SDガンダム物語(ストーリー)   作:千生鉄斗羅

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長らくお待たせいたしました。
いよいよ、三璃紗(ミリシャ)編の開幕です!
長くお待たせしただけあって、長いです。
2月10日追記:挿絵を追加してみました!


三璃紗(ミリシャ)
第1節 戦いの始まり


 三璃紗、幽州。

「も、もう動けない・・・」

 劉備は、行き倒れていた。理由は単純で、栄養失調──もしくは、極度の空腹である。

 ここで劉備が倒れてしまっては、SDガンダム物語(ストーリー)三璃紗(ミリシャ)編は打ち切りとなるだけでなく、この物語の最終章・スダ・ドアカワールド編のラスボスを倒すことができなくなってしまう。とっとと復活してほしいものだが、一体全体どうしてこうなったのか。

 それは、数日前に遡る。

 

∀∀∀

 

「盧植先生っ!」

 公孫瓚は、諸侯集合の掛け声に応じて、自らの隊を率いて幽州を発った。その矢先に、黄巾賊が襲来したのだ。劉備は奮戦した。だが、多勢に無勢。劉備こそ命拾いしたものの、師たる盧植が、致命傷を負わされたのだ。

「そんな・・・、俺がもっと強ければ・・・!」

「そう抱え込むな、劉備よ・・・。これが、儂の天命だった・・・、それだけの事だ・・・」

「でも、先生っ! あなたは、まだ生きてなきゃならないんだっ! 公孫瓚の兄貴はもう皆伝したって聞くけど、俺はまだなんだ! 少しも理解できちゃいない!」

「いや、よい・・・。お前には、計略など似合わぬよ・・・。いや、お前は、人の上に立つべきじゃ・・・。民を導き、仲間と共に平和をもたらす・・・。その器じゃ・・・」

「先生・・・?」

「龍帝剣を持て」

 盧植の言葉に、驚愕する劉備。龍帝剣は、現在錆びている。

「え、でも、あれは・・・」

「あれこそが、お前に力を与える・・・。正義の心が、成す・・・」

「正義の・・・心。俺にそんなものは・・・」

「ない、とは言わせん・・・。お前は、とても実直じゃ・・・。素直で、優しい・・・。だからこそ、大海に出よ・・・。お前を待つ者は、そこに居る・・・」

「俺を、待つ者? それは・・・」

 盧植には、もう劉備の言葉は聞こえていない。ただ、涙を流す劉備の姿が見えるだけだ。

「劉備よ・・・。三璃紗(ミリシャ)を、頼んだ・・・ぞ・・・」

 そう言って、盧植は息を引き取った。

「先生・・・?」

 盧植の体を揺さぶる劉備。

「なあ、先生! 目を開けてくれよ! 先生!」

 何度も何度も揺さぶるが、目を開けることはない。

「先生・・・。盧植先生ーーーーッッッ!!!」

 劉備の慟哭が、木霊した。その声は、天を揺るがすほどだったと、一部始終を見ていた者は語る。

 その二日後。劉備は、自宅で準備を整えた。黄巾賊を討つための準備を。

 具体的には、

・鎧一式

・龍帝剣

・食料(三日分)

・替えの下着(そこら辺の川で洗濯する。SDガンダムに下着は必要なのか? きっと、サラシとかそういう感じなのだろう。なので、現代語に訳せばインナーということになる)

 と言う内容である。

 しかし、劉備は失念していた。自分が、大飯食らいなことを。しかも、黄巾賊の本拠地もわかっていないまま飛び出したのだ。すぐに道に迷う。そのまま闇雲に歩き回った結果、冒頭の有様というわけである。

 

∀∀∀

 

 しかし、劉備を天は見捨てていなかった。

「おい、誰か倒れてるぞ」

 若い男の声だ。

「うむ、こんなところに珍しい」

 先ほどの男より、少し渋い声だ。その男は、長い髭を蓄えているのが特徴であった。

「だ、誰かいるのか・・・?」

「意識はある。ならば、近くの村に連れて行こう」

「そうだな、それがいいや。俺たちの顔も効くしよ」

 二人の男は、劉備を担いで、村へと向かった。

 

