IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
今回からモンド・グロッソあたりの時期の話になります
いつも通り朝の6時に目が覚めて、30分ぐらい定跡本を読んで将棋の練習をする。そしてパックご飯と残り物のキャベツ炒めをレンジで温め、ついでにレトルトの味噌汁も作って朝食の完成だ。
「いただきます」
簪と知り合ってから四捨五入すると3年ぐらい経っただろうか。以前は夜にコンビニで弁当を二つ買って片方を翌日に回していたが、今ではこうして軽い料理をする程度にはなった。昨晩よりも柔らかくなったキャベツともやしを咀嚼しながらテレビをつけてニュース番組を見る。
『──以上、○○市のお天気でした。次のニュースは、来月ついに開催される第2回モンド・グロッソについて──』
「……もうそんなに近くなってたか」
『モンド・グロッソ』、イタリア語で「大きな世界」を意味するそれはIS同士での世界大会だ。ISの軍事転用や国家間での取引規制、後は特定国の技術独占を禁じ情報開示を盛り込んだIS運用協定──通称『アラスカ条約』──参加国を中心に行われるこの大会は、現在オリンピックの次か同等ぐらいの人気度を誇るイベントである。
いくらISが女性にしか扱えないとはいえ、見目麗しい美女が洗練された機械の鎧を纏って戦うというのは意外と男性からの人気を博すものらしい。
「……早めに対策を練らないとな」
しかし、ISが試合のために一か所に集まる都合上多くの事件が起きるのも確かで、特にやつら──亡国機業が暗躍するには絶好の機会だ。最低でも有力な操縦者、上振れすれば幹部級が現れるかもしれないと更識が息巻いて準備をする中、俺も足並みを合わせていたのだが……。
「…………だめだな」
新しい武器の設計も機体の改良案も何も思いつかない。こういう時に簪と相談できると打開策が見つかることもあるが、あいにく彼女は学校の行事で一日中拘束されているので会うことはできない。
息抜きに何度か詰将棋をやってみても上手くいかず、俺は完全にドツボにはまっているのだった。
「どうすればいいかね……っと、そうだ」
頭に思い浮かんだのはレゾナンスのゲームセンターとかいう施設だ。なんでも様々なジャンルのゲーム筐体が揃っているとかで、前から興味を持ってはいたがどうにも食指が動かなかった。
しかし、この家にいても何も解決しないことが自明の理である以上、行かないという選択肢はないだろう。俺は外行きの服にパパっと着替えて、ショルダーバッグにスマホと財布と飲み物とその他諸々を突っ込んで扉から飛び出すのだった。
(……うるさいな)
騒音で耳をやられないためにノイキャン付きのワイヤレスイヤホンを装着してやってきたのだが、それすら貫通するとは驚いた。適当な音楽を流すと多少改善されたので、改めて施設内を歩いて回る。
機械のアームで景品を落とすやつ、乗り物を操縦するやつ、音楽に合わせて流れてくる記号に合わせて特定の動きをするやつ──色々種類はあるものの、琴線に触れるものはこれといってない。また本屋にでも行くかと思って出口に向かう中、ある一つの筐体が目に付いた。
(あれは……)
アニメチックにデザインされたIS同士が戦いを繰り広げる──『|IS/VS《インフィニット・ストラトス/ヴァーサス・スカイ》』という対戦ゲームだ。モンド・グロッソの試合データをもとに開発されたというのが売りで、テレビでもCMが流されまくっていた記憶がある。
戦う度に一喜一憂するプレイヤーを眺めながら考える。実を言うと、俺は更識からの仕事ばっかりしていたせいで第1回モンド・グロッソを見れていない。つまり世間一般的なISに関する知識に欠けているとも言えるだろう。
「……よし、物は試しだな」
丁度筐体が一つ空いたのでそこに座り百円玉を入れてゲームを始める。八方向に入力可能なアナログスティックと三個のボタンで操作するシステムで、チュートリアルを終えたらかなり思い通りに動かせるようになった。
まずは対人前の肩慣らしとして対NPCモードを選択すると、バーッと二十一機のISが表示された。どれを選ぶべきか一瞬迷ったが、初心者向けと表示されていたイギリス製の『メイルシュトローム』を選択する。
(さて、最初の相手は……誰だ?)
おそらく国家代表とその専用機が出てきたのだが、記憶にその姿がまるでない。喉に小骨が引っかかったような嫌な感じを覚えながら戦うとあっさり勝利することができ、次のエリアになって敵が出てくる。
(…………いや本当に誰だ??)
