IS オーバーホライゾン   作:湿度70%

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 湿度回と言ったな?アレは嘘だ
 代表決定一回戦、主人公機の名称公開もあるよ。


第十七話 決闘、爆発、口撃にて

 時間は流れて翌週の月曜。やってきてしまった決闘の日。俺と一夏は第3アリーナのAピットに押し込まれていた。

 戦う順番は最初に俺とオルコット、次に一夏と彼女、そして最後に彼と俺。なので一夏にはかなり猶予があるはずなのだが──

 

「一夏、大丈夫か」

「……ガンバル」

「…………大丈夫か?」

 

 彼は既に戦意喪失気味だった。聞けば、例の幼なじみがISについて教えてくれると言っておきながら、結局剣道の稽古しかやってくれなかったというのだ。

 けっしてそれ自体は無駄な行為ではないとは思うが、約束を破られたショックは大きいのだろう。一夏の付き添いで来た箒もかなりバツが悪そうにしている。

 

「にしても遅いな、()()()()()()

「…………センヨウキ?」

「……これは重症だな」

 

 一年生のこの時期に専用機を与えられるというのは破格の待遇だ。とはいえ肝心のそれは影も形もない有様で、もはやピット内はお通夜の雰囲気である。

 

「学園の仕事がこれほど雑とはな」

「あぁ、全くだ!」

「…………お前が言えた義理か?」

「し、仕方ないだろ! 目の前で3年生に盗られかけたのだぞ!? だからその……『篠ノ之』を使ってしまったのは、不可避というか……」

 

 篠ノ之──彼女の苗字であるそれは、IS界隈において重要な意味を持つものだ。

 ISの生みの親である世紀の大天()こと『篠ノ之(たばね)』。先日判明したことだが、なんと箒はそんな有名人の妹だったわけだ。

 ……天才の姉とその弟または妹。三パターンも身近にあると流石に食傷気味になるな。

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

 

 そんな重苦しい雰囲気を破ったのは山田先生の声だった。普段からあわてんぼうな彼女だが、今日はいつにも増してあわてふためいている。

 

「ヤマダセンセェ……?」

「き、ききっ、来ました! 織斑くんの専用IS!!」

「……本当ですか?」

 

 親友の目に光が戻ると同時に、ごごんという鈍い音を響かせながらピットの搬入口が開く。

 斜めに嚙み合っていた防護壁が向こう側を晒し────その先には『白』がいた。

 

「これが……」

「はい! 名前は『白式(びゃくしき)』です!」

「ほう……」

 

 思わず言葉を失う程の白。飾り気のない無垢の色。まさしく初心者の一夏に相応しい姿に色彩だ。

 そんな感想を抱いていると、ISの後ろから織斑先生が現れた。

 

「一夏、すぐに装着しろ。今からならギリギリで次の試合には間に合う」

「わ、わかった千冬姉!」

「……まあいい。三乃川、あと数分で開始時刻だ。ISを展開してピットゲートに向かえ」

「了解」

 

 脱ぎ捨てた制服を拡張領域に収納し、ISスーツの具合を確かめながら歩く。肌に張り付く感触はあまり好ましくないが、これの有無でISの性能が左右されるのだから背に腹は代えられない。

 そしてカタパルト手前で機体を展開。天井にヘッドパーツを擦りそうになりつつも脚と腕を固定する。

 

「三乃川鉄也──機体名『ニカンドラ』、出る」

 

 宣言と同時に土台が加速、俺はアリーナへと放り出されるのであった。

 


 

「あら、逃げずに──ってなんですのそのISは!?」

 

 視界が開けた途端に投げかけられたのは、困惑の声とブーイングの嵐。

 アリーナの方からは『そんな、フルスキン(全身装甲)!?』だとか『素肌を見せろー!』だの、なんだかよく分からない発言ばかりだ。

 

「あ、あなたっ、ふざけていますの?」

「どこがだ」

「フルスキンということがですわ!」

 

 彼女は生身の時と同じような仕草でこちらを指差し、同時にISスーツにすら守られてない素肌を見せつけてくる。

 

「今の主流はわたくしの『ブルー・ティアーズ』が代表する第3世代IS! その古臭い()()()で出てくるなんて、恥知らずにもほどがありましてよ!」

「──ほう、言ってくれるじゃないか」

 

