ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第二十五話『邂逅』

◆◇◆

 

 

 蹴られ、叩かれ、身を守る。

 けれど、重点的に狙われる顔だけは守らない。

 

 ――ボクは『■■』のことを信じているから。

 

 これは儀式なのだ。

 『■■』が『■■』であるための。

 ボクが、『■■』の子供であるための。

 

 だから、ね。

 

 またボクを撫でてよ。

 またボクを褒めてよ。

 また『■■』に見せる物語を考えたんだ。

 今度の主人公は強いんだ。

 並み居る敵をばったばったと薙ぎ倒して、悪い奴をみんなやっつけてくれる。

 

 きっと、『■■』を苦しめている悪い奴だって倒してくれる。

 

 最後まで見て。

 きっと、きっとハッピーエンドで終われるから。

 

 だから。

 

 だからさ。

 

 また、前みたいに――。

 

 

◆◇◆

 

 

 剣撃と拳撃が飛び交う。

 黙して語らぬ木偶の坊が、端役に収まらぬ洗練された一撃を舞わせる。

 

「――ッ」

 

 右には大剣を軽々と振るう豪傑。

 左には触れれば終わりの魔剣使い。

 上から飛来するのは、細剣を構えた剣士。

 

 そのどれもが凡夫を魅了する達人の闘気を発していた。

 三方より迫る死を前に、ソルは苦戦を強いられていた。

 

「『不信』“ペテルギウス”――チッ」

 

 包囲を抜けようと権能を発動する。

 だが、不発。

 その原因は、発動しなかった感触からすぐに知れた。

 

「……魂がない。人形? いや」

 

 ――死体か。

 

 魔女教の頭巾を被った二人からは、魂特有の引っかかりが感じられない。

 魂なき存在。

 しかし、その動きは人形のそれではない。

 ならば考えられるのは、記憶だけを植え付けられた死体の流用。

 

 ――『不死王の秘術』。

 

 死者蘇生の禁術。

 死んで間もない肉体、魂が離れる前の肉体に施術すれば、多少の代償と引き換えに死者を蘇らせるそれは、死後時間が経過した死体に使うと意味が変わる。

 

 どれだけの権能があろうと、世界の力を奪おうと、魂のない人間は生き返らない。

 それが絶対必定。世界の理だ。

 ゆえに、魂のない死体に、それでももう一度動いてほしいと願ったなら。

 

 それは最悪の形で叶えられる。

 

 魂のない存在に、記憶だけを押し込む。

 それはもう生き物でも、死人でも、ましてや本人でもない。

 

 記憶を持っている。

 感情を知っている。

 けれど、偽物。紛い物。

 

 人類の強欲ゆえに生み出された、哀れな怪物だ。

 

 ――殺してやらねばならない。

 

 生前のこの二人を知る者が、この事実を知る前に。

 死者が蘇らないことは、俺が誰よりも知っているのだから。

 

「――終わらせてやるよ。教えてやる。死人は蘇らねぇってことをなッ!」

 

 ソルの怒りに呼応して、尋常ならざる瘴気が放たれる。

 黒い暴風が顕現し、あたり一帯を吹き飛ばす。

 包囲が崩れた瞬間、ソルは宙へ飛び上がった。

 

「――“バン”ッ!」

 

 憤怒のごとく燃え上がる黒の塊が大地へと打ち込まれる。

 

 瞬間、衝撃が世界を揺らした。

 

 地面に大穴が空き、その場にいた三人が落下する。

 ジェスターは即座に空間跳躍で逃れる。

 足場を失った女剣士と巨漢は、瓦礫を蹴り、崖を掴み、地上へ戻ろうとした。

 

 だが、

 

「――“バン”」

 

 ソルがそれを許さない。

 的確に道を断ち、退路を砕き、二人を地の奥底へと落としていく。

 当然、それでは終わらない。

 ソルの背後に亀裂が走る。

 その亀裂がソルを呑み込み、落下地点へと繋がる。

 

 闇の底で、ソルが姿を現した。

 

