カードファイト!! ヴァンガード StarSong   作:バビロン@VG

8 / 49
第二楽章 絆を紡ぐ白銀の牙③

 

のどかな鳥の鳴き声が、辺りに響いた。

 

穏やかな気候。平和な空気。

喫茶店内、静かな音楽だけが流れていく。

 

その身を乗り出して――

 

「世界征服をたくらむ悪の組織。その一味にろろは狙われていて……それで、たまにそういった不審者さんと遭遇しているのです!」

 

ロロネロルが、熱のこもった声でそう話した。

真剣な表情。いたって真面目な様子のロロネロル。

 

クラリッサが、わずかにその目を細めた。

 

「……そうなの?」

 

短く訊ねるクラリッサ。

ロロネロルが頷いた。

 

「そうなのです! このまま放っておいたら、世界が危ないのです! だから、そういった不審者さん達を、ろろは倒していて! でも最近はそれが一層激しくなってきていて……!」

 

「…………」

 

悩ましげに耳を伏せるロロネロル。

クラリッサがカップを置いた。

 

「この前の、学園から離れた塔が崩壊した事件。ひょっとして、あれも何か関係があったりするの?」

 

「そうなのです! あれも、ろろが狙われた結果なのです! いきなり空が割れて、そこからでっかい蝙蝠みたいなのが降ってきて!」

 

早口に説明するロロネロル。

クラリッサがテーブルに肘をつき、手を組んだ。

 

「あの事件、報道によると老朽化が原因って聞いてるわ。大分使われてなかった古い塔だったから、それが原因で崩れたって」

 

「違うのです! 本当に怪物がいたのです!」

 

「それで、怪物と出会って、ロロネロルはどうしたの?」

 

確認するように聞くクラリッサ。

ロロネロルが胸を張った。

 

「秘伝のスーパーろろキックで、倒したのです!」

 

2人の間に、沈黙が流れた。

近くの道を学校帰りの女子生徒達が通り過ぎていく。

 

しゅんと、ロロネロルが顔を伏せた。

 

「いいのです……こんな話、誰も信じてくれないのです」

 

諦めたような口調。

ロロネロルの耳が、さらに垂れ下がる。

 

「新聞にも、あの怪物の事は何も書かれていなかったのです。ろろは確かに倒したはずなのに、いつのまにか消えていたのです。だから、何の証拠もないのです……」

 

目を伏せながら喋っているロロネロル。

クラリッサは黙り込んでいる。

 

がたりと音を立て、ロロネロルが立ち上がった。

 

「ジュース、ありがとなのです。信じてもらえなくても、話せて少しだけすっきりしたのです。ありがとう、クラリッサ」

 

力なく微笑むロロネロル。

鞄を掴むと、とぼとぼとその場から去ろうとする。

 

口を開いて――

 

「待って」

 

鋭い声が、その場に響いた。

「にゃ?」と振り返るロロネロル。

 

真剣な表情を浮かべて――

 

「私、信じないなんて言ってないわ」

 

クラリッサが、静かにそう告げた。

真っ直ぐにロロネロルを見つめているクラリッサ。

 

ロロネロルが困惑する。

 

「えっ、でも、だって……!」

 

「確かに、信じがたい話です。かなり荒唐無稽ですし、ここリリカルモナステリオのセキュリティを破って怪しげな輩が侵入してるだなんて、普通なら信じられません」

 

「そ、そうでしょ! だったら――」

 

どうして、と訊ねようとするロロネロル。

クラリッサが立ち上がって――

 

「言ったでしょう。あなたは友達。だから、私はあなたの言う事を信じます。例えそれが、どんな話であったとしても」

 

迷いなく断言するクラリッサ。

ロロネロルが大きく、その目を見開いた。

 

「クラリッサ……!」

 

呟くロロネロル。

その紫色の目が、うるうると潤んだ。

 

クラリッサが手を伸ばす。

 

「一人で悩んでて、ずっと辛かったでしょ。だけどこれからは私も一緒にどうするか考えるわ。だからほら、泣かないで?」

 

優しく、微笑みを浮かべるクラリッサ。

ロロネロルがぐすんと鼻をすすった。

 

「う、うん……!」

 

感動の涙を流しているロロネロル。

クラリッサの手を掴もうと、腕を伸ばして――

 

「あら、ロロネロル?」

 

唐突に、その場におっとりとした声が響いた。

はっとする2人。声のした方に、視線を向ける。

 

白銀の髪が揺れて――

 

