主人公橋馬賢人には幼馴染がいる。
名前は渋川愛美。
愛美は学校一の美少女だ。
高校に入学して半年も経たないのに数十人に告白されたらしい。

そんな幼馴染は、主人公に対して少し辛辣だった。
なので、主人公は幼馴染に嫌われているのだと勘違いしていた。
しかし、愛美は何故か毎日お弁当を作ってきてくれてくれる。

そんな状況を不思議に思った主人公が愛美に質問すると……?

※小説家になろうでも投稿しています。

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昔書いた短編を投下します。


俺にいつもキツく当たってくる幼馴染……しかし何故か毎日お弁当を作ってきてくれる。理由を聞いてみたら俺のことを溺愛していた件について

 

 俺、橋馬賢人(はしばけんと)には幼馴染がいる。

 名前は渋川愛美(しぶかわまなみ)

 

 俺たちは小学校からの付き合いで、中学に入学するまでは毎朝一緒に登校するぐらい仲が良かった。

 しかし、中学に入ったとたん愛美は俺に対してキツく当たるようになった。

 別に喧嘩をしている訳ではないし、関係が破綻した、とかそういうことでもない。

 話しかければ普通に返事をしてくれるし、無視されることもない。

 ただ、ほんの少しだけ反応が辛辣になっただけだ。

 

 詳しくは分からないが、恐らくそういう年頃になっただけのことだろう。

 思春期になると親や兄弟に強く当たってしまうらしいので、そう考えると逆に俺は兄弟のように思われているということになり、少し誇らしいぐらいだ。

 

 そうして愛美からは「そういうのもう恥ずかしい」と言われ、お隣さんなのに登校も別々に行うようになり、四年が経ち、俺たちは一緒の高校に進学した。

 愛美は入学して半年の間に学校一の美少女と呼ばれるようになった。

 

 幼馴染なので手前味噌のようなものになるのかもしれないが、俺から見ても愛美は美少女だ。

 サラサラと輝く黒髪と、整った容姿。

 少しツリ目気味の目がキツい印象を与えるが、それでも十年に一人の美少女と言えるだろう。

 

 当然男子からの人気も高く、愛美に告白した人数は数十人は下らないらしい。

 

 俺と愛美の関係はちょっと微妙な感じだ。

 特別親しくもなく、疎遠でもない。

 

 もちろん、俺は幼馴染として親しく思っているが、どうにもあちら側に壁があるように感じる。

 

 なのに、何故か不思議なことに。

 愛美は毎日お弁当を作ってきてくれて、しかも毎日一緒に昼食を食べているのだった。

 

 

 朝、登校すると、下駄箱から出て各々の教室に向かっていく生徒の群れの中に愛美を発見した。

 俺は愛美に声をかけようと小走りで近づく。

 しかし、愛美の十メートル手前で俺は急停止した。

 

 見たことのない男子生徒に愛美が声をかけられていたからだ。

 どうやら見るに恐らく男子生徒は上級生。

 必死に何かを愛美に頼み込んでいる。

 

 愛美はこれから授業があるから、と断ろうとしている様子だったが、その先輩は持ち前の粘り強さを発揮して引かず、最後は愛美が折れた。

 先輩と愛美は二人で校舎裏へと消えていく。

 

(これは……)

 

 俺は確信した。

 あの先輩、絶対に今から愛美に告白するつもりだ。

 幼馴染として愛美に彼氏が出来るなんて見過ごせない。そう考えた俺はこっそりと後をつけていった。

 

 二人が曲がった角から、少しだけ顔を出す。

 

「渋川さん! 俺と付き合ってくれ!」

 

 先輩の思い切りのいい告白が聞こえた。

 どうやら予想は当たったようだ。

 愛美はこの手の告白は何回も受けたことがあるので、手慣れた様子でお辞儀した。

 

「ごめんなさい。付き合えません」

 

 俺は感心した。

 なんて淀みのない振り方なんだ。

 一切の取り付く島がない。

 

 しかし何故か、先輩は指を引っ掛けることに成功したらしく、振られたのに食い下がった。

 

「そこをなんとか!」

 

 先輩はじりじりと愛美へ詰め寄っていく。

 

「いやです」

「もう一度じっくり考えてよ! ね、お願い!」

 

 愛美ににじり寄る先輩はついに愛美の手を掴んだ。

 

「いやっ……」

 

 愛美から恐怖の声が漏れた。

 俺は考えるよりも先に飛び出していた。

 

「ちょっとしつこいんじゃないですか?」

「は?」

 