 二人が剣を構え、こちらへ向けて落下してくる。

 だが、その刃が届くことはない。

 ソルは深く息を吸い、心を静める。

 

 右手に橙の『怠惰』。

 左手に緑の『暴食』。

 

 二つの権能を重ね合わせる。

 

 ――『怠惰』×『暴食』。

 

 重ねた両手をゆっくりと離す。

 そこには、虚空が広がっていた。

 

「――『不浄門』“フォーマルハウト”」

 

 ソルの空間跳躍に似て、しかし根本から異なるもの。

 

 何処へ繋がっているとも知れぬ外世界への扉。

 それは怪物が開いた巨大な口のように、大穴の中へ広がっていく。

 

 神秘的で、恐ろしく、冒涜的な門。

 

 重力に抗えぬ小さき命を、怪物の口は容易く呑み込んだ。

 

 

◆◇◆

 

 

 ボクが生まれてしばらくは、平穏な日々だった。

 

 娼婦だった■は、巷でも噂されるほどの美人だった。

 父はそんな■を射止めた、若く熱意のある商人だった。

 

 ボクたちは何の変哲もない一軒家に住み、寝て、起きて、食べて、笑う、当たり前の日常を送っていた。

 

 ボクは父の稼業を継ぐ勉強の傍ら、両親と一緒によく演劇を見に行った。

 

 感動した。

 

 劇そのものにではない。

 それを見て、笑って、泣いて、最後にとても綺麗な笑みを見せる■に、ボクは感動したのだ。

 だからボクは、父の稼業を継ぐのをやめて、役者になろうと思った。

 

 それが、間違いだったのだろう。

 

 役者の道を選んだボクを、パパは否定した。

 それでもボクは、この感動をもっと得たかった。

 役者として名が広まり始めると、■■が見に来てくれた。

 

 その時のことは、もうあまり覚えていない。

 

 ただ、覚えているのは。

 役者として地に足がついてきた頃、凶人が■■を襲ったこと。

 

 幸い、■■は死ななかった。

 

 でも、『毒』をかけられた■■の顔は、治らなかった。

 

 ■■は家に閉じこもるようになった。

 そのうち、パパを追い出した。

 

 ボクの顔を執拗に殴ったり、切ったりするようになった。

 美味しいご飯も作ってくれなくなった。

 

 それでも、ボクは■■の傍にいた。

 しばらくすれば、元の■■に戻ってくれると思ったから。

 

 殴られても、蹴られても、物を投げられても、作った白湯をぶちまけられても、髪を切られても、どうとも思わなかった。

 

 劇には仮面をつけて出ればいい。

 でも、それも長くは続かなかった。

 ボクは役者をやめざるを得なくなった。

 役者をやめたあとも、ボクは■■の前で演劇をした。

 

 ボクが最高のショーを■■に見せる。

 

 そうすれば、きっと■■もまた――。

 

 

◆◇◆

 

 

「ブラボォだ、ソル。強くなったね……ボクが知るキミとは大違いだ」

 

「………」

 

 二人の怪物を一瞬で葬ったソルへ、ジェスターは乾いた拍手を送る。

 パチ、パチ、と音が響いた。

 

 ソルは黙して隙を窺う。

 そこへ、これまで傍観していた『色欲』が歩み寄った。

 

「あーあー、可哀想に。大切な駒を殺しちまいまして。死肉はお気に召さねーってんですか? 見た目は生きた人間そのものだったでしょうに」

 

「――“バン”」

 

 隙だらけだった。

 ソルの不意打ちが、『色欲』の頭部を吹き飛ばす。

 

 しかし。

 

「意味ねーってんですよ!」

 

 ぐにゃり、と肉が捻じれた。

 粘土のように変形し、形成され、新たな姿を作り上げる。

 

 生み出されたのは、一人の少女だった。

 

 病的なまでに白い肌。

 色の抜け落ちたような白い長髪。

 毒々しい緑の瞳。

 背丈は、レムと同じくらい。

 

 それは――。

 

「――ルナ」

 

 ソルの本当の妹、ルナの姿だった。

 

「………てめぇ、どういうつもりだ」

 

