カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

7 / 49
第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙②

 

「ヴァンガード普及協会ー?」

 

怪訝そうに、ミアが訊ねた。

マネージャーが頷く。

 

「は、はい! 企画としてはですね、今話題のアイドルや俳優、動画配信者にヴァンガードをやってもらうという趣旨の大型イベントでして……!」

 

緊張しながら話すマネージャー。

ますます、ミアが怪訝そうな目を向けた。

 

マネージャーが、一枚の企画書を掲げる。

 

「こ、これが、概要です!」

 

おそるおそる、書類をレイカに渡すマネージャー。

鋭い視線が、企画書の文字へと向けられた。

 

「…………」

 

無言で書類を読み進めているレイカ。

マネージャーがさらに、言葉を続ける。

 

「基本的にはヴァンガードをやってもらうのがメインのイベントなんです! ファイターとして経験のある方には、ステージ上でファイトしてもらったりですとか。経験がない方には、ティーチングに入ってもらったりして……」

 

おどおどと話しているマネージャー。

レイカは黙ってその言葉を聞いている。

 

「えー! ライヴのイベントじゃないのー!」

 

ミアが、不満そうな声をあげた。

びくりと、マネージャーが身体を震わせる。

 

「えっ、えっ……?」

 

視線をミアへと向けるマネージャー。

ミアがいかにも不満そうに、むくれる。

 

「私、煌めく星の歌姫なんだから! 歌えないイベントなら、参加する意味ないじゃん!」

 

「えっ! あっと、その……!」

 

困った表情を浮かべるマネージャー。

レイカが短く息を吐いた。

 

「言い方はともかく、綺羅星さんの言うことにも一理あります。そのイベント内容だと、綺羅星ミアという商品のアピールとしてはそぐわない。あなた、どういう意図でそのオファーを受けたのかしら?」

 

「あっ、いえ、それは……!」

 

顔を伏せてしまうマネージャー。

じわりと、その目に涙が浮かんだ。

 

「ご、ごめんなさい……。わ、私、そこまでは考えてなくて……。向こうの企画の人から、どうしても今話題のミアさんを出演させてほしいって言われて、それで、その……!」

 

今にも泣きそうな表情。

顔を伏せ、マネージャーが小刻みに震え出した。

 

レイカが目を伏せる。

 

「……仕方ないわね」

 

小さく呟くレイカ。

ミアもまた、肩をすくめた。

 

「もう、本当にしょうがないなぁー、マユっち。これは1つ貸しだからねー」

 

恩着せがましく話すミア。

レイカが睨むような視線を向けた。

 

「そもそも、あなたが打ち合わせを欠席したのも原因の一つでしょう。不満というのでしたら、今度からはちゃんと打ち合わせに参加することです」

 

「はいはい。分かりましたー」

 

軽く答えるミア。

マネージャーが頭を下げた。

 

「うぅぅぅ、すみませんでした……」

 

気弱な声。ぺこぺこと謝っているマネージャー。

顔をあげると、2人に向かって続ける。

 

「で、でもですね! 今回の企画、本当に有名な方々が来るんですよ! だからきっと、ミアさんのアピールの場としても申し分ないはずです!」

 

「へぇー、どんな人がくるの?」

 

何気なく訊ねるミア。

マネージャーの目に光が宿った。

 

「そ、それはもう! すごいんです!」

 

熱っぽい口調。マネージャーがミアに迫る。

 

「アイドルとしては、人気爆発中の『レノ&テンマ』さんですとか! 他にも名だたる俳優陣に混じって、天才子役と言われている足立(あだち)ハル君なんかも来ます!」

 

熱弁しているマネージャー。

両手を握り合わせる。

 

「他にもですね! 普及協会からはプロファイターの方々も参加が決まってます! あと、有名な動画配信者の人なんかも大勢――」

 

「動画配信者?」

 

マネージャーの言葉に反応するミア。

持っていたブロマイドを掲げて――

 

「言われて思い出したけど、これって確かそういう活動してる子じゃなかったっけ。動画で見たことあるよ」

 

ミアが、なにげなく訊ねた。

マネージャーが凍り付いたように固まる。

 

ブロマイドには、銀髪の少年の姿が映っていた。

 

「あっ、いや、その……!」

 

慌てだすマネージャー。

レイカがブロマイドに目を向けた。

 

「……事務所所属の動画配信者、SOLARさんですね。そういえばマユ、あなた前々からその子の事をお気に入りって言ってたわね」

 

「あっ、は、はい! いや、その……!」

 

動揺しきった様子のマネージャー。

ミアが目を細めた。

 

「このブロマイド、サインが書いてあるよ。《日野宮マユさんへ 応援ありがとう SOLAR》って。最近書かれたやつじゃない?」

 

「うぇっ!? いや、それは……」

 

「昨日の打ち合わせ、動画配信者の方なら本人が同席した可能性はありますね。なるほど、サイン入りのブロマイドですか……」

 

思案するように黙り込むレイカ。

だらだらと、マネージャーの額に冷や汗が浮かぶ。

 

ブロマイドをつきつけて――

 

「マユっち? まさか、これで買収されたのー?」

 

ミアが、マネージャーに訊ねた。

煌めくような笑顔に、優しげな口調。

 

どこか迫力に満ちた目を、ミアが向ける。

 

「ち、違います! SOLAR君はそんなことしません! こ、これは、私が個人的に貰っただけなんです!」

 

ブロマイドを取り返すマネージャー。

ミアがくすりと微笑んだ。

 

