カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

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第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙①

 

夕焼けが赤く、辺りを照らしていた。

 

沈みかけた太陽。夕暮れの光。

人々がそれぞれの帰路についていく。

 

マンションのエントランスに足を踏み入れて――

 

「あー、今日は疲れた~」

 

ミアが、深々と息を吐いた。

疲れ切った表情に、とぼとぼと歩く姿。

 

再び、その口からため息が漏れる。

 

「本当、最近は忙しすぎるよ~。いくら私が天才でも、こんなんじゃいつか倒れちゃうー」

 

ぼやくような言葉。首を振るミア。

エレベーターに乗り込むと、ボタンを押す。

 

扉が閉じて、エレベーターが上昇していった。

 

「今日は疲れたし、料理はあるものですませて……」

 

ぶつぶつと、ミアが独り呟いた。

ポーンという音と共に、エレベーターが最上階にとまる。

 

空に広がる夕焼けが、ミアの目に映った。

 

「……綺麗だなぁ」

 

夕暮れの景色を眺めているミア。

その紫色の瞳を揺らし、かすかに微笑む。

 

廊下を歩いて――

 

「……あれ?」

 

扉の前、鍵を取り出したミアが声を出した。

かすかな違和感。そっと、ドアノブに手をかける。

 

何の抵抗もなく、扉が開いた。

 

「これって……」

 

朝、家を出る時の事を思い返すミア。

鍵をかけて戸締りを確認した、はっきりとした記憶。

 

「…………」

 

扉を開けるミア。

玄関に脱ぎ捨てられた靴に、置かれた鞄。

 

そして中から響く、騒がしい物音。

 

「!!」

 

慌てて、ミアが家の中へと入る。

まるで猫のような素早い身のこなし。驚いた表情。

 

ぱたぱたと足音を立てて――

 

「お姉ちゃん!!」

 

ミアが、リビングの扉を勢いよく開いた。

 

「わぁ、なになに!?」

 

中にいた人物が戸惑った声をあげた。

ミアと同じ、紫がかった長い髪。色白の肌。

 

紫色の瞳を向けて――

 

「なーんだ、ミアかぁ」

 

ホッとしたように、少女が息を吐いた。

ミアが、いかにも怒ったような表情を浮かべる。

 

「お姉ちゃん! 帰ってくるなら、ちゃんと事前に言っておいてよ!」

 

「えー、ちゃんとメールしたよ~」

 

スマホを取り出す少女。

ふりふりと、見せびらかすようにスマホを揺らす。

 

画面をのぞき込んで――

 

「これ、送信失敗してるじゃん。送れてないよ」

 

冷たい目を、ミアが向けた。

少女が「へ?」と、間の抜けた声を出す。

 

スマホの画面を見て――

 

「……あっ」

 

少女が、声をあげた。

ミアからの冷たい視線にさらされている少女。

 

冷や汗を流しながら、スマホを操作する。

 

ポーンという音と共に、ミアのスマホにメールが届いた。

 

「……ほら、送ったよ」

 

「遅いよ! てか、目の前にいるじゃん!」

 

つっこむミア。

少女が手を振り上げた。

 

「あーん、もう! アメリカ帰りなんだから、そういうものなの! 時差よ、時差!」

 

「そんな訳ないでしょ! 思いっきり今送ってたし!」

 

騒ぎ立てるミア。

ぎゃあぎゃあと、2人がしばらく言い争う。

 

ため息をついて――

 

「本当、しっかりしてよね、カナタお姉ちゃん!」

 

ミアが、呆れたような目を少女に向けた。

少女――紫導(しどう)カナタが目を潤ませる。

 

「ううぅぅ、はるばるアメリカから帰ってきたのに、家族である妹はこの塩対応。これは立派な家庭内ハラスメントだよ!」

 

怨みがましい口調。

わざとらしく涙を流しているカナタ。

 

ミアが額に手を当てた。

 

「まったくもう……」

 

やれやれと首を振っているミア。

諦めたかのように顔をあげる。

 

紫色の瞳を向けて――

 

