◆◇◆
「抵抗しないでほしいなぁ。って言っても、無理だろうねぇ」
ジェスターは笑っていた。
まるで、すべてを知っているように。
「キミの意志が固いことは、ボクが一番分かってる。そうさ、キミのことなら何でも知ってる。キミが情に厚い人間で、理想を追求する人で、途中で何かを諦めることなんてできない男だってことも。そして、キミがただの子供を殺せない奴だってことも、ね?」
「……」
「ほぉら、みんなぁ。ママの敵を捕まえる遊びだ。イイ子のみんなならできるよね?」
「ひっ、で、できる!」
「つかまえるっ」
「ママの敵め!」
「こわいよぉ」
「恨みはないけど、死んでください」
「お仕置きは嫌なのぉ!」
「ママのためにっ、ぼく頑張るっ」
「ママ!」
「まま!」
「ママ!」
その歪な光景に、レムは理解が及ばず、メィリィは理解が及んでしまった。
「お兄ちゃん、どうするの……?」
自分よりも小さい子供。
それも、脅された子供ともなれば、レムは彼らに乱暴できない。
「おやぁ? その子はもしかして例の子かい? あれだろ、“あの女”の肉親。凄いなぁ、瓜二つじゃないか。よくそんなのを今まで傍に置いていたよねぇ。さぞ憎かっただろう。さぞ殺したかっただろう?」
「……」
「それも今日までさ。キミはここで暮らすんだ。もうその子は要らない。ほら、殺していいよ?」
そう言って、ジェスターは剣を差し出した。
「この剣、欲しかったんだろ? 『愛剣』ラヴサイド。その能力は『愛し合う者の心中』。魔剣らしい、呪われた力だ。この剣でその子供を殺せば、その子供を愛し、その子供に愛される存在も一緒に死ぬ」
「──!」
それに反応したのはレムだった。
レムはソルの方を見る。
ソルが否定しないことで、それが本当であることを悟った。
「レムを、愛する存在……? レムには、そんな人……」
「知らない? ああ、記憶がないんだっけ。あんまりに元気に過ごしてるもんだから忘れてたよ。そうだよ。キミのあの女と瓜二つな顔を見て、彼はすぐに悟ったんだ。キミがあの女と肉親、いいや、『双子』だって」
「双子……」
「双子は特別なんだ。生まれながらに魂に繋がりがある。それと『愛剣』を利用すればあら不思議、どんなに強大な敵だろうと殺し得る。それが、ソルの本当の目的。悲願だ」
ジェスターは、甘やかな声で毒を垂らす。
「どう? 驚いた? キミは最初っから愛されてなんていなかったのさ。生贄。家畜。いつかその芽を摘むためだけに生かされていたのさ。そうだろ、ソル」
「……」
「まだ記憶は取り戻せていないようだけど、ボクが協力しよう。ママもそういうことは得意なはずだ。その子供の記憶を取り戻し、この『愛剣』で突き刺す。そうすれば、神サマだろうと磔にできる。もう何も頑張らなくていい。安心して余生を過ごせる。キミは全部終わったら死ぬつもりだったんだろう?」
それは、優しさの形をした呪いだった。
「ここにはキミを知る人間も、キミの大切に思う人間もいない。でも──ボクがいる。キミを知っていて、キミに救われたボクがいる。だから、今度はボクがキミを救いたいんだ。孤独で一人ぼっちなキミを一人にはしないよ。ずっと一緒にいる。ボクも力を手に入れたんだ。簡単に死にはしない。ボクとママ、そうしてキミで暮らすんだ。こんなに理想的なことはないだろ? ねぇ? ──ソル。ボクはキミに、幸せになって欲しいんだ」
一方的で、しかし確かな親愛の籠った言葉だった。
だからこそ、気味が悪い。
救った記憶もない相手にそんなことを言われては、怖気が走るばかりだ。
「お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんです。貴方のじゃない」
黙り込むソルに代わって、レムは毅然と言い返した。
「あ? 話聞いていなかったのかなぁ? キミはただの生贄。家畜なの。まさか言葉分からない? そこまで馬鹿なの? キミは彼の悲願のため、殺されるためだけに生かされただけだって言ってんの!」
「知ってます。お兄ちゃんがレムを生贄にしようとしていたことを、お兄ちゃんはちゃんと教えてくれました」
「──は? じゃあなんで一緒にいるわけ?」
「お兄ちゃんが、私のお兄ちゃんだからです。レムが、お兄ちゃんを愛しているからです」
「はぁ? きも。なにそれ、怖いんだけど。おいおい、ソル。その子供黙らせてくれ。冗談にしても質が悪いよ」
今度はジェスターの方が理解できず、ソルに助けを求めた。
「──ジェスターって言ったな」
「ああ! ソル、やっと名前を呼んでくれたね!」
「俺はお前を救った覚えなんてない」
「そうかい。そうだろうね。でも、キミが何もしなくても、キミの生き様がボクを救ってくれたんだよ。それがファンってもんだろ?」
