ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第二十六.五話『黒星』

◆◇◆

 

 

「なによこれっ!」

 

 信じられないものを見たように、フェリスは驚愕に顔を染めた。

 その目前には、眠りについたまま苦しげに呻き、その身から尋常ならざる瘴気を溢れ出させるソルがいた。

 

「ぐっ、がはっ……」

 

「オドもゲートもぼろぼろ……それにこの濁ったマナ、どう考えても普通じゃない。いったい何があったら、こんなことになるっていうの?」

 

 マナを通して伝わる、およそ正常とは言えない症例の数々。

 

「とにかく、まずは外傷の治療を……イタッ」

 

 彼の身体へ治癒魔術を施そうとした直後、向けた両手が何かに弾かれる。

 

 ──ザシュッ、と。

 突如、彼の身体から刀剣が生えた。

 

「ぐ……っ」

 

「……これはっ、呪い! それも発動が終わって、いや、ゲートと融合してる……? なんなのよ、本当に……これじゃ私でも手の施しようが……」

 

 あまりに特殊すぎるソルの病状に、フェリスの治療は難航する。

 

「お兄ちゃん……」

 

 その傍で、一人の少女が兄の回復を祈っていた。

 そこへ、さらなる凶報が齎される。

 

「た、大変です、フェリスさん!」

 

 治療室へ不躾にも入ってきた女性従事者が、慌てた様子で叫ぶ。

 

「なに!? 今、治療中なの見てわからない!?」

 

「すみません、ですが……これは報告しないわけには!」

 

「長い! 要件は手短に!」

 

「っ、はい! ──王都に魔女教が攻め入ってきましたッ‼」

 

「はぁ!?」

 

 悪化する事態に、歯止めは効かない。

 

 負傷の英雄に、休みはない。

 

 

◆◇◆

 

 

「わかんないかなぁ。僕は戦うのとか、そういうのが嫌いだって言ってんの。だいたいさぁ、こっちが名乗るなり、いきなり襲ってくるなんて、騎士以前に人としての礼儀がなってないんじゃないの? 国を守る騎士ともあろうものがさ、そうやって礼節を蔑ろにして、一市民である僕を殺そうとするなんて前代未聞だと思うんだけど」

 

「ぐッ、魔女教徒は見つけ次第、即刻処分するのが規律だッ‼」

 

「規律とかルールとか、そういうくだらないものに縛られたがる人たちの気持ちなんて、僕にはさっぱりだね。あー嫌だ嫌だ。こんなんだから王国には来たくなかったんだよ。まともに話もできない異常者が多すぎる。どこも大概だけどさ、この国は特にそれが顕著だよね。あれだろ? 亜人戦争だかなんだかが起きたのも、そういう傲慢な態度とか偏見、差別が原因なんだろ。過去の過ちから学べない愚鈍な頭をしているくせに、未だに偉そうに物を語れるんだから大したものだよね。君の親は、君に何も教えてくれなかったわけ?」

 

「お前らなど、今代の『剣聖』様にかかれば……!」

 

「はいはい、剣聖ね。知ってるよ。剣を振って人を殺すことしか能がない異常者のことだろ? だけどさぁ、知ってるんだよね。そいつ、今この王都にいないんだろ? 重要人物ぶって偉そうにしてるくせに、こんな時に限って王都を離れてるなんて、どれだけ無責任なんだろうね。どこをほっつき歩いてるんだか知らないけど、そういうの職務怠慢って言うんじゃないの? 力を持ってるならさ、責任感を持たなきゃだよね。僕みたいにさ。でなきゃ、ただの危険人物じゃないか。君もそう思うだろ?」

 

「戯言をッ、貴様の言っている言葉ッ、何一つ理解できないッ、したくもない! 我が国に害を及ぼす前に、ここで貴様を止めるッ!」

 

「あのさぁ、これだけ譲歩してやったのに、その態度って。僕の喋る権利を無視して蔑ろにして、あまつさえ僕の歩みの邪魔をする。それって──僕の権利の侵害だよね? ああ、僕には君たち騎士ってやつの気持ちがまるで理解できない。どうしてそう軽々しく、できもしないことを口にするんだか。そういうの、ほんと反吐が出るよ」

 

 次の瞬間、抵抗していた最後の騎士が爆散し、周囲に血を撒き散らした。

 周囲にはすでに息絶えた騎士が何人もいて、その多くがざっくばらんに胴体を泣き別れさせられている。一部は首を切り落とされていた。

 

 そうして、その中に、傷一つなく眠ったように沈む騎士の身体もあった。

 山のように積み上げられた死体の陰から、小さな人影が立ち上がる。

 

「──あぁ、イマイチだなぁ」

 

 それは、よく見覚えのある姿。

 

 ──『暴食』の大罪司教のものだった。

 

「足りない足りない足りないなぁ! 執念、情動、恐怖心! ぐつぐつ煮込んで濃縮された『美食』を求めてるってのに……こんなんじゃあ僕たちの腹は満たされないッ!」

 