「うんめー!」

 ガツガツ、ガツガツと、劉備はおにぎりを食べていた。

「全く、すっげえ食いっぷりだな」

「だが、元気があるのは良いことだ」

 その様子を、二人の男は扉から見ていた。先ほど、劉備を助けた二人だ。

「あんたたちも、ありがとうな!」

「いいってことよ。困った時はお互い様、だろ?」

「張飛、格好をつけているところ悪いが、まだそちらの御仁の名を聞いていない。よろしければ、お教え願えるか?」

「ああ、いいけど・・・。あんたたちは?」

「おっと、これは失礼した。拙者は、姓を関、名を羽。(あざな)を雲長と申す者。こちらは、」

「おう、俺は張飛。(あざな)は翼徳。人呼んで、燕人・張飛とは俺のことよ!」

 二人は、そう名乗った。

「俺は、劉備。(あざな)は玄徳。黄巾賊を倒すために立ち上がったのはいいんだけど、奴らの拠点すら知らないから、迷っちゃって・・・」

「うーむ、そうでしたか。実は我々、元はその黄巾賊だったのです」

「!」

 関羽と張飛は、かつて太平道という宗教の信者であった。黄巾賊の前身となった組織だが、彼らの掲げる理念は、「弱者を救い、世の中を良くする」というものだった。彼らは、その理念に賛同して、太平道に入信したのだ。だが、彼らは世直しの名を借り、略奪を行うようになった。腐り切ったのだ。

──こんな有様で、本当に世の中が良くなるのか。

 そんな疑念を抱いた彼らは、ある日、黄巾賊を抜け、この村に世話になることにしたのである。

「そうだったのか・・・。じゃあ、黄巾賊の本拠地も・・・」

「ああ、俺らは知ってる」

「だが、我らで戦えるのは、わずか二名。到底、あの数に対抗できるわけがない」

「だったら、案内してくれ」

「!?」

 関羽は驚愕した。

「話を聞いていたのですか!?」

「聞いた上で言ったんだ」

「おいおいマジかよ、こいつはとんでもねえヤツだな」

 そう、劉備は、一人で殴り込むつもりなのだ。

 バカである。

「しかし、彼ならば、黄巾賊を討つ──いや、それ以上の、世界を光に包むことすらなすやもしれぬ。それに」

 関羽は、劉備の持つ剣を見た。

「それは、おそらく龍帝剣。三侯が一人、龍帝の魂が宿るもの。それを持つということはすなわち、世界から闇を祓う人物・・・と、G記に書いてあった覚えがある」

「そこは自信持てよ」

 張飛が、思わずツッコミを入れる。

「まあつまり、だ。我々は、劉備殿。貴方に協力を申し入れたい、ということだ」

「おいちょっと待てよ!? 俺の意思はどーなるんだよ鬼髭!?」

「どうせお前も、同じ旅路を征くだろう」

「そりゃあそうだけどよ・・・。一言確認くらいあってもいいんじゃないか!?」

「すまんな(笑)」

「笑ってんじゃねーっ!」

「・・・えーと、俺と一緒に黄巾賊を討ってくれる・・・ってことでいいんだよ、な?」

 戸惑いを見せる劉備。当然である。目の前で、自分を置いてけぼりにした会話が繰り広げられたのだから。

「ああすまない、存在を忘れていた」

「ひどいなアンタ!?」

 主人公とは思えない扱いである。・・・そんなことをしたのは作者だが。

「ともあれ、そうだ。我らは、貴殿と共に戦おうと思う」

「それは、どうして・・・?」

「龍帝剣を持っているから、というのもある。だが、1番の理由は、俗に言う一目惚れだ。『この(おとこ)なら、信ずるに値するという確信を得た」

「そっか・・・。わかった、ありがとう!」

 こうして、劉備は二人の仲間を得た。

 

∀∀∀

 

