カードファイト!! ヴァンガード StarSong 作:バビロン@VG
「ヴァンガード普及協会ー?」
怪訝そうに、ミアが訊ねた。
マネージャーが頷く。
「は、はい! 企画としてはですね、今話題のアイドルや俳優、動画配信者にヴァンガードをやってもらうという趣旨の大型イベントでして……!」
緊張しながら話すマネージャー。
ますます、ミアが怪訝そうな目を向けた。
マネージャーが、一枚の企画書を掲げる。
「こ、これが、概要です!」
おそるおそる、書類をレイカに渡すマネージャー。
鋭い視線が、企画書の文字へと向けられた。
「…………」
無言で書類を読み進めているレイカ。
マネージャーがさらに、言葉を続ける。
「基本的にはヴァンガードをやってもらうのがメインのイベントなんです! ファイターとして経験のある方には、ステージ上でファイトしてもらったりですとか。経験がない方には、ティーチングに入ってもらったりして……」
おどおどと話しているマネージャー。
レイカは黙ってその言葉を聞いている。
「えー! ライヴのイベントじゃないのー!」
ミアが、不満そうな声をあげた。
びくりと、マネージャーが身体を震わせる。
「えっ、えっ……?」
視線をミアへと向けるマネージャー。
ミアがいかにも不満そうに、むくれる。
「私、煌めく星の歌姫なんだから! 歌えないイベントなら、参加する意味ないじゃん!」
「えっ! あっと、その……!」
困った表情を浮かべるマネージャー。
レイカが短く息を吐いた。
「言い方はともかく、綺羅星さんの言うことにも一理あります。そのイベント内容だと、綺羅星ミアという商品のアピールとしてはそぐわない。あなた、どういう意図でそのオファーを受けたのかしら?」
「あっ、いえ、それは……!」
顔を伏せてしまうマネージャー。
じわりと、その目に涙が浮かんだ。
「ご、ごめんなさい……。わ、私、そこまでは考えてなくて……。向こうの企画の人から、どうしても今話題のミアさんを出演させてほしいって言われて、それで、その……!」
今にも泣きそうな表情。
顔を伏せ、マネージャーが小刻みに震え出した。
レイカが目を伏せる。
「……仕方ないわね」
小さく呟くレイカ。
ミアもまた、肩をすくめた。
「もう、本当にしょうがないなぁー、マユっち。これは1つ貸しだからねー」
恩着せがましく話すミア。
レイカが睨むような視線を向けた。
「そもそも、あなたが打ち合わせを欠席したのも原因の一つでしょう。不満というのでしたら、今度からはちゃんと打ち合わせに参加することです」
「はいはい。分かりましたー」
軽く答えるミア。
マネージャーが頭を下げた。
「うぅぅぅ、すみませんでした……」
気弱な声。ぺこぺこと謝っているマネージャー。
顔をあげると、2人に向かって続ける。
「で、でもですね! 今回の企画、本当に有名な方々が来るんですよ! だからきっと、ミアさんのアピールの場としても申し分ないはずです!」
「へぇー、どんな人がくるの?」
何気なく訊ねるミア。
マネージャーの目に光が宿った。
「そ、それはもう! すごいんです!」
熱っぽい口調。マネージャーがミアに迫る。
「アイドルとしては、人気爆発中の『レノ&テンマ』さんですとか! 他にも名だたる俳優陣に混じって、天才子役と言われている足立(あだち)ハル君なんかも来ます!」
熱弁しているマネージャー。
両手を握り合わせる。
「他にもですね! 普及協会からはプロファイターの方々も参加が決まってます! あと、有名な動画配信者の人なんかも大勢――」
「動画配信者?」
マネージャーの言葉に反応するミア。
持っていたブロマイドを掲げて――
「言われて思い出したけど、これって確かそういう活動してる子じゃなかったっけ。動画で見たことあるよ」
ミアが、なにげなく訊ねた。
マネージャーが凍り付いたように固まる。
ブロマイドには、銀髪の少年の姿が映っていた。
「あっ、いや、その……!」
慌てだすマネージャー。
レイカがブロマイドに目を向けた。
「……事務所所属の動画配信者、SOLARさんですね。そういえばマユ、あなた前々からその子の事をお気に入りって言ってたわね」
「あっ、は、はい! いや、その……!」
動揺しきった様子のマネージャー。
ミアが目を細めた。
「このブロマイド、サインが書いてあるよ。《日野宮マユさんへ 応援ありがとう SOLAR》って。最近書かれたやつじゃない?」
「うぇっ!? いや、それは……」
「昨日の打ち合わせ、動画配信者の方なら本人が同席した可能性はありますね。なるほど、サイン入りのブロマイドですか……」
思案するように黙り込むレイカ。
だらだらと、マネージャーの額に冷や汗が浮かぶ。
ブロマイドをつきつけて――
「マユっち? まさか、これで買収されたのー?」
ミアが、マネージャーに訊ねた。
煌めくような笑顔に、優しげな口調。
どこか迫力に満ちた目を、ミアが向ける。
「ち、違います! SOLAR君はそんなことしません! こ、これは、私が個人的に貰っただけなんです!」
