ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第十三話『雷光嘶く』

◆◇◆

 

 

「アンタ、ヴォラキアの『青き雷光』だな。……何しに来た、なんてのは聞くまでもないか」

 

「僕の事を知ってるんですか! そうですかそうですか、いやぁなんだか気恥ずかしいなぁ。へへへ、それにしても、──『青き雷光』、ですか! いいですね! もしかして僕の武勇がもう噂になってたりします? 神将の座についてまだ幾分時間も経ってないのに、僕も有名になってきているみたいで嬉しいなぁ。閣下に忠誠を誓った介がありました」

 

 飄々と、軽い口調で意気揚々と話すキモノに刀、ゾーリを履いた和風の剣士。

 語るのは自分に関することばかりで、ここに来た目的を話す様子もない。どうやら知識通りお喋りな人間のようだ。

 

 しかし──隙がない。

 逃げようとタイミングを見計らっているソルだったが──飄々と喋りながら、青髪の剣士の視線がこちらから外れることはない。その瞳は油断なく、こちらを見つめている。

 

「……その腰に掛けてるの、魔剣だろ?」

 

「おや、ご存じでしたか。そうですよ。これは一番刀と二番刀、僕の愛刀です」

 

 その腰に垂れ下がるのは赤を基調とした禍々しい一振りと濃淡を基調とした精鍛な一振り。どちらも傍から見るだけで尋常ならざる力を持った魔剣であることが窺える。

 

 ──魔剣。それはソルが必要とするものの一つでもある。

 

「この剣に興味がおありですか? 見たところ剣士ではないようですが」

 

「いいや、俺の求めてるのとは違うようなんでな」

 

「ほほう、もしや貴方も剣を収集しているので? それは気になりますね! どんな刀剣を収集しているのか、是非とも教えていただきたいところなのですが……」

 

 平穏な空気が、突如、転変する。

 セシルスの手が刀にかかる、それだけで周囲に死の気配が充満した。

 それを鋭敏に察知し、ソルは顔を顰めながらもそれをおくびにも出さず冗談めかして言う。

 

「俺にはアンタと敵対する意思も、戦う気もないんだがな。アンタのお目当ての石なら盗賊のアジトん中にたんまりある。見逃しちゃあくれないか?」

 

「そうですね。僕も元々この任務には興味がありませんでした」

 

 一見見逃してくれそうな思わせぶりな言葉を吐いた男だったが、──刀を握る手は緩まず、それどころか鞘から刀を押し上げた。

 

「ですが、貴方に興味がわきました。──一つ、お手合わせ願えますか?」

 

 ──来る。

 そう予期した瞬間。

 目にも止まらぬ抜刀。

 

「──っ‼」

 

 咄嗟に後ろ──ではなく横へと跳ぶ。

 すぐさま背後の木々が横転する。

 

「おお! これを避けますか! 只者ではないと思っていましたが、そうですか。これなら剣士でなくとも楽しめるかもしれません。弱い者イジメは僕の美学に反しますから」

 

「……噂通りよく喋る奴だな」

 

「え! 僕ってばやっぱり噂になってるんですか?」

 

「ああ、噂に違わぬ戦闘狂だ」

 

「ひどいなぁ、剣士の性と言ってください」

 

 戯言を交わしながらも斬撃が飛び交い、それをソルは防戦一方で交わし続ける。

 隙がなく、故に反撃のタイミングがない。まだまだ様子見だろうに、その剣速が目で追えず、第六感でなんとか凌ぐことしか叶わない。

 

「こちとら連戦の後で疲れてるんだ。やるなら後日にしてくれよ」

 

「そう言って逃げる気でしょ──っ!」

 

「──“バン”」

 

 凄まじく精錬された刀捌きで一切の隙を見せぬセシルスが唯一付け入れる隙となれば、それはお喋りな点に他ならない。

 会話の最中に多少の傷を覚悟して反撃する。

 頬を刀の切っ先が通って、代わりにその指先を彼へと向ける。

 そうして放たれるは不可視の砲撃。

 

「ちっ」

 

 ──しかし、()()()()()

 見えていないはずだ。しかし、些細な空気の揺らぎを感じ取ったのか、はたまたソルのような第六感、すなわち勘が働いたのか。

 セシルスは咄嗟にその身を翻し、その直後、背後の木々が横転した。

 そのまま追撃が来るかと思われたが、セシルスはその場に踏みとどまった。

 

「……僕が斬らずに、避けた?」

 

 ぶつぶつと何事かを呟き、

 

「──面白い。なるほど、仕組みはわかりませんが、僕の本能が咄嗟に回避を選択するくらい危険だと判断したみたいです。ああ、それはなんとも、──屈辱だ。もう一度撃ってください。今度は避けませんから。──今度は、斬り落としてみせます」

 

 どうやら先の行動が彼の琴線に触れたようだ。

 さあ撃ってこいと言わんばかりに彼は刀を腰だめに構えた。

 

「───」

 

 それに付き合う義理などソルにはない。

 ないが、──それ以外の行動は赦さない、そう言わんばかりの彼の此方に向ける視線がソルを縫い留めた。

 

 その男の目が、一心に此方へと向けられている。

 その瞳には斬れないなどという発想はなく、自身に斬れないものなどないと信じ切っている。

 セシルス・セグムントという男が目指すは剣の頂、すなわち──『天剣』。

 そんな彼に斬れないものなどあってはならない。

 

 天も魔も、人も鬼も、等しく斬り裂いてこその剣の頂。

 

 それがなんであれ、斬らないままでは終われない。

 それでは負けを認めたようなものではないか。

 ──ただの一人の剣士として、負けたままではいられない。

 

「──“バン”」

 

 わざわざ撃ってやる必要なんてない。

 しかし、撃たねば死ぬ。

 故にソルは撃った。

 

 最速の一撃。威力を落とし、速さに特化させた。

 その速さは物理法則を超え、空気抵抗を無視して男へと迫る。

 不可視の砲撃。

 到達までコンマ一秒もなく。

 瘴気という得体の知れないエネルギーの塊。

 そんな次元を超えた力に対し、 

 

 

「──二番刀『夢剣』マサユメ」

 

 

 男は一振りの愛刀を振るった。

 

「───」

 

 

 ──死。

 

 

 その一撃が、不可視の砲撃を切り裂いて、ソルの首を両断した。

 

 

◆◇◆





 ※一番刀と二番刀が逆でした。これもネット調べの稚拙さ故。まぁ、ここから話の流れ変えるのも不可能なのでこのままいきます。特に物語に影響はないはずですので。悪しからず。

 セシルス・セグムント 
 作者が書いたことも読んだこともない存在。オボレルでしか見たことがない。天剣と呼ばれる剣の頂を目指していて、強者との闘いを望んでいる。ヴォラキア帝国九神将が『壱』である。強い。神将の座についてまだ時間が浅く、青き雷光と呼ばれたのは今回が初めてだった。いい二つ名だと彼は思った。

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