IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
4月下旬、桜の花びらがようやく全て散った頃。俺たちは放課後の隙間時間を使って一夏の訓練を行っていた。
彼の才能は想像以上であり、今日の授業で失敗した急下降を既に物にしているほどだ。
「これで決まり──」
「甘い」
「ぐわーっ!?」
……だが、問題は専用機にある。倉持技研が簪の機体を放って作り上げたという割には、その出来はお世辞にもいいものではなかった。
大型のウイングスラスターによって生み出される加速力と、それを乗せた雪片の一撃は零落白夜を使わずとも凄まじい威力。しかし、それ1本で勝負を出来るかと言われれば、正直厳しい。
相手に接近すれば相対速度の関係で射撃が脅威になるし、その軌道も直線的すぎる。
「くそっ……どうすりゃいいんだよ、これ」
「練習あるのみですわよ、一夏さん。基礎を修めなければ派生技能も扱えませんもの」
「そうだな。……せめて訓練機が使えれば」
地面からこちらを見つめる箒を眺めながら呟く。IS適性こそ高くはないものの、彼女の生身の技量は学園内でも上位に入る。
そしてなにより一夏と同じ道場で鎬を削った間柄なのだ。この二人で斬りあえれば、俺やオルコットと戦うより近接に関しては上達が早くなるだろう。
「おーい、お前らー! さっさと降りてこーい!」
「そ、そろそろ、エネルギー補給、だよ……」
「……そうみたいだな。休憩にするぞ」
「分かった」
「了解ですわ」
三人で着陸し、簪の整備室で組み立てた供給ハンガーにISを接続する。
待機形態にすれば時間経過で回復するとはいえ、この時期だと一分一秒が惜しい。そのために作った装置である。
「……にしても、鉄也さんは凄いですわね。ISを乗りこなすだけでなく、こんなものまで」
「おお、そうだな。中学の図工とか凄かったんだよ。鋸で木を切るのとかめっちゃ上手かったしさ」
「…………あと、武器も、だね」
「や、やたら多才だな三乃川は……。逆に何が苦手なんだ?」
変なものを見るような目を箒がこちらに向けてくる。苦手、と言われると──
「国語の筆記問題。文中に答えがあるやつは平気だが、作者の意図を読み取るようなやつは大体半分未満だ」
「「あー……」」
「……へぇー。じゃあ、私の気持ちとか、どう?」
上の方からにゅっと簪が顔を近づけてきた。表情はだいぶにやけており、何か嬉しいことを考えているというのは理解できる。
と、なれば──
「──今日の夕飯が楽しみ、とか?」
「……外れ。だけど、うん、三乃川君、らしい、ね」
「なんだそれ」
訳の分からないことを言いながら彼女は俺の頭を撫でてくる。ISスーツ越しの感触は、それが弱めの拳銃ぐらいなら防げるとは思えないほどに鮮明だ。
「ちょっと簪さん? そこは答えを言うべきではなくて?」
「……細かい女は、もてない、よ」
「あなたが大雑把すぎますのよ! だから部屋があんなに乱れるのですわ!」
「私には、物の場所、分かるから、問題、ない……」
簪とオルコットの間で火花が散っているような幻覚が見える……気がする。代表決定戦の後から二人はずっとこんな調子だ。
理由が分からず首をかしげ、一夏が生暖かい目を向けてくる。
「……いい親友ができたな、鉄也」
「そうか。もう少し仲良くしてくれればいいんだがな」
「お、お前らというやつは…………」
そんな会話を交わしていると、アリーナの入り口からとてとてと本音が歩いてきたのが目に入った。
その手には色々な料理が載せられており、時間を確認するとすでに夕飯のタイミングだった。
「みんな~! ご飯持ってきたよー!」
「ありがとうなー、のほほんさーん!」
「……ふむ。機体もそろそろ充電できたし、飯にするか」
──ところで、ISを操縦するうえで一番重要なことは何だろうか。個人的に、それは『日常の動き』であると俺は考えている。
歩行、挙手、筆記、握手……数え上げればキリがない
そして、その下地を作り出すのに最も効果的なのが──
「た、食べにくい……!」
「力加減が難しいですわー!?」
「……そんなにか」
──ISを装着したまま食事をすることである。繊細な力加減、各部の細かな移動、角度調整。戦闘において重要な要素が山ほどつまっている行動だ
…………思いついた原因が、一人暮らしの時に鍋から袋麵を移すのが面倒だからそのままISで持って食べた、なんてズボラの極みなのは秘密である。
「これを続ければISと生身で生じる移動距離のギャップを把握できるからな」
「なるほど…………っていや、普通に難しすぎないかこれ!?」
「まあ、そうだな。目標は食器同士をぶつけずに食べれるようになるぐらいだな」
「い、言われてみれば、鉄也さんの方は凄い静かですわね……」
二人の方は箸やらフォークやらがずーっとカチャカチャ鳴らしているが、これはIS
山田先生の言葉を借りれば、ISは操縦者と相互理解を行い、本来の性能を発揮できるように成長していく。
