長。
メイが「そういう問題?」と言いたげな目を向ける。
ふんすと、フランがドヤ顔を浮かべた。
「ふっふーん、大した事じゃありませんよー!」
ご機嫌な表情。
自信ありげに胸を張っているフラン。
にっこりと、ミアが笑みを浮かべた。
「いやー、本当に良かった。この街に来て良かったよ~」
嬉しそうな様子のミア。
フランの姿をじっと見据える。
「フランちゃんは、アレスティエルのデッキを組んでるんだよね?」
「はい、そうなんです! あたしが初めて組んだデッキで、たくさんの思い出があるんですよ!」
目を輝かせているフラン。
ミアが目を細めた。
「そうなんだ~、それは素敵だね~。ちなみにさ、ロロネロルは組んでるの?」
「ロロネロルですか! 残念ですけど、組んでないです! ミアさんは確か、ロロネロルを使ってるんでしたっけ?」
「まぁ、そだね~」
軽い口振りで答えるミア。
にっこりと、優しく微笑む。
「フランちゃんは、ロロネロル好き?」
「はい! リリカルモナステリオのユニットはどれも可愛くて大好きですよー!」
元気よく言うフラン。
ミアが満足そうに頷いた。
「ならよかった。これからも、仲良くしてあげてね」
「はい! ん? 仲良く?」
不思議そうな表情のフラン。
ミアが笑いながら手を振った。
「こっちの話し。気にしないで!」
明るい笑顔を浮かべているミア。
さりげない動作で、スマートフォンを取り出す。
「ごめん、ちょっとだけいい? 仕事のメールを打たないといけなくてさ」
「あっ、はい! 大丈夫です! お構いなく!」
背筋を伸ばして答えるフラン。
ミアが「ありがと~」と言い、スマホに向き直った。
メイが近づいてくる。
「ちょっとフラン、さっきの話しは何なのよ?」
「えっ? 淵導フランの誕生秘話ですけど……?」
首をかしげているフラン。
メイが騒がしくツッコミを入れていく。
言い合うように会話している2人を横目に──
「──アレスティエル、ユージン、バロウマグネス、魔術師、廃滅の虚竜」
ミアが、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
「サミーの情報通りだね。繋がりの強そうな子が、この辺りには集まってるみたい。向こうの情勢と何か関係あるのかな?」
スマホの情報を眺めているミア。
画面をタッチして、情報を動かしていく。
スマホの画面に、フランの顔写真が表示された。
「…………」
無言で画面を見つめているミア。
写真の下、赤い色の文字が表示されている。
《要監視対象 Code:Alestiel》
「アレスティエル……」
ぼんやりと、考え込むような表情のミア。
ちらりと、フランへと視線を向ける。
頭を抱えながら──
「そんなー! あたしは事実を話しただけなんですー!」
メイに言いやられ、フランが情けない声をあげた。
泣きそうな表情。たじたじになっているフラン。
「…………」
紫色の瞳を向けているミア。
やがて、小さく息を吐いて──
「まぁ、悪い子じゃなさそうだし、現時点ではこれ以上の調査は不要かな」
そう、ミアが結論を出した。
指を使ってスマホの画面を操作するミア。
ページを閉じると、スマホを仕舞う。
「やー、ごめん、待たせちゃって~!」
明るい声を出すミア。
にっこりと、輝くような笑顔を浮かべる。
フランが顔を向けた。
「あっ、いえ! 全然待ってないです!」
慌てたように答えるフラン。
横に立つメイが呆れたような目を向けた。
「そう? なら良かった~」
穏やかに言うミア。
フランが「はい!」と力強く答える。
しばしの静寂の後──
「あっ、そうでした!!」
フランの中で思考が繋がり、声があがった。
ミアが小首を傾げる。
「ん? どうかしたの?」
「話すのに夢中で忘れてました! せっかく、こうしてミアさんとオフ会で会えたんですから──!」
ごそごそと、鞄の中をあさりだすフラン。
教科書やノート、筆箱といった荷物の中から──
「お近づきの印に、ファイトしましょう!!」
可愛らしいデッキケースを取り出し、フランが構えた。
楽しそうな表情。どこか好戦的な雰囲気の瞳。
ミアがかすかに、目を細めた。
「ちょ、ちょっとフラン! そんないきなり!」
たしなめるように、メイが口をはさんだ。
さらに言葉を続けようとするメイ。
だが──
「あー、別にいいよ~」
