IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
「うー、寒っ……」
時は流れて2月中旬、受験の真っ只中。昨年のカンニング事件のせいで入試会場の告知が2日前になったうえ、俺が受ける私立
「なんで学校でやんねえんだよ……家から一番近いのに……」
吹きすさぶ寒風に身を縮こませながら会場へと向かうがその足取りは重く、着いた頃にはあまり時間の余裕がなかった。少し焦りながら試験部屋を探すも……
「わ、分かりにくい……というかここが何階かも分からないぞ……」
迷路と言われれば騙されるレベルの構造に加え、デザイン重視とやらなのか案内板も皆無。迷子になったことは疑いようもなかった。
「ええい、こうなったら次に見つかったドアに入るか」
大体こういうのは当てずっぽうが正解だ、なんて愚痴っているとちょうどいいタイミングでドアがあったのでそれを開く。
「あー、君、受験生だよね。はい、向こうで着替えて。時間押してるから急いでね。ここ、四時までしか──」
部屋に入った途端、神経質っぽい女性教師に一気に色々と言われる。忙しさで判断能力が鈍っているのか俺の顔を見ることはなく、指示だけして出て行った
(着替え? ……もしかしてカンニング対策か? 大変だよなぁどこも)
そう思ってカーテンを開けた瞬間──俺は自分の目を疑った。
「これ、って……」
奇妙な物体が鎮座している。それは『お城に飾ってある中世の鎧』というか、厳密には甲冑っぽくない部分もあるが大体似た印象の『何か』だ。
人型に近いカタチのそれを……俺は嫌というほど知っていた。
「アイ、エス…………」
ゆっくり近づいて確認してみるも、きちんと金属質で機械感もあるので間違いなく本物だろう。どうしてこんな場所にあるのか疑問に思うと同時に、脳の片隅であの言葉を思い出す。
『お前がISを動かせるなら問題は解決するんだけどな』
冗談なのか本気だったのかは分からないが、鉄也がそう言ったことだけは確かだ。それが脳裏で何度も何度も繰り返される内に、俺はもっとISに近づいていく。
「……もし、
使われる時を今か今かと待っているであろうそれにそーっと手を伸ばし──触れた瞬間、キンッと鋭い金属音が頭に響いた。
「!?」
そしてすぐ、意識におびただしい情報の数々が流れ込む。数秒前まで知りもしなかったISの基本動作、操縦方法、性能と特性、現在の装備、etc……。
まるで長年熟知したもののように、修練した技術のように、それら全てが理解・把握できる。
「は、はは……」
動く、動かせている。自分の手足のようにISを。
それに対して浮かび上がるのは……何とも言えない喜びだ。
(できたぞ、鉄也。これで俺はお前を、親友を、失わずに……!)