「曹操殿」

「なんだ」

 陣中。反董卓連合軍は、虎牢関の前に陣を張っていた。

 邪智暴虐な男、董卓。時の天子たる霊帝を殺し、玉璽を奪ったのだ。簡単に言えば、政権簒奪。誰からも恨みを買ってしまうのは明白だ。

「敵の戦力が判明致しました」

「司馬懿、どうだ?」

「・・・現時点では、不利かと」

 苦々しく報告する。

 反董卓連合軍の戦力は、はっきり言うと董卓軍より多い。それなのに、勝ちの目が見えないのだ。

 その原因は、とある(おとこ)にある。そう、呂布だ。泣く子が黙るどころか泡を吹いて倒れてしまうほどの猛将。それが呂布である。さらに、彼に従う猛者として、張遼、貂蝉、高順、陳宮がいる。彼らを総称して、呂布隊と呼ぶ。

 彼らは、女性たる貂蝉でさえ兵士百人分の戦力になると言われている。男衆で一番弱い陳宮でも、兵士百五十人分だ。その上彼は、隊の頭脳である。えげつないことを考える専門家であり、しかもそれは呂布にとって最高の布陣である。

 まともに戦って、勝てるわけがないのだ。

「・・・一騎当千、万夫不当の豪傑、か。袁紹殿や孫堅殿といった豪傑もいるにはいるが、それでも勝てるかどうか・・・」

 袁紹は華北の武将で、孫堅は江東の武将だ。片や貴族的な男であり、片や海賊的な男である。どちらも戦闘力は高いのだが、袁紹は傲慢で孫堅は猪突猛進という欠点を抱えている。それをカバーする為の軍師であるが。

「いいえ、私が心配しているのは、無能な味方──袁術です」

「あのバカ・・・!」

 見るからに嫌そうな顔をする曹操。袁術とは袁紹の弟である。奢侈を貪り、袁紹以上に傲慢。常に自分ファーストで、民や兵のことなど頭にない。三国志演義においても、孫堅に回すべき兵糧を独断でストップさせたというどえらいやらかしをしている(孫堅は生きて帰ってきたが)。

 何をするにしても自分の意見が通らねば気が済まぬ性分のため、なかなか話が進まない。董卓討伐がうまくいかない理由の一つが、これだ。

──いっそ、袁術の首を囮にするか・・・?

 司馬懿はそう考えたが、袁紹ならともかく袁術にはそんなに価値はないだろうと判断し、自主的にその案をボツにした。

 そんな折、早々の天幕に、数人の(おとこ)が入ってきた。

「よう曹操、今いいかい?」

「孫堅殿」

 その名は、孫堅。江東を支配するであり、彼らの水軍は荊州水軍に匹敵する実力であると言われている。孫堅の鎧は、一言で言えば白虎。見るだけで、君主に相応しい威厳を感じる逸品だ。

「そちらの二人は?」

「俺の倅だ。せっかくだから、紹介しとこうと思ってな、挨拶回りをやってる」

「私は、孫策と申します。(あざな)は伯符、どうぞよろしくお願いします」

「僕は、孫権、です。・・・ええと、よろしく、お願いします」

 孫策と孫権の兄弟は、正反対の性質を有する。もっともそれは、人生経験の違いからくるものと取ることもできるので、一概に本人の性質と言い切ることはできない。ただ、大雑把に言うと、孫策は大胆な、孫権は引っ込み思案な少年である。