「どういうつもりも何も、これはてめーが望んだ姿でしょう? アタクシってば尽くす女ですから。てめーが心の奥底で焦がれて、縋って、求めて、手放せなくて、壊れてでも欲してるものを、こうして見せてやってるんじゃねーですか」

 

 白い少女の姿をした『色欲』が、最低な言葉を吐き続ける。

 

 確かに、欲してやまないことに違いはない。

 

 もう一度会いたい。

 もう一度声を聞きたい。

 もう一度、その名前を呼びたい。

 

 だが、目の前のこれは違う。

 少女の姿で、妹の形で、妹ではない声が嘲りを垂れ流している。

 

 それは、ソルが求めるものではない。

 それを、真底まで冒涜するものだ。

 

「――死ね」

 

 右手に『憤怒』が宿る。

 その指先に黒炎が灯った。

 

「――“バン”」

 

「だから意味ねーって言ってんでしょーが」

 

 黒炎弾が、幼気な少女の姿をした『色欲』の顔面に直撃する。

 

 頭部が破壊される。

 しかし、すぐさま再生する――かに見えた。

 

「これだから知能の足りねーオス肉は……――あ?」

 

 ゴウ、と。

 

 再生した頭部が燃え上がった。

 

 それは魂を焼き焦がす魔の炎。

 再生しても消えず、肉体の奥まで燃え続ける。

 

 堪らず『色欲』は少女の姿を解いた。

 

「ぺッ――やってくれるじゃねーですか」

 

 頭部が燃え、骨が露出し、そのまま胴へ燃え移りそうになったところで、『色欲』は腕を獣の頭部に変化させ、自分の頭を喰わせた。

 平然と再生し、口から死んだ肉塊を吐き捨てる。

 吐き捨てられたそれは、地面に落ちるより先に燃え尽きて消えた。

 

 金髪の元の姿へ戻った『色欲』が、ソルを睨む。

 

「なんだ、お似合いの面が台無しじゃねぇか」

 

「アタクシってば博愛主義ですから、殺しはしません。――ですが、アタクシを愛せねーなら、蠅にでもなって家畜の餌になってろ」

 

 博愛主義と嘯きながら、『色欲』は至極当然のように残虐な言葉を吐く。

 殺さないというのも、信念でも慈悲でもない。

 ただ、性根の歪んだ趣味に過ぎない。

 

 ソルは両手を構える。

 

 不死身の怪物。

 ゴキブリのような生命力を持つ、女の形をした災厄。

 対する『色欲』は、翼を生やし、竜のような尻尾を携え、その手を変幻自在に歪めていく。

 

 決して相容れぬ二人が相対する。

 

 そこへ、一人の男が割り込んだ。

 

「待ってくれよ、ママ。喧嘩はやめよう。もう少しで説得できるんだ。だから……」

 

「散々待ってやったでしょーが。だいたい、クズ肉以下のクソ肉なんてアタクシの子供に相応しくねぇんですよ」

 

「それは誤解だよ! ソルは凄いんだ! ボクが必ず説得する! ママにもきっとわかるはずだ!」

 

 ジェスターは本気か冗談か、『色欲』に反目するような言葉を吐いた。

 

「――てめー、どっちの味方だ。母親に逆らうつもりか?」

 

 その言葉に、『色欲』の声色が冷えた。

 

「彼には大切にしてる女の子がいるんだ。彼女がいなくなれば、彼もきっと心変わりしてくれるはずだ」

 

「関係ねーんですよ。クソ肉はクソ肉。蠅の集る臭ぇ肉は要らねぇって言ってんです。わかったらそこをどけ」

 

「………」

 

 ジェスターの言葉に、『色欲』は耳を貸さない。

 そもそも、人の話を聞くような存在ではない。

 たとえそれが、自分の子供と定めたものの言葉であっても。

 

「……ママ、お願いだ。もう少しだけ。もう少しすればきっと……だから――ぐッ」

 

「――どけってアタクシは言ったんですよ。口答えしろだなんて言ってない」

 

 鞭のように変化した腕が、無抵抗のジェスターの顔面を打った。

 

