IS オーバーホライゾン   作:湿度70%

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 燃え残った全てに火を点けに行ってました。
 今回はちょっと暗めのお話。


第九話 知っていること、知らないこと

 モンド・グロッソでの騒動から早数か月。俺を助けてくれ三乃川た鉄也の面倒を見ているわけだが、彼は色々と想像以上だった。

 

 性格は一言で表すなら傍若無人。集団生活に慣れていないのか定期的に勝手な行動を取るが、悪意があるわけではなく一度注意されれば()()直る。頭は意外といい方で、夏休みの宿題は俺や弾たちを含めた友人グループの中で一番早く終わらせていた。……読書感想文と絵だけ物凄い雑だったけど。

 そして何より身体能力が規格外で、握力と脚力は大人に匹敵するレベルな上に持久力は学年──いや学校一かもしれない。

 

「……リハビリ中なのにこれだもんな」

「ん、なんだ一夏」

「あぁいや、ただの独り言だ」

「そうか」

 

 例の男性からのお願いでこうして一緒に登下校しているが、傍から見るとただの小さめで目付きが悪い男の子にしか見えないのが驚きだ。

 とはいえ、空気を読むのが苦手で度々場を凍らせたりするし、日に一度は鈴と丁々発止を繰り広げて俺と弾で止めに入る羽目になったりする問題児というのが実態なわけで。

 

「……はぁ。小さい者同士仲良くしてくれればなー」

「悪いのは凰のやつだ。馬鹿を言ってそれを訂正しただけだぞ俺は」

「だとしても言い方があるだろ? いきなり『馬鹿かお前』はダメだって」

「……事実なのにか」

 

 真顔でこういうことを言うのだから手に負えない。対話というかコミュニケーションをまともにしたことがないのかと疑いたくなるが、これで過去のことを聞くと弾たちに話せない秘密が増えるからそれもできない。

 胃薬のお世話にはなりたくないが、五反田食堂のカボチャ煮が以前より美味しく感じるようになってきた辺りもしかしたら既に俺はやばいのかもしれん。そんな妄想を垂れ流す日々を送っているのだった。

 


 

 あくる日、その事件は起こった。

 場所はお馴染みのレゾナンスで、婦人服売り場近くの雑貨店手前にあいつだけを放置したことがことの始まりだ。

 

「──の、男風情が!」

「だから、なんで俺が見ず知らずのあんたの命令を聞かなきゃいけないんだ。その理屈をきちんと説明しろ」

「な、なんですって!?」

「……まじかよ」

 

 鉄也と激しい口論を繰り広げているのはけばけばしい恰好をした行き遅れ感の溢れ出る女性で、典型的な女尊男卑(じょそんだんぴ)に染まった人間であった。

 どうやって仲介すべきかと悩んでいると、彼はこっそりと重心を落として膝を曲げる。それが意味するところを察した俺は慌てて飛び出していき、二人の間に割り込んだ。

 

「っとと、すいませんね俺の連れが! 何かありましたか!?」

「ふん、やっと話の分かるやつが出てきたわね。そこのガキにこの服を持ってろって言ってたのよ」

「ああなるほど、そういうことでしたか!」

 

 頭をしきりに下げておべっかを使うこちらに鉄也が信じられないような物を見るような目を向けてくるが、背に腹は代えられない。

 最終的にこちらの態度に満足したことで女性は去っていき、早鐘を打つ心臓を落ち着かせるために深呼吸を繰り返す。そして後ろに振り返って自分よりも低い肩をがっちりと掴む。

 

「鉄也」

「……」

「俺の、目を、見ろ」

「…………なにがまずかった」

 

 真顔でそう言い返してくる彼に思わず頭を抱えたくなるが、どうにか我慢してその問いに答える。

 

()()()()()()()()()()()()。いいか、全部が全部それで片付くわけじゃないんだ」

「だけど、手っ取り早いし正確だ」

「確かに楽な手段だな。けどな、それは最後に取っておくべきものだし使うべきでもない。面倒くさくて時間がかかったとしても、言葉を使い続けるんだ」

 

 それは彼への忠告で──何よりも自分への戒めだ。

 手を引っ張って人気(ひとけ)の少ない場所まで移動してから、改めて口を開く。

 

「そうだな、昔話をしよう」

「……?」

「ちょうど千冬姉が最初に世界最強になった頃だっけな。俺のクラスに鈴が転校してきたんだ。その時のあいつはまだまだ日本語が苦手で、それを理由にいじめられてたんだ」

「…………あいつにそんなことが」

「で、それを見てた俺はどうにも放っておけなくて、いじめっ子を止めようとしたんだ。最初は言葉を使えてたんだが……気づいたら殴り合いになっててな。あれは本当に酷かった」

 

 今でもその時に殴られた頬の痛みは思い出せるし、保護者呼び出しでやってきた千冬姉から食らった脳天への拳骨は一生忘れられないレベルだ。

 

「それでまあ今度は大人同士の話し合いになって、最終的にいじめっ子とその親の謝罪でこの話は解決。きっかけは暴力だったけど、終わらせたのはそれじゃなかったわけだ」

「……」

 

 鉄也がしばらく黙り込でしまったので話の意図が通じたのか心配になっていると、彼はゆっくりと口を開いた。

 

「お前が俺の代わりにあの女性に頭を下げた時、不思議な感覚があった」

「え?」

「自分のことじゃないのに、どうしようもなく腹が立った。それがなんなのか、俺には分からない」

 

 相変わらず分かりにくい表情だが、声にはどこか反省の色が見える。

 少しばかりの達成感を覚えながら、俺はその続きを促した。

 

「……鉄也」

「だから一夏、それが分かるようにしてくれ。()()()が言っていた成長っていうのは、きっとこれのことだから」

 

 真剣な眼差しでこちらを見つめてきて思わず頷く。彼が抱いた感覚──きっと『義憤』と呼ばれるであろうそれを理解することは、彼がこの(さき)生きていく上でとても重要だろう。

 こうして課題を認識できただけでも今日の騒動は価値があると、俺はあの時感じた辛さを払拭するように思考を続けるのだった。




 暴力じゃ全ては解決できないんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ。
 女尊男卑については次回説明があります。
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