 流石にこれは頭にきた。開放回線(オープンチャンネル)で好き勝手言ってくれる。

 しかし、これは同時にチャンスだ。このまま口論を続ければ一夏の初期化(フォーマット)最適解処理(フィッティング)の時間を稼げるだろう。

 

「そうだな、セシリア・オルコット。確かにこいつは古い機体だ。だけど……お前のまともに使われたことのない新品よりはよっぽど上等だ」

「……なんですって?」

「俺みたいに装甲を山ほど盛る必要はそりゃないさ。だが、そういう風に肌を剝き出しにするのはいただけないな。エンタメにしても低俗過ぎる」

「あ、あなたねぇ……!」

 

 ビキビキと青筋を立てる彼女。でかいライフルを握る名前通りの真っ青なマニピュレータは震えており、彼女の怒りをこれでもかと教えてくれる。

 ──そのせいだろう。試合開始を告げるブザー音に対してオルコットの反応が遅れたのは。

 

「っ、いつのま──」

「ふんっ!」

 

 慌てて機体背部から四つの自立機動兵器(ビット)を展開してこちらに銃口を向けてくるが、そこから自慢の光線(レーザー)は放たれず。

 それより先に、俺の放り投げた武器──例のランスを改造した代物である『轟天(ごうてん)』が鳩尾に突き刺さったのだ。

 

「いぃっ!?」

 

 穂先がギャリギャリと時計回りに火花を散らし、反時計回りのバンプレートから生えた四門の機銃砲(ガトリング砲)が追い打ちをかけていく。そして彼女はアリーナの壁へと押し付けられた。

 この一撃によって稼いだ十数秒の間にとっておきを展開。同時に個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)でオルコットに通信。

 

『あんたの()()()()、2つで十分か?』

『っ!? なんでそのこと──』

『ミサイルは多ければ多いほどいい……らしいぞ』

 

 出現したのは二基の巨大なウイングブースター。その先端がパカリと開き、8連装の弾頭をそれぞれ二つずつ露にする

 

『本来よりは少ない──だが、お前相手には十分すぎるかもな』

『っ……ぁ、あ……!』

 

 彼女の目が恐怖に見開かれる。ビットがヨタヨタと機体を守るように移動を始めるが、もう遅い。

 爆音、斉射。32発のミサイルがブルー・ティアーズへと殺到する。

 

「こんなの、数が多いだけ──っ!?」

「逃が……さん……!」

 

 高性能誘導八連装ミサイル『山嵐』──本来は()()()()の専用兵装であるそれは、1発ごとに目標、軌道、速度、その他諸々を変更可能という驚異の装備だ。

 しかし、同時に使用者に対して多大な負担を強いる代物でもあり、現に俺の脳はこれまでの人生で経験したことがないほどの痛みと熱に襲われている。

 

「ブルー・ティアーズでも振り払えない!?」

「はっ、理論……上は、テンペスタ、だって、蜂の巣に、できる……!」

 

 段々と頭全体が熱くなってきた。恐らくハイパーセンサーが悲鳴を上げているのだろう。

 今のセシリア・オルコットは必死に逃げ続ける『王』のようなものだ。それを確実な()()に追い込まなくてはならない。

 

「あ、たぁ……れぇ…………!!」

「──あっ、しまっ」

 

 アリーナの天井付近、そこで彼女はミサイルに包囲された。そしてすぐさま爆発の嵐に飲み込まれ、機体を煤で汚しながら落ちてくる。

 きっと一時的に気を失ったのだろうが──まだ終了のブザーは鳴っていない。

 

「はぁー……っ!」

 

 焼き上がりかけた脳を更に酷使し、どうにかいつもの槍をコール。それを両手でしっかりと構え、5つの推進器を全開にしてブルー・ティアーズの元へと機体を飛ばす。

 

「しゃおらぁっー!!」

「っがぁ!?」

 

 ありったけの力を込めて喉仏を穿つと同時に、アリーナにブザーが鳴り響いた。

 白目を剝いたオルコットを抱きかかえながら、かすむ視界でどよめく観客席を見渡す。その中から一際大きな人影を見つけた俺は、ヘッドギアの中で僅かに微笑むのであった。




・ニカンドラ
 三乃川鉄也の専用機。他のISと比べて3m以上と一回り大きく、全身装甲(フルスキン)が特徴。
 名前の由来は機体色が黒いことと、5つの推進器──大型ブースターが腰部に1つ、ウィングスラスターが4つ──を持っていることである。
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