IS オーバーホライゾン   作:湿度70%

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 会話回
 少しギスギスするかも


第二十三話 少年の疑問

「織斑くん、三乃川くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

 朝。昨晩10時過ぎまで食堂を貸し切って開かれた『織斑一夏クラス代表就任パーティー』での精神的な疲労が取れず、席でぐったりしているタイミングで話しかけられた。

 

「転校生? 今の時期に?」

「妙な話だな。転入だと条件が入学より厳しくなるはずだが」

 

 鉄也の言う通通り、入学なら試験料を支払えば試験を受けることが可能なのに対して、転入の方は国の推薦がないと出来ないようになっている。ということはつまり──

 

「そうそう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「中国……大国だが、フランスやドイツと比べると出回っている情報が少ないな」

「ふーん」

 

 代表候補生っていうからには強いのだろう。もしかしたら、その子がクラス代表になって対抗戦で戦うことになるかもしれない。

 より一層訓練を頑張る必要がありそうだ。

 

「ライバル出現かぁ……」

「そうですわね。ですが、今日から訓練機の貸出が開始しますから、篠ノ之さんと戦えましてよ」

「既に申請はしてある。ビシバシ鍛えてやるからな、一夏」

「はは、お手柔らかに頼むぜ……」

 

 セシリアと箒が鼻息を荒くしながらそう口にする。たまに訓練の方向性で口論になるものの、まあまあ関係は良好だ。

 

「でもでも、今のところ専用機持ってるのって1組と4組だけだし、あっちは未完成らしいよ?」

「そうなのー? じゃあもう私たちの優勝みたいなものじゃん!」

「フリーパスがもらえたら、全部のデザートを一気に頼んでみたいなー!」

 

 やいのやいのと楽しそうな女子一同。なんだかフラグっぽいので少し不安になる。

 

「──その情報、古いよ」

 

 そして案の定だ。教室の入り口から声が聞こえてきた。──ってあれ、なんか聞き覚えのあるような……。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

「──鈴? お前、鈴か?」

 

 腕を組み、片膝を立てて扉にもたれかかるツインテールの少女。同年代より小柄な彼女は、その背丈に見合わぬ好戦的な雰囲気を纏っている。

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

「……何恰好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

「んなっ!? なんてこと言うのよアンタ!」

 

 気取った喋り方から馴染み深い口調に戻った。やっぱり鈴はこのちょっぴり荒めな感じがしっくりくる。

 

「……というか、代表の仕事はできるのか、凰? ろくに()()してないようだが」

「へぇ、言うようになったわね三乃川。そういうアンタもチビのまんまね」

 

 鉄也に話しかけられた彼女は彼の元まで歩いていき、意趣返しとばかりに煽る。懐かしいやり取りだが、剣吞さが跳ね上がりクラスメイトが引いてるほどだ。

 

「おい」

「なによ!?」

「邪魔するな」

「──ふんっ!」

 

 バシィッ!! 炸裂音が二度響く。我らが鬼教官こと千冬姉の登場である。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、邪魔だ」

「す、すみません……」

 

 すごすごとドアから出て行く鈴。なんでか知らないが、彼女は昔から千冬姉が苦手なようなのだ。

 

「また後で来るからね! 逃げないで──」

「おい」

「は、はい!」

 

 捨て台詞を中断されながら二組へ向かって猛ダッシュ。うん、昔のままだな。

 

「っていうかあいつ、操縦者だったのか。初めて知った」

「……一年で専用機を持てるものなのか?」

「お前に分からないら俺もだよ……」

 

 なんとなく鉄也と言葉を交わす。……それがまずかった。

 

「……い、一夏、今のは誰だ? 知り合いか? 随分と親しそうだったなぁ?」

「て、鉄也さん!? あの子とはどういう関係で──」

 

 その他、クラスメイトからの質問集中砲火。──そして当然ながら、彼女たちは一秒と立たずに千冬姉の出席簿の痛みを味わう羽目になったのだった。

 


