救いの蠱毒   作:ヤン・デ・レェ

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最初の血

レヴィと暮らして四年目、十八歳の誕生日に彼女に銃を贈った。知り合いから買い取ったものだった。精度と頑丈さが売りのカスタム仕様品で、少し趣味が古すぎるかなとも思ったけれど、彼女は喜んでくれた。ほっぺにキスさえしてくれた。やんちゃさんめ。

 

そろそろアメリカを発とうと思う。次はアメリカから遠い場所が好い。温かいと尚良い。なんてったって冬のニューヨークはストーブ費用が馬鹿にならないから。

 

行先はレヴィにも相談するつもりだ。冷めないうちにパーティーの料理を片してしまおう。誕生日の夕飯に用意したターキーには僕もテンションが上がる。デカいは正義だ。…やっぱり食べ物がおいしい所にしようかな?

 

 

 

 

誕生日の次の日、レヴィが初めて人を殺した。

 

相手は、モーテルから出た所で僕を襲おうとした女だった。懐から何かを出そうとしていたところを、すかさず銃を構えたレヴィに撃たれたのだ。小綺麗な女性だったなぁ。弾丸が彼女を貫くごとに花弁が散っていたような気がする、毒を仕込んだ花を渡そうとしたのかな?

 

「襲ってきたから撃った」

 

「危ない所だったんだ」

 

そうレヴィが言うから、多分その通りだったんだろうな。

 

女の死体は酷いもんだった。マガジンが空になるまで、ニ十発近い弾丸が女の体に叩き込まれた。

 

一発は頭に、この時点で女は即死していた。

 

死ぬ直前、レヴィが銃を向けたことに驚いた様子だったけれど…どうしてだろう?鈍い僕には分からなかった。興味もないからすぐに忘れるだろうけど。

 

だが、二発目以降もレヴィは撃ち止まなかった。全てを胴体と頭に叩き込んだ。

 

胸と腹に五発ずつ。残りは改めて頭に撃ち込まれていた。

 

かなり念入りなんだなと感心していると、レヴィは僕の体を突然抱きしめた。

 

「クリスさんッ!無事か?何もされなかったか!?」

 

邪魔で仕方ないと言う、成長した胸をこれでもかと押し付けてくる。不本意な真似をさせてしまっているね…無力な僕を許してくれ。

 

…それにしても長い。ペタペタと全身をまさぐられた。

 

「もうちょっと待ってくれよ?…あっ…悪い、ちょっと窮屈だよな。」

 

うぅ~ん。そこは見なかったことにして欲しいな…流石に気まずいからさ。

 

「いやいやいや!寧ろ、気ぃ遣われる方が寂しいもんだぜ?あたいとクリスさんの仲だろ?もう四年もずっと二人なんだからさ!」

 

うぐぅ…も、もうおしまい!

 

「あぁ…アンタになら…あたいは別に。」

 

ぶつくさ言うなぃ!僕は下ネタNGなの!前から言ってるでしょ!そーんなに僕が好きなら、今日の昼食も隣でみっちりレクチャーしてあげるけど~?

 

「く、食い方のことは言いっこなしだろ?食えりゃぁ、いいじゃんか!」

 

ダメ!ダメダメだよ!レヴィは可愛いんだから、ちゃんと食事もスマートにしなきゃ勿体ない!それに、僕が嫌だ。気になって仕方ないんだから。四年間ずっと言ってるのに治らないんだから…あの男をもう一回殺してやりたいくらいだよ…。

 

「…ぅッ!?」

 

…あぁ、ごめん。ちょっと殺気立っちゃった。あぁ~…言いたかったのはね、君は悪くないからってこと。僕は素敵な人と一緒に居たいんだよ。そのほうが居心地好いでしょ?だから…僕の隣に居るレヴィは、僕が育てるつもりって…それだけだよ。

 

「あの…えぇっと…わりぃ、何でもない。」

 

何で顔が赤いのさ…そんな照れる事は言ってないけど。

 

「いやいや…いぃんだよ、クリスさんは、悪くないから…だから、ほらっ…あぁ~…もうッ!ほら、さっさと飯食いに行こうぜ!!今日は何処にするんだよ?」

 

ふふふ、やっとその気になったね。好い子好い子だ。

 

「こっ、子供扱いすんな!」

 

あぁ、ゴメン。そうだよね、立派なレディだもんな。

 

「な、なんかバカにしてんだろ!」

 

バカにはしてないよー!可愛いじゃんか!レディのレヴィ!

