ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第十二話『一難去ってまた一難』

◆◇◆

 

 

「──嗚呼、試練、試練試練試練試練ンン!」

 

 赤髪の女は平穏な顔を狂気に染めて、体中を獣に噛み千切られながら笑みを浮かべ笑い叫ぶ。

 

「痛い痛い痛いたいたいたいたいぃぃぃぃ! 魔女ォォォォォォォォォおおおおッ! ──あ」

 

 ──ぐりん、噛みつかれた首があらぬ方向へと曲がり、見えざる手に操られる人形を破壊した。

 後にはぐちゃぐちゃと死肉をむさぼる冒涜的な音がする。

 ──しかし。

 

「──ああ、脳が……震えるぅ……」 

 

 新たなる刺客が現れる。

 土から現れた緑髪の男は歓喜と充足に震えるように我が身を抑え、身もだえる。

 

「嗚呼、嗚呼! 死んだ、死んだのデス! 我が指先! 寵愛に報いし者! 痛み苦しみ、藻掻き抗い抵抗の末の殉教ッ! ──なんと勤勉なの、デス、か‼ 嗚呼、ぁぁぁぁ、魔女よ! どうか我が勤勉に寵愛をォ‼」

 

 自身の手先の死を、まるで素晴らしく崇高なことのように唱え、死とそれに伴う苦痛を勤勉とし、寵愛に報いた成果とする。

 まるで的外れな応報。自己満足の自己犠牲を無償の愛と勘違いする不埒者。

 痛みと苦しみこそは彼が寵愛に報いる唯一の方法であり、苦しめば苦しむほど勤勉とする怠惰。

 愛の為に苦しんだ、勤勉ゆえに痛み。言葉にすれば尊く、されど現実は自傷行為で気を引きたがるかまってちゃんと相違ない。

 

 愛の為に人を殺し、愛の為に自分を殺す。

 それが怠惰の大罪司教、ペテルギウス・ロマネコンティという存在なのだから。

 

 

 

 

 

「随分と汚ねぇ面になったな。そっちの方が似合ってるぜ?」

 

 喧噪が止み、饗宴が終わった彼らの元へ、一人の青年が舞い戻る。

 

「おや、生きていたのデスか! 寵愛に背く異端者よ。嗚呼、まだ試練は終わってなどいなかった。そう! 貴方を殺して! 目的を成し! 試練を乗り越える! それこそが我が愛の道標! 寵愛の筋道! 自ら殺されに来るとは……貴方──なんと勤勉なのデスかぁぁぁぁ!?」

 

 怠惰が酷く仰け反ると、見えざるナニカが迫りくる。

 

「──厄介だな」

 

 見えないものを避けるのは至難の技。

 故にただ避けるようなことはせず、背後へと空間を跳躍する。

 

「──“バン”」

 

 そうして必殺の一撃を──。

 

「──貴方、怠惰デスね」

 

 怠惰が、こちらを見ていた。

 必殺の一撃が、見えないナニカに防がれる。

 

「ちっ」

 

 すぐさまその場を去って移動する。

 

「貴方の技の仕組みはおおよそ見極めたのデス。すなわち──ゲートを介さぬ瘴気の放出、違いますデスか?」

 

「………」

 

「であれば──私の怠惰なる権能“見えざる手”でもって防げぬ道理はなし。貴方の手を暴き、動きを読み、対処する。勤勉なる我が寵愛の証に貴方は無残に、残忍に! 残酷に! 怠惰な死を迎えるの、デス‼」

 

「へぇ見えざる手、ね」

 

 隠すつもりはないのか、怠惰は力の正体を自ら明かした。

 それでも不可視であることに変わりはないが……

 ソルは細かく転移を繰り返して怠惰の魔の手から逃れる。

 

「怠惰!怠惰!怠惰ぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあ‼」

 

 無茶苦茶に手を振り回し、暴れ、辺り一帯を破壊する。

 しばらくすると、周囲には木の一本もなくなり、更地と化す。

 

 

「──もう隠れることはできないのデス! これで、終わり──デス!」

 

 

 同じように空間を割れば、何もないところに亀裂が現れ、すぐさま出口がばれてしまう。

 移動しても、すぐに見えざる手が周囲を囲い込む。

 逃げられない。

 

「──お前がな」

 

 しかし、ソルは嘲笑を浮かべ、

 

 

「──『始源』“ビッグバン”」

 

 

 次の瞬間、

 

 

「──は?」

 

 

