IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
クラス対抗戦回です。
クラス対抗戦当日。この前の凰の言葉に従って四組に代役として試合に出ることを提案したら、あれよあれよという間に事が進んでその通りになってしまった。
1年生の専用機持ちが実質的に全員参加ということで学園全体がお祭りムード。試合の順番も変更となり、1組VS2組の前座として俺と3組の代表が戦う羽目に。
「……うーむ」
その試合はついさっき終えたのだが……まあ、その。かなりひどいものだった。
相手はまだ初心者らしく打鉄に乗ってたのでとにかく距離を詰めて攻撃し続けた結果、心が折れてしまったのか途中でギブアップを宣言。
解説役の二年生──確か一夏のパーティーの時に来てたような──は予想外の状況に困惑。そんな彼女からマイクを奪った織斑先生が「このまま続けても三乃川が勝つ」と言い放ったことで、不完全燃焼な終わり方をしてしまったわけだ。
「容赦ないわね、あんた」
「……凰か」
Bピットに戻ると、次の一夏との試合に備えて準備をする彼女がいた。既にISスーツへ身を包んでいるが、それでもやはり出るところは無い感じだ。
「なんか失礼なこと考えてるわね?」
「……まさか。調子はどうだ?」
「バッチリよ。この1週間、あの馬鹿を叩き潰すことだけを考えてたんだもの」
「そうか。……まあ、なんだ。健闘を祈る」
「ありがと。あんたもちゃんと備えておくことね。あたしと戦うんだから」
そう言い放ちながら彼女はカタパルトまで移動し、派手な桃色の専用機を展開しながらアリーナへと飛び出す。
それを見届けた俺はISを解除しリアルタイムモニターへと目を向けた。
「……なるほど、そういう挙動か」
画面の中では白式と甲龍がぶつかり合い、一旦距離を取ろうとした一夏が見えない何かに撃たれて地面へと落ちる。
その正体は例の衝撃砲──空間をPICに近い機構で生み出した重力で圧して砲身を形成、その反作用で砲身内にたまった衝撃を放つという代物だ。
この武器の恐ろしい点は砲身と弾が不可視なことに加え、その制御の容易さだろう。
(第3世代兵装の弱点とされる意識の分散、それをほぼ起こしていない。かなりの効率化が図られているな)
しかも、砲身は肩部の大型
また、一夏の視線の動きからしてハイパーセンサーで発射タイミングを探っているみたいが、シンプルなので撃たれてから分かる感じで遅れているのだろう。
「……頑張れ」
思わず漏れ出たその言葉がどちらに向けてのものなのか、俺にも分からない。
2人はひたすらに競い合い続け、いつの間にか衝撃砲の命中率が下がり始める。それに気づいた凰は近接格闘へと切り替え、異形の青龍刀──大型ブレード『双天牙月』──を連結させてバトンのように回しながら接近。
大太刀と両刃剣による熾烈な打ち合いに挟まるように左腕の小型衝撃砲が発射されるが、一夏はそれを蹴り上げて空振りに。
「追い抜かれるのも、時間の問題かもな……」
──そんなことを呟いた瞬間の出来事だった。
唐突にモニターが砂嵐を起こしピット内の明かりが消える。即座に予備電源へと移り変わり電気が復旧すると同時に、スピーカーから大音量の放送が流れ始めた。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! これは訓練ではない! 繰り返す、これは訓練では──』
「……まずいな」
状況把握のためにドアの方まで移動するが何故か開かない。仕方ないのでISを展開し、向こう側に誰もいないことを確かめてからバーナーウイングをコール。
高収束モードで超合金製の分厚いドアを溶断し、4mぐらいの穴をくり抜いてどうにか脱出する。観客席への廊下を歩いていくと、そこにはシャッターの前でパソコンと睨めっこする生徒たち──リボンの色からして3年生──がいた。