「それじゃ、おかえりなさい。お姉ちゃん」

 

紫導ミアが、柔らかな笑みを浮かべた。

カナタもまた、顔をあげる。

 

「……うん、ただいま」

 

微笑むカナタ。2人が笑い合った。

夕焼けの空が暗く染まり、夜の闇が天に広がる。

 

食卓を囲んで――

 

「それで、向こうの方はどうなの?」

 

ミアが、カナタに向かって訊ねた。

テーブルの上に置かれた夕食。和の料理。

 

カナタが味噌汁を手に、口を開く。

 

「まぁ、順調かな~。色々忙しくて手が回らないけど」

 

「本当だよ。髪の毛、すっごいボサボサじゃん」

 

じとっとした目を向けているミア。

カナタの枝毛だらけの髪を見つめる。

 

「科学者に身だしなみという概念はないのだよ~」

 

味噌汁をすすりながら、カナタが答えた。

ミアがため息をつく。

 

「それはお姉ちゃんがズボラなだけでしょ。ほーんと全然変わってないんだから」

 

わざとらしく肩をすくめているミア。

カナタが焼き魚に箸を伸ばした。

 

「そういうミアはどうなの? 元気?」

 

「私? 私はもちろん、順調だよ!」

 

元気に答えるミア。

にっこりと、輝く笑みを浮かべる。

 

「アイドル活動はばっちりだし、ファンだって増えてきてるからね! それに今、新曲だって考えてるんだよ!」

 

自慢するように話すミア。

嬉しそうに顔をほころばせる。

 

カナタもまた、微笑みを浮かべた。

 

「そっか。それなら、何よりだよ」

 

にっこりと目を細めているカナタ。

愛おしそうな目を妹へと向ける。

 

ミアが茶碗を持った。

 

「それで、お姉ちゃんはいつまでこっちにいるの?」

 

「んー、しばらく居れそう。向こうの研究室、今ちょっと別件でゴタついててさー。だからしばらくお休み貰えたんだー」

 

淡々と答えるカナタ。

もそもそと、納豆をのせたご飯を食べる。

 

ミアが目を輝かせた。

 

「本当!? ならさ、今度イベントとかに来てよ! 私そこで歌ったりするから!」

 

「えー、イベントー?」

 

悩んだように、カナタの眉が下がる。

 

「私、人混み苦手なんだよね~。ていうか、そもそも、人間が苦手っていうか……」

 

小さくなっていく声。

陰気なオーラを出しているカナタ。

 

ミアが呆れた目を向ける。

 

「そんなこと言ってるからダメなの! そういう訳で決まり! イベントの詳細決まったらまた教えるから!」

 

強引にまとめるミア。

カナタが「はいはい……」と諦めた声を出す。

 

「それにしても、よくあんな風に人前で歌えるよねー。私なんかじゃ絶対無理だな~」

 

ミアに視線を向けているカナタ。

 

「色々と大丈夫なの? アイドルやってると変なのに絡まれたりするって聞くし。お姉ちゃん、そこは心配だな~」

 

カナタの顔に少しだけ不安そうな表情が浮かぶ。

その紫色の目が、少しだけ揺れた。

 

煌めくような笑顔を浮かべて――

 

「全然、大丈夫だよ!」

 

ミアが、そう断言した。

明るい口調。楽しそうな雰囲気。

 

紫色の瞳を向けて――

 

「だって私、煌めく天才アイドルだから!!」

 

ミアが、自信満々にピースサインを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然!! 大丈夫じゃありませんよー!!」

 

室内に、マネージャーの悲痛な声が響き渡った。

張りつめた空気。緊張感に満ちた空間。

 

窓の外には、穏やかな青い空が広がっている。

 

「えー、そうー?」

 

首をかしげるミア。

微笑みを浮かべたまま、指を伸ばす。

 

「だってさ、雑誌のインタビューの方は延期してもらえたし、イベントの打ち合わせもマユっちがだいたいやってくれたんでしょ? 新曲だってちゃんと作ってるし」

 

言い訳するように、ミアが言葉を連ねていく。

 

