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音に伝え聞く尋常ならざる力を秘めた十の魔剣。
それらの力は一つ一つ異なり、扱いが難しいものが多分を占める。されど、使用者に絶大な強さを与えることは変わらない。
魔剣マサユメ、通称『夢剣』。
ソルはその魔剣を知っている。
知で及ばぬ力を得る為に、果てしない力を手に入れる為に、ソルはすべての可能性を模索していた。その一つにして本命の一つが魔剣だ。
ソルが求めているのは『愛剣』と呼ばれる魔剣だ。
文献と風説からソルの求めている力に合致していたのが愛剣だった。
ロム爺に情報を集めさせてはいるが、未だに噂の一つもない。
集まるのは他の魔剣の情報ばかり。
その中にあったのは『夢剣』、『邪剣』、『陽剣』、『命剣』、『呪剣』、そして『龍剣』だ。
前者の二つは帝国の九神将が『壱』セシルス・セグムントが所持していると分かっていた。また『陽剣』も帝国にあり、帝国の玉座に付く資格を持った皇族にしか扱えないという。
『命剣』はルグニカの軍属貴族が持っていたのを盗んできた為、今はソルが持っている。──が、アレにできるのは精々がオドの破壊。肉体を削るだけでもオドを削り取り、その魂を貪るというが、結局はただの剣だ。剣士でもないソルには使えない。
『呪剣』もまたソルが所持している。王都の裏組織にしてソルの雇い主である『六枚舌』の
そして、『龍剣』。そう、『龍剣』だ。
それは力だった。圧倒的で、破滅的で、次元も人智も世界の理さえも超えた『力』だった。
──忌々しい。忌々しい。思い出すだに忌々しい。
青眼に燃えるような赤髪の男だった。
──忌々しい。
己を邪魔し、されど己の怨敵を討たない運命の奴隷。
──忌々しい。
出会った瞬間に死を覚悟したのを覚えている。
──そうしてそのまま死んだことも覚えている。
あれだけの力があって、あれだけの才能があって、しかし人に、国に、運命に縛られている受け身人。
それだけの力があったなら、──『あいつ』が、俺が、こうなる前に終わらせられたはずだろうに。
──見当違いの憎悪が胸に奥底で燃え上がり、膨れ上がる。
力。力だ。力が必要なんだ。
あいつさえも殺せるような、そんな圧倒的な力が。
埒外の、常識外の、人外の、力が。
暗い、暗い、思考の海の底で。
ソルはしかと目を開く。
脳裏に焼き付くのは、──黒より黒く輝く『角』に、血のような瞳と髪色をした、鮮血に染まる女の横顔だった。
『──────』
──俺が必ず、お前を殺してやる。
その思考を最後に、意識は暗転した。
◆◇◆
「──っ」
暗転した意識がすぐさま明転し舞台へと舞い戻る。
頭がふらつき、額を押さえながら正面を見る。
そこには歓喜に震えた『セシルス・セグムント』がいた。
──死ぬ直前に戻ってきた、のか?
そう、青年が思案した時だった。
「──黒服殿、素晴らしい! 感嘆しましたよ! このような何でもない日に貴方のような強者に出会えるとは! 全くもって天に感謝を捧げたい気分です!」
わけのわからぬ言葉を放つセシルス。
その表情は無邪気な様相を呈していた。
どうにも、意図が掴めない。
「魔法、いや、呪術ですか? もしや貴方がカララギの『礼賛者』だったりします? いや、彼は確か亜人だったはず。であれば、端役に収まらぬ力を持った貴方は一体何処の何方なのでしょうか」
語る、語る、なおも語る。
台本に書かれた台詞を読むように、演技がかった言葉を宣う。
「僕もなるべく悪役は避けたいところですが、どうやら貴方も日の元を歩く人間ではない模様。ならば、遠慮なく舞えるというもの」
──今、自分は確かに死んだはずだと。そうソルは考えていた。
男の剣に、首を両断された。そのはずだ。なのに、今、確かに首と胴は繋がっている。
まさかすべて『夢』だったとでも言うのだろうか。否、そんなはずはない。
ならば、まさか、『回帰』したとでも言うのか。それこそまさかだ。あり得ない。あり得るはずがない。──死後に『回帰』することなど、今まで一度たりともなかったのだから。
答えの定まらぬソルを置いて、セシルスは続ける。
「おっと、すみません。一人で舞い上がってしまいました。いけない。花形と言えど、舞台は対手と為すもの。貴方を置いてけぼりにしてしまうとは僕もまだまだです」
何を言っているのか甚だわからない。
しかし、こいつはどうやら今起きた出来事を把握しているようだ。
「今何が起きたのか、そう疑問にお思いでしょう? まず断言しましょう。僕は今確かに貴方の首を斬りました。──しかし、貴方はそれに耐え、『死』から戻ってきた」
死からの回帰。それは青年にとって慣れ親しんだものであり、しかし現状はその青年すらも混迷をきたす状況だった。
「『夢剣』は斬らずして斬る『夢幻の刀』。これを使えば、僕は
説明しながらも、興奮を隠さず笑みを零す枠外の剣士。
ソルとは違う、ただ一振りの剣でもって理を超えた超越者。
そう、ソルは今間違いなく死んだのだ。