 告白現場に突然現れた男子生徒に先輩は顔を顰める。

 

「お前誰だ」

「一年の橋場です。それより、彼女怖がってますよ」

 

 俺は愛美を指差す。

 愛美は俺の方に目掛けて走ってきて、俺の背に隠れた。

 

「ほら、怖がってますよ。こんな人気の無いところで男が迫ってきたら女の子は怖いと思いますよ」

 

 俺と先輩は少しの間無言で対峙する。

 先に動いたのは先輩だ。

 

「……チッ!」

 

 先輩はただ俺を睨むと舌打ちをして去っていった。

 

 俺たち二人は安堵の息を漏らす。

 俺は背中の愛美に向かって誇らしげに胸を張った。

 

「どう? かっこ良かっただろ?」

「……ちょっとね」

 

 愛美はボソッと聞こえないくらいの声で呟く。

 

「渋川は大丈夫か? 怖くなかった?」

「……」

 

 俺が大丈夫か確認すると、愛美は何か言いたそうに口を開いたが、結局何も言わず目を逸らすと「大丈夫」とだけ答えた。

 

「それより、そろそろ教室に戻らないと授業始まるけど」

「ん? ああ、先に行っといて」

 

 愛美は少しムッとして表情になる。

 

「なんで? 一緒に行けばいいでしょ?」

「いや……、ちょっとここの空気を吸って行くから」

「何それ、意味分かんない。それになんでさっきから前向いて……」

 

 何故かここから動かない理由を言わず、挙動不審な俺に愛美は鋭い目を向ける。

 そしてそう言っている内に、愛美の視線は下へと向かっていって……。

 

「先輩が怖くて動けなくなっちゃった……」

 

 ぷるぷると震えている膝。

 そう、ずっと前を向いていたのは動かなかったのではなく、先輩に対峙しただけで膝が震えて動けなくなってしまったからだ。

 

 我ながらすごくかっこ悪い。

 

「さっきまでカッコよかったのに……」

 

 愛美もとても残念そうに呟く。

 俺は余りにもいたたまれなくなって謝った。

 

「ごめんなさい……」

 

 愛美はフッと笑った。

 

「いいよ別に。じゃ、ケンが動けるまで私も待とうかな」

「いや、そんなの悪いって」

「いいの。本当はサボりたいだけだから」

 

 愛美はそう言うと壁際へと行って、しゃがんで手を頬に当てると俺をボーッと見始めた。

 その後俺が生まれたて小鹿状態から回復するまで、俺たちは他愛もない会話を続けた。

 

 

 昼休みになると、愛美が教室へとやってきた。

 

「ケン」

 

 教室のドアの前に立ち俺のことを呼ぶ。

 

「ああ」

 

 俺は席から立ち上がった。

 周りの席に座っていた友人たちが口々に茶化し始めた。

 

「ひゅー!」

「ラブラブだな!」

「毎日見せつけやがって!」

「リア充め爆発しやがれ!」

「おっ、おい! やめろ!」

 

 俺は慌てて友人たちの口を塞ぎに行った。

 しーっ、と声を潜めて話す。

 

「そういう系のからかいすると、絶対に不機嫌になるからやめてくれ……!」

 

 愛美は俺との関係について「カップル」とか、「彼女」とか、そういったからいをされると、決まって俯いたまま一切言葉を発さなくなってしまうのだ。

 そうなってしまうとこっちからどれだけ話しかけても、しばらくは絶対に顔を合わせてくれない。

 

 そうなると空気は最悪。

 二人無言の気まずい中昼食は食べたくない俺は、必死に友人たちの口を塞ごうとした。

 

「えー、でも事実だろ?」

「事実じゃねぇよ。とにかくそういうのは無し。いいな」

 

 そう言うと友人たちは不服そうに渋々「はーい」と返事をした。

 

「遅い」

「ごめん」

「これ、持って」

 

 愛美がお弁当がちょうど二つ入った袋を俺に向かって差し出した。

 

「了解」

 

 俺はそれを持つ。

 二人分のお弁当はそれなりの重量で、こんな物を持たせて待たせていたことに申し訳ない気持ちになった。

 

 俺たちはいつも昼食を食べている屋上へと向かう。

 そして屋上へ来ると適当なところに座り、お弁当を広げ食べ始めた。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 今日は週に一度の大好物がたくさん入っているお弁当だった。

 いつもは「健康に悪いでしょ」と健康重視のお弁当なので、この日は一週間の中でも特に楽しみだ。

 

