IS オーバーホライゾン   作:湿度70%

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 少し過去回想。


第十八話 久しぶりは波乱から

 入学2日目の放課後。俺は教室で暇を持て余していた。

 一夏は箒によってどこかへ連れていかれてしまったし、同室の本音も生徒会の業務に駆り出されている。

 

(とはいえ、やるべきことが無いわけではないからな……)

 

 いくら代表候補生が相手とはいえ、負けるつもりはない。()()()()()()()に敵わないのなら、俺の願いを叶えることなど不可能だからだ。

 だがしかし、更識楯無からの無茶ぶりに応えるための手段がない。工作器具はISの拡張領域に突っ込んで持ち込んだはいいものの、設置場所が存在しなかったからだ。

 

(……一旦、整備課辺りに相談をしてみるか)

 

 席から立ち上がると教室から出て、アリーナに隣接されているIS整備室へと向かう。IS学園は二年次から操縦者育成課と整備課に分かれるらしく、今から行く場所で様々なことを学んでいると聞く。

 そんな彼女たちなら、もしかしたら武器のアイデアの1つや2つぐらいくれるかもしれない。そんな期待を胸にしながら歩いている時のことだった。

 いきなり横の扉が開いたと思ったら、中から腕が伸びてきてそのまま引き込まれたのだ。慌ててそいつを振り払おうとして──懐かしい声色で動きが止まる。

 

「……ひ、久しぶり、だね」

「…………簪?」

 

 振り向いた視界に入ってくる見慣れた水色と赤。だけどそれは、記憶の中よりもずっと高い所にあった。

 更識簪──俺の最初の友人。そんな彼女はこの三年間で随分と成長していたようで、織斑先生よりも大きく感じられた。

 

「……覚えてて、くれたん、だね」

「当然だ。お前を忘れることはない」

「…………ふふ」

 

 こちらの言葉に返事をせず、ただ力強く抱きしめてくる。同時に頭をこすり付けくる様はまるで犬そっくりだ。

 そんな吞気なことを考えていると、俺よりも一回り大きな──だけど女性らしい──手がガシッと身体を掴んできた。

 

「……ねぇ、三乃川、君」

「なんだ」

「──()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 底冷えするような声。言われてみれば、今着ている制服は昨日のやつを洗わずに使いまわしている。女性は嗅覚が鋭いらしいので、紅茶の匂いなどで勘づいたのかもしれない。

 この状況でどんな返しをすればいいか悩んでいると、生暖かい感触が首筋に触れた。

 思わずそれから逃げようとするが、大きさによって生み出されるシンプルな力には勝てない。

 

「……んっ、ねろ…………」

「っ……」

 

 ぺちゃぺちゃと水音が部屋の中を満たす。時おり犬歯が肌を掠めるせいで気も抜けない。

 どうにかしてこの状況から抜け出す方法を考えていると、簪の唇が肌に吸い付いてきた。

 

「んー……、ぷふぁ。へへ、しっかり、痕ついた、よ?」

「…………満足したか?」

「……うん」

 

 やっとのことで彼女が離れてくれたので、背伸びをしてから周囲を見渡す。

 真っ先に目に入るのは複雑な機材の数々で、ここが整備課の為の場所であることを示している。そして何より目を惹くのは、ハンガーに固定された見たこともない組みかけのISだ。

 

「そういえばだが。お前はなんでここ(IS学園)に入学したんだ?」

「……ええっと。お姉ちゃんに、追いつき、たくて。日本の代表候補生に、なって、それで──」

「となると、アレは専用機か」

「う、うん。名前は……『打鉄(うちがね)弐式(にしき)』って、いうんだ」

 

 打鉄──確か、倉持技研(くらもちぎけん)とかいう所が作った量産機だっただろうか。

 織斑千冬(ブリュンヒルデ)の為だけに作られた暮桜をベースに扱いやすさと拡張性を重視した改変を施した結果、ほぼ別物になったという話は自腹で買ったISの本に載っていたのでよく覚えている。

 