「つまり、万事順調! 全然問題なし!」

 

自信満々に、ミアがそう言い切った。

マネージャーが絶句して、言葉を失う。

 

ため息をついて――

 

「綺羅星さん」

 

目の前に座るスーツの女性が、冷たい声を出した。

厳かな口調。鋭く射抜くような視線。

 

険しい表情の女性が、口を開く。

 

「契約の時にあなたは言ってましたね。『たまに急用が入る時があって、その時は仕事を休ませてほしい』と」

 

「えぇ、その通りです!」

 

「ですが、それはあくまで常識の範疇での要望と考えていました。少なくとも、いきなり当日全ての予定をキャンセルするような事まで、こちらは肯定していません」

 

絶対零度の温度を感じる言葉。

ミアが笑みを浮かべる。

 

「いやぁ、社長。そう言われても、私にも色々と予定があるんですよ~」

 

親し気な口調。手を振るミア。

マネージャーの顔から血の気が引いた。

 

女性――諏訪(すわ)レイカが目を細める。

 

「これはあなただけの問題で済む話ではありません。うちの社の評判に関わる事です」

 

冷たく話すレイカ。

その青い瞳がミアへと向けられる。

 

「関係各社に迷惑をかけるような事は許されません。以後、同じような事があれば契約の打ち切りも検討させて頂きます」

 

はっきりとした声。

迷いなく、レイカがそう告げた。

 

「しゃ、社長! それはさすがに!」

 

慌てて、マネージャーが間に入った。

ミアとレイカ、交互に視線を向ける。

 

「た、確かに今回はミアさんが悪いですけど! そ、それでもいきなり首寸前っていうのは重すぎるんじゃ。わ、私もこれから指導しますから……!」

 

「マユ、あなたは黙ってなさい」

 

厳しい声を出すレイカ。

マネージャーが委縮したように身を縮こませる。

 

「いいよ、マユっち。社長が言ってる事、正しいし」

 

微笑んだまま手を振るミア。

レイカに向き直る。

 

「お話しは分かりました。でも、私の用事はどうしても外せない物なので。きっとまた起こると思いますよ~」

 

あっけらかんとそう話すミア。

紫色の瞳の中、レイカの姿が映る。

 

2人の視線が空中でぶつかった。

 

「そうならないことを願ってます」

 

「えぇ、努力します!」

 

明るく答えるミア。緊迫感に満ちた空気。

あわあわと、横のマネージャーは震えている。

 

フッと、レイカが視線を切った。

 

「それで、マユ。昨日の打ち合わせはあなたが仕切ったんでしょう。どうなったか報告してもらえるかしら」

 

目線を伏せがちに、固い声で話すレイカ。

マネージャーがはっとなって、直立不動になる。

 

「は、はい! しょ、少々お待ちを!」

 

慌てた表情になるマネージャー。

持っていた書類ケースに手を入れて――

 

「あわわわわ!!」

 

勢いあまって、盛大に中の書類をぶちまけた。

ばらばらと、複数の書類が床に散らばる。

 

「マユ……」

 

レイカが目を閉じる。小さなため息。

 

「もー、マユっちったら、慌てすぎだよー」

 

かがみこみ、書類を拾っていくミア。

ふと、書類の中に紛れこんだある物が目に留まった。

 

――床に落ちている、1枚のブロマイドに。

 

「ん?」

 

ひょいと、それを拾い上げるミア。

しげしげと、手の中のブロマイドを見つめる。

 

「あっ、そっ、それは……!!」

 

顔をあげ、ミアの方を向くマネージャー。

さらにあせった表情がその顔に浮かんだ。

 

マネージャーがさらに何かを言う前に――

 

「もういいから。口頭で報告してちょうだい」

 

レイカの冷たい声が、その場に響き渡った。

マネージャーが「はぐっ!」と声を詰まらせる。

 

渋々、ミアから視線を外して――

 

「あ、あのですね! 今度ミアさんに参加してもらうイベントはですね、ヴァンガード普及協会とのタイアップイベントです!」

 

マネージャーが、レイカに向けて話し始めた。

 

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