ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第二十三話『閑話休題』

◆◇◆

 

 

 退院して一週間が経った。

 

 体調も回復し、レムと共にいつもの書室へと戻った。

 

 鈍った身体を慣らしながらいつもと少し変わった日々を過ごした。

 

 

 

 明確に変わったのはレムの態度だろう。今までのこちらの顔を伺いながら喋る癖は見る影もなくなり、まるで遠慮もなく俺を兄と呼んでくる。いや、遠慮がないのは元からだったか。

 

 それで何が変わるわけでもなかったが、悪い気分ではなかった。

 

 レムが飯を作りたいと言ってきたり、フェルトが義賊団を結成したりと小さな変化は色々あったが、一番大きな変化は『あいつ』が近くに住み着いたことだろう。

 

 

 

 三日前、約束した通りエルザと再会した。

 

 持ち得る情報を交換し、殺す手立てや方法を話し合った。

 

 分かったことは、エルザの偽の母親であり雇い主が『色欲』の大罪司教であるということ。

 

 あいつ曰く、そいつは人を羽虫に変える力と自身の姿を変容させる力を持つ性根の捻じ曲がった異常者らしい。人の腹を掻っ捌くことが性癖の女が言うのだから相当だ。

 

 そして曰く、『色欲』は『不死』らしい。

 殺す方法がない。斬っても焼いても死なないし再生する。

 自分も死なない身体だからこそわかるという。あれは自分では殺せないと。

 

 エルザとは違い、回数制限があるようなものではない。いくら殺そうと、地面に埋めようと、小さな肉片まで斬り刻もうと、再生する。それこそ殺すならば大瀑布にでも落とすしかない。

 

 魂ごと滅ぼせるソルの『力』であれば殺し切れる可能性はある。

 

 だが……もし、『色欲』が魂までも再生可能であった場合、その殺害は困難を極める。

 

 それでも、可能性がないわけではない。

 今のソルには、別の力がある。

 それを使いこなせればあるいは殺せるかもしれない。そんなことを話し合い、その日は話を終えた。

 

 そこでソルは別れる前にとある提案した。

 

 ──目的が達成できるまで、この近くに留まってはどうかと。

 

 『色欲』に歯向かったのだ。話を聞く限りそいつが報復に来る可能性は大いにある。協力関係を結び、何かあった時に対処を円滑にする為の提案だった。

 

 すると、エルザは隣の席でつまらなそうにしているメィリィを見て、暫し考えてから──了承した。

 

『……あなた、また何処か変わったかしら』

 

 別れ際に、そう言われたのを覚えている。

 

 

 

「あら、遅いお目覚めね」

 

 噂をすればだ。

 

 住処を出て盗品蔵へ向かう途中、そこでご近所さんとなったエルザと邂逅した。

 

 開口一番そう言ってくる。

 

「朝は弱いんでな。まだ寝足りねぇよ」

 

 彼女は俺が睡眠をとらないことを知っていて言ったのだ。故にこちらも冗談めかして応えた。

 

「さすが、私だけに情報収集を任せて妹と戯れているだけの人は言うことが違うわね」

 

「悪意のある言い方だな」

 

「ええ、その通りだもの」

 

 一見にっこりとした柔軟な笑みを浮かべてエルザは言う。だが、その目はちっとも笑ってなんかいなかった。

 

「腹が黒いな」

 

「そうかしら。開いて見てみる?」

 

「くだらねぇこと言うな。俺にそんな趣味はねぇ」

 

「あらそう、残念ね。それで、今日もするのかしら」

 

 不意にエルザはそんなことを問う。

 

「……そうだな。食後の運動に丁度いい」

 

 それにソルも首肯した。

 

 

 

 二人は貧民街でも住居のない空き地に移動し、そうして始まったのは──互いに本気の殺し合いだった。

 

 ソルは新たな『権能』を慣らす為、エルザは単純に戦闘を楽しむ為、互いに遠慮はなく殺す気で攻撃を交わす。不可視の攻撃が舞い、鮮血が飛び散る。

 

 レムが見れば確実に止めるであろう凄惨な光景だった。

 

 それを二人は喜々として行っていた。

 

 

◆◇◆

 

 