「はぁ。そうやって満足することを覚えないからダメなんだよ。小さな幸せに満たされることを理解しなよ、僕みたいにさ。そうやって貪欲な我欲に踊らされてるようじゃ、まだまだだね」

 

「はいはい、有難いご高説どぉもね。僕たちは僕たちなりの信条があるからさァ、アンタが何を言おうと、僕たちは変わらない。変われないッ!」

 

「はっ、そんなんだから弟だか何だかを失うんじゃないか」

 

「………」

 

 人のいなくなった王都郊外、即ち《貧民街》にて、言い争いを繰り広げる男たち。

 そこへ、四つの影が現れる。

 

「ほ、ほんとに戦うのかしらぁ……? 逃げた方がいいんじゃないのぉ?」

 

「んだよ、逃げたいなら逃げればいいじゃねぇーか」

 

「だってぇ」

 

「ま、あのねーちゃんは少なくとも戦うみてーだけどな。ソルの兄ちゃんが戦えない以上、アタシらでなんとかするっきゃねぇだろ?」

 

「そうだけどぉ……」

 

「お前の魔獣がいてくれた方が心強いから、アタシはお前にもいて欲しいけどな」

 

「……フェルトちゃんってぇ、いつもはかわいいのに~、たまにとっても男らしいわよねぇ」

 

「あん? 馬鹿にしてんのか」

 

「褒めてるんですぅ」

 

 危険すぎる相手を前に、呑気に会話する二人。

 そんな空気を読まない彼女らに、注意する声がかかった。

 

「貴方たち、そこまでにしなさい。メィリィ、魔獣はあっちの背の低い方に」

 

「フェルトもそこまでにしとけ。あやつらは舐めてかかれる相手じゃあないぞ」

 

「はぁい」

 

「わかってるっつの」

 

 危険な男たちを前に現れた勇者一行は四人。

 吸血鬼のエルザに、巨人族のロム爺。人間のメィリィとフェルト。

 うち二人は幼女である。

 

 まるで場違い。

 まるでお門違い。

 

 しかし、彼女らは皆、確かな意志をもってこの場に参じたのだ。

 

「なに、君たちが僕らの相手をしようっていうのかな? そこの二人はともかく、そっちの子供二人はなんのつもり? もしかして、僕たちのこと馬鹿にしてるのかな」

 

「──“アインツ”ちゃん! “ツヴァイ”ちゃん! あっちのちっこい方をやっちゃって!」

 

 いけ好かない無駄に話の長い男の言葉を遮って、メィリィが大号令をかけた。

 

「ちっこい方って、傷ついちゃうなぁ! どういう教育受けてるわけ? ──僕たちは魔女教大罪司教『暴食』担当、ライ・バテンカイトス! 僕たちの弟を殺した『王サマ』を、キミらは知ってるかなァ?!」

 

「このっ! 僕を無視するな! ──僕は魔女教大罪司教『強欲』担当のレグルス・コルニアスッ! 真に選ばれ、完成された人間だぞッ!」

 

 『暴食』は呆れたように、そして少しの期待を込めるように。

 『強欲』は馬鹿にされた屈辱と怒りを込めて、名乗りを上げた。

 

「私はあの煩い方の相手をするわ。あっちは貴方たちでよろしく」

 

「あいわかった」

 

「任せろ!」

 

「もぉ~、あとでお人形買って貰うんだからぁ~!」

 

 どこか力の抜けた掛け声で、命懸けの戦闘が始まった。

 

 

◆◇◆

 

 

 ゴーゴーと燃え盛る炎。

 

 ゆらゆらと蠢く陽炎は怪しげに世界を映し、見たくもない光景をレムに見せつけた。

 

 燃える燃える、人の肉。

 焦げる焦げる、骨の煤。

 舞うは鮮血。振るわれるは銀閃。

 

「──ぁ」

 

 それを、私は見ていることしかできなかった。

 

 ──これでやっと、終われる。

 

 そう思った。

 

 もう、比べられなくて済む。

 もう、苦しまなくて済む。

 もう、■に■■しなくて済む。

 

 これは罰なのだ。

 最低な妹だったレムに対しての。

 

 ともすれば、その終わりは救いにさえ思えた。

 

 救われるのだ。

 楽になれる。

 そう思った。

 

 そうしなければ、目の前の現実を受け入れられなかった。

 

 呆然とするレムの視界で、狂刃が振り上げられて──。

 

「……たすけてっ、おねえちゃん!」

 

 なのに、口を突いて出た厚顔無恥なその願いは、(あね)を呼んでいた。

 

 救えない。

 救いようのない妹だ。

 

 ここまで来て。

 両親を失って、里の人を見殺しにして、なのに自分だけは助かろうだなんて。

 

 ──恥知らず。

 

 どうして、自分はそうなのだろう。

 