「じゃあ、どういう訳なのかなー?」

 

意地悪く訊ねるミア。

レイカもまた、鋭い視線を向けている。

 

「うっ、ううぅ!!」

 

マネージャーが唸り声をあげた。

冷ややかな空気。気まずい沈黙が流れる。

 

やがて観念したように、マネージャーが口を開いた。

 

「し、仕方なかったんです……!!」

 

言葉を絞り出すマネージャー。

ミアとレイカが怪訝そうに首をかしげる。

 

ブロマイドを抱きしめながら――

 

「日々の仕事に追われている私にとって、SOLAR君やハル君は大切な癒しなんです!! そ、そんな推しの2人が参加するイベント、私に断れる訳ないじゃないですかー!!」

 

マネージャーの叫びが、社長室に轟いた。

がっくりと崩れ落ちるマネージャー。

 

おんおんと、声をあげてその場で泣きはじめる。

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙する2人。

辺りを漂う、いたたまれない空気。

 

わずかな静寂の後――

 

「……なんか、ごめんなさい」

 

ミアとレイカが、マネージャーに対して同時に謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンというマイクのハウリング音が響いた。

 

「……そういう訳ですから、最近ここリリカルモナステリオ内で不可解な事件が続いています。生徒の皆さんは、夜間の外出を控えたうえで、外出の際はなるべく2人以上で行動するように――」

 

とうとうと響き渡る声。スーツを着た人間の女性が、

集まった生徒達に向かって呼びかける。

 

冷や汗を流しながら――

 

「……うぅぅぅ」

 

猫の少女――ロロネロルが、その声を聞いていた。

しゅんと伏せた猫耳に、かすかに震えた身体。

 

顔色悪く、ロロネロルはその場に立っている。

 

「……以上です。では皆さん、くれぐれも気を付けて、行動するようにお願いします」

 

最後の言葉が会場内に響く。

ざわざわと、生徒達が各々歩き出した。

 

黒と水色の髪を揺らしながら――

 

「ロロネロル」

 

立ち尽くすロロネロルに向かって、少女が声をかけた。

凛とした佇まいに、美しい姿勢。竜の尻尾。

 

ロロネロルが顔をあげる。

 

「あっ、竜のお姫さま……」

 

「もう! 前も言ったでしょ。お友達ですよ、私たち」

 

煌めく笑みを浮かべる少女――クラリッサ。

どこかからかうように、ロロネロルに笑いかける。

 

だが――

 

「う、うん。そうだね。ごめんなさい……」

 

気落ちしたように、ロロネロルが答えた。

しょんぼりとした表情。目を伏せているロロネロル。

 

クラリッサが、穏やかに微笑んだ。

 

「ねぇ、この後、時間ある?」

 

「にゃ?」

 

気の抜けた声を出すロロネロル。

クラリッサがロロネロルの手を取った。

 

「久しぶりに2人きりでお喋りしましょうよ。最近、学園の近くに良いお店を見つけたの!」

 

「えっ。で、でも……」

 

「いいから! この前の聖卵祭のお礼だと思って!」

 

強引にロロネロルを引っ張るクラリッサ。

その見た目に反した、竜人特有の強靭な腕力。

 

ロロネロルが「にゃ~」と声をあげながら、連行される。

 

噴水の水がきらきらと光を反射して――

 

「ねっ、良いお店でしょ!」

 

クラリッサが、向かいに座るロロネロルに問いかけた。

学園の近く、少しだけ通りから外れた立地にある喫茶店。

 

落ち着いた音楽が、店の中には流れている。

 

「ここ、良いお店なんだけど、まだそんなに知られていなくて。こうやって2人きりで話したい時によく使うのよ」

 

「そ、そうなのですね……」

 

緊張したように席についているロロネロル。

そわそわと、尻尾が不安そうに揺れている。

 

2人の前に飲み物が運ばれてきた。

 

「ねぇ、ロロネロル」

 

優しく微笑んでいるクラリッサ。

真っ直ぐに、ロロネロルの事を見つめる。

 

その口を開いて――

 

「なにか、悩み事があるんじゃないの?」

 

静かに、クラリッサがそう訊ねた。

がばっと、ロロネロルが顔をあげる。

 

「えっ!?」

 

なんで分かったの!?と言わんばかりの表情。

クラリッサが笑った。

 

「あなた、すごく分かりやすいもの。いつも元気いっぱいのあなたが、ここ最近はずっと落ち込んだ様子で……」

 

とうとうと語るクラリッサ。

金色の瞳が、ロロネロルの方に向けられる。

 

「ウィリスタも、アレスティエルもすごく心配していたわ。あのフェルティローザまで、私に何か知らないかって聞きに来たくらいなのよ」

 

その言葉に、ロロネロルが驚いた。

クラリッサがカップを手に取る。

 

「さっきも言ったけど、私たちお友達でしょ。だからあなたの力になりたいの。何か悩みがあるのなら、遠慮なく相談して欲しい」

 

微笑みと、真剣な眼差し。

力強い言葉を紡いでいくクラリッサ。

 

視線をそらしながら――

 

「……ろろも、正直よく分からないのです」

 

ぽつりと、ロロネロルがそうこぼした。

しゅんと、その猫耳を伏せるロロネロル。

 

「話す前に……笑ったり、しないです?」

 

「もちろんよ」

 

頷くクラリッサ。

柔らかな笑みを浮かべて、言葉を待つ。

 

ロロネロルが息を吐いて――

 

「実は、最近ろろは世界を救っているのです」

 

意を決したように、そう話しはじめた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。