 もぐもぐ二人でお弁当を食べる。

 

「美味しいねぇ」

「当たり前でしょ、毎朝早起きして作ってるんだから」

 

 愛美はお弁当を食べながら淡々と答える。

 しかし俺は、俺なんかのために毎朝早起きさせていることに申し訳なさを感じた。

 

 と、その時あることを思いついた。

 

「俺、これから学食派になろうかな」

「必要ないでしょ。私が毎日作ってるし。はい、これ」

「唐揚げだ……!」

 

 俺の思いつきはばっさり切られたが、愛美が自分のお弁当からひょいと唐揚げを一つ摘んで、俺の弁当箱の中に入れてくれたのでそちらの方に意識が集中してしまう。

 唐揚げは俺の好物の一つなのだ。

 

(ってあれ? 何話してたんだっけ?)

 

 すぐに思い出す。

 そうだ。お弁当だ。

 

「なあ、やっぱり毎朝は大変だし、これからは俺別の──」

「うるさい」

「ひえっ……」

 

 絶対零度。

 俺を見る視線は明らかに凍っていた。

 

「私が作るって言ってるでしょ。……それとも、私の作ったお弁当は口に合わないの?」

 

 愛美の眉が少し下がる。

 一見いつもの怒った表情と対して変わらないが、幼馴染である俺には分かる。これは不安を感じている。

 

 もちろん愛美のお弁当はおいしいので、俺は胸を張って答えた。

 

「いや、それはない。いつだってお前の弁当はおいしい。毎日食べれるなんて幸せに決まってる。これは偽りなしの気持ちだ」

 

 そう答えると愛美は少し目を見開いて黙った。

 

「…………ばかじゃないの」

 

 何故か怒られた。

 何か不味いことを言っただろうか。

 愛美はぷいと顔を背けた。

 髪の隙間から見える耳が真っ赤に染まっている。

 

 俺は恐れ慄いた。

 長年幼馴染をやってきた俺には分かる。あれは怒っているのだ。

 耳が真っ赤になるほど頭に血が上っているのだ。

 身体が先輩と対峙していたとき並に震え始める。

 

 俺はこれ以上怒られまいと、無駄口を叩かずに弁当を食べ始めた。

 愛美も怒りを収めたのか、向き直るといつも通りの表情で弁当を食べ始めた。

 

 またしばらく無言の時間が流れる。

 

「ねぇ」

 

 愛美がカチャリ、と箸を置いた。

 

「ん?」

「そういえば、なんで私のこと苗字で呼ぶの」

 

 愛美がそんな突拍子もない事を聞いてきた。

 

「え?」

「ずっと気になってた。前は名前で呼んでたでしょ。なんで」

 

 愛美の表情は真剣だった。

 だから俺も真剣に答えた。

 

「なんでって、そりゃあ…………俺たち高校生だし、もっと距離感開けた方がいいのかなって思って……」

「はぁ?」

「ひぇ、ごめんなさい……」

 

 怒られた。

 俺は必死に謝る。

 

「私はそんなこと望んでない。前みたいに名前で呼んでよ」

 

 愛美は前のめりになって俺に詰め寄ってきた。

 その気迫に負けた俺は「わ、分かった!」と了承し、昔のように愛美を呼んでみた。

 

「じゃ、じゃあ…………愛美」

 

 恐る恐る名前を呼ぶ。

 

「……なんでまだ不満そうなの」

 

 何故か愛美はまだ不満そうだった。

 愛美は頬を膨らませながらボソリと呟いた。

 

「昔はもっと違う名前で呼んでた」

 

 俺は得心いった。

 愛美が言っているのは、もっと昔の呼び方だ。

 俺たちがよく遊んでいたころに俺が呼んでいた愛美のあだ名のことだ。

 

「で、でも昔のあだ名はちょっと恥ずかし……いや、嘘です。ちゃんと言います」

 

 愛美の鋭い視線に射竦められ、俺は意を決して昔のあだ名を呼んだ。

 

「ま、マナ……?」

 

 愛美の裁定を待ち、ごくりと唾を飲み込む。

 愛美はむふーっ、と息を吐いた。

 

「許してあげる」

 

 どうやら許されたたようだ。良かった。

 愛美は満足そうに頷くと食事を再開した。

 俺もそんな愛美を見て自然と笑みが溢れたが、突然笑いだしたら気持ち悪がられかねないので、すぐに顔を引き締めて食事を再開した。

 

 この日、俺と愛美の座っている位置は、少しだけ縮まったのだった。

 

 

