第一話『終わりの物語』
◆◇◆
死体の焼ける臭いがした。
世界は黒い煙に包まれて、そこでひっそりと『それ』は死にゆくはずだった。
徐々に冷たくなっていく指先。重くなっていく瞼。
──そこに、一人の青年が現れる。
かつ、かつと、土を踏みしめる音が響いた。
思考は微睡み、朧げな視界の中、『その人』はこちらへ近寄ってくる。
全身を黒ずくめの装束に包み、手入れのされていない、ぼさりとした黒い髪。
足先まできっちりと覆った黒い長ズボン。そのポケットに手を入れたまま、彼はこちらを見下ろしている。
「………」
「……なんだお前、生きてんのか」
邂逅一番の台詞が、それだった。
──この人も、悪い人?
曖昧な思考の中で、そんな疑念が心に浮かぶ。
けれど、その疑問もすぐさま露と消えた。
すべては終わった。
もう、終わったのだから。
ぜんぶ、どうでもいい。
これ以上何も失うものはないし、これ以上変わることもない。
『それ』は、諦念と失意に瞳を染めて、そのまま瞼を閉じていく。
その瞼はもう、二度と開かれることはない。
──そのはずだった。
「ようチビ、いい目してるな」
「───」
終わったはずの世界に。
暗闇に染まったはずの視界に。
「飯、食うか?」
「───」
眩いほどの、太陽が現れたのだ。
これは、私とお兄さんが出逢う物語であり、別たれるまでの物語だ。
◆◇◆
──ゼロカラワカツイセカイセイカツ──
◆◇◆
「……お兄さん」
絨毯が敷き詰められた狭い書室に、身綺麗な『少女』が入ってくる。
入るときはノックをしろと言っているのだが、どうにも学ぶ気配がない。
ま、所詮はガキだ。
うるさく言っても仕方がない。
「なんだ、どうした?」
「何、読んでるの?」
少女の視線は、青年の手元にある書物へ向けられていた。
「これは哲学書っていう、ガキにはまだ難しい本だよ」
「私も、読みたい」
「ガキには早いって……そうだな。これなんてどうだ? 主人公がヒロインを救う、ありきたりな絵物語だ」
「……読んでくれるの?」
大人しいようでいて、その実、遠慮がない少女は、どこで覚えたのか上目遣いで青年を見上げる。
生まれ持った青い瞳が、青年を見つめていた。
……ったく、こんなガキまであざといなんてな。
やっぱり女とガキは苦手だ。
そう悪態をつきつつも、それを口に出すようなことはしない。
子供相手に論理性を求めるのは不毛だからだ。
「仕方ねぇな。ほら、そこ座れ」
「──うんっ」
ガキ相手にするべきは、叱責ではなく教育だ。
まずは、文字の読み書きからだな。
そう思考する間に、『少女』はするりと書斎の奥へ入り、青年の膝の上へと自然に座った。
少女のために用意した場所へ座る様子はまるでなく、まるで当然というように、青年の膝元へよじ登る。
「……ほんとお前は、遠慮ってやつがないな──レム」
「? お兄さん?」
「……いいや、なんでもない」
──レム。
青年は、彼女をそう呼ぶ。
そしてレムと呼ばれた少女は、青年をお兄さんと呼ぶ。
呆れたように溜息を吐く青年と、まるで気にした様子もなく朗読を楽しみにしている幼い少女。
これは、ものぐさな青年と、幼く強かな少女の物語だ。
◆◇◆
完結までエタらず書ければいいなぁと思ってます。
感想、評価、お待ちしてます。