 

「ううううう、うるせーーーー!?」

 

ははは…さて、ジョークはこのくらいにして、今日はピザとか以外でイこう。

 

「え!?なんで、いいじゃんか!そろそろアメリカから出るって言ってただろ?なら残りの間だけでもさぁ!本場の味っていうか…それ。」

 

なんだよ、ソレって。お前さん。ダメだよ?フォークとかお箸とか、使わなくて済むものは暫く我が家のメニューから省かれます!いいね?具体的には僕が気にならなくなるくらいのお行儀の良さを身に着けるまでだよ?

 

「うぐ…はーい。」

 

よろしい。はい、って言えるだけ上等だ。ささ、今日のお昼ご飯を食べるに相応しいイイ感じのお店を探しに行こう!

 

「はーい!」

 

 

 

 

最初の殺人は、女だった。

 

あぁ、忌々しい女だった。

 

あの人の、クリスさんの周りをウロウロと…蛆みたいに、おっとダメダメこんな言葉じゃクリスさんから叱られちまう。

 

不快害虫みたいにもぞもぞと這いずり回っておいででしたので、ちょこっと唆して差し上げましてよっと…。

 

まぁ、そんなトコロだわな。

 

…クククッ、それにしてもまさか撃たれるとは思ってなかったんだろうな。花束何か用意してさ、「私とお付き合いしてください~」ってなことを考えていたのかねぇ…。

 

こいつぁ正しく、ぶあぁ~かっと言って差し上げましてよ!だな。

 

…あたいから、あの人を盗ろうなんざ考えた時点で、手前の命は無くなったも同然なんだ。

 

ちっぽけな、蚤みてーなサイズでも、そう考えた時点でダメなんだ。赦せることと赦せないことがあるんだ。

 

あの人はあたいの全て、なんだ。あの人があたいを造り直してくれたんだよ…手前にわかんのかよ?そのことがよ…。

 

分かんねぇよな?分かんねぇだろ?

 

ならよぉ…手前は手前にお似合いの香水くせぇ男に媚び売ってろよ!あたいとあの人の間に割り込もうとしてんじゃねぇよ!あの人の視界に入るんじゃねぇよ!あの人の思考の隅にだって、手前の居場所なんか無いんだよ!

 

だから…邪魔だから殺してやった。

 

あぁ、でもこれから困ったことになっちまうかもな。あの女、けったいな身分証とホルスターに銃を隠し持ってやがった。こっちからすれば襲って来たから撃ったって言い分に真実味が出て好都合だったけどよ…お仲間に気づかれるようなことがあれば、あの人に迷惑が掛かっちまう。

 

でも…その時はその時だよなぁ?

 

ねぇ、クリスさん。今日のお昼はこの前行ったみたいな、日本食のお店に連れてってよ。あたいは二丁拳銃を使いこなす一流のガンマンだぜ、箸だって同じさ、直ぐ使いこなせるぜ?

 

ねぇ…クリスさん、あたいが下手なまんまなの、どうしてなのか考えたことあるか?

 

ねぇよな…あたいさ、嬉しかったんだよ。お高く留まった連中じゃぁ出来ない、ちょっぴり適当だけど一生懸命教えてくれたお行儀作法のお勉強がさ。アンタがあたいを一人の人間として見てくれてるんだってわかるから。家族って言葉は使わないよ。家族は嫌いだ…でも、一緒に生きていく伴侶としてなら、それなら…いいや、あたいはソレが好い。

 

何時かアンタの前でもお行儀好く出来るようになるからさ、だからその時はアンタの故郷にも連れてってくれよ。あたいをアンタの、もっともっと傍に、ずっと傍に置いてくれよ。

 

な?いいだろ?それまで、必死でここを守り続けるからさ。あたいの居場所を守り続けるから。クリスさんを守るから。

 

だから、あたい以外にそんなふぅに執着しないでいてくれよ?そんなふぅに優しくしないで、いつもみたいに飄々と流しちまえよ?手ぇ出したくなったら、そん時はあたいが独り占めしたいからさ。

 

…絶対に、渡すもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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