IS オーバーホライゾン 作:湿度70%
『縮地』と呼ばれる技法を知っているだろうか。地面を蹴るのではなく重心移動させることによって初動の隙を消し、より素早く動くというものである。
織斑千冬の超加速の正体に当たりをつけて
ISは象徴的な機構である
なので縮地を行うことはできたが──重量がほぼ零であることからそこまで速くはならなかった。試しに自分の体重程度の重量に調整したら対人で使える程度の速度にはなったが、それでも感覚を強化されるIS同士での戦いでは有効とは言えないだろう。
そこで頭を捻って考え出したのが──
(
名付けるならば『加重縮地』とでもいったところだろうか。少しでもタイミングを間違えれば自重による機体、または身体の破壊という絶大なリスクを伴うそれを試す度胸は今まで無く、机上の空論止まりであった。しかし──
「──しゃおらぁ!!」
「ぐわぁー!?」
イメージを固めて使用したそれは見事に成功し、本来の数十倍の重量からほぼ零への変化の帳尻合わせによる爆発的な加速が起きる。それによって暮桜へと急接近、見事一撃を浴びせることができた。
そしてその成功は自信の裏付けとなり──
「なるほど、これは……いい気分、だっ!」
「な、はやっ、見えなっ」
PICの補助込みですら全身に凄まじい負荷がかかるものの、今はそれすら心地良い。地面の上でなければ使えない加重縮地も
「こんな感覚、味わってたなんて、あんたは
「何を、言って──」
「今ならあんたと、
アドレナリンやら何やらが溢れ出ているような全能感、それに従うままに
「織斑千冬、受けてみろ! これが俺の──」
全力だ──そんな言葉を発するはずの喉は、
(なんで、まだ稼働時間には猶予が──)
疑問を浮かべた脳がフル回転してすぐに答えをはじき出す。
つまるところ、加重縮地はISのエネルギーを大量に消費する技であったわけだ。慣性から守る鎧が消えた今、そのツケが一気に俺の体に襲い掛かる。
「がっ、ぎっ、あっ!?」
筋肉という筋肉が引きちぎれ骨という骨が砕け散りそうになるほどの衝撃。そして宙に投げ出された以上、最終的に待つのは地面への落下。
(あ、これ、死──)
迫りくる人生の終わりに対し走馬灯のようなものは浮かばない。あるのはただ、無力感のみ。こうして俺は無様に地面のシミに──
「うおおおおおおー!」
「────ぇ?」
視界に入ったのは、先ほどまでこちらを斬り殺そうとしていた
「…………こど、も? そんな、一夏より、小さ……」
「……ったく、姉弟そろって、失礼だ、なぁ…………」
ざまあみろと心の中で呟きながら、織斑千冬の呆然とした表情を最後に意識を失うのだった。
「……知らない天井だ」
最初に目に入った真っ白なそれの感想を呟きながら、首を動かして周囲を確認する。楕円形のレールに沿ったカーテンで覆われたベッドに俺は寝そべっていて、つまり病院にいるようだ。
「っ!? 目を覚ましたか!?」
「あ~……織斑千冬?」
ベージュ色の厚い布の向こうから彼女がずいっと顔を出してくる。目が若干赤らんでいるので随分と泣いていたのだろう。その後ろの扉の向こうには一夏と運転手がいて、後者だけが部屋に入ってくる。
「全く、無茶しやがったな三乃川」
「……すまん」
「全身が重度の筋断裂、ISは被害甚大。しばらく任務は無理だ」
「…………なるほど、重症だな」
思わずため息を吐く。冷静に考えれば例の欠点には想像の段階で気づけたはずだ。それをミスによる問題と成功率の低さから見逃すなんて、穴があったら入りたいほどに恥ずかしい。
「す、ずまな、がっだ……!」
「謝ることはないさ、織斑千冬。あんたがこいつを受け止めてくれてなきゃ少なくとも手足の一本はダメになってただろうしな」
「そ、ぞうな゛のが……?」
「まあ、そもそも戦わないでよかったって話ではあるんだが……若気の至りってやつで、とりあえずお咎めなしだ」
再び泣き出しそうな織斑千冬をフォローする運転手。そんなやり取りをしばらく続けてから彼はこちらに向き直った。
「さて三乃川。実は今いる場所はドイツ軍のとある施設でな。虎の子の医療用ナノマシンを提供してもらってお前に投与してある」
「…………は?」
「もちろん
「なんで、そこまで……」
起き上がって更識に近づこうとしたが痛みで止まってしまい、そのままベッドに押し戻される。
「お前とあのIS……それを失うことがさっきの二つより日本にダメージをもたらすと判断された。何せお前は世界最強に勝てなかったが、誰よりも長く渡り合うことができたんだ」
「…………」
「分かるか? お前の『価値』はお前自身が考えるよりも遥かに高くなったわけだ」
真面目な口調で説明されるがいまいち実感が湧かない。俺はどこまでいっても更識の使い走りで、そこ止まりの存在のままだと思っていた。それがいきなり価値があるとかなんとか言われたって、とてもじゃないが信じられない。
「自己評価の低さは相変わらずだな。新しい『任務』のためにも早めに治してもらえないと困るぞ」
「新しい任務?」
「……おおそうだ、言い忘れてたな。いくら治療をしたとはいえ以前の身体能力を発揮するには年単位の時間を要するし、それはISについても同じだ」
恐らく、彼が言っているのはISの自己修復機能のことだろうか。
「……で、何をすればいい」
「更識からの説明では『心身を休ませ然るべき成長をすること』。もっと分かりやすく言っちまえば──」
彼はそこでわざとらしい笑顔を浮かべてこちらに顔を近づけ、明るい声でこう言った。
「──中学校生活を楽しめってことだ!」
「…………は??」
・PIC
IS特有のなんだかよく分からないすごい機構の一つ。慣性制御と反重力
力場は基本的に機体表面を覆うように展開されているが、主人公はその形状を弄って平面として形成。それを足場にして加重縮地を発動させた。
織斑千冬が得意な例のアレはこの時点だと彼女以外に成功者がいません。多分一か月後ぐらいにアメリカ代表とイタリア代表が再現するんじゃないかな(適当)