IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
「はああああっ!」
「うおおっ!」
夕焼けの中に火花が混じる。互いに刀を何度も交え、鍔迫り合いになって顔を近づける。
「少しは勘を取り戻してきたようだな!」
「褒めてくれるついでにもう少し手加減してくないか!?」
「それは無理な相談……だっ!」
一瞬力を抜くことで俺の姿勢を崩した箒が追撃とばかりに袈裟斬りを放つ。
それに対してウイングスラスターを前方に吹かすことで回避。空振りで隙を晒した所に反撃の小手をお見舞いする。
「ぐぅっ!?」
「まだまだぁ!!」
彼女が乗っている打鉄は防御力こそあるものの、腰部の大型スラスターが固定されているので後ろへの移動が苦手だ。
これが地上での戦いなら上手いこと下がれるのだろうが、今の戦場は空中。俺は勢いに乗って連撃をしかけていく。
「うおりゃあー!」
「くっ、この……っ、その手があったか!」
絶対防御を狙って雪片を上段に振り上げた瞬間、何かを聞いた箒の手に青い粒子が集まり形を作る。
そして出来上がった銃──アサルトライフル『焔備』──を片手で構え、こちらに弾丸を叩き込んできた。
「うわっ!?」
「ぬかったな一夏! お前と違ってこっちは武装が複数ある!」
「…………教えたの俺だけどなー」
「言うな!」
地上からオープンチャンネルで鉄也が発言する。恐らくあいつが彼女にプライベートの方でアドバイスをしたに違いない。
「さぁ、どうする一夏! このまま負け──」
「ぜああっ!」
一閃。箒の勝ち誇った表情が変わるよりも早く、銃が半ばから真っ二つになって地面へと落ちる。
それから少し遅れて、彼女は怒鳴り声を上げた。
「な、なにをしてくれたのだお前ぇ!」
「いや、間合いで隙晒してんだから斬っていいものかと……」
「これは学園の備品なのだぞ!? 貸出の際に武器の損傷は始末書ものだから気を付けろと──」
「──そこまでですわ! 二人とも、一旦休憩にしますわよ」
セシリアが大声で割って入り、それに従って俺たちは地面へと降りる。
供給ハンガーに白式を接続して離脱し、大きく深呼吸をして緊張をほぐす。
「き、きれいに、両断、だね……」
「な、なぁオルコット。これは直せるか?」
「……機関部を壊されてますわね。残念ですけど、廃棄しかできませんことよ」
「そ、そんな…………」
箒がこの世の終わりみたいな表情で膝をつく。簪さんとセシリアが肩を叩いて慰めるが、鉄也が空気を読まずに追い打ちをかけた。
「箒、銃を構えたまま停止するのは愚策だ。一夏のように斬ってくるやつはそうそういないが、代わりに蜂の巣にされる」
「…………うぅ」
「打鉄で後退するのもあまり良くはない。むしろ装甲と重量を活かしてタックルをしかければ活路が開ける」
「……そ、そんなことができるのか?」
思いつかなかった手段を教えられ、少しだけ表情が明るくなった。それを知ってか知らずか、彼は解説を続ける。
「あとは盾の活用だ。防御しながら武器を変えれば意表を突くことは容易い」
「な、なるほど。他には何かあるか?」
「そうだな……徒手での攻撃は避けろ。打鉄はマニピュレータへの依存度が高いからな」
「殴るなということか? うーむ、勝手が違いすぎるな……」
箒は完全に調子が戻ったようで、武道家として色々と考えているようだ。
そんな中、セシリアも会話に入ってくる。
「わたくしからもいくつか。まず、格闘戦の動作は見事でしたわ。相手が同じ打鉄であれば間違いなく当たっていました」
「そ、そうか」
「ですが、空中機動はあまり上手とは言えませんわね。もっと大きく動くべきですわ」
「そうは言われてもな……どうしても前後以外が苦手なのだ」
彼女は頭をかきながらそう呟いた。前後となると──摺り足だろうか。
なにせ箒は全国大会で優勝するような腕前だ。剣道の動き方が完璧に染み込んでいるに違いない。
「まあ、そこはおいおい身に着ければいいだろう。充電も終わっただろうし、訓練を再開するぞ」
「了解した。……ところでその、銃を貸してはくれないか?」
「いいぞ。ただ、M.O.A.が十以上と精度が悪いからな。一度に三発ずつを意識しておけ」
「……とりあえず、連射は三発までということだな。よし、もう一度戦うぞ一夏!」
「どんだけ楽しみなんだよ…………」