 どすん、と使い込まれたボロくも頑丈な机に酒瓶が乱暴に置かれた。

 

「飲め、グステコの火酒じゃ」

 

 この蔵の主、ロム爺はそう言って酒瓶を開け、二つの盃に酒を注いだ。

 

「………」

 

「グステコの……もしかして『グランヒルテ』か?」

 

「おう、そうじゃ」

 

「まじかよ、よく手に入ったな。旨いって有名なやつだろ?」

 

「伝手があるんじゃよ、伝手が」

 

 それは『グランヒルテ』と呼ばれる酒だった。

 グステコはほぼほぼ鎖国状態の為ほとんど手に入らない。

 さすが王都の裏社会の顔役と言ったところだろうか。

 

「お前さん、グステコの出身なんじゃろ? 飲んだことはあるか?」

 

「……いいえ」

 

 『グランヒルテ』と聞いて思い浮かぶのは当然この女だ。

 ロム爺も名前を聞いて仕入れたのだろう。

 

 エルザはじっと火酒を見つめて、そうしてぐびっと飲んだ。

 

「どうだ? 美味いか?」

「……いえ、特に好きな味ではないわね」

「そうか」

「でも、感謝するわ」

「うむ」

 

 ロム爺とエルザの関係もほどほどに良好のようだ。

 

 そうして、自分も飲んでみて……

 

「うげっ、んだこの酒!」

 

 同じようにぐいっと飲めば、思った以上に高い度数にむせた。

 

「なんじゃ、これぐらいなんでもないじゃろ」

 

「……巨人族の爺さんと一緒にすんなよ、これさては薄めてねぇな?」

 

 俺らには小さなコップで出したが、ロム爺は酒瓶をそのまま飲んでいる。

 

「なんじゃ、酒を薄めるなんざ酒飲みのすることじゃないぞ」

 

「はぁ……これだから酒は飲まねぇんだ」

 

 いつもはケチくさく安酒をさらに薄めて飲んでる癖に、今日は無駄に奮発しやがって。

 

「賭け事のせず、酒も飲まず、葉巻も吸わんとは、お主それでも男か?」

 

「その三つに溺れてる奴は男じゃなくて碌でなしって言うんだよ爺さん」

 

「お主とどう違うと言うんじゃ。お主だって金の亡者だろう」

 

「言うじゃねぇか、また床とキスしたいのか?」

 

「上等じゃ、その舐め腐った性根叩き直しちゃる!」

 

 珍しく強い酒に二人とも多少酔ったのだろう。

 互いに好戦的に拳を振り上げた。

 

 

「がおー、がおー! たべちゃうぞー!」

「きゃ~、たすけて~」

「ふはははは、誰も助けにはこないぞー!」

「きゃ~」

「……これ何が楽しいんだ?」

 

 

「………」

「………」

 

 立ち上がった二人はすっと手を下ろし、腰を下ろした。

 

 無邪気な声に毒気も酔いも抜かれてしまった。

 

 部屋の端には可憐な少女三人が集まってままごとに勤しんでいた。

 

 若干一名、それの楽しさがわからないものがいるようだが、それでも義賊団の仲間に将来有望な少女を入れる為参加している。

 

 

「それで、爺さん。『色欲』の情報は手に入ったか?」

 

 ソルは冷めた思考で話を切り替えた。

 

「そう簡単に言うでない。(やっこ)さんに動きがなければ情報など出回るはずもないじゃろう」

 

「後手じゃねぇか。お前はなんかそいつの住処の当てとかないのか?」

 

「ないわね。指示はいつも『対話鏡』越しだったもの。でも、あの人が居所を転々としているようにも思えないから、どこかしらに拠点は構えてるはずよ」

 

「グステコかカララギかヴォラキアか、もしくはここルグニカか。せめて国は絞らねぇと話にならねぇな」

 

「そう焦るものでもない。あちらさんが動かないのであれば焦る必要もないじゃろう?」

 

「それはそうだが……………それもそうだな」

 

 問題の早期解決するに越したことはない。

 だが、焦っても始まらないこともまた確かだ。

 

「なら、情報が集まるまでは今の事だな。差し当たっては、やっぱり金か? お前、暗殺家業はやめるんだろ?」

 

