IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
鉄也より一足早くアリーナに出た俺は、先ほどの試合で変化した白式の状態を改めて確認していた。
最初の工業的な凸凹は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが増えたことで中世の騎士のような姿に。動作は寸分の遅れもなく、俺のイメージ通りに動いてくれる。
そしてなにより変わったのは武器で──『
「待たせたな、一夏」
「……早いな」
Aピットのカタパルトから黒い巨体……ニカンドラが飛んできた。それはピタッと目の前で止まり、静かにこちらを見つめてくる。
武器を何一つ構えていないその姿は、しかし圧倒的な威圧感を放つ。
「先ほどの試合はよくやった。ミサイルにはどう気付いた?」
「……お前が例のいっぱい撃つやつを使う前に、セシリアは既にビビってた。多分、
「…………なるほど、そういう考え方もあるのか」
自然に顎へと手を添える鉄也。こうして白式を動かしたから分かるが、ああやって生身と変わらない動作をするにはかなりの経験が必要だ。
大量のミサイルで脳を酷使した後でもこれほどの精度を維持するなんて、一体彼は俺の何十……いや、何百倍の時間ISを動かしてきたのだろう。
「ところで一夏、武器はそれだけか?」
「……あぁ、そうだ。ついでにロックオンもできないみたいでな」
「…………
「まじかー……となると、銃積んでも使えない感じか」
話せば話すほど、俺がこいつに勝てるイメージができなくなってくる。
「さて、そろそろ時間か」
「手加減してくれ──なんて言わないぜ? 男同士、真剣勝負で行こうじゃないか」
「…………なら、お望み通りにしてやる」
彼がそう言い終わると同時にブザー音が鳴り、俺は全速力で鉄也の方へと接近する。
近づけばランスも槍も使えない──そう考えた矢先だった。
──警告! 敵ISより熱源感知。回避を提案。
「──っぶねぇ!?」
「これを避けるか!」
ハイパーセンサーの指示に従い慌てて右にブーストした次の瞬間、俺がいた所を巨大な火柱が縦に薙ぎ払ってきた。
拡張された視界に写るニカンドラは取っ手の生えたウイングスラスターのようなものを右に握っており、その先端は赤熱している。
「何を止まっている! まだまだ始まったばかりだ!」
「なっ、このっ、くっ!!」
例のスラスター──検索、一致する武装無し。仮称『バーナーウイング』と設定──を左側にも展開し、鉄也はそれを何度も振り下ろしてくる。
どうにか全身で食らわずにはいられているものの、掠った装甲やアリーナの地面が黒焦げになっているのが嫌でも視界に入って来て、どんどん恐怖が肥大化していく。
「逃げるばかりでは勝てんぞ! これぐらいの攻撃、くぐり抜けて見せろ!」
「無茶言うなよお前!? 初心者だぞ!」
「だからどうしたぁ! この先、嫌でも俺とお前は戦わされるんだ! こんなものは余興にすぎん!」
ヘッドギアのせいで一切相手の表情を伺えないが、声色からして普段よりも遥かに興奮しているのは分かる。
しかし、だからといって油断や隙が生じるなんてことはなく、鉄也の攻撃は刻一刻と俺を敗北に追い詰めてきた。
「いいか一夏!
「そこまで、言う、なら……!」
シールドエネルギーの残量が半分を割った瞬間、俺は覚悟を決めて目を閉じる。今までの炎刃の軌跡をイメージし──その中に僅かばかりの隙間があることに気付く。
そして目を開き、迫りくる火柱に汗を蒸発させられながらもどうにか接近。間合いに入った俺は振り下ろした刀で二つのバーナーウイングを切り裂くことができた。
「──ははっ、流石、流石だ一夏!」
「お褒めの言葉をありがとう、なぁ!」
返す刀で機体の方へと切りかかるが、鉄也はランスを
そのまま穂先を回転させて雪片を跳ね上げ、空っぽになった俺の胴体に弾丸を打ち込んできた。
「があぁ!?」
「詰めが甘い! お前にはブレードしかないんだ、一切の隙を与えず削り切れ! その為の手段もあるだろう!!」
「くっ……!」
手段──雪片に備えられた
確かにこれなら通常のバリアを無効化して強制的に絶対防御──大量のシールドエネルギーを代償に極めて強固なバリアを生み出すISの機能の一つ──を発動させて、逆転勝ちすることも出来る。
しかし…………先のセシリアとの試合ではこれを使ってすぐに負けてしまった。恐らくだが、この能力は絶対防御のようにエネルギーを消費するもので、なんならそれよりも燃費が悪い可能性が高い。
「俺が、千冬姉のものなんて──」
「違うな! それはブリュンヒルデのものでも、武器のものでも、ましてやISのものでもない!
「────っ!!」
鉄也の言葉にハッとさせられる。そうだ、この機体も武器も俺専用じゃないか。だったらなんで、恐れる必要があるんだ。
空中で静止していた俺に対して彼は槍を構えて突っ込んでくる。さっきまでの俺なら避けていたが──ギリギリのところで柄を左手で掴み、無理やり右肩へとねじ込む。
「なにっ!?」
「これで、決まりだぁーっ!」
雪片が鎬を軸に真っ二つに割れ、そこから青白い光が迸る。それを黒い装甲に押し付ければ相手のエネルギーがガリガリと削れていく。
「うおおおおおお!!」
「──見事。だがな」
興奮に差し込まれた声で、見えないはずの鉄也の顔が笑っているように感じた。
嫌な感覚に従って上を見れば、人が使うぐらいのサイズのライフルが宙に浮いてて、こちらに銃口を向けている。
「脳波コントロールって便利だよな、一夏」
「まさか!?」
聞き返した瞬間、独りでに引き金が引かれて発砲音が鳴り響く。反動でクルクルと宙を舞うライフルとは対照的に、放たれた弾丸は真っ直ぐとこちらに飛んでくる。
それが俺の首筋へと触れるのと、試合終了のブザー音が鳴るのは同時だった。
『試合終了。両選手が同時にエネルギーを失ったため──勝者、無し』
気づけば雪片は光を失っており、元の刀へと戻っている。
観客席の方ではざわめきが広がっていて、予想だにしない結果に全員が困惑しているようだ。
「1敗1分け、か……悔しいな」
「…………すまんな。負けてはやれんかった」
「いや、いいよ。……ちなみに実戦だったらどうなったと思う?」
「そうだな………………俺もお前も死んでるのは間違いない」
「なんだよそれ」
ヘッドギア越しにそう返事をしてくる鉄也。相変わらずぶっきらぼうなやつである。
結局勝てずじまい…………だけど、悔しさ以上に嬉しさを俺は感じることができたのだった。
・バーナーウイング
ISのウイングスラスターを改造した火炎放射器。出力を調整することで広範囲を焼き払うだけではなく、炎の刃を形成して焼き切ることもできる。
…………実は第一話で亡国機業のIS操縦者が使っていた武装である