開演を今か今かと待ちわびる観客と裏腹に、司会と長官は…突然の、今日の主役の失踪にパニックであった。
イベントは無事エンディングを迎えられるのか。
そしてこの1000日の戦いの日々、超昂戦士たちが貫いた思いとは…?
灼けるような夏も残り僅かとなった、そんなある日の閂市郊外、超満員の陸上競技場。
夕闇をかき消すカクテルライトに包まれ、来場客は誰もがボルテージを上げながら、主役の登場を今か今かと待ちあぐねる。
今日は地域市民への感謝を込めた無料招待イベント、ダイビート設立1000日記念フェス。
公式サイトの申込フォームの最後に添えられた《応募者多数の場合は抽選となります。》の決まり文句に「そんなに応募が来るか?」と苦笑したトキサダだったが、蓋を開ければ申込が殺到。
急遽別会場を手配し、パブリックビューイングまで設ける人気ぶりであった。
………
……
…。
…。
……、
…。
………?
…開演時間はとっくに過ぎ、通り一遍の注意喚起アナウンスはおろか、大型映像掲示板で上映される、間を繋ぐ映像集も5周目のヘビーローテーション。
それでも始まる気配が一向にないことに、観客席の一部がざわめき始める。
…ざわ…ざわざわ…!
「ちょ…長官サン、どうしましょお…?」
アナウンスブースのフェリニが超弱気で、コントロールルームのトキサダに泣きつく。
「…今、全力で探してる。フェリニ、何とかもう10分…いや5分、間を繋いでくれ。」
「ノオオーーーっ!! ルビーさああんっ、どこ行っちゃったんデスかあーーーっ!?」
……
…
かちゃっ。
「…あっ。ねえお嬢さん、どうしたの?」
「…ふえ…?」
「ああ…迷子さんかな? もう大丈夫だよ!
ほら、コレで涙、拭こっか。」
競技場の制限エリア内、今日は封鎖していたはずの役員室。
暗がりの片隅で、オートロックで閉じ込められた女の子がすすり泣いていた。
一緒に来た同級生が「超昂戦士に会いに行こうぜー」と誰からとも無く侵入を始め、引き止めても聞く者は無く…警備に追われて散り散りとなり、この部屋に逃げ込んだあげく脱出不能になってしまった。
(もう…朝まで出られないのかなあ…。)
罪の意識と心細さが募るばかり。
(ダイビートフェスのプラチナチケット、当たったのに…。
エスカルビーに…会えるはずだったのに…。)
そんな彼女を絶望からすくい上げ、優しく抱きしめる少女。
「えぐっ…ぐすっ…。お姉さん…ごめんなさい…!」
(くすっ…)
「いいよ。あなたが無事だったから、それでいいんだ。
泣いてる声が微かに聞こえたんだ。まさかと思ったけど、ホントに閉じ込められてたら大変だって…。
だから…やっぱり探して良かった。」
その穏やかな声に、慈しむ抱擁に、凍るような孤独が優しく溶かされていく。
だっだっだっだっだっ…
「アカリさあーーんっ! アカリさんっ、いませんかーーーっ!?」
「アカリさあんっ! 本番、もう開演時間、とっくに過ぎちゃってますよおおおっ!!」
…さあーー……っ…。
「あっ…しまったああああああっ!!」
(えっ…? アカ…リ…さん?!)
2人はそれぞれ、とんでもないことを失念していた。
迷子を捜し当てた少女は、自分の失踪で超満員の観客を放置プレイしていたことを。
不法侵入のレディは、今日いちばん会いたかった超昂戦士が、自分を救い、そして目の前で血の気を引かせているお姉さんであることを。
「はいいいっ! 園崎アカリ、ここですううっ!
…あっ、この子にもフェス、いい席で見せてあげてくださいっ!
お嬢さん、閉じ込められてたこと、ちゃんとこの人たちに説明してね!」
「は…はいっ…?!」
「わかりましたからっ! 急いでっ! こちらですううーーーっ!!!」
たたたたたっ…!
…はっ。
「あっ…アカリさんっ! このっ、ハンカチ…!」
「いいよっ、あなたにあげるっ!!」
ヒーローは、最後に笑顔で振り向くと、再び駆け出して…
「フラックスプロ-ジョン・ビート・エヴォリューションっ!」
しゃきいい…んっ!
紅い輝星となり、星空へ舞い上がった。
【長官っ! アカリさんを役員室で発見しましたっ! 現在、変身してコンコースから開始位置に向けて飛行中!
そのままオープニングアクトに向かいます!】
《…わかった。後でユーノにこってり絞らせる。》
……
…
ざわ…ざわざわ…
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざ
(ルビーさああああんっ!! もうMCも映像も、もちませえええんっ!!)
「お待たせ、しましたあああああーーーーーっっ!!!」
《【『〔(!!?)〕』】》
盛大な放送事故っぷりに半狂乱のフェリニと、放置プレイに限界オーバーの観衆。
そしてその全てを振り向かせ、星空を見上げさせる…遅刻魔のひと声。
ぱっ。(!!)