「何があった」
「誰──ってああ、例の二人目! アリーナの全てのドアがロックされて、しかも遮断シールドがレベル4にまで引き上げられてるの!」
「まずいな。カウンターハックは既にしているようだが、進捗は?」
「……正直、良くないわ。見たこともないプログラムだから手探り状態よ」
指示役らしい彼女の言う通り、実行班の表情は芳しくない。このままではいつ状況を打破できるか分からないだろう。
「……どいてくれ。俺がやる」
「ちょっ!? やるって、私たち整備課のプログラム担当部門でも──」
「ソフトがだめなら、ハードから干渉する」
シャッターに近づき、ハイパーセンサーで観客席側の生徒の数を把握。その中には簪と本音も含まれていて、思わず拳を握ってしまう。
「観客組、聞こえるか! こちらは三乃川! 一旦そこから離れてくれ!」
「……った、……んな、……れて!」
オープンでの呼びかけは上手いこと通じたようで、壁の近くからシルエットが消え去った。
それを確認した瞬間、俺はあるものをコール。並みのISの上半身ほどの大きさのそれは、連ねた刃を回転させながらうなり声を上げ始める。
「ちぇ、チェーンソー!? なによそのサイズ!?」
「はぁぁぁっ!」
一際震えが大きくなった瞬間にシャッターへと突き刺し、大量の火花を散らしながらそれを削り切っていく。かつてこれを食らわせられた時は危うく胴体を持ってかれかけたが、使う側になると頼もしい限りだ。
こううして数十秒かけて巨大な穴を作り上げると、そこから観客たちが雪崩のように流れ込んできた。
「うおっと……気を付けろ! 押すな、走るな、喋るな! 返事をしたら蹴とばすぞ!」
「いや蹴っちゃだめだよ!?」
指示役の3年生のツッコミが脚部に命中するが、シールドを張るまでもないと判断されたのだから全くダメージはない。むしろ彼女が叩いた手をもう片方で抑え込む始末だ。
そんな漫才じみたやり取りをしている間に避難は完了したようで、ハッカー班も遮断シールドの解析が進みつつあった。
『三乃川、聞こえるか』
『……織斑先生。事態の詳細を』
『アリーナに正体不明の機体が乱入。現在は織斑と凰が対処し、こちらは突入班を組織し──』
『生徒にテロリストの対処をさせるだと? マニュアルを血で書き足す羽目になるぞ!』
プライベート・チャンネルへの通信に対して思わず叫ぶ。甲龍は効率重視の機体だからいいとして、問題は白式だ。
大推力を実現したせいでその燃費はとても良好とは言えず、そこに零落白夜も加わるのでもはや劣悪以外の何ものでもない。
「…………先輩方、シールドの操作が可能になるまであとどれぐらいかかる」
「15──いや、10分で終わらせるわ!」
「わかった」
そう言い残してBピットに向かう。そのままカタパルトのシャッターを溶断し始めた瞬間、また通信が入ってきた。
『三乃川くん!? 何をしているんですか!』
『俺も参加する。こういうのには慣れている』
『慣れているって……敵は競技規約違反の兵装を持っていましてよ!?』
『その声は……オルコットか。この程度じゃ友人を見捨てられんさ』
通信を切断すると同時にシャッターもこじ開けられ、俺は五つのスラスターを全開にしてアリーナへと飛び出した。
「鉄也!?」
「三乃川ぁ!?」
「やあ。少し手助けをさせてもらうぞ」
二人と一機の間に割り込み、件の敵をハイパーセンサーの精密解析にかける。
見た目はかなりの異形であり、巨大な副腕はつま先よりも下まで長い。全体の質感はやたらとマットで装甲材質はデータベース上に無い何か。
そして何より、人間の目をでたらめに貼り付けたような頭部パーツが生理的な嫌悪感を搔き立ててくる。
「……鉄也。あいつの動き、なんだか機械じみてるんだ」
「何言ってるのよ一夏? ISは機械じゃない」