 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ」

「いや自業自得だろ」

 

 昼休み、開口一番箒とオルコットが俺と一夏に文句を言ってきた。午前中まともに授業へ集中できなかった二人は、織斑先生に追加で3回叩かれている。

 

「「ぐぬぬ……」」

「ま、まあまあ落ち着けって。とりあえず学食行こうぜ」

「む……お前が言うなら、いいだろう」

「そ、そうですわね。今日はどのような食事ができるのか楽しみですわ」

 

 一夏は上手いこと彼女らを丸め込み、そのまま流れで学食へと向かった。俺もそれに付いて行き、途中で簪と合流する。

 

「三乃川君、噂の女の子と、知り合い、なの……?」

「そうだ。元々は一夏の友人の一人でな、あいつ経由で繋がった関係だ」

「ふーん……どんな、子、かな?」

「良くも悪くも馬鹿というか何というか…………正直、あいつが転入試験に合格できたことが信じられん」

 

 あいつは決して学業の成績が壊滅的だったわけではないが、それでも精々学年で上の中ぐらいだったはずだ。

 この学園に入学している大体の生徒たちが出身校内で上から10番以内だったらしいので、そこを踏まえると凰の入学は疑問が多い。

 

「──なぁ、簪。あいつは1年ちょっと前に中国に引っ越したんだ。そこから今日までの間に、専用機を持てるものなのか?」

「うーん……第三世代なら、ありえる、かもね。発展途上、だから…………イメージインターフェースの、適性がある、とか、かな」

「…………うーむ」

 

 オルコットも似た経緯でブルー・ティアーズを手に入れたと聞いたが、そこに至るまで2年間の下積みがあったらしい。

 考えれば考えるほどドツボにハマっていく。ここは一旦切り替えるべきだろう。

 

「なに、食べ、る……?」

「牛丼定食の特盛。そっちは」

「かき揚げうどん……へへ、いつもの、だね」

「そうだな」

 

 券売機にスマホをかざしてプラスチックの食券を購入。カードサイズのそれをカウンターの機械に読み込ませると、数分と経たずに食事が提供される。

 そのまま席に移動──しようとしたタイミングで一つのテーブルが目に入った。一夏たち3人に加えて凰がいる席だ。

 

「……」

「あの、三乃川、君?」

「簪。あっちに行ってもいいか?」

「あ…………う、うん。大丈夫、だよ」

 

 同意を得た俺は人混みを縫うようにそこまで移動し声をかける。

 

「邪魔していいか」

「邪魔するなら帰りなさい」

「おいおい鈴、そりゃねえだろ。座っていいぜ」

 

 一夏の言葉に甘えてテーブルに加わらせてもらう。彼は日替わりランチで箒とオルコットはそれぞれきつねうどんと洋食。残る凰はラーメンだった。

 

「ったく、狭くなったわね……」

「そ、その、ごめんなさ……」

「ああいや、あんたは大丈夫──ってデカっ! 何食ったらそこまでになるの? あと三乃川の知り合い?」

「あ、えっと、その……」

 

 相変わらず人と距離を詰めるのが早いやつだ。俺が初めて中学校に登校した時もこんなやり取りをした気がする。

 

「私は、更識簪、で……三乃川君とは、その、6年前からの……」

「へー。ってことは、(あの黒髪)と一夏みたいな幼なじみ?」

「あ、いや、そこまで深い仲じゃ……どう、思う?」

「なぜ俺に振る。まあ、そうだな……一夏と同じぐらいの親友ってところだ」

 

 抱いている印象を正直に答えると、凰は表情を(しか)めた。

 

「あー……あんたも苦労してるのね、簪」

「へっ? ……あ、その、そういう関係じゃ……」

「…………驚いたな。ここまで仲良くなるとは」

「まあ、鈴だしな」

 