「むう・・・」

 司馬懿は、彼らを見て目を細めた。

──あの少年、侮ることはできぬ・・・

──いずれ、三侯の力を手にするだろうな・・・

 そこには、警戒心と好奇心が滲み出ていた。

「私にも、曹丕という息子がいるのです。だが、貴殿のように戦場に連れてくることは考えていなかった」

「どれくらいの年齢(トシ)なんだい?」

「まだ小さく、孫権殿よりも幼い」

「それなら、連れてこないほうがいいだろうな。確かに子供はいいものだが、戦場において幼子はむしろ重荷だ。母親にきちんと育ててもらわんとな」

「言い得て妙だな」

 しばしの間、司馬懿の視線に気づくことなく、曹操と孫堅は父親としての会話を弾ませた。

 その間、孫策は熱心に早々の天幕に視線を巡らせ、孫権はオドオドと縮こまっていた。

「さて、それじゃあそろそろ俺らはお暇するよ。そちらでも、攻略は考えといてくれ。もっとも、ウチの優秀な軍師に勝てるとは思えんがね」

 そう言って、孫堅は天幕を後にした。

 優秀な軍師。それは、周郎とあだ名される美青年、周瑜のことである。(あざな)は公謹。江東の若き参謀で、孫策の幼馴染でもある。だが、彼が専門とするのは水上の兵法である。陸上では、現時点では司馬懿に軍配が上がるだろう。

「ぬぬぬ・・・」

「どうした、司馬懿?」

 わなわなと、拳を振るわせている。それを見た曹操は次の瞬間、思わず引いた。

「おのれ孫堅海賊め! この私を焚き付けたな! いいだろう、想像を絶する策を弄してやろうではないか! ナーハッハッハッハ!」

「ネジが外れてしまったなこれは・・・」

 司馬懿が冷静になるには、およそ六時間を要した。だが、興奮しつつも策を巡らせたその手腕は、さすがという他ない。

「曹操殿」

 また、天幕に(おとこ)が訪れた。

 そこにいたのは、公孫瓚と、劉備たちであった。

 

∀∀∀

 

 劉備たちが反董卓連合軍に合流する十日前。

 劉備は、関羽・張飛の手引きにより、黄巾賊の本拠地に辿り着いた。

「劉備殿。一つ、頼みがあるのです」

「どうしたんだ?」

「黄巾賊は、元は太平道、すなわち道教でありました。しかし、ある日を境に、教祖・張角は狂ってしまった・・・! それはなぜかを、彼奴に問い質したいのです!」

 そう叫ぶ関羽の目は、必死なものだった。かつて賛同したその理念を突如裏切られ、出奔し、こうして矛を交えるに至った。

──なぜ、こんなことになってしまったんだ・・・!

 それが、関羽の抱える思いであり、義理人情に篤い彼らしいものといえよう。

「・・・わかった。だったら、そこまでの露払いは俺たちでやるよ」

「おう! ・・・ってオイ、サラッと同意を得ずに俺を巻き込んだよな?」

「そうか?」

「そうだよ!?」

 劉備と張飛は、それに同調する(張飛は、半ば強引に流された形になるが)。

「・・・ま、俺も気になっちゃいたけどよ。俺は、そこまで頭がいいわけじゃない。そっちは、鬼髭に任せるぜ」

 すると、その時。

「・・・む? あれは、裏切り者の関羽と張飛・・・。それに、見慣れない(おとこ)がいる・・・。ということは、敵だーッ!」

 見張の兵士に勘づかれてしまった。

 兵士たちが、続々と現れる。

「じゃあ、手筈通りに行くぞ!」

『応!』

 彼らは、自然に劉備を中心に据えた。

 三人とも、武芸の腕はなかなかのものである。雑兵程度では、敵う筈もない。

「うぁああああーッ!」

「ぬぃおおおおーッ!」

 断末魔をあげ、次々と倒れ伏していく兵士たち。中にはまだ息のある者もいたが、一々とどめをさせる時間があるわけではない。無視して通り過ぎていく劉備たちであった。

 そして、ついに張角のもとへ辿り着いた。

「・・・関羽に張飛か。今更何をしにやってきた? この裏切り者め」

「裏切ったのは貴方達だ、張角殿! 張宝殿! 張梁殿!」

「裏切った? 誰が誰をだ?」

「貴方達が、我々をだ! かつての人を救うという太平道の理念は、どこへ行ったというのです! 今の貴方達は、人を救うどころが国を見出す、一介の賊に身を落としてしまった・・・!」