 変われない。

 変わらない。

 

 今も、昔も、何も変わってなんかいなかった。

 

 この炎の夜から、レムは何一つ成長していない。

 

『──レムっ!』

 

 飛び込んでくる、お(ねえ)ちゃん。

 焦った表情をして、レムを狙う凶人を切り裂いた。

 

 どうして……。

 どうしてなのだろう。

 どうして、あなたはそうなのですか。

 

 ──一緒に生まれてきたはずなのに。

 

 ただ少し早く生まれてきただけのはずなのに。

 

『……レム』

 

 姉の顔を見られない。

 顔を上げられない。

 今の自分の顔を、姉に見せるわけにはいかなかった。

 

 もう、どんな顔をすればいいのかわからなかった。

 きっと私の目は──『■■』を映していた。

 泣きながら、眉を歪ませ、笑いたいのに、笑えなくて。

 助かった喜びと、姉が来てくれた安堵と、姉が来てしまった後悔と。

 

 ──どこまでもお姉ちゃんの妹に相応しくない自分への失望。

 

 こちらへ手を差し伸べるお姉ちゃん。

 レムは、その手を掴むしかない。

 レムに、それ以外の選択肢があるのだろうか。

 

 ──ああ、もしも──。

 

 幼い少女の愚かな願い。

 口から出ることはない願い。

 それでも確かに、心に思い浮かべた願い。

 

「──もし、どうかしましたか?」

 

 それは、最悪の結果として叶えられるだろう。

 

「ああ、愛。素晴らしいですね。──そして、貴方のその想いもまた、否定されるべきものではありません」

 

 こちらの心を見透かしたような言葉。

 小さな身が打ち震えるような、感動的な微笑み。

 心が震え、魂が震え、身も心も震撼して委ねたくなる声。

 

「私たちと共に行きましょう?」

 

 その姿から、存在から、目を離せない。

 きっと彼女についていけば、すべてが解決する。

 そんな安心感と信頼感があった。

 

「レムに、近づくなッ‼」

 

「───おねえ、ちゃん」

 

 風の刃が彼方の首を刎ね飛ばす。

 血が舞い、頭を失った肉体が倒れる。

 

「やった……?」

 

「もし、見間違えでは?」

 

 しかし、瞬きの間にそいつはラムの目の前へ現れた。

 顔を突き合わせるような距離。

 

「ッ、死になさいッ!」

 

 咄嗟に振るう腕。

 女は妖艶に微笑み、その刃を受け入れる。

 顔が真っ二つに切り裂かれ、見るも無残な死体となる。

 

「守ろうとする愛。想う愛。伝わらない愛。愛。愛なのです。貴方方を苦しめているものが愛であるのなら、貴方方を救うものもまた愛なのでしょう。なればこそ、思う存分抗うがいいでしょう。ああ、素晴らしいですね。貴方と私、どちらが愛に相応しいのか。決めるのは貴方か、世界か──興味深いですね」

 

「訳の分からないことをっ!」

 

「貴方はいずれ知ることになる。愛には代償を要することを」

 

「……二度は言わないわ。この里から手を引きなさい」

 

「ふふ、どうぞ貴方のお気に召すままに。貴方にはそれがお似合いです」

 

「──そう。なら、輪切りにされて死になさいッ!」

 

 ギュンギュンと、一際強く少女の額の『角』が白く輝き、大気から、大地から、マナを取り込んでいく。

 

 それを、気味の悪い微笑みで、対面の女は眺めていた。

 

 

◆◇◆

 

 

「はっ……はっ……くっ……」

 

 しばらく経つと、そこには膝をつくお姉ちゃんと、平然と立つ女の人がいた。

 ……お姉ちゃんが、負けた?

 

「ここまでですね」

 

「っ、まだ、私はっ──」

 

「無理はなさらない方が良いですよ。極度のマナ枯渇状態。それ以上その角を使えば──貴方は良くても、後ろの彼女は耐えられないでしょう」

 

「……っ」

 

 何故、角を使えばレムが危険に晒されるのか。

 そもそも何故、周囲からマナを無尽蔵に吸収できる鬼族の彼女がマナ枯渇に陥っているのか。

 その原因を、彼女は聡明な頭脳で理解していた。

 

「ここら一帯のマナは、私の制御下にあります。誠に残念ではありますが、世界は貴方ではなく、私を選んだようです」

 

「………」

 

 角からマナを吸い取ろうとしても、マナ自身が拒絶する。

 バチバチと反発して、吸収など到底できない。

 だが、それでもまだ、マナを吸い取る方法はある。

 マナが存在しているのは、大気中や地中だけではない。

 

 ──人の中にも存在している。

 

「これ以上無理に角を使えば、貴方のその素晴らしい才能は、周囲から命という命を根こそぎ食い尽くすでしょう。──貴方の妹も例外なく」

 