「どうしてそう思うのかしら」

 

 そう聞き返されれば、ソルは部屋の端へと視線を向けて答えた。

 

「あっちの妹に危険な真似させたくねぇだろ?」

 

「あの子はああ見えてそれなりに歳を重ねているはずだけれど?」

 

「あれでか?」

 

 そう言って、促せば。

 

 

「きゃー! 凄いわあ、あなたとってもお上手なのねぇ」

「それほどでも……えへへ」

「なら次はぁ、そっちの子に怪獣役をやってもらおうかしらぁ」

「げっ、アタシか? が、がおぉ……」

「フェルトちゃん……」

「恥ずかしがり屋さんなのねえ、可愛いー!」

「う、うっさい!」

 

 

「……あれでか?」

 

 ソルは改めて聞いた。

 あれで幼くないなど、流石に無理がある。

 

「……とてもそんな風には見えないわね」

 

 それにはさしもの彼女も否定できるものではなかった。

 

 

「なら、今度は俺の仕事を手伝うか?」

 

 

◆◇◆

  

 

 それから漫然と時間は流れた。

 

 

 俺は金稼ぎしながら情報収集に努め、仕事のない日にはレムやロム爺、エルザと模擬戦などをして過ごした。

 

 置いていかれることを極度に嫌がっていたレムは今や見る影もなく。

 陽日はフェリスに治癒魔法を習いに行き、フェリスが忙しい日はメィリィやフェルトと遊んだりなど、精力的に日々を過ごしていた。

 冥日になれば書室に戻り文字の学習。

 順調に習熟してイ文字とロ文字をマスターし、あとはハ文字だけだ。

 どうやら明確にフェルトの義賊団に入り、先輩のフェルトに手管を習っているらしい。本当に盗人稼業始めそうな勢いだ。

 他にもエルザやロム爺に頼み込んで戦闘の手ほどきを受けているところも見た。

 その成果として角もかなり扱えるようになってきたようだ。俺も偶に参加して見ているが、年齢にしてはかなり強くなっている。これが鬼族としての力ということだろう。ただ、武器として盗品蔵にあったモーニングスターを選んだのはどうかと思う。

 堅実に日々を過ごしているレムだが、自身もまた日々の成長を感じて楽しんでいるようだ。

 傍から見てもとても健康的で健全な生活を送っていると思う。

 

 内心、よかったと思うばかりだ。

 彼女が笑って平穏に過ぎしている様子をみれば、俺の選択が悪いものではなかったと思える。

 

 ロム爺には情報収集を任せているが……順調とは言えない。『色欲』の情報は()()()()()()()()()()()()()()に隠れて一向に見つからない。

 

 エルザは俺の仕事を一部回して裏の人間の護衛や警護をしている。

 レムのことも気に入っているようで喜々として組手や模擬戦の相手をしている。

 うちの近くに住み、メィリィと共に暮らしている。姉妹よろしくやっているようで何よりだ。

 

 メィリィはどうやら文字の読み書きはちゃんとできるらしい。『ママ』に教えられたのだとか。とても暗い顔をしているのを見るにかなりの恐怖体験だったのだろう。それ以上聞くのをやめた。

 メィリィはとくに仕事をするでもなく、日々をレムやフェルト、そしてエルザと過ごしていた。

 人形が欲しいらしく自分で作ろうとしていたから裁縫道具を買って与えた。もしかすれば裁縫の仕事の才能があるかもしれない。本人にそのつもりはないだろうが。

 彼女もまたフェルトの義賊団に入って色々とやっているようだ。

 

 手癖が良く逃げ足のはやいフェルトに力の強いレム、それに『魔操の加護』を持ち手数の多いメィリィが本格的に組んだ日にはかなり厄介な集団になるだろう。 

 彼女らに狙われる将来のルグニカ王国に蔓延る悪徳貴族を思えば、愉快で笑える。

 

 

 そうやって各々日々を過ごした。

 

 

◆◇◆

 

 

 さらさらとした乾風が吹く。

 さんさんと陽の日が降り注ぎ、たまの雲で地が陰る。

 そうしてまた一つ風が吹く。

 

 それを家の庭先で本を読みながら肌で感じる。

 