 次の日。

 また昼休みの時間になると、愛美がやって来た。

 

「おーい、美少女がやってきたぞー」

「ひゅー、美少女と食事が出来るなんて、橋場さん、羨ましいなぁ」

 

 例に漏れず周りの友人たちが囃したてる。

 

「お前らなぁ、昨日あれほどそういういじりは止めろって……」

「違いまーす。事実を述べてるだけでーす」

「別にいじりじゃありませーん」

「うぜぇ……」

 

 昨日恋愛系のいじりを禁止したから、趣向を変えてきたらしい。小賢しいことこの上ない。

 だがしかし、愛美が美少女なのは事実なので、間違ったことは言っていない。

 許してやることにする。

 

「まぁ、確かに愛美は美少女だからな。今回は許してやろう」

 

 俺がそう言うと友人たちはうへーっ、と甘ったるいコーヒーを飲んだような表情になった。

 

「あーでたでた。賢人の幼馴染狂い」

「お前、ほんとに渋川さんのこと大切にしてるよなぁ」

「これ、もはやシスコンとかそういう類でしょ」

「じゃあ幼馴染だからオサコンだな」

 

 友人たちはそんなことを言っているが、オサコンだと?

 そんなの褒め言葉だ。

 俺はドンと胸を叩いて答える。

 

「当たり前だろ。ずっと一緒に育ってきたんだ。一番大切に決まってるだろ」

 

 高らかにそう宣言すると、友人たちは呆れたようにため息をついた。

 

「はいはい、それより後ろ」

「ん? ──ってうわぁ!?」

 

 友人たちの一人がそう言って後ろをちょいちょいと指差したので振り返ると、真後ろには愛美が立っていた。

 くるくると指に髪を絡めて、少し居心地が悪そうだ。

 どうやら俺が友人たちと話していたので待ちきれず来たらしい。

 

「聞いてた……?」

「……まぁね」

「…………そっか」

 

 二人に沈黙の時間が流れる。

 

 これは少々恥ずかしい。

 言ったことは本心には違いないが、面と向かって言うと気恥しさが勝る。

 

 沈黙の中友人たちが呟いた。

 

「なんだこいつら」

「あっま……」

「胸焼けしてきたんですけど」

「早く屋上行ったらいいのに」

 

 

 その後気恥しさを抱えつつも俺たちは屋上へ向かって歩き始めた。

 屋上に到着する。

 

 いつも通り、適当な場所に座って食べようと腰を下ろすと、愛美がすとん、と密着するくらい真隣に腰を下ろした。

 愛美に目でどうした、と訴えるが、何でもないような表情でお弁当を広げ始めた。

 

 いや距離感おかしくない?

 確かに昨日ちょっと心が近づいた感じしたけど、これは近づきすぎではないだろうか。

 

「ねぇ、何か近くない?」

「そう」

 

 いや、「そう」じゃないんだけども。

 そうピッタリとくっつかれると、年頃の男の子はドキドキしてしまう気がする。

 

 蓋を開けようとすると、何やら愛美がじーっ、とこちらを見ていた。

 

「なに?」

「別に」

 

 いや、見られてると何か食べづらいんですけどね……。

 まぁいいか。

 

 俺は「いただきます」と言ってから二段弁当の上の蓋を開ける。

 そこにはデカデカと白米の上に書かれた『LOVE』の文字。

 

「おっ、今日は凝ってるな」

「え?」

 

 下の段を見れば、いつもよりも力が込めて作られているおかずがあった。

 気分上々で俺はそのままパクパクと食べる。

 すると愛美がまだ弁当箱の蓋すら開けていないことに気づいた。

 俺はいつもと様子が違う愛美に質問する。

 

「ん? 食べないのか?」

「…………いやうそでしょ」

 

 愛美が呆然と呟いた。

 信じられないものを見る目で首をふるふると振っている。

 

「それ見て何とも思わないの?」

「それって、この『LOVE』のこと?」

 

 愛美が頷く。

 

「もちろん嬉しいよ。昨日で随分心の距離が縮まったんだなって。前まで俺って嫌われてたみたいだからさ……って、どうした?」

 

 愛美は絶句していた。

 悲壮な表情で「うそ……」と呟いている。

 そして俺の袖を強く摘むと、泣き出しそうな声で叫んだ。

 

「私そんなこと思ってない!」

「え?」

「私、ケンのこと嫌いなんて一度も思ったことない!」

 

 衝撃の事実に俺は飛び上がる。

 