 青龍刀を握る関羽の手は、震えている。怒り、悲しみ、それら全てを抑えようとしているのだ。その声はしかし、感情を隠し切ることなどできなかった。

「何を言っているのであろうな、兄者。我らの理念は未だ変わらず」

「そう、真の救済とは何かを悟ったのみ」

「その通りだ、(ホウ)(リョウ)。死こそが救済、それを教えて下さったのがあの方だった・・・!」

「・・・『あの方』?」

 劉備が、疑問を口に出した。と、張角は彼に気づくと、目の色を変えた。

「・・・! その剣、その鎧、何よりその瞳! あのお方が言っておられた、『龍の子孫』! こやつは生かすわけにはいかぬ! 弟達よ、総力を挙げ、我らを殺してでも葬るぞ!」

「なんだって!?」

「どういうこった! あの方だの龍の子孫だの訳の分からんことばっか言いやがって!」

「対話はもはや不可能か・・・! 劉備殿!」

「・・・ああ!」

 しかし、張角とその兄弟の様子は、いささかおかしなものであった。

 胡坐を組み、印を結び、呪文を唱えたのだ。

「・・・?」

「一体、何やってんだあいつら・・・?」

「まさか・・・! 聞いたことがある、彼らの切り札!」

 呪文を唱え終えた彼らの肉体はバラバラになり、一つに纏った。

「その名も、黄天!」

『蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし! 年は甲子に在りて、天下大吉!』

 黄天。それが、彼らが合体した姿の名である。

『龍の子孫よ、死ね!』

 首の宝珠は一つ一つに違う色が存在している。そして、それは八個あり、全てに違う意味がある。

 「八門金鎖の陣」というものを読者諸君はご存知だろうか? これは、その名の通り八つの門を開けた陣をつくり、それぞれに休・生・傷・杜・景・死・驚・開が振り分けられている。生・景・開から入るのは良いが、傷・驚・休から入ると痛手を負わされ、残る杜・死から入ると例外なく全滅するという、誠に恐ろしい陣だ。

 今回黄天が使用するのは、現代語でカジュアルに言えば「八門金鎖ドキドキルーレット」。本家ほどの効力こそ発揮できぬものの、杜・死のどちらかが当たれば劉備達はどえらい目に合わされること間違いなしだ。

 今回出たのは、傷。

「ぐわーっ!?」

 劉備は、不可視の攻撃を喰らった。なんとか急所は避けられたが、右足に傷を負ってしまった。

「劉備殿!」

「あの玉が厄介みてーだな! だったら!」

 野生動物のような勘を見せた張飛は、自慢の武器、蛇矛(ダホウ)を黄天に構えた。

 すると、屋内だというのに雷が走り、それは蛇矛(ダホウ)に集まっていく。

「ウオオくらえ! 

         爆裂ッ! 大ィィィ雷ィィィ蛇ァァァッ!

 その雷は、大蛇の姿をとり、黄天に真っ直ぐに向かっていく。

「張飛!」

『なんだと・・・!』

 どうやらこの技は、黄巾賊時代には見せたことがなかったらしい。黄天は、意表をつかれたようだ。

『くっ!』

 跳躍して回避。しかし、雷の大蛇のエネルギーは、黄天の玉の一つにあたり、砕けた。

『バカな! 金鎖の玉が!』

「へっ、どーやら切り札は無くなっちまったみてーだな!」

 挑発する張飛だが。

「・・・まだだ! あいつは、まだ何か隠してる!」

 劉備は、盧植より兵法を学んでいたのだが、その時にこう教わっていた。

──よいか、劉備よ。敵が何か目立つものを使ったならば、その腹の中に何かを隠していると思え。目先のものに囚われては、大きなものが見えなくなってしまう。努努忘れるなよ?

 と。

『フッハハハ、その通りだ龍の子孫よ! あの方より授けられし力、受けてみよ!

         黄天! 太! 平! 檄!