競技場ど真ん中の空中にドローンで吊り上げられた、ダミーのフーマン目がけ…
「私とみんなの全部を込めてっ!」
紅い流星群が、煌めきを散りばめて四方八方から敵を貫く。
不格好に宙に浮く黒い矮星に軌道を重ね、さらに高く舞い上がった輝星は…破壊彗星となり、核めがけて突撃する。
「スターバースト・エスカレーションっっっ!!!」
ごおおおおおおおっっ!!! …かっ。
どおおおお……っっ……!!
インパクトの瞬間、競技場のすべての闇が光で塗り替えられる。
オルタナスタインから、ノロイから、人類を救った奇跡の流星群に包まれ…
わあああああああーーーーーーっっ!!!
観客誰もが打ち震えた。
「あまたに輝く星の光が、人を導き悪を討つ!
超昂戦士、エスカルビー・アステライズ!
遅まきながら…ただいま参上っ!!」
パブリックビューイングの観客、同時配信の視聴者…閂市民すべてが待ちわびた、その戦士は。
「…そして…!」《【『〔(……?)〕』】》
ごくっ…。
……
…
「遅くなりましてっ!
ホンっ、トおお~~~にっ!
すみませんでしたああああああああっ!!!」
《【『〔(だああああーーーっ!!?)〕』】》
超・謙虚に、すっぽかしを詫びた。
……
…
その後、無事にフェスのプログラムは進行。
プロスポーツチームのファン感謝デーさながら、超昂戦士とちびっ子の徒競走対決や30人31脚、競技場のフィールド両端を結ぶ大縄跳び、フリスビーVS砲丸のハンデキャップ投てき対決に、月想館女子陸上部との棒高跳VS走高跳対決…。
サイン色紙や職員ユニフォーム、なりきり変身フォーム(JS限定)の抽選会では、超昂戦士が当選者に直接商品を手渡し。
幕間のショートライブではOverBeatとBraveYourHeartの2曲で、観客とダイビートの一人ひとりが…この佳き日に心を一つに重ねた。
……
…
フェスもたけなわ、メインスタンド前。
スポーツの公式戦なら表彰式やヒーローインタビューを行う、いわば晴れ舞台。
今日のフェスでも最大の目玉、閂市民から一番の熱視線を集めるヒーロー戦士・エスカルビーは、そのステージセンターで…
「あのね…ルビー、今日はフェスの主役だって、わかってたはずよね?」
「はい…重々承知しておりました…。」
「司会のフェリニちゃんも、待機席の他の超昂戦士たちも、どれだけ気をもんだか…!」
「返す言葉も、ございません…ううっ。」
トークショーに名を借りた反省会で、オープニング大遅刻の叱責を受けていた。
「ユーノさん。私からもよろしいですか?」
「サファイア…」
説教に割って入ったのは…ルビーの頼れる相棒。
「ルビー…今日はどういう日だ?」
「…ダイビート創立1000日目の、メモリアルデーです…。」
ふっ。
「…ということは、私がルビーと出会って1000日目の記念日でもあるな。
だから、今日の出来事をあまり苦い思い出にはしたくない。」
「…サファイア…!」
聖母の微笑みで恩赦をほのめかすサファイアに、ルビーの表情にも希望が差す。
「だが…何故だろう。
この1000日を振り返ると…ルビー、今日みたいにお前のムチャに振り回された思い出ばかりだ。
ひどい1000日だったと、改めて思い知らされたぞ…!」
「はっ…はうう~~っ!!!」
…ルビーの期待は、無惨に肩透かしを喰らう。
「お前の遅刻癖はこの2年半、全く改善される兆しが無い! 初めて会った日だって、お前は友達を待たせて人助けをしていたと、後で聞いたぞ! いいか、そもそも…」
サファイアの公開説教はヒートアップの一途。
1000日分の思いの丈は、ルビーのツーサイドアップが、降参のポーズで許しを請うわんこのように垂れ下がり続けても、一向に止まらない。
「サ…サファイア、その辺で、ね?」
遂に、始めに説教を切り出したユーノが仲裁に入る。
「ほ…ホントお〜に、すみませんでしたあ〜っ!!」
「ルビー…反省してる?」「はい…。」
くすっ。
「じゃあ、最後に。ルビーは後悔してる?」
「…えっ?」
「こんなに怒られるくらいなら、こんなにみんなに迷惑かけるくらいなら、迷子探しなんかするんじゃなかった、って…後悔してる?」
「…それは…。」
「後悔は、してないのね。」
「…はい。困っていたあの子を助けなかったら…やっぱりその方が後悔していたと思います。」
はあ〜〜っ……。
サファイアの深く重い嘆息は、これだけ言っても変わらないルビーへの抗議ではなく。
「…そういうお前だから、私も1000日付き合ってきたんだろう…どんなに呆れても、どんなに振り回されても。」
「…えっ?」
すっ…。
「閂市の皆さん。」
3人の鼎談トークは一転、スタンドを見上げ、サファイアがオーディエンスに語り掛ける。
「柄では無いのですが、自分語りをします。
私はもともと超昂戦士ではなく、閃忍の落ちこぼれ候補でした。どんなに修業を重ねても閃忍にはなれず、もう諦めようとしていました。
でも…1000日前、修業も戦闘訓練もしたことのないアカリが超昂戦士に志願して…エスカルビーとなって、アルダークに立ち向かいました。」
ざわ…!