「え、そうなの!?」

「当たり前でしょ! なんでそう思ったの!?」

「いや、だってずっと辛辣だったし……思春期のお兄ちゃんみたいな感じで嫌われてるのかと思って……」

「ち、違っ、それは……! 小学校のときに友達にからかわれたのと、昔みたいな接し方が恥ずかしくなっただけで…………」

 

 俺は昔を思い出す。

 愛美とはどこに行くのも一緒で、俺は愛美をかなり甘やかしていたから、愛美も甘えていたといい記憶が蘇る。

 確かにそれを中学に上がっても、その歳で変わらず接し続けるというのは難しいだろう。

 

 つまり、俺は別に嫌われて無かったのだ。

 心の底から安堵した。

 

「じゃあ、マナは俺を嫌ってないんだな。良かった」

「え?」

 

 安心している俺を見て、愛美は困惑していた。

 

「どうした?」

「だって……私、ケンに辛く当たってた。……怒らないの?」

「怒るわけないだろ。別に嫌ってた訳でも無いんだから。それともマナは俺のことが嫌いなのか?」

「違う! 辛く当たってたのはただ好意の裏返しで──っ!」

 

 愛美が慌てて口を閉じた。

 

「あ、いや、今のは──」

「分かってる。幼馴染として、だよな。何年も幼馴染やってるんだ。分かってるさ」

 

 当然理解している、と親指を立てて答える。

 俺は愛美に対しての理解度はバッチリなのだ。

 

「…………鈍感すぎでしょ」

「え? また俺何か変なこと言った?」

 

 愛美が死んだ魚のような目をしている。

 しかしすぐにプッと吹き出した。

 

「まぁ、いいや。もう吹っ切れたし。これからは遠慮しないよ?」

 

 これは、今まで辛辣に接してきたけど、これからは昔みたいに接するようにするよ、ということだろう。

 そんなの大歓迎に決まってる。

 

「ああ、全部ちゃんと受け止めてやるからな」

「フッ、……どうせ無理だと思うけど」

 

 そう言って愛美が挑発的に笑った。

 

「じゃあいくよ」

「ああ、ドンと来い」

「好きです」

「え?」

「橋場賢人くんのことが、好きです」

 

 俺は困惑した。

 幼馴染として、というニュアンスだと分かっているのに、愛美の今纏っている雰囲気とどうしても一致しないのだ。

 

「ど、どういうことですか……?」

「分からないの?」

「幼馴染として、ってことですよね?」

「違うよ」

 

 愛美がバッサリと否定する。

 俺はなんとなく居心地の悪さを感じて、愛美から一旦離れようと体を離そうとした。

 しかし愛美は身を乗り出し、俺の袖を掴んでそれを阻止した。

 

 それはまるで、今まで引いてあった線を超えるような、そんな真剣な表情だった。

 

 愛美はニコリと笑う。

 

「異性として、ケンが好きなの」

「へ?」

 

 俺の頭がパンクする。

 愛美が俺のことを異性として好き?

 でも、だって今まで俺は幼馴染として──

 

「ほら、無理だった」

 

 愛美がクスリと笑った。

 

 このまま返事を待たせるのは不味いと、俺は必死に頭を回転させる。

 確かに愛美のことは好きだ。

 けど、それは幼馴染としてであって、異性としてでは無い……はず。

 

 愛美をチラリと見る。

 うっ……なんだかいつもよりも可愛く見える。

 心臓がバクバクと鳴り始めた。なんだこれ。

 俺はたまらず頭を抱える。

 

「うーん……」

 

 そして、悩みに悩んだ末出た結論は──

 

「ちょっと考えさせて下さい……」

 

 一番格好悪い答えだった。

 

「カッコ悪い」

「すみません……」

 

 愛美に対しての気持ちを何と呼ぶのか分からない。

 だから考える時間が欲しかった。

 もちろん告白の返答において最悪の部類であるのは重々承知しているので、俺は平謝りした。

 

「でもいいよ。そういう所も好きだから」

 

 そうやって笑う愛美に、俺は一生敵わない気がした。

 

 そして翌日から愛美は吹っ切れた。

 『LOVE』のお弁当が当たり前となり、一日に何回も『好き』を連発された。

 一週間後、告白されてから愛美を意識するようになった俺は愛美の猛攻についに陥落し、愛美の告白を受け入れ、正式に付き合うことになった。

 

 俺と愛美が付き合い始めた、とまたたく間に学校中に噂は広がったが、噂を聞いた人物は全員、「え、まだ付き合ってなかったの?」と言ったそうだ。




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