「こんな所で珍しいじゃない。今日は歌わないの?」

 

虎系の獣人の少女が姿を見せた。

黒い色の制服。胸につけた薄青色のリボン。

 

その翡翠色の瞳が、2人を見つめている。

 

「ペトラルカ先輩……!」

 

驚くロロネロル。

少女――ペトラルカがにっこりと微笑んだ。

 

「ごきげんよう、ロロネロル。それにクラリッサ」

 

うやうやしく頭を下げるペトラルカ。

クラリッサもまた、深々と頭を下げる。

 

「どうもこんにちは、ペトラルカ先輩」

 

丁寧に挨拶するクラリッサ。

ペトラルカが口元に手をあてた。

 

「そんなにかしこまらなくていいのよ。アイドルとしては、あなた達の方がよっぽど活躍しているのだから」

 

「いえ、私達はまだまだ未熟者です」

 

首を振るクラリッサ。

頭を下げながら続ける。

 

「ペトラルカ先輩は入学当初から活躍している、獣人系アイドルの花形です。私達のような若輩者にとって、まだまだ雲の上の存在ですよ」

 

「ふふっ、お上手ですね。クラリッサ」

 

面白そうに、ころころと笑うペトラルカ。

ふっと、おもむろに息を吐く。

 

「でも、謙遜ではなく本当のことよ。私は入学当初に少し活躍できただけ。今のあなた達の方が、よっぽど輝いているわ」

 

2人を見ながら、微笑むペトラルカ。

クラリッサが顔をあげ、困ったような表情を浮かべた。

 

そっと、ペトラルカが2人に近づく。

 

「ねぇ、実は、少しだけ話が聞こえてしまったのだけど」

 

声をひそめているペトラルカ。

警戒するように、辺りを見回しながら続ける。

 

「ロロネロル、最近元気がないと思っていたら、そんなことで悩んでいたのね」

 

「き、聞いてたのですか!?」

 

小声で訊ねるロロネロル。

ペトラルカが悪戯っぽく笑った。

 

「私達、ほら、耳がいいから」

 

見せつけるように自分の耳を動かすペトラルカ。

翡翠色の瞳を向けると、優しく微笑む。

 

「ねぇ、ロロネロル。私が聞いてる限りだと、あなた、きっと疲れているのだと思うわ」

 

「えっ!? いや、確かに、疲れてはいるのですけど……!」

 

複雑そうな表情のロロネロル。

クラリッサが目を細めた。

 

「ペトラルカ先輩は、さっきのロロネロルの話し、信じていないのですか?」

 

「えぇ、まぁ……そうね」

 

少しだけ困ったように肯定するペトラルカ。

ロロネロルが「ガーン!」とショックを受けた。

 

「ペトラルカ先輩、ですが……!」

 

何か言いたげなクラリッサだったが、

 

「ねぇ。聞いて、2人とも」

 

ペトラルカの言葉に、その声は遮られた。

穏やかな微笑み。すっと、ペトラルカが指を伸ばす。

 

「最近、ロロネロルは本当によくがんばってたわ。聖卵祭にライヴ、他にもチアリーディング活動にも顔を出してたとか。その上試験が近いとなれば、疲れるのも当然よ」

 

「それは、そうですが……」

 

言い淀むクラリッサ。

ペトラルカがキリッとした表情を浮かべる。

 

「リリカルモナステリオは、大賢者ストイケイアが作った魔法の結界で守られています。クラリッサも言ってましたけど、部外者が易々と入り込める環境ではありません」

 

教科書を読み上げるように語るペトラルカ。

その口元に優しげな笑みが浮かんだ。

 

「きっと、今のロロネロルは疲れが溜まっているのよ。それも、物凄く。今のロロネロルに必要なのは、原因捜しよりも気分転換じゃないかしら?」

 

「で、でも、ペトラルカ先輩! ろろは本当に!」

 

必死な様子のロロネロル。

ぽんと、手を叩いて――

 

「あぁ、そうだわ!」

 

ペトラルカが、明るい声を出した。

 

「こういうのはどうかしら? 明日、私と一緒にお出かけしましょう。獣人(ワービースト)同士、自然豊かな郊外で散策なんてどうかしら?」

 

「えっ!? ペトラルカ先輩とですか!?」

 

「えぇ、私なんかで良ければ、ぜひ」

 

にっこりと微笑むペトラルカ。

ロロネロルの顔がぱぁっと明るくなった。

 

「も、もちろんなのです! ペトラルカ先輩は獣人系アイドルの憧れなのです! ぜひ、一緒に歌いたいのです!」

 

