IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
翌朝。普段よりちょっと遅く起きて食堂に向かうと、珍しい組み合わせのテーブルを見つけた。
鉄也とのほほんさんは同室だし、簪さん──この人も苗字で呼ばれたくないらしい──は彼の幼なじみのような人だ。
しかし、そこにセシリアが混ざっているのはなんだか不思議に思える。
「一夏、何を呆けてている。さっさとこっちに来い」
「あ、すまんすまん」
注文を終えて俺を待っていた箒に呼ばれ席に着く。そしてこの一週間で既にお気に入りとなった和食メニューを食べ始める。
「やっぱうまいよなー、ここのご飯。しかも栄養満点だしさ」
「……そうだな。菓子類を頼まなければ財布も痛まん」
「…………デザートかー」
言わずもがなだが、この食堂はデザートも格別に美味しい。それこそ高級なスイーツ店に引けを取らないレベルで、目の前の剣道少女を除けば大半の生徒が毎回注文しているほどだ。
しかし、メインの食事が毎日一定金額まで頼み放題なのに対して、デザートは別料金だし結構高い。
「確か、半年分のフリーパスだっけ? クラス対抗戦の優勝賞品」
「ああ。私も無料であれば頼むつもりなのだから、他の同級生は尚更欲しがるだろうな」
「なるほどー。クラス代表は責任重大なんだろうなー」
鮭をほぐしながらそう呟く。多分、その立場に選ばれるのはセシリアだろう。
鉄也はこういう責任を嫌がる質で、中学生の時はどの部活や委員会でも基本的に無役職を選んでいたのだ。今回ものらりくらりと避ける光景が容易に想像できる。
「……悔しくないのか、一夏」
「そりゃ悔しいさ。けど、あの二人が相応しいのは事実だろ?」
「それは、そうだが…………」
何故かむすっとした表情になる箒。やっぱり女子ってのはよく分からないな、なんて思いながら俺は朝食を平らげるのだった。
「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繫がりでいい感じですね!」
(…………あれ?)
朝のSHR。山田先生は嬉々としてよく分からないことを喋り、クラスの女子たちも大いに盛り上がっている。困惑した表情をしているのは俺だけだった。
「先生、質問です」
「はい、織斑くん!」
「…………俺、昨日の試合どれも勝ってませんよね? なんでクラス代表になってるんですか?」
「それは──」
彼女が説明をしようとした瞬間、セシリアが勢い良く立ち上がって
「それはわたくしが辞退したからですわ!」
「……あと、俺がお前を推薦したからだ」
「なるほど──ってなるかー!」
とんでもないことを言い放った二人に思わずツッコミを入れる。
なんでセシリアは胸を張っているし妙に機嫌がいいんだ。あと鉄也はなんで明後日の方向を向いているんだ。
「まず最初に、一夏が……セシリア・オルコットに負けたのは仕方のないことだ。むしろ、代表候補生相手に三十分近く戦えただけで上出来と言える」
「それに、
「あー……どうも、ありがとう?」
二人は褒めてくれてるようだが、どうにも釈然としない。どれだけ言いつくろうと、俺は彼らに勝てずじまいだったのだ。
…………ん? 今、彼女が俺のことを名前で呼んだような?
「そのIS操縦の才能を、たった二度の敗北で腐らせるなんてもってのほかですわ」
「クラス代表になれば戦う機会は山ほどある。しっかり自分の糧にして成長しろ」
「────あー、うん。だけどさ、もし対抗戦で負けたらどうすんだ? フリーパスとかさ?」
俺一人の問題なら二人の主張を受け入れてもいいだろう。だが、今回の場合はクラス全体に関わる重要な行事の結果を左右するような選択だ。
これなら彼らも考え直してくれると思った。しかし──
「いやー、やっぱりここは一夏くんの方がいいんじゃないかなー?」
「三乃川君より専用機もかっこいいしさ!」
「私たちは貴重な経験を積める。他のクラスの子たちに一夏くんの情報を売ってから、三乃川君のもついでに売れる。一石三鳥だね!!」
商売をしようとするな商売を。勝手に個人の情報を売るな。あとニカンドラは普通にロマンがあってかっこいいだろ。
「そ、それでですわね。わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間が──」
「俺とオルコットでお前を鍛えるつもりだ。問題ない」
「──そう、鉄也さんと
「ま、待て!」
バンと机を叩く音が響く。立ち上がったのは箒だった。
「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が
「……そうか。だが、お前は専用機を持っていない。一年生への貸出しは数日後からだ。その隙間はどう埋める」
「そ、それは……」
鉄也にじーっと睨まれて彼女はタジタジになる。目付きの悪い者同士、仲良くして欲しいのだが。
「それに、篠ノ之さんはランクCでしてよ。こういうのはAのわたくしが──」
「そこまでだ、馬鹿者」
ずーっと傍観していた千冬姉が箒とセシリアの元へと歩いていき、出席簿で頭をはたいた。こうして見る側になると、本当に痛そうである。
座っていた鉄也のことは無視して彼女は檀上に上り口を開く。
「お前たちのランクなどゴミだ。あれは単なる下馬評に過ぎん。織斑がBで三乃川がA+だからといって、私からすればどれも平等にひよっこだ」
「それは、そうですが……」
「流石はIS適性S、言葉の重みが違う」
流石の代表候補生も千冬姉に言われては反論の余地がないらしい。
ちなみに、IS適性というのはどれだけ機体を動かせるかの指標だ。Bは歩行や飛行に支障が出ない程度、Aは生身で出来る大体のことがISでも出来るぐらい。
Sになるともはや生身以上に自由な挙動が行えるとかなんとか。
「いかなる肩書があろうと一から学んでもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、私の管轄時間では自重しろ」
きりっとした表情で言い放つ。にしても、まさか千冬姉が職場ではここまでしっかりとしていたとは。
家に帰る度に服を脱ぎ捨てて俺に洗濯させるし、晩酌を始めれば一人で缶ビールを何本も空にする。挙句の果てには俺に作らせた
健康診断は今のところ問題ないとはいえ、あんなに荒れた食事をしていると色々心配になるのだ。
「……お前、今何か失礼なことを考えているな」
「そんなことはまったくありません」
「ほう」
バシン! さっきの二人のように叩かれる。口にも顔にも出してないのになぜバレたのだろうか。
「お前は色々と分かりやすい。治さないといらん苦労をするぞ。あと──」
千冬姉は俺の後ろの方に移動すると、右斜め上を眺めていた鉄也に出席簿を縦で振り下ろした。物凄く痛そうである。
「……なんですか、織斑先生」
「授業中はセンサーを切れ。何も無くてもクラスメイトの顔と名前を一致できるようにしろ」
「…………了解」
彼は不服そうな表情を浮かべながら、こめかみにある
その一部始終を見届けた千冬姉はため息をつく。
「はぁ……。それで、クラス代表は織斑一夏。異存はないな」
「「はーい!!」」
俺を除くクラス全員から賛成の返事が上がった。……まだ納得できてないが、後でなんとかなるだろう。
右腕の
しばらく一夏の育成回になる予定。簪も出るよ。