 ……そこまで言われて、レムはようやく理解した。

 結局、ここまで来てなお、レムは姉の足を引っ張っているのだ。

 どうしようもない愚かさ。

 レムという命は無価値ではなかった。

 さらに酷い。

 害悪であったのだ。

 

「………もう、いいよ」

 

 それを理解して、レムの口から自然とその言葉が出た。

 

 もういい。

 もう、いい。

 もう、うんざりだった。

 

「わたしのことなんて、守らなくていいよ……」

 

「レムっ、何をっ」

 

「……私があなたに付いていったら、お姉ちゃんを殺さないでくれますか?」

 

「──約束しましょう。パンドラの名において、今この場で『虚言』を申すことはしないと誓います」

 

「なに、言ってるのっ!? ダメよ、そんなことっ、うぐっ」

 

 妹の自暴自棄な言葉をやめさせようとして立ち上がろうとするが、その足がほつれ、身体に力が入らない。

 

 レムが立ち上がる。

 

「……どうして、お姉ちゃんじゃなく私を連れていくんですか」

 

「気になりますか? ふふ、それはですね。──貴方が『特別』だからです」

 

「……とく、べつ」

 

「はい。貴方には特別な力があるのですよ──この小さく狭い里に収めておくには不相応な力が。貴方の力は、私たちの元で大きく輝くでしょう。──共に、来てくれますね?」

 

「………」

 

 一瞥すれば、そこには倒れる姉。

 差し伸べられる手。

 

 ……心が、跳ねた。

 

 頬が、死んだ心が、突然生き返ったかのように。

 明るく、上気し、醜く歪んだ。

 

 潤んだ瞳に映るのは『愉悦』。

 

 ──私が、私なんかが、お姉ちゃんを、助ける……?

 

 怖くて、怖くて、恐ろしいほどに──心地が良かった。

 だから、レムは振り返らず、返答を──。

 

「は──」

 

「私が──ッ‼」

 

「え……?」

 

「私が……ッ、その子の代わりになるからッ! 私を連れて行きなさいッ、貴方たちの奴隷にでも何でもなってあげるから、私のすべてを捧げてもいいからッ、だから──私の妹を……連れて行かないで……」

 

 お姉ちゃんが、泣いていた。

 弱音を吐いているところなんて、ましてや泣いているところなんて、生まれてから一度だって見たこともなかったのに。

 

 私の代わりになる……?

 何を言っているの?

 なんなの、それ。

 どうして、どうして──私にできるたった一つのことすら奪おうというのか。

 

「何、言ってるの、お姉ちゃんっ‼ ダメっ! 私を連れて行って! そういう約束でしょ……!?」

 

「はて、これは困りましたね。ふふ、ではこうしましょう。今、私の手元にある『これ』に貴方が見事『適合』してみせたなら、その褒美として貴方の願いを叶えることとしましょう」

 

「なに、言って……だって、私を連れて行くって、約束……!」

 

「もし、貴方の『聞き間違え』では?」

 

「……!?」

 

「──どうぞ。これはきっと、貴方によく馴染むはずです」

 

「──ッ! ────れ、む……」

 

 渡された『箱』のようなそれを、開けてはならない『禁忌の箱』を、ラムは躊躇いなく開き、自身の胸に押し付けた。

 その瞬間、赤子から今までの走馬灯のようなものを垣間見て、最後にレムの名を呼んで──意識を失い、倒れた。

 ……ぱちぱちぱち。

 

「素晴らしい。貴方の『愛』と『覚悟』、見せてもらいました。いいでしょう。貴方のその愛に免じて、少しばかり『猶予』を与えましょう」

 

「……おねえ、ちゃん?」

 

「────」

 

「おねえちゃんっ! お姉ちゃんってば……ッ‼」

 

 倒れた姉に縋りつくも、起きる気配はない。

 いつだって助けてくれた姉は、目を閉じて動かない。

 

「ああ、しかしそうなれば、貴方が一人になってしまいますね。それは可哀そうです。──では、こうしましょう」

 

「……ぁ」

 

「『貴方はとても愛されていた』『貴方は両親に一心に愛されて育ち、頑張り屋で、里の者にも認められていました』『貴方は【嫉妬】なんてしなかった』『何故なら──貴方には姉なんていなかったのだから』『貴方のこれまでは、人生は、すべては、私と彼女の存在なくして完結する』」

 

「────」

 

「では、またいつかお会いしましょう」

 

 すべて、思い出した。

 

 

◆◇◆

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 治療室に一人、傍に控えるレム。

 

『ごめんね。私、いかないと』

 

 師匠はカルステン家へと向かってしまった。

 当然だ。

 師匠にとって最愛の人は、そこにいるのだから。

 この緊急事態に、治療の糸口のないお兄ちゃんに構っている時間はない。

 

 ──魔女教。

 

 彼らが来ているのだ。

 私の故郷を滅ぼして、両親を殺して、姉を奪った彼らが。

 