はしゃいだように答えるロロネロル。

ペトラルカが嬉しそうに頷く。

 

「そう言ってもらえると、私も嬉しいわ。明日は2人でゆっくり、色んな曲を歌いましょう」

 

「は、はいなのです!」

 

目を輝かせるロロネロル。

落ち込んだ表情が消えて――

 

「やったー! ペトラルカ先輩とお出かけなのですー!」

 

ロロネロルが、両手をあげて喜んだ。

うきうきと、その場で小躍りしているロロネロル。

 

ペトラルカは慈愛に満ちた目で、その姿を眺めている。

 

「ペトラルカ先輩……」

 

やや険しい表情を浮かべているクラリッサ。

ペトラルカがくすりと微笑んだ。

 

そっと、クラリッサに近づいて――

 

「明日は私がロロネロルの周りを見張ります。その間、あなたは学園都市中の怪しい人達を調べておいて下さい」

 

ペトラルカが、真剣な声でそう耳打ちした。

 

「!!」

 

衝撃を受けたように驚くクラリッサ。

ロロネロルに聞こえないよう、ペトラルカがささやく。

 

「ロロネロルの様子はどう見ても変です。私が思うに、これは何か魔術による影響を受けているのではないかしら」

 

「魔術、ですか……?」

 

「えぇ。幻想魔法、魅了魔法。そういった類のものです。何らかの魔法を使って、ロロネロルに幻覚を見せて怖がらせている。私はそう推測しています」

 

「……確かに、そっちの方がありえそうですね」

 

頷くクラリッサ。

少なくとも、さっきまでの話しよりは信憑性が高い。

 

「でも、どうしてそんなことを?」

 

理解できない様子で訊ねるクラリッサ。

ペトラルカの顔に、ほんの少し暗い影が差した。

 

「ロロネロルやあなた達は、凄い勢いで躍進しているでしょう。そういった強い光の影には、暗い闇も生まれるものです。嫉妬に逆恨み、それに――」

 

ペトラルカの言葉が途切れる。

遠い目をしながら――

 

「裏切り、とかね……」

 

ぼそりと、ペトラルカがそう呟いた。

まるで何かを思い出しているかのような目。陰のある顔。

 

クラリッサが黙り込む。

 

「ペトラルカ先輩! 明日は何を歌うのですか!」

 

2人の傍に駆け寄ってくるロロネロル。

無邪気な声をあげて訊ねる。

 

にっこりと、ペトラルカが微笑んだ。

 

「好きな歌でいいわよ。もちろん、あなたの曲でもね」

 

「えっ!? ペトラルカ先輩が、ろろの歌を!?」

 

「もちろんよ。一緒に歌いましょう」

 

優しく答えるペトラルカ。

ロロネロルが両手を握りしめた。

 

「ペトラルカ先輩……!!」

 

感極まっているロロネロル。

その目から感動の涙が流れ、尻尾が揺れる。

 

優雅な動作で頭を下げて――

 

「それじゃあ、明日は楽しみましょうね」

 

ペトラルカがうやうやしくそう告げた。

ロロネロルの横、クラリッサに視線を向ける。

 

「クラリッサ。あなたも、よろしくお願いしますね」

 

「はい、わかりました」

 

神妙な声で答えるクラリッサ。

ペトラルカが穏やかな笑みを浮かべた。

 

「では、ごきげんよう」

 

手を振るペトラルカ。

白銀の髪を揺らして、ペトラルカが喫茶店から出て行く。

 

両手を握り合わせて――

 

「ペトラルカ先輩とデュエット……!!」

 

感動の声を、ロロネロルが漏らした。

きらきらと目を輝かせ、思いを馳せているロロネロル。

 

クラリッサもまた、笑みを浮かべる。

 

「良かったじゃない、ロロネロル! 明日は私達に任せて、ゆっくり楽しんできなよ!」

 

「はいなのです! ……ん? 私達?」

 

首をかしげるロロネロル。

クラリッサが慌てて手を振った。

 

「気にしないで! 気分転換してきてってこと!」

 

「にゃ? まぁ、分かったのです」

 

きょとんとしているロロネロル。

クラリッサがごまかすように咳払いした。

 

心の中で――

 

(ペトラルカ先輩の言う通りだ。まずは、そういった魔術の方向で調べてみましょう。ウィリスタやフェルティローザにも協力してもらって……)

 

クラリッサが、冷静に思考を巡らせていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。