第二十六話『黒星』
◆◇◆
「『不慎』“シリウス”ッ‼」
陽光の如く周囲を照らし、一瞬にして皆を包み込む眩い光。
飛来する『絶対の風』が、ソルの展開した領域に触れる。
「──ぁぐァ!」
それは、ソルの魂そのものだった。
無慈悲な風が、広げられた魂を切り裂く。
痛みを感じぬはずのソルを、明確な痛みが襲った。
「──ッ、『不信』“ペテルギウス”ッ‼」
だが、ソルはその痛みを堪え、さらに権能を発動する。
魂によって知覚した『風』に対し、権能を振るった。
本来、人にしか通じないはずの『怠惰』が、ただの魔法に効力を示す。
次々と刃が地面へ叩き落とされていく。
尋常ならざる力が込められた『風』が、領域内にいる仲間を傷つけることはない。
それを可能にしたのはソルではなく、『そいつ』の力だった。
あの刃はただの魔法ではない。
否、そもそも魔法などと区別すべきものですらない。
あれは技術でも何でもなく、ただ莫大な力を解き放っているだけだ。
それら一つ一つが、凡夫には抗うことのできぬ天の贈り物。
要するに、降りかかる数多の刃──その一つ一つに、ニンゲンのオドに匹敵するほど濃縮されたマナが込められているということ。
故に、ソルの持つ『怠惰』の権能でもって叩き落とすことができた。
──だが、着実にソルの身は崩壊していく。
「……──ッ!」
剥き出しの魂を削られているのだ。
本体に異常を来さぬはずがない。
「ガァアァァアアアッ!!!!」
一方、ジェスターは突然の強襲に対し、回避を選ばず迎撃を選んだ。
「──……ッ!」
だが、振るった『愛剣』は、『風』とのただ一度の衝突で砕け散る。
風が、ジェスターの片腕を切断した。
「──らァッ‼」
しかし、すぐさま逆手で『命剣』を掴んだジェスターがそれを振るうと、今度は砕けることなく『風』を切り裂いた。
命を断つ『命剣』が効力を発揮したということは、もしかすると、それらは本当に生き物のオドで構成されているのやもしれない。
振るう、振るう、止まることなく刃を振るう。
降り注ぐ雨粒を切り落とすが如く。
これだけの量、たった一人のものであるはずがない。
あるとすれば、ソルのように、魂を奪う力によってニンゲンから魂を奪ったか。
だが、これだけの数。
いったい何人、何千人の魂を喰らったというのか。
──止まない雨の如く、天を占める天意が太陽を覆い隠した。
暗雲が、天に立ち込める。
◆◇◆
すとん、と。
ゆっくり舞い降りる天使が、穢れた大地を踏みしめた。
その表情は『無』そのもので、まるで感情を感じさせない。
人によっては神聖と受け取るのも已むを得ないだろう。
どこまでも無関心な瞳が、周囲を見下ろした。
その横には、もう一人、プラチナブロンドの少女が並んでいた。
堂々たる存在感を示す女を光とするならば、こちらは影。
淑やかで儚げな印象を抱かせる、世の美人を冒涜するほど異次元の美貌を持った少女だ。
そんな絵になる二人を前に、しかし、誰一人として反応する者はいない。
ソルも、ジェスターも、エルザたちも、誰もが彼女らを見上げることすら叶わない。
両手を失ったソルが、俯いた状態でその場に膝をつく。
繰り糸を失った絡繰り人形の如く、まるで動く様子がない。
ジェスターは片腕を失い、地面にうつ伏せに倒れている。
その指先は微かに動いているが、起き上がる様子はない。
エルザは、流れ弾から少女らを庇って血だらけになっていた。
流れる血は止まらず、傷の治りも遅い。
倒れてこそいないが、意識があるかどうかも怪しかった。
彼女が庇う少女らもまた、あまりの衝撃に気を失ってしまったようだ。
「もし、どなたかおりませんか?」
その中で、場違いなほど温厚な声が響く。
どこまでも優しげで、温和で、丁寧な声音だった。
だが、薄く儚げに微笑むその変わらぬ表情が、彼女の異常さを物語っていた。
応えられるものなどいるはずもない。
──否、いた。
「■■■■■■■■■ァ──‼」
蠢く肉塊は、暴風雨の中をしぶとく生き残っていた。