あっさりと、ミアがそう答えた。
ぴたりと固まるメイ。呆気にとられる店内の人々。
にっこりと、ミアが微笑む。
「まぁ、私そんなに強くないから。お手柔らかにね~」
軽い口調のミア。
フランが頷いた。
「わかりました! では、お願いします!」
丁寧に頭を下げるフラン。
ミアがどこからかデッキケースを取り出した。
2人が向かい合ったまま、カードを並べ始める。
「マジか……!?」
「えっ、あの綺羅星ミアが、ファイトするの!?」
「うわっ、友達にも教えないと……!」
店中がどよめき、空気が一気に熱っぽくなった。
「て、店長! どうするの! なんかすごいイベントが唐突に始まりそうなんだけど!」
あわあわと慌てているメイ。
店長が、いつになく真剣な表情を浮かべた。
「落ち着いて、メイちゃん」
大人の風格を感じさせる口調。
鋭い目をミアへと向けながら──
「とりあえず、後でサインを貰うのは確定。あと、今座ってる姿を写真に残して、あの椅子をプレミアシートにしましょう。インスタに投稿して、商品を規定額買った人に座る権利を……」
ぶつぶつと、店長が一人呟き始めた。
燃え上がる商魂。計画を練っている店長。
メイが頭を抱える。
「あぁ、ダメ……! 店長まで商売人モードに……! てか、なんでこんな大事な時に限ってリュートのバカはいないのよ……!」
嘆くように言うメイ。
そうこうしている内に、ファイトの準備が整っていく。
熱気が渦巻く中で──
「よーし、それじゃあ行きますよー、アレスティエル!」
周りの気配に全く気付かないまま、
フランが呑気にカードに向かって語り掛けた。
にっこりとした笑み。自信に満ちた様子のフラン。
「さて、と」
カードを置いていくミア。
目を細め、考えるように口元に指を当てる。
「んー……」
悩むような表情を、ミアが見せる。
裏向きになった1枚を置き、そして──
「まっ、今回は別にいっか」
そう、ミアが呟いた。
気の抜けた表情。のほほんとした雰囲気のミア。
カードを挟み、2人が向かい合う。
「それじゃ、準備はいいー?」
指をカードの上に置き、訊ねるミア。
フランが「はい!」と元気よく答えた。
「いつでもいいですよー!」
気合いの入った声。
フランが不敵な笑みを浮かべた。
張り詰めていく空気。辺りが一瞬にして静まり返る。
互いの視線が交わり、そして──
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
掛け声と共に、カードが表になった。
「《歌を届けるために ロロネロル》~」
歌を届けるために ロロネロル
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― ろろは……もっと、も~っと頑張るのです!
「《白黒の個性 アレスティエル》!」
白黒の個性 アレスティエル
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
リリカルモナステリオ - エンジェル
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 手のひらの中。あるのは2つの可能性。
フィールドに降り立つ2人の少女。
共に同じ、リリカルモナステリオに所属する歌姫。
猫の少女と天使の少女が、互いに微笑む。
「それじゃ、私のターン」
のんびりと宣言するミア。
カードを引くと、手札を眺めた。
テーブルの上に、カード達が置かれていく。
「《みんなで歌おう ロロネロル》にライド!」
みんなで歌おう ロロネロル
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
リリカルモナステリオ - ワービースト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
ドレスアップ-「みんなに響け ロロネロル」(ファイト中、指定カードと同名として扱う)
【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたの山札を上から5枚見て、グレード3以下のユニットカードを1枚まで選び、(R)にコールし、山札をシャッフルする。