ブロマイドを取り返すマネージャー。
ミアがくすりと微笑んだ。
「じゃあ、どういう訳なのかなー?」
意地悪く訊ねるミア。
レイカもまた、鋭い視線を向けている。
「うっ、ううぅ!!」
マネージャーが唸り声をあげた。
冷ややかな空気。気まずい沈黙が流れる。
やがて観念したように、マネージャーが口を開いた。
「し、仕方なかったんです……!!」
言葉を絞り出すマネージャー。
ミアとレイカが怪訝そうに首をかしげる。
ブロマイドを抱きしめながら――
「日々の仕事に追われている私にとって、SOLAR君やハル君は大切な癒しなんです!! そ、そんな推しの2人が参加するイベント、私に断れる訳ないじゃないですかー!!」
マネージャーの叫びが、社長室に轟いた。
がっくりと崩れ落ちるマネージャー。
おんおんと、声をあげてその場で泣きはじめる。
「…………」
「…………」
沈黙する2人。
辺りを漂う、いたたまれない空気。
わずかな静寂の後――
「……なんか、ごめんなさい」
ミアとレイカが、マネージャーに対して同時に謝った。
キーンというマイクのハウリング音が響いた。
「……そういう訳ですから、最近ここリリカルモナステリオ内で不可解な事件が続いています。生徒の皆さんは、夜間の外出を控えたうえで、外出の際はなるべく2人以上で行動するように――」
とうとうと響き渡る声。スーツを着た人間の女性が、
集まった生徒達に向かって呼びかける。
冷や汗を流しながら――
「……うぅぅぅ」
猫の少女――ロロネロルが、その声を聞いていた。
しゅんと伏せた猫耳に、かすかに震えた身体。
顔色悪く、ロロネロルはその場に立っている。
「……以上です。では皆さん、くれぐれも気を付けて、行動するようにお願いします」
最後の言葉が会場内に響く。
ざわざわと、生徒達が各々歩き出した。
黒と水色の髪を揺らしながら――
「ロロネロル」
立ち尽くすロロネロルに向かって、少女が声をかけた。
凛とした佇まいに、美しい姿勢。竜の尻尾。
ロロネロルが顔をあげる。
「あっ、竜のお姫さま……」
「もう! 前も言ったでしょ。お友達ですよ、私たち」
煌めく笑みを浮かべる少女――クラリッサ。
どこかからかうように、ロロネロルに笑いかける。
だが――
「う、うん。そうだね。ごめんなさい……」
気落ちしたように、ロロネロルが答えた。
しょんぼりとした表情。目を伏せているロロネロル。
クラリッサが、穏やかに微笑んだ。
「ねぇ、この後、時間ある?」
「にゃ?」
気の抜けた声を出すロロネロル。
クラリッサがロロネロルの手を取った。
「久しぶりに2人きりでお喋りしましょうよ。最近、学園の近くに良いお店を見つけたの!」
「えっ。で、でも……」
「いいから! この前の聖卵祭のお礼だと思って!」
強引にロロネロルを引っ張るクラリッサ。
その見た目に反した、竜人特有の強靭な腕力。
ロロネロルが「にゃ~」と声をあげながら、連行される。
噴水の水がきらきらと光を反射して――
「ねっ、良いお店でしょ!」
クラリッサが、向かいに座るロロネロルに問いかけた。
学園の近く、少しだけ通りから外れた立地にある喫茶店。
落ち着いた音楽が、店の中には流れている。
「ここ、良いお店なんだけど、まだそんなに知られていなくて。こうやって2人きりで話したい時によく使うのよ」
「そ、そうなのですね……」
緊張したように席についているロロネロル。
そわそわと、尻尾が不安そうに揺れている。
2人の前に飲み物が運ばれてきた。
「ねぇ、ロロネロル」
優しく微笑んでいるクラリッサ。
真っ直ぐに、ロロネロルの事を見つめる。
その口を開いて――
「なにか、悩み事があるんじゃないの?」
静かに、クラリッサがそう訊ねた。
がばっと、ロロネロルが顔をあげる。
「えっ!?」
なんで分かったの!?と言わんばかりの表情。
クラリッサが笑った。
「あなた、すごく分かりやすいもの。いつも元気いっぱいのあなたが、ここ最近はずっと落ち込んだ様子で……」
とうとうと語るクラリッサ。
金色の瞳が、ロロネロルの方に向けられる。
「ウィリスタも、アレスティエルもすごく心配していたわ。あのフェルティローザまで、私に何か知らないかって聞きに来たくらいなのよ」
その言葉に、ロロネロルが驚いた。
クラリッサがカップを手に取る。
「さっきも言ったけど、私たちお友達でしょ。だからあなたの力になりたいの。何か悩みがあるのなら、遠慮なく相談して欲しい」
微笑みと、真剣な眼差し。
力強い言葉を紡いでいくクラリッサ。
視線をそらしながら――
「……ろろも、正直よく分からないのです」
ぽつりと、ロロネロルがそうこぼした。
しゅんと、その猫耳を伏せるロロネロル。
「話す前に……笑ったり、しないです?」
「もちろんよ」
頷くクラリッサ。
柔らかな笑みを浮かべて、言葉を待つ。
ロロネロルが息を吐いて――
「実は、最近ろろは世界を救っているのです」
意を決したように、そう話しはじめた。