「……お願いだから」

 

 攻撃されても、ジェスターは抵抗しない。

 ただ愚直に頼み込む。

 

「……そうですか」

 

 それを見た『色欲』は、一度手を引き――。

 

「――じゃあそのまま死ぬまで突っ立ってろ」

 

 勢いよく腕を振るった。

 人体とは思えない速度で、肉の鞭が何度も何度もジェスターを打つ。

 顔の肉が削げ、服が裂け、髪がほどけ、一瞬で無残な姿へ変わっていく。

 

「……ママ………」

 

 それでも、ジェスターは退かない。

 何が彼にそこまでさせるのか。

 突然仲間割れを始めた二人を前に、ソルは一瞬だけ理解が及ばず、動くことができなかった。

 

 数秒か、数十秒か。

 

 鞭の雨が止むと、ジェスターはぼろぼろになって地面へ膝をついた。

 

「後でお仕置きしてあげますから、そこで大人しくしていやがりなさい」

 

 『色欲』はジェスターを通り過ぎようとして――その足を掴まれた。

 

「………マ、マ………だめ、だ……」

 

「――そんなに死にてーなら殺してやりますよ」

 

 倒れ伏し、抵抗する力のないジェスターへ、『色欲』がゆっくり触れようとする。

 理由はわからない。

 だが、ジェスターが生み出した時間を使い、ソルは再び『不浄門』を発動しようと権能を掛け合わせ始めた。

 

 その時だった。

 

「――おにーちゃん!」

 

 外部から声が響いた。

 その場にいた三人が振り向く。

 兄を呼ぶその声が向けられたのは、ソルではなかった。

 

「……ベラト……リクス?」

 

「ねーちゃん! おねがい! おにーちゃんをたすけて!」

 

「レムたちに任せてください」

 

 そこにいたのは、ベラトリクスと呼ばれた少女を連れたレムたちだった。

 メィリィとエルザもいる。

 なぜ彼女らが、敵であるはずの少女と一緒にいるのか。

 

「……どういうことだ。何があった」

 

「さぁ? あなたの妹に聞いてくれる?」

 

 エルザの言葉を受けて、ソルはレムを見る。

 

「その、この子がお兄ちゃんを助けてって言ったんです。敵だとはわかっているんですが……」

 

「レムちゃんってばぁ、優しすぎると思うわぁ。敵の言うことぽんぽん信じちゃうなんて甘すぎるって、“アインツ”ちゃんもそう思うわよねぇ?」

 

「……嘘じゃないと、思うんです。なんとなく……」

 

「それはわたしもわかるけどぉ……」

 

 妹としての勘だろうか。

 二人は、ベラトリクスの言葉を嘘ではないと判断していた。

 敵でないなら殺す必要はない。

 だが、その願いがジェスターを助けることであるなら、話は別だ。

 

「頭の中身を弄ったはずの人形に、野生児までぞろぞろと群れて、何考えてやがるんですかねぇ?」

 

「おにーちゃん! おかあさん、おにーちゃんをいじめないでっ!」

 

「………」

 

 ジェスターも、ベラトリクスも、エルザも、メィリィも。

 誰も彼もが、『母』に相対する。

 

「………てめーらも裏切ると、そういうことですか。……これだからガキは嫌いだってんです」

 

 『色欲』の肉体が、膨れ上がる。

 

「いーですよ。いーじゃねーですか。上等ですよ」

 

 肉がぼこぼこと膨張し、尾が生え、巨大な足が形作られ、その先端から黒く染まっていく。

 

「――全員まとめて、クソ溜めの中に掃き捨ててやります」

 

 二階建ての建物に及ぶほどまで巨大化したところで、膨張は止まった。

 形成を終えたそれは、黒い巨大な翼に覆われていた。

 翼を大きく広げたそれは、黒く、大きく、人一人に近い太さの雄々しい尻尾を持ち、刺々しい鱗と、人の頭など軽く噛み千切れそうな強靭な顎を備えていた。

 

 ――純黒の竜。

 

 

『グルァァァァアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

 