「打鉄? そう言う割には脚以外ほとんど別パーツに見えるが」

「この子、第3世代、だから……。それに、まだ、完成して、ないし…………」

「そりゃまたなんで──」

 

 俺が疑問を投げかけた時のことだった。部屋の扉が強引にこじ開けられて、その向こうから見慣れた顔が現れたのだ。

 

「鉄也、ここにいたのか!」

「一夏か。なんだ」

「授業の復習やるって話だったじゃんか。なんでこんなところに──」

「…………織斑、一夏?」

 

 俺の背後から恐る恐ると簪が顔を覗かせる。そして、先ほどと同じように彼を部屋の中に引きずりこんだのだ。

 

「ちょまっ、誰だよあんた!?」

「あなたの、あなたのせいで!」

「はぁ!? 何の話だ!?」

「ちょっと落ち着け」

 

 二人のもみ合いの真ん中に割って入り、両者を引き離す。こういう時だけは自分の小柄さに感謝したい。

 そして、困惑する一夏とは対照的に、簪はずっと肩を怒らせて彼を睨みつけていた。

 

「本当なら! 私は専用機に乗って! 三乃川君と、一緒に、一緒に!」

「あー……その、すまん。なんか悪いことしたのか?」

 

 あまりの剣幕に却って冷静になったようで一夏は聴きに回る。それに釣られて彼女もクールダウンし、ゆっくりと話を始めた。

 

「倉持が、あなたの専用機、作るって、言って。私の方から、人員、奪って……」

「……それ、俺が悪いのか?」

「三乃川君だけ、なら。こうはならな、かった」

「…………ひどいな」

 

 聞いてるだけで腹が立ってくるような内容だ。いくら(世間的には)最初の男性操縦者の機体だからといって、それだけを作るのは技術者として恥ずべき行為ではないだろうか。

 そして、この話を聞いたことで打鉄弐式がこんな状態なことにも納得がいった。

 

「簪、クレームは入れたのか」

「……ううん。たぶん、しても意味、ないから」

「…………待て、鉄也。()()()()()()?」

「は?」

 

 一夏がいきなりそんなことを言い放ったので、思わず真顔で返してしまう。

 

「どこのことだ」

「その人の名前だ。聞き間違えじゃなければ、4文字だった気がするんだが」

「……かんざし、確かに4つだな」

「あー……なるほど。ってことはアレか、例の俺みたいに誘拐された子か?」

 

 変な根拠で真実を言い当ててきたのに戸惑いながらも、俺は彼の問いを肯定する。

 なんだか微妙な空気になったが、それを破るように簪が口を開いた。

 

「その……テツヤ、って、なに?」

「あぁ、言ってなかったな。こうして俺がIS学園に来る以上、戸籍が必要だったらしくてな。その時に付け加えられたんだ」

「ふーん…………付けた人、ずるい」

「そうか?」

 

 名前なんてただの識別情報の一つにしか過ぎないのだから、誰がどう付けようと勝手だろうに。

 

 閑話休題。俺は二人に対してここまでやってきた理由を説明し、ついでに来週の戦い方についても相談する。

 

「……お姉ちゃんの、武器。どう弄る、の?」

「とりあえず機銃を穴に生やすつもりだ」

「へー……なら、ついでに刺す部分を回転するようにしたらどうだ? 威力上がるんじゃねえか?」

「なるほど、それはいい。シールド削りに使えるな」

 

 そんな会話を交わしながら拡張領域の機材を空きスペースに置かせてもらう。すると、一夏がこんなことを聞いてきた。

 

「……なぁ、鉄也。お前のISってフルスキンだよな?」

「そうだが?」

「確か、参考書には『フルスキンは拡張領域が狭かった為に廃れた』ってあったんだが……」

「たし、かに。装甲多いから、武器とか、積めない、らしいし」

 

 簪も追い打ちをかけてきたので、俺は一旦作業を止めて2人に説明を始める。

 

「まず最初にだが、一夏。拡張領域ってなんだか分かるか?」

「……初期装備(プリセット)後付装備(イコライザ)を収納する場所だろ?」

「半分は正解だな。ISコアのもつデータ領域のうち、機体OSと装甲、ハイパーセンサーの容量を引いた分がそれになる」

「PCの、内蔵HDDみたいな感じ、だよね……」

 