戻ってこれたのは、偶々死に慣れていたからに過ぎない。
まったくもって笑えない話だ。
「死ぬのは慣れてるんでな」
そうな冗談めかして答えるしかない。
「へぇ、それだけ死線をくぐってきたってことですか? ──うん。貴方、いいですね。やはり端役に収まる器ではない。主役級、あるいは悪役級。イイ舞台には名悪役が付き物ですから!」
「……勝手に人を悪者にするんじゃねぇよ、主役気取り」
「──僕の『
──猛き剣気が迸る。
無形の闘気があたりを占める。
まるで彼こそが主役で、自分こそが悪役だとでも知らしめるかのように。
周囲の大気が歓喜に震える。まるで彼の晴れ舞台に喝采するように。
それを見て、感じて、黒く暗く青年の目は沈む。
──気に食わない。
彼は間違いなく花形なのだろう。誰でもなく彼自身の人生において。
俺とは大違いだ。
しかし、だからと言ってこのまま主人公にやられる噛ませ犬のような存在になるつもりはない。
一度死んだのだ。なら、──思いっきりやってやろう。
出し惜しみなしだ。
ソルはその指先に、肉体を蝕み、精神を犯し、魂を穢す『呪剣』の瘴気を濯ぎ灌ぎ注ぎ込む。
──純黒の始源をここに。
もう石はない。故に自身の身に魂に、溜め込まれ蓄えられた瘴気を使う。ぎゅんぎゅんと空気を取り込み、引力を発生させる世界に生まれた特異点。
「──貴方! やっぱりイイですね──‼」
「──死ね」
応答は短く。
「──『剣客』セシルス・セグムント。貴方も名乗っては?」
「名乗る名前なんてねぇよ」
「それもまた良し、ですね」
これより先に会話は不要。
「──『始源』“ビッグバン”」
「──一番刀『邪剣』ムラサメ」
一振りの刃が鞘から解き放たれ、目にも止まらぬ速度で男が迫る。その軌跡には鮮やかな深い瑠璃色が残る。ジグザグと散乱する木々の破片を避けながら猛進する。その速度、その軌道、その動きこそはまさしく『青き雷光』。
──それが一秒にも満たぬ時の中で行われた。
現実には一瞬、──雷鳴が轟いた。
──振り抜かれる。
キィンと、小さく細やかな玉鋼が鳴り響く。
そして、鮮明に鮮やかに銀閃が煌めいた。
次の瞬間、凝縮された黒が上下に別たれ、空気が割れ、空間が歪み、世界が切り裂かれた。
呪い蝕み穢れた闇を、それすら飲み込む邪悪が切り裂く。
ありとあらゆる負を凌駕して、自らの力へと変えた最凶の魔剣が、ソルの力さえも取り込んで怪しく光る。
振るう男の瞳も赤く輝き、限界を超えた力を解き放つ。
──赤き斬月迸り、唐紅の紅葉舞う。
気づけば、あたりを静寂が支配した。
「──逃げられましたか」
ぽつりと男は呟いた。
相手が尋常ならざる力を放ったと同時、それを目くらましに背後に退いていくのが見えていた。
しかし、視線を刀へと移すと、そこにはべっとりと、深紅の血が垂れていた。
「浅くはない傷……追うか追わざるか……。ま、いいでしょう。生きていればよし、死んでいるもよし。──ただ、あの方とはまた会える気がする。そう僕の勘が言っている気がします」
血に濡れた刀を一度払い、血を掃った青年はその刀を肩へと担ぎ、そう締めた。
◆◇◆
夢剣マサユメ
その能力は、『斬るという絶対の意思で剣を抜かずして敵を斬る力』。すなわち、殺気で敵を殺せる魔剣。極まった剣士がこれを持てば、剣を降らずして人を切ることすら可能とする。現所有者、彼の前では端役は立つことすら許されず軍も群も零速の死を免れない。なお、完全にオリジナルの能力である。
所有者はセシルス・セグムント。
邪剣ムラサメ
その能力は『魔を斬り、人を斬り、神を斬り、すべてを己の糧とする最凶の力』。自分の糧となるモノ、血やマナ、瘴気といったエネルギーを奪い、吸収する呪われた魔剣。今まで取り込んできた魂や怨霊が宿っており、所有者からすらも力を奪い、生半可な剣気であれば乗っ取られる。なお、オリジナル。
所有者はセシルス・セグムント。
呪剣ソル
瘴気を取り込み、所有者に操る術を与える魔剣。今はソルの肉体と癒合していて取り出すことは不可能。ソルに瘴気や呪術の力を与えている。なお能力はオリジナル。
所有者、ソル。
命剣ゼアム
精霊殺しの魔剣と呼ばれる。オドを破壊することの出来る魔剣。精霊のような肉体のない存在に干渉できる。なおオリジナルではない。リゼロス、オリジナルストーリー『ゼロカラアガナウイセカイセイカツ』で登場した。
現在の所有者はソル。
『愛剣』???
ソルが求める唯一の魔剣。その詳細は不明。言い伝えによれば、数多を魅了するいと美しき剣だとか、愛という不確かな存在を証明したいと望んだ酔狂な鍛冶師による遺作だとか、他のどの魔剣よりも呪われた魔剣だとか。その伝聞は多岐にわたる。
完全にオリジナル。
現在の所有者は不明。
ソル
嘘か狂言か。彼は何度も死んだことがあるらしい。己が身に呪剣を宿すという狂気を実行し力を得た。その代償は重く、自身が遠くないうちに破滅することを悟っている。復讐、憎悪、執念に溺れて、彼は日夜空間を跳躍し、時空を超える。
すべてはただ一つの願いの為に。誰が為、少年は往く。