『お前はここに居ろ。兄ちゃんが起きた時、兄ちゃんを止める奴が必要だろ? ──兄ちゃんは、もう戦えない。任せとけって! 魔女教なんてアタシらがやっつけてきてやるから! お前はここで安心して待ってな』

 

 フェルトちゃんはそう言って、ロム爺さん、エルザさん、メィリィちゃんたちと共に行ってしまった。

 

「………お兄ちゃん」

 

 私は、何をしているのだろう。

 また、守られるだけなのか。

 また、役立たずなままなのか。

 

 レムには、何もできない。

 何も、誰も、させてくれない。

 自分に何ができるのかわからない。

 

「……お兄ちゃん、レムはどうすればいいんですか」

 

 教えて欲しい。

 

 ──助けて。

 

 そう口にしたい。

 そうすれば、きっとお兄ちゃんが助けてくれる。

 でも……その先にはきっと──。

 

『──レム』

 

 蘇る記憶。

 きっと、私はお兄ちゃんを失う。

 お姉ちゃんの時と同じように。

 でも、このままじゃフェルトちゃんやメィリィちゃん、師匠も、私たちの家も、全部滅茶苦茶にされてしまう。

 

「………どうして、私にはお姉ちゃんみたいな『力』がないんですか……」

 

 助けたい。

 助けたい。

 助けたい。

 

 自分の手で、大切なものを守りたい。

 現実は、そんな都合よくいかなくて。

 

「……お兄ちゃん……」

 

 結局、頼るしかできないのだろうか。

 こんなにボロボロのお兄ちゃんに。

 

『──殺す』

 

 あんな怖い目をしたお兄ちゃんを、初めて見た。

 その目が向けられていたのは、変わってしまった『お姉ちゃん』だった。

 

 どうしてお兄ちゃんがお姉ちゃんを憎んでいるのかはわからない。

 どうしてお姉ちゃんがああなってしまったのかもわからない。

 

 あの時、お兄ちゃんは私の声なんて聞こえていなかった。

 

 本当に……怖い。

 お兄ちゃんまで、お姉ちゃんに取られてしまうのだろうか。

 なんて考えている自分が、すごく怖くて……すごく嫌だ。

 

「……嫌だよ……お兄ちゃん……っ、いやだ」

 

 もう、失いたくない。

 もうこれ以上、傷つけたくない。

 傷ついて欲しくない。

 

 ……嫌われたく、ない。

 

 苦しいのも、痛いのも、もう嫌なのだ。

 

『──レム』

 

『──レム』

 

 兄と姉が、私を呼ぶ。

 私は、二人の妹失格だ。

 

「……お兄ちゃん……たすけて……」

 

 全部、全部、レムにはどうにもならないことばかりだ。

 でも、レムにもきっとできることがあるはずだから。

 

 そうだ。

 あの人も言っていた。

 私には、特別な力があるのだと。

 

 ──もしも、本当にそんな力が自分にあるのなら──。

 

「……お兄ちゃんを、助けてよぉ!!!」

 

 そう言って泣き叫ぶレム。

 

 ──その瞬間、彼女の感情に呼応して、額の『角』が眩い光を解き放った。

 

 光が部屋中を埋め尽くして、彼女自身も眩しさに目を閉じる。

 

「………こ、れ」

 

 光が収まると、ある変化が起きていた。

 

 ──レムの角が、先ほどまでとは変わっていた。

 

 直感。

 レムは確信した。

 今なら、兄を苦しめる瘴気を取り除けると。

 これが、私の力なら──。

 

「今だけ、言うことを聞いて……お願いっ」

 

 レムは意思を固め、苦しむ兄に手を伸ばした。

 

 ──ザシュッ。

 

 刃が生え、外部の干渉を拒絶する。

 刃がレムの頬を、手を、腕を傷つける。

 

「──ッ」

 

 それでも、レムは手を止めない。

 ザシュッ、ザシュッと生え続けても、引かない。躊躇わない。

 

 ──お兄ちゃんは、約束してくれたから。

 

「……守って、くれるんですよね」

 

 レムが苦しげに言えば、す……っと刃が止まった。

 そうして、ゆっくりとレムは近づき、既に生えた刃で身体が傷つくことも厭わず、ソルの身を抱き留めた。

 ぎゅっと抱きしめ、その胸に額を当てて言う。

 

「帰ってきて──お兄ちゃんッ‼」

 

 ──ぎゅんぎゅんと、彼女の角へ、ソルの身を包む『黒』が、『瘴気』が、『呪い』が吸い込まれていく。

 

「ぐ、おぉぉぁああああああ!」

 

「お願いっ、帰ってきて──‼」

 

 言いながらも吸収は止まらず、じわじわとその角が黒く染まる。

 

 そうして、彼女の角が完全な『黒』に染まる頃──。

 

 

◆◇◆

 

 

「君さ、なんでこんなことしてるわけ?」

 

「──。」

 