【自】【(V)】:このユニットがヴァンガードにアタックした時、あなたのオーダーゾーンから表の曲を1枚まで選び、歌う。相手のヴァンガードがグレード3以上なら、さらに【コスト】[「ロロネロル」を含むグレード3を【ソウルブラスト】(1)]することで、そのバトル中、このユニットのドライブ+1し、相手は手札から守護者を(G)にコールできない。
― 今日はパレード!みんなで楽しく歌うのですよ~♪
「《祝福の聖天使 アレスティエル》にライド!」
祝福の聖天使 アレスティエル
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
リリカルモナステリオ - エンジェル
パワー13000 / シールドなし / ☆1
ドレスアップ-「双翼の大天使 アレスティエル」(ファイト中、指定カードと同名としても扱う)
【自】【(V)】:あなたのメインフェイズ開始時、あなたのバインドゾーンから1枚選び、手札に加え、山札を上から1枚バインドする。
黒翼-【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[手札から1枚捨てる]ことで、あなたの山札から黒翼能力を持つカードを1枚まで探し、(R)にコールし、山札をシャッフルする。
白翼-【自】【(V)】:このユニットがアタックしたバトル終了時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1),手札から1枚捨てる]ことで、あなたの、山札か手札から元々のカード名が「双翼の大天使 アレスティエル」のカードを1枚まで探し、【スタンド】でライドし、そのターン中、ドライブ-1。山札から探したら、山札をシャッフルする。
― 黒白の双翼は、新たな生命の誕生を言祝ぐ。
互いに攻防が続く。
楽しそうに、カードを動かしている2人。
ターンが経過していき、そして──
「アレスティエルで、ヴァンガードにアターック!!」
元気よく、フランがそう宣言した。
白と黒の翼を持つ天使のカード。笑顔をふりまく姿。
イメージの中、天使の羽根が宙を舞った。
双翼の大天使 アレスティエル パワー36000 ☆2
じっと、手札を眺めているミア。
やがて息を吐き、視線を伏せると──
「ノーガード」
諦めたように、ミアがそう言った。
勢いよく、フランがカードをめくる。
「ドライブチェック! ノートリガーです!」
カードを見せるフラン。
ドキドキしながら、ミアの動きを待つ。
デッキの上に手を置いて──
「ダメージチェック」
すっと、カードを見るミア。
紫色の瞳が、ほんのかすかに揺れた。
穏やかな微笑みを口元に浮かべて──
「ノートリガー」
最後の1枚が、ミアのダメージへと置かれた。
淀みない進行 マリルゥ
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
リリカルモナステリオ - マーメイド
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(R)】:あなたのターン中、あなたの裏のオーダーゾーンが2枚以上なら、このユニットのパワー+10000。
【自】:このターンにあなたがペルソナライドしているなら、このコストは『【ソウルブラスト】(1)』でも払える。このユニットが(R)に登場した時、【コスト】[手札から1枚ソウルに置く]ことで、あなたの山札から曲カードを1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルする。
― それでは~!次の曲へ参りましょう♪
ミア ダメージ5→6
あっさりとした決着。
しばし、辺りが静まり返った。
「あー、負けちゃった~」
軽い口振りのミア。
さして気にした様子もなく、手札を置く。
拳を突き上げて──
「やりましたー!! 勝利ですー!!」
フランが、とても嬉しそうに声をあげた。
きゃぴきゃぴとはしゃいでいるフラン。満面の笑み。
つかつかとメイが近づき、その頭をひっぱたいた。
「おバカ! 相手に失礼でしょ!」
「あっ!? ご、ごめんなさい、テンション上がってしまって、つい……!!」
しゅんとするフラン。
ミアが笑いながら手を振った。
「アハハ、気にしないで~。すごく楽しかったよ~」
のんびりとした口調のミア。
機嫌よさそうに、カードを片付けていく。
