IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
空気が……空気が重い……!
3限目、教壇に立っているのは先ほどまでと違って千冬姉だ。よっぽど大事な授業をやるのか、後ろに俺らの山田先生もノートを持っている。
「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の特性に──と、その前にアレか。再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな」
ふと、思い出したかのように彼女が言う。聞き覚えのない用語ばかりでちんぷんかんぷんだ。
「クラス代表者は……学級委員長のようなものだ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席も行う」
「ちなみにクラス対抗戦っていうのは、入学時点での皆さんの実力の推移を測るものですよー」
「サポートありがとう、山田君。そして、クラス代表は一度決まると1年間変更はないからそのつもりでな」
ざわざわと教室が色めき立つ。面倒な仕事が多いようだし、なるやつはかなり苦労するに違いないだろう。
「はいっ! 織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
──織斑ってこのクラスにもう1人いるのか? 奇遇なこともあるもんだ。とにかく俺以外がなるなら誰でもいいのだが。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
ほう、織斑一夏ってこのクラスにもう一人──ってそんなわけがあるか!
「お、俺!?」
思わず立ち上がってしまい、すぐさま視線の一斉射撃。中学時代に何度か経験した、無責任かつ勝手な期待を込めた眼差しだ、
「織斑。席に着け、邪魔だ。ところで他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
「ちょ、ちょっと待った! だったら俺はてつ──」
「おい」
ずしり、と重くのしかかるような声。恐る恐る振り向けば、鉄也が普段以上に鋭い目つきでこちらを睨んでいた。明らかに「面倒ごとに巻き込まむな」と言っているような目だ。
視線だけで命の危険を感じることなんてあるんだな、なんて思いながら続く言葉を飲み込む。
「……自薦他薦は問わないと言った。織斑、他薦された以上お前に拒否権はない。覚悟をしろ」
「い、いやでも──」
まだ反論を続けようとした瞬間、突然甲高い声が
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
「……ほう」
セシリアなんとかさんがバンと机を叩いて立ち上がり、そのまま口を開く。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんて……このセシリア・オルコットにこのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」
(……ん?)
「実力から行けばわたくしがその座に就くのは必然。それを、物珍しいからという理由で男なんかにされては困りますの!」
なんだか雲行きが怪しくなってきたが、彼女のマシンガントークはまだまだ止まりそうにない。
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは──」
「だったら自薦をしろ」
「──なんですって?」
その勢いに水を差され、セシリアは声のした方に顔を向ける。その先にいたのは……案の定、鉄也だった。
彼女の鬼気迫る雰囲気も知らん顔で彼は喋り始める。
「自薦をしろと言ったんだ、セシリア・オルコット。織斑先生もそれを許可している」
「ですが、そもそもわたくしを推薦しないクラスメイトが──」
「それともなんだ。
「──えっ?」
その一言によって彼女から表情が抜け落ちる。そして、鉄也はそこに容赦なく追い打ちをかけた。
「お前の専用機……ブルーなんたらは、BT兵器とやらの試用を目的としたやつだ。だが、今のところ
「……なさい」
「機体とお前、どっちの問題かは知らんが、イギリスのジョークも地に落ちたな。モンティ・パイソンを見直すべき──」
「おだまりなさい!!」
怒髪天を衝くと言わんばかりに顔を真っ赤にしたセシリアに対し、鉄也は相変わらず感情の読めない顔を浮かべている。
「わたくしの祖国まで侮辱するなんて──決闘ですわ!」
「……ケットウ? なんだそれは」
「────あ、あっ、あなたねえ!」
暖簾に腕押し、糠に釘。まさしくそう表すべきやり取りを中断するかのように、千冬姉が手を叩いた。
「そこまでだ、馬鹿者ども。まずオルコット。自薦するのかしないのか、どっちだ?」
「…………じ、自薦、しますわ!」
「そうか。そして三乃川。決闘とは問題解決のために暴力を使うことだ」
「なるほど。……受ける必要はないな」
彼はぶっきらぼうに言い放つが、そうは問屋が卸さなかった。
「せんせ~。私は~、みーのんを推薦しまーす」
ダボダボに袖を余らせた女子がいつの間にか立っていて、見た目通りにのほほんとした口調でこう言ったからだ。
そして彼女の宣言を皮切りに、他のクラスメイトも口々に推薦を行う。その中には俺に対する追加のやつもあったが、セシリアに言及したものは一つもなかった。
「おや、三乃川。他薦されたな?」
「……はぁ。分かりました。それでどう解決するんだ、セシリア・オルコット?」
「……ふんっ、決まってますわ! わたくしとISで勝負していただきます!」
高らかにそう宣言する彼女。あそこまで言われてあの態度を取り続ける根性は逆に見習いたくなるな。
そんなことを呑気に思っていると、周囲の視線がこっちにも注がれていることに気づいた。
「……あのー、もしかして、俺も?」
「当たり前ですわ! そもそもあなたが推薦されたからこうなっておりますのよ!?」
「そ、そういやそうか……」
話がヒートアップしてあっちこっちに飛んだせいで忘れてたが、始まりはそこだったな。
とはいえ、彼女がなんだかんだ入試首席のエリートであることには違いない。だからせめてISをちゃんと動かせるようになってから決闘を──
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後に第三アリーナで行う。各自でそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと手を打って千冬姉が話を締める。……その後、あまりにも短いタイムリミットが頭に残り続けたせいでまともに授業内容を理解できなかったのは、言うまでもないことだろう。
(三乃川は例のアプリをチラ見しながらセシリアの名前を呼んでます)
……ぶっちゃけた話、本来の機能を扱えないような機体と操縦者をIS学園に入学させるのって、だいぶリスキーだと思ったのでこうなりました。