 彼の言葉など聞かない。

 会話する意味などないことは、誰が見ても明らかだからだ。

 

 彼には刃が通らない。

 彼に当たったら、刃も、瓦礫も、人間も砕け散る。

 隙間もない完全な防御。

 

 故に、今すべきは情報の収集。

 そして、時間稼ぎだ。

 次へつなげる為の。

 

「君、『腸狩り』とかっていう異常者だろ? 世情に疎い僕でも知ってる指名手配犯だ」

 

「……」

 

「僕は優しいからさ。指名手配犯でも、女性である君に乱暴なことはしたくないわけ。でもさ、犯罪者を野放しにするのも被害者に失礼だよね?」

 

「……」

 

「だから教えて欲しいんだよね。なんで君はここにいるのかな。なんで、何の為に僕に歯向かうんだい? ──そっちの弱っちい奴らまで守ってさ。似合ってないと思うんだけど」

 

 すでにフェルトとロム爺は倒れ、メィリィも気絶している。

 

「そう言うのなら、倒れている彼らを狙うのを止めたらどう?」

 

「? そうしたら君、当たってくれないじゃないか。ちょこまか避けるのは結構だけど、それだと僕の時間を無駄に浪費していくだけだからね。さっさと終わらせるために工夫を凝らしてるだけさ。それとも何? これだけ君に配慮してる僕に、これ以上の配慮を求めるわけ? それって僕の自由の権利の侵害だと思うんだけど。どうしても嫌なら頭でも下げてみたら? お願いをするなら、まず頭を下げるべきだと思うんだよね」

 

「……本当に話が通じないのね。気色悪い」

 

「ひどい言い草だ。僕はこんなにも親切に接しているっていうのに」

 

 狂人の狂言は、聞けば聞くほど頭痛がする。

 

「あァ、ゴチソウサマでしたッ!」

 

 その瞬間、『暴食』の相手をしていたアインツとツヴァイが地に堕ちる。

 

「驚いたな、驚いたさ、驚いたとも、驚いたからこそ! 暴飲ッ! 暴食ッ! 獣だと思ったらちゃんと喰えたじゃないか! 凄いな、凄いさ、凄いとも、凄いからこそ感動だ! 初めての味! 未知の味わい! 獣臭のする不味い肉かと思ったら大違い! 果てしない忠誠心に、敬愛純愛遺愛! 濃密な感情敬上累劫! あぁ、思った以上の『美食』だったッ!」

 

 まずい。

 

 『暴食』を留めていた魔獣が落ちた。

 

「あァ……『王サマ』のこともわかった。彼らを生み出したのが王サマかァ。それは否応なしに期待が高まっちゃうなァ! あァ、今から腹が減って仕方がないッ! メインディッシュの前に、まずはキミを頂こうかァ!」

 

「くッ」

 

 完全に、二対一。

 ただでさえ不利だった状況が、さらに悪くなった。

 未知の力二つを相手に、流石の彼女でも苦境を強いられる。

 

 ──しかし、彼女は逃げない。

 

「なんで逃げないわけ? なんでそこまで頑張るんだよ。全部無駄なのにさ」

 

「……私も、分からないわ」

 

「はぁ?」

 

「でも、それがなんだか心地いい。だから私はそうする。それだけよ」

 

 エルザの負った傷を覆い隠すように、皮膚を黒い鱗が覆っていく。

 強く、魅惑的で、美しい姿へと変貌していく。

 変身した姿は、悪魔の如き邪な格好をしていた。

 

「ふーん、ま、どうでもいいや。さっさと終わらせて目的を果たそう」

 

「食って噛んで喰らって齧って噛み千切って、暴飲! 暴食! 僕たちは魔女教大罪司教『暴食』担当、ライ・バテンカイトス!」

 

「同じく『強欲』担当、レグルス・コルニアス」

 

「……私はエルザ。ただのエルザよ」

 

 何が彼女を変えたのか。

 だが、確かに彼女は変わったのだ。

 それがいいものであるかどうかは、一目瞭然だろう。

 戦いが始まった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「しぶといなぁ」

 

「それでこそ食い甲斐があるってもんサ!」

 

 満身創痍。

 そんな言葉の似合う格好だった。

 鱗は剥がれ、角は折れ、ついには再生も止まり、腕が上がらず、全身からだくだくと血が流れている。

 絶体絶命だ。

 

 ──だが、その後ろに倒れるメィリィたちには傷一つ付いていなかった。

 

「これで終わりだな」

 

「──ッ」

 

 見えざる衝撃波が、彼女の腕を吹き飛ばす。

 もはや、避ける余力もない。

 

「──イタダキマス」

 

 『暴食』の牙が差し迫る。

 

「………」

 

 不思議と、後悔はなかった。

 ゆっくりと目を閉じ、終わりを待った。

 

 

「──“バン”」

 

 

 そんな最後を。

 そんな運命を。

 蘇った英雄が拒絶した。

 