「アレスティエルって、そういうデッキなんだねー。私、あんまりカードの事詳しくないからさ~」
「そうなんですか。ふふん、アレスティエルはですねぇ、色々な構築があるんですよ! 例えば、白翼で固めたデッキとかもあって……」
喜々として語りだすフラン。
にこにこと、ミアがその話に耳を傾ける。
「へぇ、そうなんだ~。勉強になるね~」
「えへへ! アレスティエルの事なら、なんでも聞いて下さいね!」
輝くような笑顔を浮かべているフラン。
ミアが「うん、ありがとね~」とお礼を述べる。
フランが身を乗り出した。
「あ、あの! まだ時間は大丈夫ですか! 良ければもっと、ミアさんとファイトしたいんですけど!」
上目遣いに訊ねるフラン。
ほんの少し、心配そうな目を向ける。
ミアがおおらかな笑みを浮かべた。
「全然、大丈夫だよ~。今日はオフだから~」
手をひらひらとさせているミア。
フランが目を輝かせた。
「本当ですか! やったー!」
全身で喜びを表現しているフラン。
再び、鞄の中をあさり始める。
「それでしたら、ぜひお願いします! よーし、じゃあ、次はメディエールのデッキを──」
うきうきとデッキを選んでいるフラン。
メイが呆れた目をしながら、ため息をついた。
カランカランという鈴の音が響く。
「おっと、いらっしゃいませー!」
店長が顔を向けて、声をかける。
大きく開かれた店の扉。外からの日差しが入り込む。
2つの小さな影が、その場に並び立って──
「みーつけたー!!」
唐突に、その場に甲高い子供の声が響き渡った。
「ん?」
「はえ?」
声のした方を向くミアとフラン。
観戦していた人々の視線もまた、そちらに移る。
コツコツという足音を響かせて──
「わぁ、たくさん人がいるよ、マリン!」
「わぁ、たくさん人がいるね、アルト!」
並んで歩く2人の子供が、そう声をあげた。
ぶかぶかの白い服。手を繋いで歩く姿。
全く同じ容姿をした金髪の双子が、くすくすと笑った。
「げっ、まさか……!」
双子を見て、眉をひそめるミア。
露骨に嫌そうな表情が浮かぶ。
フランが首をかしげた。
「どうしたんですか? ひょっとして、迷子さん?」
心配そうに訊ねるフラン。
不思議そうな目で、双子を見つめる。
双子がファイトスペースの方へと近づいた。
「ようやく見つけたよ、マリン!」
「ようやく見つけたね、アルト!」
楽しそうに話している2人。
それぞれ片方の腕をあげて──
「ロロネロルと!」
「その飼い主!」
双子が、ミアの事を指差した。
渋い表情のミアと、怪訝な様子のフラン。
ざわざわと、店の中がどよめいていく。
「ちょ、ちょっと、急になんなのよ……!?」
困惑したように訊ねるメイ。
周囲からの視線が集まっていく。
双子がばっと、腕を広げた。
「僕はアルト!」
「僕はマリン!」
それぞれ自分を示している子供達。
にっこりと、不敵な笑みを浮かべて──
「僕達は双子!! 2人の使徒!!」
2つの声が見事にハモり、その場に響き渡った。
呆気にとられている人々。ざわめく店内。
ミアが深く、ため息をつく。
「もー、こんなタイミングで……」
不満そうに呟くミア。
ぶつぶつと、文句のような言葉が漏れる。
「使徒……?」
全く話に付いていけていないフラン。
双子が面白そうに笑い合った。
「敵がいるよ、マリン!」
「敵がいるね、アルト!」
2人が顔を見合わせて、首をかしげる。
「バフォルメデス様、なんて言ってたっけ?」
「バフォルメデス様、邪魔者は倒せって言ってた!」
くるくると、2人の立ち位置が入れ替わる。
「向こうのロロネロルと?」
「こっちの飼い主さん!」
頷き合う2人。
ミアの方を向いて──
「まとめて一緒に、倒しちゃえって!!」
2人の声が、再び重なった。
ますます困惑した表情になるフランとその周囲。
ミアが目を細め、額に手を当てた。
「……2人いっぺんかぁ。面倒くさいなぁ」
周りに聞こえないよう、小声で言っているミア。
フランがおろおろと、双子を見つめる。
「えーっと、どういう意味ですか? ロロネロル? 飼い主さん?」
理解できないでいるフラン。
混沌とした空気が、辺りを飲み込んでいく。
ミアの視線が、フランへと向けられた。
「……その手があったわね」
ぼそりと呟くミア。
ほんの一瞬だけ、その瞳に渦巻く光が宿る。
細い息を漏らすと──
