IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
(どうするどうするどうする!?)
さっきまでとは別物のように暴れる無人ISとそれを引き起こした2体の
シールドエネルギーの残量は五十手前まで減っており、もし1発でも被弾しようものなら即座に機体が解除されてしまうだろう。
無人機が腕を振り回してでたらめにビームをまき散らすのを巧みに避けつつ、鈴がオープンチャットで叫んだ。
「ああもう、なんなのよあいつら! 攻撃がちっとも通らないっておかしいでしょ!?」
「轟天もまるで効果が無いな。となると、後は……」
「…………分かってる」
ニカンドラのツインアイがこちらをじーっと見つめ、言外に「零落白夜を使え」とにおわせてくる。
しかし、相手が無人機だけならまだしも追加の化け物もいるのだ。
「
「はぁ!? あれを1週間で!? ……ってああ、そっか。あんたは千冬さんの弟だったわね」
「あまり関係ないとは思うがな。それで、どうだ」
「……」
鉄也と以前刃を交えた時、彼は『やれると思え』というISに乗る上での思考を教えてくれた。そのおかげで上手いこと成長できてはいるが──
最初の考えでは瞬時加速の原理──スラスターから放出したエネルギーを一度取り込んで圧縮、再度放出することでの爆発的加速──を逆手に取り、エネルギーを外部から……甲龍の衝撃砲から得ようとしていた。
しかし、それで伸びるのはあくまで加速度のみ。距離はほんの少ししか変化しないことを千冬姉に教えこまれている。
(せめてもう少し雪片が長ければ、あるいは────)
「…………っ! 一夏、避けて!!」
「えっ──」
鈴の言葉で思考の沼から掬い上げられた瞬間、3体の敵が俺目掛けて襲い掛かっているのがやけにスローで見えた。
考えてみれば俺は無人機に対して既に零落白夜を使っているのだから、彼らが真っ先に白式を狙ってくるのは当然だ。
(あ、俺……)
全身を飲み込むような熱線が、装甲を貫く速さのスパイクが、アリーナの壁を容易く砕くグレネードが──紛れもない『死』が近づいてくる。
(逃げなきゃ──どうやって? 瞬時加速──前方だけなのに? いっそ前に──三途の川を渡るのが早まるだけでは?)
機体は動かないし、動けない。
脳が考えることを放棄しようとしたその時──目の前に黒が現れた。
「っ、てつ──」
3文字目は間に合わず光と炎と針が親友へと襲い掛かる。その勢いはすさまじく、比例するように俺の中から絶望が湧き出ていく。
「あ、あぁ……」
「三乃川ぁ──っ!!」
鈴の言葉に呼応するように数多の目がこちらを捉え、「次はお前たちだ」と武器を構えてくる。
…………無理だ。俺たちが、子供なんかが敵う相手ではない。先生たちが助けに来てくれるのだから、それに任せればいいじゃないか。
そんな言い訳ばかりが浮かび、刀が手から滑り落ちそうになる。
「──待ちやがれ、くず鉄ども」
「……え?」
にじり寄ってきていた機械たちが足を止め、声の方向へと振り向く。その先では、黒焦げでズタボロのヒトガタが各部を引きずるように動いていた。
(どうして、あれだけの攻撃を受けたのに──)
俺が抱いた疑問は、そいつが視界から消えると同時にコラプターが上空へ吹き飛んだことで解決された。
黒の中から現れた無骨な灰色の腕がそれを起こしたのは明白で、残りの2機にも襲い掛かる。
「
突き出される蠍の尾のようなマニピュレータを同じく灰色の脚が蹴り飛ばし、続けて振り下ろされた手刀によって切り落とされた。
「だが、もはや必要ない。死に近づいて救えるものが増えるなら、喜んで捨ててやる」
巨腕を赤熱させた無人機がコマのように回転して接近するが、小さな手で止められる。
その反動で黒が完全に消え去り、曇天を思わせる小さな灰色が姿を現した。一切の肌色を見せないそれの頭部には、
「鉄也、それ……」
「第一、世代……!」
「──『フィサリス』、行くぞ」
──偽装用
狭苦しい被り物を脱ぎ捨てた相棒は喜んでいるのか、各部のハードポイントから紫電を漏らす。
手首を回して掌を開閉──いつものルーティンはずっと早く、俺の意思に寸分の遅れを取らずに行われた。
「凰、一夏。
「……はぁ!? ちょっと待ちなさいよ! そんな数秒で──」
「こいつのハイパーセンサーは優秀
「…………もしかして、ニカンドラの顔パーツはリミッターだったのか?」
一夏の質問に首を縦に振って返す。相手の装甲特性やエネルギーバイパスの経路といった情報は役立つが、放射線量やら固有振動数を教えられても困る。