 最近は色々あってゆっくり本を読む時間がなかった。

 同居人もいたし、焦りもあった。

 だからこうして本を読む時間は久しぶりだ。

 

 すると、自然と懐かしいという気持ちが湧いてくる。

 

「───」

 

 目を閉じて、爽やかな風を感じて、椅子に背中を預ける。

 

 ……眠れはしない。しかし、確かに心地よさを感じる。

 

 思えば、長い時間を過ごした。

 真っ直ぐ、これまで突っ走ってきた。

 振り返らず、前だけを見て、すべてを捨てる覚悟で。

 

 止まらなかった。止まれなかった。

 

 だが、今はどうだ。

 

 本当は、止まりたいと思えているのではないか。

 

「………」

 

 どこにいようと空は青く、陽は上り、変わらぬ風が吹く。

 

 じっと、深く意識を集中させる。

 すると、湧き上がる復讐の炎。

 しかし、それは前よりも遥かに小さい。

 

「……『ルナ』」

 

 ──代わりに湧き上がるのは、郷愁と追悼。

 

 ルナと、そう彼が呼ぶのは一人だけ。彼の妹の名だ。

 

 ()()()に来てからというもの、妹の名を思い出す機会はなかった。助けたいはずの妹のことなんて意識にはなく、心にあったのは、どうすれば殺せるかというその思考だけ。

 

 本当に自分は助けたくてここまで来たのか。

 

 再びじっと考えればすぐに答えは出る。

 

「………助けたいに決まってる」

 

 助けたいさ。助けたいんだよ。生きて欲しいんだ。

 

 しかし、その為にすべてをかなぐり捨てる覚悟が、結局自分にはできなかった。

 

 体のいい言い訳をして、逃げて、逃げて………レムに縋った。

 

「………本当に、人でなしだな。犠牲にしようとしていた相手に救われるなんて、そんな馬鹿な話があるかよ」

 

 救われていた。救われてしまっていた。

 どれだけ覚悟を決めても、大口を叩いても、一人は辛いものだから。

 

 ()()には仲間はいない。妹もいない。天涯孤独。

 

 ………死んでも、きっとあいつらには会えない。

 そうして、もう会えることもない。

 それでも、そうするだけの価値があると思った。

 

 だから、一人で戦う覚悟を決めたのだ。

 

 決めたはずだったのに。

 

「……俺は、弱いな。あいつらみたいに強くない」

 

 そう自虐して、しかし。

 

「──だが、あいつらの想いをなかったことにだけは、俺が絶対にさせない」

 

 それだけは、ソルがソルである為に変えられぬ一線。

 

 ソルがソルより遥かに強い仲間たちに王と慕われる根源的な理由だ。

 

 ソルは仲間を忘れない。

 ソルは仲間を傷つけた存在を絶対に赦さない。

 ソルは、こうと決めたら絶対に諦めない。

 

 例え自分の命が失われようと、自身の信念を捻じ曲げることはない。

 

 怠惰に誘われようと、憤怒に焦がれようと、暴食に吞まれようと、そこだけは変わることがない。

 

「俺が、あいつらをなかったことにするなんてことは、ない」

 

 止まれなかった今までとは違う。

 振り返らず、すべてを捨てて突き進む前とは違う。

 

 今は、抱えて進むのだ。

 前へ、前へ、生きる為に。

 

 

 

 思考は纏まり、答えは出た。

 ソルは瞼をあげ、思考の底から現実へ引き戻された。

 

 そこへ、とことこと元気よく少女が走ってくる。

 

「お兄ちゃーん! ご飯できました!」

 

「ああ、今行く」

 

 今日はレムやロム爺、エルザたちとバーベキューのようだ。

 いつもは俺が作っているが、今日はレムが肉を焼きたいらしい。

 

「とっても上手に焼けたので楽しみにしててくださいね!」

 

「──ああ、楽しみにしてるよ」

 

 そう言って二人は静かな貧民街を並んでいく。

 時間は平和に過ぎていく。

 

 味覚はないが、きっとそれは美味しいのだろう。

 

 

 ふと、何かを思い出した。

 

「……何を食べるかじゃなく、誰と食べるか、だったか? ……そうだな。あいつの言ってたこともあながち間違いじゃなかった」

 