それは、きっと事実なのだろう。
どうやってか、こいつは手に入れたのだ。
──俺の『記憶』。
あるいは、あいつらの『記憶』を。
いいや。
こいつが空間跳躍を使える時点で、察するべきだったのだ。
「お前、『死者の書』を読んだのか」
「……ああ、バレちゃった?」
ジェスターの顔が、恍惚に染まる。
「そうだよぉ、ようやくわかってくれたかい? そう、そうさ、そうなんだよ。ボクは読んだ。キミの人生。キミの仲間の人生。ぜぇんぶ見た。キミが生きて、死んで、足掻いて死んで、藻掻いて死んで、死んで死んで死んで、仲間も何もかも犠牲にして歩いてきた道を見た!」
声が高ぶる。
歪んだ憧憬が、濁流のように溢れ出す。
「──恰好よかった! こんな風に生きたいと思った! あんな風になりたいと思った! そのために君に関わる
「……あいつらの『死者の書』が、この時代にある? そんなことが」
「あるよ、あるんだこれが」
ジェスターは誇らしげに笑う。
「オド・ラグナは現在、過去、未来、すべての歴史を刻んでる。すべてを意のままに運命として定めている。だから、キミがここにいることも、キミの仲間の記憶が世界に刻まれていることも、何もおかしなことじゃない。嬉しいだろ? 彼らの人生はなかったことになったわけじゃない。朗報だ。吉報だ。くはっ、はははははは!」
笑う。
狂ったように笑う。
「ああ、ソル! ボクたちの太陽! ボクは今日、太陽をこの手に収める! ガキども、いけぇぇ!」
ジェスターが叫んだ。
幼い子供たちが、ソルに向けてけしかけられる。
武器を持たない子供。まともに飯を食っていないであろう痩せこけた子供。恐怖に震える子供。
それらが一丸となって、ソルの身体に纏わりついた。
レムは攻めあぐね、メィリィも魔獣の手が少なく後手に回る。
それを見て、ジェスターが喜々として突貫してくる。
子供ごと斬る気なのだろう。
「──『不慎』“シリウス”」
故に、話しながら魂気を広げていたソルは、呪いの言の葉を唱えた。
瞬間、けたたましい振動が村全体を覆い、凄まじい衝撃を引き起こす。
「あふん」
「きゃあっ」
「ぁあ」
「ひっ」
「……」
「マ、マ……」
ノーモーションの呪言だけで、襲い来る子供たちの意識が断たれる。
「優しいねぇ。それが新しい力かい? 殺すこともできたんじゃないの?」
「うるせぇ。──それより、そんなに余裕ぶっこいてていいのか?」
「んー?」
「とぼけんなら、そのまま死んでけ。──“バン”」
ソルが手銃を放つ。
すると、ジェスターは空間を開き、そこから一つの人影を取り出した。
「おっと、気を付けないと。──彼女に当たっちゃうよ?」
「──ッ、テメェ!」
ジェスターが盾にしたのは、意識のないフェルトだった。
ソルは放った弾丸にもう一度弾丸を放ち、それを弾く。
「「フェルトちゃん!」」
レムとメィリィが叫ぶ。
「くはっ、くはははは! 彼女だけじゃない。このお爺さんもお仲間なんだろ?」
再び空間が開く。
そこから、ロム爺の姿も現れた。
「ほぉら、仲間同士なかよくしないと。──起きろ」
ジェスターが二人の頬を切りつける。
すると、二人の身体が起き上がった。
しかし、その挙動はゆったりとしたもので、まるで操り人形のようだった。
「『愛剣』ラヴサイドにはもう一つ力があってねぇ。斬った相手を魅了できるんだ。この剣を打った鍛冶師は相当いかれてるね。剣で斬りつけることが愛だと思ってたんだ。くくくっ、愛なんて所詮外見なのにさ。まったく分かっちゃいないよ。でも、今は都合がいいから使わせてもらうとするよ」
「クソ野郎が」
「それと、『ベラトリクス』。出ておいで」
気絶した子供たちの中から、平然と一人の少女が這い出てきた。
ソルの権能で気絶しなかった。
つまり、それだけ意志が強いか、あるいは魂が強大か。
どちらにせよ、厄介な相手だ。
「キミはあっちの二人を相手してあげてくれ。できるだろ? ボクはソルの相手をしなくちゃいけないから」
「──こくっ」
少女は静かにうなずき、身体に見合わぬ鉄の大剣を構える。
「その子、ママに色々弄られてるから油断しない方がいいよ。ほら、子供は子供同士、あっちで仲良くしておいで」
「お兄ちゃん……」
「いけ。こっちは大丈夫だ。──『不浄』“アルファルド”。来い」
ソルが求める。
すると、ソルの手のひらに口が開いた。
そこから黒い物体、瘴気の塊が排出される。
それは徐々に大きくなり、最終的に二つの存在に分かれた。
生まれ落ちたソレは、全身真っ黒な体毛に覆われた黒馬と、全身真っ赤な毛皮に覆われた赤豹だった。
「“アインツ”と“ツヴァイ”。こいつらを連れてけ。お前の言うことなら聞くだろ」
そう言って、二体をメィリィに預ける。