しかし、現在の彼ら──あるいは彼女ら──は戦闘だけ行わされている事例が多い。これでは日常動作を学ぶなんて夢のまた夢だ。
「お前たちの纏っている
「それに関しては同意でしてよ。わたくしのブルー・ティアーズ、実はエネルギー武器以外をインストールしてくれないのですわ」
「えぇ……ってあれ? じゃあ、あのナイフは?」
「インターセプターのことですの? 実はこれ──」
オルコットは食事を一旦どかし、数秒かけて大きめの実体ブレードを出現させる。
その根本の部分が一瞬光ったと思うと、刃の周囲を覆うような青いエネルギーが出現していた。
「このように、ビーム刃を形成可能なのですわ!」
「かっけえ!」
「おおー……なんか、ロマン、ある、ね」
一夏と簪が目を光らせて大喜びする。色々と因縁のある二人だが、意外と趣味嗜好は似通っているのだ。
特にこういう多機能な──彼らに言わせればロマンのある──武器は大好物らしい。
「……そういや、ニカンドラってどうなんだ?」
「確かにそうだな。容量の大きいコアほど癖が強いと聞くが」
「……まあ、その通りだ。こいつは
「「「普通の武器?」」」
4人の声が重なる。頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるような様子なので、詳しい説明を始めた。
「打鉄の
「……って、こと、は?」
「ニカンドラはある程度の改造をした武器か、変なコンセプトのやつが好みってことだ。正直、面倒ではある」
俺の手先が器用になったのはこれが原因と言っても過言ではないだろう。どうにかAKを持たせようとして試行錯誤した過程なんて、つい昨日のように思い出せる。
「まあ、この点に関しては俺たちじゃどうしようもない領域の話だからな。上手く付き合うしかない」
「なるほどなー。……白式ってどんな癖があると思う?」
「さあ。近接オンリーだったら大変そうだけどな」
「縁起でもないこと言わないでくれよ!?」
ビシッとツッコミを入れてくる一夏。この具合なら、対抗戦までにいくつかの技能を学ばせられるかもしれない。
そんなことを考えながら食事を終え、俺たちは再び訓練を再開するのだった。
夜。まだ暖かな4月の夜風に吹かれながら、私はIS学園の正面ゲート前に立っていた。
生活道具を詰め込んだボストンバッグを肩に掛け、上着のポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出す。
「本校舎一回総合事務受付──って、肝心の場所が書いてないじゃない」
全くあのハゲジジイめ。連れてきたと思ったら自分だけすぐにとんぼ返りしやがって。せめて受付まで案内したっていいのに。
しかも、学園からの出迎えも無しときた。いくらなんでも15歳の少女に対して不適切ではないだろうか。
「あーもう、探せばいいんでしょ探せば!」
このままうだうだ悩んでいても何も解決しない。『思考より行動』というモットーに従って適当に歩き出す。
きっと、あのいけ好かない赤毛のチビだったらこんな私に対して、いつも通りの無愛想な顔と声色で「お前は馬鹿か」なんて言ってくるに違いない。
…………にしても、あいつと一夏がISを動かせるなんてとんでもない偶然もあったものだ。そのせいであたしに白羽の矢が立って、この学園に放り込まれたのだから。
(あー、面倒くさいなー。もう空飛んで探せば……)
思い浮かんだそれを一瞬『名案』だと考えるが、ここで教師をやっている
そうやってああでもないこうでもないと歩き続けているうちに、アリーナの後ろに総合事務受付を見つけた。
(やっぱり! 考えるより動けば大体なんとかなるのよね!)
モットーの正しさを再確認しながら受付にいき、愛想のいい事務員とやり取りをする。
「ええと、それじゃあ手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、
「ありがとうございます。ところでなんですけど、織斑一夏って何組ですか?」
「ああ、例の男子? もう1人と一緒に1組よ。凰さんは2組だから、お隣ね。そうそう、あの子クラス代表になったんですって。やっぱり織斑先生の弟さんは凄いのね」
噂好きは女の性とはいうが、ここまでベラベラ喋ると流石に引き気味だ。
そんな気持ちをどうにか心の内にしまい込んで、あたしは質問を続ける。
「2組のクラス代表って、もう決まってますか?」
「決まってるけど……何か気になることでも?」
「
そう喋るあたしの表情は、きっと狩りをする直前の虎のように獰猛なものに違いなかっただろう。
・ISの学習
待機形態を身に着けて日常生活を送っても十分成長するが、展開状態で行った方が効率はよくなる。主人公は食事以外では機械工作にてISを防護服代わりに使用していたので、器用さが異常なまでに高まっている。
鈴ちゃん、12話ぶりに登場となりました。ただ、本格的な活躍は少し後になるかも。