ジェスターが、自分の身も顧みず庇ったからだ。
だが、もはや思考する脳もないのか。
肉塊は見境もなく触手を伸ばす。
その向かう先は、──この世で最も美しい存在──プラチナブロンドの少女の元だった。
彼女は避ける素振りを見せない。
嫉妬に駆られた触手が、彼女へと迫る。
そうして、当たるか当たらないかといった瀬戸際で。
「ラムさん」
「──“天象”」
少女が呟いた直後、予備動作もなく彼女らを風の障壁が包み込む。
肉塊はその壁を越えることができず、高速回転する守りに触手を弾かれた。
「──“天撃”」
再び、ノーモーションでの詠唱によって風の守りが解かれ、風が数十の槍となって肉塊へ直進する。
高速で打ち出されたそれが、肉塊の肉を、触手を、中心を削ぎ、断ち、穿つ。
「■■■、■■■■……ァァァ」
ただの風の槍。
しかし、肉塊は再生することもなく、生気を失ったかのように苦しげに呻いた。
「──“天涙”」
そこへ、更なる追撃が迫る。
彼女の頭上に風の塊が生成され──堕ちる。
「──ァ─────ァァァァアアアアア!」
巨大な肉塊を丸呑みするように、荘厳な風が優雅に、優美に、大爆発を引き起こした。
避けることも、抵抗することもできなかった肉塊は、その直撃を受ける。
爆風が止むと、そこにはぼろぼろの雑巾のようになった『色欲』がいた。
形こそ元の『色欲』だが、その哀れな姿に、元の過激で奔放な面影は見受けられない。
死にかけという言葉が、お似合いの様相だった。
そこへ、『彼女』は止めを刺さんと掌を向ける。
──動け。動け。動け。動け。動け。動けよ。動け。今しかないんだ。早く、今すぐに……ッ、動けェ──‼
意思に反して、肉体は起動しない。
倒れたまま、機能を取り戻すことができないでいる。
──限界なのだ。
今日だけで、何度も限界と許容を超えた権能を行使した。
魂にも器にも無理を強要した。
これ以上は意志とは無関係に、存在崩壊の危機を魂が拒絶する。
「ぁ、ァアアアアアアアアア‼‼」
それでも、ソルは動かぬ身体を無理に動かした。
節々から血が噴き出し、ゴリゴリと嫌な音が鳴る。
ブチブチと魂を引き千切る音がする。
意志の力で、ゆっくりと立ち上がる。
「────殺す」
見上げれば、隠れた瞳は『殺意』に染まっていた。
黒く、黒く、この世の瘴気を塗り固めたような暗い黒瞳。
「来い──“見えざる手”」
ソルが呼べば、失われた両腕の元から黒い腕が生えてくる。
人格の侵食も厭わず、魂の崩壊も躊躇わず、ただ一心な殺意でもって大事を成す。
足りない意志は『憤怒』で上書きする。
──殺す。殺す。殺す殺す殺す。コロス。
ここで殺さなければ。
ここで殺すのだ。
ここで終わらせる。
すべての因果を、ここで断ち切る。
たとえ俺が──どうなっても。
「──『始源』“ビッグバン”‼」
見えざる手をそのまま弾丸として変化させ、『ソレ』へ向かって打ち出す。
「──。」
打ち出された極大の力を。
ソルが得た異次元の力を。
その少女は、ただ一つ指を振っただけで──叩き落とした。
「────ッ」
詠唱すら介さず、ただ、指を振るっただけで。
力の差は歴然だった。
振り絞った力は、万全の彼女に毛ほどの痛痒も齎さなかった。
──勝てない。
其れ即ち──敗北。
──否。
「──もう、負けられねぇんだよッ‼」
その結末を拒絶する。
あいつはこちらに見向きもせず、再び狙うは死にかけの『色欲』。
「──ッ」
まずい。
取られる。
失敗した。
殺意に気を取られて、優先順位を見誤った。
あいつが狙っているのは──『色欲の魔女因子』。
あいつの刃が『色欲』へと向かう。
「──邪魔を、するなァ‼」
それを、腕の上がらぬジェスターが剣を咥えて叩き落とした。
「──ソルッ!」
ジェスターがソルの名を叫ぶ。
「──“バン”!」
「──“天撃”」
『色欲』を狙った射撃が、再び打ち出された風に阻まれる。
「チッ──“バン”‼」
「──“天象”」
打ち合いだ。
……分が悪い。
あいつの風を凌いで『色欲』を殺すのは、今のソルには──。