その後10回以上は見覚えのない機体と操縦者が出てきて、もしやそれがずっと続くのかと思ったところでやっと見知った顔──というか今使ってるキャラと同じやつが敵になった。
(ここでやっとか……というかもしかしてこのタイミングで出てくるってことはもしかしてメイルシュトロームって──)
弱いのでは、という考えは一瞬にして吹き飛んだ。いきなりの高威力狙撃にどうにか反応して回避すると、すかさず相手はその硬直に低威力の射撃を差し込んできた。
そのままダウンを取られそうになるが特殊コマンドで受け身を取り、攻撃硬直に狙撃のお返しをする──もそれはあっさりと避けられてしまう。
「いや強いな……?」
間違いなく秘めているポテンシャルは凄まじいのだろう。だが、操るのが脳から指先という避けられない『遅延』が存在する人間とそれが存在しないNPCとでは絶対的な差が生じてしまう。となれば……。
(さっきは出せなかったが一応こいつには盾がある。それでとにかく耐えて行動パターンを覚える)
盾ガード、特殊移動、受け身……それを何度も繰り返し続けていると、いつの間にか周囲に人だかりが出来ていることに気づいた。
「なんでメイルがあんなにもつんだ……?」
「俺アレで挑んで秒でハメられてそのまま殺されたんだが」
「暮桜かテンペスタじゃねえとあの狙撃避けれないって言われてなかったかな確か?」
(……うるさい)
途切れかかる集中力を無理やり維持し相手の動きを見極める。どうにか狙撃を掠らせたところに特殊移動で接近し、射撃を叩き込んでダウンした所に銃剣の近接格闘コンボを挟み込む。
大きくダウンした敵のメイルシュトロームは最速で起き上がって狙撃をしてくるが──
「こっちの狙撃が入った!?」
「今の隙何
「多分1か2ぐらい……?」
そう、わずかにこちらの方が入力を許すタイミングが早いのだ。こうして狙撃を当てたことで先ほどの連携が成立し、大ダウン後の復帰にまた狙撃を当てて……と連携が無限に続いていく。
「まじか、人力でハメ技いけるのかよ!」
「いやでも猶予ほぼねえぞこれ。もし途切れたら逆にハメられてそのまま……」
(集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ)
早くても遅くても敗北という極限状態によって周囲の声は聞こえなくなり、画面の中の二機だけがくっきりと見える。そのままハメ技を継続させていきついに──
「……よし」
「か、か……」
「「「勝ちやがったー!!」」」
「うるさっ!?」
やっとの勝利の余韻が背後の爆音にかき消される。そっちをギロリと睨みつけるといたのは男子が三人──赤髪の長髪でバンダナを巻いたやつ、眼鏡のパッとしないやつ、そして他二人より背丈の大きいやつ──だけだった。
「あ、ごめんな。耳大丈夫か?」
「……子供扱いするな。こう見えてもお前らと同年代だぞ俺は」
「「えっ」」
「あー、いや、鈴みたいなもんと考えれば……にしてもその小ささは……」
「小さくて悪かったな」
そうして彼らを適当にあしらい次の敵へと進んでいく。20体目のイタリア製IS『テンペスタ』手前までは先ほどよりも楽で、こいつ自体は移動速度が恐ろしく速いせいで弾が当たらなかったものの軌道を読んで偏差当てからのハメ技でどうにか突破した。
そして最後の敵……モンド・グロッソ総合優勝者、『
「…………」
「いけるか、全操縦者突破……!?」
「おいおい落ち着けよ。ところで君……あー、名前は?」
「後にしろ」
試合開始までのカウントダウンが異様に長く感じ、喉が渇いてくる。手汗をさっと拭いてコントローラーを握り直して数字が0になった瞬間──
「──は?」
「あー……うん、わかるぞその気持ち」
「いくら現実が
「やっぱおかしいよ千冬さんって……」
なんと説明すればいいのだろうか。暮桜が画面から消えてこちらの体力が一瞬でゼロにされて敗北──それが一秒に満たない速度で起きたのだ。
「…………ゲームとして破綻していないかこれ?」
「まあそうだな。だけどこうしとかないとほら、こう……いるだろ、騒ぐやつら?」
「誇らしくはあるが、される側になると理不尽すごいよなほんと」
赤髪と背の高いやつが色々解説をしてくるが、一つ引っかかる言葉があったのでそれについて聞く。
「俺は三乃川。織斑千冬について詳しいみたいだが、お前らは?」
「あー、俺は
「……織斑
「…………おりむら、え、おりむら!?」
「声がデカい!」
眼鏡のやつが慌てて俺の口を塞ぎ、数秒経って落ち着いたところでそれを引っ込める。俺は席から立って凝った体を一旦伸ばしてから改めて3人に話しかけた。
「なるほど、それなら納得だ。とはいえまさか、こんな場所で有名人の親戚と出会えるとは」
「ここいら一帯の遊び場となるとどうしてもここになっちまうからな。俺たちは東の方から来たんだが、ミノカワは?」
「西だから……正反対の方角だな」
「なるほど、道理で見覚えがないわけだ。ところでミノカワ、この後空いてるか?」
「…………いや、用事ができた」
赤髪バンダナの誘いを断ると、彼は残念そうな表情を浮かべた。
「そりゃ残念。一夏にダチを増やしてやれるいい機会だったのにな」
「誰の友達が少ないって!?」
「俺と数馬以外に遊べるダチいないだろお前。多いにゃ越したことないだろ」
「いいや俺にだって一人や二人──」
途中から三人の世界に入ったのを見計らってそそくさとその場を立ち去る。思っていたのとはかなり違ったが確かな収穫が得られたと言えるだろう。
俺はゲームの最後の場面を思い浮かべながら、今後の課題について思案を続けるのだった。
・メイルシュトローム
イギリス製のISの一体。機動力と射撃が売りの機体で、第一回大会ではヒット&アウェイで猛威を振るった。準々々決勝で暮桜と戦ったものの、最初の射撃より前に一発で斬り倒されるという世紀の瞬殺が行われたことで敗北した。
原作だと第二回版のIS/VSを一夏たちが遊んでいたけど多分第一回準拠のバージョンもあったと考えて生やしてみた。というか二十一カ国参加って多い……多くない?