 額の宝珠と背中の羽から禍々しいエネルギーを発し、それは黒い稲妻となった。それは、張角、張宝、張梁の精神力を破壊に変換させた、まさに外法である。精神力を破壊に変換するということはそれ即ち、自らを失ってしまう可能性があるということ。「あの方」より与えられたとはいえ、彼らにとってこの技は、決死の技であるということだ。

『グヌゥゥゥ・・・アアアアアアアア!!!』

 

【挿絵表示】

 

「あいつ、苦しんでるのか・・・?」

「そのようだ・・・! ・・・? この稲妻、負の感情を感じる・・・?」

 そう、その稲妻には、彼らの記憶が封じ込まれていた。生まれ、育ち、世の不条理を知り、虐げられる者の存在を知り、そして彼らを救おうと志した記憶。

──(ホウ)(リョウ)。私は、天下泰平を成し遂げたい。誰も虐げられることのない、誰もが笑顔でいられる、そんな世界を作りたいのだ!

──兄者、俺は賛成だ!

──俺だって! 兄者の理想の世界、なんて素晴らしいんだ!

──三侯ですらも成せなかったことを、私たちがやるのだ! 真の天下泰平を!

 彼らは、どうすればそれを為せるのか考えた。

 戦いか? 否、それは民をも傷つけてしまう。

 簒奪か? 否、血を流したくない。綺麗事だとしても、犠牲を出したくない。

 暗中模索を繰り返し、数年が経った。張角は、偶然とある老人と出会った。

──貴方は?

──儂の名は、南華老仙(ナンカロウセン)。世を救おうというお主らの想いに、感銘を受けた。故に、お主にはその糸口を授けよう。

──糸口?

──そう。お主、儂に与えられただけの力では納得せぬじゃろう?

──ええ。

──やはりな。その糸口じゃが、もっと人を見よ。人が何に苦しみ、何を求めておるのか、今一度見てみよ。さすれば、自ずとやるべきことは見えてくる筈じゃ。

──・・・! ありがとうございます、南華老仙(ナンカロウセン)様!

 張角は、とある村に向かった。そこでは、多くの人が病に苦しんでいた。

 すぐに拠点に戻り、蒐集した書物から、疫病を治す術を探し出した。

 それを彼らに行うと、たちまち病は快方に向かった。張角は、彼らに感謝された。張角も、こうして彼らが喜ぶ姿を見て、嬉しくなった。

 そして、張角は一つの答えに辿り着いた。

──困っている人たちを、私達で助けるのだ! それが、天下泰平への道に違いない!

 その考えを、直ちに弟達に伝えると、彼らも賛同した。

 太平道と名付けた彼らの道には、いつしかその理念に賛同する者達が集まっていた。皆、張角達に救われた者達だ。

 張角は、図らずとも、彼らのリーダーとなった。そして、人助けをし、世直しをする。彼らは、示し合わせたわけでもなく、黄色い布を体のどこかに装着するようになった。

 そんな日々はしかし、突如として崩れ去った。

──兄者、兄者に用がある者がここに。

──通してくれ。

 その男は、璽悪(ジオ)と名乗った。

 そして、名乗った直後に、目を光らせた。

 それからだ。彼らが黄巾賊となってしまったのは。

 突如として乱心した張角たちは、それまでとは打って変わって、破壊や略奪に精を出すようになってしまった。

 天下泰平どころか、天下を乱す悪に成り果ててしまったのだ。

 そして、現在に至る。

 その記憶を、劉備達は見た。見てしまったのだ。

「・・・なんで・・・」

 龍帝剣が、鼓動する。

「・・・なんで・・・」

 龍帝剣の錆が、剥がれていく。

「・・・なんで・・・」

 龍帝剣が、本来の姿を取り戻しつつある。

「・・・なんで、お前達は道を踏み外したんだッ!」

 龍帝剣が、金色に光った。その光は、劉備、関羽、張飛、そして黄天をも包み込む。

 劉備、関羽、張飛の体が、金色に染まっていく。

 すると。

「何!?」

「なんだってうお!」

 関羽の右肩鎧、張飛の左肩鎧がひとりでに外れ、劉備の両肩に装着された。

「これは・・・三位一体・・・!」

 劉備の輝きは、さらに強くなる。

『この輝きは・・・!』

「お前の怨念を、この手で断つッ!

         三位一体ッ! 星ッ! 龍ゥゥゥゥゥッ! 斬ッ!