 あほ面を晒した怠惰は、そんな頓珍漢な言葉を残して──跡形もなく消滅した。

 ソルは指を弾いた状態で静止し、その弾いた先が──遥か先の彼方まで消滅していた。

 ただの一瞬、たったの一撃で、音もなく、余韻もなく──その魂諸共、滅ぼした。

 ビッグバン。それは始原の力にしてソルの秘密兵器。

 これまでの射撃攻撃はこの技の簡略版に過ぎず、これこそがソルの最終奥義。次元を超えて得た力だ。

 

 その仕組みは先ほど怠惰が言ったものとなんら変わらない、ただ瘴気を変化させずにそのまま打ち出しただけ。──ただ、簡略版を遥かに超える圧倒的な質量でもって。

 その量はざっと五十倍。それを同じ体積でもって持ち出した。その威力たるや拳銃と砲撃ほどの差が生まれる。

 結果、ただでさえ大砲に近い威力があった射撃は今や人智を超えた力を発揮した。

 

 

「はっ、お前らクソ共に相応しい無様な最期だったな」

 

 

 呆けた面で代わりの器に逃げることもできずに(オド)諸共滅ぼされた怠惰をソルは鼻で笑った。

 

「くくっ、くははっ、はははははははは‼」

 

 笑う嗤う哂う。

 それがソルが怠惰な死者へと送る唯一の手向けだ。

 笑いが止まらない。

 おかしい。実におかしい。

 可笑しくて仕方がない。

 未だ消えることなくこの胸に燻っている復讐心の一部が果たされ、空虚な心は踊るように喜んでいる。

 なのに、ああ、可笑しい。

 

 ──何故、こんなにも気持ちが晴れないのだろうか。

 笑っても笑っても、何もない。

 こんなのは始まりに過ぎないからだろうか。

 空虚だ。独り観客のいない舞台で踊っているだけ。

 

「怠惰、か」 

 

 空虚な喜びもまた、怠惰の片鱗というわけだ。

 ──ふいに、胸の奥、心の臓よりも更に奥深くに、ナニカが入り込んできたのを感じ取った。

 

 

「はっ、手早い再会だな。──ペテルギウス・ロマネコンティ」

 

 

 それが何かを知っていて、青年はぽつりと独り言ちる。

 

 ──五人の大罪司教を殺し、五つの魔女因子をその身に取り込む。

 

 それが、ソルの目的に欠かせぬ通過点。

 その一歩が今果たされたのだ。

 

 

 

 

 魔瘴石を巡った戦いはそうして決着した。

 役目を終えたソルは未だ眠るレムの元へと転移しようと手を翳し──そこへ。

 

 

「──『石』を奪った盗賊を殺せと命令されたのですが」

 

 

 あるはずのない声が響く。

 

 

「おや、その盗賊はどうやら既に壊滅状態。さらに積み上げられた黒服の死体に、散乱した魔獣の死体。ここで一体何があったのやら。──そこの貴方ならご存じでしょうか?」

 

 

 濃紺の髪を後ろでくぐり、青いキモノを羽織った青年。

 その腰には二本の刀を携えている。

 その名を知るものは数おれど、その異名を知らぬものはいない。

 

 

 ──『青き雷光』セシルス・セグムント。

 

 

 ヴォラキアの刺客が現れた。

 

 

◆◇◆





 ソル
 ビッグバンという切り札を持っている。オド諸共滅ぼせる紛うことなき必殺技。(作者のイメージは虚式“茈”みたいなもの)。瘴気の消耗が激しく溜めが長いので雑魚には絶対に打たない。外したら終わるくらいには瘴気を消費する。今回は石が大量にあったのと、ソルからは見えざる手故に怠惰の姿がはっきり見えていて、怠惰からは見えざる手で見えていなかったというそんな特殊な状況のおかげで呆気なく食らって死んだ。ちなみに、それで一袋なくなって、魔獣を呼ぶのにも一袋使ったので持ち出した分は使い切りました。
 
 怠惰 
 ソルへと乗り移った。ぺテさんの意思はない。
 どうにもソルは怠惰を知っている風だが、権能のことは知らなかった模様。何故だろう。いや本当に。

 憤怒
 作者の中で存在があやふや。正道を行くのならばいてもらわないと困る。よって多分いる。

 青き雷光
 書いたこともなければまともに原作で読んだこともないという災厄の存在(作者にとって)。じゃあなんで出したのか作者にもわからない。帝国との取り引きで奪われたんだから誰かしら派遣されてくるよなと考えた結果、遣わされた模様。物語と絡むかどうかは彼の劇の行方次第。

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