この部分のプログラムについては簪すらお手上げだったため、普段は余分な情報を取得しないように物理的な制限を掛けていたわけだ。
「……えーっと、熱に弱い?」
「ああ。どうやら例の暴走機能を使うための演算装置が繊細らしくてな。排熱装置が内蔵されていてその部分が──」
「喋ってる場合じゃない! 来るわよ!」
凰の鶴の一声で俺たちは散開。叩き込まれた攻撃の嵐を避けることに成功した。
「とにかく、炙ってやれば即効だ! 使え!」
「うわっと!?」
バーナーウィングを展開して一夏に投げ渡しつつ、マニピュレータが残ってる方のコラプターのそれを掴んで振り回し片割れにぶつけてやる。
その一撃が決め手になったようで両者のシールドが崩壊。二人にそいつらを任せた俺は、相変わらずでたらめな暴れ方で突っ込んでくる無人機の方へ向かう。
「────! ────!」
「本当にふざけた火力だな! だが、当たらなければ問題ない!」
ハイパーセンサーから流れ込む情報濁流によるハイテンションは軽口を叩かせ、それと同時に高精度かつ迅速な移動を可能とする。
コマのように突っ込んで離れる動きに対して先回りし、使い慣れた槍で軸としている脚部を薙ぎ払えば無人機は勢いよく地面に倒れ込んで体を埋め込ませた。
「こ、こ、だぁー!!」
まずは轟天を突き刺して回転によるシールド削り。そこに合わせて対IS弾を三マガジン分叩きこみ、ダメ押しとばかりにチェーンソーを押し当てる。
「ぜああああっ!!」
「吹き飛びやがれぇ!!」
一夏は排熱口から直接機関部を刺し貫き、鈴は四門の最大出力衝撃砲を打ち込むことでそれぞれコラプターを撃破。
これで残るは無人機だけ。そんな矢先に通信が入る。
『皆さん、お待たせしましたわ!』
「この声は……セシリア!」
『先輩方によって遮断シールドの解析が完了し、わたくしによる援護が可能となりましたの!』
「…………8分24秒、上出来だ」
観客席を見ればビットが展開されており、獲物を撃ち抜くことを今か今かと待ち望んでいた。
そして無人機は未だに動きを止めておらず、数本のケーブルだけで繋がっている右腕を引きずりながらも左拳のビーム砲を向けてくる。
「……一夏、エネルギーは」
「四十二──ちょうど一回分だ」
「そうか。なら……やるぞ」
まずはフィサリスの身軽さに物を言わせた急加速で近づき、右腕を完全に切り落とす。
次に凰が青龍刀を投げ、それに衝撃砲を何度も当てて加速。頭部が原型を留めないほどにズタズタに引き裂かれる。
「──オオオッ!」
生み出された隙を縫うかのように一夏が瞬時加速で一秒と経たずに接近。雪片弐型に一回り大きいエネルギー刃を纏わせ胴体を横一文字に両断。
あまりの威力に宙へと吹き飛んだ上半身のど真ん中をブルー・ティアーズ四基から放たれたレーザーが貫き、見るも無残な姿の無人機が地面へと崩れ落ちた。
「……俺たち、勝ったのか?」
「ああ、そうだ」
「いやー、ビビったわよ。まさかISの中からISなんてね」
『そ、それにしてもですわ! 鉄也さん、あんな危険なことはもうしないと約束してくれませんか!?』
「なんで怒り気味なんだ……」
勝利の余韻に浸りながら俺たちも地面へと降り、比較的損傷の少ない一夏が倒したコラプターの残骸を探る。
ハイパーセンサーに写っていた演算装置──五百㎖のペットボトルほどのそれを拾うと、何故かフィサリスと繋がった。
「…………これは、まさか。
「ん、どうしたんだ鉄也?」
「いや、なんでも──」
──敵ISの再起動を確認! 警告! 競技規約に違反する出力を検知!
「「なっ!?」」
頭部すら失い胴体に大穴を空け、無事なのは左腕のみ。そんな有様の無人機がこちらにビームを放とうとしていた。
真っ先に回避が頭をよぎるが……演算装置の存在がその選択を選ばせない。俺は無我夢中でその方向へと加速した。
「鉄也っ!?」
「三乃川!」
『鉄也さん!?』
三人の声を聞きながらチェーンソーと轟天を展開、盾として利用しながら無理矢理近づく。しかし結局はただの武器、両方ともすぐに壊され莫大なエネルギーの奔流に晒される。
「うおおおおお!」
だが、止まらない、止まれない。無意識のうちに地面を強く踏み込んだ俺は、3年前のように音を置き去りにし──演算装置を無人機に叩きつけた瞬間、意識が暗闇の中へと消えていった。
・ニカンドラの正体
とある理由から出自を隠す必要があった
稼働時間が短いのもIS実質2機分のエネルギーを1つのコアで賄っていたことが原因である。
本当の主人公機の詳細は後日に。