 二刀で五芒星を描いた劉備は、その中心を通過して大きな光のエネルギーを纏った。

 邪気を祓う龍帝剣の一撃は、黄天を打ち破った。三つの心が一つになったからこそ、百万に匹敵する力が出たというわけだ。

「ぐっ!」

「ごっ!」

「がっ!」

 黄天は、張角、張宝、張梁に分離した。もはや、戦う力など残っていない。

「・・・」

「龍の子孫よ・・・。礼を、言おう・・・」

 そう言って、張角は息絶えた。

 張宝、跳梁も、すでに落命していた。

「他に、方法はなかったのかな・・・」

「わかんねーよ、ンなことはよ」

「この場で取れる最善手は、あれだけだった・・・!」

 劉備達は、黄巾賊の本拠地を離れ、村に戻った。

 すぐに、風の噂で、「劉備達が黄巾賊を破った」ということが三璃紗(ミリシャ)に広まった。本拠地に向かって、傷を負いつつも生きて帰ってきたのだから、そう考えるのは妥当だろう。

 噂を聞きつけた商人が、劉備に、三頭の馬を無償で譲渡した。その代わり、武器や防具の修繕は対価を取って行う、という商法だ。劉備達もそれに異存は無く、ありがたく受け取った。

 商人は、劉備に、「反董卓連合軍には、諸侯が続々集まっている」と伝えた。その中には、公孫瓚もいるということだった。

 劉備は、公孫瓚のもとに行くと宣言し、関羽、張飛も賛同。幽州義勇軍として、戦列に加わることを選択した。

 道中、鎮江将軍・胡軫(コシン)の襲撃を受けたが、ここでそのことに紙幅を割くのは遠慮しておく。

 ともかく、胡軫(コシン)をも撃退し、劉備達は公孫瓚に合流し、諸侯に顔合わせをしていた、というわけだ。

          

次回を待て!




いかがでしたか?
今まで4000〜6000文字程度でやってきたのに、ここでまさかの9000文字。
言い訳させてください。
各編は、それぞれ10話程度で終わらせようと思っておりまして。で、三国伝は、馬鹿正直に黄巾賊〜赤壁を描いて、スダ・ドアカワールド編即ち最終章に繋げようと構想したのですが、敵は、①黄巾賊②董卓③袁術④袁紹⑤曹操。これを、10話で。私が三国志演義を知ったきっかけとなった渡辺仙州先生の三国志において(というより、歴史書としての三国志でもおそらく)、黄巾賊〜赤壁までの期間は、およそ20年。詰めるだけ詰めても、5年は経過するわけです。最初は、黄巾賊で天の島を落とす(天宮(アーク)編との連動)予定だったんですけど、いくらなんでもこれじゃあ伝説の大将軍編終了直後くらいからじゃないと時系列が合わない! ということで、赤壁で天の島を落とすことにしました。さらに、10話程度で終わらせるという制約を考えると、1話に内容を詰め込むしかねえという結論に至りました。
それにしても、黄巾賊がこんなに早い段階で壊滅するとは、なかなかないんじゃないでしょうか?
勘の良い方ならわかると思いますが、この時点ですでに天宮(アーク)編と連動しています。また、この後にも、あいつとあいつをあいつらと絡めたり(予定)、あいつとあいつを絡めたり(予定)、と天宮(アーク)編との連動は積極的にしていこうと思っています。
張角を「元は優しかった」としたのは、渡辺仙州先生の三国志では、張角は「元は人々を救うという志を持っていた」というような内容を発展させたものです。ですが、それだけであんなことになるか? と考えて、ヤツをぶち込んでみました。
さて、シュゴッド編以外は、これで第1話が投稿完了いたしました。シュゴッド編のみ、実はラクロア編の終了後という位置付けであるため、例外的な扱いです。
これから、各編で様々な物語を展開させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします!
感想、評価をよろしくお願いします。
追記:挿絵はいかがでしたか? 私の執筆で、この後Twitterにもあげて、宣伝したいと思っています。
黄天の背後に映る影は一体だれか、読者の皆さんはもうお分かりですよね?
しかし、最初の挿絵のくせに主人公を描かないって、どうなんでしょうね?
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