「ぐべっ」

 

「あ?」

 

 『暴食』が吹き飛び、『強欲』が闖入者を訝しむ。

 

 エルザの背後。

 さらに後ろに、男の影が見えた。

 

 そこには、少女に支えられ、なんとか立っているだけの、黒き英雄がいた。

 

 

◆◇◆

 

 

「異常者の次はボロ雑巾みたいな男か。とことん舐めてるとしか言いようがないね。パンドラ様が言うから仕方なく来たって言うのに、これじゃあ僕の労力が浮かばれない」

 

「……」

 

「あァ、オードブルの前にメインディッシュが来ちゃったじゃないかァ! 会いたかったよ、王サマ! よくも弟をやってくれたなァ、僕たち俺たちは怒りに燃えてるんだ! 弟の復讐っていう怒りにサ! ボロボロの満身創痍だろうと容赦しない!」

 

「……思ってもないこと言うなよ。くだらねぇ」

 

 ソルは来た。

 だが、どうにも本調子ではないようだ。

 顔色も悪く、元気もない。

 

「随分とやつれてるじゃないか。そんなんで僕たちの相手をできるのかなァ。活きのイイ王サマを喰らいたかったけど、仕方ない。これ以上鮮度が落ちる前に頂こうか」

 

「お前こそ薄汚れてるな。弟はもう少し身綺麗だったぞ」

 

「時間稼ぎでもしたいのかな? 悪いけど、僕たちはもう我慢できないッ!」

 

「違ぇよ。ただ哀れに思っただけだ。あいつは俺が喰らった。だからお前のことは手に取るようにわかる」

 

 ソルは『暴食』の魂を取り込んだ。

 そこから記憶を取り出すことは、造作もない。

 

「……へェ、あいつを食べたって?」

 

「ああ。あいつがお前の分身で、お前が一人が怖くて“ごっこ遊び”に勤しんでる可哀そうな餓鬼だってな」

 

「……」

 

 ソルの言葉に、『暴食』は目を細める。

 

「お前は怖いんだ。孤独が、独りが──もう一度、“あそこ”に戻るのが」

 

「……僕たちはもう戻らない」

 

「だから分身を作って、記憶を喰らって、過去のトラウマを忘れようとしてるんだろ?」

 

「……黙れ」

 

「お前は今も昔も変わらない。変われやしない。所属する組織が変わろうと、記憶が増えようと、お前の身体に刻まれた傷は消えない! 過去は何も変わらない!」

 

「……黙れよ、黙れってば」

 

「お前は商品だ! お前に家族なんていないし、名前なんてない。お前は独り、主人に、世界に利用されるだけの玩具だ!」

 

「黙れって言ってるだろ、黙れって言ってんだよ!」

 

「薄汚ぇ“愛玩奴隷”が独りで“飯事(ままごと)”して惨めだなぁ‼ ──どんな顔して『妹』に兄貴面してんだ?」

 

「──黙れェェェェェェェェエエエ!!!」

 

 最後の言葉が止めとなり、『暴食』が我を失って激高し、ソルへと向かって飛び出した。

 

 ──馬鹿が。

 

「エルザ」

 

「ええ」

 

 短いやり取りで、エルザが飛び出す。

 

「アンタの動きはもう見切ってるッ!」

 

「視野が狭いな。だから餓鬼なんだ」

 

「あァ!? ──おぐっ」

 

 ──『暴食』の身体に穴が開く。

 

 ソルとエルザの身体が重なり、エルザの身体を貫通した弾丸が『暴食』の喉を穿った。

 

「これが、最後の腸狩りよ」

 

 無防備な『暴食』の腸を、エルザのナイフが切り裂いた。

 

 

◆◇◆

 

 

「ぐっ、まだ『日蝕──がッ」

 

「テメェは食う価値もねぇ。黙って死んどけ」

 

 何発も。

 死ぬまで。

 弾丸を打ち込む。

 それだけでも、ソルの身には耐えがたい苦痛が走る。

 

 ──ソルは今、ガス欠状態だった。

 

 呪いを払う代償に、溜め込んでいた瘴気をすべてレムに吸い取られてしまったからだ。

 それに、レムが応急処置を施したとはいえ、その身に積み重なった疲労も傷も完治してやしない。

 最小限の力で、大罪司教二人を相手しなければならなかった。

 

「──ぁ……る、い────」

 

「ッ──死んだか」

 

 ソルの身体に、『暴食』の魔女因子が入ってくる。

 

 ドクンと心臓が脈打ち、手が痙攣する。

 ソルの魂はもう許容値を越え──否、失っていた。

 度重なる無茶でボロボロの魂は、廃人になっていないことが奇跡と言える状態だった。

 たとえこれからの日々を安静に過ごそうと──もう、ソルは長く生きられない。

 

 当然、権能など使えば、一日と生きられないだろう。

 

