「ようやく朧月島に着いたわね」
やっと着いた…。行くと言い出して翌日には本当に行っちゃうんだもん。もう。
急いで出発したから碌に道具も持たないまま来たけど大丈夫かな?懐中電灯くらいしかないよ。
というか帰りの交通費の分考えると食事もできないんだけど…。
「港の地図に問題の朧月館があればいいんだけど…」
それにしてもやっぱりこの島はおかしい。島が見えてきたときから感じていたけど、なんとなく息苦しい。眩暈もきつくなってきたし、ここにずっといるとどうにかなっちゃいそう。
ああ、もう帰りたい。
「円香聞いてる?」
そもそも海咲が流歌も待たずに出発しちゃうんだもん。せめて急ぐ理由を話してくれればいいのに。絶対に鞠絵達の件だけじゃないよね。
「円香!円香!」
海咲が声をかけているのに気付かなかった。海咲がこちらを睨んでて怖い。
「ごめん、なに?」
「しっかりしなさいよもう。実際に朧月島に来たわけだけど、円香は何か思い出せた?」
「ううん。ただこの島気持ち悪い。空気が動いていないというか…」
「まあ見るからに廃村って感じだしね。とりあえず朧月館に向かうわよ」
海咲は迷うことなく先に進もうとしている。海咲はこの島の異常を感じないのかな。
「ねえ海咲。やっぱり帰らない?」
この島にいるのはやはり良くない。ただ島がどうこうじゃなく、海咲がいなくなってしまう気がする。
「まだそんなこと言ってるの?いいから行くわよ」
やっぱり今の海咲に言葉は届かない…か。ここに来るまでの間も何度もお願いしたけど聞く耳持たずなんだよね。
「せめて流歌が来るまで待とう?」
もはや返事もしないで歩き始めてしまった。どうしよう。
まあ海咲だけで行かせるわけにもいかないから後をついていくしかないんだよね。
「こっちで合ってるの?」
「多分ね。朧月館がサナトリウムだったなら、きっと灰原病院の近くにあるでしょ」
「灰原病院?」
知らない病院だ。いつの間に調べたんだろう?
「あんた地図見なかったのね。島の案内図には病院が一か所、その灰原病院だけだったのよ」
「へえ」
相変わらず海咲は鋭いなぁ。
「まあ島自体はそこまで大きくないし、少し歩けば着きそうよ」
「遠くないなら良かった。長旅でもうくたくたなの」
「だらしないわね」
海咲が逞しすぎるだけだと思う。
◆
海咲の言う通り歩いていたら本当に朧月館に辿り着いた。少しじゃなくて大分時間かかった気が…、もう周辺真っ暗だよ!今夜寝る所どうなるんだろ?
朧月館は予想以上に大きな和風の洋館で、なんというか…怖い。無人島という時点で分かってたけど、そこら中に草が生い茂っててとても不気味な雰囲気を醸し出してる…。
「ねえ海咲?やっぱり帰らない?」
先ほどと同じ台詞を顔を引き攣らせながら喋る私。
「しつこいわね」
やっぱり一蹴された。海咲がこういった雰囲気で物怖じするわけないよね。
でもここは本当に危険な感じがする。この建物を見た時からよく分からない感情が湧いてきて、いずれそれらが頭の中から出てきて私を埋め尽くしてしまいそう。
「あ、鍵が開いてる。ついてるわ」
って、海咲はもう中に進んでる!?待ってよ海咲!!
「ここ…」
と思ったら入ってすぐの所に立ち止まっていた。
ここはひょっとして…
「ここはお父さんたちが持ってた写真の場所…よね?」
「だと思うけど…」
「写真に写ってた柱はこの鳥居だったのね。こんな療養所の玄関口に建てるなんて悪趣味…」
「神社が昔建ってた場所だったとか?」
「どうでもいいわ。それより円香は何か思い出せない?」
そう言われて周囲を灯りで照らしていく。
うぅ、廃墟の入院施設に鳥居って組み合わせが既に怖くて何も考えられない…
「ごめん、思い出せそうにないよ。海咲はここ怖くないの?」
「怖がってたら来る意味ないでしょ」
海咲は冷静すぎだよ。普通こんな廃墟で異様な雰囲気にお出迎えされたらパニックになってもおかしくないよ。
写真の場所に来ても何も思い出せないんだし、もう帰らないかな?
「とにかく写真に写っていた建物はここなんだからもう少し調べるわよ」
やっぱりまだ帰れない。
まあここまで来たんだし、海咲が引くわけがないよね。
というわけで改めて周囲を見渡してみる。
左手に受付と通路、正面には鳥居があってその先には大きな階段とその両脇にも通路らしきものが見える。
私たちは正面の大きな階段を上ってみることにした。
「無人化してるだけあって、埃がひどいわね」
「うん。あれ?格子が閉まってる?」
格子を前後左右に動かしてみるけどびくともしない。
「鍵も見当たらないし、他の道を探すわよ」
格子の奥にはナースステーションらしき場所が見える。奥に通路が見えるから他から回れるかな?
道を引き返し、今度は階段脇の通路を進んでみる。飾られてる案内板によるとどうやらこの先は食堂らしい。
扉を抜け廊下に出ると、冷え冷えした空気が入り込んでくる。
足を踏み出すたびに軋む音が廊下に響き渡って増々怖い。
窓から見える場所は中庭かな?
突き当りの角を曲がってみると、壁に何か掛けられているのが見えた。
なんだろう?
「ひっ!?」
思わず声が出てしまった。
「どうしたの?」
「み、海咲、これ…」
前を歩いていた海咲に自分が見たものを照らして見せる。
それは異様な仮面だった。
目が大きくくり貫かれている仮面、紐でわざわざ細目の場所を通している仮面、皆が皆異様な形をしている。
「確かに不気味ね…」
「不気味どころじゃないよ!?」
やっぱり海咲の反応がおかしい。いくら海咲でも普通こんなに冷静じゃいられないよ。
「この島の風習じゃないの?」
「いくら風習でも病院に飾るものじゃないんじゃないかな!?」
え?ひょっとしておかしいのは私なの?もうわけわかんないよ…。
ガチャッ
って、海咲が先に進んでる!とうとう声すらかけられなくなってきた。
「海咲待ってよ!」
海咲を追って部屋に入ると、そこは案内紙通りの食堂だった。広い…。
けど、やっぱりここでも独特の空気を感じる。
海咲のすぐ後ろを歩きながら周りを照らす。
映写機、ピアノ…、なんでテーブルにもピアノの上にも蝋燭があるんだろ?雰囲気?
天井にも灯りあるのに…?
考えてもきりがない。もう恐怖と不安でいっぱいいっぱいだよ。
海咲は興味を示すこともなく前を歩いてる。
ねえ?海咲?もう本当に帰ろう?
帰らなきゃ取り返しのつかないことになる。
今ならまだ間に合うかもしれない。
手遅れになる前に早く…。
決して海咲へ気持ちが届かないのを知っていながら、私は海咲に心で問い続ける。