 猛き咆哮が空間に轟き、けたたましい振動が脳を揺らし、魂を震わせる。

 

「うぐッ」

 

「なにこれぇ」

 

「みみ、いたいっ」

 

 ソルとエルザは堪えた。

 だが、少女三人は響圧に耐えきれず、身動きを封じられる。

 

『――まずはテメーだ』

 

 巨竜が蠢く。

 一瞬の溜めの後、高速で振るわれたのは、堅く長い、物量のある竜の尾。

 凄まじい膂力と加速で生み出された天然の鈍器が狙ったのは――ベラトリクスだった。

 

 思考の猶予はなかった。

 ソルはその一瞬を躊躇い、エルザは端から助ける気がない。

 誰も彼女を助けることはできない。

 

 助けようとする者は、いない。

 

「……あ」

 

 彼女の視界を、逃れられぬ死が覆った。

 

 ――ザシュッ。

 

 何かを貫く音が響く。

 血が舞った。

 

 ソルの目からは尾で遮られて見えない。

 だが、その結末は容易に想像できた。

 

 助ける判断を誤ったことに、ソルが後味の悪さを覚えて舌打ちする。

 だが、『色欲』が本気を出してきた以上、もたもたしてはいられない。

 すぐに思考を切り替え、『色欲』へ向き直ろうとする。

 

 だが。

 

『テメー、何しやがってんですか? あぁ?』

 

「………ごふっ」

 

「おにー、ちゃん……?」

 

 そこには、腹部を尾で貫かれたジェスターがいた。

 

「……あれ、ボク、何してるんだろ……」

 

『信じられねぇほどのバカですね。死にてぇならテメーから殺してやります、よッ!』

 

 『色欲』が再び尾を振るう。

 血と異物を拭い去るように振られたそれは、串刺しにしたジェスターを遥か後方へ吹き飛ばした。

 

「おにーちゃんッ!! よ、よくも、よくもおにーちゃんをォォ!!」

 

『知らねーってんですよ、勝手に死に急ぐバカなんて。テメーもすぐ同じにしてやりますから、ぴーぴー喚かないでもらえます? 鬱陶しいったらありゃしねーんですよ』

 

 ベラトリクスは怒りに涙を流し、不釣り合いな大剣を握って『色欲』へ斬りかかった。

 

「がは――っ」

 

 だが、堅い鱗に剣が弾かれる。

 隙の多い大剣では、『色欲』のカウンターを避けることもできない。

 尻尾の一撃で、ベラトリクスは容易く振り払われた。

 

「どうするの?」

 

「……仕方ねぇ。レム、あの野郎の治療に行ってやれ。メィリィもだ」

 

「分かりました」

 

「はぁい」

 

「お前は色欲の相手を手伝え」

 

「私のナイフじゃ通らないと思うのだけれど」

 

「気を引くだけでいい。止めは俺がやる」

 

「そう。わかったわ」

 

 順当に指示を出し、三人が動く。

 そうしてソルは、吹き飛ばされ、立ち上がれないでいる少女へ声をかけた。

 

「おい。生きてんなら返事しろ」

 

「う……」

 

「立ち上がれるか」

 

「うぅ…………」

 

「あいつに復讐したいか」

 

「………したいっ」

 

「そうか。なら、これを使え」

 

 ソルは空間を割り、そこから一本の剣を取り出した。

 

「これは『命剣』。魂を斬る魔剣だ。お前、力に自信があるんだろ? ならこれを使ってあいつの鱗を斬れ。そうしたら俺がお前の母親を殺してやる」

 

「あんなのっ……おかあさんなんかじゃないっ!」

 

 ベラトリクスは、血と涙に濡れた顔を上げる。

 

「おにーちゃんは、ぼくがまもるんだっ!」

 

「……本当に、どうして俺以外のガキはどいつもこいつも強いんだか」

 

 必死に立ち上がる姿は、先日の人形のような姿とはかけ離れていた。

 きっと、これが本当の彼女なのだろう。

 

「いくぞ。最低な継母にお灸を据えてやる時間だ」

 

「うんッ!」

 

 

◆◇◆

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