 焼き鯖と白米を飲み込んだ一夏がそう口にする。俺も彼に倣って牛丼を食べ始める。

 男性操縦者向けとして新しく作られた特盛は米も肉も大量で、しかし食べやすいのでみるみるうちに量が減っていく。

 

「あ、相変わらずふざけた食事速度だなお前は……」

「アスリートは食べるのも仕事のうち、とは言いますが……」

「あー、三乃川って昔からめっちゃ食うのよ。その癖チビのまんまなんだけど」

「……そういうお前は食べないから背が伸びないんじゃないのか」

 

 きっとラーメンも時間をかけ過ぎて麵がでろでろになっているだろう。そう思って凰の方を見ると──

 

「ふぅ、ごちそうさま」

「はやっ!? 鈴、お前そんなに早く食べれたっけ!?」

「昔のあたしとは違うのよ…………色々とね」

 

 (どんぶり)の中は文字通りの空っぽになっており、その上彼女は全く苦しそうな素振りを見せていない。

 

「あ、そうだ。一夏、確かアンタ、クラス代表なんだって?」

「お、おう。成り行きでな。ぶっちゃけセシリアか鉄也の方が適任だとは思うんだが……」

「ふーん。なら、私が面倒見て──」

「その必要はない!!」

 

 机を強く揺らしながら箒が立ち上がり、怒りを込めた視線で凰を睨み付ける。

 

「一夏に教えるのは私……たちの役目だ。何より最初に頼まれたのは、()だ」

「それに、あなたは2組でしょう? 敵の施しを受けるつもりはありませんわ」

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

「あ、その、あんまり……」

 

 女子三人の一夏を巡る言い争いと、それに困惑する簪。流石に止めに入った方がいいだろう。

 定食を食べ終えた俺は冷水を飲み干し、一呼吸置いてから口を開いた。

 

「凰、残念だがお前の提案には乗れない。一夏の訓練は俺も行っている」

「……あんたが?」

「これでもクラス代表決定戦ではオルコットに勝たせてもらったんでな」

「…………へぇ。その試合って動画とかある?」

「申請をすれば見れると副担任が言っていた。場所はここだ」

 

 スマホに学園の地図を映し出し、現在地から試合動画を閲覧可能な図書室までの道筋を書き込んで彼女に見せる。

 凰はそれを食い入るように見つめると、さっと席を立つ。

 

「んじゃ、それ確認してくる。また後でね、一夏」

「お、おう……」

「ば、ばいばい……」

 

 そのまま片付けに向かっていく彼女を見送り、残った俺たちは微妙な雰囲気になっていた。

 

「全く、なんなんだあの女は!」

「悪く思わないでくれよ、箒。ちょっとあいつ、自分のこと優先しがちだからさ」

「ですが、傍若無人にもほどがありましてよ。あんなのが代表候補生に選ばれるなんて、数だけは多い国なのに層が薄いのかしら」

「流石に言い過ぎだ、オルコット」

 

 貴族という出自故に品性に厳しい彼女を窘めながら、口にした内容にヒントを感じ取る。

 凰とは中学からの付き合いなので忘れていたが、今のあいつは中国のIS操縦者だ。もしかしたら、彼女の諸々の変化には国が絡んでいるのかもしれない。

 

「あの、みんな。そろそろ、織斑先生が、来るころ……」

「あっ、やべぇ!」

「俺は食い終わってるから先に行ってるぞ」

「待て! 待ってくれー!!」

 

 周囲を気にせず叫ぶ一夏を尻目に食堂を後にする。情報収集するなら……やはりあいつだろう。

 手段に当てをつけた俺は、ひとまず教室へと向かうのだった。




・試合動画
 IS学園で行われた全ての公式(又はそれに準ずる形式の)試合はアラスカ条約の基に保存され、然るべき手続きを経た上で全生徒が閲覧可能になっている。
 単純な動画ではなく場面ごとのシールドエネルギーの推移なども記録されているため、資料としての価値は極めて高い。

 次回、朴念仁炸裂
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