突如語られたサファイアのデビュー秘話に、会場がどよめく。
「ルビーのデビュー戦は、正直ムチャクチャでした。戦闘技術はドシロウト、滅忍ひとり倒せず、まだ超昂戦士ではなかった私が助太刀に入る有り様で…、共倒れを覚悟したのを今も覚えています。」
「サ…サファイア?!」
「…でも。」
何を言い出すのかと慌てるルビーに、大丈夫だと優しい一瞥を送り…サファイアは改めて、思いの丈を市民に語る。
「そのムチャを見て…私はほだされました。
(才能の無さなんか、関係ない。
護りたいものがある。だから戦う。
それ以上、何も要るものか。)
そして私も超昂戦士に志願した。
…これが私、エスカ・サファイアの始まりです。」
……ぱちっ。ぱちぱち…。
…わああああーーーーーっっ!!
静寂は拍手に破られ、瞬く間にスタンディングオベーションへと変わる。
「…皆さん。」
…しい…ん。
「ダイビート創立1000日、たくさんの市民に祝っていただける幸甚に、改めて感謝します。
エスカレイヤーさん、ハルカ様、エクシールさんの3人きりで始まった戦いですが、今や超昂戦士は200人も目前。
…でも、どんなに仲間が増えても、どんなに成長しても、変わらないことがあります。」
ざわっ…!
「ルビーがムチャをするのは、決まって…助けたい誰かがいるときです。
その姿に胸を打たれて仲間になった、私のような戦士。
そのとき助けられ、縁あって仲間になった戦士。
時には敵ですら助けてしまいますが、それでわかりあえた幻魔さえいます。
そして…そのムチャを応援してくださる、皆さんのような方々のおかげで、私たちは戦い続け…気がつけば1000日を数えていました。」
大型映像で投影されるスライドショーでは、ここまでの戦いの軌跡と…節目節目のエピソードが描かれる。
エスカチーム結成、リバースとの死闘、オルバとのすれ違い、アカネや初音と手を取り合った日、そしてオルタナスタインと、ノロイとの決戦…。
誰もがその足跡を思い浮かべていた。
「だから…私たちは明日からも変わらず、護りたい誰かを護るため、一日一日戦って参ります。
どうかこれからも…変わらぬ声援を賜りますように。」
観客の静謐が堰を切ったように、万雷の拍手が響く。
合わせて、全ての超昂戦士たちが入場し、フィールドに集結する。
「…ルビー、今日のこの日の中締めだ。頼むぞ。」
サファイアに促され、ルビーがひと呼吸置いて語りだす。
「えっと…伝えたいことはほとんど、サファイアがしゃべっちゃいました。」
「なっ…!?」
どっ…わははははっ…!
「…でも、付け足します。
私はあの日、アルダークの襲撃からエスカレイヤーさんたちに助けられました。
それで、今度は私が同じように、誰かを助けたい。そう思って超昂戦士に志願しました。
それがエスカルビーのデビューであり、始まりの日から今日までずっと変わらない、私が戦い続ける理由です。」
すう…。
「今日、こうしてたくさんの応援をもらえて…1000日前には想像もできませんでした。
上手く言えませんけど…皆さんの応援は、私たち超昂戦士の最強のエナジーです。私たちは皆さんに護られて、そのおかげで今日も頑張れるんです。
次の1000日も、皆さんの応援で頑張れたらいいなと思います。今日は本当に…ありがとうございました!」
ぺこり。…たたたたたっ。
ルビーが一礼し、サファイアとともにフィールドの仲間たちのもとへ。
そして超昂戦士全員で、満員の観衆へ、中継同時接続中の全ての人たちへ。
《【『〔(ありがとうございましたっ!!)〕』】》
感謝デーのフィナーレは、市民みんなの心に強く刻まれた。
……
…
(…私も…ルビーさんみたいに、誰かを護れたらなあ…)
そして今日、エスカルビーに救われた一人の少女は、貰った赤いハンカチを握り、夢を誓う。
彼女もまた近い将来、誰かを助ける日が来るのだろう。もしかしたらダイビートで、超昂戦士となって…?
護られた誰かが、次は誰かを護る。
その連鎖の物語は、今日ひとつの節目を迎え…そして、これからも。
【完】
筆者の環藍河です。まずはダイビート創立1000days、祝意と運営様への謝意を申し上げます。
今回は記念ピックアップがエスカルビー・アステライズとのことで、堂々と記念SSをルビー主役で書けます(笑)。
昨年11月に2周年記念SS、今年6月に第2部1周年記念SSと、アニバーサリーSSはご祝儀でたくさんお読みいただいておりますが…今回はいかがでしょう?
もっと本編が続いて、もっと熱くさせて貰えることを期待します。
そして、もっとルビーたちのSSが書けますように…!