そして視覚野に接続されたセンサーが直接意識に全方位の情報を近くさせたことで、背後に先ほどの女性教師がいて大慌てで叫んでいることにやっと気づいたのだった。
乾いた風が窓を揺らす音で目が覚める。いつの間にやら寝落ちしていたようで、机の上の本たちが雪崩を起こしていた。
「……しくじったな」
ISに関して書かれたそれらを積み直しながら時刻を確認する。一夏たちの試験開始時刻はとっくに過ぎていて、別れが間近であることを改めて実感する。
およそ三年間の中学生活は、同じ飯を食うことの喜びを、周囲と歩調を合わせる難しさを、理不尽を受け入れる苦しさを、親しくなった者と離れ離れになる哀しみを──とにかく様々なものを俺に与えてくれた。
(あと1か月半、それが過ぎたらここに戻れなくなるんだろうか)
そう思うとページをめくる指が止まってしまう。そんなことをしても時間が止まるわけではないのに。
「……電話?」
いつの間にか掛かってきていたそれを手に取って確認すると更識からのものだった。訝しみながら電話に出る。
「もしもし、三乃川だが──」
「お前! テレビ見たか!?」
「……いや?」
「今すぐ点けろ! 今すぐにだ!!」
怒鳴り散らす声から耳を遠ざけながらリモコンを手に取って電源を入れる。すると何やらニュース特番が行われていて、その内容は──
「本日○○時、IS学園の入試会場にて××中学校3年生の男子生徒『織斑一夏』さんがISを作動させました。政府はこの異例の事態について──」
「…………は?」
画面にでかでかと映し出される見知った顔を写真と並べて、それが間違いなく一夏であると理解する。そして頬をつねって夢じゃないことを確認し、ため息を吐いた。
「あー、これは大変だな」
「大変だなー、じゃねえ!! お前のことをどうやって世間に発表するか煮詰めてた所にこれだぞ! おかげで俺たちの計画は滅茶苦茶だ!」
「……なるほど」
「というかなんで会場にISがあるんだよ!?」
「俺に聞かれてもな……」
電話の向こう側の騒ぎ声のせいでさっきまでのしんみりした空気が消し飛んでしまい、眉間を抑える。
確か予定だとIS学園本島に移動する直前に発表することで、女尊男卑にかぶれた輩や不埒な研究機関からの干渉を避けるという手筈だった。
しかし、テレビの方で政府が全国で一斉に男性操縦者を探すと発表してしまったので、更識たちの悲鳴が倍に跳ね上がる。
「こんの馬鹿どもがぁー!!」
「……それで、どうする?」
「はぁ、はぁ……あー、そうだな。そっちにお前の担当が向かってる」
そう言って電話が切られると同時にチャイムが鳴った。誰だろうと思ってインターホンの音声を出す。
「更識の者だが、開けてもらえるか」
「……わかった」
玄関まで行って扉を開くといつも通りの水色髪と赤目があった。しかし色味はだいぶ薄く、なんだか見覚えがある気がする。
「モンド・グロッソの時に会ったんだが、覚えてるか」
「…………『運転手』?」
やっとのことで思い出す。彼は俺に中学生活を送る指示を伝えたり、簪と最初に出かけた時に送迎をやってくれた人だった。
「相変わらず名前を覚えてくれてないか。更識
「……初めて名前を聞いた気がするが」
「以前教えたのを忘れてるだけさ。それは置いといて、あれからお前に関わるあれこれの担当になっててな」
「そうなのか」
そこまで話したところでリビングに移動し、向かい合わせに座ったところで話が再開する。
「今回のこれだが……一斉検査に合わせてお前の存在を明かすことになったが、何もしないとお前は間違いなく研究機関送りになる。三年前に織斑千冬が
「というと」
「以前なら法律がお前を守ってくれたんだろうが、今は違う。簡単に捻じ曲げられて都合のいい使われ方をするだけだ」
「……」
彼が語る内容は信じがたいが、真面目な表情からして嘘ではないのだろう。全く、女尊男卑というやつは百害あって一利なしだ。
「そこでなんだが──お前には一夏と千冬との縁がある」
「……?」
「単なる同級生にとどまらず、長い時間を共に過ごしているし互いの家に行ったこともある。……ならそれは縁があると言えるのさ」
千石はニヤリと口角を吊り上げ、とんでもないことを口にした。
「
「……出来ると思うか?」
「お膳立てはこちらでやるが、成功するかどうかはお前次第だ」
「…………」
正直言って分が悪いどころの賭けではない。あっさり断られてモルモットになる確率の方が高いのだろうが──上手くやれば
「──わかった、やってみる」
「そう言うと思った! 表に車は止めてある、身だしなみ整えてから来いよ」
赤い黒目をぎゅっと縮めた表情を浮かべながら彼は外へ出て行った。口車に乗せられた気がしなくもないが、こうなった以上しょうがない。
無事にIS学園に入るため、自分の価値を証明するため、そして何より────また友たちと過ごすために。俺は腹をくくるのだった。
名実ともに千冬さんが『