「──おねえ、ちゃん……?」
「────“天撃”」
「ッ、“バン”ッ!」
一瞬の硬直。
その一瞬が、運命を分ける。
遅れた風はソルの弾丸を落とすこと叶わず、ソルの弾丸が『色欲』の胸を穿った。
「……ぁ………………──」
臍を中心として、穿たれた『色欲』が灰となって消えていく。
直後、ソルに紛れ込む異物。
『色欲』の奪い合いを制したのは、ソルたちだった。
──ぱちぱちぱち。
乾いた拍手が響き渡る。
「素晴らしいですね。これもまた、『愛』の為せる業、というものでしょうか。適性も無いままに四つもの因子を取り込んでしまうなんて……歴史上、誰も成し遂げたことのない快挙ですよ。おめでとうございます。貴方は、まさしく『偉業』を成したのです」
相も変わらず、優しげで温和な声音。
しかし、その声は賞賛の熱をまるで感じさせない、抑揚のない無気力なものだった。
何もかもが軽薄で、薄っぺらく、虚飾であった。
「……お前は誰だ」
これまで繰り返してきたソルも、彼女のことは知らなかった。
あいつも、彼女のことは言っていなかった。
彼女があの女の隣にいることなど、見たことがない。
「私、ですか? 私はパンドラ――そうですね。
――『虚飾の魔女』と呼んでいただいても、かまいませんよ」
禁忌の魔女──パンドラは、完成された微笑みで美麗に名乗った。
◆◇◆
「あ……ああっ、あああああっ‼?」
突如、少女の頭へと流入する、存在しない記憶。
『お姉ちゃん』
『お姉ちゃん!』
『お姉ちゃん?』
『お姉ちゃん』
『──お姉ちゃんッ‼』
お姉ちゃん。
姉。
姉。
姉?
違う。
違う違うちがう!
レムに、私には姉なんて……!
『──レム』
「あうっ」
優しげな声が聞こえる。
顔が光で塗りつぶされて、見えない。
記憶の中の姉。
強く美しく、■■を愛してくれていた。
一緒にいてくれた。
守ってくれた。
偉大な姉。
偉大で、■ましい姉。
■み■み羨ましい姉。
「いやっ、ちがうのっ! レムには、レムにはお姉ちゃんなんて──っ!」
否定したい。
拒絶したい。
受け入れがたい。
しかし、レムの本能が肯定する。
──確かな繋がりを感じるのだ。
魂の繋がり。
──『共感覚』。
「……おねえちゃん、なの……?」
「───。」
思い出した。
自分には、姉がいたことを。
偽りの記憶は剥がれ落ち、正常な歴史が回帰する。
違った。
違ったのだ。
何もかも。
レムは捨てられたのではない。
両親に一心に愛されてなどいなかった。
レムの家族を、両親を、姉を奪ったのは──。
──炎。
あの日は炎が、直視できない闇を照らしていた。
燃える里。
焦げる両親。
迫りくる刃。
そうして。
「『もし、どうかしましたか?』」
──重なる。
目前の少女と、記憶の少女が。
「あな、たは……」
「ああ、貴方はあの時の。──ご壮健なようで何よりです」
「ああ、ああ……っ」
薄く微笑む気味の悪い少女こそが──レムからすべてを奪った『元凶』。
「──あな、たがっ、あなたがぁぁぁああああ!!!」
「──待てっ!」
レムの昂ぶりに呼応して、その額から白き角が迸る。
敬愛する兄の静止の声も耳に入らず、周囲のマナを吸収し、肉体に万感と力が走る。
握りしめたモーニングスターが、ぎしりと歪む。
全身全霊で、それを振るった。
──ぶちゅん。
柔らかな肉を叩き潰すように、彼女は頭から潰され、惨憺たる血が散乱する。
「……はぁっ、はぁっ」
初めての人殺しに、レムの頭から血の気が引く。
冷静になる。
それでも、自分の為した結果を確認しなければならない。
確かな手応えがあった。
わたしが、彼女を殺し──。
「──もし、何かの見間違えでは?」
「……えっ?」
だが、そこには確かに殺したはずの少女が立っていた。
傷もなく、まるで何事もなかったかのように。
「……」
レムによって『虚飾』は確かに一度死んだ。
だが、瞬きする間にあいつはその場にいた。
まるで本当に、見間違えたかのように。
――あいつの力は幻術の類か?