「お兄さん、何か言いましたか?」

 

「なんでもねぇよ。それより、野菜もちゃんと用意してるんだろうな」

 

「勿論です。ピーマルもありますよ。焼いてあげましょうか?」

 

「なんだ。意趣返しのつもりか? 望むところだ。たらふく食わせてやる」

 

「え、えぇ!? 今日はレムが焼く日ですよっ!」

 

「はっはっはっは」

 

「お兄ちゃんっ」

 

 

 笑って、ただ心の底から笑って、時間はあっとう言う間に過ぎていった。

 

 

◆◇◆

 

 それから瞬く間に月日が流れた。

 

◆◇◆

 

『お兄ちゃん!』

 

『なんだ?』

 

『えへへ、何でもないです』

 

『そうか』

 

◆◇◆

 

『兄ちゃんもウチに入れよ!』

 

『だから入らねぇって………はぁ、気が向いたらな』

 

『おおっ! 兄ちゃんがデレた!』

 

『ぶっとばすぞ』

 

◆◇◆

 

『お兄さんはどうして私に優しくしてくれるわけえ?』

 

『俺が優しく?』

 

『だって、私にお人形さんくれたり、お道具買ってくれたじゃなぁい』

 

『気まぐれだよ、金は有り余ってるからな』

 

『そっかあ、お兄さんってばチョロいのねえ』

 

『おい』

 

◆◇◆

 

『なんで爺さんは俺たちに協力してくれるんだ?』

 

『金は貰ってるからの』

 

『別に断ってもいいんだぜ? もう十分な金はあるんだろ』

 

『そうじゃな、普通に食うに困らないだけの蓄えはある。じゃが……儂はこの仕事を気に入っておる。それだけじゃ』

 

『物好きな爺さんだな。金の切れ目は縁の切れ目だろ』

 

『お主は若い癖にどうにも擦れとるの。思考が老人のそれじゃ』

 

『爺さんほどじゃねぇよ』

 

『どういう意味じゃ』

 

◆◇◆

 

『暗殺家業は仕舞いにするんだろ?』

『──姉妹だけに、ってことかしら』

『……はぁ?』

『……なんでもないわ。忘れて頂戴』

『──ぷっ、くはっ、ははははははは!おま、お前っなんだそれ!お前がそんなつまらない冗談を言うなんてな! ロム爺の洒落でも移ったか?』

『っ、忘れなさい!』

『ははっ、嫌なこった』

『──いいわ。そのお腹切り開いてあげる』

『おいおい、物騒な照れ隠しだな』

 

『くくっ、似合わねぇ、似合わねぇけどよ。今のお前、嫌いじゃないぜ』

『……そう。私は不愉快よ。死になさい』

『どわっ』

 

◆◇◆

 

 とりとめのない日常は風のように過ぎ去って。

 

◆◇◆

 

『──聞いたか?』

 

『プリステラが消滅したんだってよ。一晩でだぜ?』

『ホントなんだって!でけぇ商会の奴が言ってたんだ!』

『噂じゃ魔女教の仕業だって話だぜ』

 

 ──あいつだ。

 

 あいつが、とうとう姿を現したのだ。

 

 平穏な日々も遠く、終わりの足音は着実に近づいてくる。

 

 ──終わり(別れ)はいつだって突然に。

 

◆◇◆

 

 

 それはある日の夜のことだった。

 

 

 外は嵐に包まれていて、街の喧騒も鳴りを潜めていた。

 雨に打たれた状態で呆然とする一人の少女の元へ。

 遅れて駆け付けたソルとレムが声を掛ける。 

 

「メィリィちゃん……!」

 

「……メィリィ、何があった」

 

「お兄さん………エルザが、エルザが……」

 

「……あいつはどうした」

 

「ぐすっ、『ママ』に連れていかれちゃった」

 

 自分のせいだと泣きぐずるメィリィをレムが宥める間、ソルは意識を改める。

 

 ザァザァと雨が降りしきりコートを濡らす。

 雨に晒されるほどに思考は冷え切っていく。

 

 どうやら、余談はここまでのようだ。

 

 それは、雷轟ひしめく夜だった。

 

 

◆◇◆

 





 
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