IS オーバーホライゾン   作:湿度70%

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 今回は少し短め。


第六話 拙速は巧遅に勝る

 真っ暗な飛行機の客室で不意に目が覚める。時計を確認するとまだ到着はだいぶ先のようで、毛布をかぶり直しても一向に眠気がこない。

 

「……こいつが使えたらな」

 

 こめかみのアクセサリー──俺のISの待機形態に触れながら呟く。色々と他の機体とは違う代物だが、一番厄介な問題として稼働時間が()()()()()というのがあるのだ。

 モンド・グロッソ等の公式試合で適用されるレギュレーション下において、標準的な機体はおおよそ4、5時間の連続稼働が可能とされている。それに対してこいつは節約しながらでやっと一時間、全力戦闘を行えば十分を割ることもざらなレベルで燃費が悪い。

 障害物をシールドで壊しながら突破なんて芸当もほぼ不可能だし、日本から海外に飛んで行くなんてもってのほかだ。

 だから普通の任務でも極力使わないようにしているし、簪を助けた時なんて彼女を地面に降ろしたタイミングで具現維持限界(リミット・ダウン)を起こしてしまった。

 

(ないものねだりをしても意味はない。配られたカードで勝負するしかないんだ)

 

 いかに切り札(IS)を温存し、絶対必要な場面でどのようにそれを切るか──一世一代の大任務に向けて考えを巡らす間も、飛行機は静かに飛んでいく。

 


 

 大会前日にドイツへと到着し会場の構造や周囲一帯の構造を再確認してから一夜が明け、地元の安ホテルから出るとそこら中が熱気に溢れていた。

 まだ開催時刻にすらなってないのにアルコールが飛ぶように売れ、男女問わず顔を赤くしたやつらが多い。その合間を縫って予定していた路地裏まで歩いていき、更識の一人と合流する。

 

「よお三乃川、ちゃんと眠ったか?」

「あんたは……例の運転手か。名前は?」

「……相変わらずだなおい。まあそんなことは置いといて確認だが、今日明日の俺とお前は『知り合いの息子を連れた旅行者』ってことになる。カバーは頑張るが、少しはそっちも合わせてくれよ?」

「了解。それ以外には」

「後はまあ──」

 

 任務に関する情報を交換し俺たちは会場へと向けて足を進めていく。『更識』の約三分の一が参加しているということもあり、人混みの中にちらほらと水色の髪が紛れているのが見て取れる。

 幸いなことにスリや詐欺といったハプニングを起こすことなく目的地にたどり着いて、アリーナから一番遠い席へと案内された。

 

「ここからなら周囲が一望できる。お前のそれ(IS)なら向かいの観客の表情だって分かるんだろ?」

「……出来なくはない。もう少し集中できるならな」

 

 俺は鼻をつまみながらそう答える。先ほどの人混みも臭いが凄まじかったがこの場所はその比ではない。汗、食事、香水、清涼剤──その他様々な物から由来した臭いが混ざり合い、風下のこちらに流れてくる。

 

「確かに嫌と言えば嫌だが……犬並みの嗅覚もこういう時は足を引っ張るんだな」

「全くだ。これなら鼻栓でも用意しておけばよかった」

 

 そんな軽口を交わしながら観客の様子に目を光らせる。しかしほぼ全員が試合に夢中なせいで不審な動きをする人間はおらず、アリーナ外でも同様の報告ばかりで一日が終わった。

 そして翌日の準決勝までもそんな感じであったが……ここにきて問題の気配が生じる。アクセサリーに触れてハイパーセンサーを限定発動させ遠くを見てみると、黒髪の少年が更識っぽい容姿の人間についていく所だった。見覚えのある少年に頭をひねり──そして思い出す。

 

「織斑一夏……」

「……おい待て、いま織斑って言ったか今?」

「そうだ。この前偶然出くわしてな。……腰まで長髪の更識っているか?」

「いや、長くても肩より少し下だから……偽物だな」

 

 二人でぼそぼそと会話をしながら移動を開始した。国家代表の親族に不審な輩が近づいているのは流石に見過ごせない。人混みを搔き分けながら反対側まで移動してセンサーで確認するも、彼の存在は見当たらない。

 

「くそっ、逃げられたか!」

「手慣れてるな。もしかするとアレは──っ!?」

 

 背後から殺気が飛んできて反射的に飛びのくと、先ほどまで頭があった場所を弾丸が通り抜けていった。意識を即座に切り替えて拡張領域(バススロット)から煙玉を取り出し地面に叩きつける。

 

「見えな──」

「ふん!」

「しゃおらぁ!」

 

 こちらに合わせた運転手の殴りと俺による下からの飛び膝蹴りが襲撃者──どうやら男性──に命中し、倒れたそいつを彼が抑え込む傍らで槍を呼び出して首筋に突き付ける。

 

「所属と目的を言え。命だけは助けてやる」

「だ、誰が……」

「銃を使えないのにその態度か。わからせてやれ、三乃川」

「了解」

 

 くるっと回転させて峰を叩きつけ────ようとした瞬間にスマホから着信音が鳴り響き、タイミングの悪さに舌打ちしながら通知を確認した。

 

「……やられたな」

「どうした三乃川、何か問題が──」

()()()()()()()()()()()()()()()

「………………マジかよ」

 

 運転手は予想外といった表情を浮かべるがすぐさま元の顔に戻り、抑え込んだ男への尋問を再開する。

 

「さて前者は解決したわけだ。目的の方はどうなんだ、ええ?」

「…………」

「利き手が分からんが、まあ左でいいか。ズバッと一撃──」

「わ、分かったからやめてくれ! 織斑千冬の優勝の妨害、これでいいよな!?」

「いいや足りねえ。なんでわざわざこんな手段を取る? 機体に細工とかでもいいだろ」

 

 極めた関節に対して更に力がかけられるも、亡国の男はただただ暴れるだけだ。

 

「そ、そんなこと! 俺は知らな……」

「今は必要ない。……織斑千冬の弟はどこに連れていかれた」

「た、確か場所は──」

 

 男が口にした住所をスマホで調べると郊外の廃工場であることが分かった。その情報を更識の方に流し、俺は彼に槍を叩きつけた。

 

「がっ!?」

「おい三乃川、まだ聞くことあるんだが?」

「後でいいだろ。例の場所に行く方が先だ」

「……ま、それもそうか。にしてもまた誘拐とは、同じやつが計画でもしてるんかね」

「さあな。誰であろうと亡国なら潰すだけだ」

 

 そこで会話を切り上げた後、俺たちは他の更識と合流して男から情報を引き出すことを任せる。そして運転手の車に乗り込み、織斑一夏のいる場所へと向かったのだった。




 会場でのドンパチは想定してなかったので『運転手』は銃を持ってない。主人公は小柄なので強力な銃を使えないため持ってない。そんな感じ。
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