そういう呪術の存在を、ソルも知っている。
だが、呪術の絶対条件は対象に触れること。
それを『権能』で補っている可能性もあるが……。
考えても埒が明かない。
少なくとも、あいつに戦闘能力があるようには思えない。
──なら、今俺がすべきことはただ一つ。
あの女を、『傲慢』の大罪司教を──。
──パキンッ。
「あ、ガ……」
──魂に、亀裂が入った。
『きゃははははっ!』
『きゃは!』
『きゃははははは!』
笑い声が脳に響く。
『──ぶっ壊れろ、クソ肉』
憎悪と嘲笑の籠った言葉が聞こえた。
次の瞬間、魂の亀裂から溢れ出した瘴気が、ソルの身を包み込む。
「グぁアアアアアアアアッッッ‼」
──失われていく熱。
──失われていく制御。
──失われていく感情。
其れ即ち──『暴走』。
黒き暴風がレムを、エルザを、ジェスターを包み込み、世界を侵食する。
魂が限界を超えて膨れ上がる。
『怒り』が。
『憤怒』が。
どうしようもない『殺意』が。
ソルに権能を行使させる。
──魂がはち切れようと関係ない。
腕を生やせ。
瘴気を収束させろ。
『色欲』によって異形の腕が生える。
それは、漆黒の鱗に覆われた竜の腕。
それを気にも留めず、放出した瘴気を手を起点に収束させる。
打て。
殺せ。
やられる前に。
『色欲』がこの身を犯し、顔から鱗が生え、その額に一本の黒い角が生え──その身はいと尊き竜と化す。
「──“バン”ッ!」
拳銃の弾丸一個分にまで押し固められた、超高密度の瘴気が放たれる。
衝撃波だけで地面を抉るほどの威力で射出されたソレは、音速を越えて『傲慢』へと迫った。
「──“天撃”」
『傲慢』は、今度は詠唱し、風を放つ。
だが、──その風を、『黒の弾丸』は貫通し、『傲慢』へと直撃した。
キィィィィィン、と凄まじい火花が飛び散り、弾丸と『傲慢』の手のひらが交差する。
『傲慢』の纏う『絶対の風』と衝突しているのだ。
数秒間の果て、『傲慢』が弾丸を握り潰した。
「───。」
その掌は皮が剥がれ、血が滲んでいた。
──だが、それもすぐに再生する。
これだけの力を持ってしても、『傲慢』を殺すにはまるで至らない。
しかし、確かにダメージは通った。
これなら……。
──そうは問屋が卸さない。
「……がはっ」
ソルの身から夥しい数の剣が生え、その身を針山と化す。
その意匠は『呪剣』のものだった。
『呪剣』に込められた怨念が、ソルの罅割れた魂に侵食し、乗っ取ろうと『色欲』の権能に介入しているのだ。
内臓を引き裂かれたソルが、どす黒い血を吐いた。
「──“天撃”」
「──ッ、“びっぐばん”」
ソルは、剣の生える体も気にせず、不諦の殺意で抑え込む。
──呪いも、身体も、今この時だけあればいい。
今だけでいい。
──言うことを聞けッ。
あいつさえ倒せれば、この身をどうしようと好きにしろ。
だから、今だけは──。
「──俺の意志に応えろッ、力を寄越せ──!」
もう、限界などとうに超えているのに。
「うぉぉぉぉおおおおおッ!!」
その
「──お兄ちゃんッ!」
大切な妹の声も届かず、ソルは溢れる憎悪と瘴気に身を任せ、自爆に等しい権能を行使する。
「──『超新星』──」
闇が晴れ、光が止み、無となった世界はモノクロになって──。
「だめだよ、ソル」
──それを、ジェスターが阻止した。
「──ぁ」
ソルの不意を突き、後ろから手刀で打つ。
限界を超えていたソルは、容易く意識を絶った。
「キミはここで死んじゃだめだ。生きて、幸せになるんだ。その資格がキミにはあるはずだから。──『腸狩り』、彼を」
「……ええ」
ジェスターは、だらりと力ないソルをエルザへ渡した。
──そうして、背後に『空間の亀裂』を開く。
「キミたちは逃げるんだ。アレはボクが引き受ける」