「わぁ、かっこいいお馬さんねぇ」
躊躇もなくアインツに跨ったメィリィは、レムに手を差し伸べ、馬へと乗せた。
「お兄ちゃん、ご無事で……!」
「おう」
別れ際に言葉を交わし、少女たちは行った。
「……愛されてるねぇ。妹さんの代わりかい?」
「くだらねぇ言い合いはもう十分だろ。これで巻き込むこともなくなった」
「……こっちには人質が二人いるんだけど? それともこいつらごとボクを殺すか?」
「テメェを相手にするのに、人質ぐらいじゃハンデにもならねぇよ。テメェじゃ役者不足だ」
「くひひっ、あぁ、そうだろうね。だから、ボクも手段は選ぶつもりはない」
また、空間が開く。
そこから人影が歩いてくる。
現れたシルエットは、人間のものとは思えなかった。
背中に竜のような黒い翼を生やし、艶めかしい肢体は黒い鱗に包まれている。
顔は病に犯されたように崩れ、歪な角を生やした化け物。
「──どうだい、彼女、醜いだろう?」
それは変わり果ててはいたが、確かにエルザだった。
髪は乱れ、その顔の大部分が黒い腫瘍のようなナニカに染まっている。
――毒か。
それとも、色欲の権能か。
意志はないのだろう。
何も映さぬ瞳で、両手にナイフを構えている。
「ママがお人形をくれたんだ」
「……センスのねぇ母親だな」
「なんだよ、怒ってるのかい? 仲間は作らないんじゃなかったのか? くくっ、いやいや、いいんだよ。キミは自分をどう思ってるか知らないが、如何せんキミは情に厚すぎる。キミの生活を遠くから見ていたよ。幸せそうだった。満足そうだった。そのまま全部忘れて生きていくのかと思ったけど、やっぱりキミは戻ってきた。ボクの元へ来てくれた」
エルザ。
魅了されたロム爺。
フェルト。
三人が、ソルに向けて構えを取る。
「だから、ボクのものになってくれ」
「断る。──“バン”」
四人が同時に動き、ソルへ迫る。
そしてソルは迷うことなく、エルザの頭部を撃ち抜いた。
「おいおい、躊躇なしか!」
エルザの動きが止まる。
次の瞬間、その頭部が再生した。
醜悪なのは変わらない。
しかし、明確に彼女の動きが変わった。
「………助けに来てくれたの?」
そうして、明確に、意志をもって、言葉を放つ。
「お前の妹に頼まれて仕方なくな」
「素直じゃないのね。連れないわ」
醜くなろうとも。
人間でなくなろうとも。
二人の軽口は、まるで変わらない。
「あっちの二人、頼めるか」
「ええ、わかったわ」
それ以上の言葉はいらなかった。
それだけで互いに意図を理解する。
エルザが裏切るかもしれないなど考えない。
あいつが二人を殺すかもしれないなど、心配しない。
あいつはもう──仲間だ。
「ひゅー、お熱いねぇ。以心伝心って感じ? いつの間に女作ったの王サマ。あんなにお堅い王サマが手出すなんて、選ぶならもっとマトモな人にしなよ。妹さんが心配するよ?」
「はっ。俺はてめぇより見る目があるんでな」
「……言うねぇ」
「タイマンだ。逃げられると思うなよ」
「逃げないさ。ボクの全部で、キミを止める。キミをこれ以上進ませるわけにはいかない」
ソルが両手を構える。
ジェスターが身を屈め、獣のように細剣を構える。
そこへ。
「──タイマン~? きゃはっ! 筋違い勘違いお門違い! はいはーい注目~! アタクシは魔女教大罪司教、『色欲』担当、みんな大好き──カペラ・エメラダ・ルグニカ様でーす! きゃは!」
――空気の読めない母親が、参入する。
その背後には、フードを被った得体の知れない巨漢と、細身の女が控えていた。
今ここに、すべての役者は揃った。
エルザ
肉体を色欲に弄られて、黒い翼に黒い角が生えている。似合わないって思うじゃん? それが意外や意外、リゼロスに翼と角の生えたエルザ出てきてるんですよね。魔法少女エルザ。可愛い。
一応龍の血の呪いによるものだと思ってもらえればそれでいいです。若干適応した結果ですね。
カペラの子供たち
基本的にみんな『加護』をもっていて、戦える子もいる。が、ソルの『憤怒』の権能によってもれなくダウンした。
ジェスター
プレアデスに辿り着き『死者の書』を読んだ超越者。その中にソルのものもあり、その生き様に感銘したのだという。厄介なファン。
ベラトリクス
大剣を使う。まあまあ強い。
メィリィ
ソルの『暴食』の権能によって生み出された獣を操ることが出来る。
レム
鬼化をものにして子供にしてはかなり強い。
カペラ
作者のお気に入り。大好き。超好き。
どこぞの剣聖みたいな女と多腕族の英雄みたいな八本腕を連れている。
ソル
『怠惰』『憤怒』『暴食』の権能を使いこなしている。ただ同時に複数を使うのはまだ難しく、併用も難しい。強い。
憤怒
いったいなんて覇王色。
暴食
ポケモンマスターになろう
怠惰
息してる?