「君がパンドラ様の言ってた奴か。どうやら本当に、適正のない身で複数の魔女因子を取り込んだみたいじゃないか。そういうの、分不相応って言うんじゃないかな。僕でさえ適合したのは一つだって言うのに、適合していない身で無理やり僕と同じところに来ようとするから、そんなボロボロな見た目をしてるんじゃないの? 大方、無理がたたって器が壊れかかってるんだろ。今あるものに満足しない君の強欲さが、君の身を滅ぼすんだ。来世があるなら僕みたいに無欲に生きるといい。無理だろうけどさ」

 

「お前の話に付き合う気はない」

 

 気持ちよく喋っていた、隙だらけの『強欲』の背後に、ソルが空間を割って現れる。

 

「なけなしの転移だ。有難く受け取れ」

 

「は? ──はぁ!??」

 

 ソルが『強欲』を羽交い絞めにすると、ソル諸共『強欲』を異空間へ連れ去った。

 

 そこは黒だった。

 そこは無だった。

 そこは無限(ソラ)であり、永遠(リク)であり、絶対(セカイ)だった。

 

「なん、だ、ここは……」

 

 『強欲』──レグルス・コルニアスは、驚愕と困惑に思考を一瞬止めた。

 

「よぉ、来るのは初めてか?」

 

「放せッ、この無礼者ッ──!? ……権能が、使えない!?」

 

「ここは世界の外だ。世界の力である権能は、ここでは使えない」

 

「何を言って、これは僕の力だッ、ここは何処だッ!」

 

 レグルスの問いかけに、ソルは問いかけで返した。

 

「──お前、大瀑布から落ちたことはあるか?」

 

 ソルはレグルスから手を離した。

 レグルスの身体が、遅くも速くもなく落下していく。

 

「このッ、なんでッ! 距離が離れたからか!? クソッ、本当に使えないクズどもばかりめッ! 七十七番!」

 

 八十二番。

 

 八十九番。

 

 九十一番。

 

 九十九番。

 

 百十一番。

 

 百二十番。

 

「ああ、ああああああああああッ!!! 誰でもいい! 誰でもっ、くそっ、ああっ! だれかぼくをたすけろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」

 

 ────ぺぎゅっ。

 

「」

 

 魂を丸裸にされ、粒子のように霧散して消える。

 

 ここは、世界の不可侵領域。

 何人たりとも立ち入ることのできない、真理の外側。

 それがたとえ、世界の輪を外れた無法者だろうとも。

 

 ──ドクン、と心臓が脈打てば、自身の内側に最後の異物が揃ったことを理解する。

 

「……」

 

 レグルスが霧散した、さらに奥。

 

 そこに広がるのは──黒い太陽。

 光のリングに、真っ黒な中心部。

 一切の光を持たず、希望を与えない絶望。

 

 ソルの直感は、あれが超常的存在であり、世界の根幹、そして乱れ一つない『瘴気』の塊であると理解していた。

 しばらくそのまま落下して──再び開いた空間へと、ソルは入り込んだ。

 

 

◆◇◆

 

『──いちゃん!』

 

『──おにいさん!』

 

『──にいちゃん!』

 

『──小僧!』

 

『──』

 

 慣性のままに勢いよく地を滑る摩擦音と、自身を呼ぶ声が遠く聞こえた。

 意識が朦朧としている。

 

『きゃははははっ! きゃはっ! きゃはははははっ!』

 

『ああ怠惰怠惰怠惰ァァアァアアアアア‼‼‼』

 

『ああ貴方! 貴方! やっと会えた! 貴方ぁぁぁぁあああ‼‼』

 

『美食、悪食、飽食! 大味、薄味、美味、珍味!』

『食って食んで噛んで齧って喰らって食らいついて舐め尽くしてしゃぶりつくして暴飲! 暴食!』

 

『どいつもこいつも僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の邪魔をするなァ!!』

 

 頭が壊れそうなほど、魂の饗宴がガンガンと響く。

 

『──果たしてクズ肉は耐えられるんでしょーかね? 受け入れられんのか? 【色欲(アタクシ)】を』

 

『【怠惰(ワタシ)】を』

 

『【憤怒()】を』

 

『『【暴食(俺たち/僕たち)】を』』

 

『【強欲(この僕)】を』

 

 気を強く保とうとするほど、疲労は限界に近づき──ついには、意識を失った。

 

 

◆◇◆

 

 

 ──気づけば、草原にいた。

 

 いや、よく見れば丘だろうか。

 それは見覚えのない場所で。

 不思議と、ここが夢の中であることを自覚していた。

 

 

「おや、珍しい客人だ」

 

 

 そこにいた女──否、化け物は──酷く悍ましい瘴気を放っていて。

 

 

「私はエキドナ。強欲の魔女と、そう名乗った方が通りがいいかな?」

 

 

 ソルは耐え切れず、吐いた。

 

 

◆◇◆




 次回、第二十七話『月と太陽の物語』

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