ジェスターは言った。
自殺に他ならぬ宣言を。
「………いくわよ」
エルザは数秒思考し、メィリィとレムに亀裂へ入ることを伝えた。
「……ベラトリクスも連れてってやってくれないか」
「え……? おにーちゃん、ぼくは……っ」
「ボクはお前の本当の兄じゃない。……お前も行くんだ」
「嫌だっ! ボクは──うっ」
受け入れがたい提案に反発しようとしたベラトリクスを、ジェスターが気絶させる。
「それでいいのね?」
ベラトリクスをレムへ預けたジェスターに、エルザが問う。
「ああ、いけ」
ジェスターは、もうこちらを振り返らなかった。
エルザがソルとメィリィを、アインツとツヴァイがロム爺とフェルトを連れて、亀裂へと入っていく。
「………」
レムは倒れた兄を心配し、一瞬、姉だったものを見て、迷いを見せながらも亀裂へ入ろうとした。
そこへ、こちらを見ることもなく、ジェスターが一言添える。
「キミが鍵だ、妹くん。キミの選択が、彼の命運を決める」
「え……?」
「──後悔、しないようにね。それじゃ」
それだけ言い残して、亀裂が閉じた。
空間が閉じ、ジェスターを除いた皆がこの場を脱出した。
◆◇◆
人が減り、静まり返った場所で、二人と一人は顔を突き合わせた。
「──久しぶりだね、神サマ」
ジェスターがそう声をかけると、
「お久しぶりですね。ご健勝なご様子で何よりです」
パンドラは、この場の空気をまるで気にする様子もなく応えた。
「お陰様でね。俺はアンタに拾われて母さんに出会い、アンタに貰った本のお陰でソルに会えた。ここまで全部、アンタの筋書き通りだったのかな?」
「そんなことありませんよ。すべては貴方が考え、貴方の意志で行ったものです。それを否定することは誰にもできません」
「そうかい。すべてはアンタの手のひらの上だったってわけだ」
「? 何か思い違いをしているのでは?」
「いいや、してないよ。神サマは嘘つきだからね」
「はて、どういう意味でしょうか」
『虚飾』は不思議そうに、可愛らしく首を傾げた。
だが、やはりその場違いに丁寧な仕草は、一転して気味悪く映る。
「キミも、きっと騙されてるよ。先輩からの忠告だ」
「………」
「なんでキミみたいなのが、そこの神サマに従ってるのか。ま、だいたい見当はつくけど……きっと碌な終わり方はしない。よく覚えておくといいよ」
沈黙する『傲慢』に語り掛けるジェスター。
そのまま反応が返ってくることはないかと思ったが──。
「……私はそうでも、あの子は違うわ。──あの子は、私が救うもの」
小さく、されど確かな意志の籠った瞳で、彼女は告げた。
「……そうかい」
その返答を最後に、ジェスターは『命剣』を構える。
対して、彼女は何をするでもない。
ただ刹那、白き角が煌めいた。
「───。」
次の瞬間、まるで反応することもできずに、ジェスターの身体が輪切りにされる。
まるで初めから斬られていたかのように、気づけば身体が両断されていた。
──ああ、これで終わりか……。
散々迷惑を掛けた。
パパの言うことを聞かず、ママを傷つけ、人を殺して、役に酔って、ソルにもたくさん迷惑を掛けた。
そうして最後には、何もできずに死ぬだけ、か。
碌な人生じゃなかった。
いいや、碌な人間じゃなかったな。
ボクは最後まで。
憧れは遠く、スターになれなかった道化は、主役を生かすために礎となる。
主役が死ななければ、舞台は終わらない。
ボクの価値が決まるのは今じゃない。
この先、彼の為すものの果てだ。
だから、これでいい。
……ああ、でも、本当は──。
キミと友達になりたかったなぁ……。
──さようなら、ボクの太陽。
最後にぼんやりとそう思考して、ジェスターの人生に幕が下りた。
◆◇◆