「あぁっ、どうしよう、フランちゃーん!」
突然、ミアが情けない声を出した。
いかにも困ったような表情。潤んだ瞳。
きゅるんと、ミアがフランの方へと迫る。
「この子達、私のことを倒そうとしてるんだって~。お姉さんヴァンガード初心者だし、このままじゃ怖くて1人しか相手できないよー! どうしようー!」
きらきらとした上目遣い。
困ったような眼差しをフランへと向けるミア。
双子の笑顔が引っ込む。
「下手くそな演技だね、マリン」
「下手くそな演技だよ、アルト」
容赦のない発言。
ミアの表情が、ほんのかすかに引きつる。
ツッコミ所満載のミアの発言に対して──
「なっ……!? そうなんですか!?」
フランが、心の底から驚いたようにそう訊ねた。
どこまでも純真無垢な心。嘘のような純粋さ。
人助けの精神に燃えながら──
「わかりました! そういうことでしたら、この淵導フラン! ミアさんのために助太刀いたしますよー!」
フランが、大きくそう言い放った。
真剣な表情。自信満々に断言するフラン。
「本当? ありがとねー!」
ぱっと、ミアの顔が明るくなる。
まるで悪役のような笑みを浮かべているミア。
一連の流れを見ていたメイが──
「いや、ちょろすぎるでしょ……。ていうか、なにがどうなってるのよ……」
誰に言うでなく、そう呟いた。
双子が不思議そうに、それぞれ首をかしげる。
「誰だろうね、マリン?」
「誰なのかな、アルト?」
訊ね合う2人。
ふんすと、フランが胸を張る。
「あたしは淵導フラン! 五洲高校カードファイト部の部員にして、またの名を†可憐なる黒と白の堕天使†です!」
ばーんとポーズを決めるフラン。
双子が引いたように、かすかにのけぞった。
「んー??」
じーっと、フランを見つめている双子。
その瞳の中、妖しげな光が瞬いて──
猫の少女の隣りに立つ、天使の少女の姿が浮かんだ。
「アレスティエル!!」
フランを指差し、大声で言う双子。
再び、その顔に不敵な笑みが浮かぶ。
「そういうことだね、マリン!」
「そういうことだよ、アルト!」
理解したかのような発言。
双子が頷き合い、にっこりと微笑んだ。
「なら」
重なる声。
双子がどこからかデッキケースを取り出す。
デッキを構えて──
「2人まとめて、相手してあげる!!」
2つの声が1つに混じり、響き渡った。
けらけらとした笑い声が響く。漂う異様な雰囲気。
双子の瞳が一瞬だけ光り、輝いた。
「さーて、それじゃあ」
声をあげるミア。
先程までと違った、どこか鋭い表情。
カードを手に──
「仕事の時間よ、ロロ」
そう、ミアが静かに呟いた。
口元に浮かぶ不敵な笑み。紫色の瞳が瞬く。
4人の視線が空中でぶつかり、そして──
ファイトテーブルを挟み、それぞれが相手と対峙した。
「僕の相手は君なんだね?」
フランに向かって訊ねる双子の一人──アルト。
にっこりと、フランが頷く。
「その通りです! あたしの方が年上ですから、胸を借りるつもりで戦っていいんですよ!」
得意そうに言うフラン。
アルトがくすくすと笑みをこぼした。
隣りのテーブルのミアが微笑む。
「君は遠慮しないで、手加減してくれていいんだよー?」
双子の一人──マリンに向かって話しかけるミア。
マリンがけらけらと笑った。
「わぁ、やっぱり演技が下手だね! それとも、それって"猫をかぶってる"ってやつなのー?」
子供らしい口調のマリン。
ミアが肩をすくめた。
「まったく、ジョークが通用しないんだから……」
不満そうな声のミア。
テーブルの上に、カードが並べられていく。
双子の前に、裏向きの1枚がそれぞれ置かれた。
「遊ぶ時間だよ、スピノマーキス!!」
「遊ぶ時間だね、ハルムヴェルド!!」
カードに呼びかけている双子。
山吹色の瞳と紺碧色の瞳に、一瞬だけ光が宿る。
ミアとフランもまた、目の前にカードを置いた。
4枚のカードが、盤面に並んで──
「それじゃ、頼んだわよ、フランちゃん」
のんびりと、ミアがそう告げた。
隣りに立つフランが胸に手を当てる。
「はい! 任せて下さい!」
自信に満ちた表情。頷き合う2人。
視線を外すと、それぞれが双子の方を向く。
カードの上に指が置かれ、そして──
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
4つの声が響き、カードが表になった。