戦いたくてうずうずしている彼女の様子に少し引きながら、俺は再び白式を纏うのだった。
夕食の後、一人きりの部屋で私は溜まっているアニメの録画を消費していた。
内容は主人公のパワーアップ回で、画面の中のヒーローが敵の大技に飲み込まれてヒロインが悲鳴を上げる。
そして次の瞬間、新たな姿と力を得た主人公が現れて苦戦してたはずの相手を一方敵に圧倒していく。
「……やっぱり、いい」
ISのせいで一時期は存続が危ぶまれたジャンルだったけど、根強いファンとそれに応えた制作のおかでて今も人気を博している。
しかも、ISに影響されて様々な分野で技術が発展したおかげで今までにないアクションも可能になったのだ。
「……そこ。って違う、もっとこう、腰を捻って……」
言葉が届くはずなどないのについつい喋ってしまう。同室がいないおかげでちょっと声が大きくても大丈夫なのは地味にありがたい。
そして、ヒーローが強化された必殺技で敵を倒し、ヒロインや他の仲間といくらか言葉を交わしたところでエンディングに入る。
しっかり聞こうと耳を澄ました瞬間──廊下の方から大きな音が鳴り響いたせいでリモコンを落としてしまい、テレビの電源が切れてしまう。
「あっ、いいとこ、だったのに……」
普段だったらそのまま付け直すけど、せっかくの盛り上がる回だ。文句を言おうと思ってドアを開けるとそこには……。
「……ふぁ、凰、さん?」
「…………簪?」
ボストンバッグを担ぎ、涙をぼろぼろ流している彼女。
流石に放っておくわけには行かなくて、そのまま部屋へと上げる。
「あ、その、ほら、お水……」
「…………んぐっ」
たまに遊びに来る本音のためのコップに注いだ水を一気に飲み干す彼女。
涙は一応止まったようだが、顔が酷いことになっているのでハンカチで拭いてあげる。
「……ありがと。優しいのね、あんた」
「へへ、これぐらい、しか、出来ないし」
本音だったらジョークとかで場を和ませるぐらいはできるだろうが、私にその手のセンスは皆無だ。
「それで、なにが、あったの?」
「……昔、一夏と約束してたの。あたしの料理の腕が上がったら、毎日酢豚を食べさせてあげるって」
「酢豚? …………あ、もしかして。味噌汁の代わり、みたいな──」
「わざわざ言わないでよ! ……恥ずかしいから、変えたのに」
しょんぼりとしてしまう凰さん。にしても毎日手料理か……作るのが大変そうだし、レパートリーが少ないと関係がこじれそうで結構大変そうだ。
「それでさ。あいつ、約束をちゃんと覚えてなくてさ。『毎日おごってくれる』なんて言いやがったのい」
「…………うわぁ」
「ほんと、最低……」
膝に顔を埋めて呟く彼女。これはいくらなんでも織斑が悪い。確かに凰さんの喩えは分かりにくいものだったけど、それを察してあげるぐらいはしてもいいだろう。幼なじみなら尚更である。
「……そういやさ。あんたと三乃川、結構仲いいわよね」
「そう、かな?」
「傍から見りゃ親友以上よ。何かきっかけとかあったの?」
そんな質問を彼女は投げかけてきた。どう答えればいいか少し悩み、意を決して口を開く。
「────三乃川君は、私のヒーロー、なんだ」
「……へ?」
「昔、悪い人たちに、誘拐、されて。その時、三乃川君が、助けて、くれて……」
「…………なるほど」
なんだか懐かしいことを思い出すような雰囲気の凰さん。そのまま彼女は言葉を続ける。
「あたしも似た感じかな。引っ越したばかりで日本語が下手な時、虐めてきた奴らをあいつがぶっ飛ばしてくれたんだ」
「……織斑が? そんなに、暴力的じゃ、ないけど」
「今はね。その後聞いた話だと、昔はかなりやんちゃだったらしくてさ。骨折られたやつもいたんだって」
「そ、そんなに……」
あの平和ボケしたのっぽが、いつも三乃川君たちに訓練でボコボコにされてるあの男が、そういう過去だったとは。
「ああ、そうだ。あと一つ聞きたいんだけどさ」
「なに、かな? なんでも、いい、よ」
「ありがと。それじゃ──」
凰さんの目の色が変わったと思った瞬間、私はベッドに押し倒されていた。
彼女の揃えられた指先がお腹にぐりっと押し当てられ、同時に間近まで顔を近づけてくる。
「──
「…………え?」
そう聞いてくる彼女の目には悲しみも喜びもなく、ただただ虚ろな色をしているのだった。
次回、会長が知ったらブチギレそうなお話