 簪の補完説明はかなりいい線を行っているものだ。USBメモリみたいに全部にデータを書き込めるわけではなく、あくまで空き領域にのみ武装などを仕舞えるというのが()()である。

 

「そして、コアのデータ領域にはかなりの個体差が存在することが分かっている。俺のやつは随分と広いみたいで、このランスぐらいなら拡張領域に余裕で三十本以上は入る」

「マジで!?」

「マジだ。といっても、そんなに武器はいらないから装甲とセンサーに幾らか回してる感じだ」

「……そんなこと、できるんだ」

 

 二人はかなり驚いた様子だ。亡国機業の連中はこれに似たことをよくしていたはずだが、もしかしたら一般には出回っていない手法なのだろうか。

 奴らのアドバンテージを奪うために後で学園に伝えておこうと考えながら、ふと思いついたことを口にする。

 

「簪、あの機体のブースターに付いてるのは?」

「あー……山嵐っていう、その、凄いミサイル。だけど、システムが、未完成、で……」

「撃てないのか」

「ううん、それは、できる、けど……」

 

 彼女曰く、理論上は48発の誘導ミサイルを、多数の目標に対しての軌道や命中位置をリアルタイムで変更できるらしい。

 しかし、現状でそれをやろうとすると情報処理が得意な簪でも難しく、半分を一つの目標に集中させるぐらいでないと安全に使用できないという。

 

「…………無理をすれば、どこまでやれる?」

「鉄也!?」

「…………三分の二までなら、なんとか」

「簪さんも何言ってるんだよ!? ダメだろ、そういう危険な武器は!」

 

 一夏の意見はもっともである。使用者に問題が生じる武器なんてものは論外な代物であり、武器と言うのすら憚られるだろう。

 ──しかし、今回の場合においては違うのだ。

 

「セシリア・オルコットは代表候補生、腐っても鯛だ。それ相手に普通の手段で勝てるとは思えん」

「だったら、あの凄い速いやつで……」

「それも無理だ。アリーナが狭すぎるし、機体がどれだけ直ってくれるかが予測できない」

「…………はぁー。分かった、止めない。ただし!」

 

 彼は俺にビシッと指差しし、真面目な表情で口を開く。

 

「必ずセシリアに勝ってくれ。そして、俺と戦えるぐらいの無茶に抑えろ」

「……分かった。簪、簡易的でいいからシステムを組んでくれるか」

「えっ……う、うん! 頑張る、よ」

 

 いきなり話を振られたものの、彼女は力強く返事をしてくれたのだった。

 


 

 ブザー音で目が覚める。脳に襲い掛かる熱と痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がり、試合結果を見る。

 ビットは無事だったオルコットは予備パーツで機体を修復して出撃。一夏の方は最終調整を試合中に終わらせて一次移行(ファースト・シフト)

 その勢いで全部のビットを破壊し、ついでにミサイルも捌きながらオルコットを追い詰め──しかし、前半の無理が祟って無念の敗北。

 

(……とはいえ、代表候補生相手に初心者がこれまで戦えたのは賞賛に値するな)

 

 プロとアマチュア、なんてレベルの違いではない。例えるならベテラン軍人VS武器を一切使ったことのない一般人ぐらいの戦いだったのだ。

 親友の大立ち回りを喜びながら武装を確認。山嵐は弾切れ、轟天──命名は簪だ──も残弾が4割程度。使ってない武装が2つあるとはいえ、才能の塊(一夏)と戦うには正直心許ない。

 しかし、弱音を吐いている暇などないのだ。買っておいたゼリー飲料をスポドリで流し込みながら、俺は次の戦いへの覚悟を決めるのだった。




 容量の大小が性能に直結しそうに見えるが、実際のところクソデカ容量でも武装の好みが終わってるコアだったりするので簡単な話ではない。(例:爆発物しかインストールさせてくれない)

 ちなみに主人公機のコアも意外とスキモノだったり…………?
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