「いや、そういうことじゃなくて──」
「────無人機と言いたいのか?」
俺がそう訪ねると彼は首を縦に振った。隙だらけなやり取りだが、例の機体はこちらを観察するように距離を取り続けている。
「
「本当にそうか? お前のISの武器みたいに、作れるけどそれを隠してるって可能性もあるんじゃないか」
「…………仮に、仮にだ、一夏。アレが無人機だとして、どうするつもりだ?」
「
自信に満ちた表情でそんなことを言うが、確かそれは簪曰く『失敗フラグ』というやつだった気がする。
それを思い出してヘッドギアの下で顔をしかめる俺とは対照的に、凰の方はノリノリで不敵な笑みすら浮かべているほどだ。
「へえ。そこまで言うなら、無人機として攻めようかしら。絶対あり得ないけどね」
「……仮に
「「それで、どうしたらいい?」」
「やっぱり、お前らってたまに息ぴったりだよな。それじゃ──」
一夏が説明をしようとした瞬間、俺たち全員にISから緊急通告が出される。『迅速な回避の必要あり』という文言に従い慌ててその場から離れると、アリーナが大きく揺れた直後に先ほどまでいた場所へ何かが降ってきたのだ。
上方を確認してみると遮断シールドにこぶし大の穴が開いており、その真下には大量の三角形で構成された奇妙なオブジェクトが突き刺さっていた。
「なんだ、あれ?」
「攻撃……にしては小さいわね。道路のポールぐらいじゃん」
「気を付けろ。新手かもしれん」
推定無人機もその杭を警戒しているのか、長腕を構えて赤い光──甚大な熱量を検知。ビーム兵器の可能性大──を灯す。
そんな緊迫感の中、オブジェクトに変化が起きた。三角部分が続々と開き始め、そこから赤い粒子が大量に流れ出てくる。
それらは2つに分かれて巨大なシルエットを形作り、物質化。産み落とされたのは乱入ISよりも奇妙な機械だった。
「脚が、四つ?」
「頭デッカ……なんか尻尾みたいなの付いてない?」
「…………武装は少なそうだな」
どこか生物的な趣もある薄汚れた白色のそいつらは、大小二つのセンサーを赤く光らせると同時に咆哮。それぞれ俺たちと無人機を真正面に捉え、大きく跳躍してきた。
「うおおお!?」
「はっや!?」
「くっ……!」
質量に物を言わせたボディプレスを避けて俺はアサルトライフル、凰は衝撃砲で攻撃をしかける。
それは巨大な頭部へと向かっていき──すぐ手前で青白い板に弾かれた。もう片方の機械は無人ISのビームを食らっていたが、これも同じものに阻まれる。
「シールド!? それもISレベルの!?」
「…………一夏、作戦はどうなりそうだ?」
「いや無理だって! こんなのどうすりゃいいんだよ!!」
「さあな……」
軍事的なペイントの施されたそいつ──仮称『コラプター』──から距離を取って対策を練っていたが、それが致命的な遅れを生んだと気づいたのはすぐ後だった。
「……っ!? 一夏、三乃川、なんかやばい!」
「何言って──」
振り返った俺の目に入ったのは、コラプターの頭部から生えた蠍の尾のようなマニピュレータに頭部を掴まれる無人機の姿。
ISの方は細いそれを破壊しようと何度も攻撃するが、シールドに阻まれて傷一つ付かない。そして次の瞬間、マニピュレータから赤黒い何かが迸り無人機へと注ぎ込まれたのだ。
「──!! ────!?」
「……苦しんでいる、のか?」
まるで無理やり毒を飲まされているかのように藻掻くが、その手足に段々と黒いケーブルが巻き付くにつれて大人しくなる。
そしてほぼ全身を覆われた後に開放されたISはしばらく呆然とし──いきなりこちらを向いたと思いきや、各部を振り回しながら凄まじい勢いで襲いかかってくるのであった。
・コラプター
突如として現れた巨大な機械兵器。ISのように量子化からの展開、強固なシールドを備えている。
何やら(推定)無人機に干渉したようで……?
次回、三対三